運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第50回】 磐栄運送株式会社(福島県いわき市)

売上100億円目指し積極的にM&Aを展開



 最近は中小企業同士のM&Aも多くなってきた。運輸業に限らず、中小企業の譲渡・譲受が増えてきている。首都圏のある事業者は、子息が会社を継がないと決めた。そこで社長はいずれ企業を譲渡する考えで、その旨を従業員にも公言している。この社長がM&Aを仲介する会社のセミナーに参加した。すると「広い会場が一杯だった。他業種でも同じような考えの中小企業経営者が多いのには驚いた」という。やはりM&Aを仲介する会社のセミナーに参加したという、中部地区の事業者も、企業譲渡を考えている中小企業経営者が多いのには驚いたと、前述の社長と全く同じ感想を述べている。

 この社長は企業譲渡について具体的に考えているわけではないが、将来の漠然とした選択肢の一つとしてセミナーに参加したようだ。このような業界の新たな潮流を象徴するかのように、積極的にM&Aを展開しているのが磐栄運送(本社・福島県いわき市、村田裕之社長)である。

 磐栄運送は1959年創業で、会社設立は1961年。当初は一般小型免許で鮮魚介類の輸送からスタートした。その後一般区域免許、倉庫業許可や自動車運送取扱も取得している。現在は本社の他に勿来営業所、千葉営業所、埼玉営業所、市原営業所、また関連会社として磐栄通商、磐栄ハウジングがある。さらに2013年8月からは茨城県ひたちなか市で太陽光発電事業も始めた。保有車両台数は256台で社員数は220名。2014年6月期の売上高は約28億円である。売上構成は運送80%以上、倉庫7%、太陽光発電事業10%といった比率だ。運送では紙、鋼材、建材などの工業製品や雑貨、タンク車による化成品輸送、また関東の営業所ではフェリーで無人航送されてきた荷物の輸送なども行っている。だが、帰り荷などは中通りが多く「いわき発着だけでは事業が拡がらない。とくにリーマンショック後は地元のみでは先行きがない」(村田社長)と判断した。


 その点「首都圏は今後も人口が増加する可能性がある」(村田社長)ため、2011年10月に千葉営業所を開設し、翌年には埼玉営業所、市原営業所も開設した。また、その間に太陽光発電事業も開始している。だが、関東などから福島県にくる荷物の多くは、本社がある浜通りではなく中通りである。そこで「中通りに進出したかった」(同)という。

 10月6日に買収したエムケー物流(福島県安達郡大玉村)は売上17億5000万円(2014年5月期)で、郡山に近く会津方面へのアクセスも良い。「約5000坪の倉庫があるのも大きい。当社の拠点とは別なので横持ち輸送などの効率化が図れる」(同)からである。この話は両社共通の取引先金融機関から今年7月にもたらされたが、ほとんど即決で買収した。すでに買収効果が現れており、買収のニュースをみて「ある荷主から郡山のあたりに東北の拠点をつくりたいが拠点にできるかというオファーが来ている」(同)という。



 さらに磐栄運送では11月14日に福島北桑運輸(福島県伊達郡桑折町)も買収した。福島北桑運輸は売上高が約13億円で、輸送品目は食品の比率が高い。この話も今年8月にもたらされたもので、ほとんど即決である。同社は福島市より北に位置し、宮城県との県境に近い。東北の中心である仙台市内に営業所もあり、山形へのアクセスも良いため山形のマーケットも視野に入れることができる。なお、福島北桑運輸には関連会社の佐藤商事自工があったが、M&Aに伴い不動産などは福島北桑運輸に譲渡し、会社は現在(取材時点)清算中である。

 このように磐栄運送では積極的にM&Aを展開しているが、その狙いは何か。村田社長は「経営者としての目標は売上100億円を目指したい」という。本社売上と買収した2社を単純に加算しても約60億円になるが、多くの取引先と荷物が確保できれば、グループ内での車両オペレーションなどもより効率化が図れる。


 今後の事業展開としては、関東を中心に名古屋あたりまで行きたいと考えているようだ。東北のマーケットはあまり拡大が望めないというのも理由の一つである。また、関東の3営業所で従業員数がすでに100名を超えるまでになったが、関東に進出して驚いたのは「関東は情報量が違う」(村田社長)ということだった。このようなことから、現在(取材時点)、関東圏内で運送事業と倉庫事業を行っている売上高約3億円の事業者を買収する話も進行中だ。

 このように100億円を目標に、自社の営業所展開、M&Aによる子会社化、さらにM&Aといった形で進めていく。子会社は「各社がそれぞれ独自に頑張って売上を伸ばしていく」(同)ようにする。このような事業展開の延長としてはホールディングス制も考えられるが、その点については「ホールディングスはもうすぐ必要になると思う。まだ具体的ではないが、これから考えようとしている」(同)という。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>