運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第87回】 肥前通運株式会社(佐賀県武雄市)

佐賀〜首都圏の2マン運行で安全確保と車両稼働率向上


 労働時間の短縮で地方のトラック運送事業者は対応に苦慮している。フェリー利用や中継輸送システムの導入などを進めている事業者もいるが、長距離輸送から撤退する事業者もいる。そのような中で、逆に長距離輸送にシフトする戦略に転換したのは肥前通運(本社・佐賀県武雄市、松尾弘隆社長)だ。「県内の事業者が中距離、近距離輸送にシフトする中で、当社は逆転の発想で10年ぐらい前から長距離輸送へのシフトを図った」(西英勝専務)のである。同社の長距離輸送における特徴は2マン運行である。2マン運行は30数年前から行っており、以前は佐賀〜中部でも2マンだった。現在では採算面などから佐賀〜中部は1マン運行にしたが、佐賀〜首都圏は現在でも2マンで運行し安全の徹底を図っている。安全管理や労働時間短縮の面からみれば2マン運行は良いだろうが、はたして採算が取れるのか? というのは誰しもが抱く率直な疑問だろうと思われる。

 肥前通運のルーツをたどると1895年(明治28年)創業の宮原運送店にまで行き着く。その後、同運送店を核にして1943年(昭和18年)5月に戦時統合会社が設立され、現在の肥前通運となった。同社では戦時統合の1943年を創業年としている。同社を含むグループ会社は県内外に10社あり、祐徳グループを形成している。祐徳自動車(鹿島市)、鹿島機械工業(鹿島市)、祐徳旅行(鹿島市)、佐賀日産自動車(佐賀市)、光伸(大阪市鶴見区)、アイワ(佐賀市)、モトーレン佐賀(佐賀市)、祐徳バス(鹿島市)、祐徳通商(小城市)、そして肥前通運である。肥前通運は運輸事業部、商事部、通信機器販売事業の3部門からなっている。売上高は39億6500万円(2017年3月期)で、そのうち運輸事業部は11億3400万円である。これはJRコンテナのレール代や他の通運会社への支払いなどは売上として計上していないからである。


 運輸事業部の営業所は本社、鹿島、佐賀の3カ所。保有車両数は77台で、うちわけは大型車52台、普通車3台、小型車7台、20tトレーラ5台、シャーシ10台である。ドライバー数は77人で、「車両1台につきドライバーは1.2人で考えている」(西専務)。事業内容はトラック輸送(近距離、長距離)、引越、荷造り・梱包、倉庫、JRコンテナ(汎用・通風・冷凍・冷蔵)、海上コンテナなどである。取扱荷物では佐賀県下の米、麦、玉ねぎ、肥料、農業資材などJAがらみの荷物が多い。だが、リーマンショック以前から荷主の分散化を進めてきた。その結果、現在では農産物、工業製品、雑貨などバランスを考えた取り扱いにしている。トレーラは原則として近距離輸送で遠くてもせいぜい北九州や山口までで、海上コンテナ、JRコンテナ、工場への肥料の引き取りなどである。通運事業は鍋島駅発の荷物がほぼ100%で、同社が取り扱っている着の荷物はほとんどないという。

 肥前通運で特徴的なのは佐賀〜首都圏の長距離輸送を2マン運行にして安全管理を徹底していることだ。フェリー利用については「労働組合とも話し合って、現在の時点では陸送が主」(西専務)になっている。同社の佐賀〜首都圏の長距離輸送は大手事業者の拠点間輸送の仕事である。2マンでどのように採算を取っているのだろうか。「2マンで車両の稼働効率を高めて運賃収入を増やして黒字にしている」(西専務)という。車両の回転率を高めることで運賃収入を増やすという考え方だ。佐賀〜首都圏を毎日走行している車両は上り2台と下り2台の計4台。2人乗務なので、1人が休息している時間でももう1人のドライバーが運転を続けられる。また、1人が休息中でなければ、1人のドライバーが連続ハンドル時間に達して休憩しても、もう1人と交代してトラックは走り続けることが可能だ。このようにして佐賀〜首都圏の所要時間を片道17〜18時間にしている。


 1マンでは法令を順守すると5日運行だが、2マン乗務なら3日運行にできる。さらに「2マン運行で帰ってきた車両に、すぐ他のドライバーたちが乗務して走る。そのため当社の2マン運行の車両は年間の走行距離が30万qを超えています」(西専務)。ドライバーには労働時間の制約があるが、トラックはフルに稼働させてもかまわない。車両のオペレーションによる生産性の向上である。労働時間に関しても2マンの勤務ローテーションによって時間をクリアし、「所定内労働時間に収まっている。1車1人ではなかなか休みが取れないが、2マンなら休みが取れる」(同)からだ。同社では2マン乗務を前提に採用し、ドライバーの組み合わせは性格なども考える。さらに次の乗務員のために洗剤で運転席も掃除する。また全車両にハイルーフで空間の高い車両を導入し圧迫感を少なくしている。同社の2マン運行は同業者からの関心も高く「数社が視察に来ている」(同)という。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>