運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第51回】 山形陸運株式会社(山形県山形市)

人材確保は財務体質改善と社員満足度向上と一体



 3年前から不採算取引先の見直しを進め、車両もピーク時の約200台から約150台に、従業員も約300名から約200名に縮小して大胆な財務体質の改善を図り、将来を見据えた企業構築に取り組んでいるのが山形陸運(本社・山形市、佐藤公啓社長)。

 総ては「企業責任と社会責任が果たせる適正な価格であること」(佐藤社長)につきるという基本的な認識に基づき、中期経営計画、行動計画などを策定し、雇用条件の改善やホームページの刷新などに取り組んできた。同社では高齢者の雇用対策も積極的に進め、60歳の定年後も希望者全員を65歳の誕生日の賃金締日までフルタイムの準社員として再雇用、さらに昨年(2014年)8月からはアンケート結果も踏まえ67歳にまで延長した。この間、2012年度には山形県経営者協会が創立65周年記念事業として行った「高齢者雇用問題に関する懸賞リポート」の公募において最優秀賞を受賞している。

 山形陸運は1950年の設立で、現在は本社営業所の他、山形北営業所(セメント石油配送センター併設、近隣にコンテナセンター)、山形南営業所(クリーン引越センター併設)、吉野石膏山形配送センター(天童市)、東根市学校給食配送センター(東根市)があり、従業員数181名、保有車両数は156台(他にフォークリフト25台)である。2014年3月期の売上は約15億円であった。

 事業部門別の売上構成はトラック運送部門が90%、倉庫部門が5%、引越やJRコンテナその他で5%という比率である。輸送品目別でみると、米穀や各種農産物、肥料や飼料などの農業関係、バラセメントやコンクリート2次製品、石膏ボードなどの建材関係、石油、プロパンガス配送、食料・食材の横持ち配送、学校給食用の食材配送、引越、JRコンテナなど多岐にわたっている。佐藤社長は2009年6月に社長に就任し、最初の3年間は集中的に古い体質からの脱却を図った。


 同社では不採算取引先からの撤退が大きな課題だったがデータづりから着手した。まず、個々の収益管理をシステム化しなければならない。車両単位の積載率、実車率、収益性。同様に取引先単位でも収益を管理できるようにした。そもそもデータベースがなかったわけではない。そのデータが共有化され、経営管理や業務管理に活かされていなかっただけだ。そこで現場の人たちの話も聞きながらシステム作成を進めたのである。

 その結果、2011年ぐらいにシステムの基本が完成した。ところがデータに基づいて分析すると、「儲かっているようでも実際には儲かっていないことが分かった。採算の取れない仕事は、とくに古くからの取引先に多かった」(佐藤社長)という。一方、「ドライバーからすると、毎日、忙しく働いているのだから儲かっているのが当たり前と思われていた」(佐藤社長)。また、ピーク時には使うが年間の大半は遊んでいるような遊休車両もあった。



 そこで、この3年間は「『聖域なき料金改定』を掲げて、基本契約の見直しを推進した」(佐藤社長)のである。それ以前にも運賃・料金の見直しは取引先と交渉してきたが、「お願い」だけであって「運べない」という決意まではなかったという。

 一見、採算が取れているようでも古い車両を代替えして新車にすると赤字になる、といったこともある。大口の取引先でも5社から撤退している。小口の取引先からも数社から撤退している。併せて約30台の遊休車両を廃車にし、さらに撤退した荷主の仕事をしていた車両も廃車にした。車両オペレーションの効率化でも、全車両の一元管理を2013年から始めた。液晶パネルに全車両の稼働状況が表示されていて一目で把握できるようになっている。このパネルは本社だけではなく、各営業所にもあって、全車両の状況が誰にでも分かる仕組みだ。このようなリストラクチャリングの成果は業績面でも顕著に現れてきた。


 中期経営計画も策定し現在は第2次計画(1014〜2016年度)を遂行中である。2012年7月からHPもリニューアルし、定期的に更新するようにした。最近は求人媒体だけでなくHPを確認してから応募を判断するようになっているので、求人においても重要な武器になっている。

 またHPでは社員やその家族向けの内容も重視している。社員満足度の向上に努め、産前産後休業や育児休業、子供の看護休暇制度の促進、あるいは子供が親の働いてる姿を見学する「子ども参観日」も実施している。人材確保は社員の定着率すなわち社員満足度と表裏の関係だからだ。昨年7月には55歳〜64歳を対象に継続雇用意識調査を行い、その結果も踏まえて8月からは67歳まで延長したのである。

 このように山形陸運は、企業の発展と人材の確保には社員満足度の向上が必要で、その原資が確保できるような財務内容の強化が不可欠という認識で総合的な取り組みをしている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:山形陸運)