運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第39回】 カネフジ運輸株式会社(宮城県東松島市)

東日本大震災前の70%にまで回復


 今年3月で東日本大震災から早くも3年が経つ。時間の経過とともに「過去の惨事」のような感覚になりがちだが、被災者にとっては現在でも非日常的な状態が続いている。今回は津波で会社を喪失し、車両も大型車20台(そのうちトレーラ2セット)が被災、さらに従業員にも2人の犠牲者がでて、「一時は止めようか」とも思ったが、復興への歩みを着実に進めている事業者を紹介する。

 この事業者はカネフジ運輸(宮城県東松島市、須藤睦弥社長)で、被災当時に社長だった須藤弘三会長は宮城県トラック協会の現会長でもある。同社の設立は1983年で、須藤会長が創業した。近くに工場がある住宅資材のメーカーがメインの荷主で、製品の保管や輸送をしている。主たる輸送エリアは関東一円、東海地方では静岡辺りまでで、昔は関西などにも行っていたが現在は関西などには行っていない。納品先は住宅メーカーの工場や問屋などである。

 昔は4t車による長距離もやっていたが、4t車は10年ほど前にやめて被災時は大型ウイング車とトレーラを合わせて60台を保有していた。また、自車両の他に約40%は傭車によって輸送していた。長距離輸送なので帰り荷の確保が重要だが、バーターで帰り荷を確保したりするようなケースが多かったようだ。関東から来るトラックに帰り荷を出して、反対に関東からの帰り荷を出してもらう、といった形である。

 創業時は石巻市だったが、津波で被災した現在の所在地には1989年に移ってきた。むかしのチリ地震による津波の被害状況も調べて、ここなら大丈夫と確認して移転したのだという。その後、バブル経済の崩壊などもあったが、「当社の取引先の場合にはバブル崩壊の影響がなく、逆にバブル崩壊後に荷物が増えた」(須藤会長)。しかも、バブル崩壊後には行きと帰りの荷物がうまくマッチングするようになったので、業績は3倍ぐらいになったのである

 東日本大震災時には保有車両台数が60台で全部大型車、そのうち平ボディのトレーラが7セット、売上は11億円から12億円だった(建材の加工業務なども行っている)。そのうち大型車18台とトレーラ2セットが被害に遭った。本社と本社センターは全壊である。震災発生が金曜日だったため、4qほど離れた駐車場にあったトラックが多く、それらは被災を免れた。被災した車両は、荷主の工場に積込みに行っていたトラックと、積み終えて本社に帰ってきていたトラックが半々ぐらいだった。

 メインの荷主の作業の流れは、月曜日から木曜日までは荷物を積んだ順に出発するが、金曜日は積み置きして日曜日の夕方に出発し、月曜日の朝に納品するというのが基本的なパターンだからである。関東への輸送では北関東を除くと6号線の利用が多いが、金曜日だったため行きの車両はなく、戻る車両も福島第1原発の近くを走っている時間帯ではなかったのが幸いだったという。

 東日本大震災の発生時に須藤会長(当時は社長)は出張中だった。地震発生から津波に襲われるまでの間に、現在の睦弥社長ともう1人だけが残り、従業員は全員帰させたという。だが、65人いた従業員のうち残念ながら2人が亡くなった。会社に残っていた2人も、会社の前の道路をパトカーが往復していたが、3回目に海岸の方を見にいったパトカーが猛スピードで逃げて行ったので、急いで海の方を見たら山のようになっていたから逃げたという。

 会長(当時社長)が地元に帰れたのは5日後の16日だった。「テレビのニュースをみていたので、壊滅状態なのは分かっていたから再建はムリと思っていた。実際に帰ってみてお先真っ暗で止めざるを得ないだろうと思った。取引先も壊滅状態で、自分も65歳なので本気で止めようと考えた」(須藤会長)という。だが、専務(当時)と現社長が事業の継続を要望。メインの荷主の工場も再建の方針を出したので再出発を決意した。

 メインの取引先の工場もお盆過ぎには一部で製造を再開。残った車両のうち10台を減車して30台にし、ドライバーも25人で再出発した。現在では荷物も70%程度まで回復し、車両数35台、人手不足もあってドライバーは少し不足気味だが33人で完全復興を目指している。

 同社の強みは「経営の基本に忠実に経費を押さえ、従業員にも協力してもらって協力に対して見返りをする」(須藤会長)経営をしてきたことだ。たとえば燃料は仕事をすれば絶対に必要なので、25年も前からデータを取って燃費を管理し、アイドリングストップも昔から実施してきた。燃費の基準を設定して報奨金制度もある。事故防止も25年前から毎月第1日曜日に全社員で、また、正月、5月、お盆の休み明けの第1便のスタート前には1時間のミーティングをしたりしている。社内に整備士がいて、車検や整備なども含めて車両の修繕費を1台月3万円以下に押さえるなどの経営努力をしている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>