運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第31回】 三ヶ根運輸有限会社(愛知県幡豆町)

繊維製品の検査ノウハウを活かして新規開拓

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三ヶ根運輸(本社・愛知県幡豆町、牧野政美社長)では、昨年4月から、蒲郡倉庫の一部を使って自動車用パーツのアッセンブリと目視検査の業務を開始した。これは同社が実績をもつ繊維製品の外観検査や検針のノウハウを活かして、他産業の荷主も新規開拓していく一環として、新たに始めたものである。

同社の地元は昔は繊維産業が盛んであった。産業構造の変化によって現在では縫製工場は海外にシフトしており、地元ではほとんど作られていない。地元の繊維会社も海外で作られた商品を取り扱う商社的な機能に変化してきた。取扱商品の多くは寝装寝具関連などの製品が多い。主な取引先は大手量販店などである。

このような中で同社は、地元の繊維関連企業のニーズに対応し、自社の物流センターでEOSやEDIなど情報管理、在庫管理、仕分け、流通加工、一部検査や検針などを行うとともに、輸配送の効率化などによって物流効率化を推進して成長を図ってきた。

繊維関連企業は量販店と比較すると企業規模が小さい。そのためデータ送受信のハードやソフト、在庫保管・管理の施設や設備、流通加工作業、輸配送の手配などを荷主がそれぞれ独自に行っていては負担が大きい。そこで同社のセンターを複数荷主のプラットホームとしてコストダウンを図るというサービスを考えたのである。荷主が自社倉庫で行っていた業務を同社のセンターで一括して行えば、横持ち輸送なども必要ない。オーダーから出荷までの時間も短縮できる。

このようなトータル・サービスの一環として、荷主からの検査業務の要望にも対応できるようにしてきた。荷主は商品を入荷した後で商品に異常があった場合、別の検査機関などに検査のために転送し、検査後に出荷していたので時間とコストがかかっていた。それをワンストップ・サービスにできれば荷主にとってコストダウンになる。そこで繊維製品の検査・検針などの業務も行うようになったのである。

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このような事業転換の成果が表れてきた。会社設立が1980年で20数年間は典型的な中小運送事業者だったが、2002年度から2006年度の5年間で売上規模が3.4倍になった。だが、ここ数年は経営環境が一そう厳しくなり、業績を順調に伸ばしている取引先もあるが、全体としては伸び悩んでいる。そのため同社も新分野の荷主開拓が重要な課題になってきた。

現在の保有車両数は32台(増トン低床ウィング車6台、増トン低床ショートウィング車2台、8tウィング車1台、4tウィング車20台、2tハコ車1台、その他2台)で、従業員数は53名。本社物流センターの他に、蒲郡倉庫と金平倉庫があり、一般貨物自動車運送、貨物運送取扱、路線貨物取扱、荷役・保管仕分・梱包、受発注代行(EOS、EDI)、ピッキング・流通加工、繊維製品外観検査・検針(日本繊維製品品質管理センター検品技術指導工場)、特定労働者派遣事業などを行っている。

そこで、繊維製品の検査のノウハウを活かして、検査業務を新規開拓の切り口にしようと考えたのである。検査ができれば、その前後の業務受託につなげることができる。検査場を兼ねた物流センターまでの輸送、検査、保管、梱包、出荷、納品のための輸送などである。

そのような過程で、蒲郡倉庫に少し空いたスペースがあったこともあり、プラスチック製品を製造している地元の会社から、自動車部品のアッセンブリと目視検査の業務を受託することになった。荷主は受注量が増加したために工場のキャパシティをオーバーするようになってきた。自社倉庫も手狭になり、さらに人手不足にもなってきたため、検査もできる三ヶ根運輸に委託するようになったのである。同社では現在、蒲郡倉庫内の330㎡(保管スペースも含めて)を簡単に仕切って組み立て、検査をしている。しかし、本業の運送では、まだ本格的に仕事を受託するまでには至っていない。

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というのは、プラスチック会社は自家用トラックを保有しており、自社で自動車メーカーの工場に納品している。荷主が保有している車両は、4tウィング車が2台、2tウィング車が2台である。現在は納品量が多くて自家用トラックで運びきれない時だけ、同社に輸送の依頼がくるだけだ。しかし、荷主企業の経営者は、将来は自家用トラックをなくして納品業務をアウトソーシングする考えだ。その点では、繊維以外の分野の開拓を進めている三ヶ根運輸の思惑と一致している。

同社では、アッセンブリや検査業務だけでなく、保管、輸送も一貫してできるので、外注化する側にとっては同社に一元的にアウトソーシングすれば効率的である。また、パーツを製造している荷主の下請会社もそれぞれ自家用トラックを保有している。これらの下請会社はいずれも地元の企業である。そこで同社では、将来はミルクラン方式で下請会社を巡回してパーツを集荷する構想も持っている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>