運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第23回】 大王運輸株式会社(三重県多気郡明和町)

マルチスキル化で共同配送の効率化向上を目指す

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大王運輸(本社・三重県多気郡明和町、天白拓治社長)は、三重県をサービスエリアとしてハム・ソーセージ、冷凍食品、アイスクリーム、食材、パン生地など食品の輸配送に特化した事業を展開している。

独自の共同配送システムであるDCL(大王コールド・ライン)は9コースで県内をカバーしているが、それとは別に昨年10月からはハム・ソーセージのメーカー3社の共同配送を実現。また、今年4月には四日市営業所を開設した。同県の主要マーケットである北勢に拠点を構えたことで、全体的な配送効率の向上を図ろうとしている。

さらに共同配送の効率化を図るために、取引先ごとの業務内容に基づく現在の社内体制から、エリアを基本にしたチームへの再編成を考えている。そのためにはドライバーのマルチスキル化(多能化)が不可欠であり、今年度はマルチスキル化への挑戦をスローガンに掲げて現在、取り組みを進めようとしている。

同社は1954年の設立で、地元で漁獲された鮮魚や水産加工品などの輸送からスタートした。しかし、バブル経済期以前から魚など水産物の将来には不安を感じていたようだ。地元は漁業が一大産業ではあるが、同時に消費地でもある。伊勢、鳥羽、志摩など全国的に有名な観光地に近いため、多数の観光客が水産物を消費するからである。このような地理的条件もあり、東京や大阪などの市場から地元に運ぶ量が増えてきた。

最初は比較的まとまったロットで地元の水産加工工場に納品していたが、やがて荷物の小口化が進み、問屋に納品するようになった。さらに、海外から加工品が入ってくるようにもなってきた。東京や大阪の市場から運んでくる荷物が多くなるにしたがって傭車比率も高くなってくる。このような状況変化のなかで、かなり早い時点で水産物の将来性に期待をもてない、と考えるようになった。一方、当時から「共同配送は苦ではなかった」(天白社長)という。

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このようなことから、自然に共同配送化の方向に向かっていたようだ。さらに35年以上も前になるが、ある大手ハムメーカーの工場が松阪にできた。東海エリアのメイン工場である。同社ではこのハムメーカーの松阪工場の仕事を受託することになった。ここから脱水産物輸送、加工食品物流へのシフトが始まった。だが、鮮魚や水産加工品から一気に手を引いたわけではない。自然減にまかせるような形で、「水産品の取扱がゼロになったのは一昨年(2010年)だった」(天白社長)という。

なお現在では、そのハムメーカーの松阪工場はなくなり、大阪の高槻に生産が集約されている。同メーカーの東海エリアのハブセンターは名古屋にあり、大王運輸のセンターは三重県をカバーするためのサブセンター的な位置づけになっている。しかし、松阪に工場があった当時からの関係もあって、現在でも大阪、名古屋、上越などの工場~センター間の幹線輸送を行っている。

このハムメーカーとの取引を機に、他のハムメーカーも営業開拓してきた。現在ではハム・ソーセージ関係の取引先は4社になっている。また、冷凍食品の顧客も開拓し、アイスクリーム、食材の宅配、パン生地の配送など食品に特化しながら取扱品目の多様化を図ってきた。

売上高ベースの取扱品目構成比では冷凍食品が約40%、ハム・ソーセージが約30%、他がアイスクリームや食材、パン生地などとなっている。取引先別の売上構成では最初に取引の始まったハムメーカーと大手食品商社の2社で全体の約50%を占め、残りの約50%の売上が他の取引先となっている。

現在は本社営業所と、DCLセンター、四日市営業所(今年4月に川越町に賃借で開設)があり、保有車両数は59台(10t車6台、8t車2台、4t車18台、3t車7台、2t車19台、軽7台)で総て冷凍車。従業員数は130名(派遣などを含む)。関連会社には人材派遣のマテハンスタッフがある。

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このようななかで今年4月に四日市営業所を開設した。ある荷主の意向を反映したものである。マーケットの大きな北勢に拠点を開設したことは、今後の事業展開上で大きな意味をもつ。「将来は四日市をハブに、本社のセンターをサブに」(天白社長)位置づけるという構想だ。

もう一つの課題は、ドライバーのマルチスキル化(多能化)である。同社では主要な取引先ごとに社内体制を整えてきた。DCLは自社の共配だが、大手食品商社、宅配関係、ハム・ソーセージの荷主などである。この職域による縦割りの組織で、地域的には北勢、中勢、南勢、紀州とそれぞれバラバラに配送を行っている。そこで職域ごとの縦割りを、エリアごとの横断的な体制に再構築することで効率化を推進し、収益性向上を目指す。そのための前提になるのが、マルチスキル化である。このような方向性を決め、今年中には職域グループからエリアに基づいたグループへの再編成に着手する。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>