運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第3回】 司運輸企業組合(滋賀県長浜市)

適正規模で内容を重視した堅実経営路線を堅持

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昨年の特徴的な傾向の一つに、一部の事業者では採算性の低い荷主から撤退するようになってきたことがある。収益性を重視する経営への転換で、一時的に売上は減少するが利益率は向上する。中には利益金額が増えるような事例もある。

ところが従来から利益重視の経営を一貫して実践してきた中小事業者がいる。司運輸(滋賀県長浜市、小澤典博代表理事)もそのような事業者の一社だ。保有車両数は18台(大型車7台、4t車10台、2t車1台)という典型的な中小トラック運送事業者だが、「適正規模」を自覚して利益率重視の経営を貫いてきた。同社は地元の地場産業である部品製造業を主に事業展開している。農機具をはじめとする機械や家電部品、デジタル関連部品、その他の部品を製造する中小規模の下請けメーカーである。その他にも一部家電製品や化粧品容器、なども運んでいるが、単純な輸送ではなく、積合せ輸送などシステム化した輸送サービスを基本としている。

たとえば農機具の部品輸送では、ミルクラン方式を18年ほど前から導入した。以前は各部品メーカーと貸切契約をしていたが、バブル崩壊後の景気低迷の中で、輸送効率化を提案したのである。このミルクラン方式は家電関係の部品の納品でも導入している。地元のエンジン発電機用の部品メーカー2社のケースでは、横浜のエンジン発電機メーカーの工場に積合せで部品を運んでいる。

注目すべきなのは運賃契約で、同社では1台いくらというチャーター契約にしている。その月に出荷した荷物の量の割合に応じて、荷主2社が話し合って運賃負担の割合を決める、という方式だ。これなら出荷量が少ない月でも定額収入が保証される。従来は荷主2社が別べつに特積み便で納品していたが、時間指定も難しく、運賃も割高になっていた。さらに通い箱の回収なども課題だった。そこで同社がコストダウンを提案したから「積合せのチャーター契約」も可能になったのである。

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このようにシステム化したサービスを展開しているが、リーマンショックの影響は避けられなかった。09年3月期は前年同期比で15%アップと過去最高の売上高で、経常利益率も30%を確保することができた。「ミルクラン輸送やその他が上手く絡み合っていた」(小澤代表)からである。

ところが09年5月から一部の荷主では輸送量が半減するという事態になった。その結果、09年3月期と10年3月期の比較では、既存荷主では13%の売上ダウンとなった。しかし、その間に新規の仕事を開拓して売上の約3%をカバー。同時に、長距離輸送から撤退して地場輸送への集約化を図った。この長距離輸送からの撤退が利益面で奏功した。燃料コストが削減でき、高速道路利用料金の支払いも大幅に減った。タイヤなど消耗品のコストも削減できたのである。その結果、10年3月期には売上が10%ダウンしたが経常利益率は18%を確保することができた。

では、どのように新規開拓をしたのか。「帰り荷の直接取引を開拓」(小澤代表)したのである。「地元のパイは小さいし、地元で仕事の奪い合いはしたくない」(同)からだ。しかし、新規の取引先を短期間に開拓するのは簡単ではない。実は以前から話を進めていたのである。

同社では景気変動には関わらず、常に「見込み客を10社は持つようにしている」(同)という。10社総てと取引ができるわけではないが、「10社のうち2、3社とれれば良い」(同)という考え方である。通常でも常に種まきをしておくという営業展開である。

このようにして発の荷物の輸送は近距離に集約し、直取引の帰りの荷物の確保を図って空車走行を減らすようにした結果、現在の同社の全車両平均の積載率は、往路=約50%(リーマンショック後に減少)、復路=約70%(新規開拓で増加)、実車率は、往路=100%(以前と同じ)、復路=約90%(新規開拓で増加)という状況である。

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同社の経常利益率は高い。もちろん法定福利費など法令順守コストは負担している。ドライバーの給与も月給制(残業代も支給)である。

このような経営方針の基本は「中小運送業には適正規模がある」(小澤代表)という認識だ。適正規模で内容重視の経営をしていく。重要なのは健全経営を安定的に継続するために利益を効果的に使う、という考え方である。

同社は毎年2台~3台の車両を代替えするが、総て自己資金による現金購入で、償却は4t車が3年で大型車は5年である。増車する場合でも、荷主が指定したスペックの車両を無条件には導入しない。償却が終わるまで荷物が保証されるわけではないので、最悪のシナリオも想定し、リスクヘッジできる場合だけ増車するという考え方である。民間の保険や倒産防止共済にも加入しており、戻った資金は退職引当金に充当する。このような健全経営には適正規模(約20台)で20%の経常利益確保が必要と考えている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>