運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第53回】 株式会社アトランス(静岡県浜松市)

共同配送と2マン宅配部門の拡充を図る



 アトランス(本社・静岡県浜松市、渡辺次彦社長)では新年度(4月)から、共同配送事業の拡大と家電の2マン配送のノウハウを活かしたサービスの多様化に力を入れていく方針だ。同社の事業は共同配送、家電宅配、工場間輸送を3本柱とし、そこから派生するサービスなどとなっている。

 共同配送は本社営業所をクロスドックセンターとし、家電や住宅設備機器など多数の荷主の荷物を積み合わせて配送している。共同配送のエリアは、静岡全県や愛知県三河地区などで、このうち静岡西部は自車両で、その他の地域は協力会社に委託して共配を行っている。愛知県の小牧や一宮などからの引き取りも多いが、共同配送の一番のポイントは荷主からの出荷時間のバラツキを調整して積載率をいかに高めるかである。それが採算を大きく左右することになる。そこで同社は本社営業所をクロスドックセンターにして、時間調整や荷物の組み合わせなどに工夫している。

 同社の共同配送の特徴は運賃だ。重量建て運賃、体積(立方メートル)建て運賃、個建て運賃など様ざまな契約をしている。重量建ての運賃が良い荷主には重量建て、立方メートルが良い荷主には立方メートル建てといったように運賃契約が一律ではない。「チャーター契約の固定制の運賃契約から、荷物量によって変動する運賃契約にしたいという荷主ニーズに対応するために共同配送をシステム化したが、元もと荷主が契約していた運賃を基にしているため」(渡辺社長)である。

 たとえば以前から立方メートル建ての運賃であった荷主には、共同配送にしても立方メートル建ての運賃にしている。したがって1台のトラックに積み合わせて運んでいる荷物でも、荷主によって個建てもあれば重量建てや個建て契約の荷物もある。どのように運賃単価を設定したかというと、チャーター契約から共同配送にするにあたって、元もとのチャーター運賃を分解して、荷物の波動性なども考慮し、自社のコストに見合う単価を設定したようだ。


 このような運賃設定の柔軟性が「当社の営業の切り口であり、当社の“売り”です。このような切り口だと営業がやり易いし、営業の窓口が拡がる」(同)という。一方、家電配送はある大手の家電量販店の2マンによる宅配である。静岡県西部と中部は自車両で、東部は協力会社で全県をカバーしている。静岡県の場合には宅配に限らず、店舗配送などでも伊豆半島が大きな課題である。配送密度が薄く、どのように採算を取るかが難しい。そこでアトランスでは、伊豆半島に強い協力会社に委託しているという。

 また、この家電の宅配と組み合わせる形で、家具の宅配も一部では行っている。ネット通販なども含めて、2マンによる家具の宅配も今後は増加が見込まれるが、同社は家電と家具を組み合わせることで荷物の波動などに対応するようにしているという。そして第3の柱である工場間の配送では、自動車部品などを取り扱っている。



 アトランスの設立は1979年(昭和54年)で、スタート当初は複数の大手路線事業者の集配業務のみを行っていた。しかし、経営状態はかなり厳しかったようだ。そこで2代目である渡辺社長が経営を引き継いでからは、路線事業者の下請けで集配業務をしながら、元請仕事を徐じょに増やしてきた。その結果、現在では荷主との直接取引が約60%、約40%が主にメーカー系の部品配送などで他の物流会社経由の仕事となっている。

 同社は本社営業所の他に藤枝営業所があり、保有車両数は45台(うち2台は軽トラック)、従業員数は48人(パートを含む)である。2015年3月期の売上予想は約6億5000万円で、売上は前期よりも下がるが利益率は改善できる見込みである。そこで4月の新年度からは、新たな目標を設定し、自社のノウハウや強みをより活かせるような事業展開を強化していく方針だ。


 その1つは、共同配送事業分野の拡大である。先述のように多様な運賃契約などを切り口に、共同配送に相乗りする荷主の開拓に力を入れる。共同配送は基本的には固定費を増やさずに売上を増やせる。そのため共同配送分野の荷主を新規に開拓すれば収益性の向上にもつながる。しかも、それぞれの荷主に応じた運賃契約による積み合わせという独自性も打ち出せる。

 もう1つは、家電の2マン配送のノウハウを活かすことで事業を拡大するという方針だ。ネット通販などが拡大している中で、エンドユーザーに向けたサービス展開を強化していく。現在でも一部では家具の2マン宅配を行っているが、家電や家具のように一般家庭への配送だけではなく、たとえばオフィス家具など法人向けの2マン配送も考えられる。実際に、そのような引き合いもすでに来ているようだ。

 このようにアトランスでは4月以降の新たな事業計画を策定して新年度に望む方針である。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>