運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第25回】 七福運送株式会社(東京都新宿区)

新聞輸送のBCPを策定し緊急時の情報伝達に備える

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昨年の東日本大震災は、中小企業においてもBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画または緊急時企業存続計画)策定の重要性を実感させた。この東日本大震災の経験からBCPの重要性を認識した七福運送(本社・東京都新宿区、鈴木祥太社長)では、今年2月に新聞輸送におけるBCPを策定した。同社は1951年の設立で、資本金は4,000万円。本社営業所の他に埼玉営業所(志木市)、神奈川営業所(座間市)、横浜営業所(大和市)、瀬谷出張所(横浜市瀬谷区)がある。従業員数は116人で、一般貨物自動車運送事業、貨物運送取扱事業、産業廃棄物収集運搬業などを行っている。

業務内容は新聞輸送、引越サービス、産廃収集運搬その他である。また、関連会社としては七福ネットワーク(志木市)、北陸七福運送(石川県白山市)がある。このうち新聞輸送は売上の70%以上を占めるメインの輸送になっている。そこで新聞輸送を対象にBCPを策定したのである。

七福運送がBCPを知ったのは昨年の東日本大震災後のことで、「BCPとはなに? というところからのスタート」(鈴木祥太社長)だった。だが、緊急時対策の必要性は実感していた。社員の両親が被災して約1カ月間は連絡が取れないような状況だったからである。

この経験から社員やその家族の安否確認など、緊急時の体制を整える必要性を痛感した。そして新聞輸送が果たす社会的な役割である。平常時でも情報伝達は重要だが、緊急時には一そう重要性が増す。読者と新聞社に対して「新聞輸送という業務の必要性からも緊急時の対応を痛感した」(鈴木社長)のである。

さらに東日本大震災後に燃料確保が困難だったことも大きな教訓になった。通常なら朝刊輸送から戻って夕刊輸送が始まるまでの間、ドライバーは休息や休憩をとる。だが、ガソリンスタンドに並んで順番待ちをするなど、燃料補給のために休む時間を確保することができないような状態が続いたからである。

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そのような折り、東京都産業局の「BCP未策定企業に対する策定支援活動」を知った。都が担当コンサルタントをつけてBCP策定を支援してくれる。そこで昨年10月にフォーラムに参加し、12月からBCP策定に着手した。

BCPを策定するに当たって、一番大変だったのは復旧時間の設定、およびそれに合わせた復旧対策の策定だったようだ。新聞輸送では復旧時間が24時間単位になるので、これが最大の課題だったという。しかし七福運送では、最大許容停止時間2.5日、目標復旧時間を24時間以内とし、目標復旧レベルを稼働車両数対比で70%と設定した。

具体的には受注業務(新聞)が6時間以内に100%、配車・配送指示が6時間以内に100%、配送が24時間以内に70%、構内作業が12時間以内に70%である。その他にも、東京都や新宿区、トラック協会などからの要請に対して、受注(緊急輸送対応)を24時間以内100%という目標設定もしている。

新聞社には当然、危機管理体制が構築されている。しかし、事業者に要請されるレベルで対応できるのかどうかと考えると、実際には難しい。そこで「七福運送としてはやる」(鈴木社長)という決意を込めた目標設定である。緊急時には新聞輸送に集中する。新聞輸送をしていない埼玉営業所は一般物流を一時ストップして新聞輸送の支援にまわる。

また、新聞輸送は1車に2人、3人のドライバーが交代で乗務することも多い。週3日出勤といった人も含めて、緊急時には1車に1.5人を確保する。さらに緊急時には電話が不通になって社員には連絡が取れないという前提で、自動参集のルールを策定した。たとえば自宅にいる場合なら、まず家族の安否確認をして、被災していなければともかく会社に向かってほしい、といったようなルールである。「携帯用BCP・災害対応カード」も社員に携帯させる。協力会社4社にも努力目標を設定して協力を要請した。

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<当写真(上から3枚目)は七福運送提供>

新聞社とも話し合って、緊急時には自社の営業所ではなく新聞印刷工場に車両とドライバーを集結するという行動ルールを策定した。また燃料確保のために神奈川営業所にインタンクを開設し、9月1日から稼働を始めた。今後は新聞社側からの要望も取り入れ、また販売店の意見なども聞きながらさらに内容の向上を目指す。

社内的にも、緊急時の行動指針をより現実的な内容にしていくために再検討を進めている。反面、行動指針をあまり詳細に決めてしまうと、社員1人ひとりの行動を縛りつけてしまい、的確な対応ができなくなってしまう可能性もある。最終的にはそれぞれの現場の状況に応じて各人が自己判断しなければならない。そのためルールとしての自己判断の範囲と、状況に応じた1人ひとりの臨機応変な判断力の両方のバランスが重要だ。さらに同社では、本社の「地元の事業者の方がたとの提携なども考えている」(鈴木社長)という。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>