運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第90回】 菱木運送株式会社(千葉県八街市)

労働時間を見える化し「安心できる経営」目指す


 労働時間短縮は運送業界の大きなテーマである。だが現実はといえば改善基準告示を順守するために日々格闘しているのが大方の実態であろう。そこでデジタコをベースに車載器に運転時間などが表示できてドライバーにも分かり、事務所でもリアルで状況を把握できるシステムを開発・導入しているのが菱木運送(千葉県八街市、菱木博一社長)だ。システム開発の出発点は「安心して経営したい」(菱木社長)というもの。ドライバーは管理者の指示通りに運行しようとしても、思わぬ渋滞や長い待機時間、積込みや荷卸しの荷役時間などで予定通りにいかないことが多い。それに対して帰社後のデータに基づく指摘や指導では遅いこともある。そこでリアルで労働時間などを把握することができ、即時に時間調整などができるようにしたのが同社のシステムである。このシステムをメーカーと協力しながら約10年をかけて段階的に研究・開発してきた。

 同社の設立は1971年で、現在は保有台数42台(13t平ボディダンプ車6台、14tウィング車26台、7tウィング車2台、3tウィング車1台、2t車1台、トレーラウィング車6台)、従業員数は57人である。メインの取引先は大手の製粉会社で、横浜工場から飼料を横持ちしたり、やはり横浜のペットフード工場から自社の倉庫に運んでオーダーに基づいてペット用品問屋の倉庫や、ホームセンターの物流センターなどに納品するような仕事をしている。さらにホームセンターの仕事も行っている。保有車両にはダンプ車も多いが、これは家畜の飼料の原料となるふすま(麸)などを工場間輸送しているからだ。また、輸入合板も千葉、神栖、横浜から建材店に運んだり、ホームセンターの物流センター間輸送、センターへの引き取りなどをしている。ホームセンター間の輸送では、北は花巻、郡山、新潟、西は三重などへの輸送もある。ペットフードでは大阪にも輸送している。


 このような業務内容で長距離輸送は全体の40%強、関東圏内の輸送が約60%の割合になっている。長距離輸送では労働時間の問題がある。改善基準告示を順守するにはどうすれば良いか。「運行を見直せば改善基準を守れるかと言えばそうではない。運行を見直すことと改善基準告示が守れることとは別問題」(菱木社長)というジレンマに直面した。また、改善基準告示を守るという意識を経営者が持つのは当然だが、ドライバーに対してもその強い意志を示さなければいけない。同時に、荷主に改善などを要望する時に示せる説得性の高いデータも必要だ。また運送業にとって安全管理は最重要課題で、もし長時間労働などに起因する大きな事故を起こせば、中小事業者は状況が一変してしまう。このようなことから「安心して経営ができるようにするにはどうすべきか」(同)を考えたのである。そして「安心できる経営をシステム化し、誰でも同じレベルが保てるようにした」(同)。

 経営者とドライバーの双方に安心できる材料を提供し、「労働時間を短縮して安全も保てる」(菱木社長)ように開発・導入したシステムは、簡単にいうと以下のようになっている。たとえば車載端末器で日時状況をみると、連続運転可能時間、停止時間残余、拘束時間残、休息時間残、休憩残、点検、中間点呼、次回出勤可能時間などである。画面を切り替えて拘束時間確認を見ると、拘束時間残、15時間超過可能回数などが分かるようになっている。一方、事務所のパソコン画面では、運転手ID、運転手名、状態、車両名、エンジン、現在地、地図、詳細、拘束終了時間、休息/休日時間残、休日設定、連続運転残、休憩残(分)、日常点検、乗務前点検、中間点呼、乗務後点呼、日次警告数、日次エラー数、月次遵守率%などが一目で分かるようになっている。ドライバーによる車載端末器の操作はデジタコの操作と同じで、特別な入力はいらない。


 成果としては、1.ドライバー自身が時間を管理し改善基準告示の順守と労働時間の短縮が図られた。2.月1件ぐらいあった交通事故が年1、2件に減少した。3.取引先との関係では、リアルデータで待機時間が長ければ管理者が着荷主に連絡して改善を要請し、ダメなら発荷主に追加料金の交渉をする。4.ドライバーの家族にも安心感を与え平均勤続年数が延びてきた。また、自発的な労働時間の短縮では、「同じ仕事を短時間でやったら給料が減るのではおかしい。同じ仕事を短時間でやって同じ給料なら自ら工夫して効率化を進める」(菱木社長)。そこで同社ではみなしの固定残業代を含めて320時間の給料を支払っている。320時間に満たなくても同じ給料である。反対に320時間を超えることはないのか。残りの拘束時間なども把握できるので調整休日を導入して基本的には320時間以内に収める。オーバーしても数名のドライバーが年に数時間程度でしかないという。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>