業界人ブログ ― 「齊藤 実氏(神奈川大学経済学部教授)」のブログ
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齊藤 実氏(神奈川大学経済学部教授)

行政や業界団体等の委員などを数多く務め、トラック運送業界に精通した経済学者

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深刻なドライバー不足への対応で共通するアメリカと日本
2018/7/1 更新



 アメリカのトラックドライバー不足が、一段と深刻な状況に陥っている。日本でも最近クライシス(危機)という言葉が使われているが、アメリカのドライバー不足は、まさに今クライシスを迎えているといわれている。
 とりわけ、長距離ドライバーは、全米を駆け巡る長時間労働の過酷な労働条件のため、極めて深刻な状態になっている。アメリカトラック協会(ATA)によると、長距離ドライバーの不足は、2016年に3万6千人に達していたが、2017年末には5万1千人にのぼるという。これがさらに増え続けているのだ。

 好調なアメリカ経済は、全米規模で貨物輸送需要を押し上げている。絶好調のアマゾンは、ネット通販の貨物を増加させてドライバー不足を加速していると批判されている。これに加え、昨年12月から連邦政府がドライバーの運転時間を11時間以内に制限する規制を実施したため、ドライバー不足がさらに助長された。
 こうした状況の中でATAはドライバー不足に関する報告書を出しており、ドライバー不足に対していかなる改善策があるかを明らかにしている。

 まずはドライバーの賃金の上昇だ。市場メカニズムが作用して、ドライバーの供給が不足する労働力市場で賃金の上昇が必要だとしている。ドライバーの労働市場で市場メカニズムが働くことを強調している点がいかにもアメリカらしい。
 実際にドライバーの賃金は大幅に上昇している。個別では、次のようなケースが明らかにされている。あるトラック運送業者は、今年ドライバーの賃金をなんと15%引き上げた。年間の賃金は8万ドル(約870万円)に達した。しかし、それでもドライバーは集まらない。このため、この経営者は今後さらに10%の賃上げを実施するという。
 アメリカでは市場メカニズムが作用して、ドライバーの賃金はすさまじい金額に跳ね上がっている。それでもドライバーは充分に確保できていない。

 さらに、ATAのレポートは、ドライバーが家庭にいる時間を増やすことが必要だと指摘する。そのために、小売業などが物流センターを核としてハブアンドスポークシステムを採用し、ドライバーがスポーク間の運転を繰り返すことができるようにする。こうして定期的な運転時間が確保されて、家庭にいることができる時間を増やす。これは、日本では中継輸送を実施することで、長距離運転者のドライバーが家に帰れるようにするのと似ている。

 また、ATAのレポートは、ドライバーが荷主企業の物流センターなどで差別的な取り扱い受け長時間にわたって待たせられており、こうした状態を改善することが重要だと指摘している。アメリカでも、ドライバーの長時間労働の一つの原因が、荷主企業先での待機にあり、その是正が求められている。日本でのドライバーの荷待ちと同じ問題が生じており、ドライバー不足を改善するためにこの問題に取り組む必要性があることは、日米で共通している。

 そして、アメリカでは州際のトラック運転は21歳以上の年齢制限があり、このため18歳から20歳の最も失業率の高い若年層が運転労働に加われないという制約がある。この年齢制限を下げることで、若年労働力が労働市場に参入できるようにすべきだと指摘されている。若年労働力を取り込む制度的な枠組みの変更という点で、日本の中型免許の改定と似ている。
 このように、深刻なドライバー不足に対する改善策は、アメリカと日本で共通しているところが多い。対策のメニューとしては限定されているということだろうか。それと同時に、今のところドライバー不足の決定打がないことも共通している。



どこまで歴史は繰り返すのか
2018/6/1 更新


 NHK連続テレビ小説「半分、青い」がおもしろい。主人公の鈴愛が漫画家になるために岐阜の山奥から東京に出てきて、有名な漫画家のスタジオで働く。時はまさにバブルの絶頂期で、鈴愛もディスコでタイトなミニスカートをはいて、派手なセンスを振りかざして踊る。

 鈴愛が上京したこの時期の新聞をみると、その内容に驚かされる。1990年の8月と10月の日本経済新聞の記事の内容だ。
 トラック運転手の人手不足は一段と深刻化している。中小業者の中には人手不足によるレーバー倒産も出始めており、輸送能力は限界に達している。
 トラック業界は、運転手の求人難と労働時間短縮による人件費上昇を理由に、実勢運賃を度重ねて大幅に値上げした。
 おもわず2018年の現在の状況を説明しているものと勘違いしてしまう。これは約30年前のもので、時期がまったく異なる。ところが、この時期の物流の状況は、現在と極めて酷似している。最近労働力不足でトラック運送業者の倒産も報じられているが、当時も同様なことが起こり、「レーバー倒産」と呼ばれているのが面白い。今まさにバブル期と同じことが起きていて、歴史は繰り返されているのだ。

 そこから後が問題だ。翌年になると、新聞の記事の内容が変わり始める。1991年10月の日本経済新聞の記事である。
 倉庫やトラック輸送に景気減速の影響が広がってきた。需要が頭打ち傾向を見せ始めたほか、値上げを受け入れてきた利用企業が一転、料金引き上げに強く反発し始めている。トラックの実勢運賃も弱基調だ。
 1991年にはいると、バブルが弾けた後に、「失われた10年」と呼ばれる長期の不況に突入する。この記事は「失われた10年」のはしりの状況を説明していることになる。その後トラック運送業界は、不況が深刻化するなかで、規制緩和が行われ、過当競争のなかでバブル期とは真逆の苦しい状態に置かれる。そして、これからも重大な問題であると考えられていたドライバー不足も一変してしまった。
 2012年12月の第2次安倍政権が誕生して以来、景気の回復局面が続いてきた。「いざなぎ景気」を超えて、戦後2番目の景気上昇局面を経験しつつある。現在の物流業界の在り様に最も大きな影響を与えているのが、この景気回復である。景気循環の観点から見れば、それが長く続けば続くほど、その終焉が身近に迫っている可能性が高くなる。

 ここでも再び歴史は繰り返されるのであろうか。まさにバブル経済が弾け、その後に長期的な不況が物流業界を奈落の底に陥れたように、景気局面が突如として変化することがあるのだろうか。そうなれば、バブル期に連続してまた歴史が繰り返されることになる。
 しかし、これはあくまで歴史の単純な類推だし、推測にすぎない。そもそも、景気循環で下降局面が来るかもしれないが、それがどの程度の深さになるのかは未知数だ。さらに、バブル期と比べ人口は絶対的に減少しており、労働力人口も少なくなっている。このため、単純に労働力不足が解消するとは言えないだろう。いずれにせよ、先を見通すことは難しい。
 バブル崩壊後に鈴愛がどう生きていくのかを楽しみにしながら、変換期が近い日本経済のこれからの行き先を注目することになる。



「脱デフレの優等生」の可能性
2018/5/1 更新


 4月になると食料品など消費者に身近な商品の値上げのニュースが流される。この時期は値上ラッシュが起きるが、値上げの理由は物流コストの上昇である。こうした物流コストによる値上げは、消費者向け製品に限らず、産業材さらにはネット通販の配送料にいたるまで、経済の幅広い分野に及んでいる。
 物流コストの上昇は、いうまでもなくトラック運賃の値上げによるものである。昨年来、宅配クライシスと呼ばれるネット通販貨物をめぐる宅配便による輸送の混乱の中で、宅配便運賃の値上が行われた。宅配便に限らず、特別積み合わせの運賃や、一般貨物の運賃も相次いで値上げされている。こうしたなかで、日本経済新聞では「陸運、脱デフレの優等生」と持ち上げている。

 トラック運送業では、深刻な労働力不足によって輸送供給能力が制限される状況で、ようやく荷主企業に対する交渉力を発揮し、運賃の値上げを実現している。そして、運賃値上げを原資として、これまで不十分であったドライバーの賃金の値上げが行われ、さらに労働条件の改善が行われようとしている。ここでも、ドライバーの賃金上昇を実現しつつあるトラック運送業は、産業の全般的な賃金上昇の「けん引役」を果たしていると評価されている。

 「脱デフレの優等生」、「賃金上昇のけん引役」という表現は、これまでのトラック運送業にまったく縁遠いものであった。むしろ、これらの表現とは真逆の状態にあった。これまでにない新しい事態が生じていることは明らかだ。そして、このことは、これまでのトラック運送業の構造から起因する諸問題からの脱却しつつあることを意味している。
 過当競争の中で荷主企業に押し切られて運賃の低下を余儀なくされ、低運賃をカバーするためにドライバー賃金が削減された。そして低い収益性に甘んじざるをえなかった。それが深刻な労働力不足をもたらし、貨物輸送サービスの供給が制限されることになった。まさに負のスパイラスともいうべき状況に陥っていたのである。

 そして労働力不足は深刻な事態をもたらしたが、それによる供給能力が制限されるなかで、荷主企業に対する交渉力を高めて運賃の値上げの実現しつつある。賃金の値上げや労働条件の改善を実現しようとしており、ドライバーを確保して供給能力を維持して拡大し、そこから収益性を高めようとしている。
 もちろん、多層構造のトラック運送業では、依然として運賃の値上げが容易に進まず賃金の上昇などできない、苦悩する中小事業者が多く存在している。しかし、一部であっても新たな事態が顕在化しているのであって、まさに、従来の負のスパイラルから抜け出して健全な物流のビジネスを発展させていくプロセスが繰り広げられようとしている。



就活をする大学生と物流企業の人材確保
2018/4/1 更新


 新年度を迎えて大学生の就職活動はピークに達する。こうした中で、物流企業の労働力不足はトラックドライバーだけでなく総合職の人材にも及んでおり、物流企業による大学生の新卒採用は難しい状態が続いている。
 これまで物流企業は新卒の採用活動を行ってきたが、物流企業を受ける学生が少なくなったり、面接を繰り返して内定を出しても最終的に断られるケースが多くなったりしている。このため、物流企業は必要な新卒の採用数を確保することが難しくなっている。

 そもそも大学生は物流についてあまり知る機会がない。高校までに特に物流に関して勉強していない。大学では、経済学部、商学部、経営学部であれば、物流論やロジスティクスの講義が設定されており、受講すれば、物流とは何か、物流業の存在や役割について知ることができる。しかし、これらは選択科目の一つであり、必ずしも履修する必要はない。
 したがって、全般的に見れば、大学生の物流業や物流企業に対する認知度は低く、積極的に物流企業に就職を希望する学生は多くない。物流企業に就職したいと考えている学生が少ない中で、最初から物流企業を希望する学生をいかにリクルートするのかが重要となる。
 その際に、学生が物流企業の現場で実際に働くイメージをしっかり持つことがとても大切になる。物流企業は、入社した後に働く物流の現場の仕事を適確に伝え、学生もそこで働く面白さをあらかじめ見いだすことができれば、その物流企業を選ぶことにつながる。さらに、会社に入った後でも、仕事に対するへたな幻想を持つことなく、物流現場でのハードな仕事も続けていくことができるだろう。

 今では大学生は数多くの内定先を得て、最終的に一つの企業を選択する。大学生が企業を選択する際には、年収や福利厚生、休日の取得状況、残業の状態などを比較検討する。それと同時に、先に入った先輩が辞めずに働いている会社であることに強い安心感を持つ。継続して仕事ができる職場環境であることが重要だと考えている。その意味で、働き方改革が必要な企業はそれを積極的に実践することが、人材をリクルートするうえでも重要だし、必要不可欠となっている。
 物流企業を選択した学生に話を聞くと、企業の会社組織が自分とあっているから決めたと答える学生が比較的多い。これは多分に感覚的な部分だが、その企業の社風と大きく関係しているのだろう。これは学生自身が本能的に感じ取る自分に適合した組織を選ぶセンサーが働いているのかもしれない。

 採用活動がピークを迎えるが、それ以前の段階に学生を職場体験させるインターンシップが重要な意味を持つ。しかし、最近ではわずか1日だけで非常に短いものや、逆に物流の現場で比較的長く仕事を経験させるが、物流の仕事の面白さをうまく伝えていないインターンシップもあると聞く。採用活動の入り口から、物流企業の熱意と工夫が期待されている。




ドライバーの長時間労働改善に向けて
2018/3/1 更新

 国土交通省は、ドライバーの長時間労働を是正するためにパイロット事業を行っている。このパイロット事業では、実際の物流現場でドライバーの長時間労働の原因となっている物流の仕組みに焦点を当てる。そして、トラック運送業者と荷主企業が協働して新たな物流の仕組みを導入し、ドライバーの労働時間の削減効果を検証するというものである。
 例えば、これまでのパイロット事業では、次のような実証実験が行われている。典型的な長時間労働の原因として、物流センターや倉庫での荷待ちがある。これに対応するために、荷主企業側でトラックへの荷役の予約システムを導入して、荷待ちの待機時間を削減する。
 また、発荷主と着荷主でドライバーが手荷役や仕分・検品などが義務づけられており、これらが長時間労働の原因になっている。これに対してパレット荷役や仕分・検品を省略する仕組みを導入して、荷役時間や付帯作業の時間を削減する。

 こうしたパイロット事業による実証実験の成果は、ガイドラインとして公表される予定である。これによって、トラック運送業者がドライバーの労働時間削減を実現する方法や具体的な進め方が把握できるようになる。トラック運送業者は、パイロト事業の事例を参考にして、実際の物流の現場でどのケースに当てはめて改善できるのかを考え、荷主企業との検討に入ることができる。
 荷主企業の物流現場で新たな仕組みを導入することによって、確かにドライバーの長時間労働を削減することができる。しかし、これによって新たなコスト負担が生じたり、ほかの所に別の負荷が発生したりする。このため、発荷主や着荷主との間に、新たな物流の仕組みの導入の合意形成が難しい場合も出てくる。パイロット事業で削減効果が出たケースを単純に当てはめて、簡単に実現できるわけではない。
 荷主企業に対するトラック運送業者のしっかりとした交渉力が必要不可欠だ。トラック運送業者は長時間労働をもたらしている現状を正確に把握して、それを改善するための合理的な新たな仕組みを提案し、粘り強く交渉できるかが重要となる。

 さらに、もう一つの重要な要素は、荷主企業の理解力である。みずからの物流現場で、不合理な物流の仕組みによってドライバーの長時間労働が発生しており、それが運ぶドライバーを疲弊させ、労働時間の法規制をも犯すことになる。こうしたことを荷主企業がしっかりと認識できるかである。
 そして、こうした状態を避けるためにトラック運送業者とともに考えて、必要であれば顧客である着荷主も説得し、さらに新たな費用負担も受け入れて全体的に合理的な物流現場を作り上げる。このような考え方を持つ荷主企業が増えることを期待せざるを得ない。



トラックの自動運転が物流を変える
2018/2/1 更新

 年が明けて東名高速道路でトラックによる自動運転の実証実験が行われた。自動運転の技術が搭載された3台のトラックは、後に続くトラックが先頭のトラックを自動的に追尾し隊列走行を繰り広げた。実証実験の開始は、わが国でもトラック輸送の新たな時代が到来するものとして注目される。

  トラックの自動運転に対する取り組みは、日本よりもアメリカで活発に展開されている。開発の主体は自動車メーカーに限らず、シリコンバレーの企業まで含め多様な企業が、自動運転の新たな市場の確立を目指して開発競争を繰り広げている。トラックの自動運転の開発のために、2017年に10億ドル(1100億円)が投資され、その投資額は3年前の10倍に急増したと指摘されている。
 ウーバーに買収されたオットが、バトワイザーのビールを積載して自動運転の実証実験を行った。また、ボルボやダイムラーなどの自動車メーカーを中心として、高速道路で日本と同じ隊列走行の実験がすでに行われている。さらに、電気自動車メーカーのテスラが自動運転技術を備えた電気トラックを近く発表する。
 トラックの自動運転が実用化される可能性が高まる中で、この新たな技術革新がトラック輸送や物流業界にどのようなインパクトをもたらすのか。アメリカではこうした議論が繰り広げられている。

 最近注目されたのが、ゴールドマンサックスのエコノミストが明らかにした自動運転の影響である。25年後に、バス、タクシー、トラックを含めて、1年に30万人のドライバーが職を失うという。これから四半世紀先の技術進歩で完全自動運転が確立することを考えれば、ドライバーの大量失業時代の到来を予想することは可能かもしれない。しかし、現時点でこの長期的な予想はあまり意味をなさない。
 少なくともここ10年間は、ドライバーが運転席にいる状態で自動運転が行われると考えられている。こうしたスパンでは、全くの無人走行は時期尚早で、ドライバーが依然として必要となる。
 高速道路の長距離輸送で自動運転が行われるが、出発地から高速に入るまで、高速の出口から目的地まで、市街地の走行は人間ドライバーによって運転される。自動運転によって高速道路の長距離運転でドライバーは運転労働から解放されて、自由な時間が確保されることになる。

 現在アメリカでは310万人ものトラックドライバーがいるが、長距離輸送を中心としてドライバー不足が深刻になっている。全米トラック協会によれば、現在5万人ものドライバーが不足して、今後8年間で90万人の新規ドライバーが必要となる。
 こうしたなかで、自動運転技術の導入はドライバーの長時間におよぶ運転労働の負担を軽減し、ドライバー不足を緩和するものと期待されている。自動運転は運転労働に従事するドライバーと雇用する物流業者の双方に、当面経済的なメリットをもたらすと考えられている。

 また別の見方もある。自動運転によってトラックの車両は、1日11時間、週60時間を上限とするドライバーの労働時間に縛られることなく、24時間7日間の連続した稼働が可能となる。それは結果的に輸送コストの削減をもたらす。さらに、ドライバーは長時間の運転労働をしないのだから、従来のような賃金を支払う必要がない。このためドライバーの賃金は低下する。さらに、自動運転はトラックの燃費効率を改善し、また走行の安全性が高められ保険料を安くする。

 こうして、自動運転によって全般的にトラックの輸送コストの削減が可能となる。それはトラック運送事業者間の競争を通じて、やがて運賃の低下をもたらす。自動運転の普及で輸送コストの削減が実現し、荷主企業にその果実が与えられる可能性もあると考えられている。



物流業界における長時間労働の新たな懸念
2018/1/1 更新

 「アマゾンのドライバーは、最低賃金を下回る収入にもかかわらず、トイレに行く時間もなく、1日200個もの貨物の配送を強いられている。」
 これはイギリスのサンデー・ミラー紙がウェブ版で報じた記事の見出しタイトルであり、イギリスのネット通販のラストマイルの実情を伝えたものだ。イギリスのアマゾンは、100を超える中小の事業者にネット通販の貨物の配送を委託している。これらの事業者は独立した個人事業者と契約しており、このためアマゾンのラストマイルは、数多くの独立した個人事業者によって担われている。アマゾンから配送専用のアプリが提供され、ドライバーはそれに従って配送業務を行う。

 こうしたドライバーの過酷な労働実態が報じられたのだ。ドライバーは、1日200個もの貨物を配送しなければならない。食事の時間も十分に取れず、トイレもままならないため、ドライバーはペットボトルを配送のバンに持ち込んで用をたすという。ペットボトルを車内に持ち込むという事実が、運転労働の過酷さを一段と強調している。

 こうした個人事業者のドライバーは、配送のため労働時間が1日に12時間に達し、さらに14時間に及ぶこともあるという。イギリスでは運転労働の従事者は、1日の労働時間が11時間を超えてはならないという規制がある。このため、規制当局が違反の疑いで調査に乗り出している。イギリスでネット通販のラストマイルを担うのが独立した個人事業者であり、この個人事業者の過酷な長時間労働が問題として浮上しているのである。

 ひるがえってわが国では、ネット通販のラストマイルの担い手として、個人事業者である軽貨物運送のドライバーが、この輸送市場に参入している。日本のアマゾンは、ヤマト運輸の当日配送の撤退を受けて、デリバリー・プロバイダーと呼ばれる物流事業者に当日配送の委託を拡大している。その一つの丸和運輸機関は、今後1万人に及ぶ軽貨物の個人事業者を集めてアマゾンの配送を担うという。また、ヤマト運輸でも個人事業者を積極的に活用する。夜間専用の配送を担うために、今後1万人にも及ぶ個人事業者を採用するという。

 ネット通販事業者からすれば、宅配便が急増する貨物のラストマイルを担うことができなければ、安いコストで運んでくれる個人事業者への委託を拡大することになる。さらに、宅配便事業者にしても、労働力不足が深刻化するなかで配送の輸送力を確保するために、相対的に安いコストで下請けできる個人事業者を使用することが重要な選択肢となる。
 しかし、そこで懸念されるのが個人事業者の長時間労働である。個人事業者であるため、労使関係のもとでの労働時間規制の対象外となり、どれだけ働こうが自由だ。低い運賃をカバーするために、長時間労働を行うインセンティブが強く働く。そして、わが国では、イギリスのように個人事業者のドライバーを対象とした労働時間規制がないため、実質的に個人事業者の長時間労働が野放し状態となる。

 物流業者がデリバリー・プロバイダーとして個人事業者の拡大を明らかにした時にも、「労働時間管理を厳しくして」とわざわざ強調している。このことからも、長時間労働に陥ることが強く懸念されていることがわかる。

 物流業界において長年にわたって長時間労働や低賃金の問題が存在してきた。ドライバー不足が深刻化する中で、長時間労働を是正し、働き方改革を実現しようとする動きが高まっている。こうした中で、急成長するネット通販で登場する軽貨物の個人事業者は、長時間労働に陥る可能性を強く持っている。これは長時間労働の是正の流れに逆行することになる。物流業界では、一方で長時間労働の是正が行われながら、他方で成長する輸送市場で長時間労働の拡大が懸念されるのである。



アマゾンが進めるラストマイルの変革
2017/12/1 更新

  アメリカのメディア、ブルームバーグは、アマゾンがSeller Flexと呼ばれる配送プロジェクトの実験を秘密裏に行っていると報じた。アマゾンは今年にはいってアメリカ西海岸地域でこの配送サービスの実験を始めており、2018年には対象エリアをさらに拡大するという。

 数多くのネット通販事業者がアマゾンのウエブサイトで商品を販売している。従来こうしたネット通販事業者の商品は、アマゾンの巨大な物流センターに保管されて注文に応じてアマゾンが出荷していた。「フルフィルメント・バイ・アマゾン」というサービスだ。

 これに対して、Seller Flexと呼ばれる新たな配送プロジェクトでは、アマゾンの物流センターを使わず、ネット通販事業者自身の物流センターに商品を保管するようにして出荷する。アマゾンは他の企業の物流センターからの配送をコントロールして消費者に届けるというものだ。

 アマゾンがネット通販事業者の物流センターの配送をみずからコントロールしていることが重要となる。従来こうした物流センターからの配送は、大手宅配便であるUPSやFedExが行っていたが、このやり方ではだれに運ばせるかはアマゾンが決定することができる。

 この新しい配送プロジェクトは、配送の選択権をアマゾンに握られているために、宅配便事業者にとっては大きな脅威となる。実際に大手宅配便事業者ではなく、別の宅配便事業者に委託することも充分考えられる。こうしたことが懸念されて、ブルンバーグの報道を受けUPSとFedExの株価が下落した。

 アマゾンは売上を急激に拡大しているが、同時に物流コストも肥大化させている。売上高に占める物流コスト比率は、2012年に8%であったが、年々増加を繰り返し、2016年には12.3%に達した。この物流コストの増加には、ラストマイルの配送コストの増大が含まれている。

 日本の宅配便と異なり、アメリカの大手宅配便は運賃支配力が格段に強く、毎年継続的に運賃の値上げが行われてきた。これがネット通販事業者の物流コストを大きく押し上げている。こうした物流コストの上昇をどうするのかは、アマゾンにとって極めて重要な問題となっている。

 アマゾンが現在行っている新たな配送のプロジェクトは、大手宅配便の事業展開に大きなインパクトを与えるようになるかもしれない。こうして、アメリカではネット通販事業者と宅配便事業者の新たな関係が表れつつある。



荷主勧告制度はどこまで有効か
2017/11/1 更新

 国土交通省は荷主勧告制度を強化している。荷主勧告制度とは、トラック運送業者が過積載や過労運転などの法令違反を犯したときに、トラック運送業者のみに責任があるのではなく、貨物輸送を委託している荷主企業が積極的に関与していれば、荷主企業に勧告し企業名を公表するというものである。
 これまで荷主勧告の判断基準が明確ではなかったが、具体的な基準が示されるようになった。その中の一つに荷待ち時間の恒常的な発生がある。荷主企業の荷捌き場で荷待ち時間が恒常的に発生し、トラック運送業者が荷主企業に改善を申し込んだものの改善されず、このためトラック運送業者が過労運転防止に違反したというものである。

 貨物の運送を委託する荷主企業が、自分の所で荷待ち時間を発生させている場合で、委託した荷主企業の責任が問われる。しかし、荷待ち時間は、発の荷主企業だけではない。貨物を受取る着の荷主企業でも、荷待ち時間は同様に発生している。
 厚生労働省と国土交通省が共同で実施したトラックドライバーの労働時間に関する実態調査によると、荷待ち時間は発の荷主企業で平均1時間13分なのに対して、着の荷主企業でも平均で1時間05分の荷待ちが発生している。発と着でほぼ同じ程度の荷待ちが生じている。
 これはあくまで平均の数値であるから、実際にはもっと多くの荷待ち時間を発生させていることは容易に想像できる。ちなみに、この調査で最大の荷待ち時間は、発の荷主企業が13時間20分に対して、着の荷主企業が13時間00分であった。
 このことは、トラック運送業者の過労運転の原因が、着の荷主企業側においても発生する可能性があることを示している。着の荷主企業が荷待ち時間を放置して、その結果ドライバーの長時間労働を引き起こすことも充分にありうる。そうであれば、発の荷主企業だけでなく、着の荷主企業も荷主勧告の対象にならないのかという疑問が生じる。

 貨物の運送を委託する荷主企業は、貨物を運んでくれるトラック運送業者が法令を遵守できるようにすることが求められる。したがって、これができなければ発の荷主企業が荷主勧告の対象となるのはいうまでもない。これに対して着の荷主企業の場合は、注文した貨物を受取る側で、トラック運送そのものに何ら関与していない。このため、貨物運送の委託という契約関係を前提にして荷主勧告があるとすれば、着の荷主企業は対象外になると考えられる。
 しかし、野放図に放置されている荷待ち時間がトラック運送業の長時間労働に大きな影響を与えていることを考えると、それを放置している着の荷主企業も責任が問われるのではないか。こうした大きな問題を改善していくために、荷主勧告制度が運用されないのだろうか。



アセアンで奮闘する日本の物流企業
2017/10/1 更新

 インドネシアのジャカルタでグーグルマップを開くと、地図上の幹線道路は渋滞を示す真赤な色に染まっている。道路インフラの未整備とモータリゼーションの急激な進展が、深刻な道路渋滞を引き起こしている。このため、トラックは一日平均0.7回転しかできないという。こうしたなかで、日本から進出した物流企業はミルクラン輸送を行っている。

 アセアンのなかでタイ、インドネシアは自動車生産が集中している。日本の自動車メーカーが現地生産を繰り広げるとともに、それに部品を供給する部品メーカーも現地生産をしている。自動車のサプライチェーンが形成されて、それを支えるために日本の物流企業も進出し、部品調達の物流を担っている。
 部品調達の物流では、ジャストインタイム方式とミルクラン方式があるが、これらの国々では圧倒的にミルクラン方式が採用されている。部品を調達するほうがトラックを仕立てて部品供給メーカーを巡回して集荷し、生産ラインに納入するやり方だ。この輸送を物流企業が担当する。
 自動車物流は、工場でできるだけ部品在庫を持たないように、時間指定の多頻度納入が必要不可欠である。このため決められた時間に間に合うように、迅速で正確な輸送サービスを提供しなければならない。

 高い輸送品質が求められるミルクランは、日本から進出した物流企業の得意な分野だ。しかし、「安かろう悪かろう」だった地場のトラック運送業者も次第にレベルアップをはかって、このミルクラン輸送の市場に参入している。また、欧米系の物流企業も日系メーカーの自動車部品の輸送に進出しはじめている。このため、日系メーカーの自動車部品調達といえども、多様な物流企業が参加するようになり、競争が激しくなっている。

 経済発展が続くこれらの国々で賃金の上昇が続く。トラックドライバーの賃金も継続的に上昇している。しかし、荷主企業はそれに見合った運賃の上昇をなかなか認めてくれない。そこで、工夫して輸送の効率を上げ、ドライバーの生産性も上昇していかなければならない。
 日本の自動車メーカーや部品メーカーは、ミルクランの調達物流を厳しく管理している。年に一回ミルクランを担う物流企業の入札が行われる。そこでは、実際の部品の輸送に関して物流KPIの指標の提出が求められ、それによって厳しくチェックされる。運賃だけでなく、優れた輸送サービスを提供する物流企業が、引き続き事業を継続できるようになっている。
 アセアン域内の自由化が促進されてさらなる経済発展が期待されるなか、日本から進出している物流企業は、荷主企業の輸送のニーズに適合する努力を積み重ねながら、異国の地で頑張って事業を継続しているのである。



物流業の就職戦線、さらなる売り手市場へ
2017/9/1 更新

 物流業界における労働力不足は深刻な域に達しているが、新卒大学生の就職戦線もかつてないほど売り手市場の状態になっている。
大学のゼミでは物流を専門に勉強しているため、物流企業への就職を希望する学生が多い。ゼミの学生たちは、物流企業を中心として就活を繰り広げた結果、これらの物流企業から次々と内々定をもらっている。
 ある女子学生は、5つの物流企業から内々定をもらい早々と就活を終えた。他の学生でも5つ程度の内々定をもらうのは、決して珍しいことではなくなっている。同時並行的に多くの企業にトライして、ほとんどの企業から内々定をもらうことができるような状態になっている。企業が学生を高く評価してくれることはうれしいが、こうした状態は今までなかったことだ。

 そして、学生たちは最終的にどの企業に就職するのか、まさに人生の岐路となる選択に迫られる。学生たちの企業の選択には、いくつかの特徴がある。
 大手の物流企業への就職を選択する傾向は依然と根強い。かつては物流業の中の業種から選択することもあったが、最近では安定志向のために大手の物流企業を選択する。そして、物流子会社も学生に人気が高い。大手メーカーなどのナショナルブランドの名前を冠した物流企業は、安定志向と関連して学生にとって魅力的な企業となっている。
 さらに、物流企業から内々定をもらっているが、物流企業を選択しない学生もいる。だが、それも物流と深く関係している。物流機器を専門に生産している大手メーカーや、物流が生命線で、物流に力を入れている大手の卸売企業を選択している。
 労働力不足の状態は、今就活を行っている学生たちに大きなメリットを与えている。自分たちの選択できる企業の幅が広がり、より競争力のある安定した企業を選択することが可能となっている。現在の学生が非常に恵まれた状況に置かれているのは、紛れもない事実である。

 今の状況は、1980年代末のバブル期と比較される。極端な人手不足で、就職戦線に異常な事態が起きていると報じられた。当時は大学にいなかったので、学生側から見てどのような状態だったのか知る由もない。だが、今の状態を見ると、当時と同様に売り手市場の極致に向かっているように思える。
 しかし、バブル経済が崩壊して異常に加熱した売り手市場が、真逆の方向に進んだ歴史が示しているように、景気循環の変化によってこうした状態はやがて変わることになるだろう。それがいつになるのかはわからないが、こうした状態が長く続くとは思えない。
 学生にとって重要なのは、売り手市場で就活を楽観視することなく、専門の物流をしっかりと勉強して、みずからの実力を高めることである。優れた物流企業の中で重要な人材になることができるように、学生のうちにしっかりと努力することが必要なのだ。



顧客ファーストの過剰サービス
2017/8/1 更新

 7月のヨーロッパは暑い。ところが、街中で水を買おうとしても、なかなか買えない。小さなスタンドの店はあるが、売っている水の種類も少なく値段も高い。たかだか水のことだが、改めて日本のコンビニの素晴らしさを実感する。身近にあり、豊富な品ぞろえで、必要な商品をいつでもたやすく買うことができる。

 日本の国内にいると気づかないが、海外に出ると企業によって提供されるサービスが優れていると実感することが多い。こうしたサービスは、顧客にとってありがたいものだ。しかしながら、日本ならではで、提供されるサービスが過剰で、背後に多くの負担や犠牲が伴っているものも少なくない。
 その典型が宅配便のサービスだ。ネット通販で購入した顧客のために、顧客の都合で手渡しできなくとも、何度も再配達する。しかも無料だ。また、宅配便は、ネット通販の差別化に貢献するために、翌日配達から当日配達へと輸送スピードの速いサービスを提供している。しかし、速い当日配達の運賃は翌日配達と変わりない。

 海外では、再配達に追加の料金を徴収する。また、輸送スピードが速くなれば、運賃は高くなる。早く着く特急に乗るのに、特急券が必要なのは当たり前だ。さしずめ当日配達の宅配便は、普通運賃だけで特急に乗るのと同じことになる。しかも、再配達問題に象徴されるように、宅配便ではドライバーへの過重な負担が生じている。それにもかかわらず、顧客のために無償で続けられている。
  日本では、「お客様は神様です」と言う。同じようなことを、アメリカの宅配便大手UPSのマーケティング担当者は、「お客様はキングです」と言っていた。顧客はアメリカでは王様だが、日本では神様だ。王様と神様では大きな違いがある。いずれにせよ、日本では、今流の言葉でいえば、過剰なまでの「顧客ファースト」が貫かれてきたのである。

 宅配便に限らず、トラック輸送において顧客である荷主企業に対して過剰なサービスが提供されてきた。荷主企業の都合で手待ち時間が発生して、長時間の労働になるにもかかわらず、ドライバーはじっと待機している。その時間はタダで奉仕される。さらに、発荷主、着荷主先で、貨物の積み下ろしをドライバーが長時間かけて行う。しかも荷役労働をしているのに無料な場合も多い。これらは典型的な過剰なまでの顧客ファーストといえる。
 日本では、顧客が神様ならこうしたサービスが当たり前で、逆らえなかったのかもしれない。しかし、明らかに現場のドライバーに大きな負担が課せられた過剰なサービスである。顧客が優れたサービスを享受できることは素晴らしいが、しかし、日本に特有なこうした負担や犠牲が伴う過剰なサービスは改める必要があることはいうまでもない。



アマゾンと軽貨物の個人事業者
2017/7/1 更新

 アマゾンは、みずからのラストマイルを担うために、軽貨物の個人事業者を大規模に動員する。日本経済新聞が一面のトップで報じたところによると、アマゾンは、2020年までに首都圏で1万人の軽貨物の個人事業者を使用して、当日配送サービスを担わせる。
 ヤマト運輸が当日配送サービスから撤退するため、これに対応する措置となる。かつて、ラストマイルの担い手が大手宅配便事業者に限定されていて、日本ではプレイヤーが少ないと嘆いていた。宅配クライシスに直面して、新たなプレイヤーが選択される。全国的な配送網をもつ大規模な事業者から、束ねる運送業者がいるとはいえ、個人事業者が全面的に登場する。

 アメリカのアマゾンは、UPSやフェデックスといった大手宅配便だけに依存するのではなく、地域の運送業者にもラストマイルを任せている。こうした地域の運送業者は、特定の地域に特化して、大手の宅配便事業者よりもサービスが良く、運賃が安い宅配サービスを提供している。安い運賃で運べる一つの理由が、輸送の担い手がオーナーオペレーター、すなわち個人事業者であるからだ。
 ネット通販のラストマイルに個人事業者が動員される点では、日米で共通することになる。安いコストで配送をまかなおうとすると、個人事業者が登場する。はたして、こうした軽貨物の個人事業者が、宅配便に代替してネット通販のラストマイルを担うことができるのか、今後の展開が注目される。

 ところで、ある物流業の経営者は、この報道を受けて別の視点からアマゾンの動きを注目している。
 宅配クライシスの原因の一つは、宅配便の運転手による長時間労働であり、それを改善するために、サービス提供の停止や運賃の値上げが行われている。こうした中で、長時間労働を是正する動きが高まっている。しかし、ネット通販側の対応策として出てきたものが、ドライバーの長時間労働に対する抑制が効きにくい個人事業者の採用である。こうしたことが、長時間労働の是正に対しても影響を及ぼすのではないかと懸念しているのである。

 アマゾンの新たな動きは、わが国の物流業界にも影響を与えることになりかねない。



ドライバー賃金の上昇硬直性
2017/6/1 更新



 
労働力不足のなかで賃金が上昇すれば、人件費が増加して収益の減少をもたらす。他方で、賃金の上昇がなければ労働力が集まらず、事業の縮小や顧客離れを引き起こす。賃金の上昇は、経営にとっていわば諸刃の剣といえる。そして、この二律背反の関係を打開するには、サービスの対価である運賃を上昇させることが必要不可欠となる。

 賃金に関して最近興味深い著書が出された。『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(玄田有史編、慶応義塾大学出版会)である。この本では、この「最大の謎」に労働問題の専門家が多方面にわたって多角的に分析を行っている。
 ポイントは「賃金の上方硬直性」というものだ。労働力の需要が拡大しても、それに応じて賃金がなかなか上昇しにくい状態が生じている。経済学の教科書で教えるところでは、労働力市場においても需給が逼迫すれば、価格調整機能が作用して賃金が上昇し、やがて均衡をもたらす。しかし、日本経済全体を見ると現実は必ずしもそうなっていない。

 トラック運送業界を見ても「賃金の上方硬直性」が当てはまる。直近の有効求人倍率は17年3月に全産業平均で1.45であったが、「自動車運転の職業」は2.63という高さだ。この有効求人倍率の高さが、この業界の労働力不足の深刻さを端的に示している。これに対して、厚生労働省のデータによると道路貨物運送業の賃金は、ようやく2015年以降上昇傾向に転じているものの、リーマンショックを契機に世界同時不況に突入した以前の水準にいまだに達していない。賃金の上昇は緩慢で、「賃金の上方硬直性」が存在している。
 先の著書では、バス業界の事例分析が行われている。バス業界は2000年に規制緩和が行われ、大きな構造的変化が生じた。ここでも人手不足が深刻であるにもかかわらず、ドライバーの賃金が上昇しない。なぜなのか。その答えとして用意されているのは次の点だ。
規制緩和によって新規参入が相次いで、事業者及びバス車両が増加し、過剰供給の状態が生じて運賃が低下した。それにもかかわらず、事業者の大幅な退出は生じなかった。退出が生じないために、逆に人件費の引き下げ圧力が強まった可能性があるというものだ。
 こうしたことは、トラック運送業界にもある程度共通する。バス業界よりも10年前に規制緩和が行われたトラック運送業界は、事業者数が増加して過剰供給が生じ、過当競争の状態に陥った。その中で運賃の低下を招き、ドライバーの賃金は減少を余儀なくされてきた。そして、基本的にこうした過当競争の状態が続いていれば、賃金の上昇も容易に進まないことになる。

 したがって、賃金を考えるときに一つの大きなポイントは、過剰供給によって引き起こされる過当競争ということになる。この点でみると、最近事業者数が減少していることに注目する必要がある。
 国土交通省のデータによれば、トラック運送業は、市場からの退出者が新規参入者を上回る傾向が明らかになっている。市場からの退出者が増えることは、過当競争の圧力をやわらげ、それは運賃の上昇をもたらす条件として作用する。このため、今後どの程度市場からの退出者がでるかが、ドライバーの賃金にも影響を与えると考えることができる。



中継輸送に対する期待
2017/5/1 更新


 
新たなトラックの輸送方式として中継輸送が注目されている。1台のトラックが長距離の過程を往復するのではなく、双方からそれぞれのトラックが出発して中間地点まで行き、そこで車両を取り換えたり、貨物を載せ替えたりして、折り返して戻る輸送の方式だ。
 これによって、従来1泊2日であったドライバーの運転を日帰りにすることができる。長距離輸送でドライバーが過酷な長時間労働になっており、これを改善するために中継輸送は大きな意味を持つ。
 広いネットワークを持つ大手のトラック運送業者であれば、こうした中継輸送を社内の支店間で組むことは困難ではない。しかし、中小のトラック運送業者では、全く異なる別の事業者と行うことになり、パートナーを探すことから始まって、多くの困難が予想される。
 こうしたなかで、国土交通省は、トラック事業者が実際に参加する中継輸送の実証実験を2年間にわたって実施してきた。最近、2年目の実証実験の報告書と、さらに中継輸送実施のためのマニュアルが出されている。
 
 中継輸送は、トレーラー・トラクター方式、ドライバー交替方式、貨物積み替え方式と3つのパターンがある。このうち2年目の実証実験では、ドライバー交代方式と貨物積み替え方式で、遠隔地にいるトラック運送業者が参加して実験が行われた。
 この実証実験で特有の課題も明らかになっている。例えば、ドライバー交代方式は、運転する車両が変わるためにドライバーには大きなストレスになる。車両の運転に慣れているベテランドライバーほど、そのストレスが大きいという。
 また貨物積み替え方式では、ドライバーは同じ車両を継続して運転できるが、中間地点で積み替え荷役ために作業員と一定のスペースが必要となり、新たなコストの増加につながる。

 この実証実験で驚くことは、参加したドライバーおよびトラック運送業者の間で中継輸送に対する評価が極めて高いことだ。ドライバーは、実際に中継輸送で労働時間が短縮され、従来の輸送よりも負担が大きく削減されることを高く評価している。
 また、実証実験に参加したトラック運送業者は、中継地点で荷役を行いコスト負担が発生する貨物積み替え方式から始めて、さらにドライバー交代方式へ進めていくという。また、中継輸送を実施することで車両の回転率が高まるメリットがあり、そこに注目して中継輸送を進めていくという。

 ドライバー不足が深刻な中で、ドライバーの負担を軽減できる中継輸送は重要である。中小のトラック運送業者においても、この中継輸送が実施できるようになることが期待されている。



物流業界の潮目が変わるか
2017/4/1 更新


 物流業界で大きな動きが生じている。ネット通販の貨物増加で宅配便のドライバーに過重な負担が生じるなかで、ヤマト運輸は労使交渉を経て重要な決定を行った。ドライバー賃金のアップと労働時間の抑制、そして宅配便の運賃の値上げ、さらに今後の宅配便貨物量の抑制などを決めた。
 ネット通販が好調で宅配便の貨物量が増えているにもかかわらず、宅配便の平均運賃は低下を続けており、収益の減少を余儀なくされている。このため、大口荷主と運賃値上げの交渉を行うとともに、宅配便の基本運賃そのものの値上げを実施する。
 ヤマト運輸の労使交渉とそれに基づく新たな決定は、マスコミでも大きく取り上げられた。一物流企業の動向が、これほど社会的に注目されたことはこれまでなかった。また、佐川急便のドライバーが配達の宅配便貨物を投げ捨てる動画がテレビで取り上げられたが、この時もなぜこのようなことが起きるのか、背後にある宅配便業界の実状まで踏み込んでマスコミが報道したのは驚きであった。
 いずれにせよ、ますます身近な購買方法となっているネット通販とそのラストマイルを担う宅配便がすでに重要な存在となっており、そこで生じている物流の問題が社会的に大きな影響を与えるのは明らかである。したがって、大きく注目されるのは当然のことなのだ。

 ところで、現在宅配便で生じている問題は、広くトラック運送業が直面しているものと共通している。低賃金と長時間労働によってドライバー不足が深刻化し、輸送の安定的な提供が難しくなっている。過剰ともいえる輸送サービスを提供しながら、人手不足から現場でドライバーに過重な負担がかかっている。それにもかかわらず、運賃は低水準にとどまっている。特積みの宅配便で大規模な物流業者が直面する問題は、程度の差はあれ一般のトラック運送業者が抱える問題と共通しているのである。
 トラック運送業では、労働力を確保して安定的に輸送サービスを提供していくために、ドライバーの賃金上昇と長時間労働の是正が必要である。そして、これを実現するためには、運賃の値上げが重要となっている。しかしながら、過当競争体質がある中で、荷主企業の理解が得られず、こうした取組みがこれまで大きく進展してこなかった。

 今回ネット通販に関連した宅配便の問題が明るみに出て、その対応が社会的に注目されるなか、ネット通販に対する宅配便大手物流業者の対応が、物流業界にも大きなインパクトを与える可能性がある。これまであまり進まなかったトラック運送業者の荷主企業に対する取組みが大きく進展する契機になるかもしれない。労働力不足に直面する物流業界の潮目が大きく変わる可能性に注目する必要がある。



爆走するトラック
2017/3/1 更新


 最近NHKのBSで「爆走風塵 中国・激変するトラック業界」と題するドキュメントが放映された。物流が急激に拡大する中国で、長距離大型トラックを運転する個人トラック事業者の運行実態を追跡したドキュメントだ。
 達人と呼ばれる2人組みのベテラン、妻と幼い子を同乗させる新米、息子に継がせたいと考えている親子、それぞれ3組の大型トラックのドライバーが、貨物を探して長距離輸送する姿を同時平行的に追っている。現代の中国のトラック運送業界の実態を赤裸々に映し出しており、じつに興味深い内容となっている。

 経済発展に伴い物流が拡大した中国では、1980年代にトラック運送業に対する規制緩和が行われて、トラック保有台数の制限が廃止された。個人トラック事業者であるオーナーオペレーターが認められたのだ。また、自動車ローンも開放されて、個人がローンを借りてトラックを購入することができるようになった。
 このため、仕事が見つからない農村地域の人々を中心に個人トラック事業者が急増し、成長するトラック運送業へ続々と参入していった。個人トラック事業者を含むトラックドライバーはこの10年で2倍に増えて、現在では約3000万人にも達するという。個人トラック事業者は、ローンで購入した大型トラックを自ら運転し、広大な中国大陸をまたにかけ過酷な条件のもとで貨物輸送を行っている。
 交通の要衝にある大都市のトラックの情報取引所で数多くいるブローカーから、行先方面、貨物の種類、そしてなによりも運賃で運ぶ貨物を探す。条件があえばブローカーに現金で紹介の手数料を支払い、発荷主で貨物を積載して目的地に向かう。目的地は1000qを超えて、2000qに達する長距離輸送の場合もある。大型トラックは数日間を要して高速道路をひた走り貨物を届ける。そして、届けた先で積み下ろしが完了し、着荷主から運賃を受け取ることになる。

 こうして、個人ドライバーは、広大な中国大陸に貨物を求めてひたすら大型トラックを運転する。トラックへの貨物の積み下ろしは、発、着の荷主側が専属の作業員を用意しており、ドライバーは荷役をする必要はない。この点では日本のドライバーに比べて恵まれている。しかし、長期間にわたって連続したトラックの運転を続け、年間に300日も運転労働に従事するという。
 中国のトラック運送業をめぐる経営状況は極めて厳しい。世界一高いといわれる高速料金と、政府の独占企業が供給する燃料の高騰が、個人トラック事業者の経営を直撃している。さらに、もっと問題なのは運賃だ。景気の低迷と過剰参入によってトラックの運賃が低下している。このため儲からない。
 長距離輸送をしても、高速料金と燃料費だけで低い運賃を上回ってしまうことも起きる。不慣れの妻子連れの新米ドライバーと、親子のドライバーは、せっかく貨物を見つけて長距離輸送をしても、高速代と燃料費だけで運賃を上回り大幅な赤字を経験する。かつては農村出身の個人トラックドライバーは、収入が高く出身の農村に豪華な自宅を建てることもできた。しかし、今ではこうしたことは過去の夢となりつつある。

 中国のトラック運送業は現在明らかに過剰な状態にある。運ぶ貨物が減少し運賃が低下して収入が減っても、彼らはトラック購入のローンを返済し、家族を養っていくために、この業界になんとか生き残ろうともがいている。こうして過酷な条件のもとで貨物を運び続けているのだ。
 中国の状況は、ドライバー不足が深刻化している日本と大きく異なっている。また、個人トラック事業者の存在は、アメリカのオーナーオペレーターと共通しており、これは日本にはない。こうして現在の状況は日本と中国で異なるが、しかしトラック運送業の根底にある不安定で脆弱な側面は共通している。



運賃支配力の脆弱性を克服する
2017/2/1 更新


 宅配便運賃の低下が止まらない。宅配便の最大手ヤマト運輸は、最新の公表データで宅配便運賃が2016年第2四半期に対前年同期比で4.3%下落していることを明らかにしている。14年末以降同社の宅配便運賃は低下を続けており、下落傾向に歯止めがかからない。
周知のように、ネット通販が隆盛を極め、そのラストマイルを宅配便に依存している。このため宅配便の輸送需要は拡大している。さらに、宅配便市場は寡占化が進展し、業界リーダーのヤマト運輸が45%の市場占有率を占めるほどである。それにもかかわらず、業界のリーダーは、運賃の下落を食い止めることができない。他の事業者との運賃競争を余儀なくされ、取扱量が増えるなかで「豊作貧乏」の状態が続いている。

 この対極にあるのがアメリカの宅配便だ。アメリカ国内の宅配便の市場構造は日本と極めて似ている。民間の大手宅配便のUPS、FedEx、そして郵便のUSPS(アメリカ郵政公社)の3社による寡占体制が構築されている。そして日本以上に発達しているネット通販は急激に成長しており、まさに右肩上がりで宅配便の取扱量が伸びている。

 ほとんど同じ構造の日本とアメリカの宅配便市場で、運賃は全く異なる。UPS、FedExの運賃値上げの攻勢がすさまじいのだ。最近では、両社ともに陸上宅配便が平均で4.9%、航空宅配便でUPSが4.9%、FedExが3.9%の値上を行った。UPSが16年12月26日から、FedExが17年1月2日から一斉に値上げを実施している。
 驚くべきことに、こうした値上げは毎年定期的に行われている。両社は、これまで年間3.9%〜6.9%の幅で、まさにお決まりのコースのように値上げを行ってきた。その結果、2007年〜2017年の10年間に、陸上宅配便が75.8%、航空宅配便が81.8%も上昇したのである。このように、アメリカの宅配便事業者は、日本と異なって恐るべき運賃支配力を持っている。

 これは互いに激しく競争するUPSとFedExが、特に収益性管理(yield management)に力を入れている結果だ。むやみに数量を取るのではなく、基本的に景気の回復やネット通販ビジネスの興隆による宅配便取扱量の拡大を背景として、収益性を確保するために運賃に対する支配力をますます強化している。
 こうした運賃支配力によって宅配便運賃が急激に上昇し、ネット通販事業者は物流コスト増が不可避となり、これがアメリカでは大きな問題となっている。それがまた、アマゾンにみられるように、ネット通販事業者が自家物流を模索する動きをもたらしていることも事実である。

  いずれにせよ、今わが国の宅配便事業者も、急激に拡大するネット通販による貨物増加に対応して、運賃を好転させて適正な収益を維持し、事業の安定的な拡大を実現することが必要不可欠である。収益性管理を強化していくことがとりわけ重要で、そのためにアメリカにみるように運賃支配力をどのように身に着けていくのかが大きな課題となる。



ドライバー不足がもたらすトラック運送業界の変化
2017/1/1 更新


 現在トラック運送業が直面している最大の課題の一つはドライバー不足だ。全日本トラック協会の「トラック業界の景況感」でも、ドライバー雇用状況の不足感は2012年頃から上昇を続け、直近の2016年7月〜9月期でも高い水準にあることが示されている。
 この深刻な労働力不足の根本的な原因は、他産業に比べて賃金が低く、労働時間が長いトラック運送業の労働条件にある。このため、ドライバー不足に対応していくためには、こうした根本的な原因を改善していくことが必要不可欠となる。
 トラック運送業者が、運賃を上げて売上高を増やし、それを原資としてドライバーの賃金を上昇させ、さらには労働時間を短縮していくことである。もちろん、このようなことがこれまでできなかったのがトラック運送業界であり、そう単純で簡単ではないと考えられるだろう。しかし、こうした変化は起きていないのだろうか。直近の関連する経済統計を確認してみた。

 まずトラックの運賃だが、日本銀行の「企業向けサービス価格指数」をみると、陸上貨物輸送では宅配便運賃の上昇が著しく、2010年を100として直近の2016年10月に111.9で高い水準を維持している。これに対して、貸切運賃は同じく106.7であった。宅配便運賃には劣るものの、一般の貸切運賃は、2014年の初めから上昇して、現在まで相対的に高い水準を維持している。

 ドライバーの賃金はどうであろうか。年間の統計で直近の2015年を見ることができる。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、道路貨物運送業の「きまって支給する現金給与額」は、2012年に30万3500円が、2015年に31万8200円に増加している。また、年間賞与も同期間に28万2600円から34万8200円に増加した。
 これに対してドライバーの労働時間であるが、厚生労働省の同じ統計で、所定内実労働時間は2012年の176時間が、2015年には177時間に増加している。また、超過実労働時間も34時間から35時間に増加している。若干ではあるが、ドライバーの労働時間は明らかに増えている。

 こうして、深刻な労働力不足は、明らかにその後トラック運送業界に一定の変化をもたらしている。どの程度変化したのかその度合いが重要であるが、とりあえず以前と異なり潮目は変わり、トラックの運賃は上昇し、ドライバーの賃金も上昇している。
 深刻な労働力不足は、需給のバランスを変えて運賃の上昇をもたらした。ミクロ的には、トラック運送業者の運賃交渉が行われて運賃の値上げが実現されたことを示している。そして、同時に、労働力不足はドライバーの賃金の上昇をもたらしたが、これも賃金を上げて労働力を確保しようとする動きが反映されたものと考えられる。それがすぐに労働力不足を改善することにつながるほど十分なものとは言えないが、こうした動きが起きていることが経済統計から示されている。
 しかし、労働時間は、逆に長時間化して悪化している。長時間労働を是正するという努力は統計には表れていないのだ。逆に、依然として長時間労働が続いて、労働力不足の改善を阻む要素となっている。



自動運転のトラックの実用化
2016/12/1 更新


 貨物を満載して高速道路を走行する大型トラックの運転席にドライバーがいない。後部座席でドライバーはくつろいでいる。この大型トラックは、バドワイザーのビール缶5万2000個を積んで高速道路を200キロほど自動走行し、配送先にビールを届けた。

 今年10月にアメリカのコロラド州で、自動運転の大型トラックに実際に貨物を積んで配送する実証実験が行われた。これは、実際に貨物を積載して走行する初めての商業輸送であり、アメリカでも大いに注目された。
 この自動運転の大型トラックを走らせたのは、バドワイザーを製造する大手ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ社だ。オット社が開発した自動運転技術を大型トラックに装着して、自社の製品を積載して配送業務を実施した。

 もう一つの主役であるオット社は、個人によるタクシー輸送を世界的に普及させたウーバーによって、この夏に700億円で買収された。ウーバーは、この買収によってトラックの自動運転という新しい市場への参入を狙っている。
 このため、ウーバーは、一方で個人が自家用車で旅客輸送のビジネスに大量に参入できるようにしながら、他方で自動運転の技術で貨物輸送のトラックドライバーを駆逐しようとしていると、一部で皮肉交じりに揶揄されている。
 トラックの自動運転によってドライバーが必要なくなり失業してしまう、との声はよく聞かれる。先の大統領選挙でもこの問題が取り上げられ、その対策が言及されている。しかし、自動運転をおこなったビールメーカーとウーバーの子会社はこれを否定する。
 実際に、高速道路でドライバーは自動運転モードでハンドルを握る必要はないが、高速道路の入り口までと出口から配送先までの一般道では、ドライバーが運転した。まったくの無人走行ではなく、ドライバーの運転が必要となる。

  ビールメーカーが自動運転に熱心に取り組むのは、物流コストの削減が期待できるからだ。全米における自社の商品の配送を自動運転のトラックでおこなった場合、年間約50億円の輸送コストの削減が可能になるという。もちろんこのコスト削減は、ドライバーが不必要となるからではない。
 自動運転によってトラックの燃費効率が上昇する。自動運転のトラックは4〜7%の燃費削減が可能となる。さらに自動運転によるドライバーの運転負担の軽減により、効率的な配送ができるようになる。こうしたことで、広大なアメリカで高速道路を利用して年間トラック120万台分の貨物を長距離輸送するメーカーは、大幅な輸送コストの削減ができるという。

 全米トラック協会によると、現在アメリカでは4万8000人のトラックドライバーが不足している。これが2022年には24万人に達すると予想されている。アメリカでも日本と同じように深刻なドライバー不足に直面している。
 自動運転のトラックの導入は、ドライバーの過酷な運転負担を軽減し、さらにはドライバーがより多くの距離を運転できるようにする。このために、自動運転のトラックは、ドライバーの働きやすい環境をつくり、ドライバー不足に対して有効に機能すると考えられている。



ドライバー不足によって荷主企業との関係は変わるのか
2016/11/1 更新

 深刻なドライバー不足はトラック輸送の供給能力不足をもたらし、売り手市場を形成している。こうしたなかで、トラック運送業者は、荷主企業に対して運賃の値上や、長時間化した労働時間の是正を求めることができる。それは、荷主企業がイニシアティブを握ってきた従来の関係を大きく変えることになる。

 他方で、荷主企業もドライバー不足に対する対応を怠らず、新たな動きが顕在化している。具体的には、モーダルシフトを行い鉄道コンテナ輸送や内航海運へ貨物輸送を転換する。さらには、共同輸送も積極的に進めるようになっている。業界内で競合するライバル企業が物流では共同化に取り組み、いっしょに貨物を運び積載効率や輸送の効率を高める。
 ドライバー不足による輸送の不安定を回避し、安定的な輸送を確保するとともに、トラック運賃の上昇が物流コストの上昇につながることを避けようとしている。これは端的に言えば、不安定性を増しコスト上昇の要因となるトラックをできるだけ使わないという動きだ。
 こうした荷主企業の取組みが今後さらに普及していけば、ドライバー不足の悪影響を軽減するとともに、トラック運送業者との関係でも荷主企業はイニシアティブを維持することが可能となってくる。すなわち、売り手市場でトラック運送業者の優位性が進むことを避けることができる。
 このため、ドライバーが不足して売り手市場になっているから、トラック運送業者が高い運賃を享受できて、対荷主に対して優位に展開できることにはならない。つまり、荷主企業の物流の効率化の取組みの進展度合いが、今後の荷主企業とトラック運送業者の関係にも大きく影響を与える。

 ところで、トラック運送業者と荷主企業の関係が今後どうなるのかを考えるうえで、まったく異なる事態が展開される可能性もなくはない。そもそも根源的な原因となる現在の深刻なドライバー不足が霧散してしまう可能性もあるからだ。
 歴史は繰り返されるではないが、ドライバー不足の歴史に注目する必要がある。かつてわが国では1990年を頂点とするバブル時代に深刻なドライバー不足を経験した。その内容は今の状況と非常に似ている。3K職場が嫌われてドライバー不足が顕在化し、労働人口の減少が予想されるなかで、さらなる深刻な事態が予想された。
 しかし、バブルがはじけ「失われた10年」と呼ばれる深刻な不況に突入すると、ドライバー不足はいっきに解消してしまった。嘘のようにこの問題は忘れられて、トラック運送業者は市場での過剰感を味わうことになる。

 今回のドライバー不足は景気回復によって始まった。そして景気循環によって日本の経済が不況へ突入するようになれば、労働力不足も状況を大きく変わる可能性も捨てきれない。そうすると、荷主企業との関係も元の状態に戻る可能性もありうるのだ。



深化する下請
2016/10/1 更新

 現代のトラック運送業が直面する課題の一つが、下請の問題である。規制緩和によって小規模事業者の参入が可能になり、その数が増加するなかで、これまで下請が拡大して深化してきた。
 下請化が進展するなかで、荷主企業と実運送の事業者との距離がますます遠くなり、トラック運送業者のなかの元請と下請がブラックボックス化していった。そして、実運送が実際に収受する運賃の低下、それによる過労運転や違法行為の誘発など、この下請がトラック運送業の諸問題の根源の一つとなっていることは明らかだ。

 最近、この下請に関して、興味深いデータが国土交通省から明らかにされた。「トラック運送業における下請等中小企業の取引条件の改善に関するアンケート調査」で、全国の700を超えるトラック運送業者がアンケート調査に回答している。
 このなかで、アンケート調査に答えたトラック運送業者の80%が、何らかの業務を下請に降ろしていると答えた。下請が広範囲に行われていることが明らかにされている。
 下請の深化に関しては、運送を受けた際に真荷主から何番目かを聞いた質問では、3番目が41.4%、4番目が16.6%、さらに5番目以降が10.1%に達した。かつて、7次下請まであると聞いたことがあるが、5番目以降の比率をみるとそれは必ずしも稀なケースではないらしい。
 もう一つの興味深いデータは、下請の手数料である。これは、大きく分けて運賃額に対する比率と定額があるが、圧倒的に運賃額に対する比率が多い。問題はその比率だが、運賃額の5%〜8%が最も多く、全体の43.5%を占めていた。そして、10%〜30%の範囲と答えた事業者が17.1%となっている。10%〜30%とはかなりの額に達するが、この割合も少なくはない。

 いずれにせよ、このアンケート調査では、改めてわが国のトラック運送業界における下請問題の根深さが如実に示されている。なぜこういとも簡単に運送業務が次々と下へ下へと降ろされてしまうのであろうか。
 単純化して考えると、10%前後の手数料が引かれて、孫請け、曾孫請け、さらにはその下まで続くのなら、実運送の事業者は荷主の支払った運賃のどの程度で運ぶことになるのか。想像するだけで、とんでもない実運送の実態が浮かび上がる。
 荷主企業にしてみても、一定の運賃を支払ったのに、次々とコミッションだけ引かれて、支払った運送の対価とは程遠い安い運賃で、まったく見ず知らずの事業者によって大事な貨物が運ばれていることになる。この実態をどう考えるのであろうか。
 トラック運送業者としても、深化する下請の底辺部分で実運送を引き受けるのでは、事業の将来展望を持つことができない。もちろん、直接荷主企業の貨物を引き受けることができない事業者が多いから、このように下請が深化してしまうことになる。

 いずれにせよ、こうした下請の深化が業界固有の諸問題を引き起こしているなかで、下請の拡大と深化をどう抑制するのか、大きな課題である。



アジアの物流企業の戦士たち
2016/9/1 更新

 日本の物流企業は、これからさらなる経済発展が見込まれるアジアの国々に企業戦士を送りこんで、現地での物流ビジネスの可能性をさぐっている。物流企業はただでさえ日本で苦労しているのに、経済発展のレベルの低いディープなアジアの国々で、並々ならぬ苦労を経験することになる。
 現地に進出して物流ビジネスを繰り広げるものの、多くの日系物流企業は赤字の状態から容易に脱することができない。こうした状態で、本格的な進出を見込んで駐在員事務所を設置しても、物流ビジネスが成り立つ見通しがもてないため、駐在員はいかに日本の本社に本格的な進出を断念させるかに苦心するという話も聞く。

 日系の物流企業が苦境に陥る原因は、現地のトラック運送業者との競争にある。現地のトラック運送業者は、極端に安い運賃で運ぶことができる。社会的に底辺の人々を低賃金で雇い、長時間労働させて残業代を支払わなかったり、過積載を常態化したり、高額なトラックの車検をごまかしたりして、必要なコストを削減している。
 いろいろな違法行為を織り交ぜて、きわめて安い運賃で営業できる特有の低コスト構造をつくりあげている。日系の物流企業は、これと同じように公然と違法行為を行って運賃を安くすることなどできない。社会的規制があいまいなところで、日系の物流企業は運賃競争についていけない。

 ところが、しっかりと物流ビジネスを展開して、高い収益性を達成している日系の物流企業も少数だが存在している。高い収益性の秘密は、現地に進出する日系企業の高度な物流ニーズに対応して、優れた輸送サービスを提供することにある。時間指定や積載率を高める輸送を提供できる運行管理のノウハウを蓄積している。地元のトラック運送業者はそれができない。
 特有の高度な輸送サービスが求められる特化した分野で優位性を確保して、低運賃の現地のトラック運送業者を排除することに成功している。そこでは、高いサービスレベルを求める荷主企業が、高い運賃を支払ってくれる。その結果として高い収益性を維持できる。
 質の高い輸送サービスを提供するには、ドライバー教育が必要不可欠であるとともに、トラックの運行管理をしっかりと行う専門のスタッフのノウハウが重要となる。アジアに送りこまれた物流企業の戦士は、日本で培ったノウハウをそこで展開しているのである。

 こうしてみると、国内で優れたパフォーマンスを発揮している物流企業と共通する点があることに気付く。アジアの諸国においても、物流企業が高い収益性を確保する秘密は共通項が存在しているのだ。それを実現する難易度からすると、当然アジアのほうがはるかに難しい。



「トラック運送のためのウーバ」の威力
2016/8/1 更新

 技術革新が産業を変え、そして経済を変える。物流の世界においても、物流ロボット、ドローン、自動運転といった新しい技術が、物流および物流業界を大きく変えていく可能性を秘めている。そして、もう一つの注目すべき技術が、スマートフォンを利用した荷主の貨物と運送業者のトラックをマッチングさせる「スマート・トラック運送」と呼ばれるアプリだ。
 これは、「トラック運送のためのウーバ」とも呼ばれ、まさにウーバの仕組みを貨物輸送に適用したものである。周知のようにウーバは、そのアプリが導入されて、世界的規模で自動車の旅客輸送に革命的な変化をもたらした。

 「物流のウーバニゼーション(ウーバ化)」といわれる貨物輸送のマッチングサービスは、現在アメリカで、少なくとも12ものサービスが提供されている。こうしたアプリが新興のサービス市場でしのぎを削っている。これによって、アメリカのトラック運送業が大きく変わる可能性がある。
 全米で100万を超えるトラック貨物運送事業者がいるが、トラックの所有台数が6台以下の事業者が全体の90%以上を占める。こうした状況で、実際の貨物輸送では、荷主企業の貨物を紹介するブローカーが大きな役割を占めてきた。ブローカーは、一日に200本以上の電話をして、アナログ方式で仲介業務を提供してきた。

 こうしたブローカーに代わって、「スマート・トラック運送」のアプリは、スマートフォンを通じて、貨物とトラックの迅速で的確なマッチングサービスを提供する。さらには、運行ルートのプランニング、アルゴリズムに基づいた迅速な運賃設定、貨物積載トラックの追跡サービス、配達の確認サービス、さらには請求書の発行や支払い業務まで、包括的な支援を行う。
 従来のブローカーは、仲介の手数料が20%程度で、時としてこれが45%に達する場合もあるという。これが、「スマート・トラック運送」のアプリを利用すれば、ひとつの例として手数料が6%〜12%程度になり、手数料自体を大きく削減することができる。
 当然、従来のブローカーのビジネスは、存立を揺るがしかねない大きな危機に直面することになる。それは、ウーバの出現によってタクシー業界が大きな影響を被っているのとまさに同じ状況が生じることになる。

 こうして、トラック運送事業者は、このアプリを利用することによって、迅速な貨物の獲得と空車の削減、効率的なトラックの運行が可能となる。収益性を向上できるとともに、仲介の手数料の削減と運賃の上昇も期待できると考えられている。
 わが国でも、すでに同様な「スマート・トラック運送」のアプリによるマッチングサービスが提供されている。多段階にわたる下請け構造にあるわが国のトラック運送業において、こうした新たな技術に基づくサービスの提供が、数多くの実運送に携わる小規模事業者の事業展開にどのような変化をもたらすのか大いに注目される。



物流企業の就職戦線に異状あり
2016/7/1 更新

 労働力不足が深刻化していて、物流業界にも大学生の新卒採用に大きな変化が出ている。大学は人材を送り出す方で、採用する物流企業と反対側にいるが、大学生の就活を見ていると、稀に見る大きな変化が生じていることを実感する。

 大学のゼミでは、専門分野として物流を勉強している。このため、物流企業を目指す学生が多く、物流企業もまた物流を専門的に勉強する学生を評価してくれる。物流企業に就職して働いている卒業生も多い。
 今年の就職戦線は様変わりをしている。すでに5月から6月にかけて内々定を複数取るゼミ生が続出した。一つ内々定を取るとその後に相乗効果が働くが、例年に比べても、内々定を取る企業の数が多くなっている。

 そして、もう一つの大きな変化は、今までは難しいと考えられた物流企業から内々定を得ていることだ。大学が偏差値でランク付けがされているように、就活でも物流企業のランクが存在する。これまで、高嶺の花と思われる企業からも、内々定をもらうようになっている。
 そして複数の内々定を得た学生は最終的にどの企業にするのか悩むことになるが、しかし、その決断はさほどかからない。結果的に、学生は、ランクの高い、これまでなかなか入れなかった企業を選ぶ。学生にとっては、願ってもない就職の機会に恵まれている。

 物流企業の人事部では、今年の新卒採用がうまくいっていないという声を聞く。内々定を出しても学生が応じず、採用を決めた学生をうまく集められないということだろう。おそらく、これまで想定した学生が、よりランクの高い企業からも内々定をもらい、そちらへ移動してしまうからだ。これはゼミの学生たちが取った選択と符合する。

 かつての就職氷河期には、偏差値の高い大学の学生が上から降りてきたために、そのあおりを受けて下に流された。ところが、労働力不足が叫ばれる現在では、これとは逆の動きが起こっている。
明らかに就職戦線は変化し、売り手市場となった。かつてのバブル期を思い起こすような事態に近づいているようにも思える。 しかし、これからも大学生はこの世の春を謳歌できるかというと、そうでもないようだ。イギリスのEU離脱の国民投票結果により、世界の株価下落と大幅な為替変動が生じた。世界経済が新たな不安定な局面に向かうかもしれない。これでまた就職戦線が変わる可能性が出てきている。



改正物流効率化法から物流共同化を考える
2016/6/1 更新

 物流総合効率化法が改正された。かつての物流総合効率化法は、主に3PLビジネスを展開するのに物流センター事業をやりやすくするように支援するためのものであった。これが現代の物流が直面する諸問題に対応するために、支援の対象に新たな要素が取り入れられた。
 その一つが、深刻なトラックドライバーの不足問題を改善するために、地域内共同配送化事業の展開が含まれるようになったことである。これは単独でない2つ以上の事業者が、物流センターの作業や配送を共同で行い、これにより積載率の向上や配送頻度を改善して効率性を高める事業が対象となる。

 改正物流効率化法の中に労働力不足対策の一環として、共同配送が入れられたことは、現代のトラック運送業者の取り組むべき課題が端的に示されているようにも考えられる。
 物流の労働力不足にどう対応したらよいのかを考える時に、ひとつの答えが物流共同化である。従来ばらばらに行われていた物流を複数の企業の物流を束ねることによって、輻輳(※)して無駄の多いものを改めて、積載効率を向上させて必要なトラックを削減し、少ないドライバーで効率よく配送する。そうすればコストも削減できるし、環境負荷も軽減できる。これが物流共同化の極めて単純で明快な原理だ。
 それは、荷主企業が物流共同化をするときにはわかりやすい。荷主企業が自社の物流を業界のライバル企業と共同化する時に、明確にこの原理が作用することになれば、これによって持続的な共同化の事業継続が実現することになる。

 それでは、物流業者、すなわちトラック運送業者が主体の物流共同化はどうだろうか。物流共同化をするときに一つの物流業者が主体となって、特定の業界のライバル企業の物流を束ねて、先の原理を働かせて効率化を実現することが考えられる。トラック運送業者がある程度の規模を持てば、物流業者でも主体的にこうした荷主企業を束ねる物流共同化は可能だろうし、先の原理は作用するものと考えられる。
 しかし、改正された物流総合効率化法で想定されるように、2つ以上の複数のトラック運送業者が共同化することになると、はたして共同化の原理をどう貫徹することができるのか、想定が難しくなるようにも考えられる。

 共同化の事業が継続的発展するならば、先の原理が働くとともに、今度はそれに加えて収益性も確保できることが重要となる。それはどうしたら実現することができるのだろうか。こう考えるのも、従来のトラック運送業者による共同配送の呪縛があるのかもしれない。
 
物流共同化は重大な命題であるが、それをトラック運送業者が主体的に実現できるビジネスモデルが必要となっている。


※ 輻輳(ふくそう)・・・方々からさまざまな物が1カ所に集中すること。こみあうこと。



ドライバー不足の改善に向けた中継輸送の可能性
2016/5/1 更新

 長距離輸送での深刻なドライバー不足は、長い拘束時間に原因があることは明らかだ。こうしたドライバーの厳しい労働条件を改善する輸送方法が中継輸送である。長距離輸送のルートの中間点で、貨物を積み替えるか、車両を交換する。これによって、ドライバーは折り返して営業所に帰ることができ、従来に比べて労働時間を大幅に短縮することができる。

 最近、国土交通省がこの中継輸送の実証実験を行った。
 頭の中で想定する中継輸送と、異なるトラック運送業者間で、実際に中継輸送を実験してみると、現実的な課題が明確に浮かび上がってくる。
 この実証実験では、中継輸送のパターンをいくつか設定して実施された。そのなかで、中継地点で貨物を積み替える方法が実験されている。双方の出発地から貨物を積んだトラックが中継地点を目指し、ほぼ同時刻に中継地点に到着する。中継地点の物流施設で貨物の積み替えが行われて、ドライバーは出発とは異なる貨物を積んで自分の営業所に帰る。

 容易に考えられるように、この方式のボトルネックは荷役にある。パレット積みやロールボックスの場合は、貨物の積み替えは比較的短時間で済むが、バラ積みで手荷役が必要な場合には、積み替えに多くの時間を必要とする。そして、ドライバーの拘束時間はそのぶん増加する。
 そもそも、荷役をだれがするのかも課題だ。ドライバーが手荷役でするとすれば、ドライバーの負担が大きく、なおかつ労働時間が長くなり、中継輸送のメリットが打ち消されてしまう。このように考えると、貨物積み替え方式の中継輸送は、荷役そのものに大きな課題があり、現実的には難しい。

 そうすると、中継地点で荷役をしない方式が現実的なものとなる。具体的には、トレーラー輸送を行い、中継地点でヘッドを変える方法、さらにトラックの輸送では中継地点でドライバーが、自分が帰る方面を目的地とする別のトラックに乗り換えて運転する方法である。
 中継輸送によって運転するドライバーの労働時間が短縮されて、過重な負担が軽減されることは明らかである。現実的には、異なるトラック運送業者間で中継輸送のトラックをどうマッチングしていくのか、そもそも必要な中継地点をどのように設定するのかなど、企業間の壁も存在している。今後さらに検討を重ねていくことが必要だ。



物流業者アマゾンが出現する日
2016/4/1 更新

 注目すべきニュースが飛び込んできた。ネット通販の巨大企業、アメリカのアマゾンが、貨物航空機20機をリースすることが明らかにされた。みずからが9.99%の株式を所有する航空機リース会社から、20機のボーイング767ワイドボディーのフレーター(貨物専用機)をリースする。このニュースの直後に、アマゾンの株価が5%上昇したという。
 アマゾンの物流にかかわる動きはこれだけではない。昨年12月に、数千台のトレーラートラックを購入したことを明らかにしている。これらにはアマゾンのロゴがボディーにはいる。全米に広がるアマゾンの物流センター(フルフィルメント・センター)のあいだで、ネット通販の貨物を輸送するのに使われる。
 そして、昨年のアマゾンの年次報告書では、初めて、みずからをネット通販事業者だけでなく、運送業者(transportation service provider)と明記するようになった。

 アメリカでも、ネット通販事業者は基本的に宅配便に依存している。国土が広いアメリカでは日本と異なり、航空宅配便と陸上宅配便の両方がネット通販のラストマイルで重要な役割を演じている。
 そこで、ネット通販事業者が貨物航空機を調達することは、この航空宅配便の輸送サービスを自前で行うことを意味する。そして、トラックを自前で調達することは、陸上宅配便に代替する輸送サービスを提供することが視野にはいってくる。
 生鮮食品を含む食品・雑貨のネット通販のアマゾンフレッシュでは、みずから調達したトラックを直接雇用したドライバーが運転して、商品を配送している。ラストマイルを宅配便事業者に頼らずに、アマゾン自身による自家輸送を行っている。

 こうした中で、自家配送のために輸送のインフラが整備されれば、それを基盤にして運送業への事業展開が容易に考えられる。それは、アマゾンが全米に物流センターを整備して、そこで他のネット通販事業者に対してフルフィルメント・サービスを提供し、実質的に3PL の物流業者と同じであることからも容易に想定することができる。

 ところで、なぜアマゾンはこれまでネット通販の物流に固執するのだろうか。これには、意外と単純な一つの答えが用意されている。宅配便事業者の力が強すぎて、ラストマイルの物流コストが異常なまでに上昇しているからだ。

 
2015年に、アマゾンはネット通販の配送料だけで115億ドル(1兆3800億円)を支払った。これは前年に比べて37%増加している。ネット通販の宿命として、売上高が増えれば、配送料も増えるだろう。しかし、2010年以降でみると、この間の売上高の増加率は平均で24.2%であったが、同じく配送費の増加率はなんと34.9%に達した。売上高の急激な増加に驚くが、配送費の増加はこれを大きく上回る。
 この背景にあるのは、UPS、FedExといった大手宅配便業者の運賃支配力である。著しい寡占市場で、宅配便の運賃は毎年値上げされている。これはネット通販事業者にとって、大いなる脅威である。こうした状況は、アマゾンの脱宅配便による自家輸送の展開、さらには物流業者への道筋を浮かびあがらせている。



事業継承の悩み
2016/3/1 更新
 トラック運送業は小規模な事業者が多く、家族経営の色彩が強い。現行の経営者の社長は、その父親が事業を起こし、それを継いで経営を維持し発展させてきた。そして、その子供は成人して、そのあとを継ぐまでに成長している。ここで、事業継承という点で、親もその子供も、二つの心情に揺れ動いている。
 親にしてみれば、父親が起こして自分の代でなんとか維持してきた会社を子供に継がせたいという感情が強い反面で、自分がこれまで中小企業の経営を維持するために苦労してきたことを自分の子供に再び味合わせたくないという感情もまた強い。そのはざまで揺れている。経営に直接携わった父親は特に両方の感情に揺れ動いているが、会社を横から客観的に見ている母親は、むしろ継承に否定的になるかもしれない。

 一方、子供も悩む。特に大学生で就活の時期を迎えて、人生の分岐点に立てばなおさらである。おじいさんの代から継続したものを自分の代でつぶしたくないと考える場合でも、悩みは尽きない。
  大学を卒業してそのまま家業を継ぐ場合もあるが、それでは井の中の蛙になってしまい、社会経験が不足する。そこで、他の大学生と同じように、いったん企業に就職して経験を積んだ後に、家業を継ぐ選択肢もある。一番良いのは、同業の物流企業に就職して、物流の現場を経験し、経営にも携わることである。

 だが子供はそこでも考えてしまう。はたして、その間に家業はもつだろうか。またできるだけ早く家業に入ったほうがいいが、それでは会社での仕事も中途半端になってしまう。そんな短い時間で、自分の家業の経営に役立つようなスキルを身に着けることができるのか。
 世代を超えてこうした揺れ動く心情にあるとしたら、この業界がいかに不安定であるのかを端的に示している。できれば、家族経営で続いたものをさらに継いで事業を発展させてほしいと願いたいが、現実にはそんな単純なものではない。

 トラック運送業者数は、平成19年度の6万3122をピークに減少傾向が続いている。新規参入者に対して廃業や合併による退出者が上回る傾向が続いている。この傾向が続くことは、揺れ動く心情の片方のベクトルがさらに強くなっていることになる。


買い物難民と物流業者の対応
2016/2/1 更新
 すさまじい勢いで高齢化が進展している。これとともに大きな社会問題が起きている。買い物難民である。買い物弱者ともいわれているが、より強烈な呼び名で買い物難民のほうが事態の深刻さをアピールしている。
 食品や日用品など常日頃の買い物が困難な高齢者のことである。近くに小売店がなく、また公共交通機関や自家用車によって買い物に行くことが難しい。買い物難民は、高齢化が著しく小売店も少ない農山村の過疎地域だけではない。都市部でも、スーパーが撤退して公共交通機関も使えない古い団地などで買い物難民が急増している。経産省の推計では、買い物難民は全国で700万人に達するといわれ、まさに全国的な規模で発生している。

 こうしたなかで、物流業者が買い物難民に対応した新たなビジネスを展開している。
 買い物難民への対応策として食品や日用品の宅配があり、最も有力なものがネットスーパーである。ネットスーパーというと、インターネットを使えない高齢者には不向きとも考えられるが、チラシや電話での受付も行っており、高齢者のアクセスも確保されている。

 ネットスーパーの課題は、顧客までの商品の配送である。物流業者がこのネットスーパーの配送を専門的に請け負うビジネスを繰り広げている。女性を中心とした配送スタッフが、スーパーから顧客への配送を請け負って、こまめで迅速な配送サービスを提供する。
 これだけでなく、高齢化に対応した独自のサービスも同時に提供している。顧客である高齢者の家に訪問して、ネットスーパーの注文を個別に直接聞くだけでなく、スーパー以外の買い物の依頼を受けて購入して届ける、買い物代行も有料で請け負うサービスも展開している。
 さらには、ドライバーが高齢者宅を定期的に回ることから、遠隔地に暮らす高齢者の子供に安否確認を含めて高齢者の状態を定期的に知らせるサービスも有料で提供している。

 このように、ネットスーパーの商品配送を主要な業務として、高齢化に対応したいくつものサービスを付加したビジネスを繰り広げている。単にモノを運ぶだけではなく、人との関わりも含めたこれまでにない複合的なサービスを提供しているのである。
 大きな社会問題となっている買い物難民に対して、物流業者はどう対応できるのか。それはマイナーな対応に思えるかもしれないが、この問題がますます深刻になるに応じて新たなマーケットの形成とビジネスチャンスが広がっている。買い物難民への対応をどう事業化できるのか、物流業者の試行錯誤がこれからも続いていく。


ドローンによる宅配の可能性
2016/1/1 更新
 千葉市が国家戦略特区に指定され、そこでドローンを使用した宅配の実証実験が行われることになった。アメリカのアマゾン・ドット・コムが、この実証実験に参加する。

 アマゾンのドローンによる宅配の光景は、テレビのニュースでも放映され、衝撃的なものであった。小さなドローンが、小型の貨物を抱きかかえアマゾンの物流センターを飛び立つ。大空を飛行したのちに、配達先の家庭に着陸し、荷物を勝手におろして、再び飛び立っていく。そこに近未来のネット通販のラストマイルの光景が映し出されていた。
 アマゾン以外にもグーグルや、世界最大のディスカウントストアのウオールマートなども、実用化に向けてドローンの実験を行ってきた。しかし、アメリカでは、政府の規制という大きな壁が立ちはだかって、ドローンの実際の利用はいまだに認められていない。
 こうしたなかで、安倍政権の重要な経済政策の一つである国家戦略特区で、規制が緩和されドローンの実用化に向けた実証実験が行われようとしている。これに参加するアマゾンにとってみれば、新たな突破口を日本で開くことができ、願ってもない好機が到来している。
このアマゾンのドローンによる宅配の取組みをどのように考えたらよいのだろうか。

 いうまでもなく、これはネット通販のラストマイルを根本的に変える可能性がある。それは、ドライバーが運転するトラックによる配送から無人の航空機による配送へと、輸送手段および輸送の仕方が変化するラストマイルのイノベーション(技術革新)といえる。これによりラストマイルが劇的に変わる端緒となることは想像に難くない。
 さらに、もう一つ重要な点は、アマゾンがラストマイルを自ら行おうとする大きな試みでもある。輸送手段を変えてラストマイルを自家物流にしようとするものである。これまで、ネット通販のラストマイルは、主に宅配便事業者に依存してきたが、それからの脱皮をさらに推し進めていくことの一つと考えることができる。
 すでに、アメリカでアマゾンは「アマゾンフレッシュ」という生鮮食品を含む食品、雑貨のネット通販をスタートしている。これは自社で車両を調達して自社ドライバーを雇って自家配送を行う。ネット通販の生命線の一つといえるラストマイルを、従来の宅配便事業者に依存せず、自ら行うという戦略的決断がここでなされている。

 こうした自家物流の実績の延長上に、ドローンによる宅配の積極的な取り組みを考えると、やはりラストマイルを自社で行うという強い意志を読み取ることができる。もちろん、ドローンによる宅配は実証実験がこれから行われるのであって、実用化に向けたさまざまな課題が山積しているであろう。しかし、いったん突破口が開けられたイノベーションは急激に拡大して、それまでの仕組みを大きく変えてしまう。ドローンの宅配はその可能性を秘めている。
 こうした状況の中で、ネット通販のラストマイルを担ってきた宅配便事業者はどうするのであろうか。インテグレータのDHLは、ネット通販の宅配ではないが、ドローンによる貨物輸送をすでにドイツで行っており、実績を上げている。長期的に見れば、これからますます拡大するネット通販のラストマイルを担う宅配便は、新たな可能性を取り入れていく必要性があることは明らかだ。わが国でも、密かに実用化に向けた取組みがなされているのであろうか。


ネット通販ラストマイルへの新規参入
2015/12/1 更新

 最近、ネット通販のアマゾンは、最短1時間以内で配送することを発表した。ネット通販では、配送時間を短縮する当日配送が積極的に推し進められている。消費者に利便性をアピールして差別化するために、当日配送が重要になっている。

 当日配送を可能にする条件は、ラストマイルの配送を早くするだけではない。物流センターのロケーションが重要となる。最近では、大手ネット通販事業者を中心に全国規模で物流センターが分散化されて、大都市の消費者が集積する地域近郊に設置されている。こうした物流センターから直接周辺地域に配送することによって、当日配送のエリアの拡大が可能となる。
 そして、物流センターの分散化は、当日配送の拡大をもたらすとともに、もう一つネット通販のラストマイルに変化をもたらす。それは、ラストマイルの輸送市場への新規参入の可能性である。

 これまで、ネット通販のラストマイルは大手宅配便業者に依存してきた。全国的なネットワークを持つ宅配便を利用すれば、一つの物流センターから全国に配送することが可能である。だから、物流センターが分散化していない段階で、ネット通販事業者はラストマイルを宅配便に依存してきた。
 しかし、物流センターの分散化は、物流センターに在庫を備えていれば、物流センター周辺の一定地域に配送可能なトラック運送業者でも、ラストマイルを任せられることになる。必ずしも全国配送の宅配便に依存しなくともよい。

 ネット通販事業者にとっては、物流センターの分散化によって、宅配便市場の寡占化で選択肢が少ないラストマイルのプレイヤーを増やすことができる。そして、地域の物流業者にとっては、ネット通販のラストマイルへの新たな市場への参入機会が生じることになる。
 大都市を中心として、人口密度の高い地域に限定して配送すれば、配送効率が高くなり、採算性をクリアできる。配送密度が低い地域も網羅して全国に配送する宅配便の事業者に対して、大都市の配送密度の高い地域に限定した物流業者の事業展開は、クリームスキミング(いいとこ取り)となる可能性がある。もちろん、こうした高密度配送地域を前提としてネット通販事業者は、より低い運賃を求めてくるだろう。

 いずれにしても、ネット通販の急激な成長とそれに伴う物流センターの分散化は、新たにラストマイルの輸送市場が求められており、大都市に限定して輸送ネットワークを持つ物流業者にとって新たな参入の可能性が考えられるのである。



自家用タクシーの先にあるもの
2015/11/1 更新

 最近注目すべき動きが出ている。政府は、「自家用車タクシー」を認める方針を明らかにした。国家戦略特区における規制緩和の一環として導入をはかる。一般の人が自家用車で他人を運び、その対価として報酬を得ることを認める。これは、白ナンバーの自動車による旅客輸送の営業行為を可能にすることになる。
 これはライドシェア(相乗り)とも呼ばれている。すでに世界的に有名になっているが、スマートフォンを利用してドライバーを検索できて配車してくれるウーバーがあるが、これと同じ仕組みを導入して自家用車タクシーを行う。

 鉄道や路線バスなどの公共交通が衰退して、移動手段を確保できない交通弱者が多く存在する地方の過疎地域に限定して、こうした自家用タクシーを認める。交通弱者の問題が深刻になる中で、従来の規制の枠を超えた柔軟な政策が必要となっているのである。
 それと同時に、時代の流れのなかで、従来の営業用と自家用を明確に区分した規制が変化する始まりとも考えることができる。これは旅客輸送だけでなく、貨物輸送においても近い将来起こる可能性がないとは言えない。

 ウーバーは人を運ぶ旅客輸送であるが、これに対して貨物輸送のウーバー版ともいえるものは、すでにアメリカで展開されている。以前取り上げたこともあるが、イントラカートである。
 これは、日本でいうネットスーパーの新たなビジネスタイプであり、スマートフォンのアプリを使ってスーパーの商品を注文すると、あらかじめ登録された一般の人が店で商品をピックアップして、購入者宅まで届けてくれるというものである。買い物代行業と考えられるが、一般の人が商品を運びその対価として購入者から報酬を得ている。配送自体は、輸送サービスを提供して運賃を得る営業行為と同じである。
 人を運ぶウーバーとモノを運ぶイントラカートに共通することは、IT技術を駆使した新たなシステムを構築して、一般の人々が従来の営業行為と同じことを簡単にできるようにすることである。

 現在、外国のウーバーで行われているような仕組みが、限定的ではあれ日本でこれから導入されようとしている。それでは貨物輸送の分野はどうかというと、アメリカでは既にこれと似たような事業が繰り広げられている。貨物の輸送においても、自家用と営業用の区分を溶解するような新たなビジネスが、日本でも近い将来出てくる可能性も考えられるのである。



ジャストインタイム方式の誤解
2015/10/1 更新

 いうまでもなく、ジャストインタイムは、「必要な時に、必要なものを、必要なだけ」納入することを意味する。この言葉はトヨタ自動車で使われて、JITとともに世界的に知られている。
 そしてジャストインタイム方式は、部品業者がみずからの責任で自動車組立工場に部品を納入するやり方である。これに対してミルクラン方式が存在している。これは自動車の組立メーカーが、部品業者を回って部品を集める方式である。ここでは、部品の配送コストがはがされて、このコストを部品を購入する組立メーカーが負担して、販売者はそれを除いた価格で部品を販売する。
 いずれにしても、ジャストインタイム方式とミルクラン方式では、部品納入の物流における主体と物流コストの負担の仕方が全く異なっている。

 そして、トヨタ自動車で採用されているジャストインタイム方式は、まさにわが国の一般的な商習慣と合致している。わが国では、「庭先渡し」や「店着価格制」と呼ばれる商習慣が一般的である。要するに、商品を売る方が責任を持って買う方まで届けて、届けるためのコストは販売価格の中に含まれるというものである。トヨタ自動車の部品調達も原則的にこれと同じである。
 そして、「必要な時に、必要なものを、必要なだけ」、部品を売る方が責任を持って届けてくれるのであれば、部品を買う自動車組立メーカーにとっても好都合な仕組みである。このために、この方式がこれまで広く行われてきたのだと考えていた。
 
 ところが、実際は必ずしもそのような単純なものではなかった。このことを最近聞かされた。

 トヨタ自動車は、かつてこの方式を再検討した時期があった。愛知県にトヨタ自動車の組立工場があり、その周辺に部品工場が数多く集まっている。自動車組立工場にとっては、膨大な量の部品をいかに効率的に組立工場に集めるかは需要な課題である。そして自動車の生産量が拡大するにつれて、これが大きな問題となっていった。
 その時に、トヨタ自動車は従来の部品業者がみずからの責任で組立工場に納入するやり方と、トヨタ自動車の責任で部品業者を回って部品を集める、今でいうミルクラン方式を真剣に検討したという。
 そして、最終的には、従来通り部品業者の責任で納入する方式になった。その理由は、ミルクラン方式の実施に対して、部品業者側が強く反対したからだという。なぜ部品業者が反対したかというと、ミルクラン方式を採用すれば、部品業者がこれまで使っていたトラック運送業者を切らなければならない。それが大変なので、部品業者はミルクラン方式の導入に反対したという。

 もしトラック運送業者が部品業者と密接な関係を築いていなかったら、もし部品業者がトラック運送業者をあえて考慮する必要がなかったならば、この時点でトヨタ自動車にミルクラン方式が採用されたかもしれない。そして、ミルクラン方式が、自動車の部品調達物流のスタンダードになっていたかもしれないのである。



インドの物流
2015/9/1 更新

 著しい経済成長を遂げているインドに、自動車メーカーをはじめ多くの日本企業が進出している。当然ながら、これら日系企業は現地で物流をまかなわなければならない。しかし、現地のトラック輸送はさまざまな課題を抱えている。

 インドでは、スズキ、ホンダ、トヨタ、日産といった自動車メーカーが乗用車を現地生産しており、現地資本のタタなども生産している。このため、道路を走っている自家用車は目新しい車ばかりだ。ところが、トラックになるとほとんどが古い車両ばかりで、車齢が10年は超えると思われるトラックも数多く走っている。このような壊れそうな古いトラックで、実際の輸送が行われている。
 急激なモータリゼーションで道路の整備が追いつかず、都市部では激しい交通渋滞がつきものだ。とりわけ、雨が降ると道路渋滞がさらに悪化する。道路の水はけが悪く、幹線道路の3車線のうち1車線が簡単に水没してしまう。このため、交通量が制限されて、渋滞が加速する。時間指定のジャストインタイム輸送など、とうてい難しい。また、舗装状態が悪く、走行中の振動が大きい。輸送途上の貨物にダメージを与えることになる。

 中小零細のトラック事業者が多くを占めており、運転するドライバーには文字を読めない者が多い。トラックの車両は古いが、車両管理のためにGPS装置が搭載されているという。しかし、ドライバーがかってにスイッチを切ってしまい、用をなさない。運転するドライバーの信頼性に不安がある。
 かつて社会主義国であったインドでは労働組合が強く、このために労働争議やストがよく起きる。スズキの現地工場で大規模な労働者の暴動が起こったことは、日本でも大きく報じられた。こうした状態は、トラック運送業でも例外ではない。労働争議やストが起きてしまうと、輸送の安定的な確保が難しくなる。

 日本の物流業者が現地に進出して、日本のメーカーの物流をサポートしている。インドに進出した日系物流業者の重要なポイントは、いかに現地の優秀な物流業者をパートナーとして選ぶかである。しっかりと物流の現場をコントロールできる現地の物流業者を選ぶことが必要不可欠となる。
 そのうえで、日系の荷主企業が求める物流のサービスレベルを満たすための独自の努力が必要となる。例えば、安全で確実な輸送を確保するために、現地の物流業者にまかせきりにしない。独自の研修制度を設けて、トラック輸送を請け負う現地の協力会社のドライバーをこの研修に必ず参加させる。研修では、文字の読めないドライバーのために、簡単な絵を使って説明する工夫をしている。
 劣悪な条件のもとで、荷主企業が求める物流サービスをいかに提供していくのか、インドでも現地に進出した物流業者の果敢な取組みが行われている。



トラックドライバー不足の普遍性
2015/8/1 更新

 7月初旬にイタリアのボローニャで、ISL(International Symposium of Logistics)という物流の国際学会が開かれた。開催場所のボローニャ大学は、ヨーロッパ最古の大学として有名だ。そこに、ヨーロッパやアジアなどの物流の研究者が集まった。
 この学会で、日本における物流問題について発表した。発表した内容は、日本においてトラックドライバー不足が深刻化している現状を取り上げて、それがどうして発生したのか、そして物流全体に対してどのような影響を及ぼしているのかである。
 この発表は日本の事例研究なので、ヨーロッパの研究者はさほど関心がないだろうと考えていた。ところが、驚いたことに、発表後にヨーロッパの研究者から質問が相次いだのだ。

 発表者に対して、次のような質問が投げかけられた。
 「深刻なドライバー不足に直面して、日本の物流企業の経営者は、ドライバーを集めるためにどのような努力をしているのか。ドライバー不足に対して、物流企業の有効な対応策は何なのか」
 「ヨーロッパでは、大型トラックの自動運転に関する技術開発が進んでいる。こうした技術開発は、近い将来ドライバー不足に対して有効だ。日本でも、この技術開発を利用すべきではないか」
 「ヨーロッパでは、移民政策によって海外から労働力が供給されてきた。日本でも新たな移民政策で外国人労働者をドライバーとして雇い入れて、不足を補うことができるのではないか」
 いずれの質問もドライバー不足に対する対応策の本質を突くものであった。そして、よりグローバルな視点で考えると、ドライバー不足に対して、多様な対応策があることを改めて考えさせられる。

 さらに、これらの質問から、ヨーロッパの研究者たちのドライバー不足に対する関心の高さが示された。背景として、ヨーロッパの先進国にも同じようにドライバー不足の問題が浮上していることが容易に想像できる。
 アメリカにおいてドライバー不足が深刻である。程度の差はあるが、ヨーロッパの先進国においても同じ問題が生じつつあるようだ。トラックドライバー不足は、日本、アメリカ、そしてヨーロッパの先進国に共通した、これからの物流における大きな問題になる可能性がある。



物流現場の慣行という強固な岩盤を崩す取組み
2015/7/1 更新

 現在の深刻なドライバー不足の大きな原因が、長時間労働にあることは明らかである。トラック運送業では、他産業に比べてはるかに長い労働時間が常態化している。賃金の安さに加えてこの長時間労働は、ドライバーが他産業に流失したり、この産業で働こうとしなくなったりする大きな原因となっている。

 改善基準告示による労働時間の規制があるにもかかわらず、これに違反するような長時間労働が行われてきた。しっかりとした規制があっても、これが守られない実態が現実に幅広く存在している。
 ドライバーの長時間労働は、物流の現場で長年に行われてきた慣行によって生じている。その最たるものが、手待ち時間であり、これがドライバーの長時間労働につながっている。発荷主で貨物を積み込むまで長時間待たされ、ドライバーはそこで待機せざるをえない。さらには、届け先でも貨物の積み下ろしに長時間待たされる。

 荷役もまた労働時間の長時間化をもたらしている。パレットでトラックに積み込めば荷役は短時間ですむが、トラックの積載効率が低下する。このため、パレット積みが行われず、ドライバーの手荷役になる。発の手積みであれば、着でも手降ろしとなり、荷役時間が長くなる。こうして実質的に運転していないものの、荷役にも時間を費やし、労働時間の長時間化が避けられない。

 こうした長時間労働は、ドライバーが集まらない大きな原因になっているため、改善しなければならない。しかし、これを実際に改善することは非常に難しい。なぜならば、それが物流現場の慣行として、長年にわたって当たり前のように行われており、さらに、それをもたらす原因が、荷主企業の物流の仕組みそのものや、荷主企業の顧客である着荷主の物流の仕組みそのものにあるからだ。
 ドライバーの長時間労働を変えようとすれば、こうした企業の物流の仕組みそのものを変えていかなければならない。そして、これらは物流の現場で長年にわたって行われてきたもので、いわば強固な岩盤のように固い。
 長時間労働の改善には、トラック運送業の経営者による努力だけでは不可能である。荷主企業や着荷主企業の物流の仕組みを変えていくことが必要であり、このために異なる企業間の連携と取組みが必要不可欠なのである。

 最近、国土交通省は新たに「「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」を立ち上げ、長時間労働の是正に向けた検討を開始した。まさに、長時間労働を改善する仕組みを考えることがこの協議会の目的であり、これまでの強固な岩盤を崩していくための具体的な提案が期待されている。



離職率96%
2015/6/1 更新

 離職率が96%という驚くべき数値が明らかにされた。これはアメリカのトラック運送業の離職率である。2014年第4四半期(秋季)に、大型トラック長距離貸切輸送を行う大手のトラック運送業者は、ドライバーの離職率が96%に達した。最近アメリカトラック協会が発表したものである。
 
 離職率とは、一定期間のうちに、従業員全体のなかで会社を辞めた従業員の割合を示している。単純に考えると、離職率96%とは、ほとんどすべてのドライバーが入れ替わったことになる。実際に、例えば100人のドライバーを雇用しているが、そのうち50人は職場にとどまったが、残り50人のドライバーが2回入れ替われば、離職率は100%となる。そして50人が3回入れ替われば離職率は150%になり、100%を超える。実際に、2012年には大手トラック運送業者の離職率が100%を超えたこともあった。
 そして、同じく昨年秋季に長距離の貸切輸送を行う中小のトラック運送業者のドライバー離職率は、95%であった。これまで中小のトラック運送業者は大手に比べて離職率が低く、両者の間には大きな差が存在していた。ところが最近これが縮小して、ほとんど差がなくなった。極端なドライバー不足に悩む大手のトラック運送業者が、ドライバーを集めるために賃金を大幅に上げてボーナスも増やした結果、中小の離職者が増えた。そして両者の離職率の差がなくなったのだという。

 
いずれにせよ驚くべき離職率の高さである。アメリカではこの離職率がドライバー不足状況を表わす重要な指標と考えられている。2010年の初めで離職率は大手で70%、中小で50%台であったが、その後離職率はともに悪化を続け、現在ではいずれも100%に近付いている。ドライバーを集めても、集めても、次々と辞めていく深刻な事態が進行しているのである。

 大型トラックの長距離ドライバーは、1か月のうち3週間は家を留守にして全米を駆け巡り、車上生活をしながら貨物を運ぶ。ドライバー不足を反映して賃金が大幅に上昇しても、こうした過酷な状態では、人は集まらないし、定着もしない。ドライバーの平均年齢は50歳を超えており、高齢化したベテランはリタイアし、若手の労働者は過酷な職場を避ける。景気が回復しているなか、ドライバーは建設業をはじめ他産業に流れている。
 
運ぶ貨物があり、トラックもあるものの、運転するドライバーがいない。こうした状態がますます深刻化している。先のアメリカトラック協会によれば、現時点で、全米で3万5000人から4万人のトラックドライバーが不足している。これは昨年に比べて5000人増えているという。

 折しも日本とアメリカの物流業界は、ドライバー不足という深刻な問題に直面している。それは、偶然なのか、必然なのか現時点ではにわかに判断がつきにくいが、それぞれの物流に大きな影響を与えていて、先進国における重大な物流問題が発生していることは明らかである。



ドライバー不足による新たな輸送市場の出現
2015/5/1 更新

 最近注目されているのが共同配送である。さまざまな共同配送の形態があるが、最も典型的なものが、同じ業界の企業どうしが同一の製品群をいっしょに運ぶ形である。例えば、同じ業界のメーカーが集まって、卸売業者や小売業者の物流センターに商品を共同で納入する。
 メーカーどうしは販売をめぐって競争関係にあるが、運ぶ品目がほぼ同じで、しかも納入先も同じであるために、共同配送を行いやすい。互いに販売ではしのぎを削って競争しているメーカーが、企業間の壁を乗り越えて共同配送を行うことができる。
 企業があえて共同配送をするインセンティブは、いうまでもなく共同配送が生み出す経済的なメリットにある。特に、配送先が分散していて配送量それ自体が少ない地域では、束ねて運ぶことによるメリットが大きい。このために、競争していがみ合っている同業他社とも、共同配送を行うことができる。環境負荷の軽減という目的は、後から付けたお題目に過ぎない。

 最近では、この共同配送に新たなインセンティブが加わった。トラックドライバー不足による輸送コストの増加と輸送の不安定性の拡大である。これが企業の物流に重大な問題を投げかけており、効率的な輸送を実現して必要なトラック台数を減らす共同配送へ企業を駆り立てている。
 そして、この共同配送に新しい取り組みの方向が出てきた。一つは、共同配送をより効果的にするために、たんに貨物を束ねるだけでなく、物流に関わる取引の諸条件も改善しようとしている。具体的に、多頻度小口化の原因となっていて、輸送効率を引き下げている発注単位を見直す。さらに、弾力的な輸送を阻害する時間指定も改善を求めていく。これらを共同して顧客と交渉して実現し、共同配送の効果を高めようとしている。
 さらに、共同配送をより効率的にするためには、単にメーカー同士の協力関係だけでなく、納入先の卸売業者も巻き込んで共同配送を行うことも検討されている。具体的には、小売の配送に使っている卸売業者のトラックを空いている時間に共同配送に参加させるというものである。こうなると、従来の共同配送はメーカー間の水平的な関係であったが、新たに垂直的な関係を包含する可能性が出てきている。

 このようにして、ドライバー不足によるトラック輸送の不安定な状態は、企業を新たな共同配送へと向かわせている。それは、トラック運送業者にとって新たな輸送の市場が出現していることを意味している。束ねて運ぶことによる輸送の効率性が求められており、トラック運送業者がイニシアティブを取って、新たに共同配送の仕組みを構築していく。新しいニーズを取り込んで、次の輸送市場を発展させていくのである。



物流の影響力
2015/4/1 更新

 2月末カリフォルニア州のニューポートビーチの海岸に立った時に、異常な光景が広がっていた。沖合に多数の大型コンテナ船が浮かんでいるのである。海岸線から目視できるだけでも、その数は10隻を超えていた。最も近い船体にはHYUNDAIの文字が確認でき、その他にも数多くの大型コンテナ船が、所在なさげに潮の流れに身を任せ沖合に浮かんでいた。

 大型コンテナ船の沖待ちである。これは、アメリカ西海岸のコンテナ港湾で、労使交渉の対立によって港湾荷役が滞ったため発生した。港湾労働者の労働組合と海運会社やターミナルオペレーターなどの経営者側は、労働協約をめぐる交渉を長期間にわたって続けてきた。
 ようやく2月20日に暫定的な合意が成立したものの、この間に労使対立によって港湾の荷役は大きく停滞した。暫定合意後も港湾荷役の回復には時間がかかり、依然として多くのコンテナ船が沖待ちせざるをえなかったのである。

 大量の大型コンテナ船の沖待ちは異常な光景だが、港湾荷役が滞る影響もまたけた外れに大きい。アメリカからの輸出貨物や、アジアからの輸入貨物が一時的にストップした。アメリカでは、小売店で販売する商品が店頭に届かず、また工場では部品が届かないため操業の縮小や停止を余儀なくされた。わが国でも、ファストフード店でフライドポテトが販売できなくなった。
 アメリカでサプライチェーンが一時的に寸断され、この間に景気回復の途上にあるアメリカ経済に影響を与えると懸念されたほどである。物流インフラが機能不全に陥ると、経済全体に重大な影響を及ぼすことをまざまざと見せつけられた。

 さらに驚くべきことは、労使交渉の中身である。労使交渉の過程で、経営者が組合側に提案した条件が一部で報道されている。それによると、フルタイムの港湾労働者の年平均報酬が14万7000ドル(1751万円)、そして5年間にわたり年率3%の昇給が加わり、さらに一人当たり3万5000ドル(417万円)の医療費を経営者が負担する。これに加えて年金の上積みが、8万8800ドル(1058万円)だという。それでも、組合側はこの経営者側の提案を拒否した。
 これがアメリカにおける物流業の港湾で働く労働者の賃金水準と労働条件である。当然ながら、港湾荷役をめぐる労働組合と経営者側との交渉の歴史があり、アメリカ社会における特有な労働運動が展開されて、今日のような内容になっている。それにしても、交渉の中身には素直に驚かされる。


 物流は社会経済を支える縁の下の力持ちだから、そこで働く労働者の賃金や労働条件も社会的に目立たないと考えてしまう。数字だけを単純に比較して考えるのは一面的だが、しかし、同じ物流でも全く異なる労働者の賃金水準と労働条件が形成されているのである。



女性ドライバーの戦力化
2015/3/1 更新

 日本トラックドライバー育成機構(酒井誠代表理事)が主催するパネルディスカッションが開かれ、そこでコーディネータを務めた。「ドライバー不足の改善に向けた取り組み」がテーマで、かつて安倍首相と面談した2人の「トラガール」の方々もパネラーとして参加した。そこで興味深い話が出た。

 女性ドライバーを採用する際には、女性が働きやすくするような環境を整備すべきだといわれている。トイレや更衣室の整備は言うまでもないが、女性が好むような制服や、さらにはオートマ車の導入などが大切だと指摘されている。
 しかし、意外にも「トラガール」の方々が発言されたのは、女性だからといって特別な扱いをしてほしくないという。女性が好むと思われるピンクの制服など必要ないし、マニュアル車でも十分だというのである。一緒に働く男性とへんに区別する必要はないという。
 それでは、全く同じでいいのかといえば、そうではない。女性だから尊重してほしい点は別にあるという。これらの点は、現在働いているところの経営者は把握しているが、一般の経営者にはなかなか理解できないようだ。
 これまでトラック運送業者は、経験豊富で年齢を重ねた男性のプロドライバーに依存してきた。彼らは運転のプロだから、すぐに戦力化できて、面倒な教育や訓練など必要とせず、なにも特段気を使わずに済んだ。経営者は、「男の職場」で、これまで楽をしてきたのである。

 しかし、状況は大きく変化した。これまでのようにプロドライバーを集めることができなくなった。新しい分野から新人や経験の浅いドライバーを集めて、運転をしてもらわなければならない。その一つが、女性ドライバーであり、彼女らに長く働いて自社の新たな戦力になってもらわなければならない。
 おそらく、多くの経営者は、ドライバーとして働く女性にどう対応したらよいのか、正直かわからないというのが本音だろう。何せ経営者自身が「男の世界」で生きてきて、これまで女性ドライバーを雇用した経験がないからである。
 女性を一度採用してみたが短期間にやめてしまったりすると、「だから女性はダメだ」、「女性はドライバーに使えない」、と短絡的に否定的になってしまう。
 実際に、新しい事柄は、経験してみなければわからない点がたくさんある。マニュアル通りに行かない場合のほうが多い。女性ドライバーの採用もしかりである。

 実際に女性がドライバーとして働くうえで、何を望んでいて、どうしてほしいのかは、彼女らの声を真摯に聞きながら改善していくしかない。経営者が謙虚に聞く耳をもって、弾力的に対応ができるかが大きなポイントになる。そして、経営者が試行錯誤を重ねて、女性の定着率を高めて、戦力化していくことが必要となる。



先進国に共通するドライバー不足にどう対応するか
2015/2/1 更新

 NHKの「クローズアップ現代」で、物流業界が直面する深刻なドライバー不足が取り上げられた。ドライバー不足はすでに日本経済の大きな問題として認識されていることが示された。
 だが、トラックのドライバー不足が深刻なのはわが国だけではない。世界最大の経済大国アメリカもまた、深刻なドライバー不足に直面している。

 アメリカトラック協会(ATA)によれば、昨年の後半には全米のトラック運送業で約3万5千人のドライバーが不足した。そして、このまま何もしなければ、2020年までに全米で不足するドライバーは約24万人に達するとの予測も出されている。
 アメリカでは、景気が上向いているなかで、ドライバー不足のためにトラック運賃が大幅に上昇している。それがまた、一般の企業の物流コストを押し上げており、さらにそれが製品価格に転嫁され、インフレをもたらすことになるのではないかと懸念されている。

 当然、アメリカのトラック運送業者も、不足するドライバーを集めるのに必至になっている。
 アメリカでは新しい職場につくときには、サイン・オン・ボーナスと呼ばれる一種の「支度金」が支払われる。この支度金がトラック運送業で大幅に増加している。新人のドライバーを雇用するときに、500ドル〜1万2千ドル(6万円〜144万円)の支度金が必要となるという。当然、ドライバー不足が深刻な州では、この支度金が跳ね上がる。極端な場合、新人を雇うのに最初に150万円近い支度金を支払って、ドライバーを確保している。
 また、新たにドライバーを採用するために、トラックの運転免許を取得する費用を負担するトラック運送業者も珍しくはない。この免許取得には約7千ドル(約84万円)必要となるが、トラック運送業者は一定期間働くことを条件に、新規採用する労働者のためにその費用を支払う。 

 アメリカで指摘されているのは、ドライバーの不足がこれまでのように景気循環によって生じたり消滅したりするものではなく、常態化する構造的なものになったのではないかということである。
 アメリカは、日本よりも早く1980年にトラック運送業の規制緩和が行われた。それ以降業界の競争が激しくなるなかで、ドライバーの雇用条件は大幅に悪化した。ドライバー賃金は相対的な低下が著しく、このためにドライバーが他産業に流失してしまい、集まらなくなった。『不足しているのはドライバーではなく、ドライバーの賃金だ』と言われているゆえんである。
 ドライバー不足が深刻化しているアメリカで生じていることは、従来の相対的に低賃金で低運賃の便利な輸送サービスを享受してきた時代の終焉と、これとは異なる新たな構造的変化の出現の可能性である。
 トラックの輸送サービスを提供するためには、これまでと異なる好条件でドライバーを集めて、それによるコストの増加を運賃にしっかりと転嫁して収益を確保する。こうしたことがまともなやり方となる時代が来ているのかもしれない。



今年もラストマイルから目が離せない
2015/1/1 更新

 今年の動向で目が離せないものが、「ラストマイル」である。ラストワンマイルともいわれるが、ネット通販ビジネスにおける個人宅までの最後の配送のことである。
 ネット通販の成長の勢いはとどまることなく、今年もまた大幅な売り上げの増加を見ることになるだろう。問題は、ネット通販の物流の重要な構成要素であるラストマイルである。個人宅までの配送をどうするのか、ネット通販事業者とこれを担う宅配便事業者との攻防が繰り広げられる。

 アメリカでは、ラストマイルを担う大手宅配便業者のUPSやFedExが、昨年末から今年の初頭にかけて、運賃の値上げとなる新たな運賃システムを導入した。これによって確実にネット通販のラストマイルの運賃が上昇する。寡占体制にある宅配便だからこそなせる業である。
 もちろん、ラストマイルを宅配便事業者に依存するネット通販業者も、手をこまねいてはいない。アマゾンは従来のフルフィルメント・センター(物流センター)に加えて、仕分け専用のソーテーンション・センターを全米に次々と新設している。
 そこではUSPS(アメリカ郵政公社)の郵便番号に基づいて各地域の郵便局ごとに仕分けをして、束ねた貨物をそれぞれの郵便局に直送して、郵便局が配送する仕組みである。従来行われなかった日曜日の配達も実施され、USPSがラストマイルを担う。
 これは、UPSやFedExに対抗したアマゾンの新たなラストマイル対策であることは明らかである。はたして、それがアマゾンのラストマイルにおけるコスト抑制に有効に機能するのかが注目される。

 わが国においてもラストマイル問題が注目される。これまで大手通販事業者に押し切られてきたが、かつて佐川急便が宅配便料金の値上げに踏み切った。結局それによって荷主を失ったが、物流業者が値上げに踏み切るインパクトは大きかった。ドライバー不足が深刻化するなかで、さらに宅配便事業者の新たな運賃の上昇がもたらされる可能性が強い。
 さらに、日本郵政(JP)の上場が予想されており、宅配便業界第3位で寡占体制の一翼を担う日本郵政が、どのような行動を起こすのかが、ネット通販のラストマイルにも大きな影響を及ぼすものと考えられる。

 もちろん、最大手のネット通販事業者であるアマゾンも手をこまねいているわけではない。これまで全国各地に物流センターを積極的に建設し、迅速な配送と配送コストの削減が可能な物流システムを構築してきた。自社のラストマイルに忍び寄るコスト増をいかに回避して、安定したラストマイルの仕組みを築くのか、アマゾンの次の展開が注目されている。

 こうして、アメリカでも、日本でも、急成長するネット通販のラストマイルから目が離せないのである。



変化する物流企業のリクルート
2014/12/1 更新

 大学生を対象とした企業のリクルートといえば、インターネットのリクナビやマイナビを利用して、広く学生を集める方式がこれまで定番であった。
 しかし、最近ではこれをやらない物流企業も出てきている。この方法では多くの大学生が応募してくるが、しかし実際に採用したい人材は少なく、募集の対費用効果を考えると効果的ではないという。

 これに対して、焦点を絞ったピンポイントのリクルートを始める物流企業が目立っている。採用者の多い大学に絞って就職説明会に積極的に参加したり、物流を勉強しているゼミナールなどに直接アプローチしたりするのである。
 実際に、物流の講座が設定されている大学の学生や、ゼミで物流を勉強している学生は、物流の実態をある程度理解しており、就職先として物流業に対する関心も深い。このために、こうした学生に対してアプローチしたほうが、無駄に学生を集めるよりは効果的にリクルートできる。
 大学のゼミナールで物流を教えているが、最近では物流企業の人事担当の方々から訪問を受ける機会が増えている。物流を勉強して物流企業に関心をもっている学生にとっては、こうしたアプローチは実にありがたいことである。

 こうした方法とは別に、インターネットを積極的に活用しているドライバーを集めようとする物流企業が出てきている。
 最近では、多くの物流企業が自社のホームページを開設しているが、企業の概要や物流サービスの内容などを知らせることが一般的であった。しかし、労働力不足が深刻化するなか、ホームページにドライバーの採用のページを設定して、広くドライバーの募集を掲げ、自分の会社の特徴を強くアピールする物流企業が出てきている。
 ある事例を見ると、ホームページ上で、業績が安定している、安全に対する取り組みが充実している、頑張った人に褒賞が与えられる、長く働くことができる、未経験者でも積極的に採用しているなど、会社の採用の特徴と働く人のメリットを積極的にアピールしている。

 職を求めている人は、若者を中心に、まずその会社の情報をネットから得ようとする。このため、このように募集のサイトを開設し、積極的に会社で働くことのメリットをアピールすることは、リクルート戦略上重要でなおかつ有効である。
 そして、もう一つ重要な点は物流企業の経営者の顔が見えることである。これ単に顔の画像を掲載することではない。企業経営者として何を考え、会社をどのように運営していくのか、さらに将来の会社のビジョンをホームページで語るのである。
 職も求めている人たちはそれをしっかりと見て、物流企業に応募するかを判断するようになっているという。



物流における営業用と自家用の溶解
2014/11/1 更新

 情報社会では、ネットを利用した新たな仲介ビジネスが出現して、従来明確だった営業用と自家用の区分が溶解する可能性が出ている。かつてそのようなことを書いたが、物流の世界でもまさにこれと同じことが出現している。

 アメリカのネット通販で注目されているのが、インスタカート(Instacart)である。インスタカートは、2012年からアメリカの主要な大都市で生鮮食品などの食料品のネット通販を展開している。既存のスーパーやディスカウントストアなど店舗の商品情報をネットで提供し、消費者から注文を受けて、それぞれの店舗でピッキングを行い、購買者に当日配達を行う。
 ビジネスの形態を見ると、日本でも行われているネットスーパーと似ている。しかし、このビジネスの主体は、既存の店舗の小売業者ではなく、純粋なネット通販事業者である。インスタカートは、店舗販売をしている小売業者の商品をネットで紹介し、購入したい消費者に商品を届けるネット通販ビジネスである。

 注目すべき点が商品の配送にある。ネット通販の配送は、特に「ラストマイル」と呼ばれているが、インスタカートのラストマイルは、「ショッパー」(shopper)と呼ばれるまったくの素人の個人によって行われている。
 ショッパーはインスタカートからスマートフォンで指示を受けて店舗に向かい、指示された棚から商品をピッキングして、スマートフォンで示される地図に従って購入者宅に、自家用車や自転車などで配達を行う。これによって、配達を請負う個人に配達料金が支払われ、届け先からのチップをもらうこともある。現在、インスタカートは、1000人ほどの個人と契約を結んでいるという。

 通常、ネット通販のラストマイルは、物流業者が提供する宅配便に大きく依存している。これはアメリカでも共通している。また、アマゾンフレッシュと呼ばれる食料品などのネット通販では、アマゾンは自社で雇い入れた専用のドライバーで自家配送を行っている。ところが、インスタカートはいずれでもない。商品を配送するラストマイルの担い手は、自家用車やバイク、自転車を使って手軽に配達できる主婦や学生などで、もともと配達に素人の個人である。
 店舗情報、ピッキング情報、地図情報、顧客情報をスマートフォンのアプリで提供すれば、素人の個人でもネット通販のラストマイルを担うことができる。ネット通販事業者が開発したスマートフォンのアプリは、普通の個人を営業用ドライバーと同じ役割をするように、いともたやすく動員できるのである。

 この基本的な原理は、以前紹介したネット仲介ビジネスと同じである。一般の自宅を宿泊先として提供する仲介ビジネスのエアービーアンドビー(AirBnB)、さらに一般の個人が自家用車で他人のために有償で移動サービスを提供する仲介ビジネスのウーバー(Uber)である。
 ネットを使うことによって、これまで全く関係なかった個人が新たなビジネスに参入する機会が提供される。これは個人による「営業行為」を誘発し、結果的に自家用と営業用というサービスの区分を溶解させる可能性をもっている。物流の世界でもこれと同じことが起きている。インスタカートの出現と成長がこのことを端的に物語っている。



働き手を集める企業努力
2014/10/1 更新

  この夏に東南アジアのカンボジアで、現地の日系企業から話を聞いた。チャイナ・プラスワンが叫ばれるなか、労働集約的な日系企業は、賃金上昇の激しい中国から賃金の安いカンボジアに進出している。労働力が豊富な国だからといって、募集すれば工場に人がすぐに集まるわけではない。そこには、労働力を集めて育てるために、日系企業の涙ぐましい努力が行われていた。

 まず驚きは、日本人の人事担当者みずからが、工場で働く若い女性労働者を集めるために、全国の農村を行脚(あんぎゃ)する。キャラバン隊をつくり、道路もまともに舗装されていない全国の村々をまわるのである。まわる先々の村では、若い娘が外国企業に騙されないように警告するポスターが張られているという。そんななかで、若い女性や両親を集めて、工場で安全に働くことができ、恵まれた労働環境であること説明してまわる。
 また家父長制の強い農村では、村長の理解をえることが重要となる。このため村々の村長をわざわざ工場に招待する。村の長老に工場を見学してもらい、優れた労働環境で安心に働くことができることを知ってもらう。村の長老から若者に工場で働くことを勧めてもらう。

 こうした努力の結果、全国の村々から若い労働者が工場に集まる。しかし、入ってきた労働者は、小学校を中退した人や小学校さえいったことのない若者が多い。このため、3週間をかけて基本的な教育プログラムを実施する。識字率が低いために、絵を使ってていねいに説明する。トイレの使い方から、集団生活、働くことのルールを基本から教えていく。
 しかし、せっかく集めた労働者も、短期間でやめてしまうことが多い。若者どうしのネットワークで情報交換が行われ、少しでも賃金の高い工場があればすぐに移ってしまう。だから、新規の募集のためにさらに全国をまわらなければならない。
 そうしたなかでも優秀な労働者も育つし、彼女らには長く働いてもらいたい。人事担当者は、彼女らの褒章に知恵を絞る。工場で優れた業績を上げた労働者を集めて、表彰のセレモニーを盛大に開催する。そしてサプライズも用意する。本人に内緒で両親をわざわざ遠い村から招待する。両親に喜んでもらえることが、会社への帰属意識にもつながる。

 開発途上国に進出する労働集約的な企業にとって、いかに低廉な労働力を確保するのかは企業活動の生命線となる。このためモノ造りのメーカーでも、文化も習慣も異なる異国の地で、そこまでやるかと思うような企業努力を行っている。国内の労働集約的な企業も、基本的に同じ状況にある。人を集めて育てるための創意工夫と、そのための企業努力がとても重要だと、改めてカンボジアで考えさせられた。



ドライバー不足がもたらすもう一つの課題
2014/9/1 更新

 現状における物流業の大きな問題が、ドライバー不足であることは疑いない。1990年をピークとするバブル経済の時期に、わが国の物流業界は深刻な労働力不足に直面したが、それ以来再びこの問題を抱えている。

 国土交通省も「トラックドライバー人材確保・育成元年」として、労働力不足の新たな対応を始めている。深刻な労働力不足を受けて、いかにトラック運送業を広く社会的に認知してもらい、新しい人材を取り入れることのできる魅力的な職場にするにはどうしたらよいか、具体的な方策を検討して普及させようとしている。
 3Kや、男の職場など、ネガティブなイメージが強く、こうしたことが、労働力が集まらない大きな要因をとなっている。だが、既存のドライバーがなぜ他産業に移ってしまうのか、なぜ新規に人を募集しても集まらないか、最大の理由は、賃金や労働条件の格差にある。特に賃金において他産業との格差が重要となっている。景気の拡大で、他産業が人手不足を回避するために、より高い賃金水準を提示して、トラック業との格差が一段と拡大する。そうなれば、労働力は賃金の低いところから高いところに流れて、そして新しい人も集まらなくなる。格差が広がるほどこの流れが加速する。

 頭に浮かぶのが、規制緩和後のアメリカにおけるトラック業のドライバー不足である。アメリカでは1980年代に規制緩和で競争が激化し、それによってドライバーの賃金や労働条件も大きく悪化した。こうした状態のなかで、ドライバー不足に直面した。賃金の低下を受けて優秀なトラックドライバーが他産業に移動したのである。それを埋める形で、今まで運転経験のない未熟練の労働者がトラック業に入ってきた。その結果、何が起きたかというと、未熟な運転者が増えて、輸送の安全性が損なわれる事態が生じたのである。
 アメリカの場合、競争激化で賃金そのものが低下して、他産業との格差が拡大した。日本は、景気の上昇局面で他産業の賃金上昇に対して、トラック業の賃金上昇が緩慢なため、格差が増加していると考えられる。時代と局面は異なるものの、他産業との格差の拡大が労働力不足をもたらすことは共通している。

 こうしたなかで、わが国でも、経験豊富な優秀なドライバーがトラック業から去り、人材を何とか集めようとすると、それが未熟練の労働者となることが予想される。そうすると、運転労働における質の低下が起き、運行の安全性が損なわれることが懸念されることになる。
 このため、単に人を集めるための企業努力だけでなく、その後のドライバー教育が今後さらに大きな課題となる。



「営業用」と「自家用」の溶解
2014/8/1 更新

 情報社会では、ネットを利用した新たなビジネスの出現で、従来経済の分野で明確だった営業用と自家用の区分があいまいになり、溶解する可能性が出ている。

 AirBnB(エアービーアンドビー)というネットビジネスが注目されている。これは、宿泊先を探している旅行者と、自分の家を貸したいオーナーとをマッチングする。旅行者は、ホテルではなく、それよりも安い値段で普通の家に宿泊できる。そして家のオーナーは自分の家を使って現金収入が可能となる。いま世界中で利用が急増している。
 さらに、Uber(ウーバー)は、乗用車を利用したい人と、車を走らせることで収入を得たいドライバーをマッチングする。利用者は必要な時にスマートフォンで近くにいるドライバーを検索でき、タクシーよりも便利になおかつ安い料金で移動できる。これもまた世界中で利用が拡大している。

 こうしたビジネスが急成長している理由は単純明快である。ネットによる新たなビジネスが、サービスの需要側と供給側の双方にこれまでにない大きなメリットをもたらすからだ。一方のサービスの利用者は、利便性やコストパフォーマンスが格段に高まり、他方のサービスの提供者は所有物を使って従来不可能だった新たなビジネスができる。
 特に注目すべき点は、ネットの仲介ビジネスが、ネットの特性を活かして本来自家用であったものを容易に営業用に転じることができるようにしたことだ。かたや自宅を提供してビジネスをおこない、もう一方ではタクシーの営業免許を持たない乗用車の所有者でもビジネスができる。このため従来の自家用と営業用の区分をあいまいにしている。
 しかし、この新たなビジネスは、同時に世界の各地で大きな摩擦と反発を生みだしている。AirBnBでは、サービスの提供者が従来のホテル業の規制から逃れてホテル税を免れており、ホテル業界から大きな反発を受けている。さらにUberも、ヨーロッパをはじめ多くの国で、タクシーの営業資格を持たない者の営業行為を大きく助長することになり、危機感をつのらせたタクシー業界から猛烈な反発が起きている。

 現行の制度で政府によって営業用と自家用を区分する明確な規制があれば、マッチングビジネスによる自家用から営業用への転換はこれに抵触する。これが生じた場合には違法となり、規制等当局から取り締まりの対象となる。他方で、従来の規制に抵触しながら、情報社会のネットが生み出す新たな利便性や低コストが実現され、世界的な規模で急速に利用者が拡大し、ビジネスが急成長を遂げているのも事実である。
 情報社会でネットによるマッチングビジネスが、今後どれほどの成長力と既存の制度に対する破壊力を持つのかは未知数である。従来の営業用と自家用の区分が溶解する可能性がないとは言えない。トラック輸送においてはどうだろうか。



燃料高騰とスーパートラック
2014/7/1 更新

 世界の不安定な政治情勢に石油価格が翻弄されて、トラックの燃料の高騰が続いている。燃料価格の高騰が不可避なら、燃料消費を抑えることが必要不可欠となる。

 今年2月にアメリカのオバマ大統領は、スーパーマーケット・チェーンの物流センターで演説を行った。そこで、中型・大型のトラックに対する新たな燃費基準の策定を運輸省と環境保護局に命じたことを明らかにした。
 すでにオバマ政権は、2011年に中型・大型トラックに対する厳しい燃費基準を設定している。セミトレーラなどの大型トラックは、2018年までに20パーセントの燃費削減と同じく、20%の温室効果ガスの削減をメーカーに義務付けている。これに対して、2018年以降の中型・大型トラックに対するより厳しい燃費基準の作成をオバマ大統領は命令したのである。

 トラックは、車両台数で全体の4%に満たないが、アメリカ国内の運輸部門の燃料消費、および温室効果ガスの排出のそれぞれ約20パーセントを占めている。そして、国内の貨物輸送量の70%以上がトラックの輸送に依存している。
 したがって、トラックの燃費の向上は、地球温暖化に対する環境政策だけでなく、アメリカの石油輸入政策、そして輸送コストが販売価格に転嫁されて国内の物価にも大きな影響を及ぼす。だから、オバマ政権にとっても重要な政策として位置づけられているのである。
 そして、この日の演説でオバマ大統領は、演説場所の小売業者の物流センターに置かれた大型のトラックを称賛した。これをオバマ大統領は「スーパートラック」と呼び、大型トラックの燃費削減の技術的成果を高く評価したのである。
 
 アメリカでは、中型・大型トラックの厳しい燃費基準の設定とともに、エネルギー省の支援を受けて、これまでにない低燃費の大型トラックの開発が行われてきた。この大きな成果が「スーパートラック」である。
 車種規制でクラス8に分類される最大規模のトラックで、この「スーパートラック」は驚きの燃費効率を実現している。このクラスの一般的な車両の平均燃費は、1ガロン当り5.8マイル(1リットル当り約2.5q)に対して、この「スーパートラック」は通常の運行で1ガロン当り10.7マイル(1リットル当り約4.5q)の燃費を達成した。
 そして、この「スーパートラック」を通常の貨物運送業務で運行させた場合、毎年5千ガロン(1万8900リットル)の燃料を節約でき、現行の燃料価格を前提にすると、年間の約2万ドル(約200万円)の燃料費が削減できると試算されている。これもまた、トラックを運行するトラック運送業者にとっては驚きの数値である。

 政府が物流を担う大型トラックに対する燃費基準を厳しく設定することにより、民間企業の技術革新が促され、燃費効率の高いトラックの開発が行われる。それが燃料価格の上昇を相殺し、トラック運送業者の運行コストの削減を可能にする。それは物流における輸送コストの削減をもたらし製品価格にも望ましい影響を及ぼす。アメリカでは、こうしたシナリオのなかで、「スーパートラック」の開発と普及を積極的に進めている。



女性の人材活用
2014/6/1 更新

 大学生の就職戦線は、内定のピークが過ぎ、終盤戦の様相を呈している。昨年末から就活を繰り広げていたゼミ生からも、内定の報告が届いている。物流企業からの内定が多い。
 そして、大学では新ゼミ生募集の時期である。2年の後期からゼミが始まり、卒業まで同じゼミに所属する。大学生活の2年半にわたってゼミに所属するのだから、この時期のゼミ選びは、大学生にとって非常に大きな意味を持つ。

 物流を勉強する新たなゼミ生を募集するために、ゼミの説明会を何度か開く。この説明会で、何を血迷ったか、就活を終えた4年ゼミ生の一人が、このゼミは厳しいのでやめる学生が多く、ブラックゼミだと説明した。最近ブラック企業が注目されているが、それになぞらえたものだ。たとえが違うだろうと思ったが、ゼミの勉強についていけず、ゼミをやめる学生が多いのも事実である。
 ブラックゼミ発言にもかかわらず、ゼミの応募者は定員の2倍を超えた。面接試験で合否を決めるが、この面接には現役のゼミ生にも参加してもらう。面接官になると、面接を受ける人がどう見えるかわかり、就活にも役立つからだ。これから就活を控える3年のゼミ生に、その趣旨を説明して面接官を募った。
  ところが、面接官を申し出たゼミ生は、すべて女子学生であった。男子ゼミ生のほうが多いが、一人も申し出なかった。女子のゼミ生は、事前に提出されたエントリーシートを熟読し、的確な質問を行い、できるだけ客観的に評価を下した。未経験の面接官を的確にこなし、彼女たちも貴重な経験をしたと非常に喜んでいた。

 相対的な比較だが、女性は積極的に事に臨み、それを的確にこなす人が多い。面接官の申し込みも、このことを端的に象徴している。ひるがえって、物流企業でも、就職の面接の際に、欲しい人材を考えると女性になることが多くなっているのではないだろうか。
 物流業界は人手不足が深刻化して、とりわけドライバー不足が著しい。女性ドライバーの戦力化は、バブル経済の時期から叫ばれていたが一向に進んでいない。これはいろいろな要因があるが、物流業界でドライバーも含めて女性を充分に活用していないことは、大きな課題である。
 男社会を形成した物流企業も、これから女性が活躍できる職場環境をつくって、積極的に女性を雇用することが必要となる。大学で教えていても優秀な女性が目立つ。目の前の優秀な人材をいかにうまく雇用し戦力化するのかが重要なのだと、大学のゼミ活動の些細なことから思うのである。



地場のトラック運送業者が大手宅配便の脅威に
2014/5/1 更新

 企業の規模は競争力に直結する。大企業と中小企業が直接対峙して競争すれば、大企業が勝つと考えられている。物流の世界でも同じだ。全国的な大規模輸送ネットワークを持つ宅配便と、狭い地域でしか輸送ネットワークを持たない中小規模の地場トラック運送業者が、同じ土俵で競争すれば、地場の中小トラック運送業者などひとたまりもないと考えられる。
 ところが、地場の中小トラック運送業者が、大手宅配便の新たな脅威となっている。従来の常識を覆す展開が生じている。これは、残念ながらわが国のことではない。かの物流大国、アメリカで、こうした新たな動きが出ている。アメリカの経済紙、ウォールストリート・ジャーナルがこれを報じている。じつに興味深いので、その内容を紹介しよう。

 アメリカでは地場のトラック運送業者が注目されている。地域に根差した中小規模のトラック運送業者だが、新たな輸送ニーズを確実に把握して、急成長を遂げているという。ネット通販の急激な拡大によって、小型貨物の宅配需要が大幅に増加しており、こうした需要を地場のトラック運送業者が確実に捉え成長している。
 これが、本来ネット通販の小型貨物の全国配送を得意としている大手宅配便のUPSやFedEx、さらにはUSPS(アメリカ郵政公社)にとって新たな脅威となっている。大手宅配便は、航空輸送を使って大規模なハブアンドスポークシステムを構築して、全米の輸送ネットワークを構築している。そして、急成長を遂げるネット通販の配送を支える重要な役割を演じるものと期待されている。ところが、地場の中小のトラック運送業者は、得意とする自分の地域で大手宅配便に負けない力を発揮している。
 地場の中小のトラック運送業者は、ネット通販が求めるリードタイムの削減を実現するために、地域での当日配達や翌日配達を展開し、さらに各家庭に丁寧な商品の配送を実現している。そして極めつけは運賃の安さである。各家庭までの小型貨物の配送運賃が、大手宅配便業者のそれに比べて20%から40%も安くできる。

 この宅配の低い輸送コストの実現は、配送料無料などサービスの差別化を進め、激しい競争を展開しているネット通販事業者には魅力的なものである。アマゾンなども、こうした地場のトラック運送業者に特定の分野の配送を委託している。こうした事態は、これまで盤石な事業展開を図っていると思えた大手宅配便業者にとって、新たな脅威となっていることは明らかである。
 ネット通販が急激に拡大し、アマゾンをはじめ大手のネット通販事業者は、全米各地に大型の物流センターを建設して運営している。それぞれの物流センターに豊富な在庫を置き、注文があったら素早く消費者に届ける。そして、在庫が分散化すれば、なにも全国的な輸送ネットワークを持つ大手宅配便に依存する必要がなくなる。物流センターがある地域の配送が得意な地場のトラック運送業者に、その地域の配送を任せることが可能となる。

 こうした状況の中で、優れたサービスとコストパフォーマンスに優れる地場のトラック運送業者が、このニーズを的確に捉え急成長を遂げており、大手宅配便業者の脅威となりつつある。こうして小は大と互角に渡り合え、さらにそれを脅かす存在となりつつある。
 ネット通販をめぐる状況は、わが国でもアメリカと基本的に同じである。客観的情勢が似ているにもかかわらず、一つ異なる点は、わが国では地場の中小トラック運送業者が頭角を表していないことである。極めて有望な新たな輸送ニーズがそこに存在しているにもかかわらず、それに対応した物流ビジネスの展開がなされていない。



リーダー企業動く
2014/4/1 更新

 日本経済新聞の朝刊1面トップに、「ヤマト一斉値上げへ」という記事が掲載された。その朝、朝刊を取った時にかすかな驚きを禁じ得なかった。物流のことが日経の1面トップに出たのである。このことは、現状の日本経済において物流がいかに新たな課題として認識されつつあるかを示している。今まで経済の黒子であったものが、表に出ようとしているのである。

 日経によれば、ヤマト運輸は個人を除いた法人の宅配便料金の値上げを、これから荷主企業に要請するという。これまで法人は宅配便の定価ではなく企業ごとに価格交渉をしてきた。それを燃料費の高騰や人件費の上昇を反映した形で、顧客である約100万に及ぶ荷主企業に値上げを要請していくという。
 昨年すでに宅配便業界第2位の佐川急便は、宅配便運賃の値上げを要請した。これを受け入れないネット通販のアマゾンから全面的に撤退したことは記憶に新しい。宅配便市場のチャレンジャーがすでに値上げに動いたのである。当然、業界のリーダーの動向が注目されていた。
 宅配便市場のリーダーであるヤマト運輸は、売り手市場に転換するなかで、なぜ運賃の値上げに踏み切らないのか。これまで疑問であった。それは、いろいろなしがらみと事情があったのだろう。しかし、ここで満を持して、荷主企業に対して運賃の値上げの交渉を開始するのである。
 常々、ヤマト運輸は新聞や経済誌、テレビ等のマスコミの使い方がうまいと思っていた。今回のように朝刊一面の掲載は、非常にインパクトが大きい。おそらく、この記事をみて、全国100万社に及ぶ企業の経営者や物流担当者は、身構えるとともに、同時に値上げは仕方ないと内心で考えるかもしれない。ヤマト運輸は、マーケティングでいう4Pのプローモーションの広報活動に優れている。

 それはさておき、この記事に象徴されるように、わが国の物流の状況は確実に変化している。物流業界のリーダー企業が運賃値上げに動いたのである。物流業界の状況を改善するに正当な動きが顕在化したといえる。これも時代の潮目の変化を象徴する事柄の一つとなるだろう。これから運賃の値上の動きを定着化させ、さらに加速化することになるかもしれない。
 こうした状況変化の中で、問題は中小のトラック運送業の運賃交渉力である。中小企業においても、追い風を受けて、しっかりとした交渉力を身につけて、正当な運賃を収受する時が来ている。



近視眼的視点からの脱却
2014/3/1 更新

 トラック運送業界はさまざまな問題を抱えており、企業経営はその場その場で臨機応変に対応しなければならない。しかし、企業経営は、その場しのぎの対応策だけでは不充分である。経営者は、自分の会社に対して明確なビジョンをもち、長期的な視点から企業経営の展望をもつことが必要である。それでは、具体的にどうしたらよいのだろうか。

 最近、都内のホテルで開かれた国際シンポジュームに参加した。地球温暖化を防止するために、アセアンの輸送分野における行動計画を研究するシンポジュームである。そこで紹介されたのが、バックキャスティング(back casting)という手法である。
 これは、現在から将来を考えるのではなく、将来のあるべき姿から現在何をすべきかを考える手法である。今後アセアンは、急激な経済発展でCO2排出量の大幅な増加が予想される。これを抑えるために、将来の社会経済の姿を想定し、その中で輸送モードの在り方を検討する。そして、現在世界の一人当たり年間の1トンのCO2排出量を、2050年までに0.33トンまで削減する目標値を設定する。こうした目標値を実現するために、将来の時点から現在まで振り返り、段階別にいかなる行動計画や政策が必要かを検討するのである。

 こうしたバックキャスティングという手法は、地球温暖化に対する交通政策というマクロ分野で導入されている手法である。しかし、ミクロ分野における企業の経営にも、こうした手法の応用が可能である。
 現在のさまざまな制約やしがらみから離れて、自分の会社の将来あるべき姿を想定する。そして具体的な目標を設定する。それは将来の特定年次における会社の売上高や利益率、地域のリーダー的企業への成長や、従業員の満足度、CSRの実現など、多様な目標の設定が可能である。
 そして、こうした目標を実現するために、どの時点で何をする必要があるのか、具体的な施策の導入を検討する。例えば、下請けからの脱却のための施策、新たな輸送市場の開拓のための施策、従業員教育の充実の施策、さらには後継者の育成の施策など、あるべき会社の姿を実現するために、段階的に順を追って施策を考えていく。

 現状の困難な問題に直面すると、それに追われて近視眼的に物事を考えてしまう。経営者の想像力がこれからの企業経営を大きく左右する。そうであれば、個別の事柄に対応するだけでなく、自ら主体的に将来のあるべき姿を考えて、そのための方策を順番に考えていく。バックキャスティングという考え方が必要となる。



3月危機と潮目の変化
2014/2/1 更新

 景気が順調に回復しているなかで貨物輸送の需給が逼迫している。これに追い打ちをかけるのが、4月からの消費税の値上げを前にした駆け込み需要だ。ただでさえ貨物が増え輸送の供給が追いつかないなかで、この駆け込み需要はさらなる需給のギャップを深刻化させる。このため、3月には輸送できない貨物があふれるのではないか、と危惧されている。物流の世界での3月危機説である。

 明らかに経済の局面は変化している。特に物流における変化は著しい。経済の活況で人手不足が深刻化し、働き手のドライバーが集まらない。新規のドライバーを募集しても一向に集まらず、これ以上貨物も運べない状況が発生している。このため、賃金の上昇も起きている。
 それだけでなく、運送業者は強気になっている。新規の顧客だと、運賃を大幅に上積みしなければ、運送事業者は見向きもしないという。そして時期に運賃の値上げ、燃料サーチャージ制の導入、付帯業務の料金などを荷主企業に要求する運送業者も増えている。明らかに、最近の経済の活況による輸送の需給関係の変化は、運送業者と荷主企業の力関係も変化させている。明確に輸送市場は「売り手市場」に転じつつある。

 こうした事態は、かつての1990年をピークとしたバブル期を想起させる。バブルの時には景気の異常な加熱のなか労働力不足が深刻化しドライバーの賃金が上がり、それが運賃の上昇に転嫁され、物流コストを押し上げた。この時に、従来の物流業者と荷主企業との力関係は大きく変化した。虐げられていた物流業者は、それまでのうっ憤を晴らすかのように荷主企業に強気になった。
 しかし、今から考えれば夢のような関係は短期間に終わる。その後バブルは弾け、バブル経済が終焉する。そしてバブルが弾けたその時に物流2法が施行され、規制緩和が始まった。運送業者にとっても苦悩の「失われた10年」、さらには「失われた20年」が始まるのである。

 3月危機はバブル時代を想起させるが、いうまでもなく問題は4月以降の景気の動向である。消費税値上げと駆け込み重要の反動が比較的軽微にすみ、企業収益の良さが賃金の全般的な上昇に結び付き、経済がさらなる成長軌道が続けるのであれば、物流業界における新たな潮目の変化につながるかもしれない。
 構造的変化が顕在化する契機が明らかになり、変わることの始まりが明確に見えることが潮目の変化である。はたして、3月危機がその潮目の変化になるのか、それともそれ自体が一過性なものに過ぎないのか、注目する必要がある。



トラックに代わって飛行機が主役になる
2014/1/1 更新

 物流センターから飛び立った小型の無人飛行機が、小さな荷物を抱えて郊外の住宅の庭先に着陸した。すぐさま抱えていた荷物を自動的に切り離してそこを飛び立っていく。それを見ていた家の人が出てきて、その荷物を拾う。
  これは、インターネット通販のアマゾンが現在実験をしている無人飛行機による新たな配送方法のシーンである。先日テレビのニュースで放映されたものだ。これを見ると、ついにここまで来たか、と驚きを隠せない。
 ところが、こうした無人飛行機による配送は、なにもアマゾンだけに限らないらしい。ドミノピザの英国法人は、すでに英国で無人飛行機によるピザの配達を実験している。さらに、3大インテグレーターの一つ、ドイツポストDHLは、ドイツのボンで無人飛行機による配達実験を成功させたという。いずれにせよ、無人飛行機による配送は単なる空想の絵空事ではなく、実験が重ねられて実用段階へ入っているといえよう。

 インターネット通販最大手のアマゾンが、この実験を繰り広げていることに大いに注目する必要がある。なぜならば、そこにインターネット通販の物流のネックが存在しており、それをブレークスルーするために、新たなイノベーションが必要となっていることが端的に示されているからである。
 それは、ラストマイルというインターネット通販にとって重い課題である。ラストマイルとは、インターネット通販で消費者に商品を届ける最後の配送のことを指している。インターネット通販では、個別の家庭に小さな荷物をそれぞれ配送しなければならい。これは配送の効率性という点では、手間がかかり、コストがかかってしまう。そして、インターネット通販事業者間のサービス競争が激化して、「当日配送」や「配送料無料」がスタンダードになり、これらがラストマイルに大きな負荷となって跳ね返る。
 このラストマイルをどう処理するのかが、インターネット通販の大きな課題となる。この問題の克服が、同時にインターネット通販そのものの、ビジネスとしての成功を左右するかもしれないのである。
 だから、宅配便事業者や他のトラック運送業者にまかせないで、インターネット通販事業者がみずからラストマイルを担う可能性も考えられている。さらに、その延長線上に、輸送手段そのものを変えてしまい、人に依存しない無人の輸送手段で配送を行おうとするラストマイルの実験が繰り広げられているのである。このため、無人飛行機による配送実験は、インターネット通販において経営戦略上極めて重要な意味を持っていることは明らかである。

 現時点では荒唐無稽の絵空事に映るかもしれない。しかし、イノベーションはいったん軌道に入ると、またたく間に普及して世の中を変えてしまう。いわゆる創造的破壊が生じる。この無人飛行機による配送が新たなイノベーションになるならば、配送においてトラックは必要なくなり、さらにはトラックという輸送手段を使用している事業者も市場から駆逐されることになる。正月早々こんなことを想像するのは滑稽に映るだろうか。



経営をだれに継がせるか
2013/12/1 更新

 たまたま偶然にもトラック運送業の事業継承を考えさせられる二つのことに遭遇した。
 
 一つは高校生の面接である。面接した高校生のなかに、家業がトラック運送業で、将来後を継いで経営者になりたいと話す学生がいた。地方の都市で祖父がトラック運送業を始め、それを父親が継いで経営している。高校生はそれを見て育ち、将来は祖父と父が育ててきた会社の経営をしたいという。
 おもわず「トラックは何台所有しているの」、「荷主はどんな業種」と専門的な質問をしてしまった。高校生はなぜそんな詳しいことを聞くのかと怪訝そうな顔をしたが、わかる範囲で素直に答えていた。
 この高校生は、けなげにも、将来の経営者をめざし大学で一生懸命勉強をして経済や社会の仕組みを知りたいと言った。しかも、卒業後はまず大きな会社に就職して実務経験を積み、その後で故郷に帰り家業を継ぐという。苦労して経営を続けてきた祖父や父親にとってみれば、なんと頼もしい後継者だろうか。

 もう一つは、かつての職場の同窓会に出た女性から話を聞いた。東京丸の内の同じ職場で働いていた女性たちが、30年ぶりに一堂に会した。かつての同僚たちは、その後さまざまな人生を歩んだが、その中にトラック運送会社の女性社長がいた。驚きの変身である。
父親の稼業がトラック運送業だったが、その父親が突然他界した。経営者を失った会社は、解散の瀬戸際に立たされる。その時に、丸の内でOLをしていた娘は、従業員から会社の存続のために社長を継いでほしいと懇願された。
 丸の内で華のOLを続けるか、残された無骨な従業員を抱える父の会社を継ぐべきか、さんざん悩んだ末に、社長になることを決断する。それから、作業服に着替えてヘルメットをかぶり現場に出た。全くのど素人は、従業員に邪魔者扱いされながら、一から社長業の修業を始めたのである。そして、現在では立派にトラック運送会社の経営を取り仕切っているという。

 事業継承は、トラック運送業界の直面する大きな課題の一つである。たまたま、偶然でくわした話は、頼もしい事業継承の候補者がいる事例と、結果的に事業継承が行われた事例であり、よくあるパターンかもしれない。しかし、逆にさまざまな制約条件に直面して、うまく継承できないパターンも数多く存在あるはずだ。



変わらぬ構造
2013/11/1 更新

 大学の物流論の講義でトラック運送業について話すところであった。学生の理解を助けるために、テレビで放映された報道番組をこの講義のなかで流した。平成17年に大阪のNHK「関西クローズアップ」で放映された、「原油高騰 苦境に立つトラック」というものだ。8年もの前の古い報道番組である。

 そこで語られている内容は、次のようなものであった。原油価格の高騰がトラック運送業者の経営を直撃し、多くの事業者が経営難に直面している。こうしたなか現場のトラックドライバーは、深夜の長時間運転を余儀なくされている。
 それととともに、経営難のなかから過積載などの違法行為が頻繁に発生している。行政がこれを取り締まるのだが、事業者のなかには違法行為による行政処分を逃れるため巧妙な手口を使っており、行政による監督がうまく機能していない。

 改めて驚くことは、トラック業界の基本的な構図が現在でもほとんど変わっていないことである。この放送からすでに8年が経過している。当時トラック業は原油高騰という深刻なコスト高に直面した。このため、燃料費の高騰を運賃に反映させるために燃油サーチャージの仕組みが検討され、それを実際に導入する努力がなされてきた。
 そして、現在、原油高騰は再び繰り返されて、コスト高に伴う経営難は深刻度を増している。先日も、日本経済新聞に、「燃料高騰でトラックが止まる」という刺激的なフレーズで、トラック業の苦境を訴える全面の意見広告が出された。

 現代の不安定な経済情勢の中で原油価格の高騰が生じることは避けられないが、これによるコスト高を運賃に転嫁することが難しい状況は依然として変わりない。そして、こうして引き起こされたトラック運送業者の経営難が、トラックドライバーの過酷な長時間運転や違法行行為につながっていることも依然として続いている。
 この間に安全性を維持すために社会的規制が強化された。こうしたなかでも、トラック業者による巧妙な抜け道が存在しているのかは定かでないが、全体的なトラック業の構図はこの8年間にほとんど変わっていないのである。

 変化の激しい状況のなかで事象が目まぐるしく変わっていく。こうしたなかで、変わらない仕組みや構造も同時に存在する。トラック業の構造はまさにその典型である。その負の構造はまるで固い岩盤のように崩れない。



新天地での事業展開
2013/10/1 更新

 経済がグローバル化しても、トラック運送業はグローバル化していない。ごく一部の事業者だけが、国境を越えて新たな地でビジネス展開しているにすぎない。もともとトラック運送業は国内産業だと割り切ってしまえば、何も海外に出て行く必要はないとも考えられる。

 物流業者が海外に進出するパターンはだいたい決まっている。荷主企業の海外進出について行くパターンである。国内の大切な顧客が海外進出する時に、その顧客から新天地での物流を依頼され、荷主企業といっしょに海外に出て新たなビジネスに踏み出す。
 こうした場合に、外国の進出先の顧客は、いうまでもなく、もともとの日本の荷主企業である。そして進出先の現地企業は顧客とならない。文化も違い商習慣も違う外国で、その国のネイティブの現地企業を新たな顧客として獲得することは非常に難しいからである。
 ところが、海外に進出している日本の物流業者でも驚くべき企業が存在している。その物流業者は日系の荷主企業だけではなく、現地のネイティブな企業を顧客とし、さらにはその国に進出している第三国の企業も顧客として取り込んでいるのである。こうして、進出先で物流ビジネスを拡大させている。この物流業者にグローバル化して現地化する典型的な事例を見出すことができる。

 なぜこのようなことが可能なのだろうか。その鍵はまさに人材にある。当然現地のネイティブの企業を対象とするのであれば、その国の従業員が営業等の任務にあたる。さらには、顧客が第三国の企業であれば、現地で第三国の従業員を雇って第三国の企業の営業にあたらせる。顧客である荷主企業の国籍に応じた人材の割当がポイントとなる。
 むろん、それだけは従業員が荷主企業を獲得しようとしても、良い結果を得られるわけではない。彼らに充分に働いてもらうためには、彼らに大きな権限を与えることが肝要となる。日系企業の場合、日本から来た少数の経営者層が大きな権限を持っていて、現地スタッフにあまり権限を与えない。そこに日本人の経営者層と現地スタッフの大きな壁が存在している。これを取り除き、有能な現地スタッフに必要な権限を付与するのである。現地スタッフは、自分に大きな権限を与えられているからこそ、充分に実力を発揮し、それが荷主企業の獲得につながる。

 さらに、営業だけが優れていても提供する物流サービスの品質が劣っていては、顧客企業は逃げてしまう。どの国の荷主企業でも、優れた品質の高い物流サービスを求めることには変わりない。彼らを満足させるためには、常に品質の高い物流サービスを提供することが必要不可欠である。
 このためには従業員の教育が欠かせない。繰り返し、繰り返し現地従業員を教育する。さらには、物流サービスの品質では日本が優れているため、定期的に現地の従業員を日本に派遣して、日本の現場で訓練をさせる。こうして、常に質の高い物流サービスを生み出すために、従業員に勉強させて訓練を行うのである。

 縮小する日本国内の市場では限界があり、今後の展望が開けてこない。国内向け産業だと考えられるトラック運送業でも、今後の選択肢の一つとして、国境を越えて経済成長の著しい新天地へ進出することが考えられる。その場合でも、国籍は違えども、事業を発展させていく大きな鍵は人材とその教育にある 。



物流業界の運賃の低下は当たり前
2013/9/1 更新

 物流業とはいかにも過酷なビジネスだとつくづく考えさせられた。
 現在急激に拡大しているのがインターネット通販だ。消費者の購買が控えめなこの時代にインターネット通販は非常な勢いで拡大しており、これから先も旺盛な成長が見込まれている。

 インターネット通販は、個人の家庭への商品の配送が必要不可欠であり、これを担うのが宅配便である。宅配便ビジネスにしてみれば、各家庭に宅配する需要がインターネット通販の成長によって急激に拡大している。
 そして宅配便は物流業界には珍しく寡占化が大幅に進んでいる。わが国を代表する少数の大規模な物流業者が、宅配便市場の多くの割合を占めている。
 このようにインターネット通販の物流を見ると、貨物の輸送市場は需要が急激に拡大しており,これに対して供給側は寡占化していて事業者が極端に少ない。一般的に、寡占が進むと少数の大企業が市場に対する支配力を増して、価格を高めに設定したり、むやみな価格競争を回避したりできると考えられている。そうだとすれば、宅配便事業者は運賃を高めに維持して有利な価格戦略を展開できるはずである。
 ところが現実は全く逆である。インターネット通販の物流でも、宅配便運賃は大きく低下している。ここでもまた物流業者は運賃の低下に悩まされている。このため、一部大手宅配便業者は採算がとれず、主要な顧客である大手インターネット通販の宅配業務から撤退を決断したと言われている。運賃の回復の見込みがなく赤字が継続するのでは、事業からの撤退はやむをえない。

 繰り返しになるが、需要が急激に伸びているにもかかわらず、供給側が限定された少数の大手の物流業者にもかかわらず、採算性を維持できないほど運賃が低下してしまうのである。一見すると売り手市場の構造であり、供給サイドの物流業者にとって恵まれた状況だと思えるのに、ここでも運賃の低下が避けられない。
 ひるがえって、一般のトラック運送業をみると、客観的な構造は宅配便の場合と真逆だ。全体的に市場が縮小しており、価格交渉力のない数多くの中小事業者がひしめいている。需要減少のなかで供給圧力が高まるまったくの買い手市場である。こうした状態では、運賃の大幅な下落と採算割れは至極当然だろうと、インターネット通販の宅配便を見ていると改めて納得してしまう。

 当然、こうした状況から抜け出すためにはどうしたらよいのか、これまで事業者によって試行錯誤がなされてきた。これを克服するビジネスモデルが存在していれば、少しは明るい展望が持てるのだが、急激に伸びている最先端分野の物流はそうではない。状況は相似しているのである。



マーケティング能力のある経営者
2013/8/1 更新

 マーケティングとは魅力的な言葉だが、それとともに物流業には縁遠いという認識も強い。しかし、物流業においてもマーケティングが重要であることを改めて考えさせる新著が出された。

 中田信哉著『宅急便を創った男 小倉昌男さんのマーケティング力』(白桃書房)がそれである。中田信哉先生は神奈川大学経済学部名誉教授であり、これまで物流業界に深く関わってこられた。そして中田先生は宅配便のビジネスモデルを構築した小倉昌男さんと長年にわたって交流を続けてこられた。
 その交流のなかから、宅急便を創った小倉昌男さんの経営に対する考え方、思想、そして行動が、いかにマーケティングの理論と密接に関わっているのかをこの本で明らかにしている。極論すれば、宅急便が世に出てビジネスとして成功を納めたのは、小倉さんが無意識であるにせよ持っていたマーケティング能力のためである。本書は、小倉さんの宅急便の開発と展開のプロセスをマーケティングの理論と関連づけて丹念に論じている。

 私も若いころ講演会や講習会で小倉さんに何度かお会いしたことがある。その時はすでにヤマト運輸の役職をすべて辞められており、好々爺的雰囲気を漂わせていた。かつての辣腕の経営者の面影を探し出すのは難しかったし、マーケティングの考え方をお聞きする機会もなかった。その小倉さんのマーケティング能力がこの本のなかで明らかにされている。

 マーケティングという魅力的な響きを持った学問も、社会科学である限り他の学問と同様に、これまでの経験に基づいて理論化がなされている。従って、われわれはマーケティングを学ぶことによって、企業経営を展開していくうえで本質的に重要な事柄を、普遍的で一つの法則的なものとして理解することができる。
 そしてマーケティングを勉強することで、企業を発展させていくための経営の本質的な事柄を理解することになる。実践的な学問としてマーケティングを勉強することの重要性がここにある。

 しかし、小倉さんがすごいのは、このプロセスが逆になっていることである。つまり、中田先生が言うように、小倉さんは何もマーケティングという学問を勉強したわけでもないのに、小倉さんという経営者の考え方や行動それ自体が、すでに理論化されたマーケティングのセオリーに則っているのである。まさに、歴史的なビジネスモデルを構築した経営者の考え方や行動に、理論化された学問が後からついてくるのである。

 抽象的な理論ではなく経営者の具体的な実践のなかから、改めてマーケティングとは何か、経営者のマーケティング力とはいかなるものであるかをこの本で理解することができる。



物流企業への就職活動
2013/7/1 更新

 大学では少人数教育としてゼミナールを開講しており、ゼミナールでは専門の物流を学生に教えている。ゼミナールは大学生の就職と直結しており、ゼミナールでの勉強が大学生の就職活動の結果に大きな影響を与えている。
 ゼミの学生は物流を専門に勉強しているため、物流企業だけでなく、物流と深く関連した企業や、物流が特に重要な役割を占めている業界の企業から内定をもらっている。特に最近ではこうしたゼミ生が増えている。
 かつては、専門分野と関係のない企業に就職するゼミ生が多かったが、最近では物流に関連した企業への就職志向が一段と強まっている。

 物流企業のなかでも、物流子会社は相変わらずゼミの女子学生に特に人気が高い。ゼミの女子学生たちはナショナルブランドの名を冠した物流子会社を積極的に受けており、そして今年もまたこうした物流企業から内定をもらっている。
 今年は例年と異なるところもある。一つの物流企業がゼミの複数の学生に同時に内定を出してくれたことである。しかも、こうしたことを複数の物流企業が行ってくれた。これまで、一つの企業が同じゼミに複数の内定を出すことはほとんどなかった。それが企業の採用人事の方針だと考えていたが、今年はそうではなかった。これは大変ありがたいことである。

 例年のことであるが、早い段階で内定を取る学生は、続けざまに多くの企業から内定を取る。今年の場合、最高で5つの物流企業からほぼ同時に内定をもらったケースもある。これとは別に、物流企業ではないが、物流が重要な役割を占めている業種で業界の売上高トップ企業と第2位の企業に続けざまに内定を取ったケースもある。ゼミで一生懸命勉強した優秀な学生を企業も高く評価してくれており、こうした学生に内定が集中している。

 こうして複数の企業から内定を取り、最終的に一社に絞り込む時に、ゼミ生たちは当然ながら悩む。まさに人生の岐路である。最終的には自分の価値基準で判断するのだが、そこに個性が出る。
 最終的な決断の理由はさまざまである。その中で印象的だったのは、選択の判断基準を企業の年間の採用人数と離職率に求めた学生がいたことである。同じような売り上げ規模で利益率が似たような水準の企業でも、離職率が低くこのため毎年の採用人数が少ない企業のほうが、長く安定して働けると判断したのである。なかなかクールである。



宅急便の生みの親
2013/6/1 更新

 最近出された都築幹彦氏の『どん底から生まれた宅急便』は、物流インフラとなった宅配便の誕生と発展の内面を明らかにしていて、じつに興味深い本である。
 そこでは、事業が低迷して倒産の可能性もあったヤマト運輸が、新たに家庭から出る小型貨物に注目し、今までにない新しい貨物輸送のビジネスモデルを打ちだし、それを成長軌道に乗せるまでの過程が書かれている。それに携わった当事者ならではの臨場感があって引き込まれる。

 宅急便には「内」と「外」の大きな壁が立ち塞がっており、これらを乗り越えていかなければならなかった。大口貨物から小口貨物への大胆な転換の提案に対して、社内では多くの経営陣が反対し、労働組合も反対した。こうした社内の反対をねばり強く説得して、宅急便が生まれる。
 生まれた宅急便は次に「外」の壁が待っていた。宅急便の新たなビジネスは、政府の規制、さらに規制に守られた既得権益と戦わなければならなかった。このためヤマト運輸は、新規路線免許の認可にあたって当時の運輸省に対して不作為の訴訟を起こしたり、新たな運賃を設定するために新聞広告で規制当局を動かしたりした。さらに路線免許の公聴会で既存の事業者と対峙し、路線申請の正当性を主張してネットワークを拡大したのである。
 こうした壁を次々に打ち破っていく過程で、都築氏は重大な局面に深くかかわっており、諸課題をクリアして宅急便の誕生と発展に大きく貢献したのである。

 周知のように、宅急便の生みの親はヤマト運輸2代目社長の故小倉昌男氏であり、物流インフラとなった宅配便ビジネスを生み出し、成長軌道に乗せた類い稀な優れた経営者であった。すでに小倉氏は『小倉昌男 経営学』を著しており、そのなかで経営のトップとして宅急便の開発と発展のプロセスをどのように作り出したのかを明らかにしている。
 今回出された都築氏の著書で明らかになったことは、経営トップの小倉氏の部下として実質的に支えたのが都築氏であり、都築氏は小倉氏の考えや方針を充分に理解した上で、新たなビジネス実現に向けて直面する困難な局面で重要な役割を演じてきたということである。

 改めて痛感するのは、重大な局面に直面し新しいことをしなければならないトップの経営者には、経営者の意向をくんで実際に行動する優秀な部下が必要不可欠であるということである。こうした重要な補佐をする人間がいたからこそ、歴史的なビジネスモデルを構築することができた。その人間が後を継いで経営トップとなり、ビジネスのさらなる発展をもたらすことになる。



正直者がバカをみない仕組み
2013/5/1 更新

  「正直者がバカをみる」と怒っている経営者が多いはずだ。過積載や過労運転などの違法行為を繰り返し、社会保険等に未加入で堂々と営業行為を繰り返しているトラック運送業者が後を絶たない。競争は同じ前提条件の下で公平に行われなければならない。しかし現実は違法行為をする事業者が安い運賃で荷主の貨物を取ってしまう。
 
これを防ぐためには、政府による社会的規制を厳格に行う必要がある。社会的規制が強化され、適正化実施機関の指導や運輸支局の監査が行われているものの、それでも違法行為は後を絶たない。
 
 
正直者がバカをみないためには、どうしたらよいのだろうか。

  アメリカの運輸省が驚くべきことをしている。規制当局はすべての運送業者の事故歴や違反歴、さらには路上検査の結果をもとに、個々の運送業者の安全性の評価を行い、これをランキングにして公表している。インターネットを通じて、誰でもトラック運送業者の安全性評価を見ることができるようにした。
  同様なことは、すべてのトラックドライバーにも適応されており、事故歴や違反歴が個別の情報として蓄積され、個々人の安全性のランキングが明らかにされている。これもインターネットを通じて簡単に閲覧することができる。そして、安全性の成績の低いドライバーを雇うと、雇い主であるトラック運送業者の安全性評価も下がる仕組みになっている。

 アメリカ政府は、ITの積極的な活用によって安全情報を蓄積し、さらに公開することによって、安全性に関するブラックボックスを「見える化」した。こうした安全性に関する情報の可視化がもたらす影響は極めて大きいと考えられる。
 荷主は、トラック運送業者の安全性の評価を見て、輸送の委託先を決めるようになる。正確な安全情報を得た荷主は、成績の悪い危険な運送業者を利用しない。さらにトラック運送業者は、ドライバーを雇う時に、個人のドライバーの安全性の成績を照会してから採用を決める。評価の低いドライバーは、運送業者自体の安全性の評価を下げてしまうため、雇わない。

  こうして、安全性の評価の低い“ブラック”な運送業者とドライバーは、市場から駆逐されることになる。こうなれば、「正直者がバカをみる」などとは言ってはおらず、まさに正直者同士だけが競争を繰り広げる世界が実現されるものと期待できる。



配送無料の罠
2013/4/1 更新

 インターネット通販が、消費者にとって便利な買い物ツールであることはいうまでもない。その魅力をさらに引き立てているのが、配送無料である。商品価格が安いにもかかわらず、家庭までタダで届けてくれるのであれば、買わない手はない。
 配送無料は、インターネット通販業者にとって、じつに効果的なマーケティング手法といえる。しかし、インターネット通販の配送を担うトラック運送業者からみれば、この配送無料が大きな圧力になっている。

 これまで典型的な配送業務の委託先は宅配便業者であった。先日、インターネット通販の物流担当者の話を聞く機会があったが、日本では配送のプレーヤーが少なすぎると嘆いていた。確かに宅配便市場は一段と寡占化しており、委託する相手の数が少ないと嘆くのも理解できる。
 しかし、インターネット通販の配送の担い手は宅配便業者だけでなく、家庭への配送を得意とする地場のトラック運送業者もいる。全国的規模の配送ネットワークをもつ宅配便業者でなくても、それぞれの地域に特化して配送能力を持つトラック運送業者に委託すれば、インターネット通販のためのネットワークが構築できる。
 このため、インターネット通販の事業者は、こうしたトラック運送業者に対して熱い視線を送っている。

 しかし、トラック運送業者にとって大きな壁となるのが、配送無料という効果的なマーケティング手法の採用による圧力である。いうまでもなく、配送無料を実施するインターネット通販業者にとっては、配送コストを低く抑えることが至上命題となる。このためトラック運送業者に委託する運賃をできるだけ安くしようとする。トラック運送業者は、運ぶ貨物はたくさんあるが、配送の運賃が安く設定されているために、収益性が悪い。
  これに、家庭に配送する際の固有の問題が、配送を担当するトラック運送業者に追い打ちをかける。配達時の不在の多さである。時には不在率が4割にも達するとの話も聞く。当然再配達をしなければならず、輸送効率性が悪化し、このため採算性がさらに低下する。

 インターネット通販は物流が肝となり、物流業者の新たな市場が期待されるが、勃興する市場は手放しで喜べる状況ではない。ここでも低い運賃、輸送の非効率、低い収益性といった従来の課題を引きずっている。
 
 わが国では新しい時代が到来しても、物流はこうした運命を依然と背負わされているのだろうか。



インターネット通販の肝
2013/3/1 更新

 インターネットは、現代の社会経済に大きな変革を与える、とてつもなく大きな技術革新だ。ビジネスの世界では、Eコマースが急激に拡大し、インターネット通販が急成長している。わが国にとどまらず、世界的規模でインターネット通販事業が繰り広げられている。

 インターネット通販の事業展開にとって、とりわけ重要となるのが物流である。最近では「物流を制する者が、インターネット通販を制する」とまで言われている。興隆する新しいビジネスの肝が、従来脇役で古臭いとはいわないが、あまり目立たなかった物流であるところの対称性が面白い。

 物流が肝であるというのは、二つの意味がある。ひとつは、たとえITを駆使したインターネット通販といえども、買ったものを顧客がみずから持ち帰らない販売形態であることに変わりなく、このため顧客までの配送が必要不可欠となる。顧客への配送は、最近では従来の翌日配達ではなく、よりスピード感のある当日配達が注目されている。特にインターネット通販では、「買ったらすぐに手元にほしい」という顧客のせっかちなわがままを満たすことが重要になっている。

 
もうひとつは、物流センターで在庫をもち、注文があったらすぐにピッキング、包装、仕分けをして出せる仕組みづくりである。いわゆる物流センター機能の構築である。物流センターで在庫を抱えておくこと、そして一連作業を迅速に行う仕組み作りによって、これもまた注文したらすぐ欲しいという顧客のせっかちなわがままを実現する。

 インターネット通販の事業者は、この二つの構成要素を充足する物流の体制構築に力を入れている。特に、後者の物流センター機能の構築には巨額の設備投資が必要で、通販事業者は大きなリスクを負うことを惜しまない。物流の体制構築が、急成長している巨大市場を制するキーポイントになると充分に認識しているからである。



縮小する市場に立ち向かう経営者
2013/2/1 更新

 全運研(全国運輸事業研究協議会)の全国研修会が長野市で開催された。いつもはトラック経営に関する講演が行われるが、今回はまったく異なっていた。講演者は、北海道の路線バス事業の経営者である十勝バスの野村文吾社長だ。この講演がじつに興味深く、トラック事業の経営者にも大いに刺激を与えるものであった。

 講演の最大のポイントは、縮小している市場をどう切り開くかである。地方の路線バス事業は、過疎化とモータリゼーションの進展によって右肩下がりで減少している。バスの乗客が毎年減少して市場が縮んでいる。このため経営もネガティブにならざるを得ない。
 しかし、逆説的にいえば、いかに深掘りできるかが最大のポイントであり、まさに経営者の腕の見せどころとなる。そのために、野村社長は試行錯誤を繰り広げ、新たな需要を掘り起こす方策を次々と打ち出した。結果的に、利用客を拡大し、バス事業の経営を立て直したのである。

 野村社長の話を聞いて、経営者のパーソナリティで重要な点に気づいた。一つは熱心な勉強家であることだ。バス事業固有の問題にとどまらず、そもそも企業をどう経営して行けばよいのか、根本的なところまで追求するために勉強を重ねている。経営学の大家であるドラッカーについても、セミナーや研究会に積極的に参加して勉強している。
 さらにネットワークの拡大が大切だと考えている。バス事業の市場拡大をもたらす施策と経営の在り方を自社だけにとどまらせない。その取り組みを同じ困難な状況に直面しているバス事業者の経営者と連携して問題を共有し、解決方法を広めていこうとしている。同じ問題点を抱える経営者とのネットワークの拡大に努めている。そうしたオープンな心構えを持っていることが重要である。
 そして、知らしめることが重要だと考えている。社会的関心を広げることがまた事業の拡大を考えるうえで重要であり、そのためにはマスコミを動員して問題の取り組みや新たな方策を広めようとしている。マスコミの力を積極的に活用していく方向性を明確にしている。

 現在の右肩下がりの縮小市場で新たな市場開拓を行うためには、新たなタイプの経営者が求められてくる。この場合に、経営者としての新しいパーソナリティが必要である。そのタイプの一つを今回の講演で見た。



缶コーヒーのCMが語るもの
2013/1/1 更新

 缶コーヒーのテレビCMがおもしろい。キリンビバレッジの缶コーヒーFIREのテレビコマーシャルで、俳優の江口洋介がサラリーマンを演じている。あまりうだつの上がらないサラリーマンが、自分の息子に語るという設定である。
  次のように言っている。「父さんはホームランを打たない。ゴールネットも揺らさない。でも仕事にはバントをする人も必要だ」、そして「父さんは見えない仕事に誇りを感じている」と。

 こうした語りのシーンに出てくるのが、プレゼンテーションをする上司の背後でパワーポイントを操作するお父さんであったり、タクシーを呼び止めて上司かお客さんを後部座席に案内するお父さんの姿であったりする。決してエリートではなく、決して目立たないサラリーマンの姿を描いている。

 こうしたイメージをことさら強調しているのが、この父さんが働いている場所である。オフィスだけでなく、それ以外の場所で働いている姿が映し出される。一つが港湾であり、埠頭でお父さんは、いかついヘルメット姿の現場作業員と話しをしている。二つめが物流センターであり、フォークリフトが行き交うなか、お父さんは整然と積み上げられた在庫品の前で、ひとりで黙々と在庫をチェックしている。
 特定のキャラクターを描くために、短いCM時間の中で物流の現場が2つも選ばれている。「目立たない」、「地味」、「社会的にあまり認知されていない」というコンセプトに、物流の現場が適しているということである。よりポジティブに考えれば、「縁の下の力持ち」、「地道に頑張っている」ことを象徴するのに、物流の現場が選ばれたとも考えられる。

 缶コーヒーの商品名となっているfireは「火」という意味だが、この単語の動詞は「首にする」という意味もある。「おまえは首だ」は、You are fired という。最初にこの商品名を見たとき、変わったネーミングだと思ったが、最新のCMでは「心に火を」というコンセプトを打ち出している。目立たないが内面の情熱を持ち続けるという意味のようだ。
 このテレビコマーシャルは、物流の社会的な認知の程度を端的に示していると言えるだろう。しかし、物流の最先端部分はよりアグレッシブで、社会をリードするエリート集団をも形成していると認知されるようになってもらいたい。



プラットフォーム
2012/12/1 更新

 最近、物流業者から話を聞いているなかで、プラットフォームという言葉を相次いで聞いた。異なる企業の方から同じ言葉を聞いたので、新鮮な想いがした。

 良く聞くのは駅のプラットフォームである。演台という意味もある。多様な意味があるが、コンピュータの世界では、コンピューターシステムの基礎となるハードウエアやソフトウエアを指す。いずれにせよ、ニュアンスとしては、物事の基盤とか基礎という意味である。

 物流業界におけるプラットオーム、すなわち基盤とは何だろうか。それは、事業を展開するうえで基礎的な条件が構築されており、それに基づいて事業が展開されているような状況を指すと考えられる。
 例えば、宅配便の場合、そのネットワークを構築する場合にトラックターミナルが極めて重要になる、広大な敷地に大型のトラックターミナルが建設されている。それを利用することによってプラットフォーム化する。 すなわち、トラックターミナルの施設を宅配便の仕分けにだけに使用するのではなく、その構築物に物流センターを併設する。そこで特定の荷主企業の取り扱っている商品を在庫すれば、注文があったときに即座に宅配便を使って全国へ配送することができる。このときに宅配便のトラックターミナルは、まさにプラットフォームとなる。
 また、優秀な物流子会社は、親会社の製造している商品の取扱に長年にわたって蓄積されたスキルがある。したがって、この物流子会社の物流センターはその業種における優れたインフラ的価値を持つことになる。これをもとに横展開を行い、ライバルである同業他社のメーカーの商品を取り扱うことが可能となる。その時に、この物流子会社の物流センターはプラットフォームとなる。

 いずれにせよ、プラットフォームはインフラ的側面を持つ物流施設であり、それは特定の業務だけでなく、それを利用した横展開や、多角化をすることを可能にするものである。
 一つのプラットフォームを構築して、その価値を有効に高めるために多様な展開を考えていく。さらにはその基礎施設を利用することで、横展開を可能にすることができる。こうしたプラットフォーム化のビジネスが今後拡大していくかもしれない。



経営者の精神論
2012/11/1 更新

 久しぶりに物流業界のコンサルタントの講演を聴いた。当然ながらコンサルタントの方は話がうまい。さらに、多くの企業のコンサルティングを行っているので、事例がじつに豊富である。
 全国のいろいろな企業の事例を把握しており、それらを縦横みじんに引き出して説明する。このため、いくつかある経営課題に対して、ケーズバイケースの説明が可能だ。しかも、実例に基づいているために説得力がある。
 
 
単に事例が豊富であればよいかというと、決してそうではない。事例がありすぎると、その洪水の中で何を捕まえたらよいのかわからなくなる。少数の優れた事例から、エッセンスを絞り出した説明に説得力がある。
 現状における困難な局面に向けて、トラック運送業の経営者はどうしていけばよいのか。これが講演のメインのテーマだが、結論はおおよそ次のようなものである。

 第1に、顧客である荷主企業が今何を求めているのか、それを謙虚にしっかりと把握する。そのうえで、顧客志向の徹底をはかり、そのためのマーケティングを展開する。
 第2に、社内の体制をしっかりすることが重要であり、安全で優れた輸送サービスを提供するために、ドライバー及び管理職の教育を徹底する。
 第3に、これらのことを行うために、トラック運送業の経営者はもっと身を粉にして一生懸命働かねばならない。

 確かに今やるべきことを理想型に近い形で話がまとめられている。様々な課題に直面している経営者は、具体的にどうしたらよいのかわからないかもしれない。それを知りたければ、コンサルタント料を支払って具体的なアドバイスを受けることが必要となる。
 
 根本的な課題は、トラック運送業の経営者が今何をしなければならないのかである。豊富な事例をあげることができるが、その答えを突き詰めていけば、結論として身を粉にして働いて精一杯頑張ることになる。最後は経営者の精神論に近づく。



高すぎる品質と安すぎる値段
2012/10/1 更新

 中国華南地域で現地生産をする日系自動車部品メーカーを訪れた。中国のこの地域には、日本の名だたる自動車メーカーがこぞって進出している。これに対応して部品メーカーも、自動車組立工場周辺に工場を建てて部品を納入している。

 部品メーカーの担当者から厳しい話を聞かされた。現地に展開している自動車メーカーは、たとえ資本系列にある部品メーカーであっても、簡単に部品を購入しなくなった。コンペが行われて、最近では中国の部品メーカーが選ばれることも珍しくなくなったという。系列の子会社である部品メーカーは、親会社の自動車メーカーに追随して中国で現地生産している。それにもかかわらず、すんなりと部品を買ってくれなくなった。
 日系の自動車メーカー自体も激しい競争に直面しており、生産コストの削減を迫られている。従来のように、系列だから部品を購入する、などと単純にいっていられない状況に置かれている。非情な競争世界の一端が垣間見える。

  実際に中国の部品メーカーの価格は安い。日系企業は、一定の高い品質を前提として製品価格が形成されているが、それを下回る価格で中国のメーカーは納入する。価格競争では日系企業は太刀打ちできない。
 それでは「安かろう、悪かろう」ではと質問したところ、意外な言葉が返ってきた。日系企業は高い品質を売り物にしてきた。ところが、低価格品が出回っているなかで、本当にこれまでの高い品質が必要なのか考えるようになったという。
 組立メーカーはそれほど高い性能や品質を必要としているのではなく、それは部品メーカーが勝手に思い込んでいたかもしれない。一定程度の品質で価格の安いものを生産していくことが重要であり、そのことを中国の現地企業との競争で気づかされたという。

 高い品質が必要で、それを生産するには値段は高くなる。日本で考えられるパターンである。逆に中国では、品質よりもいかに安いかが勝負だと考える。両国のあいだに根本的なスタンスの違いがある。しかし主戦場は中国である。価格競争に巻き込まれるのは避けがたい。その時に、日本企業は品質と価格の兼ね合いを再考することを強く迫られている。



3PLと女性
2012/9/1 更新

 物流連(日本物流団体連合会)は、「3PL人材育成概論研修」を毎年行っているが、その中の一つの講義を担当してきた。この研修は3PLビジネスを担う人材を育成するための研修会であり、1日かけて3PLの基礎を教える。2004年から開始され、これまで約6500人もの物流に携わるビジネスマンが研修を受けた。

 今年も夏の暑い盛りに東京で開催された。この研修は9年目を迎えたが、この間に大きな変化が生じた。研修が開始された当初は「3PLブーム」が生じた。全国の主要都市で開催され、特に東京では受講者があふれかえり、演壇から最後尾の受講者の顔が見えないほどであった。3PLという新しいビジネスに取り組んでみようと、多くの物流企業が社員を送り込んだのである。

 やがて3PLブームが沈静化するとともに、研修の受講者数も減少していった。物流企業も3PLビジネスの興奮から冷めていったのである。しかし、これと同時に1つの明確な傾向が現れる。特定の物流企業群が、一定人数の社員を毎年継続的に参加させるようになった。
3PLブームが去ってみると、3PLビジネスから撤退する物流企業と、3PL ビジネスに本腰をいれて拡大する物流企業とが明確に分かれるようになった。後者は、3PLビジネスを拡大するために、計画的に毎年社員をこの研修に参加させて3PLビジネスのための人材を育成しようとしているのである。

 そして、今年従来と異なる変化の兆しが現れた。それは、この研修に女性の参加が目立ったのである。今までは女性の参加はほとんどなかった。まさに、物流は男の世界であった。しかし、今年は若い女性たちが熱心に受講しているのが強く印象に残った。
 3PLビジネスの拡大をめざす物流企業は、職場の女性を3PLの研修会に積極的に派遣するようになっている。大学を卒業してさほど年月が経っていない女性たちが、近い将来3PL ビジネスを担う幹部候補生と期待されて送り込まれている。

 物流企業に就職した女性にとって、従来にない新たな分野の仕事に取り組む機会が提供されている。3PLビジネスの営業コンサルタントとして荷主企業にプレゼンする役割を担ったり、さらに複雑系の物流センターの管理運営に携わったりする新しいタイプの業務である。
これまでの伝統的な物流業務の枠組みから離れていて、新しい3PLの業務は有能な女性にとってやりがいのある魅力的な仕事になる可能性がある。さらには、3PLビジネスを拡大する物流企業にとって、女性を戦力化することが意外と重要なポイントになるのかもしれない。



不確実性の先行投資
2012/8/1 更新

 先日、大学のゼミの学生とともに神奈川県にある医薬品卸の物流センターを見学させてもらった。これは大手医薬品卸がみずから運営する最新鋭の物流センターである。じつは、できたての2年前にも見学させてもらったのだが、この間に物流センターに対する評価が大きく変わった。

 この間に東日本大震災が発生した。この物流センターは震災対応の施設として建設されていた。物流センター自体が免震構造をもっており、地震の揺れを大きく軽減することができる。さらに自家発電装置があり、停電が発生してもセンター稼働に必要な電力を4日間供給できる。

 東日本大震災では立体自動倉庫のダメージが大きかった。在庫品が落下したりラックが崩れたりして、物流センターの機能が停止した。復旧に多くの時間を費やした。ところが、この物流センターでは、免震構造のおかげでパレット単位とバラ単位の2つの立体自動倉庫はいずれも影響なく稼働を続けた。
 さらに地震後に停電が発生したが、自家発電によって物流センター内に電力が供給された。周辺地域が暗闇に静まりかえるなか、こうこうと明かりをつけて稼働したという。

 医薬品卸の物流センターは特殊な性格を持つ。地震などの自然災害やパンデミックの緊急事態にも迅速に対応することが求められている。だから、こうした事態に対応するために、物流センターも免震構造や自家発電機能を持つことが想定される。
 しかし、具体的にどこまでこうした機能を付加するかは、企業の意思決定による。実際に、この最新鋭の物流センターを建設する際も社内で議論があったという。緊急対応にはさらなる設備投資が必要で、それが社内の物流コストの増加を招く。「そこまでやらなくても」という反対は当然に起きた。

 建設の責任者である副社長は、こうした社内の反対を押し切って緊急事態に対応可能な物流センターの建設を決断した。いみじくも、この決断の正しさが先の東日本大震災で証明されたのである。未曾有の緊急時でも必要な医薬品を的確に供給できた。

 そして、この医薬品卸はその社会的使命を果たし、社会的名声を高めることができた。
 問題は、不確実性のある事柄にどこまで積極的に投資できるかである。物流が装置産業化し、設備投資額が増加している。こうしたなかで、できるだけ投資額を減らし経営のリスクを小さくしたい、と経営者が考えるのは当然である。だが大規模自然災害の可能性も高い。経営者としては判断が難しい選択を迫られる。



物流業のビジネスモデル
2012/7/1 更新

 最近、日本経済新聞が「連続最高益秘訣を語る」という特集記事を連載した。その最後に取り上げられたのがハマキョウレックスである。大須賀政孝会長がインタビューで最高益の「秘訣」を語っている。ハマキョウレックスは5期連続最高益を実現した。貨物需要が低迷し閉塞感が強まっている物流業界で、5期連続の最高益はいうまでもなく特筆に値する。

 ビジネスモデルという言葉がある。大きな時代の流れの中で一つの事業形態が生まれて発展する。以前になかった新しいビジネスが、よちよち歩きの揺籃期を経て立派に独り立ちする成長期に達する。そこで事業は急激な拡大と安定した収益を実現できるようになる。ここに新たなビジネスが確立し、この新しいビジネスを具現化する企業が存在することになる。こうした企業こそがビジネスモデルとなる。

 かつて物流業では、宅配便が新たなビジネスとして興隆した。大量輸送時代の異端児として出発した宅配便は、その革新性ゆえ小型貨物の取扱量を急激に拡大していった。宅配便ビジネスをスタートした企業は、やがて収益も安定してくると積極的に設備投資にまわし、「装置産業」化する宅配便ビジネスの成長基盤を構築した。その後インターネットによる通販ビジネスが急拡大するなかで、もはや宅配便ビジネスは現代のインフラ的存在となっている。こうした宅配便のビジネスモデルを具現化するのがヤマト運輸であった。

 そして、最近の物流業界の新たなビジネスモデルを具現化しているのが、ハマキョウレックスである。いうまでもなく、ハマキョウレックスは3PLビジネスを展開する物流業者である。そのハマキョウレックスは3PLビジネスで成長軌道の途上にあり、連続した最高益を実現している。

 物流業界では3PLに対する批判が一部でなされてきたが、本来3PLビジネスは物流アウトソーシングと物流効率化という時代的な要請に対応した新たなビジネスであり、今後さらにいっそう発展していくビジネスである。そして、3PLのビジネスモデルを具現化している企業の発展が、物流業における時代の変化とその方向性を端的に示している。



倉庫派vs.トラック派
2012/6/1 更新

 「あなたは猫派ですか、それとも犬派ですか」。

 猫が好きなのか、犬が好きなのかは、人間の性格や特徴を規定するらしい。海外で数千人を対象としたアンケート調査が行われ、その結果、犬の好きな犬派は人とのつきあいがうまく、積極的に外に出ていく。これに対して猫の好きな猫派は、独立独歩で、枠に縛られない個性の持ち主が多いということである。
 犬や猫のそのものの特徴から類推できる愛好家たちの性格判断だが、はたしてそううまく分けられるのだろうか。これは血液型の性格判断程度に考えればよいかもしれない。ちなみに血液型による性格判断は日本では盛んだが、アメリカでは全く関心がないという。

 ところで、これと似たようなタイプ分けが物流業界でもできる。それは物流業界の経営者たちである。
 物流企業は世襲制が多い。父親は裸一貫で事業を立ちあげて企業を拡大した。そして息子は大学を出て、いったん別の企業に就職して社会経験を積み、その後に父親の会社に入り経営を継ぐというパターンが多い。

 現在、二世経営者たちが物流業界で頑張っているのだが、こうした経営者たちを倉庫派とトラック派にタイプ別けすることができる。つまり業種によって経営者の性格や特徴が異なっていると思われる。
 倉庫派の経営者は、比較的おっとりしていて、紳士的に対応し、またおしゃれで洗練されている。これに対して、トラック派の経営者は、アグレッシブで、猪突猛進とまで行かないが、ワイルドな雰囲気を醸し出している。さらに、物事を論理的に考えるインテリジェンスは倉庫派が勝るが、行動力や危機対応能力ではトラック派が優れている。

 こうした特徴をもつタイプ分けにはバックグランドがある。倉庫派は、なんといっても倉庫という資産があることが大きく影響している。資産があるために相対的に安定した経営が可能になり、その余裕が創業者から二世経営者にも引き継がれ、独特の雰囲気と行動パターンを作り出している。
 これに対して、トラック派は倉庫などの資産がないぶん、相対的に厳しい状況に置かれ、迅速な判断、迅速な対応が求められる。また働き手のドライバーを統括する必要から、それがまたワイルドな性格に結びついてくる。

 物流業界の二世経営者を見ていると、このようなタイプ分けができると考えるのだが、いかがであろうか。



大学生の就職戦線
2012/5/1 更新

 大学生の就職活動が本番を迎えている。例年よりも若干遅いが、4月中旬からゼミ生の内定報告が届くようになった。

 少人数制の教育を行うゼミナールは、大学2年の後半から始まり、3年、4年と2年半続く。2年の時に毎年20人ほどの学生がゼミに入るが、3年になると本格的に物流について勉強する。そして3年生の後半から就職活動が始まる。物流を専門的に勉強しているため、物流業界を就職先として目指すゼミ生が多い。

  物流企業は大学で物流を専門的に勉強しているゼミ生を高く評価してくれているようだ。就活を経て結果的に物流業界に入るゼミ生の多いことが、そのことを端的に物語っている。

  最近ではゼミ生が内定を取る物流企業が大きく変化している。かつては物流業界のピラミッド構造の頂点にある大手物流企業を目指す学生が多かった。しかし、最近では、いわゆる物流子会社に学生の注目が集まっている。
 誰でも一度は耳にするナショナルブランドのメーカー、その物流子会社である。社名にナショナルブランドの冠があると安定感を増すのだろうか。このような物流子会社を受けて内定を取り、就職するゼミ生が多くなっている。

 残念なのは、物流業界でも中堅で成長性の高いしっかりした物流企業があるのに、学生の目がそちらになかなか向かないことだ。学生も企業のブランド志向があるのは当然だが、良い企業なのにそれを素通りするのはいかにももったいない。
 こうした状況のなかで、中堅の物流企業でも大学生のリクルートにかなりの力を入れる企業もでてきた。例えば、物流を勉強しているゼミ専用にわざわざ企業説明会を開催してくれるのである。有難いことである

 ところで、4月の早い段階で内定を取る学生は、同時に複数の企業から内定をもらうパターンが多い。学生に対する人事部の評価は、どの企業でもおおむね共通しているようだ。こうした学生は、最終的にどの企業にするか「贅沢な」選択をしなければならない。
 その際に、教員にアドバイスを求めることもある。これは人生を左右する大きな選択となるため、相談を受ける教師も緊張する。しかし、じつは学生自身は基本的な方向が決まっている場合が多い。だがなかなか最終的な決断ができない。そうすると教師の役割は、学生の話を丹念に聞いて、学生が向いている方向に軽く背中を押してやるだけなのだ。



在庫を減らさない、増やすことの選択
2012/4/1 更新

 これまでの一般的な常識は、企業は在庫を嫌っているというものだ。かつて「無在庫経営」という言葉がはやっていたし、ジャストインタイム自体は在庫を持ちたくないために考えられた手法である。
 企業にとって在庫は、人間にたとえるならばまさに脂肪である。メタボリックシンドロームが問題となり、無暗に食べていれば脂肪がついてしまう。これが生活習慣病やその他の恐ろしい病気の原因となる。企業にとっても、在庫はこの脂肪のようなものだ。

 かつては、在庫を大量に抱えていると資産とみなされて、一見して恰幅がよく立派に見えていた。しかし、それは無駄の塊であり、それが多くなると企業も収益をあげられない体質になってしまう。だからロジスティクスの発想が必要で、企業全体の最適化をはかり、できるだけ在庫を削減した企業体質をつくることが必要だといわれてきた。
 これに関連してリーン(lean)という言葉がある。痩せた、筋肉質なという意味で、在庫を極力減らすトヨタ生産方式をリーン生産方式と呼ぶ。これも在庫と密接に関連している。

 このように、在庫はできるだけ少ないほうが良いと企業は考えている、と思っていた。ところが、必ずしもそうではないらしい。なかには、意図的に在庫を多く抱えておくべきで、無暗に減らすと企業経営にマイナスとなる、と考える企業もあることを最近知った。

 当然在庫があれば安心する。在庫を少なくすれば、そのぶん欠品の危険性が高まる。欠品は販売機会を喪失してしまい、企業の信用を大きく傷つけてしまう。ここまでは教科書的な説明だが、在庫を多く抱える必要があると主張するのは、別の理由がある。
 それは「在庫の圧力」である。これだけの多くの在庫を倉庫や物流センターに抱えているのだから、営業の現場は頑張ってその在庫を販売しなければならない。こうした在庫の圧力が、企業全体の販売意欲をかきたて、売上の増加をもたらす重要なインセンティブになる。だから在庫は無理に減らさず、むしろ増やしたほうがよいと考えるのである。
 たしかに倉庫に在庫が少なく、コンピュータ上のデータでも在庫がなければ、現場の販売担当は安堵して、さらに製品を売ろうとするインセンティブが働かなくなる。これが全社的に蔓延すれば、売ろうとする意欲が削がれ、企業の成長力に陰りをもたらすだろう。

 こうした企業が増えれば、倉庫業に力を入れている物流業者にとっては、販売機会の拡大をもたらすことになる。サプライチェーンの寸断に対応した在庫増の追い風とともに、こうした在庫に対する企業意識の変化が、物流業者のビジネス拡大に寄与することになるのだろうか。



荷主企業の物流部との付き合い方
2012/3/1 更新

 日本では「お客様は神様です」というが、アメリカでは「お客様は王様(king)です」と言うのを聞いたことがある。いずれにせよ、どこでもお客様は偉く、たいてい威張っている。特に、物流業者のお客さん、荷主企業はそうである。物流業者と取引している荷主企業の物流部にしてみれば、取引する物流業者の数が多く、いつでも代替可能であるのならば、威張るのは当然なのだろう。

 ところで、この荷主企業の物流部であるが、企業全体から見れば発言力が弱く、他部門から要求を受け入れざるをえない弱小部門であることが多い。これは日本の企業のなかで物流が置かれている立場を端的に象徴している。荷主企業の花形は生産部門や販売の営業部門なのである。企業内では物流部門の存在意義は小さく、生産部門や営業部門の都合が最優先される。その結果、物流部門の発言力が弱く、彼らの言いなりになることが多い。だから日本の企業はダメなのだと言いたくなるが、哀しいかな、こうした企業が多いことも現実である。こうした荷主企業から、取引している物流業者に理不尽な要求がつきつけられる。荷主企業の物流部長は、それが理不尽で不合理な要求であることを充分にわかっている。しかし、生産部門や営業部門に対する社内的な弱さから、物流業者に対して理不尽な要求をせざるをえない場合もある。

 さて、その時に物流業者の営業部門はどう対応するのだろうか。あまりにも理不尽な要求であれば、それを拒否する。しかし、優秀な営業マンを抱える物流業者は、深読みをして異なる対応を取るという。

  この理不尽な要求が社内の他部門からのもので、物流部長はそれを受け入れざるをえない状況となっているかもしれない。社内的に苦しい立場の物流部長を考慮して、物流業者は我慢して受け入れる。つまり多少無理をしても、物流部長に華を持たせてあげるのである。そうすれば、物流部長も社内的な苦しい立場を克服でき、無理をしてくれた物流業者に深く恩義を感じる。このために、物流業者と荷主企業の物流部との信頼関係が深まる。いわば、「損して得を取る」ことになる。物流業者の優秀な営業マンは、そこまで考えて行動するという。

 物流業者は直接取引する荷主企業の物流部しか見ていない。荷主企業との関係を強固なものにしたいと考えるならば、荷主企業全体を見て物流部の置かれている立場を考えることが重要となる。



高齢化社会とネットスーパーと物流
2012/2/1 更新

 日本はこれからすさまじい高齢化社会を迎える。西日本にある県の物流の委員会に出た時に、委員の一人である山間部の町長さんが、「わが町の平均年齢は65歳です」と言っていた。農村の過疎地域に限定されず、都市でも高齢化は急速に進んでいる。

 ところで、最近注目されているのがネットスーパーである。インターネットで注文すれば、自宅まで商品を届けてくれる新たな小売ビジネスである。これは忙しい主婦にとって便利な仕組みだが、同時に店まで買い物に行くのが難儀な高齢者にとっても、便利なサービスである。今後高齢者が増えるとともに、こうしたニーズが格段に高まる。ネットスーパーは高齢化社会に適合した小売形態である。

 先日ゼミの学生と生協の物流センターを見学させてもらった。生協は以前から個配と呼ばれる家庭向けの宅配サービスを行なっている。そのための最新の物流センターである。これを見ると、これから興隆するネットスーパーの物流の課題が見えてくる。

 現行のネットスーパーでは、注文を受けた商品を既存の店舗で店舗従業員が品揃えしているものが多い。しかし、一度店に並べたものを個々に集品するのは、どう見ても非効率であり、これから注文が増えた場合この仕組では対応できなくなる。このためネットスーパーを本格的に展開するためには、源流にさかのぼった物流のシステム化が必要になる。すなわち小売業者は宅配専用の物流センターを設置し、そこでピッキング、仕分けを行う仕組みが導入されるだろう。

 宅配では、各家庭から出る注文に応じて、多品種な商品を一個単位で迅速に正確に処理しなければならない。特に物流センターのピッキング作業が大変で、物流コストの増加は避けられない。このため、大幅に機械化、自動化した最新鋭のシステムの構築が必要となる。
生協はすでに宅配の物流システムを構築しており、週1回の消費者からの注文を処理している。しかし、ネットスーパーでは、毎日不特定多数の消費者の注文に応じなければならない。この場合、物流に対する負荷はさらに格段に高まることになる。

 高齢化社会の到来は、それに対応した小売ビジネスの興隆をもたらすが、それは新たに物流への負荷を増大させる。物流業者にとってみれば、これは小売業の新たな物流アウトソーシングで3PLビジネスのマーケット拡大となる。しかし、3PLビジネスは、宅配のための高度な物流システムを提供する難しい宿題が与えられることになるだろう。



宅急便ドライバーの帽子の色
2012/1/1 更新

 ヤマト運輸は、中国の巨大都市上海で日本の先進的な仕組みを導入して、宅配便事業を定着させようと頑張っている。急激な成長を続けている中国市場をにらんで、人口集積が著しい上海おいて、成功した日本のやり方で宅配便ネットワークを構築しようとしている。

 昨年の夏に上海の宅配便事情についてヒアリング調査する機会があり、ヤマト運輸の現地法人も訪問した。現地を視察すると、まさに日本の「宅急便」そのものである。中国のセールスドライバーも日本と同じ制服を着用しているから、海外にいるとは思えない。 しかし、よく見ると帽子の色だけが違っている。日本の帽子は、車両に使われているのと同じ緑色だが、中国のそれは制服のシャツの色と同じグレーである。なぜ帽子の色だけが違うのか。

 われわれ日本人には想像しがたいが、しかし、これにはちゃんとした理由がある。緑色の帽子をかぶる男性は、妻が浮気をしている間抜けな男性というイメージが中国で定着しているからだという。帰国後大学院の講義で中国人留学生にも確かめてみた。誰もがその話を知っていたが、なぜそのようなイメージがもたれるようになったかはわからない。

 いずれにせよ、中国では、迅速で確実な信頼性のある輸送を担う「宅急便」のセールスドライバーに、緑の帽子はふさわしくない。だから、日本と同じ制服だが帽子の色だけを変えたのである。

 帽子の色の違い自体は些細なことであるが、これは実に重要なことを示唆している。たとえ隣国といえども、言語や制度、文化や風習、さらには人々の感受性まで異なっている。いかに先進的なシステムや仕組みをもってその国に進出しても、その国に適合した修正が必要になってくる。それを見極めることは、海外でのビジネスの成功のために必要不可欠である。たかが帽子の色ひとつをとってみても、である。

 3.11後の日本経済は大きく変化している。震災後のリスク分散化、円高、電力不足等のなかで、日本企業はますます海外展開を強めている。その裏腹は産業の空洞化である。物流業者にとっては、今まで大切にしていた顧客が海外へ出てしまうのである。

 いかに国内でしか商売できないとはいえ、こうした産業空洞化の進展が物流業にジリ貧状態をもたらすことは目に見えている。物流業者がみずからグローバル化しなくてよいのであろうか。新興国マーケットに積極的に目を向ける必要はないのだろうか。当然その時には、帽子の色に象徴される差異やさまざまな障壁を乗り越えていかなければならないのだが。



専門家はロジスティクスを語り、素人は戦略を語る
2011/12/1 更新

 これは最近聞いた自衛隊幹部のプレゼンテーションで語られたフレーズである。このロジスティクスとは「兵站」のことである。つまり戦争について「専門家は兵站を語り、素人は戦略を語る」というのである。さらにいえば「ど素人は兵器を語る」そうである。

 戦争で勝利を導き出すためには、戦闘を展開している最前線に継続的に充分な軍事物資を供給することが必要不可欠である。そのためにロジスティクスが極めて重要な役割を演じる。それは、なまじ語られる戦略よりも重要である。

 このプレゼンテーションでもう一つの興味深いことを聞いた。戦闘を繰り広げる兵士をサポートするために、ロジスティクスの要員はどのくらい必要となるか。世界最強のアメリカ軍は、戦闘する兵士1人に対して、ロジスティクス部門で10人の要員を抱えているという。戦争には膨大な軍事物資の供給が必要であり、そのためにいかに多くの後方支援要員が必要であるかを示している。

 これに対してわが自衛隊はどうか。戦闘する兵士1人に対して、支援する兵站部門の要員は1人に満たないという。実際に大規模な戦闘を経験していないとはいえ、何とお粗末な後方支援体制ではないか。

 このように軍事部門でロジスティクスの大きな日米格差が存在しているが、経済・ビジネス分野でもロジスティクスの大きな日米格差が存在していることに気づく。

 例えば、世界最大の小売業であるウォールマートでは、かつてロジスティクス部門出身者が企業のトップに就任した。企業経営のなかでいかにロジスティクスを管理することが重要であるか、企業のトップの就任にロジスティクスのステイタスの高さが示されている。

 しかし、日本では大企業のトップに物流部門出身者が就任したという話はとんと聞かない。それは企業のなかで物流部門がどのように評価されているのかを端的に物語っている。わが国では「(企業経営の)専門家はロジスティクスを語り、(企業経営の)素人は戦略を語る」までには至っていないのである。



大学生が考える物流業界の課題
2011/11/1 更新

 11月5日にNS物流研究会が主催する3大学(東京海洋大学、流通経済大学、神奈川大学)の学生による発表会が、東京都トラック総合会館で開かれる。物流を勉強している学生にとって、多くの経営者の前で研究成果を発表できる貴重な機会が提供される。

 私のゼミでは、現在2年、3年、4年で総勢40人を超えるゼミ生がいるが、この発表に向けて学年横断的に4つのグループが自主的に結成された。そして各グループで経営者に最もアピールするテーマを考え、調査分析を進めてきた。

 今物流を勉強している大学生は、物流業界のいかなるテーマを選択したのか。彼らは現状の物流業界で何が注目すべき課題と捉えているのだろうか。
4つのグループが選択したのは、以下のようなテーマである。

@「トラックドライバーの定着に向けての方策」
A「運行管理者の現状と問題点−ドライバーの労働環境を改善するにはー」
B「中小物流企業における人材育成−現場活性化のための方策−」
C「物流企業におけるリスクマネージメント」

 @とAはまさにトラック運行に直接関わるテーマである。@は高齢化が進行するなかで若手ドライバーを確保するためには、どのような方策が有効なのかを検討する。そしてAは運行管理者の能力を高めることによって、現状のトラック運行に関わる諸問題を改善できるとの視点で、その具体的な方策を明らかにする。
 
 BとCは従来のトラック運送業の固有の領域から踏み出したテーマである。Bは、トラック運送業者が3PLビジネスを志向した際に、物流センター業務における作業員の生産性向上が大きな課題となり、それを実現するにはいかなる方策が有効なのかを検討する。
 
 Cは、東日本大震災の経験を踏まえて、改めてBCP(事業継続計画)の重要性に注目し、リスクマネージメントとして物流業者は今後いかなる対応が必要となるのかを検討するというものである。
 
 残念ながら、本番で発表できるのは2つのグループなので、事前に各グループが調査分析した結果を発表して内部選考を行った。この選考には、学外から新進気鋭を経営者、物流のシンクタンクの研究員の方々に審査に参加してもらった。厳しい質問やコメントが飛び交う中で選考が行われ、結果としてBとCが選ばれた。

 本番で発表できる2つのグループは意気軒昂で、発表内容をさらに深化させるために精力的にヒアリング調査や分析を進めている。
物流業界のフレッシュマンとなる大学生が、物流業界の直面する課題にいかに斬り込み提案するのか、乞うご期待である。



ヨーロッパ3PLサミットの案内状
2011/10/1 更新

 「ヨーロッパ3PLサミットに参加しませんか」という案内がEメールで届いた。このヨーロッパ3PLサミットは今年で第9回を迎え、11月21日〜23日にベルギー、アントワープのヒルトンホテルで開催される。

 3PLのセミナーは非常に興味深いが、問題は参加費である。すべてのセッションに参加すると、3795ユーロ(約40万円)もする。まさに企業のエグゼクティブを対象にしたセミナーで、一介の貧乏な大学教員には参加がなかなか難しい。

 このサミットでは、名だたる3PLの物流業者と、3PLを利用している荷主企業が、事例発表を行い、ディスカッションを繰り広げる。これに参加することで、3PLビジネスの最新動向と、3PLの物流業者に対して荷主企業が何を求めているのかを把握できる、というのが主催者の説明である。
 
 このサミットで事例発表をする企業は65を超えるが、その企業群がすごい。例えば、3PLの物流業者では、APLロジスティクス、DHLグローバルフォワーディング、DBシェンカーロジスティクスがいる。また日系の物流企業もNYK-郵船ロジスティクス、日通ヨーロッパが顔を揃えている。

 3PLを利用している荷主企業の発表も、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ネスレ、ノキア、IBM、フィリップス、マクドナルドなど、これもまたそうそうたるグローバル企業が名を連ねている。

 昨年の第8回大会に話を聞くために参加した企業の経営者や幹部は300人を超えたという。このうち43%が3PLを展開している物流業者の経営幹部であり、33%がサプライチェーン担当の荷主企業の経営幹部であった。

 ヨーロッパ3PLサミットの案内を見る限り、ヨーロッパにおける3PLビジネスの広がりと奥の深さを知ることができる。

 3PL物流業者は自社のマーケットの深化と拡大を求めて競争し、荷主企業もより効率的な物流システムの構築のために、常に最適な3PL物流業者を求めてしのぎを削っている。こうしたなかで、3PLに関する情報交換とマッチングの場所が提供されている。そして結果的に、3PLのレベルを全体的に高めていくことにつながると考えられる。

 ひるがえって、日本では3PLビジネスが定着しつつあるものの、残念ながら3PLをめぐって物流業者と荷主企業が広く交流する場は未だに設定されていない。



中国の新幹線駅と物流
2011/9/1 更新

 中国の新幹線が重大事故を起こして注目されている。その新幹線に乗るために上海駅に行ったが、その上海駅で驚くべき光景に出くわした。新幹線の改札口を通って駅構内に入ると、出発の新幹線の列車ごとに広大な待合室が用意されているのである。すべての乗客はその待合室で出発する列車ごとに群れをなして待機している。その人の多さにも圧倒される。

 この方式はまさに空港における搭乗方式と同じである。空港では出発ゲートが指定されて、そこに行くと待合室があり搭乗する人々が待つあの風景である。ただし、上海駅の待合室のスペースは広大でそこに多くの人々がたむろしており、島国の外国人を驚かすのには充分である。

 同じ新幹線のターミナル駅である東京駅はどうだろうか。確かに待合室はあるが、極めて狭い。新幹線の列車ごとに指定されて待合室はないし、新幹線に乗車する人々がそこで待たなくてはならないルールもない。

 そこで考えた。ここからは物流にも関係している。中国における上海駅の新幹線の乗車方式は、乗客が一定の場所に集まり、そこで一時滞留するストック型である。そのために広大なスペースが必要となる。これに対して、東京駅における新幹線の乗車方式は、乗客が滞らず勝手に流れて乗車するスルー型である。乗客は、発車時間を見計らって直接乗車するため、特に広い待合スペースは必要ない。出発する列車に応じて駅構内をよどみなく流れていけば、まさにジャストインタイムとなる。

 上海駅と東京駅における新幹線の待合室の違いから見えることは、ストック方式であれば広大なスペースが必要であり、フロー方式であれば広大なスペースは必要ないということである。島国根性の発想では、余計なスペースはいらないと考えてしまう。

 さらに、フロー方式の前提となるのは、接続する列車の定時性が確保されていることである。東京駅までの列車の定時性が確保されていれば、早めに行って待合室で待つ必要がない。このため東京駅構内で人々はジャストインタイムで新幹線に乗車することができる。
定時性の確保が重要でありそれが担保されていれは、ストックのために無駄なスペースは必要ない。人流の世界でも物流と同じ原理が立派に働いている。驚きの中国上海駅の新幹線乗り場はそのことを教えてくれる。



学生とトラック運送業者の共通点
2011/8/1 更新

 学生の話である。

 事前に課題が与えられる。いわば宿題である。多くの学生はきちんとやってくるが、一定数の学生はやらない。これらの学生は提出締め切りを過ぎても、いっこうに課題を提出する気配はない。そこで教員は学生を呼び出して指導することになる。

 ここでも学生の対応は2つに分かれる。呼び出しに応じて素直に出てくる学生と、呼び出しに携帯電話さえ出ない学生もいる。まったくの無視である。さらに言うと、呼び出しに応じて出てくる学生も2つに分かれる。自分の非を認め素直に謝って謙虚な態度の学生と、「何で呼び出すんだ」と逆ギレして居直る学生もいる。
 
 トラック運送業者の話である。
 
 トラック運行の安全性を確保するために適正化事業実施機関が活動している。事業者を回って安全性のチェックが行われる。こうした審査の結果、安全性を確保している事業者なのか、問題のある事業者なのかが明らかになる。もちろん注目されるのは、数々の問題を指摘された事業者である。こうした事業者は意外と多い。

 そこで、適正化事業実施機関はこうした事業者を対象にした講習会を開催し、問題のある事業者に案内通知を送付する。そうすると事業者の対応は明確に2つに分かれる。この講習会にしっかりと出てきて受講する事業者と、案内を全く無視していっこうに参加しない事業者である。

 やらなければならない課題に対して、どのように対応するか。宿題を課せられた学生と安全性を問われたトラック運送業者で、対応がものの見事に一致している。いずれも一定の割合で、まったく無視してしまう不真面目な人間がいるのである。

 いずれも放置できない対象であることに間違いない。課題を出さない不真面目な学生は、卒業できない予備軍である。安全性に問題があるのに、そのための講習会を無視する事業者は、今後重大事故を起こしかねない予備軍となっている。一定数いるこれらをいかにカバーし、将来予想されるリスクを事前に防ぐか大きな課題となる。

 学生とトラック運送業者、本来関係性のないところに意外と共通点があることに驚く。



厳しい荷主企業が物流業者を育てる
2011/7/1 更新

 人の性格がさまざま異なるように、顧客の荷主企業も千差万別である。物流業者の守備範囲が単純な輸送、単純な保管ではなく、荷主企業の物流システムの実態に合わせて多様化し複雑化している。これに合わせて荷主企業の要求はさまざまである。

 こうしたなかで、荷主企業のタイプもソフトなものからハードなものまである。ソフトの典型は、アウトソーシングする物流業務を一旦任せれば、それに対してうるさく文句を言わない荷主企業である。現場の物流に無関心とはいわないが、物流業者の好きなようにやらせてくれる。

  これに対してハードの典型は、荷主企業自身が社内の物流品質やコストの基準を厳しく設定しており、それに基づいてアウトソーシングした業務についても厳しく査定してチェックする。当然問題があれば物流業者に厳しく改善を求めてくる。荷主企業の物流部門担当者と物流業者の会合では、常にピリピリとした緊張関係が走る。

 物流業者にとってみれば、ソフトな顧客の荷主企業が多いほど、結果的に楽をして儲けさせてくれることになる。こちらのほうがありがたい、と思うのは当然である。しかし、果たしてそうだろうか。

 「厳しい荷主企業が物流業者を育てる」、経験豊かな老練な経営者が言いそうな言葉だが、じつは最近、営業の最前線で奮闘する30歳に満たない若手物流マンから聞いたフレーズである。

 ハードな顧客に対応するなかで、物流業者の顧客対応力が上昇し、さらに物流業務に対するスキルの上昇が期待される。結果として、そうした顧客を多く持つ物流業者ほど競争力が高くなる。つまりハードな顧客に対応するなかで、自らの競争力を上昇させることが可能なのである。 逆に、良い性格の顧客だと喜んでいては、物流業者の改善とか進歩は生まれてこない。安楽な状態を享受しているなかで、ものの見事に対応力や競争力を落としてしまうのである。

 物流業の経営者にとっては、こうしたフレーズを実感として持っている若手の物流マンをどれほど社内に抱えているかが重要となる。



サプライチェーンと下請け
2011/6/1 更新

 東日本大震災によるサプライチェーン(供給網)の寸断で、サプライチェーンが多くの下請け企業によって構成されおり、最終組み立てメーカーが多層におよぶ下請けに依存していることが改めて浮き彫りになった。

  一次、二次は言うにおよばず、三次、四次の下請け、さらにはそれ以上へと続く。三次、四次下請けとなると、最終組み立てメーカーにとってまったくあずかり知らない世界となる。しかし、そこで生産がストップしてしまったために、サプライチェーンが寸断されてしまった。
そこで最終組み立てメーカーは、サプライチェーンの「見える化」に目を向けている。従来あずかり知らない、管理できなかったところもしっかりと把握しなければ、サプライチェーンの寸断にうまく対応できないからだ。だからサプライチェーンの「見える化」にこれから取り組むという。

  トラック運送業界は下請けの問題を長年抱えてきた。最近では下請けがさらに進行し、ますますブラックボックス化している。ある調査事例では、7次下請けまで行われていたという。とてつもない下請けの多層化が進行している。こうなると元請のトラック運送業者も、顧客である荷主の貨物を実際に誰がどのように運んだのか全く把握できない。それなのにしっかりと着荷主まで貨物が届けられているのだから不思議にさえ思えてくる。

  トラック運送業における下請け関係を見る限り、それを「見える化」するのは著しく困難である。何か問題が起こらなければ、そのことが解明されることはない。低コストが強く求められれば一段と下請けが多層化し、ますますブラックボックスとなるのは明らかだ。

  この悪循環をどこかで断ち切らなければならないが、今回大震災で明らかになったことは、下請けとその多層化が日本経済の他産業においても広く存在していることである。下請けはなにもトラック運送業固有の問題ではない。その意味で根深い問題である 。



サプライチェーン
2011/5/1 更新

 3.11後、にわかに多用されるようになった言葉がある。「サプライチェーン」である。例えば、大震災によってサプライチェーンが寸断されて生産が滞っているとか、本格的な景気の回復にはサプライチェーンの回復が必要不可欠である、という具合である。

 サプライチェーン(Supply Chain)とは、企業活動を行ううえで必要な供給の鎖のことである。当初「供給連鎖」と訳されていたが、3.11後には「供給網」や「供給体制」などの日本語が使用されている。かつて外国から導入された用語が、今ではこなれた日本語になっている。

 サプライチェーンというと、物流の世界ではサプライチェーン・マネージメント(Supply Chain Management:SCM)を連想する。これは平たくいえばサプライチェーンを「管理」(マネージメント)して、一企業の枠を超えて縦断的に物流を効率化しようとするものである。一企業の全体最適を目指すロジスティクスを超えた新たな手法として出現した。

 このサプライチェーン・マネージメント、あるいはSCMは、1990年代末から2000年代初頭にかけて、わが国企業の新たな経営戦略として大いに注目された。経済紙でも連日取り上げられ、SCMブームと呼ばれるほどの人気ぶりであった。しかしながら、ブームはやがて去り、SCMはいつの間にか忘れられた存在になっていた。

 ところが、東日本大震災という未曾有の自然災害の後に生じた経済的混乱のなかで、サプライチェーンという言葉が、にわかに脚光を浴びるようになったのである。

 このサプライチェーンが、果たして現状の経済的混乱を表すのに便利なテクニカル・ターム(専門用語)で終わるのか。それとも、この大きな経済的混乱の逆境をバネにして、混乱するサプライチェーンをまさに「マネージメント」する、日本発の物流を含めた新たな仕組みの創造につながるのであろうか。まさに日本企業の新たな創造力が問われている。



今回の齊藤氏のブログはお休みいたします
2011/4/1 更新

今回の齊藤氏のブログはお休みいたします。(トラックNEXT編集部)



まやかしの3PL、本物の3PL
2011/3/1 更新

 前回3PL批判が台頭していることを書いた。火のないところに煙は立たず。こうした批判が台頭する背景には、3PLの名のもとに一種の収奪行為があることは否定できない。

 しかし、それならば、3PLが社会的に存在しうる根拠はどこにあるのだろうか。歴史的なパースペクティブにたつならば、ある一定の時点で出現して定着してきたものは、それが存立しうる一定の合理的な根拠があると考えられるからである。収奪行為だけでは新しい存在の合理性を与えない。

 理想論だとのそしりを免れないかもしれない。だがあえて言うならば、3PL は現行の仕組みを効率化できるところに、その成立の根拠があると考えられる。つまり、3PLを標榜する物流事業者が、荷主企業の物流アウトソーシングを受けて、その物流システムを効率化することができるから、そのビジネスが社会的に存立することを許されるのである。

 それでは、効率化するとはどういったことなのだろうか。簡単な原則をいえば、一定の人間が行っている作業でより多くのものを処理できるようになる。逆に、一定の処理量をより少ない人間で行うことができる。さらには、必要となる時間を短縮することも重要である。

  これを実現するには創意工夫のかたまりが必要となる。仕組みを変える工夫をしてみたり、新たな機械を導入したり、情報システムを導入する。さらには、働く人間を地道に教育し訓練する。こうした能力を持っていることこそが重要なのである。

 その結果として効率化できれば、目に見える形でコストの削減が可能となる。コストが削減できれば、当然荷主企業は物流コストの削減になるし、物流業者は利潤の増加をもたらすことができる。

 逆に、こうした効率化できる能力がなければ、利潤をあげるために収奪行為に走る。こうして考えると、まやかしの3PLと本物の3PLとの違いは明らかである。



台頭する3PL批判
2011/2/1 更新

 最近3PLに対する批判を聞くようになった。もちろん3PLとはサードパーティ・ロジスティクスのことである。1990年代後半からわが国の新たな物流サービスとして注目され、大手の物流業者を中心に、荷主企業の物流アウトソーシングを受けて、積極的な事業拡大が行われてきた。

 この3PLが批判の対象となっている。その中身は、3PLがわが国の物流業界における下請け関係を拡大して悪化させているというものである。3PLが拡大することによって、とりわけトラック運送業界そのものをだめにしている、との過激な論調も見受けられる。

 もともと3PLは、サードパーティの名のとおり、荷主企業と実運送人の間に入る第三者として事業活動を展開していた。その意味では、わが国の物流子会社はまさに3PL的な存在といえる。その物流子会社が貨物輸送のあいだに介在することによって、手数料が運賃から引き抜かれる。こうした物流子会社が3PL だとすると、実運送の物流業者にとっては3PLなどたまったものでない。

 さらに、3PLと称して荷主企業の物流システムを請け負うが、その物流業者がやっていることは、実際に配送する下請けのトラック運送業者を安く買いたたくだけであるという批判もある。弱い零細な事業者を買いたたて、自分たちの利益を捻出しているだけではないか、との批判である。

 こうした批判に従うと、3PLの拡大は、従来の物流業界にあった傭車などの下請け関係をさらに一層拡大させることになる。それはわが国の物流業界に存在するこの構造的問題をさらに悪化させることにもなりかねない、という懸念につながる。

 わが国おける物流の発展のなかで、3PLは物流業界の閉塞状態からの脱却を可能にする重要なビジネスとして期待されてきた。しかし、その3PLがわが国に定着するなかで、こうした3PL批判が噴出するようになっている。

 こうした批判をどう考えたらよいのだろうか。



理想の荷主
2011/1/1 更新
 トラック運送業者にとって大事な顧客は、もちろん荷主である。しかし、トラック運送業者からは、顧客である荷主の良い話を聞くことは少ない。たいていは悪口である。

 採算割れの運賃値引きを要求する、違法行為につながることを平気で求める、積み込みまで何時間もトラックを待機させる、などなど荷主への不満を聞いていると限りがない。まるでこの世には善良な荷主など存在していないようだ。

 ところで、トラック運送業者にとって理想的な荷主とは何だろうか。それは、必要なコストを正当に評価してくれる荷主である。つまり、良い輸送サービスには一定の必要なコストがかかり、正確な原価計算に基づいた適正な運賃や料金を支払う必要があると考えている荷主である。

 言い換えれば、極端な低運賃や料金はどこかで無理をしており、そのしっぺ返しが自社の物流に悪影響を及ぼす危険性があることを理解している荷主ともいえる。事業展開における物流の重要性を認識して、自社の良い物流のためには優れたトラック運送業者が必要であり、そのためには適正な運賃や料金を支払う必要があると考えている。

 しっかりしたトラック運送業者であれば、こうしたまともな考えを持つ荷主を探していくべきである。ただし、こうした理想的な荷主は、良質の輸送サービスを提供でき、自ら不断に改善努力する優れたトラック運送業者を求めている。

 こう考えると、理想的な荷主には同時に理想的なトラック運送業者がつくことになる。「破鍋に綴蓋」という諺があるが、それとは正反対の方向にある似たもの同士である。「相思相愛」という言葉もある。理想の荷主を求めるのなら、自らも理想のトラック運送業者に近づかなければならない。