運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第60回】 なでしこTOKYO株式会社(東京都千代田区)

女性ドライバーを主力にして軽自動車配送



 ドライバー不足が懸念される中で女性労働力の活用が注目されている。また、大都市圏では配送車両が小型化する傾向もある。そのような中で、女性ドライバーを主力として軽自動車による配送業務を行っているのがなでしこTOKYO(本社・東京都千代田区、宮内由紀子社長)。配達時のマナーなどが厳しい配送を中心に事業展開している。

 同社の設立は2014年10月22日なので、今月でちょうど1年になる。会社を設立して約2カ月が経った昨年12月19日に「なでしこ」を商標登録出願し、今年6月26日に商標登録することができた。女子サッカーで知名度が高い「なでしこ」で、良く商標登録ができたと感心するが、「よく言われます」(宮内社長)とのこと。会社は設立したものの、募集はゼロからのスタートだった。むしろ営業活動の方が先行していたようで、マナーが重視される高額弁当の宅配など、女性ドライバーに向いた荷物の営業開拓に力を入れてきた。

 宮内社長が女性ドライバーに注目したのは、軽自動車による配送なら女性が活躍する場を拡げることができると判断したからだった。同社を設立する以前は事務代行などの業務請負業の会社を経営していて、主なスタッフは40歳以上の子育てが終わった世代の女性たちだった。子育て中の若い人たちは、小さな子供の世話があるため働くのが難しいからである。だが、40歳以上の人たちはパソコンでエクセルやパワーポイントなどを使えない人たちが多い。事務代行ではパソコンが使えないと仕事にならないために、人柄などは良くても採用できずに不採用としてきた人たちも多かった。「募集するとたくさん応募者が来るが、パソコンができないと採用できない。しかし、人柄が良い人たちが多かった。そこで、その人たちが働けるような仕事はないだろうかと考た。その結果、軽自動車による配送なら女性でもできると思った」(宮内社長)という。


 一方、軽自動車による配送のニーズがあることも分かり、なでしこTOKYOを設立した。設立当初から軽自動車の持ち込みを基本にし、女性ドライバーはプライベートでも使えるようにバン型の軽自動車である。軽自動車を持っていない人は、最初は月単位でレンタル契約し、3カ月ぐらい経って仕事を継続できると思った人には買取あるいはリース契約にしている。

 最初は人の紹介でドライバーを募集。今年3月4日から一般募集を始めた。現在は無料求人媒体とホームページのみで求人を行っている。ホームページはスマフォ用も開設している。今年の8月でみると約20人の応募者があった。応募者は男性と女性がほぼ半分ずつで、男性でも運送業は初めてという応募者が多い。だが、「運送業が未経験で真っ新な人に教育した方が良い」(宮内社長)という。現在の専属車両は20台で、そのうち女性ドライバーは半分の10人である。



 車両については、「取引先とは専属契約を基本にしているので車両に当社のカラーは施していない」(宮内社長)。これにはプライベートでも使用できるように、という理由もあるのだろうと思われる。女性ドライバーを希望するニーズは、高級品や無農薬食品系などに多い。たとえば2000円以上の高額弁当などである。このような高額な弁当は企業の会議で出す昼食とか、病院内への配送などのようだ。ホテルで作った朝食を新幹線のグリーン車内に配送する仕事もあるという。朝早い新幹線で出発する裕福な人たちの団体旅行客向けなどと思われる。このような高額弁当の荷主は、高級料理店との直接取引であったり、高級弁当を紹介するサイトの運営会社だったり、あるいは高級弁当の配送をしている会社を経由してオーダーが入ることもある。いずれにしても高額な弁当の配送などは配達員のマナーにも厳しい要請がある。そのため女性ドライバーの方が適しているという。


 女性ドライバーが働きやすい条件をどのように考えているのだろうか。

 「都心で積んで地元に帰る方向に配送するのが良いのだが、なかなか都合よくはいかない」(宮内社長)という。荷主開拓で力を入れているのは、専属契約で朝9時から夕方5時ぐらいまでの仕事である。できるだけ1日中働くことができるような仕事の開拓だ。

 また、収入を安定させるためにも運賃負担力のある荷物で専属契約ができるような荷主の開拓に力を入れている。「手取りの時給換算でパートの時給を超える収入が確保できるような仕事」(同)である。さらに「将来的には託児所などとの業務提携も必要と考えている」(同)が、そのためには経営基盤の強化が不可欠である。そこで付加価値を高めるために「ドライバーの人たちには荷物を届ける以外に、何か強さをもってもらいたいと考えています」(同)。たとえば「届け先で荷主の新商品を推奨したりできるようにしていきたい」(同)という。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:なでしこTOKYO)