運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第54回】 北陸トラック運送株式会社(福井県福井市)

4月からBtoC-EC物流に参入



 大企業などでは大幅な賃上げのニュースが流れている。だが、大部分のトラック運送会社にとっては、賃金を上げたくても上げられないのが実態であろう。そのような中で北陸トラック運送(本社・福井市、水島正芳社長)では、今年1月から勤続3年以上のドライバーに平均1%の賃上げを実施した。

 ドライバー不足は恒常的になっているが、同社では年間に50人ぐらいは応募者があり「十分ではないが、不足というほどでもない」(水島社長)。だが、今後は高校新卒者の定期採用なども考えているようだ。同時に、従業員の待遇改善にも努め、「可処分所得を上げなければならない」(同)という思いで、今年1月から賃上げを実施した。賃上げの対象者は勤続3年以上で、3年以上が日給100円、6年以上が日給200円、9年以上で日給300円である。勤続9年以上では月約7000円の賃上げになる。諸手当を含めた総支給額で算出すると、平均で1%の賃上げに相当する。

 北陸トラック運送は1972年の設立。本社の他に京都(久世郡久卸山町)、富山(富山市)営業所がある。京都、富山以外の営業所では、営業所に併設するかたちでホクトラ石川(石川県白山市)、ホクトラ名古屋(愛知県知多市)、ホクトラ福井(福井市高木中央)、ブルーライン(越前市)、ホクトラ嶺南(若狭町)という実運送会社がある。分社経営が同社の特徴の一つといえる。

 さらに運送以外の関連会社では北陸エフサービス(製造業)、水島物産(石油製品卸業)、北陸エージェンシー(損保代理店・修理や車検)がある。パート・アルバイトを含むグループの従業員数は約700人で、そのうち物流関係は約530人(正社員約280人)である。保有車両数はグループで344台(うち本社直轄は156台)で、半数以上が大型車となっている。2014年9月期の売上高は60億2790万円で、経常利益が1億4950万円。今期(9月決算)は売上高63億円を見込んでいる。


 運送部門における分社経営は「リスク分散が第1の理由」(水島社長)である。一時はホクトラ富山もあったが、4年前に本社に一本化し、現在では富山営業所という形にしている。しかし、富山営業所も採算が取れるようになったら再び分社化する予定という。

「ホクトラ名古屋だけは全く別の仕事をしていて、営業所的な役割ももっている」(水島社長)が、それ以外は荷主によって分社化しているというわけでもない。だが、「システム的には統一画面で受注やグループ全体の車両の状況が分かる」(水島社長)ようにしており、荷物(売上)は総て本部を通しているので、親会社と子会社間で売上の重複はない。取り扱っている荷物も多様で、日本郵便の郵便やゆうパックなどの幹線輸送、生協関係、福井経済連や全農物流などの農業関係、ビニール製建材メーカー関係、日用雑貨や紙製品など、ホームセンター関係、その他である。



 生協関係は関西からの引き取り幹線輸送と、地元物流センター内での個人宅単位の仕分け、および北陸3県の宅配デポ(13カ所)までの配送である。生協関係で灯油の宅配もしているが、それ以外の宅配は行っていない。その他の取引先も含めてBtoB物流が主である。

 このような中で、今年4月から本社センターを拠点にBtoC物流をスタートする。これは贈答品などを取り扱っている会社が荷主で、贈答品のメーカーからセンターに入ってきた商品を全国に向けて発送するという仕事である。スタート当初は、メーカーで包装した商品が同社センターに納入されてくる。届け先の顧客によって一部商品を組み替えたりする作業が伴うが、基本的にはスルーで、宅配便会社に委託して全国に発送するというもの。同社では当面は本社センターを拠点とし、作業人員なども現状のままでスタートするが、このBtoCの荷物をベースに、今後はネット通販物流にも参入していく方針だ。


 ネット通販物流への参入では取引先である地元の日本郵便とも検討をしており、ゆうパック扱いのネット通販会社の開拓も進める考えだ。また、今年3月には京都営業所で新たなセンターを借りたが、京都センターでもネット通販物流に参入したい考えのようだ。

 ネット通販物流への参入は流通形態の変化への対応でもあるが、同時に地元の事業者が行ってない分野で売上を増やすためでもある。地元の事業者はいずれも古くからの取引先を持っている。どの荷主にはどの事業者といったように、いわば勢力分布が長年固定している。そのような中で業績を伸ばしていくには、地元事業者と競合しない分野に進出を図らなければならない。その点、ネット通販物流を行っている事業者は、まだ地元ではほとんどいないのが現状である。「地元の営業エリアで地元の事業者とバッティングしない分野として、ネット通販物流に参入し、荷主の開拓を進めて行こうと考えている」(水島社長)。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:北陸トラック運送)