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森田 富士夫氏(物流ジャーナリスト)

第三者に徹して客観的な立場から報道・言論活動を展開している専門ジャーナリスト



MBOなどによる上場廃止は何を意味するか?
2024/10/21 更新


 ずっと以前のことだが、ある上場企業の社長(創業家以外のプロパー社長)が「上場しなければ良かった」と本心を吐露したことがあった。理由は長期戦略に基づく先行投資などがしづらい。短期間での利益追求を求める株主がいるので、それに応えながら戦略的投資もするのは大変なのだという。つまり企業間競争に勝つためには先を見越して拠点構築や再編成などをする必要がある。だが、目の前の配当だけで「物言う」株主もいる。

 物流業界でも今年に入ってから非上場化をした(目指す)上場会社がある。エスライングループ本社とトランコムである。前社は今年5月にMBO(マネジメント・バイアウト=経営陣が参加する買収)の実施を発表。山口嘉彦社長が100%出資して設立した特別持ち株会社のトモエがTOB(テイクオーバービット=株式公開買付け)を行って非上場化した。報道によれば、非上場化で「2024年問題」への対応など柔軟な投資を進めるためという。

 トランコムも9月にMBOによる株式の非公開化を発表した。アメリカの投資ファンドのベインキャピタルと組んでTOBを実施するというのだ。これらMBOなどによる株式の非上場化の動きは、一般に「2024年問題」への対応とされている。もちろん「2024年問題」などによる業界再編成の一環であることは事実だろうと思う。だが、それだけだろうか? C&Fロジホールディングスの上場廃止は「合意なきTOB」が引き金だった。

 
昨年8月に発表された経産省の「企業買収における行動指針」では、「敵対的TOB」を「合意なきTOB」と換言している。ここからも分かるように、同指針では「合意なきTOB」をしやすくしたように理解できる。つまり一方的にTOBを仕掛けられた企業が不利になるような指針といえる。このようなことから同指針も非上場化の流れを促進する要素の一つになっているのではないだろうか。非上場化する企業が今後もでてくる可能性がある。



特定事業者は荷主・倉庫・運送で約4060社
2024/9/21 更新


 改正物効法では一定規模以上の事業者を特定事業者として指定し、中長期計画や定期報告などを義務付ける。そして中長期計画の実施状況が不十分な場合には、国が勧告や命令を実施する。この特定事業者の指定基準については国が政令で定めるとしているが、国土交通、経済産業、農林水産の3省による第2回合同会議で基本的基準が示された。特定事業者はトラック運送事業者によって運送された日本全体の貨物量の半分程度を占める事業者が対象。

 発着荷主と連鎖化事業者は、取扱貨物の重量が年間9万d以上で、上位3200社程度になる。そして荷主の特定事業者には、物流統括管理者の選任が義務付けられる。倉庫業者は年間の貨物保管量の合計が70万トン以上で、上位70社程度になる。トラック運送事業者は保有車両台数が150台以上で、上位790社程度になる。発着荷主と連鎖化事業者、倉庫業者、運送事業者を合わせると特定事業者は約4060社程度になる予定だ。

 特定事業者には中長期的に実施する措置と、具体的な措置内容を記載した計画を基本的には毎年度提出することが義務付けられる。ただし、計画に変更がない限りは5年に1度の提出で良い。具体的には「運転者1人当りの1回の運送ごとの貨物の重量の増加」「運転者の荷持ち時間の短縮」「運転者の荷役等時間の短縮」などに関して、@実施する措置、A具体的な措置の内容・目標等、B実施期間などを記載することが予定されている。

 
取り組みの実施状況は簡易的なチェックリストによって報告するようになる。また、発着荷主や連鎖化事業者などには、荷待ち時間などの改善の必要性を認識してもらう観点から、荷待ち時間などの状況について取り組みの実効性の担保と業務負荷の軽減の双方に配慮しつつ報告してもらう。国交省だけではなく荷主を管轄する経産省、農水省と3省で取り組んでいるこのような施策は、物流危機の表れであり、あとは事業者自身の姿勢にかかっている。



複雑なトラック運送業界の多層構造
2024/8/21 更新


 トラック運送業界の多層構造の是正が大きな課題の一つになっている。多層構造の下層の方で事業を行っている実運送事業者はかなり安い運賃で仕事を請けているのが実態だ。それを可能にしているのがドライバーの長時間労働と低賃金(ほとんどは歩合制賃金)だった。だが、残業時間を短縮し、賃金も全産業並みに引き上げるのが「2024年問題」である。そのためには実運送事業者が収受する運賃を高くしなければならない。

 このようなことからトラック運送業界の多層構造の是正が必要になっているのだ。しかし、多層構造を調べていくと単純に下請の連鎖が続いているのではなく、実に複雑な構造になっていることが分かる。複雑にしている一因がいわゆる「水屋」の存在である。「水屋」は古くて新しい問題ともいえる。業界ではしばしば「水屋」と表現しているが、実は「水屋」の一般的な定義はない。話す人によって概念が様々で、聞く側の人の解釈もまちまちだ。

 「元請事業者に対する実運送体制管理簿作成の義務化」に関連した一連の仕組みを見ると、荷主企業→元請事業者→下請事業者(実運送事業者)と2次下請けまでを前提にしているように思える。多層構造是正に向けて、3次下請け以下は想定されていないと理解すべきだろう。それは良いのだが、問題は2次下請けまでの取引における「水屋」の介在である。元請事業者が「水屋」ということもあるし、2次下請けが「水屋」ということもある。

 
「水屋」の定義がないのでややこしいが、求車・求貨マッチングも「水屋」とすると、荷主から運送業務を請けて実運送事業者に仕事を出す場合には2次下請けの範囲内になる。だが、マッチング業者は運送契約には関わらず求車・求貨をネット上でマッチングして手数料を取るだけなら、契約上は実運送事業者が2次下請けだが、実質的には3次下請けという形になってしまう。多層構造の是正には「水屋」の概念と位置づけを明確にする必要がある。



増加するTOB(株式公開買い付け)と企業価値
2024/7/21 更新


 C&Fロジホールディングスに対するAZ-COM丸和ホールディングスの敵対的TOB(同意なき株式公開買い付け)は不成立に終わった。3月にAZ-COM丸和が1株3000円での買収を公表したが、SGホールディングスが1株5740円で対抗TOBを表明した。それに対してC&FロジはSGの提案に賛同。SGとC&Fロジは5月31日に共同記者会見を開いた。記者会見の案内が直前だったので、筆者はリモートで記者会見に参加した。

 AZ-COM丸和が同意なきTOBを3月に発表した時、「ついに強硬手段にでたか」と受け止めると同時に、直感的に「AZ-COM丸和のTOBは失敗する」と思った。結果的には「直感」が当たったことになるが、ただ、ホワイトナイトがSGになるということは全く予想もできなかった。筆者がAZ-COM丸和によるTOBの可能性についての情報をはじめて掴んだのは2021年12月上旬。だが、その時点ではまだ現実的には受け止められなかった。

 その約1年前の2020年9月末にC&Fロジの当時の社長が辞任している。この辞任した社長が2021年12月時点ではAZ-COM丸和にいるという情報も耳にしていた。このような中で状況を大きく変えたのは、昨年(2023年)8月に経済産業省が策定した「企業買収における行動指針」だった。同指針では「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」を求めている。「敵対的買収」は「同意なき買収」とされ、買収側に有利な条件が示された。

 
そこでAZ-COM丸和は短期決着を目指した。専門家によると3000円はかなり安い値段という。評価額は株価だけではなく、その算定には時間がかかる。そこでAZ-COM丸和は短期決戦で安く買収しようとしたのではないか、というのが大方の見方である。実際、その後に名乗りを上げた企業の多くが短期での評価が難しいため撤退している。最後に残った4社はいずれも5000円台を提示したと推測される。5740円は高くはないようだ。



「実運送体制管理簿」は下請だけでなく元請の淘汰も
2024/6/21 更新


 「流通業務総合効率化法(効率化法)」と「貨物自動車運送事業法(事業法)」が改正された。効率化法のポイントは、@発着荷主や物流事業者(トラック・鉄道・港湾運送・航空運送・倉庫)に物流効率化のため取り組むべき措置の努力義務(荷待ちや荷役時間の短縮、積載効率向上などの判断基準を策定)、A一定規模以上の特定事業者に中長期計画作成や定期報告を義務化、B特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任を義務化などである。

 事業法改正のポイントは、@元請事業者に実運送体制管理簿の作成を義務化、A荷主・運送事業者・利用運送事業者に提供する役務の内容や対価など書面交付の義務化、B運送事業者や利用事業者に他の事業者の運送利用の適正化についての義務化(一定規模以上の事業者には適正化に関する管理規程作成や責任者選任を義務付け)、などである。ここで特に注目すべきは実運送体制管理簿の作成である。そこで管理簿作成の義務化の狙いを考えよう。

 実運送体制管理簿の作成では、実運送事業者の名称・下請次数・貨物内容・運送区間などの把握を元請事業者に義務付けた。また、下請事業者や実運送事業者(2次下請)には元請情報などを通知。実運送事業者には実運送事業者情報を元請事業者に通知させる。これを見ると、実質的には2次下請までしか想定されていない。3次下請以下はダメとは明文化していないが、2次下請以内に抑えて多層構造を是正しようとしているように読み取れる。

 
3次下請以下の事業者は現状のままでは淘汰される。同時に実運送体制管理簿は「標準的運賃」と関連づけて考える必用がある。従来は荷主と元請間の運賃からマージンを引いた金額で下に仕事を出すという引き算の連鎖だった。だが標準的運賃は実運送事業者の運賃である。すると、順次マージンを足し算することなり、下請事業者が増えるほど荷主と元請事業者間の運賃が高くなる。2次下請以内で運べない元請事業者も淘汰されることになる。



荷主と事業者間取引も下請法適用へという新動向
2024/5/21 更新


 4月から、働き方改革関連法によるトラックドライバーの年間最大残業960時間と、改正「改善基準告示」が施行になった。いわゆる「2024年問題」だ。従来と同じ荷物を問題なく運ぶためには、これまでよりも多数のトラックドライバーが必要になる。現在働いているドライバーの労働時間短縮と賃金アップ、さらにドライバーを増員するには人件費の増加が伴う。「標準的な運賃」を目安に運賃交渉するなど、原資の確保が不可欠である。

 だが、トラック運送業界は保有車両数10台以下が約55%、11台〜20台が約21%といったように中小規模の事業者が多い。規模の大きな荷主企業や、大手の元請事業者と対等の立場で価格交渉するのが難しい実態がある。そのため荷主や元請事業者との取引環境を変えなければ、「2024年問題」をクリアするために必要な原資の確保が困難だ。このようなことから中小規模のトラック運送事業者をバックアップする関連法令が改正された。

 一つは「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(流通業務総合効率化法)」であり、もう一つは「貨物自動車運送事業法(事業法)」である。それぞれ一部改正されて、流通業務総合効率法は6月1日、事業法は8月1日から施行になる。改正内容についての詳細は割愛するが、いずれも中小トラック運送事業者をバックアップする内容である。新しい「標準的な運賃」も含めて、ここからは事業者自身の行動力が試されることになる。

 
さらに新たな動きとしては下請法改正がある。自民党政務調査会、中小企業・小規模事業者政策調査会は「中小企業・小規模事業者政策調査会提言(案)」を、また競争政策調査会も含め「構造的な価格転嫁の実現に向けた提言(案)」をまとめた。この中では荷主と物流事業者間の取引についても下請法の対象にするよう検討すべき、としている。同提言は政府に提出されて骨太の方針として来年の通常国会に上程されるのではないかと推測される。



3月31日から4月1日へ「転換の年」スタート
2024/4/21 更新


 昨年(度)は「2024年問題」が注目された。マスコミも取り上げたので、まともな荷主企業は対応策を実施しつつある。また、ごく一部ではあるが一般の人たちにも「2024年問題」が注目されるようになった。もちろん、トラック運送事業者は労働時間短縮への取り組みを進めてきた。そのような中で4月になったが、年間最大残業960時間や改正「改善基準告示」の施行など法令が変わっただけで、それ以外は淡々と新年度を迎えた観がある。

 すでに「2024年問題」をクリアした事業者もいるが少数で、まだクリアできていない事業者の方が多い。そして諦めてしまった事業者も存在する。年間残業960時間や改正「改善基準告示」をクリアしている事業者にいわせると「今さら遅いよ!」ということになる。たとえば960時間に関していえば、「5年の猶予期間などは6年前から分かっていたこと」である。その間に何らかの対応ができなかった事業者は、今さら遅いというのである。

 たしかに遅いことは事実だが、それでも労働時間短縮に取り組んでいる事業者には頑張ってもらいたい。できるだけ早く労働時間を短縮し、健全経営を実現してほしいものだ。一方、すでに「2024年問題」をクリアした事業者は次の段階に向かって歩き出している。年間残業720時間への取り組みである。そのための対策として、たとえば2日運行なので法的に問題ないが、中継システムを導入して日帰り運行にする取り組みなどがそうである。

 
いずれにしても運賃・料金の値上げなどで原資を確保しなければ労働時間短縮は実現できない。そのために「標準的な運賃」の値上げや、その他、行政からの様々なバックアップがある。これだけの追い風の中で運賃交渉ができない事業者は、今後、経営の継続が難しくなるだろう。そのような業界構造の変化も含めて、4月1日は「転換の年(度)」のスタートである。M&Aも活発化してきた。業界構造自体も転換期に突入したといえる。



中小企業への賃上げ要請は運賃交渉の好機
2024/3/21 更新


 最近、取材先の事業者からトラックGメンという言葉を聞くようになってきた。ある事業者によると、運賃値上げや取引条件の見直しの交渉に応じない荷主がいるというのだ。交渉の結果がどうなるかは別だが、話し合いに応じようとしないのはおかしい。そこでこの事業者は「どうしても話し合わないというのであれば、最後はトラックGメンに告発しようと思っている」という。トラックGメンの取り組みが業界に浸透してきた証左といえる。

 そんな話を聞くと、小学生のころを思いだして苦笑してしまう。いたずらをしたりしている子がいると、「言ってやろ、言ってやろ、先生に言ってやろ」とか、「いけないんだ、いけないんだ……」などとはやし立てたことがあった。同じように最近は、事業者の一部から「言ってやろ、言ってやろ、Gメンに言ってやろ」という雰囲気が感じられるようになってきたのである。それだけ行政の本気度が違ってきていることが実感されているのだろう。

 だが、ある事業者の話しによると、同社にトラックGメンが来た。同社だけではなく、その荷主と取引している事業者のところには行っている。さらにトラックGメンは荷主も訪ねた。だが、勧告などはなかったという。ところが、である。その後、荷主は「犯人捜し」を始めた。その事業者によると、チクッタのは誰かと「厳しく追及された」ようだ。犯人探しなどをした場合、それだけで勧告の対象にするようにすればよい。

 
トラックGメンに限らず、公正取引委員会の最近の動きを観ていると、首相官邸の意向がかなり強いなと感じる。内閣支持率の浮揚策として、内政面では中小企業においても大幅賃上げが実現するように、経済界に働きかけている。それを反映して公取委は「下請法」違反の勧告を出しているように思えるからだ。その影響は運賃などの面にも反映されてくる。このような背景を追い風として、今こそ運賃・料金の値上交渉をしていくべきだ。



能登半島地震と緊急物資輸送
2024/2/21 更新


 新年早々の1月1日16時10分ごろ、最大震度7の能登半島地震が起きた。この地震とそれに伴う津波、さらに地盤隆起などによって能登半島を中心に広域で家屋の倒壊や火災など甚大な被害が発生した。1カ月以上経った現在も、復興はもとより、復旧も半ばである。お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災者のみなさまにはお見舞い申し上げます。このような大災害のたびに、緊急物資輸送が大きな課題になってくる。

 能登半島地震では、半島という地理的な条件が救助体制や緊急物資輸送を困難にした。被害の大きかった珠洲市や輪島市は半島の先端の方だ。道路網も限られ、しかも被害が大きかった。鉄道も現在は途中の穴水駅までしか路線がなく、そのうえ一時は羽咋駅〜和倉温泉駅が被害を受けて復旧まで時間がかかった。海上輸送にしても、地盤の隆起などで海岸線がズレて使用できなくなった漁港もある。このような条件の中で緊急物資輸送が行われている。

 今回の緊急物資輸送のスキームは、物資供給者から石川県の物資拠点(石川県産業展示館)までが一時輸送で、供給者が自ら確保した輸送手段と、国が全ト協経由で手配した運送事業者による輸送がある。県の拠点から市町の物資拠点までが二次輸送で、自衛隊による輸送と石川県が県ト協経由で手配したトラック輸送がある。市町の拠点から避難所や要支援集落までが三次輸送で、自衛隊や市町の職員による輸送と、宅配事業者などによる輸送がある。

 
このうち一次輸送を見ると、国から全ト協経由で物資を運んだ車両数が意外に少なかったのが特徴的だ。これは過去の震災時の教訓から、物資供給者が個別に運送事業者と提携して緊急時の輸送体制を整えてきたことによるものと推測される。また、県の物資拠点では当初、県と国からの派遣による二重指揮によって多少の混乱があったようだ。だが、3日目には専門的な人員が加わったことで物資がスムースに流れるようになったという。



2024年4月以降も続く「2024年問題」
2024/1/21 更新


 昨年のトラック運送業界は「2024年問題」に始まって「2024年問題」で過ぎた1年ともいえる。テレビや新聞なども「2024年問題」をとり上げたので、物流に対する意識の高い荷主企業や、ごく一部の国民も関心を持つようになったことは事実だ。だが、荷主企業の多くはまだまだ「2024年問題」を切実には感じていない。まして大多数の一般国民にとっては、全く関心外のことと言える。それが現実の実態だ。

 では、トラック運送業界はどうだろうか。さすがに「2024年問題」を知らないという事業者はいないだろう。しかし、認識には大きな差がある。一般論としては「2024年問題」を知っていても、具体的な対応という点では、各事業者間で格差が拡がっている。2024年になった現在でも、何をどうしたら良いのかが分からないという事業者は少なくない。また、完全に諦めてしまった事業者もいて、今でも「安売り」を展開している。

 一方、2024年4月が間近に迫った昨今でも、「2024年問題」をテーマにしたセミナーが相変わらず多い。だが、同じ「2024年問題」がテーマでも求める内容は違ってきた。最近は「2024年問題」にどのように対応するかではなく、2024年4月以降の取り組みなどについての話が求められるようになってきた。これは当然といえば当然だ。では、2024年4月以降の「2024年問題」とは何であろうか。

 
実は2024年4月以降の「2024年問題」も取り組むべき課題はこれまでと同じなのである。たとえば年間最大残業960時間をクリアした事業者は、次の720時間に向けた労働時間短縮が必要だ。960時間を未達の事業者はできるだけ早くクリアするようにしなければならない。同時に、賃金は下げない(いずれは賃上げをする)ために、荷主や元請事業者と運賃交渉をする。これらを今後も継続していくことが、やるべきことである。



ホームページ(デジタル版会社案内)
2023/12/21 更新


 取材を申し込む前に候補企業に関する既存情報を収集する。可能な情報を入手して取材するかどうかを判断するのである。このような予備取材や予備調査は当然のことである。しかし、以前と変わったのは「既存の情報」が多様になったことだ。と言っても昔は印刷物だったものが、現在ではそこにネット情報が加わったことである。それだけ予備情報の入手方法が増えたことになる。現在のホームページはいわば昔の「会社案内」に相当するだろう。

 昔の「会社案内」は代表者の挨拶、売上などの会社概要、会社の沿革、倉庫や保有車両数などの設備、主たる取引先や提供している業務の内容などを印刷したパンフレットや小冊子などだった。その後、ネットが普及してくるにしたがってホームページを開設する事業者が増えてきた。ホームページを開設した当初は、昔の「会社案内」を印刷物からネットにしただけのような内容だった。いわば媒体が違っただけで、内容は以前とほとんど同じ。

 だが、最近は少しずつホームページの内容が変化してきた。ほとんどが企業間取引の運送事業者にとって、ホームページから新規の取引が始まるといったケースは少ない。したがって営業開拓用の内容よりも、リクルート対策に重点をおいた内容にシフトしつつあるのだ。動画を採り入れたり、X(旧ツイッター)や従業員のブログ、中にはYou Tuberのドライバーがいたり、最近はインフルエンサーといった従業員もいてリクルートに貢献している。

 
ある中小事業者は今年の夏から、地元のプロの動画カメラマンと契約して自由にセンター内の作業風景などを収録させ、その動画をホームページにアップするようにした。取引先との守秘義務などに抵触しない範囲ではあるが、「自分たちには当たり前の作業風景も、業界を全く知らない人の眼には斬新に映るようで、自分たちが気づかなかったり、再発見することもある」という。ホームページ(会社案内)も時代の変化に即応することが必要だ。



高速道路の大型トラック考
2023/11/21 更新


 9月の当ブログに書いたように、大型トラックの高速道路速度規制の見直しが検討されている。現行の最高速度80q/時走行を引き上げよう、という検討である。筆者は反対で現行通りの80q/時で良いと思っている。取材によると運送事業者も反対が多数だ。第一には安全、第二にはドライバーの労働強化につながる、という意見が多い。だが、一部の事業者は最高速度を100q/時にしたいようで、労働時間短縮になるというのが理由だ。

 そんなことで最近は、高速道路を走ると大型トラックの運転を注意してみるようになった。そうしたら速度とは関係ないのだが、Gマークを付けたトラックで、よくみると有効期限が切れたGマークを付けているトラックを何台かみた。幸いなことに? Gマークの認知度が低い。だから一般の人たちには気づかれないだろうが、認知度が高かったら、「大きな事故でも起こしてGマークが更新されなかった会社だろう」と思われてしまうだろう。

 そこでスピードの問題である。走行車線を80q/時で走行していると、後ろから来た大型トラックが追い越していった。あれ? 大型トラックは80q/時走行のはずだが! と思ってしまう。当方は80q/時でずっと走っている。大型トラックが追い抜くわけがないのにである。追い抜いて前に来たのでみたら、なんとGマークが貼ってあった。有効期限内である。だが80q以上のスピードで走って行ったのでダンダン車間距離が離れた。

 
スピードリミッターは90q/時のはずだが、不思議なことに90q/時以上で走っている大型トラックがいる。一方、走行車線を80q/時で定速走行している白ナンバーの大型トラックもいる。もちろん営業ナンバーの大型トラックでも80q/時で運転しているドライバーが多い。90`メートル/時以上で走っている営業用の大型トラックは恥ずかしくないのか。また、トラックの後ろのナンバーは全体的にみづらいのも気になる。



「2024年問題」対応格差の拡大
2023/10/21 更新


 2024年3月末まで残すところ約5カ月になった。最近はマスコミでも「2024年問題」を取り上げる頻度が増え、荷主企業だけではなく、一般の方がたの一部も「2024年問題」に注目するようになってきた。とくに、まともな荷主企業では物流担当者だけでなく経営トップも「2024年問題」に強い関心を示している。自社の物流がどうなるかは今後の企業活動に大きな影響を及ぼすからだ。もし運べなくなったら経営問題になってくる。

 「2024年問題」が社会的にクローズアップされることはトラック運送業界にとっては喜ばしいことである。運賃値上げや付帯作業料金の有料化、待機時間の短縮など荷主交渉において有利な追い風として作用するからだ。だが、このような絶好の機会に取引先との交渉をしていない事業者が多い。すでに労働時間の短縮などがかなり進んでいるのならそれでも良いが、このような事業者に限って「働き方改革」には程遠いような現場の実態がある。

 現在のトラック運送業界をみると、「2024年問題」をめぐって事業者間に格差が生じている。@すでに年間残業960時間や改正改善基準告示をクリアしている事業者、A来年3月末までにはほぼ対応できる見通しの事業者、B努力して取り組んでいるがリミットまでにクリアするのは難しい事業者、Cとても対応ができないと半ばあきらめて取り組んでいない事業者の4つだ。これらの事業者間で格差が広がりつつあるようにみえる。

 
あくまで個人的な観測だが、@は極めて少数、Aもかなり少数、Bが圧倒的多数、Cもかなり多い。このままで2024年4月を迎えたら、この格差はさらに拡大することが予想される。とくにCの事業者は、従来のように「何とかなるだろう」というわけにはいかなくなる。つまり存続が厳しい状況になる可能性が否定できない。ここは何としてでも労働時間短縮に取り組み、それでも賃金を下げないように原資の確保に努力しなければならない。



大型トラックの高速道路速度規制引上げの是非
2023/9/21 更新


 前々回の当欄で「高速道路の速度規制引上げへの疑問」を書いた。今回はその後の取材を含めた再考である。「高速道路のトラック速度規制(80q/h)の引上げ」に対して、多くの事業者は驚きと、なぜ? という疑問を感じている。スピードリミッター装着を義務づけ、時速80q走行(追い越し時は90q)が浸透してから、高速道路における大型トラックによる死亡事故などは減少してきた。それを、「なぜ今さら見直すのか」という事業者は多い。

 一方、速度規制の引上げを要望してきた事業者もいる。時速100q(追い越し時は110q)にすれば、たとえば東京〜大阪間なら現在よりも2時間の短縮になる。往復ならドライバーの労働時間は4時間の短縮だ。労働時間短縮のために、速度規制を引上げるべきだ、というのが大きな理由の一つである。また、速度を緩和すれば、追い越し時などの並走距離を短くできることも、ドライバーのストレス緩和になり、安全性も高まると主張する。

 それに対して速度規制の引上げに反対する事業者は、事故リスクが増大し、ドライバーの精神的疲労による労働強化などを指摘する。「働き方改革」とは逆行するという意見である。中には「2024年問と従業員の生命を天秤にかけるわけにはいかない」という事業者もいる。それに対して、速度を上げれば労働時間を短縮でき、運ぶ荷物は同じなので運賃収入も変わらない。歩合賃金も減らさなくて良い、という安易な事業者がいることも事実だ。

 
だが、そうとは限らない。20qの走行速度の差は、一般的に燃費が約20%悪化するといわれる。その燃料コストを誰が負担するのか。コスト増で経営が苦しくなっても、荷主や元請事業者に転嫁できずに、立場の弱いドライバーの歩合の比率を下げるという結果になるものと予想される。それでは本末転倒だ。「2024年問題」の本質は、全産業並みの労働時間で全産業並みの収入の実現のはずだ。さて、速度引上げ検討の「落とし所」は?



「店着価格制」の弊害は一部の発荷主にも
2023/8/21 更新


 「物流革新に向けた政策パッケージ」の3つの施策のうち商慣行の見直しの中で、商品の販売価格に物流費を含めている日本の一般的な商慣行の弊害についても触れている。いわゆる「店着価格制」の見直しである。これはネット通販における「送料無料」の表示とも共通する点があるが、ここでは「店着価格制」の弊害について具体的な事例を紹介することにしよう。実は、この「店着価格制」で困っている一部の発荷主がいることが分かってきた。

 「店着価格制」では、売買される商品価格と物流コストが分離されていないことが、物流面における弊害の原因になっている。ほとんどの場合、運送事業者の取引先は発荷主だ。つまり、発荷主が運送事業者の顧客である。一方、事業者にとって着荷主は顧客の顧客という関係になる。そして発荷主は着荷主に対して物流コスト込みの価格で商品を販売している。するとドライバーが納品先で本来は契約にない付帯作業などを要請されても断れない。

 そのような納品先での付帯作業などがドライバーの労働強化の一つにもなっている。だが、それで困っているという発荷主も一部には存在する。商品の仕入れ先を決める入札の仕様の中に、納品時の付帯作業が条件の一になっているケースがあるのだ。しかも、一梱包で最低でも10s以上ある荷物を何個も、階段で2階の指定場所まで運ぶのはかなりきつい(ほとんどの納品先がエレベータを使わせない)。そのため運送会社から敬遠されている。

 
「2024年問題」以前から、発荷主は入札の仕様から納品時の付帯作業をなくすように要請してきた。だが、「納入業者は他にいくらでもいるので、嫌なら入札に参加しなければ良いと言われる。商売のためには仕事をとらなければならない」と嘆く。この業種業態では、そのような荷主が1社だけではないのだ。この悪しき商慣習を見直すため、「2024年問題」を機に発荷主と運送事業者が連携して、着荷主に働きかけていくことを検討している。



高速道路の速度規制引き上げへの疑問
2023/7/21 更新


 トラック運送業界を巡る動きはかつて経験をしたこともないようなスピードで進行している。前回も書いたが「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が設置され、2カ月余で「物流革新に向けた政策パッケージ」が出された。ほぼ同時に事業法が改正され、2024年3月末までの時限措置だった「標準的な運賃」と「荷主対策の深度化」の延長が決まった。さらに「トラックGメン」の設立である。

 かつてこれほどのトラック運送業界に対するバックアップがあっただろうか。これらの対応は政府・行政の「2024年問題」に対する危機感の表れと言って良い。一連の施策は、トラックドライバーの「働き方改革」を推進しようとしているトラック運送業界にとって「追い風」になることは事実だ。だが、「働き方改革」の趣旨に照らすと疑問に思わざるを得ない内容もある。その最たるものが高速道路のトラック速度規制の引き上げだ。

 政策パッケージの物流効率化の中に、「高速道路のトラック速度規制(80q/h)の引上げ」とあるのを見て驚いた。知り合いの経営者の殆ども「働き方改革」への逆行という認識で一致している。なぜ? 高速道路速度規制の引き上げが政策パッケージに入ったのか、疑問に思っている事業者は多い。もちろん賛成者もいる。荷主との取引条件の改善を実現できず、労働時間を短縮するとドライバーの収入を減らさざるを得ないような事業者である。

 
また、荷主や元請事業者の一部には賛成者もいる。下請への支払いを増やさずに、下請けの労働時間を短縮させ、ドライバーの歩合制賃金もそのままにできるからだ。だが、走行速度が上がれば事故のリスクが増え、ドライバーの精神的疲労も増す。つまりドライバーの労働強化によって荷主や元請事業者の一部は下請事業者への運賃支払いを抑え、下請ドライバーの時間短縮と賃金維持を図ろうとするものだ。それに燃費も違ってくる。



「物流革新に向けた政策パッケージ」と事業者
2023/6/21 更新



 当コラムの4月21日で、政府が「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置したことを書いた。早速6月2日には、緊急に取り組むべき対策を「物流革新に向けた政策パッケージ」として発表した。「政策パッケージ」の施策の骨格は@商慣行の見直し、A物流の効率化、B荷主・消費者の行動変容の3点である。行政がここまで迅速に総合的な施策を打ち出すということは、持続可能な物流構築がいかに喫緊の課題かを示している。

 ポイントを要約すると、商慣行の見直しでは荷待ち・荷役時間の削減などに向けて法的措置なども導入、加工食品における納品期限の3分の1ルールの見直し、物流コスト込みの取引価格などの見直し、業界内の多層構造の是正に向けた規制的措置などの導入、荷主・元請の監視強化体制としてトラックGメン(仮称)の創設、適正運賃収受・価格転嫁円滑化などの取り組み、「標準的な運賃」制度の拡充・徹底。かなり踏み込んだ内容である。

 物流の効率化では、即効性のある設備投資の促進、物流GXの促進、物流DXの促進、物流標準化の促進、物流拠点の機能強化や物流ネットワーク形成の支援、高速道路のトラックの速度規制の引き上げ、利用しやすい高速道路料金の実現、特殊車両通行制度に関する見直し、ダブル連結トラックの導入促進、集配車両の駐車規制の見直し、共同配送の促進、軽トラック事業の適正運営や輸送の安全確保に向けた取り組み強化、多様な人材の活用など。

 
荷主・消費者の行動変容では、荷主の経営者層の意識改革や行動変容を促す規制的措置などの導入、荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設、消費者の意識改革・行動変容を促す取り組み、再配達削減に向けた取り組み、物流に係る広報推進である。これらは事業者にとって「追い風」だ。だが、事業者自身が従来のように「何とかなる」といった甘い考えでいると、一気に「向かい風」に転じて存続が問われる事態にもなりかねない。



「標準的な運賃」を活用した交渉で一定の前進
2023/5/21 更新



 国土交通省は「標準的な運賃」に係る実態調査の結果を公表した。これは原価計算の実施状況や標準的な運賃の運賃交渉への活用状況、交渉の結果などについてアンケート調査をしたもので、調査対象は全日本トラック協会の会員事業者(5万1657者)と、ホワイト物流推進運動で把握している荷主企業(486票)である。調査期間は2月7日〜3月31日で、回収率は事業者が8.5%(4401票)、荷主が30.9%(150票)だった。

 2022年度では回答した事業者のうち運賃交渉をした事業者は約69%で、そのうち荷主から一定の理解が得られた事業者は約63%だった。つまり回答した事業者全体のうち運賃交渉して荷主から一定の理解を得られた事業者は約43%になる。前年度の調査では運賃交渉した事業者が約52%、うち一定の理解が得られた事業者は約33%だったので回答事業者の約15%しか理解を得られていなかった。1年間で前進したという結果だ。

 一方、荷主企業では、標準的な運賃の計算方法や金額などを理解しているが約27%、標準的な運賃の金額のみを理解しているが約44%、原価計算の方法だけを理解しているが約3%で、合わせて約74%の荷主が知っていると回答している。そして、事業者から新たな運賃を提示されたが約61%(前年度は約31%)、新たな運賃を受け入れた(一定程度受け入れたを含む)が約91%(前年度は約62%)という結果だった。

 
調査結果では2021年度より2022年度は運賃交渉や運賃値上げが前進している。だが、回答した事業者はあらゆる面で前向きな事業者であり、また、荷主企業もホワイト物流推進運動に参加している企業であること。さらに事業者内部の元請、下請といった多層構造が反映されているのかどうかが分からない。そのため実態よりも良い結果が出ているものと推測される。なお、回答事業者の約76%は標準的な運賃制度の延長を希望している。



「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」
2023/4/21 更新



 今年に入ってからテレビや新聞なども「2024年問題」を取り上げるようになり、社会的にも少しは関心が持たれるようになってきた。とはいえ「2024年問題」を真剣に受け止めている荷主企業はまだ少なく、現実には問題意識の低い発荷主、着荷主が多いことも事実ではある。ともあれ「2024年問題」はトラック運送事業者、発着荷主など当事者だけでは解決できない問題であり、サステイナブルな物流の構築は社会的な課題になっている。

 そのような中で、3月31日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が設置され、初会合が開催された。同会議の構成は内閣官房長官を議長に、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣を副議長として、構成員は内閣府特命担当大臣(消費者および食品安全担当)、国家公安委員会委員長、厚生労働大臣、環境大臣といったメンバーである。さらに公正取引委員会委員長の出席も求める、となっている。それだけ大きな問題という位置づけの表れだ。

 この会議で岸田総理大臣は概ね以下のような発言をした。@荷主・物流事業者間などの商慣行の見直し、A物流の標準化やDX・GXなどによる効率化推進による物流生産性の向上、B荷主企業や消費者の行動変容を促す仕組みの導入を進める抜本的・総合的な対応の必要、などである。さらに1年以内に具体的成果が得られるように、6月上旬を目途に、緊急に取り組むべき対策を「政策パッケージ」として取りまとめることを指示した。

 
会議では「物流をめぐる現状と課題について」、@物流業界の現状、Aトラックドライバーの働き方をめぐる現状、B自動車運送事業における時間外労働規制見直し、C労働時間規制による物流への影響、D物流危機に対する認知度などについて説明があった。ほぼ「持続可能な物流の実現に向けた検討会」(農林水産省・経済産業省・国土交通省)のまとめに基づいた内容だ。そして、前述の総理発言の3項目に沿って検討する方向性が打ち出された。



インボイスは「白トラ」排除のチャンス
2023/3/21 更新



 インボイス導入はトラック運送業界に大きな影響をもたらすものと推測される。もちろん一般貨物運送事業者は年商1000万以上なので、これまでも消費税を納めていたはずだ。したがってインボイスが導入されても、事務的な処理が煩雑になることを除けば大きな影響はない。だが、軽貨物運送の自営業者に仕事を出していると様々な影響が出てくる可能性がある。自営業者がインボイス登録するか否かなどで実務的処理が異なってくるからだ。

 というのは軽貨物運送の自営業者は年商1000万円以下がほとんどで、500万円に満たない自営業者が圧倒的に多いと思われる。これらの自営業者に消費税を支払っていたか否かである。消費税を支払っていた事業者もいれば、支払っていなかった事業者もいる。後者は、後付けになるが善意に解釈すれば「内税」で支払っていたという言い訳も可能だ。だが、今度はそうはいかなくなる。従来の支払い金額とは別に消費税を払うことになる。

 一方、軽貨物運送では確定申告をしていない自営業者が多い。正確な数は把握できないが、30〜40%という業界関係者の推測もある。当然、税金を払っていない。また、健康保険の支払いも厳しいような自営業者もいるという。そのような自営業者に消費税が支払われるようになっても、1年間プールしておいて一括して収めることは難しい。このようなことから来年(2024年)の確定申告後に撤退する自営業者が増えると予想される。

 
これは同時に、自家用ナンバーのトラックを持ち込んで仕事を請けている「白トラ」をなくすチャンスでもある。「白トラ」を安く使っている事業者や「名義貸し」をしている事業者も含めてメスを入れるキッカケにできる。法令順守の徹底は運賃水準の向上など、トラック運送業界の健全化につながるだろう。インボイス導入をそのような業界正常化に向けた好機としてとらえることもできる。すべては法令順守の徹底的な監視にかかっている。



軽乗用車による有償貨物輸送の影響は?
2023/2/21 更新



 これまでは軽自動車を使って有償で貨物輸送するには、届出をして黒ナンバーを付けた貨物軽自動車が必要だった。だが、一般の軽乗用車でも届出をすれば有償で貨物輸送ができるようになった。もちろん、経営届出書や運賃料金設定届出書などの届出は必用だが、後部座席を残したままで車両を貨物用に改造する必要はない。ただし貨物軽自動車の最大積載量が350sなのに対して、軽乗用車では最大積載量が165sになっている。

 この規制緩和が貨物軽自動車運送市場にどんな影響をもたらすか。日本フードデリバリーサービス協会が今回の規制緩和を要望していたように、フードデリバリーでは積極的に活用するものと思われる。だが、貨物軽自動車運送市場では、当面、あまり影響はないだろうという見方が多い。フードデリバリーを除けば、固定経費の変動化というメリットがありそうなのはスーパーの宅配サービスである。スーパーは貨物軽事業者を専属拘束している。

 だが専属拘束されている貨物軽車両がフル稼働しているわけではない。店頭で購入した商品を届けて欲しいという場合だけ宅配する。そこでワンコールで必要な時だけ軽自動車が確保できれば、コストを変動費化できる。だが、軽貨物業界の関係者によると、「スーパーもサービス品質を重視するので、安易に、素人に宅配を委託しないだろう」という。宅配便やネット通販の宅配でもサービス品質から、軽乗用車への業務委託には慎重なはずだ。

 
だが、筆者の予想では来年(2024年)春以降に軽貨物の自営業者の減少が始まる。するとネット通販会社にとっては痛手になるので、宅配のピークの時間帯に届出をした軽乗用車を組み込むようなネット通販会社が出てくるのではないか。AIで効率的な配送コースを設定し、置き配なら配達も容易である。このように軽乗用車による貨物輸送は部分的な利用から始まり、やがては運賃水準の低下を招くように作用することが懸念される。



関心が高まりつつある「2024年問題」
2023/1/21 更新



 前回のブログで「2024年問題」への苦肉の対応(リスク分散)として新規許可事業者が増えていると書いた。年間の時間外労働の上限が罰則付きで960時間になる。バレたら「罰金を払ってごめんなさい」で乗り切ろうという事業者が少なからず存在すると聞く。だが、最悪の場合には事業許可取り消しの可能性もあり得る。そうなっても実質的に事業を継続できるようにするため、新会社を設立して新規許可を取るケースが増えているのだ。

 それはともかく、今年に入ってからトラック運送業界の「2024年問題」に対する関心が少しずつ高まってきた。発着荷主はもとより、サプライチェーン関係者などにも「運べなくなる危機」が認識されるようになりつつある。また、マスコミでも「2024年問題」を取り上げるようになってきたことで、広く一般の人たちも関心をもつようになってきた。だが、まだまだ「まともな荷主」だけであり、一般の人たちといってもごく一部に過ぎない。

 それでも「2024年問題」に関心を向けてもらえるようになってきたことは事実だ。手前味噌になるが、「『2024年問題』まで残り1年余、このままではトラックドライバー不足で荷物が運べなくなる事態も」という記事をYahoo!ニュース個人に1月9日8時にUPした。月1本は記事をUPしようと思っているのだが、忙しくて昨年10月と12月には記事をUPしていなかった。そのため3連休中(7〜9日)にUPしようと書いたのである。

 
ところが予想以上の反響で10日夜まで「個人総合」でアクセスランキング1位だった。「経済」部門なら過去にもランクインしているが「総合」では考えてもいなかった。芸能界やスポーツなどのニースにはアクセス数でとても対抗できない。まして「経済一般」ではなく「産業」、さらにその中の「物流」ジャンルの記事では一般の人たちからのアクセスが極端に減ってくる。だが、「2024年問題」への関心は想像以上でうれしい誤算だった。



求められる新規許可事業者への指導強化
2022/12/21 更新



 国土交通省が発表した2022年3月末現在の貨物自動車事業者数は6万3251で、前年度に比べて407の増加になった。これは2007年度の6万3122を超えて過去最高の事業者数である。内訳は特積313(+4)、一般5万7856(+375)、霊柩4762(+41)、特定320(−13)となっている。これとは別に貨物軽自動車運送事業者が20万9250あり、前年度と比べて1万1462も増加した。

 増加数が多いのは一般の375だが絶対数も多いので当然と言える。保有車両数の規模別でみると、10両以下が+286、11〜20両が+170なので、20両以下の事業者が456増加したことになる。それに対して21〜30両では−17、51〜100両も−69となった。これは推測になるが21〜30両規模の事業者は経営が厳しくなって減少したものと思われる。また、51〜100両規模の事業者は2局化が進んだのではないか。

 厳しい経営環境の中でなぜ事業者数が増加したのか? 「2024年問題」や改正改善基準告示をクリアできないと考えている事業者が、監査などで処分を受けた場合にも別会社で事業が続けられるように新規許可を取っているのではないかと仮定して取材をした。案の定、取材した範囲ではリスクヘッジのために別会社を設立している、というのが事業者数増加の理由のようだ。取材先の1社は「当社はすでに3年前に別会社を作った」という。

 
最低保有台数の5台で許可を取って、その後に減車して5台以下にすることがある。同様に許可申請時には運行管理者がいるが、許可取得後に運行管理者が「辞めてしまう」というケースもあるようだ。国交省や適正化実施機関はここ1、2年間に新規許可を取得した事業所をリストアップして重点的に指導に入ることが求められる。リスク分散のために新規許可を取得した事業所の指導を強めることがトラック運送業界の浄化につながる。



「2024年問題」へのアプローチ
2022/11/21 更新



 最近、トラック運送業界ではにわかに「2024年問題」に対する関心が高まってきた。「にわかに」では遅すぎるのだが、それはともかく、全体的に切実な問題として受け止められるようになってきた。一番の理由は2024年4月までの「猶予期間」が1年半を切ったことにある。さらに、改善基準告示の見直しも切迫感に一そう拍車をかけている。そのようなことから労働条件の改善に対する様々な意見や嘆きが聞かれるようになってきた。

 事業者によって「2024年問題」や改善基準告示の見直しに対する受け止め方はいろいろだ。肯定的な経営者もいれば、否定的な経営者もいる。これらの意見をいくつかに分類すると、肯定派の中でも積極的な肯定は極めて少なく、消極的な肯定が多い。一番多いのは決められたことだから守らなければならない、という経営者である。それに対して否定派も多数いるが否定の意思をハッキリ表明する人は少なく、多くは潜在的な「隠れ否定派」だ。

 「決まりだから守らなければ」という経営者と、消極的肯定派に共通するのは、「規制されている」あるいは「規制が強化される」という受け止め方をしている点である。つまり「お上からの規制」という認識だ。それに対して積極的な肯定派にみられるのは、これからの企業間競争に勝ち残っていくにはドライバーが確保できるかどうかがポイントになる、という考え方である。つまり競争に勝ち残るための必須の条件という認識である。

 
競争に勝ち残るための労働条件の改善という受け止め方は、市場原理に基づいた認識といえる。また、ほとんどの経営者は「働き方改革」という表現に疑問を抱かずにいる。だが、経営者という立場からは「働かせ方改革」と捉えなければならない。「働かせ方改革」という考え方からは、働いてもらうには何をどのように改善しなければならないかにつながる。つまり、柔軟な雇用制度の導入など、時短を推進して雇用拡大を図る工夫である。



人口減少と人口偏在が進む中での引越市場
2022/10/21 更新



 今後は引越市場の縮小が予想される。それだけではなく、市場の変化が起きつつある。今年4月に総務省が発表した人口推計によれば、昨年10月1日の日本人は1億2278万人だった。外国人を含む日本の総人口は1億2550万人である。一昨年の10月1日と比べると1年間に日本人は61万8000人の減少だ(−0.5%)。外国人を含めると64万4000人も減少している。外国人の減少は初めてで、コロナの影響と思われる。

 47都道府県中で一番人口が少ないのは鳥取県で、昨年10月1日時点では54万4000人だった。つまり鳥取県の全人口よりも7万4000人も多い日本人が1年間に減少したことになる。この人口減少は引越市場の縮小を意味する。同時に人口の偏在化が進んでいる。転出より転入が多い都道府県もあれば、その逆の都道府県もある。さらに同一県内や市町村内でも社会インフラが整っている地域に不便な地域から引っ越す人が増えている。

 人口の偏在化は引越市場に変化をもたらす。一般論としていえば住居が狭くなる傾向にあるので、できるだけ家財などを運ばない引越プランの提案が必要だ。運ぶものは減らすが、成約金額を増やすような新生活へのトータルサービスの提供に転換しなければならない。全体的に見てもこの間、単身など小さな引越になりつつある。このような市場の変化に対応したサービスを提供できれば、量的な減少をカバーして、さらに売上の拡大が図れる。

 
人口減少や人口偏在化の進行という引越市場の変化に対応するために、大手引越専業者はそれぞれの中長期的な戦略に基づいた事業展開を進めている。一方、中小規模の引越事業者(専業、兼業)によるアライアンスの動きもみられるようになってきた。そのような中で中堅規模の専業者は厳しい状況に置かれているものと思われるが、人口減少と人口偏在化が進む中で、引越事業者間の競争がますますし烈になってくることが予想される。



持続可能な物流構築はトラックを主軸に
2022/9/21 更新



 最近は「2024年問題」に対する社会的な関心が少しずつ高まってきた。一般マスコミも取り上げるようになった背景には、トラックドライバーが確保できなければ物が運べなくなってしまうという危機感の拡がりがあるだろう。「2024年問題」は簡単に言えば残業時間の規制だが、それが大きな社会的関心事になるということは、逆に言えば日本の物流がトラックドライバーの長時間労働と低賃金で成り立っていたという証左でもある。

 
国土交通省、経済産業省、農林水産省の3省が連携して「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を発足し、9月2日にオンラインで初会合を開いた。これは、物流が抱えている諸課題を解決するには、事業者や発着荷主はもとより、サプライチェーン全体さらには一般の国民の理解と協力がなければ解決できない、という認識の現れに他ならない。行政のオブザーバーとしては公正取引委員会、厚生労働省、資源エネルギー庁なども加わっている。

 日本は人口減少が進んでいる。それに伴って今後、国内市場は縮小していく。つまり荷物の絶対量が減少していくことになる。同時に、人口の偏在化も進行している。これは末端までの荷物の流通において、エリアごとに輸配送ネットワークの濃淡の差がより拡大してくることを意味している。そのような、これからの日本社会にあって、くらしと経済を支える持続的物流体制をどのように構築していくのか。いま大きな過度期になっている。

 
国内市場が縮小して国内貨物輸送量の減少が予想される。だが、営業用トラックは当面、増加すると予測されている。重量ベースで国内貨物輸送量の6割強を営業用トラックが担い、3割弱の自家用トラックと合わせると約9割をトラックが運んでいる。そして荷物量が減少すると、輸送効率の低い自家用トラックから営業用トラックへのシフトが進むからだ。そこで持続可能な物流体制は、営業用トラックを中心に構築していくことになる。



頻発する自災然害には荷主との事前協議が必要
2022/8/21 更新



 異常気象が続いている。7月下旬から東北地方などは長期間にわたって集中豪雨に見舞われ、川の氾濫など大きな被害がでた。その後も断続的に豪雨が続いている。また、今年は3年ぶりに新型コロナ感染防止による移動制限のないお盆になったが、そのお盆を台風8号が直撃して広い範囲で大雨をもたらした。水害による交通インフラへの破壊、さらに台風による飛行機の欠航、新幹線など鉄道の運休や遅れその他、多くの人たちの移動に影響が出た。

 
台風や集中豪雨などで災害が予想される場合、航空会社や鉄道会社、バス会社などは自らの判断で欠航や運休などを決める。だがトラック運送事業者は自らの判断で運行中止や予定を変更したりすることが難しい。宅配便などの消費者物流を除くと、企業間物流では取引先の意向が強く働く。そこで荷主の自社都合や担当者の自己都合が優先されがちだ。だが、ここで完全に欠落しているのはトラックを運転するドライバーの安全という点である。

 そこで国交省では2020年に「輸送の安全を確保するための措置を講じる目安の設定」を通達した。今回の豪雨被害の中で、この目安が実際にどのように活かされているのだろうか。東北地方の事業者に聞いてみた。秋田県の事業者は「県央では被害がそれほどでもないが、県南や県北ではしばしば氾濫する河川などで被害が出ている。当社は過去の経験を活かし災害が予想される時点で事前に取引先と迂回路を想定したり、時間の調整などを行った」。

 
山形県の事業者は、「大口の取引先とは事前に交渉した。予想される災害を想定してルートを変更するなど天気予報やニュースを見ながら対応している。ルート変更による高速道路利用料金や、走行距離が延びる運賃の差額の請求も合意している」。また迂回路なども通行止めで走行できない場合には輸送を中止するが、「輸送中止の判断が当日なら運賃は100%、前日なら80%で合意している」という。各社各様に荷主と交渉しているようだ。



一部事業者で活発化してきたパブリシティ戦略
2022/7/21 更新



 最近はパブリシティ戦略に力を入れる中小事業者が増えてきた。と言っても事業者数から見るとまだまだごく少数に過ぎない。それでも少しずつ増えつつある。物流専門のニュースサイトに頻繁にニュースリリースを掲載している事業者が何社かあり、目につくようになってきた。物流に関わる関係者向けの業界ニュースサイトだが、業界紙よりずっと影響力がある。この傾向が続けば、いずれ業界紙も活字からWebに移行してくるだろう。

 
実際に業界紙に広告を出稿しているクライアント企業(業界内の事業者や業界団体も含め)の関係者によれば、業界紙に広告を出しても意味がないと自覚している。お付き合いなので、現在はまだ慣習として出稿している、という。だが、同じ業界関係者向けの媒体でも物流専門ニュースサイトなどWebへの広告を増やしていく、という話をしばしば耳にする。パブリシティも含めて広告効果のある媒体に採り上げてもらおう、という流れである。

 物流専門のニュースサイトに、頻繁にパブリシティ記事が掲載されている事業者に、「狙いの1つは社内向け、もう1つはリクルートの2つでしょう」と訊いたら、即座に「そうです」とのことだった。昔は業界紙に記事が出るとコピーして事業所などに貼っておいたものだ。これは社内の従業員向けである。また、ローカルラジオでコマーシャルを流していた事業者は、従業員とその家族に向けての発信だった。それが今はネットになったのである。

 
従業員がスマホで自社のニュースを見る。また、求職者も応募前にネットでその会社を確認する。その時、ホームページとは別に「第三者」がニュースとして流していると、求職者はHPよりも「客観的」に受け止めることになり、応募をしようという動機を促す効果がある。もっと進んだ事業者では、業界で有名なYou Tuberのドライバーが何人かいて、ハローワークとHP以外に募集していなくても応募者、採用者ともに増えているケースがある。



全ト協とリクルートが協働で雇用マッチング強化
2022/6/21 更新



 総務省によれば、2021年10月1日の日本人の人口は1億2278万人で、1年前と比べ61万1800万人の減少だった。1年間におけるこの減少は、47都道府県で日本人の人口が1番少ない鳥取県の54万4000人を6万人以上も上回っている。ここからも、日本における人口減少のスピードが実感できるだろう。しかも高齢化も同時進行している。そのため食料品や飲料、日用雑貨など消費財の国内市場の縮小は避けられない。

 
日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の「ロジスティクスコンセプト2030」によれば、国内貨物総輸送量の推移(予測値)は、2020年の47.2億dに対して2030年には45.9億dまで減少するとしている(2020年1月の発表なのでコロナの影響は予測値に反映されていないと思われる)。だが、国内貨物輸送量の6割強を占める営業用トラックは、同じく3割弱を占める自家用トラックからの自営転換で増加するという予測だ。

 一方、厚労省の有効求人倍率をみると「自動車運転の職業」は「職業計」の2倍程度で推移している。営業用トラックの輸送量の増加はドライバー不足に拍車をかけ、さらにネット通販の拡大で手間暇(人手)のかかる宅配が増え、人手不足がより深刻になると予想される。このような中で、全ト協はリクルートと協働して雇用マッチングの強化を図ることにした。リクルートの「Airワーク採用管理」を活用して事業者のホームページ構築も支援する。

 
リクルートは採用HPにおけるプラットフォームの協会員事業者への提供、全体計画や各種支援を行うとしている。そして全国の求人情報を検索できるスキームを構築することで、トラック運送の仕事を探す求人者が求人情報を一気に検索できるようにするという構想である。また、「Airワーク採用管理」を使用して無料で簡単に事業者の採用HPの開設が可能になり、求人検索エンジン「Indeed」にも自動連携される。



19歳大型免許の公的な「資格」と社内的な「資質」
2022/5/21 更新



 5月13日から「改正道路交通法(高齢運転者対策・第二種免許等の受験資格の見直し)」が施行になった。昨年12月21日UPの当ブログで「19歳で大型免許受験資格と企業責任」と題して関連記事を書いている。今回は改正された内容のうち、普通免許保有1年以上で特別な教習を終了すれば、19歳でも大型免許(中型免許)の受験資格が得られるという点に関して、前回の続きの内容を書くことにする。「資格」と「資質」についてである。

 
今回の改正は運転免許自体の見直しではなく、人手不足などへの対応としての特例である。指定された教習課程を受講すれば、19歳(普通免許保有通算1年以上)でも大型免許(中型免許)の受験資格が得られるというものだ。したがって試験内容は従来と変わらない。これまで通り21歳(普通免許保有通算3年以上)になれば受験資格は得られるので、大型免許を早く取得したければ講習手数料を払って時間を短縮できる、ということである。

 19歳から大型免許の受験資格が得られるようになれば、トラック運送業界にとってメリットは大きい。大型免許や中型免許の受験資格年齢が引き下げられれば、一般論としては「これまでより3歳若く大型免許が取れるので大型ドライバーの人数が増える」ことになる。だが、個別企業としては「当社は高校新卒者の定期採用をしていない。中途採用なので19歳で大型免許が取れるようになっても直接的な影響は少ない」という事業者が多い。

 
一方、「資格と資質は別」という事業者もいる。社内の資格制度を確立している事業者は、「21歳でも19歳でも免許を取得すればすぐに大型車に乗務させるわけではない」という。何歳であっても安全意識や社会的自覚など、資質を判断する社内的な基準をクリアしなければ乗務させない。それが運送事業者としての社会的責任だと考えているからだ。19歳での大型免許取得を活かすのは、若い人たちだけではなく事業者の認識にも関わってくる。



改善レベルの物流DXについて考える
2022/4/21 更新



 最近は頻繁にDXという言葉が出てくる。DXに関するセミナーなども増えてきた。3カ月前の当ブログでも書いたが、DXをあまり難しく考える必要はない。DXをどのように解釈するかで大きく違ってくるが、ビジネスモデルの変革など戦略レベルのDXはサプライチェーン全体とも関わってくるので難しい。それに対してデジタル技術を活用して、物流であれば作業システムなどを効率化するという改善レベルのDXなら現実的で当然のことだ。

 
国土交通省の「総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)」でも、今後、取り組むべき施策の1つとして、物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)を掲げている。そして物流DXの定義を「機械化やデジタル化を通じて既存のオペレーションを改善し、働き方改革につなげる『簡素で滑らかな物流』」としている。これは先に見た改善DXと理解して良いだろう。

 改善レベルの物流DXとしてデジタル化に取り組んでいる事業者は、自社の業務遂行上で非効率な部分から改善に取り組み、その中でデジタル技術を活かしている。1つの課題が改善できると次に作業改善の必要度の高い課題に取り組む、といった順序でデジタル化を進めている。物流DXといっても事業者によって効率化の優先順位が違う。自社の実態から必要度の高い順にデジタル技術を活用して生産性の向上に取り組めば良い。

 
このような中で最近は社内教育を抜本的に見直す事業者もでてきた。従来のスキルアップ教育だけではなく、デジタル知識を持って戦略的に業務の仕組みを考えたり、取引先への物流効率化提案などもできるような人材の教育・育成である。そして一部では、社員教育にもデジタルを活用している事業者もいる。たとえばスマフォを全ドライバーに貸与して、待機時間を有効に活用できるように5分程度の短時間のeラーニングなどである。



燃料サーチャージとトリガー条項
2022/3/21 更新



 燃料価格の高騰が続いている。全ト協の調査によると今年1月の全国平均の軽油価格は110円91銭/?(消費税抜きローリー価格)である。1年前の昨年2月が89円84銭だったので、この1年間に21円7銭も値上がりした。1年間の上昇率は23.5%にもなる。全ト協の「日本のトラック輸送産業〜現状と課題(2021年)」によると、2019年度では営業費用に占める軽油費は全体平均で12.7%になっている。

 
かりに営業費用に占める軽油費が10%の事業者の場合、軽油費の上昇率が30%なら、他の諸条件が同じとして単純計算すると1年間にコストが3%増加したに等しい。これは純利益の3%減少と同じなので、それだけ経営が厳しくなっていることを表している。全ト協の同資料によると、2019年度の全体平均の営業損益は−1.0%になっている。そこからさらに利益が3%減るとなると、営業損益は−4.0%になってしまう。

 このような状況で、燃料サーチャージの導入がいかに重要かはいうまでもないだろう。政府はガソリンや軽油などの石油製品の価格高騰を抑制するために、あらゆる手段を選択肢にするという。3月10日からはガソリン補助金を上限25円/?に引き上げた。これはトリガー条項の凍結を解除して発動した場合、ガソリン税を25円10銭減税することを意識した補助金額の設定であろう。トリガー条項では軽油引取税は17円10銭である。

 軽油引取税は32円10銭/?なので、トリガー条項発動で17円10銭/?の減税になると15円/?になる。都道府県の軽油引取税収入は53.3%も減少する。そうなれば当然、トラック協会への交付金はなくなるだろう。トリガー条項を別としても、省エネタイプのエンジンになって軽油消費量は減少し、やがてはトラックもEVなる。その時、トラック協会はどのような事業をしていくのか。今から検討しておく必要があるのではないか




増えてきたM&Aの背景は何か
2022/2/21 更新



 M&Aが増えてきた。最近は連日のようにM&Aのニュースが入ってくるようになった。その理由はいくつか考えられる。まず第1には、国内市場の縮小である。人口減少により、食品や飲料、日用雑貨など消費財の国内市場は、今後、徐々に縮小して荷物量が減少してくる。それに伴ってM&Aを促進する2つのパターンが出てくる。1つは物流子会社の存在価値の低下である。もう1つは下請事業者に対する需要の減少だ。

 
まず物流子会社からみよう。国内市場が縮小してくると、大手の荷主企業でも単独で物流の仕組みを維持していると荷物1個当たりのコストが漸増してくる。そのため競合企業同士でも物流に関しては共同化した方がお互いにメリットがある。このようにして物流は個々の企業の事業基盤から、物流リソースを共同利用する産業基盤へと性格が変化する。そこで親会社への依存度が高い物流子会社の存在価値は低下し「売り」にだされるのだ。

 一方、運送事業者はどうか。今回のコロナ禍で荷物量が減少した元請事業者は、下請事業者に出していた仕事を減らし、自車両と自社ドライバーの仕事を優先している。多層構造の下層の方で実運送をしてきた事業者には、荷物が行かなくなっているのだが、これはコロナ禍が国内市場の縮小を先取りした現象といえる。それと相まって、荷主の物流共同化の進行により、荷物の減少と同時に効率化効果による必要なトラック台数が減少してくる。

 このような市場原理に追い打ちをかけるのが、事業条件をめぐる市場外的要件の変化だ。労働時間の短縮など法的条件である。「2023年問題」まで1年、さらに「2024年問題」まで2年しかない。これらに対応できなければ、いずれは経営に行き詰まるだろう。そうなる前に企業を売ってしまった方が良い、という事業者が増えてきた。後継者問題も含めて売り案件が増えている。一方、買収する側は市場縮小が進む中での競争力強化である




SDGsやDXも身近な足元から
2022/1/21 更新



 最近はSDGsやDXがビジネスやマネジメントの世界では一種の流行語のようになっている。実態はともかく、建前としては「猫も杓子も」で、「SDGsやDXに草木もなびく」といった様相だ。経営方針にSDGsやDXを掲げないと企業の社会的責任や資質への評価が得られないかのような状況である。このうちSDGsでは17の目標のうち、物流業界とりわけトラック運送業界ではエネルギーのクリーン化や技術革新などに関心が高い。

 
運送業では、直接、事業に関りのある具体的な課題として、どうしてもエネルギーや環境、デジタル技術の導入など身近なテーマになってしまうのはやむを得ない。トラックのエネルギーという点では、原油高や円安によって高値で推移している軽油価格の問題もあるが、同時にトラックのEV化もよく話題にのぼるようになってきた。だが、SDGsの他の目標も社会的な責任としては重要である。程度の差はあっても各社なりの取り組みが必要だろう。

 DXについては、現状はそれ以前という受け止め方が多い。そもそもDXはやたら小難しく解説されていることも敷居を高くしている一因だ。もっと平易に表現して分かりやすく説明しないと、多くの事業者にとっては高い壁に見えてしまう。先日、DXをテーマにした研修会のディスカッションのパネリストの事前打ち合わせで、「ファックス連絡をEメールにするだけでもDXの第1歩」という話で盛り上がったが業界の実態の一面を表している。

 DXを最初に唱えたスウェーデンの大学教授の主旨は「デジタルの活用が人々の生活を良い方向に変化させる」だったという。この原点に帰って、物流事業者の現場レベルに落とし込むと、作業改善や効率化を進め、生産性の向上を図って労働時間を短縮するためにデジタル技術を活用する、となる。これなら誰でも理解できる。「2024年問題」をクリアするためにも、自社の現状や必要性に応じて平易な意味のDX化を進める取り組みが必要だ




19歳で大型免許受験資格と企業責任
2021/12/21 更新



 警察庁では来年(2022年)5月13日から19歳でも大型自動車運転免許の受験資格が得られるようにするため、「道路交通施行令の一部を改正する政令(案)」を11月5日に公示し、12月4日までパブリックコメントを募集していた。政令改正案では、現在は普通免許保有通算3年以上で受験資格が得られる大型免許が、普通免許保有通算1年以上でも、受験のために必要な指定された教習課程の受講を条件に、受験できるようにする方向だ。

 
同様に中型免許も必要な指定された教習課程を受講すれば19歳以上で受験資格を得ることが出来るようになる。つまり、これまでは大型免許の受験資格は21歳以上だったが、必要な要件を満たせば19歳でも受験し、資格取得が可能になる。従来通り普通免許保有通算3年以上で21歳になれば大型免許の受験資格は得られるが、「大型免許を早く取りたい人は講習手数料を払って時間を短縮することができる」(運送業界関係者)。

 だが、改正案通りに実施されるとしても、「これは運転免許自体の見直しではなく、人手不足などへの対応としての特例」(関係者)という。そのため国家公安員会で定めるところにより、都道府県公安委員会が指定した教習課程を受講すれば、あくまで19歳(普通免許保有通算1年以上)でも大型免許(あるいは中型免許)の受験資格が得られるというもの。したがって、大型免許(あるいは中型免許)の試験内容は従来と変わらない。

 19歳から大型免許の受験資格が得られるようになれば、トラック運送業界にとっては朗報といえる。一般論としていえば中型車や大型車に乗務できる資格保有者が増えることになるからだ。しかし、「大型免許の資格を取っても、安心して大型車に乗務させられるかどうかは別だ」という事業者もいる。社会的責任感などから21歳で大型免許を取得した人よりも社内での育成期間を長く設けるなど、企業としての社会的責任も増すからである




客観的品質の認定・認証は「過積載」状態?
2021/11/21 更新



 2003年から始まった安全性優良事業所認定制度(Gマーク)。最近はGマークのステッカーを貼ったトラックを多く見かけるようになってきた。Gマーク取得事業所所属の車両がスタンダードになりつつあることを実感する。Gマーク認定制度の目的からいえば、認定事業所の増加という点では少しずつ目的達成に近づいてきている。だが、認定事業所数の増加はあくまで手段であり、本当の目的は安全性の向上であることを忘れてはいけない。

 
「品質」には、知覚的品質と客観的品質がある。このうち知覚的品質は購入者や利用者が他社の製品やサービスと比較して、商品やサービスあるいは当該企業に対して優位性や信頼性を持っているという「品質」である。ブランド力と表現しても良い。それに対して客観的品質は、第三者が一定以上の水準や基準を満たしていると認めた品質だ。いわば第三者からのお墨つきといえる。企業の方針として、どちらの品質を重視するかは自由である。

 ところで最近、強く感じるのは運送事業者の客観的品質がいかに多いかだ。ざっと列挙すると、ISO認証(品質、環境、安全など)、Gマーク認定制度、グリーン経営認証制度、健康経営優良法人認定制度、運転者職場環境良好度認証制度(働きやすい職場認証)、えるぼし認定制度。さらに専門分野別では引越事業者優良認定制度(引越安心マーク)、HACCP認証制度、GDP(医薬品の物流に関する基準)、プライバシーマーク(Pマーク)などである。

 取材などで訪ねると、これらの認定・認証を多数取得している事業者が少なくない。客観的品質は重要だが、認定・認証の取得、維持だけでもかなりコストがかかっているだろう。皮肉な表現をすれば、様々な客観的品質を可能なだけ取得していたら「客観的品質の過積載」になってしまう。もちろん、それによって社会的評価や地位が向上すれば良いのだが、果たしてコストパフォーマンスはどうか。まったく大変な事業環境になってきたものだ




時短への取り組みは定量的な実態把握から
2021/10/21 更新



 「2024年問題」が近づいてきた。2024年4月1日から自動車運転業務における時間外労働の上限規制が年960時間になる。一般則では時間外労働の上限規制は年720時間であり、すでに大企業では2019年4月から、また中小企業においても2020年4月から適用になっている。だが、トラック運送業界には猶予期間が設けられ、しかも一般則より240時間も長く設定されている。それでも多くの事業者にとっては大きな課題だ。

 
2024年4月まで残り2年半弱となり、トラック運送業界では最近になってやっと「2024年問題」に関心が集まりだした観がある。もちろん、すでに年960時間以下の残業時間を実現している事業者もいるし、これまで計画的に時短を進めてきてタイム・リミットまでにはクリアできる見通しの事業者もいる。だが、まだ時短に着手していない事業者が多数いるのも事実だ。このような事業者も最近は問題意識を持つようになってきた。

 だが、何からどのように着手したら良いか分からない、という経営者が少なくない。現状の労働時間の内訳すら把握できていない事業者もいる。待機時間や積込み作業の時間が長く、その責任は荷主にあると嘆くのだが、平均何時間何分なのかも把握していない。デジタコなどを導入していても活用できていないのである。労働時間短縮を実現するには、まず実態の把握が必要だ。労働時間短縮は、どこに問題があるのかを知ることから始まる。

 次に、データを基にどの部分をどのように変えればどのくらい時間が短縮できるかを試算する。さらに荷主の協力も含めた取り組みの難易度(事業者側の取り組みだけで時短が可能な部分もある)、作業改善に要する費用、どこから着手するかという優先順位の決定、そして実際の取り組み。時短に着手できないという事業者は、このような手順が分かっていないのである。そのような事業者に共通するのは定量的な実態把握ができていない点だ。




オリパラ交通規制で一般道の走行時間増
2021/9/21 更新



 賛否両論がある中で、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、ともかく終了した。ほとんどが無観客開催になったので、交通混雑は当初の予想とはかなり違った状況になったものと思われる。だが、トラック運送業界としては首都高規制の影響などを総括しておくことが必要だろう。そのような中でナビタイムジャパン(東京都港区)が9月9日に、「大規模イベントに伴う首都高速道路の交通規制による影響分析」を発表した。

 
首都高速道路は7月19日〜8月9日、8月24日〜9月5日のオリ・パラ期間に各路線の出入口における終日閉鎖や交通状況に応じた一時閉鎖が行われた。同社では、交通状況に応じた一時閉鎖対象の出入口のうち、首都高3号渋谷線三軒茶屋入口と、4号新宿線永福入口の2カ所に着目し、自動車の走行経路変化や所要時間について分析した。分析に当たっては同社が提供する複数のカーナビアプリから取得した走行実績データを活用している。

 首都高3号渋谷線・国道246号の状況では、三軒茶屋入口から首都高を利用する車両が20〜25%減少。国道246号の三軒茶屋から池尻方面への平均所要時間が増加した。また、首都高4号新宿線・国道20号線の状況では、永福入口から首都高を利用する車両が10%前後減少。国道20号線の高井戸から大原交差点方面への平均所要時間が増加した。普段は首都高を利用するドライバーの一部が並行する国道にシフトした結果と推測される。

 オリンピックが開催された当初は、首都高を回避した車両による一般道路の混雑をニュースで報道していた。だが、オリ・パラ開催期間全体を通してみると、それほど大きな道路混雑はなかったように観える。それでも首都高の規制や期間中の値上げで影響を受けたトラックドライバーは少なくないと思われる。2025年には大阪万博が5月3日〜11月3日の185日間にわたり開催される。業界としては道路混雑回避の対策と準備が必要だ。




全国的な豪雨災害とドライバーの安全確保
2021/8/21 更新




 豪雨による災害が頻発するようになってきた。発生頻度が増え、被災地域の範囲が拡大し、被害の規模が年々大きくなってきている。豪雨災害は今後ますます深刻になっていくだろうと思われる。トラック運送業界は、被災された人たちへの救援物資輸送など社会的な役割を果たしている。同時に、日常生活に支障がないように食品や日常品などを安定的に輸送しなければならない。だが、その仕事を担っているドライバーの安全確保も重要な課題だ。

 
国土交通省は昨年2月28日付で「輸送の安全を確保するための措置を講じる目安の設定」を通達した。同通達では、降雨量や風速などの各段階に応じて、@輸送の安全を確保するための措置を講じる必要、A輸送を中止することも検討、B輸送することは適切でない、といった目安が示されている。降雨量や風速だけでなく、降雪時や視界不良時、警報発表時などについても判断の目安が示されている。今こそこの通達を活かさなければならない。

 同通達を受けて、社内でより具体的な目安を検討し、自社独自の判断基準を設定して取引先と話し合い、合意を得て書面化した事業者もいる。自社のドライバーの安全を確保するという事業者としての強い姿勢の表れである。これは運行管理権の問題でもあり、企業としての主体性が問われる問題でもある。ドライバーの安全確保だけではなく、運行管理者の責任と権限そして運行管理者の社会的立場を会社として擁護することを意味しているからだ。

 通達もさることながら、社会的状況も変化しており、荷主の姿勢も以前とは違ってきている。だが、依然として荷主に「忖度」するような経営者も存在する。そのような事業者には、いずれ募集しても応募者が来なくなるだろう。ここは勇気をもって自社のドライバーの安全確保に努めなければいけない。それが引いては荷主に対する責任ある対応になり、信頼にもつながることになる。豪雨災害から自社の従業員を守ることは経営者の責任である。




社会に向かって業界をいかに発信するか
2021/7/21 更新




 6月28日午後、千葉県八街市で飲酒運転のトラックが下校途中の小学生の列に突っ込み2人が死亡、3人が大けがを負うという悲惨な事故が発生した。報道によると、事故を起こした運転手はコンビニで酒を買い、昼食時に車内で飲んだという。飲酒運転による死傷者の発生は、「事故」ではなく「事件」と表現しても過言ではないと思う。飲酒運転が後を絶たない現状を直視すると、飲酒運転根絶にはもっと厳しい罰則が必要ではないだろうか。

 
この事故を起こしたのは白ナンバーの自家用トラックだった。だが、一般の人たちの多くは白ナンバーも営業用トラックの緑ナンバーも違いが分からない。飲酒運転で事故を起こしたのは「トラック」という理解である。そこで八街市内の運送会社の中には、「お宅が事故を起こした運送会社か」といった電話や、無言電話などがかかってきたケースもあった。千葉県以外でも、「何をやっているんだ」という電話を受けたトラック協会があるほどだ。

 これらは自家用と営業用トラックの違いを知らない人が多いことによる。そして混乱を助長したのは、事故を起こした運転手の勤務先が「南武運送」という社名で、しかもドライバー募集などもしていたこと。さらに親会社の社長が出した声明文に「弊社運送子会社の従業員があるまじき飲酒運転で事故を起こし…」と書かれていること、などによる。また、それ以上に影響力が大きいのは、マスコミ関係者が良く理解せずに報道していることだ。

 全ト協では一部報道機関に抗議したが、今回、改めて認識されるようになったのは、常日頃から広く社会に向かって業界の本当の姿を発信していくことの重要性である。このような取り組みは、これまで実質的には皆無だったといっても過言ではない。最近は、「業界内に向かってPRしても意味がない」といった声をよく耳にするようになってきた。どのようにすれば社会に向かって有効な情報発信ができるか。新たな取り組みが必要になってきた。




1718社が「働きやすい職場」に認証
2021/6/21 更新




 国交省が昨年度に創設した「働きやすい職場認証制度」の最初の登録事業者が5月20日に発表された。第1回目の認証事業者数は2548社で、内訳はトラック1718社、バス172社、タクシー658社である。「働きやすい職場認証制度」の正式名称は「運転者職場環境良好度認証制度」である。名称の通り職場環境改善に向けた事業者の取り組みを見える化し、求職者のイメージ刷新を図ってドライバーへの就職を促すのが目的。

 
認証取得のメリットは、@働きやすさの取り組み状況を第三者機関からの評価を得てドライバー採用活動に活かす、A取引先からの信頼性向上、B認証マークのステッカーを車両などに貼ってPRに活用、などである。第1回目の認証を得た登録証書の有効期間は2023年6月30日まで。最初は一つ星だが、今後は二つ星、三つ星とランクアップしていく。2021年度の申請受付は7月21日〜9月21日である。

 申請の提出書類は、審査申込書、営業所情報、自認書、および以下の書類の写しである。@就業規則、A36協定、B労働条件通知書、C安全衛生委員会等関連書類、D労働安全衛生規則第52条関係で規定する定期健康診断結果報告書(50人以上の事業所のみ対象)、E事業改善報告書等(行政処分の違反点数を受けている事業者のみ対象)。費用は、審査料5万円(複数の営業所は+3千円×営業所数)、登録料=6万円(同+5千円×営業所数)。

 認証を取得した事業者の何社かに聞くと、Gマークなどを取得していれば申請書類の記入も容易で、また審査のハードルは低いという。したがってキチンとした経営をしている事業者にとって認証取得は難しくない。だが、トラック運送事業に関連した様々な認定や認証制度が創設されている。それだけ認定・認証の取得に要する費用も増えてくる、と苦笑する事業者は少なくない。それでも客観的品質として認証取得しておくに越したことはない。




物流のコモン(Common)化が進行
2021/5/21 更新




 トラック運送にはコントラクトキャリアとコモンキャリアがある。前者は旧区域事業者で現在の一般事業者である。後者は旧路線事業者で現在の特別積合せ事業者だ。コントラクトキャリアは取引先にオーダーメイド・サービスを提供する。取引先独自の物流システムである。それに対してコモンキャリアは自社で構築したサービスの仕組みに、多くの取引先が相乗りしてサービスを共同で利用する。いわばレディメイド・サービスの共用である。

 
その中間的なサービス形態として、中ロット貨物の積合せ輸送がある。中ロットの荷物は1車貸切では積載効率が悪いために運賃が割高になるし、特積みでは荷物が大きすぎるために取り扱ってもらえない。そのような輸送効率が悪くコストが割高になっていた荷物を、そもそもは一般事業者が積合せて運ぶ仕組みを考えてサービスを提供していた。荷主にとっては貸切よりも割安で、事業者にとっては混載差益で収益性の高いサービスになる。

 このように中ロット積合せ輸送は一般事業者にとって「うま味」があった。複数の特積み事業者が提携してその分野に参入したのが、ヤマト運輸を中心にしたJITBOXチャーター便だ。アライアンスが上手くいかない一番の理由は、総論は賛成でも、各論ではメンバー間の既得権益をお互いに侵食する部分が出てくるからである。だが、中ロット積合せは一部の一般事業者の市場だったので、特積み各社の既得権益がなかったから成功したのである。

 最近はこの中ロット積合せのニーズが増加しているだけではなく、物流の共同化が進みつつある。基本的には国内市場が縮小していくために、従来のような物流の仕組みを抜本的に見直す必要からあらゆる面での共同化が進んでいるのだ。荷主企業にとって物流は各社の事業基盤の一つで差別化の手段でもあった。だが、これからの物流は各社が共同で利用する産業基盤としての性格を帯びていく。つまり物流のコモン(Common)化である。




コロナ禍で加速するM&A
2021/4/21 更新



 最近はトラック運送業界でもM&Aのニュースが多い。日本の人口減少に伴い、今後、国内市場は徐々に縮小していく。それだけでも、いずれはトラック運送事業者が過剰になってくるのは時間の問題だった。さらに、市場の縮小に対応するために荷主企業は同業者間や異業種間で物流の共同化を進めてくる。共同化によって効率性が向上するため、一そう事業者が過剰になる。運送業界の多層構造の見直しも進み、さらに後継者難という問題もある。

 このように事業者が過剰になることは明らかだった。その流れを一気に加速したのがコロナ禍である。コロナ禍で荷主の業種によっては荷動きが急速に減少した。構造的に進行していく市場縮小の先取りである。短期間に荷物が減少した輸送分野では、それを担っていた事業者が経営的に行き詰る前に企業を譲渡した方が良いと判断するようになった。一方、譲受する事業者は今後の競争の中で勝ち残る戦略の1つとしてM&Aを進めている。

 運送業界のM&Aには2つのタイプがある。1つは自社と同じような内容の仕事をしている事業者の買収だ。これは営業エリアを短期間に拡大する目的のM&Aである。もう1つは自社の得意分野に隣接するような内容の仕事をしている事業者の買収で、サービス領域の拡大を狙いとしたM&Aである。この中には、取扱い荷物は同じでもメーカー、問屋、小売といったサプライチェーンに沿ったサービス領域の拡大を目的にしたM&Aもある。

 さらに最近では、労働時間短縮を目的としたM&Aも見られるようになってきた。たとえば本社と支社の中間地点に所在する事業者を買収して、中継基地としての役割も持たせるといった狙いである。あるいは本社では買収した事業者まで幹線輸送し、そこから先の配送は子会社にバトンタッチする、といったこともあり得る。いずれにしてもトラック運送業界でもM&Aが増えてきた。業界構造の再編成が急速に進むことになるだろう。



標準的運賃届出が4.7%
2021/3/21 更新



 標準的運賃については当ブログで再三再四書いているが、業界への浸透はまだまだ低いようだ。2月26日の記者会見における国土交通省の祓川直哉自動車局長の発表によると1月末時点で標準的運賃を届出ている事業者は全国で4.7%に過ぎない。標準的運賃の告示制度は2024年3月末までの時限的な措置なのであと3年しかない。だが、少なくとも1年前には運賃交渉をして値上げを実現しないといけないので、実質的には2年間である。

 なぜこんなに届出している事業者が少ないのか。理由はいくつか考えられるが、最大の理由はコロナ禍で運賃交渉に逆風が吹いていることだろう。コロナ前の売り手市場から状況が一変してしまった。コロナ以前なら標準的運賃の算出方法に基づいた金額通りとはいかないまでも、運賃値上げが実現できる状況にあった。ドライバーが確保できなければ荷物を運べなくなってしまう、といった事業者の言い分に現実味があったからである。

 しかしコロナ禍で経営が厳しくなった荷主が多い。業種・業態によっては業績を伸ばしている荷主企業もあるが、そのような企業は少数である。最近のスポット運賃の下落は、運送市場における需給関係の変化を如実に表している。だが、運賃交渉に有利な状況ではなくなったとしても、ドライバーの労働時間を短縮し、賃金水準を上げなければ安定的にサービスを提供できなくなる可能性に変わりはない。その原資確保の方策の1つが運賃値上げだ。

 3月11日開催の全ト協理事会で、標準的運賃届出の先進的な事例として大分県トラック協会の仲会長が現状を発表した。それによると大分ト協会員のうち同県に本社のある事業者は約400社。その87%が届出しており未届出は約50社という。標準的運賃は届出すれば運賃が上がるわけではない。荷主との交渉はこれからの課題だ。それでも従業員に対する経営責任として、労働条件改善のための原資確保に取り組まなければならない。



引越シーズンに「ギグ引越業者」出現?
2021/2/21 更新



 毎年、3月中旬から4月上旬までの約1カ月間は引越シーズンである。全ト協の調査によると、大手引越事業者6社(5社+1協連)の2019年度(19年4月〜20年3月)の月別の受託件数の割合は、3月が15.2%、4月が11.3%となっている。年間引越件数の4分の1以上が3、4月の2カ月間に集中していることが分かる。とりわけ3月中旬から4月上旬の土日と休日には引越希望が殺到して引越事業者のキャパシティを超える。

 そのため近年、引越シーズンには「引越難民」問題がマスコミで取り上げられるようになっていた。だが昨シーズンは、それ以前の数年間と比較すると需給関係に変化があった。一昨年と比べると需要が減少したのである。これには2つの理由が考えられる。コロナの影響と引越日の分散化である。どれだけコロナの影響があったかを定量的に把握することはできないが、法人によってはコロナの影響で海外転勤が極端に減ったという事業者もいる。

 また、以前から国交省や業界団体などが呼び掛けてきた引越日の分散化が進んだことも一因だ。人事異動に伴う法人引越は少しずつ分散化が進んでいる。これには一昨年のシーズンに「引越難民」の足元を見て高額を提示した一部の事業者の「功績」? もある。法人ユーザーが料金高騰を避けるようになってきた。その反動で昨シーズンは低価格で受注件数を増やす動きもあった。とくに大手専業者はピーク時が通年の業績を左右するからだ。

 では、今シーズンはどうか。荷主の業種にもよるが、コロナの影響で一般貨物が落ち込んでいる。そのため引越市場に参入しようという事業者が、都市部を中心に出てきたという。引越事業者に下請けの仕事を回してくれと営業している事業者があるようだ。また、営業の必要がない紹介サイトと契約し、安い料金で仕事を取ることも予想される。このような、ギグワーカーならぬ「ギグ引越業者」の出現で、料金下落を懸念する関係者も少なくない。



今年はどうなる、トラック運送業界
2021/1/21 更新



 先日、ある地方トラック協会の担当者から、4月以降の新年度の業界(同協会)のキーワードについて意見を求めるメールが来た。いろいろなワードが並んでいるのだが、欠けているものや余分なワードがあれば意見を述べてくれ、という主旨のメールだ。それを見て、肝心なキーワードが欠けていると返信した。標準的な運賃、働き方改革、労働力確保、後継者問題、DX、自働化、その他が挙げられていたが生産性向上が入っていない。

 生産性の向上は企業においては常に追求しなければならない経営課題だ。企業間競争の核心は生産性向上を競い合うことに他ならない。他社よりも「安く売る」のが競争ではなく、他社と比べて「安く売れる」ようになることが競争の本質である。前者は自分たちの首を絞めるだけの結果になる。トラック運送業界ではドライバーに低賃金や劣悪な労働条件を強いることで「エセ競争力」を強めてきた。後者こそが真の競争力の向上である。

 生産性向上は誤解を恐れずに言えば、良質なサービスを他社より安く売っても、適正な利益が確保できるような経営になることだ。生産性が高ければ、自社の標準的運賃を他社よりも安く算出できて、しかも働き方改革や労働力確保の原資も確保できる。そうすれば後継者問題の解決にもつながるのだ。また、DXや自働化などは、生産性を向上するためのツールとして、自社の諸条件に見合った形でいかに上手に活用するか、ということである。

 したがって生産性向上こそが最も上位のキーワードという位置づけになると書いて返信しておいた。生産性が低いままの事業者は淘汰されるだろう。たとえば標準的運賃は、収受できるか否かに関わらず、論理的には多層構造がコストアップ要因になることを意味している。そこに着目して多層構造を嫌う荷主や元請事業者が散見できるようになってきた。そのため多層構造の低層にいる事業者は仕事がなくなりM&Aが増えると予想される。



物流関連ゼミ学生コンペ…リモート開催
2020/12/21 更新



 NS物流研究会(樋口恵一会長)が主催する、恒例の物流関連ゼミの学生による研究発表会が12月12日に開催された。今年で12回目を迎えるが、今回はコロナの影響でリモートによる発表会となった。通常の授業もリモートで行っている大学が多い。ゼミの学生も顔を会わせることのできない大学もある。そのような中での共同研究は難しい。だが、それでも様々な条件を乗り越えて5大学が発表会に参加した。

 昨年の11大学と比べると参加大学が減ったが、コロナ禍でもリモートで開催することができたことは、新しい試みとして今後の教訓にもなると思われる。メイン会場を東京・四谷の東京都トラック総合会館(東京都トラック協会)におき、司会進行は北海道、また各大学もそれぞれの所在地などから発表した。中には自宅などで聴講したゼミ学生もいる。発表後の質問はチャットでおこなうなどデジタル化した発表会となった。

 参加大学は発表順に、@神奈川大学・齊藤ゼミ(トラック輸送の生産性向上とドライバーの負担軽減)、A朝日大学・土井ゼミ(トラック事業におけるコンビニ駐車場活用による定時性の確保)、B広島商船高等専門学校・田上ゼミ(物流産業における女性労働力の活躍支援策)、C東京海洋大学・黒川ゼミ(データ分析に基づくピッキング業務の改善)、D城西大学・上村ゼミ(越生線の有効活用による貨客混載とドライバー不足改善)である。

 初めてのリモート開催だったが技術的なトラブルもなく各大学の発表が予定通りに終了。審査の結果、優勝は東京海洋大学、準優勝は神奈川大学、敢闘賞は朝日大学となった。今回の試みは参加したゼミ学生にとっては、研究の取り組みと研究結果、発表方法などの面で良い経験になったものと思われる。もちろん、会場に一堂に会して多くの参加者の前で発表できることが一番良い。来年はコロナが終息し多数の大学が参加できることが望まれる。



「標準的運賃」と「標準運送約款」
2020/11/21 更新



 最近、取材先で話題にのぼるのが標準的運賃である。取材の趣旨とは違っても雑談の中で自然と標準的運賃の話しになる。今年4月に標準的運賃が告示されたが、コロナ禍によって逆風が吹いているのは事実だ。昨年までのような状況なら、業界にとって追い風だった。標準的運賃を算出し、提示した通りの金額で実現することはムリとしても、運賃値上げにつながった可能性が高い。標準的運賃が交渉材料として有効に活用できたはずである。

 だが、新型コロナウイルス感染拡大によって経済環境が一変。業種・業態によって影響には格差があるが、ほとんどの荷主企業が業績を悪化させている。現在のところコロナ終息の見通しは予測できない。そのためすべての企業がウィズコロナを前提にした経営を余儀なくされている。困難な経営環境にあっても業績の建て直しを図らなければならず、経費削減も経営の大きな課題の1つになっている。当然、運賃・料金なども見直しの対象だ。

 このような逆風の中でどのように標準的運賃を武器に運賃値上げを実現するか。全産業平均よりも約2割も労働時間が長く、1割から2割も収入が少ないトラックドライバーの労働条件を改善するための原資として、運賃値上げは生産性の向上と共に大きな課題である。このようなことから多くの事業者は標準的運賃制度の導入に期待を持っていた。だが、逆風の中でどのようにしたら良いか、糸口を見出せない事業者が多いのである。

 それでも一部の事業者は、標準的運賃だけではなく標準運送約款と関連づけながら、実質的な運賃値上げや現場の労働条件の改善を実現しようとしている。たとえばドライバーが始業のタイムカードを押してから終業のタームカードを押すまでの時間を基準に、諸作業や待機時間も金額化してトータルで取引先と交渉するといった手法である。あるいは距離制と時間制を組み合わせた運賃体系など、業務実態にあった運賃算出の工夫もされている。



物流におけるデジタル化が焦点に
2020/10/21 更新

 デジタル庁が創設されるようだ。新政権の目玉の1つがデジタル化である。これに呼応するように各省庁の政策でも、あらゆる面で「デジタル化……」がテーマとして掲げられるようになってきた。官邸からの強い指示もあるのだろうが、これからはデジタル化がキーワードになってくる。21年度からの総合物流施策大綱が委員会で検討されているが、物流においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)が議論されているようだ。

 これはトラック運送業界においても同様である。DXはいわばサプライチェーン全体を一貫するデジタル化と言えるだろう。IotやAIを駆使した物流プラットフォームの構築である。トラック運送は物流プラットフォームを構成する一部の機能としてビルトインされるが、トラック運送自体のデジタル化も必然的な課題だ。トラック運送における代表的なデジタル化は、自動運転や隊列走行などだろう。また、荷役でもフォークリフトの自動化である。

 バスでは最近、横浜市内で運転席に人を配置しない、遠隔監視・操作システムによる自動運転の実証実験が行われた。大型バスを営業運行(貸切営業形態)する実証実験は日本で初めてだった。だが、トラックの自動運転はバスよりもハードルが高い。走行中の車線変更も複雑で、積込みや納品先の構内には荷物などが置かれていたり、フォークリフトが作業をしていたり、人も歩いている。また、トラックが停まっている間にバックで入ることもある。

 そのような条件はあっても、いずれ幹線輸送などは自動運転になってくるだろう。フォークリフトの自動化はかなり進んでいる。限られた条件下だが今年に入ってから実用化した事業者もいる。また、求車・求貨マッチングシステムも進化してくる。最近は積合せのマッチングが増えてきた。現状では定量的な荷物の組合せは自動化できるが、荷物の相性など定性的な組合せは人が行っている。AIなどによる積合せマッチングもデジタル化の1つだ。



「標準的運賃」実現への取り組みが始まった
2020/9/21 更新

 標準的運賃の実現に向けた取り組みが進められている。北海道トラック協会は、すでに8月に「標準的な運賃普及セミナー」を開いた。その他の地方ト協では、9月から順次、「普及セミナー」を開催しており、10月中には全国を一巡する予定だ。同セミナーでは「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃の届出に向けて」を教材として講師が説明するが、主たる目的は標準的運賃を理解し、運賃料金変更届を早く提出するようにすることだ。

 「普及セミナー」では、@事業法改正の目的、A標準的な運賃の意義、B標準的運賃の算出上の考え方、C標準的運賃を活用する場合の運賃料金変更届書、D運賃料金適用方の作成、などについて説明がある。このうち、事業法改正の目的や標準的運賃の意義は、原点に帰って標準的運賃を認識するという意味がある。コロナ禍で、物流市場の需給関係も大きく変わってきた。端的にいえば運賃・料金値上げにとっては逆風になっている。

 そのような中で標準的運賃を実現していくのは容易ではない。事業者側にも躊躇する心理が働くことは否定できないだろう。だが、そのような状況にあっても標準的運賃を実現する取り組みを進めなければならない。標準的運賃の原点とは、全産業平均に比べて約2割も労働時間が長く、1割から2割も賃金が低いというトラックドライバーの現状を改善し、全産業並みにするための原資の確保ということである。

 「普及セミナー」では、そのような標準的運賃の意義を認識し、標準的運賃の算出方法などを学んで運賃料金変更届出を提出できるようにする。だが、肝心なのは届け出た運賃の実現である。それにはより具体的で実践的な交渉の方法などを習得する必要がある。全ト協では現在、実践に役立つマニュアルを作成中だ。おそらく10月末ぐらいまでには発刊されると思われる。次の段階は標準的運賃の実現に向けた具体的な荷主との交渉である。



大手コンビニ3社が共同配送の実証実験
2020/8/21 更新

 6月の当ブログで、ウィズコロナにより物流危機の到来が早まると書いた。そして、国内市場の縮小が進行するという物流危機を乗り越えるための方策の1つとして、荷主企業は異業種間や同業者間において物流の共同化を進めてくるだろうと指摘した。そのような流れを象徴するかのように、8月1日から7日の間、セブン−イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3社と流通経済研究所が共同配送の実証実験を行った。

 この実証実験は経済産業省が支援する、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中の「スマート物流サービス」の研究開発の一環として、チェーン横断的な共同配送の実証実験を実施したもの。コンビニの店舗は全国に約5万6000店舗あるが、そのうちの約9割を大手3社で占めている。セイコーマートのシェアが大きい北海道を除くと3社の寡占状態にある(セイコーマートの北海道内の2020年6月末現在の店舗数は1078店舗)。

 また、コンビニ大手3社は災害対策基本法に基づく指定公共機関にもなっており、いまや社会インフラの1つとして欠かせない存在だ。したがって安定的に商品を供給するための物流網は重要である。すでにコンビニ大手3社はそれぞれに高度な物流システムを構築しているが、各社が単独で店舗配送していては人口減少が進行している地域などでは配送効率が悪いのも事実だ。今回の実証実験では在庫などの共同化による効果なども検証した。

 実証実験は都内湾岸エリアで3社の接近した計40店舗に対し、同じトラックで商品配送を実施して共同化による物流効率化の効果を検証した。対象商品は飲料、菓子、日用雑貨などの常温商品である。実証実験の結果は近く発表される予定だが、トラックの積載効率、配送車両数、二酸化炭素(CO2)排出量削減などで効果が期待される。実際に共同配送が導入される可能性が高いのは、配送効率が悪い過疎地域における店舗配送と思われる。



道交法改正で19歳でも大型免許可能に
2020/7/21 更新

 改正道路交通法が成立した。改正道交法でトラック運送業界に直接的に影響するのは第九十六条(受験資格)の2項と3項だ。第九十六条2項では、大型免許の運転免許試験を受ける資格について規定している。改正前は中型免許・準中型免許・普通免許・大型特殊免許の取得者で、これらいずれかの免許を受けていた期間が通算して3年以上の者だった。そこに今回の改正法では「政令で定める教習を修了した者にあっては1年」が加えられた。

 同様に第九十六条3項では、改正前は中型免許の運転免許試験を受けようとする者は、準中型免許・普通免許・大型特殊免許の取得者で、これらいずれかの免許を受けていた期間が通算して2年以上の者となっていた。改正法では「政令で定める教習を修了したものにあっては1年」が追加された。つまり、普通免許保有1年以上で大型免許や中型免許の試験を受けることができるようになり、19歳での大型免許や中型免許の取得が可能になった。

 付帯決議で、事業者への安全指導の強化が盛り込まれたが、トラック運送業界にとって19歳で大型免許や中型免許を取得することが可能になった効用は大きい。トラックドライバーになりたい若い人にとっては、従来よりも早く大型車に乗務することができるようになる。また、雇用する運送事業者側でも、特に高齢化が進んでいる大型車の乗務員確保には朗報といえる。道交法改正は大型車ドライバーの平均年齢の低下にもつながるだろう。

 だが、現実には19歳で大型免許を取得するような若者が増えるように、業界からの働きかけが必要不可欠だと認識すべきだ。そのような働きかけがなければ、自ら大型免許を取ってトラックドライバーになろうという若い人たちがたくさんいるとは思えない。業界からの働きかけが重要なのである。19歳から大型免許の取得が可能になったのを機に、若い人たちがトラック運送に目を向けるようにするための働きかけに一そう努力すべきである。



ウィズコロナで物流危機が到来
2020/6/21 更新

 新型コロナウイルスが物流に与える影響は大きい。徐々に進行しつつあった「物流危機」をコロナは前倒しして現実のものとした。物流危機はドライバー不足によって荷物が運べなくなることではない。市場が縮小し、これまでの物流の仕組みのままでは、荷主がコスト的にいきづまってしまうのが物流危機に他ならない。そのような意味において、コロナは市場縮小を一気に顕在化したのである。それにより物流危機が到来した。

 物流危機を乗り越えるために荷主は様ざまな対応策を打ち出してくる。その1つが物流共同化である。これまでも同業者間や異業種間で物流共同化は進んできた。これらの動きは、一見、ドライバー不足に対する荷主側の対応のようだが、本質的には物流危機への対応であった。ただ、コロナで労働市場の需給関係が変化するまではドライバー不足への対応であるかのように見えただけである。今後は、市場縮小への対応として物流共同化が加速してくる。

 物流共同化とも関連して、これからは物流子会社の譲渡や合併などが増えてくるだろう。同業種や異業種との物流共同化を進めるに当たっては、自社の物流子会社に拘泥する必要はない。むしろ同業種間であれ異業種間であれ、他社との物流共同化を推進する場合に、お互いの物流子会社の存在が共同化の制約になってくる可能性もある。そこで物流子会社同士の合併や、大手物流事業者への譲渡などがこれから活発になってくるものと思われる。

 さらに荷物の小型化が進んでくるだろう。するとトラックの貸切輸送から、中ロット荷物の積合せ輸送へのシフトが進んでくる。これはコロナによる一時的な現象かも知れないが、これまで大型車1台で運んでいた荷物を、輸送する荷物総量は同じでも、一定の間隔を置いて4t車で2回運ぶような動きも始まった。資金繰りの関係から商品購入の支払いを分散させるのが目的のようだ。これは特殊な事例だが、今後は全体的に荷物の小型化が進んでくる。



「エッセンシャルワーカー」への偏見
2020/5/21 更新

 新型コロナウイルスの感染防止が大きな課題になっている。できるだけ早く終息してもらいたい。2波、3波への警戒も必要だ。新型コロナウイルス騒動の中で、「エッセンシャルワーカー」という言葉を耳にするようになってきた。多くの人たちの生命や生活にとって必要不可欠な職業で働く人たち、という意味のようだ。真っ先に頭に浮かぶのは医療関係で働く人たちであろう。公共交通機関、介護などの福祉関係、小売業で働く人たちもそうだ。

 もちろん物流で働いている人たちもである。これらエッセンシャルワーカーに共通しているのは在宅勤務ができないことだ。したがって感染リスクの高い条件下でも働かなければならない。とくにトラックドライバーは地元にいるのではなく、荷物の輸送先によっては感染者数の多い地域に行かなければならないこともある。感染予防に努めながら働いているが、それでもトラックドライバーやその家族に対する偏見や差別が問題になっている。

 愛媛県新居浜市の小学校で、長距離トラックドライバーの子供に対し、学校に登校しないように要請したという話はテレビや新聞で取り上げられたので全国的にも知られている。ドライバーは感染予防対策をとっており、子供も健康上の問題がなかったにも関わらずである。だが、新居浜市の出来事は氷山の一角のようだ。山形県トラック協会は4月23日、ドライバーとその子供たちに対する差別的な扱をなくすように県教育長に申し入れをした。

 会員から電話などが入っていたこともあり、協会では申し入れに先立ち4月13日〜15日の間、全会員にFAXでアンケート調査を実施した。僅か3日間で記入式回答にもかかわらずFAX回答が3.2%、電話とメールも加えると約7%という高い回答率だ。詳細は割愛するが、ドライバーと子供だけでなく家族や親せきまで差別されている実態が記されている。高回答率はドライバーや家族に対する偏見の存在を如実に物語っているといえる。



時間とともに深刻化するコロナの影響の特徴
2020/4/21 更新

 新型コロナウイルスの影響がトラック運送業界にも出ている。3月中旬から下旬にかけて、どのような影響が出ているのかを断続的に全国の事業者に電話取材した。今回の取材で困ったのは、取材を始めた当初に話を聞いた取材先で、短期間に状況が大きく変化するようなケースがあったことだ。最初は「現在のところ大きな影響がない」ということだったが、その後、主要な取引先が操業停止などを発表したことで状況が一変したような場合である。

 それだけ状況が目まぐるしく変化しており、時間の経過とともに影響が深刻化しつつある。そのような事業者には追加取材をした。また、今回の取材で特徴的だったのは、地域的な相違がほとんどなかったことである。独自に緊急事態宣言をだした北海道は早めに影響が出ているが、他の地方も遅れて同じような状況になっているので地域特性ではない。また、影響の大きい「企業城下町」も地域特性というよりも「城主」の業種特性というべきだ。

 そこで今回の取材で見えてきた特徴をまとめてみると、@製造業の荷主の荷物減少では、当初は輸入部品の調達が滞るなどSCMが要因だったが、現在は需要減退に対応する生産調整になっていて深刻さが増している。A流通業の荷主では、業務用の食品や飲料などが激減し、一般販売向けが増えている(業務用の減少をカバーできてはいない)。また、流通チャネルもドラッグストアの伸び率が高いようだ(まだ分母が小さいことにもよる)。

 B商品によってはまとめ買いで一時的に物流のキャパシティを超える受発注があり混乱した。C設備投資分野の荷物でも中長期の経営計画に狂いが生じ、工事の着工時期が計画より延期されるような動きもある。D貸切バスのドライバーがトラックにシフト、また歩合給が減少したドライバーが地元の他の事業者に移動している(企業城下町に多い)。E現在は影響が少ない事業者でも、今後の先行きが見えないというのが共通した認識だった。



国交大臣が運輸審議会に「標準的運賃」を諮問
2020/3/21 更新

 国土交通省は2月27日に「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃の告示に関する諮問及び公聴会の開催決定について」(以下は標準的運賃)を、国土交通大臣が26日付で運輸審議会に諮問したと発表した。これで改正事業法の4本柱である、@「規制の適正化」、A「事業者が順守すべき事項の明確化」、B「荷主対策の深度化」、そして最後に残されていたC「標準的な運賃の告示制度の導入」が間もなく出そろうことになる。

 運輸審議会では4月2日に公聴会を開き標準的運賃について広く意見を聴く。公聴会での意見なども参考にさらに審議して、国交大臣に答申する。運輸審議会の委員の中には、標準的運賃に対して「高すぎる」という意見の委員もいるようだ。したがって諮問した標準的運賃(案)よりも安くなる可能性はある。その答申を受けて国交大臣は即時に告示する。早ければゴールデンウィーク(GW)前、遅くてもGW明けには告示になると思われる。

 標準的運賃(案)では2t車、4t車、10t車、トレーラ(20tクラス)のドライバン車の距離制と時間制についてのタリフを示している。距離制運賃は北海道、東北、関東、北陸信越、中部、近畿、中国、四国、九州の9運輸局ならびに沖縄総合事務所の10地域別に、10qから200qまでの10q単位の運賃をだす。さらに、200qから500qまでは20q単位、500q以上は50qごとに加算する金額を提示している。

 時間制運賃は、基礎額として8時間制(基礎走行キロは小型車100q、小型車以外130q)、4時間制(基礎走行キロは小型車50q、小型車以外60q)を提示。基礎走行キロを超える場合は10q増すごとに、また、基礎作業時間を超える場合には1時間ごとに加算額を出している。冷蔵車と冷凍車は2割増し、その他の特殊車両については各社で算出。休日割増や深夜・早朝割増は運送した距離運賃の2割増しとしている。



トラックドライバー志望の若者はいる
2020/2/21 更新

 今年に入ってから数人のドライバーを取材した。取材を通して感じたのは、トラックのドライバーになりたいという人はけっこういる、ということだ。たとえばトラックに乗って仕事をしていたが、子育て中は我慢して子供が中学生になったので再びドライバーになった、という女性もいた。あるいは、トラックドライバーになりたくて、大型免許が取れる年齢まで待って、誕生日が来たらすぐに大型免許を取って応募して採用されたという若者もいる。

 先の女性は18歳からトラックドライバーとして約10年間働いてきた。最初は普通免許で乗務できるトラックだったが、年齢とともに大型免許、けん引免許と自分で免許を取得し、その都度、大型車に乗務したり、トレーラに乗務したりとステップアップしてきたのだという。しかし、結婚を機に仕事を辞めて子育てに専念。そして下の子が中学生になると同時に運送会社の募集に応じた。現在は大型増トン車に乗務して働いている。

 ドライバーの人たちへの一連の取材の中で強く印象に残った2人の若い男性ドライバーがいる。この2人は中学、高校の同級生で共に24歳だ。そのうちの1人で、先に運送会社に入ったドライバーは、高校を卒業して設備のメンテナンス会社に就職した。だが、トラックドライバーになりたくて、自分で中型免許を取り、さらに大型免許が取れる年齢になるのを待ってすぐに大型免許を取得し、運送会社の募集に応募してきたのである。

 同級生だったもう1人は、やはり機械のメンテなどを行う会社で働いていた。トラックドライバーになりたいと考えていたが大型免許を持っていなかった。そこで先にドライバーになっていた彼が社長に話をすると、会社で免許を取らせるからということで同じ会社に入社。現在は2人とも大型車に乗務して働いている。このようにトラックドライバーになりたいという人たちはいる。問題はどのようにキッカケをつくれるかではないだろうか。



2020年代は適者生存の時代
2020/1/21 更新

 新年会のシーズンである。新年会にはあまり出ないのだが、案内状をもらった団体の新年会には可能な限り出席するようにしている。そのような場で挨拶を聞いていると、主催者なり来賓なりが、今年はどんな年になると考えているかを知ることができる。今年の新年会の挨拶で気がついた特徴は次の2点だ。1つは、今年というよりも2020年代は大きな変化の時代という認識である。もう1つは変化に対応できた者が勝ち残るという見解である。

 もちろん挨拶した人全員がそのように言っているわけではないが、全体的傾向としては前記2点が特徴的なように受け止めた。だが、変化ということについては、これまでも再三言われてきた。その点では珍しくないのだが、発言者のほとんどが従来とは全く違うような大きな変化を予想していることだ。たとえるならばマイナーチェンジではなく、フルモデルチェンジと言える。つまり、これまでの延長線上ではとらえられないような変化である。

 その変化に対応した者だけが勝ち残れる、というのも共通していた。イギリスの社会学者ハーバート・スペンサーの造語「適者生存=Survival of the fittest」である(チャールズ・ダーウィンの方が有名だが、ダーウィンはスペンサーの著書から示唆を得たという説がある)。業界関係者の多くは、2020年代は物流も大きく変化して様相を一変し、その変化に対応できた事業者だけが勝ち残ることができる、という認識を持っているようだ。

 将来にわたって物流はなくならない。だが、2つの点が絶えず変わる。1つは、物流の仕組みだ。どのように保管したり運んだりするかなど、物流全体の仕組みが大きく変わる。そしてもう1つは、その物流業務を誰が受託して行うかが代わるのである。物流はなくならないが、その業務を受託して新しい仕組みで遂行できる事業者だけが勝ち残れる、ということだ。つまり、「どのように」と「誰が」が大きく変化し、適者だけが生存できることになる。



「標準的な運賃」の概要
2019/12/21 更新

 昨年12月の臨時国会で改正貨物自動車運送事業法が成立してから約1年。この間、7月からは「荷主対策の深度化」に関わる内容が施行された。具体的には「荷主の配慮義務」の新設、「荷主勧告制度」の充実、事業者の違反の原因が荷主の行為に起因する疑いがある場合には国交大臣が「要請」や「勧告・公表」などを行えるようになった。また、独禁法に違反する疑いがあれば、「公正取引委員会に通知」する、といった内容である。

 一方、11月からは事業者の法令順守も強く求められるようになった。「欠格期間の延長」、「許可の際の基準の明確化」などである。これらは事業許可に関わる資格要件だが、同時に事業遂行に当たっての順守事項も明確化された。「輸送の安全に係る義務の明確化」や「事業の的確な遂行のための順守義務の新設」などである。これらは当然のことを実施しなさいということに尽きる。さらに、元請事業者には「荷主対策の深度化」の内容が適用される。

 
そこで残された課題は「標準的な運賃の告示制度の導入」である(2023年度末までの時限措置)。標準的運賃については現在、国交省で検討を進めており今年度中(2020年3月末まで)には示される予定だ。そのようなことで現在の時点では最終的なものではないが、考え方の骨格となる概要については公表された。それによると「タリフ(運賃表)」という形はかなり難しいと予想されていたのだが、一応は「タリフ」という体裁をとるようだ。

 概要は以下の通りだ。@人件費は全産業平均の時間当たり単価を基準にする、A減価償却は法定耐用年数を適用、B実車率は約50%を設定し、C2t車、4t車、10t車のドライバン車(トレーラは検討中)の距離制と時間制のタリフ表を設定する、というもの。このタリフは実運送事業者の標準的運賃なので全体的に高い水準の設定になる。冷凍車などについては割増率の設定を検討している。なお、諸料金は運賃とは別設定である。



11大学が参加して今年も物流に関する研究発表会
2019/11/21 更新

 NS物流研究会が主催する「物流関連ゼミ学生による研究発表会」が11月16日、東京海洋大学越中島会館講堂で開かれた。今回は11回目で参加校は発表順に同志社大学(石田ゼミ)、朝日大学(土井ゼミ)、関西大学(飴野ゼミ)、流通科学大学(田中ゼミ)、東京都市大学(郭ゼミ)、大阪産業大学(浜崎ゼミ)、広島商船高専(田上ゼミ)、東京海洋大学(黒川ゼミ)、城西大学(上村ゼミ)、神奈川大学(齊藤ゼミ)、流通経済大学(小野ゼミ)。

 この研究発表会も回を重ねるごとに参加校が増えて今年は11校になった。また、発表される研究内容も年ねんレベルが上がってきている。若い学生が物流に関心を持って研究をしてくれることは喜ばしいことだ。だが、これまでテーマはその時どきの社会的関心を反映して偏り、重複するような傾向がみられた。「流行」に反応しやすいのは学生らしい若さでもあるし、同時に、新しい感覚での発想や問題提起という新鮮さもあった。

 
その点、今年は「新しい駐車形態」、「中小事業者の新卒採用」、「一般ドライバーと運送事業者のマッチングアプリ提案」「構内物流の効率化」、「物流現場における外国人技能実習生調査」、「若年労働者の視点からの物流業界の労働力問題」、「データ分析に基づくピッキング業務改善」、「企業転入1位の埼玉を支える物流」、「ラストマイルでのギグワーカーの活用」、「ドライバー不足解決のための外国人労働者の受け入れ対策」など、テーマが多様だった。

 審査結果も僅差で接戦だった。1位の東京海洋大学と2位の関西大学の差は3点、2位と3位の神奈川大学は1点差、3位と4位の流通経済大学の差も2点である。優勝できなかった大学は来年の捲土重来をきし、また、先輩の研究成果を踏まえた研究内容の深度化を図ってもらいたい。卒業後は物流関連の企業に就職する学生もいるが、それ以外の職業に就く人もいる。進路は様ざまであっても、物流を学んだ経験を活かして行ってほしいものだ。



相次ぐ台風被害によるインフラ崩壊と物流
2019/10/21 更新

 台風15号は神奈川県や千葉県など東京湾沿いに大きな被害をもたらした。それに続く台風19号は東海、関東、東北など広域にわたって、過去に経験したことのないような甚大な被害を与えた。とくに台風19号では、豪雨によって川の氾濫や堤防の決壊が多箇所で発生し、今後の復旧、復興には時間がかかると思われる。被害に遭った地域が広域で数が多く、復旧工事などを担える土木・建設会社や作業員の確保が難しいと予想されるからだ。

 台風19号が近づきつつある中で数人の事業者と会食していた。そのうちの1人が、物流はライフラインの1つでも平常時は電気、ガス、水道、鉄道(旅客輸送)などが上位で、災害などで上位のライフラインがダメージを受けると、物流がトップに位置づけられるようになる、といっていた。ところが今回の19号台風では、トラック輸送にも大きな影響が出ている。道路や橋梁などの自動車交通インフラに大きな被害が生じたからだ。

 
台風15号では千葉県内の被害が大きく報じられた。それに比べてあまりニュースになっていないが、神奈川県内の被害も大きかった。とくに横浜市金沢区では護岸が崩壊して数百社の企業が被災している。台風19号でもほとんど報道されていないが、東京・立川市と日野市の多摩川に架かる日野橋で段差ができて通行止めになり、復旧のめどが立っていない。中央高速道の被害も併せて東京〜山梨間の物流には大きな影響が出ている。

 道路や橋などの自動車交通インフラに被害が出ると、トラック輸送も機能が半減されてしまう。奇しくも1年前の当欄に「荷物の無人空輸の可能性」を書いたが、最近の災害の多発を踏まえると無人空輸の実用化が急がれる。前回書いたようにドローンよりも大きな電動垂直離着陸機である。ドローンはピンポイントの緊急輸送には使えるが、孤立した集落や避難所などに一定量の物資を運ぶには、もう少し大型の無人飛行機でないといけない。



追い風の足元で変化が起きつつある
2019/9/21 更新

 ドライバー不足を背景に、現在はトラック運送業界に追い風が吹いている。ドライバー不足がトラック不足となり、ひいては「物流クライシス」の到来にもなりかねない、という危機意識が荷主の物流担当者に広がりつつあるからだ。運送業界にとっては「千載一遇」のチャンスとも言える。このように需給関係を基底的要因として、全体的にみると運賃水準が上がってきた。また、現場の労働条件も少しずつではあるが改善の方向に向かいつつある。

 これまで人口構造はほぼ25年周期で予測できた。25歳で第1子が生まれるという平均的なサイクルで試算できたからだ。だが、最近は結婚年齢が高くなり、さらに少子化の傾向が強まっているので、そのような予測が当てはまらなくなってきた。人口の自然増は望めず、外国人労働者の雇用を解禁しない限り生産年齢人口が短期間で飛躍的に増加することはあり得ない。ドライバー不足は解消できず、「売り手市場」が続くという楽観論もある。

 
だが、安易に楽観視していると大変なことになる。国内市場は縮小するのだから、企業はその中でどのように勝ち残っていくかを考えている。物流の共同化などはその一環に過ぎない。それ以上に物流事業者が関心を持たなければならないのは、国内市場の縮小を見越した商品開発が進んでいることだ。市場縮小に伴って販売数量が減少しても、企業は売上金額の維持ないしは増加を図る。さらに物流効率化も含めて利益の拡大も目論んでいる。

 その1つが、4月に新発売になった濃縮麦茶ではないだろうか。缶入りで容量は180gだが、それを消費者が自分の好みに応じて1?から2?に薄めて飲む。かりに1?にして飲むとすると、2?のペットボトル1本と同じ消費量なら2缶売れることになる。あるいは2?に薄めて飲んだとすると、消費量は従来の2?のペットボトル1本分と同じでも、商品としての容量は約10分の1だ。つまり単純計算なら物流コストは10分の1になるのだ。



事業者からの効率化提案を拒む「壁」
2019/8/21 更新

 前回は「荷主と事業者は利益相反から利益共有に」と題して書いた。要約すると国内市場が縮小する中で、荷主は物流システムの抜本的な再検討を余儀なくされている。一方、事業者は労働力の確保が課題で、労働力が確保できなければ「物流危機」が到来する可能性もある。そこで荷主の物流効率化と、物流現場の労働条件の改善を協力して進め、安定した物流サービスを確保するために、荷主と事業者は利益共有になってきた。

 その方策の1つがリードタイムの延長だが、それを実現しようとすると、@荷主の物流担当者と営業や購買(仕入れ)担当者には温度差があり、Aメーカー、問屋、小売というサプライチェーン全体で認識が共有できないと難しい、という内容だった。この記事を読んだある読者からコンタクトがあった。同記事で指摘した内容に通じるような体験をしているというのである。そこで早速、詳しい話を聞くことにした。要約は以下の通りだ。

 
この事業者は、ある地場産業の製造・販売の荷主と取引している。物流センターは荷主が運営していて、同社は小売店への配送業務を11台の2t車(11コース)で行っている。配送コースの削減を図り、同時に労働時間短縮などを実現するために、国立大学系のベンチャー企業に委託して、AIによるシミュレーションで効率化プランを提案した。それによると配送コースを再編成して10コースにし、1コース(2t車1台)を削減できる。

 この提案では、配達の途中で道路渋滞が突発すれば、配送順を組み換えることもできる。さらにデータの蓄積に伴って、天候や気温などによる需要予測も可能になる。ところがセンター長はトライアルにノーだ。事前に本社の了解のもとに提案したプランだが、現場の長と経営トップの認識の差が明らかになった。だが、日常業務をスムースに進めるには、現場の長を飛び越えてトップダウンで進めるわけにもいかないという問題に直面している。



荷主と事業者は利益相反から利益共有に
2019/7/21 更新

 総務省が発表した住民基本台帳に基づく今年1月1日時点の人口動態調査によると、日本人住民は前年より43万3239人減少、外国人住民が16万9543人増加して、総計では26万3696人の減少となった。10年連続の減少で、減少幅は1968年の調査開始以来、最大である。人口が1番少ない県は鳥取県の56万6052人なので、このペースで減少が続けば、2年強で鳥取県の全人口に匹敵する人数がいなくなることになる。

 さらに高齢化の進行と相まって、国内市場の縮小が進むものと思われる。国内市場の縮小は物流にも変化を迫っている。荷主企業は物流システムの抜本的な再検討を余儀なくされている。一方、事業者側も労働力を確保できなければ事業を継続することができない。このままでは物が運べなくなる事態も想定され、「物流危機」という言葉も使われるようになってきた。そこで安定した物流サービスの維持は荷主と事業者共通の課題になったのである。

 
「ホワイト物流」推進運動が繰り広げられているが、荷主も物流サービス確保の観点から参加せざるを得ない。このようにして、従来は荷主と事業者の利害は相反していたものが、最近は利益共有という関係になりつつある。事業者が人材を確保できるようにするために、労働時間短縮や賃金水準の見直しにも、荷主が一定の範囲で理解を示すようになってきた。その具体的な方策の代表的なものが、物流の共同化やリードタイムの延長である。

 荷主にとって、これらは国内市場縮小への対応であり当時に、物流サービスの安定的確保である。ただ、荷主企業では物流担当者と営業や購買(仕入れ)担当者では温度差があるのも事実だ。さらに、サプライチェーンという問題がある。たとえばサプライチェーンのどこかの企業がリードタイムの延長を実施しようとすると、前後の取引先の理解が不可欠になる。その際に、物流担当者と営業や購買担当者の認識の差が大きな障害になってくる。



中型車以上で荷役作業などの乗務記録への記載とその活用
2019/6/21 更新

 車両総重量8トン以上または最大積載重量5トン以上のトラックに乗務した場合、2017年7月からは荷待ち時間も乗務記録への記載対象になっている。さらに、今年6月15日からは、ドライバーが行う荷役作業や付帯業務も、乗務記録に記載する対象として追加された。ただし、荷主との契約書に実施した作業などが総て明記されていれば、作業に要した時間の合計が1時未満なら記録は不要とされている。

 これは荷主とトラック運送事業者が協力してドライバーの長時間労働の是正などへの取り組みを促進する目的で、「貨物自動車運送事業輸送安全規則」を改正したもの。契約にない荷役作業の発生などによって、当初の運行計画が崩れてドライバーの拘束時間が基準を超過するようなケースがある。そこで荷役作業や付帯業務などに関する実態を把握して、それらのデータを基にドライバーの労働条件の改善を進めていくのが狙いである。

 
同時に、行政としては運送事業者やトラックドライバーに過度な要求をすることで、長時間労働を生じさせている荷主に勧告などを行うかどうかを判断する材料にする。改正貨物自動車運送事業法では荷主勧告制度などが強化されたが、それらの一環でもあるのだ。このようにトラックドライバーの労働条件の改善を図るための諸条件は整備されつつある。これからは諸制度を活かせるかどうかが事業者自身にかかってくる。

 標準的運賃などもそうだが、それをどう活かすかは事業者の問題だ。働き方改革関連法に示された様ざまな基準をすでにクリアしている事業者もいる。これらの事業者に共通しているのは、労働条件の改善や適性運賃・料金の収受などに際して、各種データを示して荷主と交渉しているという点である。今回の荷役作業や付帯業務の乗務記録への記載も、それらのデータをドライバーの労働時間短縮などにどう活かすかが重要なのである。



スマホネイティブの募集・採用・教育・育成
2019/5/21 更新

 数年ぶりに訪ねた会社で、典型的なスマホネイティブの話を聞いた。同社の今春の新卒入社は9人。大卒が3人、高卒が6人で、男女別では男性が8人と女性が1人である。女性は高卒で事務職志望の入社だった。ところが、新入社員教育や様ざまな現場の体験実習などを終了し、配属を決める前の面接で、事務職志望だったその女性新入社員が、自分から現場業務の職場への配属を希望してきたという。理由はパソコンが苦手だから…とのこと。

 社長は「若いのに理解できない」ということだった。そこで典型的なスマホネイティブという話をした。スマホが普及した環境で育った若い人の中には、高校や大学を卒業するまでパソコンを使ったことがない人も珍しくない。カーソルの使い方もキーボード入力も経験がない。話は少し逸れるが、スマホが壊れたので公衆電話ボックスに入ったが、電話のかけ方が分からなかったという若い人の話を、数カ月前に新聞か何かで読んだことがある。

 
だが、若い人はやり始めれば覚えるのは早い。新卒採用の新入社員教育の中でパソコンの基礎的な講習も入れれば大丈夫だ。また、中途採用の募集ではスマホネイティブを前提として募集方法などを工夫することが重要である。まず求職者からのアクセスがスマホであることは当然となる。さらにローディングに時間がかかると見ずに飛ばされてしまう。文字数などもできるだけ短く、しかも要点を的確に表現するようにしなければならない。

 中途採用の募集などで比較的効果を上げている事業者の話を聞くと、「文章を読ませる」のではなく、「文字を感じさせる」のだという。確かに、自分自身の日常的な経験でも、スマホでニュースを見るとき、見出しの文字を読むというよりも、見出しの文字を感じて、瞬時に読むかどうかを判断している。いずれにしても、スマホネイティブを対象に募集・採用、教育・育成などをするのなら、時代にあった発想をしないといけないと実感した。



過剰サービスを見直すキッカケに
2019/4/21 更新

 関東運輸局は、大型車による長距離幹線輸送の関東西部運輸(本社・千葉県野田市)の事業許可取消し処分を発表した。現行の行政処分制度下では規模からみると前例のない事業許可取消し処分という。同社は西部運輸(本社・広島県福山市)のグループ会社で、グループ全体では保有車両数が1500台を超える。関東西部運輸はグループ内では本体の西部運輸に次ぐ規模で、茨城、栃木、埼玉、川口、船橋、神奈川、新潟に事業所を持っていた。

 同社は2016年12月、2018年7月、同年12月の3回、行政処分を受けていた。またその間、2017年5月と同年11月の2回、書類送検されていた。とくに昨年7月の行政処分では、30日間の事業停止処分と、本社営業所の配置車両延べ50日間使用停止という処分で、業界内でも大きな関心を集めた。同社は宅配便や大手特積み事業者の下請けで幹線輸送をしていたが、元請け事業者のダメージも大きいだろうと思われたからだ。

 
「ロジスティクス・ツディ」の一連の報道によると、関東西部運輸では許可取消し処分が下る前に、取消し処分を見越して「従業員を守るため」に裁判所に処分差し止め請求をしたとみられる、という。だが、これは論理のすり替えと言わざるを得ない。なぜなら一昨年5月の書類送検では、1カ月に最大246時間の時間外労働が指摘されている。残業時間だけでも所定労働の約1・5倍で、従業員の健康や安全を守っていないから処分されたのだ。

 それはともかく、なぜ同グループが急成長できたのか。宅配便事業者や大手特積み事業者が安い運賃で幹線輸送を委託できる「便利」な下請けだったからに他ならない。そのような下請けや孫請け事業者のドライバーの犠牲の上に翌日配送という「サービス」が成り立っているのだ。軽トラックの個人事業主の長時間労働を前提としたネット通販の当日配送なども含めて、過剰サービスを支えている業界構造を見直す時期に来ている。



「カレーの日」人気?
2019/3/21 更新

 どこに行っても働き方改革が話題になる。年休5日取得義務化は業種や企業規模に関わらず4月1日から始まる。トラック運送業の場合には、時間外労働の上限規制の適用は5年間の猶予があり、しかも自動車運転業務は年720時間ではなく960時間だ。それでもクリアするのは大変なのが実態で、いかに現状が酷いかということである。いずれにせよ、法令順守は当然としても、人材確保のためには働き方改革を進めていかなければならない。

 そのようなことで、最近はやはり働き方改革に関するような話をする機会が多い。1カ月ほど前に、たまたま午後の早い時間帯と夕方から1日に2カ所で話をしたことがあった。いずれのセミナー主催者も働き方改革に関する話を盛り込むようにとのことだったので、重複する内容の部分があった。定着率を高めたり社員満足度の向上をいかに図るか、という取り組みの1つとして、月1回の「カレーの日」を始めた事例を2会場で話した。

 
夕方からの研修会では、セミナー終了後にさっそくカレーの日を始めると言ってきた方がいた。やろうと思えばさほど問題なくすぐにでも実施できるからだという。冗談で、「連絡をもらえればカレーを食べに行きますよ」というと、「どうぞ、どうぞ」ということだった。連絡が来るのを楽しみに、だが、あまり期待しないで待つことにした。それでも、すぐに実行してくれるのはありがたい。話がいがあったというものである。

 一方、午後の早い時間帯に話した会場には、地方から参加していた人がいた。3週間後ぐらいにやはりセミナーでその近くに行く機会があったので、ついでに同社によって取材することになった。そこで訪問すると、「あの話を聞いて、会社に帰ってからカレーの日ならすぐできるだろうと社内で話した」ということだった。このように、「カレーの日」はけっこう反応が良いという感触がある。社員定着率向上の一助になれば嬉しい。



機械にできることは機械で
2019/2/21 更新

 ここ半年ぐらいの間に、10人弱の若い創業経営者と会っている。もちろん、取材を通してである。物流の世界で起業する人たちは、それ以前に何らかの形で物流に関わっていた。やはり1番多いのはドライバーをしていた人たちだ。だが、なかにはコンサル業務などを通して物流と関わっていて、物流に関する企業を創業した人もいる。前者は実運送をベースにした会社を興し、後者は物流システム事業などである。

 若い経営者ということでは2世、3世、なかにはそれより後の世代の6世や7世といった経営者もいて家系図をみせてもらうこともある。もちろん、このような企業は、創業時は河川や湖沼、海などの海運事業など昔から「物流」をしていたり、あるいは荷物の集散地で荷物を取り扱っていた「商人」的なスタートの企業もある。これらを「2世経営者」と総称すると、同じように若い経営者でも2世と創業者では明らかにタイプが違う。

 
2世経営者がリストラクチャーなら、創業経営者はストラクチャーである。したがって、2世経営者は過去の上に現在の経営が成り立っており、創業経営者は総て自分で築きあげていかなければならない。過去の基盤の上に立っていると、斬新な経営を行おうとしても、やはり様ざまな制約から逃れることはできない。それに対してゼロからの出発なら、縛られるものが何もなく、自分が思い描くような企業にすることができる。

 若い創業経営者の多くは、ネットなどITをどんどん取り入れた経営を志向している。機械にできることは機械にし、人力は、人がやらなければならない部分に集中する、という考え方が共通しているように思える。たとえば受発注などは人がやらなくても良い。貴重な人材は、人でしかできない部分に注ぎ込む。そのため、システム開発などには大きな先行投資をしている。また、その原資を確保できるような経営をしているから感心する。



「働き方改革元年」
2019/1/21 更新

 今年は元号も変わるが、トラック運送業界にとっては「働き方改革元年」といって良いだろう。2019年4月1日から適用になる運送業界に関わる規制は年休5日取得義務化だけだが、時間外労働の上限規制(自動車運転業務=月960時間)は2024年4月1日から、月60時間超の時間外割増50%が2023年4月1日から中小企業にも適用。さらに同一労働同一賃金の中小企業への適用も2021年4月1日からである。

 年休5日取得義務化を除けば多少の猶予期間はある。だが、今から適用に備えなければならない。トラック運送業界の現状は労働条件の面で他産業よりも遅れており、しかも労働集約産業なので増加する人件費の割合が高いからだ。働き方改革には、それを可能にする原資の確保が不可欠である。つまり猶予期間のある各規制も、前提となる原資の確保にはできるだけ早くから着手しなければ実現が難しい。まさしく今年は「働き方改革元年」である。

 
最初に経営者自身の「働き方改革」が必要という意見もある。これは経営者の労働時間短縮など、単に物理的な意味ではない。「働き方改革」とは働く側からの表現であり、経営側からは「働かせ方改革」に他ならない。経営者の「働き方改革」とは、まずこのような発想の転換から始まる。そして、従来のように実務などをルーティンでこなすのではなく、原資確保のための生産性向上を図る、といった経営者本来の労働に専念するという改革である。

 いずれにしても、これまでのように他人よりも力を出して汗をかくだけでは経営が成り立たなくなってきた。あらゆる面から既存の「常識」を破っていかないと事業を継続できなくなっている。その意味では「働き方改革元年」は難しい時代の始まりでもあるが、同時に知恵を出して創意・工夫すれば様ざまな可能性を拓くことができる楽しい時代でもある。という自分も、この原稿を祝日に書いているので、自らの働き方改革を考えないといけない。



改正事業法が成立
2018/12/21 更新

 9月21日の当ブログで運送事業法改正に向けた動きが始まったことを書いた。その改正事業法が先の臨時国会で成立した。事業法改正案は6会派共同提案の議員立法だったので、国会審議で与野党が対立するような内容ではない。そのため比較的すんなりと国会を通った。最大の課題は臨時国会の会期で、いわば時間的なリミットが一番の懸念だったが、改正事業法が成立した。約半年間でのスピード成立である。

 事業法改正を要望する声はずっと以前からあった。それと今回の大きな違いについては前回のブログで書いたので割愛し、ここでは改正の要点を紹介する。まず、規制の適正化では、法令に違反した者などの参入の厳格化として、欠格期間を2年から5年に延長する。また処分逃れの自主廃業者の参入規制も廃止届出から5年間としている。また、悪質な事業者の排除として、許可の際の基準の明確化、運送約款の認可基準の明確化を図る。

 
事業者が順守すべき事項でも、輸送の安全に係る義務の明確化、事業の適確な遂行のための順守義務の新設などが盛り込まれている。さらに、荷主対策の深度化も大きな焦点の1つだ。この荷主には元請事業者も含まれ、改正法では荷主の配慮義務が新設された。これは運送事業者が法令を順守できるように荷主に配慮義務を設けたもの。さらに、これまでもあった荷主勧告制度を強化している。なお、この制度は貨物軽自動車運送事業者も対象になる。

 国交大臣による荷主への働きかけなどの規定も新設された。運送事業者の違反の原因となるおそれのある行為を荷主がしている疑いがある場合には、関係行政機関と協力して要請し、さらに勧告・公表もできるようにした。そして運賃である。ドライバーの労働条件の改善と事業の健全な運営の確保のために、2023年度末までの時限措置として、国交大臣が標準的な運賃を定めて告示できる、としている。



急がれる年末の物流への対応
2018/11/21 更新

 今年も残りわずか。あと1カ月余で年末である。11月下旬ともなると百貨店や量販店などは年末商戦に入っている。さらに年末にはネット通販の宅配荷物も増えるだろう。もちろん一般貨物も増加する。一方、どこに取材に行ってもドライバー不足で、しかも募集してもほとんど応募者がいない、という話になる。こんな状態で今年の年末の物流は、はたしてどうなるのだろうか? 軽々には予測できない、というのが正直なところだ。

 そのような中で、年末に集中する貨物を分散しようという傾向も強まってきた。事業者側からは、荷物の発送を前倒しして、年末に集中する集荷を平準化しようという動きだ。一方、百貨店や量販店などでは、歳暮の宅配日を早めるように顧客に促している。一般貨物も前倒しして年末のピークを緩和するような荷主も出てきている。そのような点では、物流問題が従来よりも広範囲な人たちから真剣に認識されるようになってきたのは事実である。

 
このような流れの根底にあるのは、物流産業に限らないが、生産年齢人口の減少による人手不足に他ならない。これは人口構造の問題なので、少なくとも四半世紀単位で考えていかなければ、基本的な解決にはならない。そのような中で外国人労働者受け入れの枠拡大については政治的な争点にもなっている。だが、拙速な枠の拡大は後々に様ざまな社会的問題を起こすことにもなりかねないので、慎重な検討が必要である。

 すでに、大手ネット通販の自前の宅配網の中では、宅配に外国人を使っている事業者もいるようだ。雇用ではなく委託契約にして、軽トラックはリース会社などを絡めて事業者の自社名義にはならないようにし、実質的には車両を貸し出すという方式のようである。法的にはどのようになっているのか分からないが、宅配荷物を受け取る方からは評判が悪い。これから年末にかけて荷物量は増加する。様ざまな対策をたてて対応しなければならない。



荷物の無人空輸の可能性
2018/10/21 更新

 ヤマトホールディングスは10月12日、ベルヘリコプターと将来の新たな空の輸送モードの構築に向けた協力で基本合意したと発表した。ベル社は米国テキストロン社傘下の企業で、両社は電動垂直離着陸機(eVTOL)を活用した物流領域におけるグローバルリーダーを目指す。ベル社は外装式輸送容器(ポッド)を搭載する自律運航型ポッド輸送機(APT)の開発、ヤマトはポッドの開発を担当し、2020年代半ばの実用化を予定している。

 電動垂直離着陸機はドローンより大型のもので、ベル社の自律運行型ポッド輸送機は、テイルシッター型の電動垂直離着陸機にペイロードポッドを搭載して荷物を運ぶ。時速160q以上で飛行し、数10q〜数100qの飛行距離が可能という。小型機の最大積載量は7s、大型機なら453sを積載できる。宅急便の最大サイズは25s(三辺計160p)なので大型機なら18個、最小サイズは2s(同60p)なので226個を同時に運べる。

 
このようにみると開発を予定している自律運行型ポッド輸送機は、現在、各地で進みつつある営業所〜配送エリア間の貨客混載の部分にほぼ相当する。乗合バスの貨客混載では従来、350sまでの貨物輸送が可能だった(道路運送法第82条)。昨年9月からは、@貨物自動車運送事業の許可取得、A350s以上は貨物の運行管理者の選任を条件として、350s以上の貨物混載輸送が可能になった。これが無人空輸に転換される可能性がある。

 無人の貨物空輸では、ドローンによる宅配が関心を集めた。だが、ドローンによる宅配は離島や過疎地などでもとりわけ宅配が困難な場所や、緊急を要する場合など、ごく限られたケースでしか実用化は難しいと思われる。コストが高くつくからである。それに対して自律運行型ポッド輸送機は、法的な問題を別とすれば、宅配の手前の部分での実用化がかなり現実性を持っているのではないか。ドローンより合理性や実用性、経済性があるからだ。



事業法改正に向け対策本部で原案を検討
2018/9/21 更新

 貨物自動車運送事業法の一部を改正する法案を議員立法で上程しよう、という動きが始まった。全日本トラック協会はそのための対策本部を6月に立ち上げ、現在、法案を検討している。対策本部は議員、行政、事務局で構成し、原案が作成できたら機関手続きなどを進める予定だ。周知のように事業法の改正を求める声は、これまでにもトラック運送業界の一部から何度も出されていた。だが、今回の改正要望は従来とは認識が基本的に違う。

 何が違うのか? これまでの事業法改正要望は、一言で表現するならいわば後ろ向きの発想だった。現在の事業法が施行になったのは1990年12月である。いわゆる規制緩和だが、タイミング的にはバブルの崩壊とほぼ時期が重なった。そのようなこともあって、規制緩和?事業者急増?競争激化?運賃下落?経営悪化という発想に基づいて、だから以前のように規制を強化すべきだというのが、これまでの事業法改正要望の論理展開だった。

 
つまり行き過ぎた規制緩和を基に戻せという主張である。これには率直に違和感があった。既存事業者の既得権益を守れ、というに等しかったからである。それでは社会的に支持を得るのは難しい。だが、今回の事業法改正要望は、基本的な認識が前向きになっている。今後も安定的に物流サービスを供給するには人材の確保が不可欠であり、働き方改革などを推進する経営環境や条件を担保できるように事業法を改正しよう、という主旨である。

 関係者の話を総合すると、参入規制の厳格化や不適切な事業者の排除といった業界つまり物流サービス供給側の在り方、荷主対策の深度化といった物流サービスを享受する需要側へのけん制、標準的な運賃の公示制度の導入など最低限の価格コントロールなどを考えているようだ。願わくば、今後、さらに進行していく経済のグローバル化や国内市場の縮小といった経済構造の変化の中で適正な競争が担保できるような視点も加えてもらいたい。



ラストワンマイルへの参入が続くが…
2018/8/21 更新

 最近、ラストワンマイルが注目されてきた。とくに貨物軽自動車によってBtoC宅配に参入する事業者が増えてきている。その背景にはネット通販の伸びがあることは言うまでもない。ネット通販に限らずネットスーパー、買物代行など、宅配が伴う小売りの販売形態が伸びて行くことが予想される。そのようなことからラストワンマイルを有望な市場ととらえて、新たな商機を見出そうという事業者が増えてくるのは自然の成り行きともいえる。

 これまでラストワンマイルは、そのほとんどを宅配便事業者が担っていた。それが新市場としてにわかに注目されるようになったのは、昨年、宅配便各社がサービスの見直し、相次いで料金を値上げしたからだ。値上げで大きなダメージを受けたのがネット通販会社である。大手ネット通販会社は以前から、大都市圏においては自前の宅配網を構築しようと計画していたが、宅配便の値上げで急遽、着手を早めなければならなくなった。

 
大都市圏におけるネット通販の自前の宅配は、仕組みとしては宅配便のようなメニー・ツー・メニーではなく、ワン・ツー・メニーである。また、リードタイムを短縮するクリック・デリバリーには貨物軽自動車を何回転もさせるのが良い。そのため自営業の軽運送をアンダーに組み込めば一般事業者にも参入が可能だ。このようなことから一般事業者のラストワンマイルへの参入と、貨物軽自動車運送事業者の争奪戦が繰り広げられているのである。

 だが、ラストワンマイルへの参入にも2つのタイプがある。1つはコントラクト・キャリア型であり、もう1つはコモン・キャリア型である。コントラクト型は大手ネット通販などの専属宅配を担うもので、現在は車建契約になっているから良いが、将来、個建契約に移行するとうま味は少ない。それに対してコモン型は、自社でラストワンマイルの宅配ネットワークを構築し、多数のネット通販などの荷物を積合せするもので対等の契約が可能になる。



荷主への要請は文書で正式に
2018/7/21 更新

 労働時間短縮が大きな課題になっている。それを実現するには待機時間の短縮、荷役料や諸作業料の別途請求など、いずれにしても荷主との交渉が必要だ。それをバックアップするのが昨年11月に改正された標準貨物自動車運送約款だが、取引条件改正などの際に約款を有効に活かすかどうかは、偏に事業者自身の行動にかかっている。自ら動かなければ、間違っても荷主の方から運賃や料金を値上げしましょうとは言ってこない。

 そこでこの間に荷主と交渉して契約内容を改善した事業者と、いまだ改善できていない事業者を比較してみた。まったく働きかけをしていない事業者は対象外として、一部でも自社の要望を実現している事業者と、一応、働きかけはしているが全く実現できていない事業者の違いには明らかな特徴があることが分かってきた。働きかけはしているが、まだダメですという事業者のほとんどは、口頭で「お願い」しているだけのケースが多い。

 
だが荷主側からすると、文書で社印の押してあるものだけが正式の要請であり、そうでないものは何もないに等しい。そこで、事業者からの働きかけがないので、困っていないはずだ、という論理になる。これは荷主にも一理ある。口頭で「お願いします」と言われても、それでは上司に上げることができないし、検討しようもない。一方、事業者側では、こんなに働きかけて要請しているのに……、というアリバイづくりで自己合理化している。

 運賃値上げや作業環境の改善などに成果を挙げている事業者に共通しているのは、データの裏づけをもち、文書で正式に要請し、毅然とした姿勢で交渉しているという点だ。企業間の取引なのだから文書でやり取りするのは当然のことである。これからは、このような差が企業間格差になってくる。労働力が確保できる事業者かどうかの違いにもなる。荷主への要請は文書で正式に行うという基本的な認識と行動が必要だ。



若い創業経営者に感じること
2018/6/21 更新

 この時期は人事の季節でもある。オーナー経営の会社では、昔から親しくしていただいた経営者が退任し、子息の若い経営者に事業を継承することが多い。資本と経営が分離している企業からも、5月から6月にかけては社長交代の挨拶状が来る。取材その他で長年にわたってお世話になった経営者が第1線から退くことは、世の中の定めとはいえ一抹の寂しさを感じる。一方、新たに社長に就任した経営者には頑張ってもらいたいと思う。

 これらの社長交代とは別だが、最近、創業社長にけっこう会っていることを思い出した。これらの会社は一般的に社歴が短い。創業10年とか起業してから5年程度といった会社である。だが、保有車両数でみると4、50台規模になっている。そのような中には30歳代前半の若い創業経営者も4、5人いる。最初は軽トラックからスタートした人たちが多かった。このような人たちは、若い創業者だけに事業に意欲的で話をしていて楽しい。

 
同じ若い経営者でも2代目や3代目と創業経営者では明らかに違いがあるように感じる。まず、創業経営者は現場感覚を失っていない。それに対して2世、3世は現場経験を経ていたとしても、あまり現場臭を感じさせないのである。この違いは、おそらくドライバーとの接触などにおいて、微妙な差になっているのではなかと思う。創業社長も若い年齢ほどデジタル管理などに詳しいが、同時に、アナログなメンタル面も持ち合わせている。

 また、創業社長は何事においてもどん欲だ。それに対して2世、3世の若い経営者は全体的にスマートである。どちらが良いか悪いかという問題ではない。どちらにも長短がある。そして中には2代目、3代目なのに創業者的な良さを持っている経営者もいる。反対に創業者なのに2世、3世の長所を持ち合わせている経営者もいる。このような人たちを自分では「1.5世」と規定しているのだが、「1.5世」には優れた経営者が多い。



数値の裏づけをもって語る経営者
2018/5/21 更新

 ある企業に久しぶりに取材に行った。この前、最後に訪ねたのは10年以上前で、単行本の執筆のために取材に協力していただいた時である。したがって同社の代表者にお会いするのはそれ以来だが、久々の会話にもかかわらず、この間の時間的なブランクを全く感じなかった。代表は70歳代後半になられたが、相変わらず発想が面白く、年齢を感じさせない。マーケットの変化に対応した新サービスに取り組むなど意欲的である。

 同社を10数年ぶりに訪ねたのは、ある新サービスの立ち上げに関する取材を進めている中で社名が出てきたからである。その新サービスと同社とは直接的な絡みが考えられない。しかし、同社が関わっているのが不思議だったので、会って話を聞こうと思ったのである。それに久しぶりなので懐かしいという気持ちもあった。案の定、代表者の話では事業としての絡みは考えていないとのこと。どうしてもと頼まれて参加したという。

 
たしかに同社のコアビジネスとその新サービスは、一見、共通しているように受け止める人が多いだろうと思われる。だが、違うのである。新サービスに参入すれば売り上げは増加する。しかし、収益性が低下するのは明らかで、コアビジネスの足を引っ張る結果になる可能性が高い。ここは「足し算」ではダメで、「引き算」の発想が必要だという点で意見が一致した。そこで、当初の取材目的とは別に、同社の今後の事業展開を聞くことにした。

 同社が昨年秋から着手し、今年度に本格的に展開しようとしている新事業は、社会の変化に適応したサービスだ。マーケットの変化、新市場の可能性などについて、同氏は即座に具体的数値の裏づけを示しながら説明し、資料をコピーしてくれた。キチンとした数値の裏づけを持って取材に応えられる経営者は優れた経営者である。高齢になっても、多くの若い経営者より柔軟な発想をしている。まだまだ現役で行けるなと感じた次第である。



中小トラック運送事業者同士のM&Aが増加
2018/4/21 更新

 運送業界では労働時間短縮が大きな課題になっている。長時間労働というと真っ先に頭に浮かぶのは長距離ドライバーだが、長時間労働なのは運行管理者なども同様だ。深夜、早朝の対面点呼などをキチンと遂行するには、運行管理者がその時間に事業所にいなければいけない。一定人数の運行管理者がいて、長時間労働にならないように交代勤務の体制ができている会社なら良いが、多くの事業者はそこまでの体制にはなっていない。

 なかには経営者が自ら深夜、早朝の対面点呼をして法令順守に努めている中小事業者もいる。このような真面目な経営者には敬意を表するが、問題は現状のような経営をいつまで続けられるかだ。後継者候補がいても、事業を継承して自分と同じような生活を続けることを求めることができるかどうか。後継者候補の方も、親の生活をみていて、会社勤めの方が良いと思わないだろうか。後継者がいないという背景にはこのような事情もある。

 
そこで運送業界でもM&Aが増えている。この4年の間に20社を買収し、30億円弱だった売り上げが単純合計で約140億円にまで拡大した事業者がいる。同社に取材して記事を書いたら、かなりの反響があった。記事に対する問い合わせを分類すると、大きく3つに分けられる。1つは企業買収の話が持ち込まれている事業者。2つ目は逆に後継者難などで悩んでいる事業者。3つ目は第三者的な立場から記事に関心を持った事業者である。

 M&Aを仲介する会社だけではなく、マイナス金利で本業では利益が出せない金融機関も積極的にM&Aを奨めている。仲介手数料を得るだけではなく、買収資金も貸し出すというセット商法だ。したがって金融機関が持ち込んでくる案件には、財務内容などが悪い事業者はないと考えても良い。融資した買収資金が回収できなくなるような愚は犯さないからだ。買収する側の事業者は競争力強化を目的としている。M&Aが増えている背景だ。



長距離輸送に2マン運行という「ニッチ」
2018/3/21 更新

 長距離輸送は労働時間の問題などをどのようにクリアするかが大きな課題だ。その1つの方法として中継輸送がある。全国にネットワークを持っている大手事業者なら、社内で中継輸送することができる。だが、中小事業者は自社だけではできないので、他社と提携して中継輸送するしかない。また、トレーラならシャーシを引き継いでヘッドだけUターンすればよいので比較的容易だが、単車では相互に他社のドライバーが乗務することになる。

 中小事業者のドライバーが単車で長距離輸送しているケースが圧倒的に多く、労働時間の短縮が最も求められている。だが、異なる事業者間による単車での中継輸送は、実現性においての難易度が1番高い。その際の大きな障壁の1つが、「他のドライバーに運転させたくない」、あるいは「他社のトラックに乗務したくない」というドライバー心理だ。長距離輸送では着替えなどの私物も携帯し、休息も社内で取っているので理解できなくはない。

 ところが長距離輸送を2マンでおこなっている事業者がいる。昨年11月に取材した佐賀県の事業者(1月UPの事業者レポート参照)もそうだが、最近取材した埼玉県の事業者も2マン運行をサービスの「売り」にしている。前者が貸切輸送なのに対して、後者は中ロットの積合せだが、両社とも九州〜首都圏間で2マン運行している点は同じだ。九州〜首都圏の運賃で、2マンによって運行時間を短縮して車両回転を増やせば採算が取れる。

 これが、どこかで必ずフェリーを使わなければならない首都圏〜北海道との違いである。首都圏〜九州は途中でフェリーを利用することも可能だが、陸続きとして運行計画を立てることができるからだ。ところで、1台のトラックを複数のドライバーが運転することに対する抵抗感はないのだろうか。そのようなドライバー心理を両社ともクリアしているから2マン運行が可能になり、リードタイムの短縮というニッチサービスを実現している。



運賃・料金値上げへの姿勢と取り組み
2018/2/21 更新

 昨年11月に改正「標準貨物自動車運送約款」が施行になった。これに伴ってほとんどの事業者が運賃や諸料金の認可申請をしているものと思いきや、どうもそうではないようだ。関係者の話によると、新運賃・料金の届出状況はかなり低いという。ましてや、標準運送約款の改正をキッカケに荷主と交渉している事業者となると、さらに少ない。

 これでは何のために標準運送約款が改正されたのか分からない。行政がそこまでバックアップしてくれているのに、それを活用しないのはもったいない。そこで何社かに取材した。すると以下のようなことが分かってきた。1つは、荷主と交渉して運賃・料金値上げを実現しているような事業者は、約款改正以前から交渉をしてきた、ということである。

 また、これらの事業者は値上げ要請の理由として、ドライバー確保のための賃金アップや、労働時間短縮に伴うコストアップを前面に出している。つまり標準運送約款の改正に関わりなく、経営を維持してサービスを継続的に提供するためには値上げせざるを得ない、という姿勢を明確にしている。経営責任や取引先に対する責任というスタンスなのである。

 このような事業者の多くは、この間、不採算部門から撤退しているのも共通している。採算が合わなければ取引しないのは企業経営の基本だ。もちろん約款改正を機に作業料などの有料化を実現した中小事業者も少数だが存在する。これらの事業者から話を聞くと、やはり交渉に応じてもらえなければ撤退しても良い、という覚悟で臨んでいるケースが多い。



事業拡大に慎重な事業者が少なくない
2018/1/21 更新

 建築資材などをメインに運んでいる中小事業者である。戸建住宅や集合住宅(アパート)用の建築資材のメーカーなど4、5社の荷主と取り引きしていて、同社の売上の約70%が建築用資材関係である。取引先ごとに異なる資材だが、積み合わせて同じ現場に運ぶようなケースは少ない。ビルなどの建築現場ではないので、道路事情などから4t車の平ボディやユニック車での納品が一般的で「建築戸数が増えているので荷動きは良い」という。

 だが、積極的に仕事を拡大して増車しようとは考えていない。建築資材関係の売上構成比が高く、リスクが大きいからである。さらに「東京オリンピック後は景気が後退し、また国内市場の縮小も進む」と予測しているからでもある。そこで「増えた仕事は傭車で対応し、当面は様子をみている」という。もちろん建築資材関係以外の業種の荷主の新規開拓を進めるが、平ボディやユニック車という現在の経営資源を生かせる分野の荷主が主な対象だ。

 一方、半導体関係の精密機器を主に、精密機器輸送を得意としている中小事業者である。同社の売上の約3分の1が精密機器関連だ。納入先での搬入・据え付け作業もあるので、たいていは2マン運行になっている。この間、半導体分野の設備投資が増えているため事業は順調という。だが、このままの状況が続くとは思っていない。目安は東京オリンピックで、「それまでに別の輸送分野で事業の新しい柱をつらないといけない」と考えている。

 この事業者は、「昔のような増産のための設備投資ではなく、現在は効率化のための設備投資」で、同社の仕事も増えているという分析だ。さらにオリンピック以降は設備投資の勢いも変化してくると予想する。そこで「2020年ぐらいまでに、もう1つの柱をつくることが必要」というのである。このように両社とも持続的景気拡大の実感がなく、また、今後の事業拡大にも慎重な姿勢を示している。労働力確保が難しいから、という理由ではない。



週休3日制導入の中小事業者も
2017/12/21 更新

 今年も残すところ20日になってしまった。何年か後に2017年を振り返ってみると、トラック運送業界にとって大きなターニングポイントになった年と総括できるのではないかと思われる。ドライバーの労働時間短縮や賃金水準の引き上げなどをバックアップする諸施策を行政が打ち出してきた年だからである。今年ぐらい行政が業界支援に力を入れたことは、かつてなかったのではないか。そのような意味で画期的な1年といえる。

 中大型車の荷待ち時間の記録義務づけや、荷主勧告制度の運用見直し、標準貨物自動車運送約款の改正などが、ドライバーの労働条件の改善に向けて大きな支援策であることは言うまでもない。取引条件の是正を進め、労働条件の改善を図るための力強い武器になる。だが、どのような武器も使用しなければ無に等しい。行政の支援策を有効に活かすかどうかは事業者自身の姿勢と行動にかかっている。ここから先は自力で打開するしかない。

 行政が業界支援策を打ち出すとともに、宅配便のドライバー不足や過重労働などもこの1年は注目を集めた。未払い残業代の問題も含めて、必然的にドライバーの労働条件の改善への認識が高まったといえる。ただ、社会一般が注目したわけではない。荷主企業の担当者からの関心が高まったのである。それは、ドライバー不足で自社の荷物が運べなくなったら大変で、また、トラックが確保できても需給関係から運賃が高騰しては困るからだ。

 一方、トラック運送事業者の側でもドライバーの賃金引き上げや労働時間短縮への取り組みが強まった1年だった。そうしなければドライバーを確保できないからである。そのような中である中小事業者(保有台数50台強)は、変形労働制による週休3日の正社員制度を新年から導入する。さらに週休4日の正社員化も検討中である。正社員としての雇用の門戸を広げるとともに、今後の最大残業時間規制への対応でもある。



まだまだやることがある
2017/11/21 更新

 ある地方のトラック協会が主催するセミナーに行った。終了後に、ちょうど2年前の11月に取材で訪ねた運送会社の社長が挨拶に来て、立ち話だったが近況などを少し聞くことができた。その社長は、「さきほどの話を聞いていて、まだまだやることがあると思いました」という。とくに、これからは社員満足度を高めていかなければならない。可能な限り「ベースアップもしなければと、現在、来春の賃上げ額を検討中」なのだという。

 この事業者は保有台数が30数台で従業員数は約60人(パートを含む)。地場産業と連携し、地元特産商品のネット通販の物流を担うなど、地元企業と共同して販路拡大にも寄与しており、3年前には地元の県の優良企業表彰も請けている。この中小事業者が、どのくらい賃金を上げるべきかで悩んでいる。極端な考え方をすれば「利益が出なくても良いから、赤字にならない範囲まで人件費を増やす」、という決断をするかどうか、である。


 同じような状況まで賃金を先行して上げた中小事業者を何社か知っている。これらの事業者が共通して話すのは、「利益が出なくなれば、運賃交渉に際しても土俵際という切迫感が出てくる。この本気度が交渉相手にも伝わる」という点だ。いずれも運賃値上げを実現している。それだけではなく、全社一丸となって仕事に取り組むようになってきた、という。そのため、新規開拓など売り上げも増え、賃上げしても逆に利益が多くなったことだ。

 一方、ある県ト協のセミナーにいった時、「どうしたら社員が定着する会社になるのか具体的に説明してくれ」という質問があった。結論から言えば労働時間を短縮し、賃金を上げることであり、それをどのように実現するかは各事業者の諸条件によって異なってくる。もちろん取引先との交渉も不可欠なのだが、先のような質問をする経営者ほど、「そうはいっても、荷主が云々…」と経営者としての責任を避ける傾向にある。



物流への関心は本当に高いのか
2017/10/21 更新

 宅配便の値上げやサービスの見直しなど、この間、宅配便事業者の動向については、マスコミでもしばしば取り上げられてきた。そのようなこともあって、トラック運送業界の関係者の多くが「最近は物流への関心が高まってきた」とか「今ほど物流が注目されたことは過去になかった」といったことを口にするようになってきた。だが、本当にそうだろうか。それほど物流が世間の関心を集めているのだろうか。水をさすようだが、はなはだ疑問だ。

 たしかに荷主担当者などには、ドライバー不足の中でどのように輸送体制を維持するかといった懸念があることは事実だ。荷主は販売先に荷物を確実に届ける責任があり、トラック不足で納入できなければ大問題になってしまう。同時に、サービスの供給量が制限されるようになれば、必然的に運賃が上がることになる。物流担当者としては物流コストの上昇はできるだけ抑えなければならない。このように荷主の担当者の関心は高まっている。


 一方、トラック運送業界では労働時間短縮が大きな課題である。賃金を下げずに時短を進めるには原資の確保が不可欠だ。厚労省は時短推進のための環境整備を後押しし、国交省も運賃・料金など収入確保のための条件を整えるなどバックアップしている。これほどの行政の援護はかつてなかった。そのため業界人の多くは物流に対する一般の人の関心が高まっていると錯覚しているのではないか。荷主担当者も広い意味で物流業界関係者に過ぎない。

 だが、現実はそうではない。一般の人たちの関心は「宅配便」なのである。とくに「ネット通販」がらみの「宅配便」には非常に高い関心を示す。しかし、物流一般に関しては一般の人たちの関心は依然として低いのが実態だ。それはオンラインの記事への反応などを見ると良く分かる(他のライターも共通して指摘)。そのような現実を踏まえて、一般の人たちの物流への関心を引くにはどうすべきか。業界は戦略的に考えなければならない。



働き方改革と生産性向上
2017/9/21 更新
 最近は「働き方改革」という言葉を頻繁に耳にするようになった。かくいう自分も働き方改革と書いたり話したりしている1人だ。働き方を変えようという取り組み自体は良いことだ。長時間労働の結果として過労死などといった問題が生じるのは、普通に考えれば異常な事態なのである。何のために働くのかといえば、直接的には生活するためであり、もっと広い意味では人として生きるためである。本来、労働はそのための手段に過ぎない。

 ところが現実には、働くことそのものがあたかも目的であるかのようになってしまっている。長時間働かないと生活の糧が得られない、といった現実もある。このような異常が常態化してしまうと、それが当然であるかのような錯覚に陥ってしまう。働き方改革という政策を素直に受け止めれば、人間らしく正常な状態にしようということだ。必要なだけ働いて、日々の生活や人生を楽しむ。そのような社会が実現できれば一番良いことである。

 ところで働き方改革とは何か、という問題である。もちろん様ざまな面から捉えることが必要だ。だが、働き方改革の柱になるのは、労働時間を短縮し、収入を増やすということに尽きるだろう。時短と収入増が働き方改革の2本柱である。ところが、トラック運送業界の実態は長時間労働で低賃金であり、かなりハードルが高いことになる。そのような現状からいかに働き方改革に取り組むかは大きな課題で、難しいことも事実だ。

 現状のままでは労働時間短縮も難しい。かりに労働時間を短縮できたとしても、それに伴って賃金が下がってしまう。当面は賃金水準を維持しつつ労働時間短縮をいかに図るか、という段階である。労働時間短縮も賃金アップも、それを可能にする原資が伴わないと画餅になってしまう。では原資をどのようにして得るかというと、生産性を向上するしかない。つまり、働き方改革と生産性向上は表裏の関係にある。この両方を同時に進めるしかない。


ヒアリにヒヤリ
2017/8/21 更新
 経済のグローバル化は必然的な流れであり、国境を超えた経済活動の拡がりを食い止めることはできない。だが、それに伴ってリスクも拡大する。リスクといっても様ざまだが、ヒアリなどもその1つだろう。報道で知ったのだがアメリカでは1年間に100人ぐらいがヒアリで亡くなっているという。「ありんこ」というのは小さくて可愛いアリの愛称だが、中には危険なアリもいる。それもジャングルなどではなく、身近な存在になってきた。

 日本でヒアリが見つかったというニュースを初めてテレビで見た時には、まだ実感に乏しかった。だがその後、いろいろな港で発見されるようになった。そのようなニュースの中で、海コン輸送に従事している女性ドライバーがインタビューされているのを見たら、知っている会社のユニフォームだったので、にわかにヒアリの危険性を身近に感じるようになった。海コンのトレーラ輸送をしているドライバーにとっては新たなリスクの1つである。

 さらに内陸部の物流センターでも海コンの中からヒアリが出てきたというニュースがあった。このように物流業務に携わる人たちにとっては、ヒアリは現実的なリスクの1つになってきた。小さいので発見しにくいだけでなく、もし見つけても在来のアリとの違いなど素人目には瞬時に判別することが難しい。今後は輸入貨物がさらに増加してくる。物流現場で働いている人たちにとっては、実に厄介なリスクの拡大である。

 実は先日、関税検査の現場を見る機会があった。中国からのコンテナだったのだが、X線検査機を通したあと、荷物のいくつかを抽出して開封して調べる見本検査だった。関税検査を見学するのは初めてなので、それはそれで興味深かったのだが、ヒアリは大丈夫だろうかと自然に足元に視線が向いてしまう。輸入貨物を取り扱う現場では、働いている人たちへの注意喚起も重要になっている。これもグローバル化にともなうリスクの1つだ。


ネット通販商品の宅配で一部トラブル
2017/7/21 更新
 アマゾンの宅配で指定日時に届かなかったり、未着なのに配達完了になっているとか、あるいは再配達の連絡が取れないなど、6月以降、一部で一時的に混乱が生じたようだ。ネットでみると、ユーザーからけっこういろいろな意見が出されている。とくにヤマト運輸に代わって、地域限定契約の「デリバリープロバイダ」が担当している地域で問題が発生したようである。事業者間のサービスレベルの差が具体的な形で表れたのだろうと思われる。

 このような状況を反映して、テレビや新聞、週刊誌などがヤマト運輸とネット通販大手の値上げ交渉の進捗状況などと併せて、未着などの取材を進めて一部で報道された。とくに「デリバリープロバイダ」と商品の遅配などの関連でいえば、「デリバリープロバイダ」のどこに問題があるのか、今後は大丈夫なのだろうか、といった視点からの採り上げ方が多かったように思える。ネット通販の利用者の関心の高さを如実に反映しているといえる。

 だが、「デリバリープロバイダ」も全事業者が一律ではない。30年近くも前から1都3県で即日配送サービスを展開してきた事業者もいる。ネット通販が現れるずっと以前からである。したがってこのような「デリバリープロバイダ」には即日配送や翌日配送のノウハウが蓄積されているはずだ。一方、Amazon「プライムナウ」や同「フレッシュ」の宅配で実績のある事業者もいるが、ヤマト運輸から移行した宅配はそれらとは少し違う。

 一部では「デリバリープロバイダ」が金融機関を介して下請けを探しているが、仕事を請けて大丈夫か? といった声も出ている。報道されているように運賃も最初は車建て契約だが、いずれは個建てになるだろうという懸念があるからだ。個建てでは、宅配便事業者から委託されている現在の運賃より多少高くなったとしても、配送密度の関係から配送効率が低下すると予想されるからだ。いずれにせよ当面はマスコミの注目度も高いだろう。


マイナス金利と事業継承
2017/6/21 更新
 最近は銀行も必死だ。中小事業者に対して大手事業者と資本提携するようにと、銀行がしつこく勧めてきたという話を聞いた。資本提携とは聞こえが良いが、大手事業者からの出資を受け入れ、実質的には傘下に入らないかということである。最初は資本参加だが、いずれは完全子会社化を視野に入れているのだろうと思われる。この中小事業者は子息が他業種の企業に勤めている。そこで銀行は、子息も同席させて事業継承の意思を確認したという。

 同社の社長から、なぜ最近になって銀行がこのような話を持ってくるのだろうと聞かれた。そこで、マイナス金利の影響で新たな稼ぎ口の開拓に迫られているのではないか、と話した。M&Aの専門会社もあるが、銀行も企業譲渡・譲受の仲介に力を入れてきたのだろう。銀行なら取引先である中小事業者の財務内容には詳しいし、後継者問題などもある程度は分かっている。一方、取引先には健全経営の中小事業者を傘下に収めたい大手事業者もある。

 財務内容などが良好な中小事業者でも、後継者は大きな課題になっている。後継者候補がいないのではなく、将来性が不透明なので経営を譲る側も躊躇するし、継承する側にも自分の好きな道を歩んだ方が良いという考えが生じる。そのような事情から、最近はトラック運送業界でもM&Aが増えてきた。しかも、経営が行き詰まってからの譲渡ではなく、企業価値が高いうちに売るという傾向が強まっているのだ。

 ある中小事業者は「できの良い子には自分の好きな道を歩ませ、親からみて一番心配な子に運送会社は継がせる」という。その話を別の事業者にしたら、即座に「それは良い考えだ」という反応が返ってきた。それでは従業員はどうなるのか、可哀そうではないか。ということで経営能力のある従業員に会社を譲渡するようなケースも少しずつみられるようになってきた。それにしてもマイナス金利の影響で、銀行がM&A仲介に力を入れてくるとは。


荷物がひとりでやって来る! かも知れない?
2017/5/21 更新
 宅配荷物の受取人の所に荷物がひとりでやって来る…近い将来そんな時代になるかも知れない。時間帯を10分刻みで指定し、望んだ場所に自動運転の車両が宅配ボックスに入った荷物を届けにくる。受取人は宅配ボックスを開けて荷物を受け取る。ヤマト運輸がDeNAと始めた「ロボネコヤマト」の実証実験はそんな可能性を秘めている。実用化までには様ざまな課題があるだろうが、ここでは夢のある試みとしてポジティブにみることにしよう。

 DeNAとヤマト運輸は4月17日から来年3月31日までの間、神奈川県藤沢市の国家戦略特区で、将来の自動運転社会を見据えた「ロボネコヤマト」プロジェクトの実用実験に取り組む。実験に取り組むのは「ロボネコデリバリー」と「ロボネコストア」のサービス。「デリバリー」は専用EV車両の荷台に保管ボックスを設置し、荷物の受取人が10分刻みで選択した時間帯に、希望する場所に行って荷物を受け取れるというサービス。


 自動運転が前提だが、実現すると受取人の所に「移動宅配ボックス」がやって来る。ドライバーが各戸に荷物を届ける仕組みが一変し(100%ではないが)、働き方も変わる。また集合型住宅では、宅配ボックスがいつも塞がっている、という固定式の利用回転率の低さが解消できる。戸建て住宅の宅配ボックスも、居住者の設置費用負担がなくなり、1家族だけの使用による低稼働率という問題も解消できる。シェアリング・エコノミー効果だ。


 利用者のメリットは、現在の時間帯指定(2時間)と比べ時間コストが削減できること。一方、宅配便事業者にとっては再配達コストの削減、ドライバー不足への対応になる。社会的な面からみると、物流におけるAI活用になり、ラスト・ワン・マイルのイノベーションによる生産性向上、宅配ドライバーの労働条件の改善や働き方改革にもなるだろう。さらに産業構造面からみると、労働集約型産業から装置型産業への転換という見方もできる。


待機時間の記録義務づけの注意点
2017/4/21 更新
 国土交通省は、到着時刻から荷物の積込や荷卸し作業が始まるまでの待機時間を、乗務記録に記載することをトラック運送事業者に義務づける。待機時間はドライバーの長時間労働の大きな要因の一つだ。集荷(納品)地点への到着時刻、荷積み(荷卸し)の開始時刻などを乗務記録に記載することで、荷主都合による待ち時間の実態を把握し、ドライバーの労働時間短縮などの改善を図ろうとするもの。待機時間の有料化などの基礎データにもなる。

 対象は車両総重量7.5t以上か最大積載重量が4.5t以上の車両。積込場所や納品場所において待機時間が長いのは、拠点間輸送の車両に多いためである。同省では「貨物自動車運送事業輸送安全規則」の一部を5月に改正し、6月から施行する予定である。待機時間の乗務記録への記載の義務化によって、ドライバーの拘束時間の短縮などにつながれば良い。とくに長距離幹線輸送のドライバーの労働時間短縮は業界の大きな課題である。


 だが到着時刻と積込み(荷卸し)開始時刻の記録化で注意すべき点は、見かけ上の待機時間短だ。たとえばジャスト・イン・タイム納品では、受け荷主への到着が指定時間通りなので、見かけ上は納品先での待機時間はない。だが、指定時間に遅れるとペナルティが課されるので安全をみて早めに近くまで行っている必要がある。しかし、早く着き過ぎてもいけないので、受け荷主の近くのコンビニなどでドライバーが時間調整しているのが実態だ。


 同様に、従来は工場や物流拠点の敷地内で待機させていたのを、敷地外で待機させることで到着時刻から積込み(荷卸し)開始時刻までの記録上の「時間短縮」を図り、責任を逃れようとする姑息な発荷主(着荷主)や元請事業者がでてこないとも限らない。それでは、ドライバーへの負担増と引き換えに、表面的な「待機時間短縮」の実現になってしまう。可能性としては大いにあり得ることで、それをどのように防ぐかも併せて考える必要がある。

「ヤマト旋風」の裏表と便乗
2017/3/21 更新
 ヤマト運輸の料金値上げや一部の時間帯での指定見直しという話題が駆け回っている。昨年11月下旬ぐらいから宅配便ドライバー不足の話題が少しずつ出てくるようになった。実際に昨年暮れには遅配なども一部で起きたが、新年度からの値上げ交渉に向けたリークだなと思っていた。しかし、火のないところに煙は立たないので、ドライバー不足は事実である。そこで筆者も時流に便乗して、テレビなどでドライバー不足の話をしていた。

 すると2月上旬に東洋経済オンラインから話があって「ネット通販の激増で日本の宅配便は崩壊する」をUPしたのが2月19日。その4日後に日経新聞がヤマト問題を大きく取り上げたので筆者もいくつかのテレビやラジオ、週刊誌などに出る機会を得た。この間の報道で共通しているのは、ヤマト運輸を好意的に取り上げていることである。たいていはヤマト運輸のドライバーを過酷な状況に追い込んでいる元凶はアマゾンというストーリーだ。


 その理由はアマゾンが最近まで主要メディアにCMを出していなかったからとも推測される。そのようなシナリオは分かりやすく視聴者受けするし、営業からもクレームが来ない。コメンテーターもネット通販業界に詳しい専門家より、物流にスタンスをおいている筆者などの方がキャスティングとして良い。だが、いつまでも同じような構成では視聴者が飽きてしまう。そこで最近はヤマト運輸を切り口にして、運送業界の未払残業代に焦点を当てるような報道がでてきた。


 これは一部の弁護士がネタを流しているものと推測される。過払い金利の払い戻しで稼いでいた弁護士が、未払い残業代にターゲットを転換して久しいが、運輸業界は彼らの美味しい市場なのである。それはともかくヤマト旋風は凄い。運送業界を挙げて取り組むよりも同社1社の動向の方が世間の関心をひく力を持っている。運賃値上げ、ドライバーの労働条件改善の追い風が吹いている。運送業界はヤマト旋風のチャンスを上手に活かすべきだ。


ドライバー不足は深刻だが採用は慎重に
2017/2/21 更新
 厚生労働省によると昨年12月の職業別の有効求人倍率は、全体で1.36だった。しかし、「自動車運転の職業」の有効求人倍率は2.70である。「自動車運転」という分類なので、トラックだけではなくバスやハイヤー・タクシーなどが含まれているものと思うが、有効求人倍率は全体のほぼ2倍という数値だ。自動車運転職の募集に対して、いかに応募者が少ないかが分かる。ちなみに「運輸・郵便事務の職業」も3.35なので人気が低いようだ。

 路線バスのドライバーはそれほどでもないが、タクシードライバーは高齢者が多い。バス会社などを定年退職した人がタクシー会社に再就職している。元トラックドライバーと言う人もけっこういる。通運会社は鉄道駅の近くにあるが、一般の運送会社はたいてい駅から遠いところにあるので車でないと不便だ。そこで駅から取材先の運送会社までタクシーに乗ることが多い。行き先を告げると、自分がむかし働いていた会社だといったこともある。

 今でも昔の同僚と飲み友達なので最近の社内事情もいろいろ知っているということで、取材に向かう運送会社の裏情報を事前に聞き出すこともある。それはともかく、タクシーのドライバーは全体的に高齢だ。「年金という補助金があるから成り立っている業界」と揶揄する向きもあるが、あながち的外れとはいえない。トラックドライバーも全体的に高齢化が進んでいるが、タクシードライバーと比べると、まだ若い人が多く働いている。

 それでもドライバー不足が深刻だ。しかし、いかにドライバー不足であっても採用は慎重にしなければならない。最近は、違法薬物の使用者も増えている。まだ日本では、応募者に対する薬物チェックなどをほとんどしていない。日本の場合、昔はそれでも大丈夫だったのだが、最近は採用を判断するときに慎重に検討する必要がでてきた。もし、採用後に何か事件を起こしたら、企業の社会的責任だけではなく、取引停止といった事態も想定される。



親事業者に“長時間待機”の経費負担を新設
2017/1/21 更新
 積込や納品時における長時間待機はドライバーの長時間労働の大きな原因の一つだ。また残業代の増加や車両回転率の低下などコストにも関わってくる。そもそも待機時間は全くムダな時間であり、ゼロであっても仕事に何ら支障がない。したがって待機時間ゼロは理想だが、現実には難しいだろう。だが、待機時間を限りなくゼロに近づけるような努力をしなければならない。それには荷主と事業者の協力、元請・下請事業者間の協力が必要だ。

 ある発荷主は、委託した事業者が指定時間に到着しても一定時間以上待機させられた場合、着荷主に対して待機料を請求して事業者に支払っている。このような荷主は稀有な存在で、現実には実運送事業者の長時間労働だけが問題視される。だが、必ずしも荷主と事業者との関係ばかりとはいえない。発・着の拠点とも、たいていは事業者が業務を受託して行っている。したがって、その気になれば事業者同士でかなりの部分を解決できるはずだ。


 公正取引委員会は昨年12月、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」を改正した。この運用基準改正において、トラック運送業界で注目されるのは、親事業者に対して、@(荷主からのキャンセルなどによる)下請事業者への運送委託発注の取り消しにおいて下請事業者が要した費用負担や、A指定時間に到着しても親事業者の都合で待ち時間が発生した場合の必要費用の負担などが、違反行為事例として新設されたことである。


 違反行為として新たに加えられたり新設された事例のうち、トラック運送業界に関連するのは以下のような項目だ。@下請代金を据え置くことによる買いたたき、A一律一定率の単価引下げによる買いたたき、B取引先の都合を理由とした買いたたき、C従業員の派遣要請、D労務の提供要請、E取引先の都合を理由とした発注取消し、Fその他の発注内容の変更・取消し。下請法なので元請と下請事業者の関係になるが、関係改善につながれば良い。



Gマーク2万3414事業所に
2016/12/21 更新
 全日本トラック協会によると、今年度の安全性優良事業所(Gマーク)の認定は9033事業所で、既存認定事業所と合わせたGマーク数は2万3414事業所。これは2016年12月現在の全国のトラック運送事業所数8万4173事業所の27.8%に相当する。トラック運送事業所の4分の1以上がGマーク事業所ということになる。Gマークを貼って走行している車両は60万5146台で、営業用トラックの44.0%になった。

 最近はGマークの付いたトラックをかなり見るようになった。営業トラックの4割以上がGマーク車両なのだから当然と言える。そこで、次の2点が問題になってくる。1つはGマーク認定が取れない事業所だ。事業所を開設して間がないなど資格要件を満たせないケースは仕方がない。問題なのは会社として認定基準にほど遠いような場合である。もう1つはGマーク車両でも、疑問に感じるような運転をしているドライバーを見かけることだ。

 ところで47都道府県のうちGマーク認定取得率が一番高いのは新潟県である。43.5%で3年連続の首位だ。2位が長野県の38.4%で、運輸局別でも北陸信越運輸局管内は37.8%と全国の運輸局の中で最も取得率が高い。それにしても新潟は2位に5ポイント以上の差をつけての1位である。何か特別な取り組みをしているのだろうか。同県トラック協会の関係者によると、県ト協独自の資料なども作成し、相談期間も設けているという。

 まず5月中に上越、中越、下越の県内3カ所で説明会を開く。この時に、全ト協の資料と併せて活用するのが同県適正化で独自に作成した資料である。次に6月の1カ月間は県ト協で申請などの相談に応じている。そのため適正化6名のうち2名は6月の1カ月間は事務所に常駐している。また、巡回訪問も6月は近場で予定を組んでいて、相談申し込み件数が多い日には、巡回から早めに協会に戻って対応できるような体制にしているという。



マーケティングしてますか?
2016/11/21 更新
 マーケティングしてますか?」…というのはセミナーのサブテーマである。メインテーマは「地方の経営戦略」だ。先日、全国運送事業研究協議会(全運研・水野功会長)の全国研究集会が三重県鳥羽市で開かれた。そのテーマがマーケティングである。シンバホールディングスの安里享英社長の特別講演のあと、3つの分科会に分かれて研修会を開いた。いずれも事例報告の講師は各地域で特異な戦略を展開し、業績を挙げている経営者である。

 ご存知のようにシンバHDは沖縄に本社をおく企業で、中核の事業会社はあんしんである。安里社長はあんしんの社長も兼ねている。あんしんは沖縄県内のBtoBでは最大手の物流会社で売上高は約70億円。沖縄というマーケットの規模からすると断トツのシェアを持っている。「くらしを運ぶ、ものを運ぶ、あんしんとアイディアを運ぶ」をモットーに、衣食住にわたって周辺離島も含め、物流プラットホームを構築している。

 第1分科会のテーマは「老舗は革新の連続」で講師は宮ア本店の宮ア由至社長。ファシリテーターは神奈川大学名誉教授の中田信哉氏である。同社は四日市市に本社を置く酒造会社で170年の歴史をもつ。老舗であるがゆえに絶えず革新を図らなければならないと強調した。第2分科会はビーイングHDの喜多甚一CEOが「運ばない物流の価値創造」のテーマで報告。ファシリテーターは当ブログの執筆者でもある神奈川大学の齊藤実教授。

 ビーイングHDの本社は金沢市で、中核事業会社は物流会社のアクティー。創業30年でグループ年商140億円を超えた。第3分科会は北海道物流開発の斉藤博之会長が「地域物流と共同配送」のテーマで講演。筆者がファシリテーターを務めた。18年前に札幌市で創業し、現在はシンガポールにも現地法人をもち、北海道の産品を東南アジアにデリバリーしている。いずれも各地域の市場の特徴に応じた企業戦略で成功している事例だ。



人材確保・育成には生産性向上が必要
2016/10/21 更新
 10月6日に鳥取県米子市で全日本トラック協会の全国事業者大会が開かれた。分科会のテーマは、第1分科会が「トラック業界の交通安全対策の推進ついて」、第2分科会は「トラック業界の人材確保及び育成について」であった。両分科会ともそれぞれ3名の事業者がパネリストとして、当該テーマに関する自社の取り組みなどについて事例発表。その後、コーディネーターの進行によって討論するというパターンである。

 3人のパネリストのうちの2人を過去に取材していることもあって、第2分科会の方を傍聴した。人材確保と育成がテーマだが、パネリスト全員が、人材確保や育成の前提として生産性向上に言及したのが印象的だった。当然のことではあるが、生産性の向上が伴わなければ、労働条件を改善することはできず、優秀な人材を採用することは難しい。賃金水準や多様な働き方など労働条件が改善できなければ、応募者が来ないからである。

 また、10年後、20年後のキャリアパスが示せなければ、若くて有能な人材はこない。若くて真面目であれば、長年にわたって働くことを前提として企業を選ぶ。すると人生設計ができないような会社では、若くてまじめな人ほど敬遠するのは当然である。一方、企業側としても社内での教育・育成制度は長期に勤務することを暗黙の前提にしているはずだ。職業訓練所ではないのだから、辞める人を対象にした教育・育成制度はありえない。

 パネリストの1人は、取引先との協力による労働環境改善に触れた。物流効率化によって労働時間を短縮し、車両も4台から3台に減らすことができた。さらに長距離輸送部門では中継輸送による労働時間短縮も研究段階という。もう1人のパネリストも、待機時間を把握して、時間削減かそれとも時間に対する対価の請求かで対応し、改善されなければその取引先からの撤退もあり得るとしている。そして生産性向上のカギは時間管理と強調していた。



外国人研修生だけの改善サークル
2016/9/21 更新
 若い女性が集まるとワイワイ、がやがや、そして明るい笑い声。これは万国共通だ。「女3人寄れば姦しい」という。女を3つ書いて「かしましい」という漢字になるが、姦×3ではなおさらである。先日、ある会社の改善サークルの中央発表会にいったら、フィリピンからの女性研修生9人で構成するチームがブロック予選を勝ち抜いてエントリーされていた。いくつかの企業の発表会に行くが、外国人研修生のサークルの発表を聞くのは初めてだ。

 この会社では昨年1月から、フィリピンからの研修生を受け入れるようにした。1年を経過すると仕事の習得状況など簡単な試験をし、合格するとさらに2年、計3年間の研修が受けられる。第1期生は全員が合格して現在は研修2年目である。さらに2期生を今年1月から受け入れて、1期、2期生合わせると約40人が現在、研修している。このうち1期生のなかの9人で構成するサークルが、予選を通過して中央発表会に選出されたのである。

 基本的作業については研修生向けに英文のマニュアルを作成した。だが、1期生たちが作業詳細についてのマニュアルを自主的に作ったという。そのため2期生は基礎的な作業を短期間で習得できた。それでなくても、みんな若いので覚えが早い。日本人のパートの人たちはたいてい40歳代以上である。それに対して研修生たちは20歳前後なので、作業ミス削減の目標値が全体では40ppmだが、研修生たちはすでに10ppmをクリアしている。

 研修生たちは日本人のパートの人たちに交じって各作業部門で働いている。だが、改善サークルはフィリピン人だけで構成するようにした。改善テーマは「ピッキング作業のセットミス削減」だった。サークルとしての目標達成のほか、個人でも競争して優勝を競うことにした。反対に1番ミスの多い人には皆が嫌いな納豆を食べる罰ゲームも決めた。発表の最後は罰ゲームの様子を動画で紹介。ワイワイ、がやがや、底抜けに明るい笑い声だった。



イメージとは実体の反映である
2016/8/21 更新
 「業界の社会的地位の向上を図りたい」、「業界のイメージをアップしたい」、「トラックドライバーの社会的評価を高めて誇りをもって働けるような業界にしたい」、などなど…。よく耳にする言葉である。業界関係者なら誰も異論を述べる人はいないだろう。まったくもって、その通りである。また、そのように実際にしたいものである。だが、肝心なのはスローガンではなく、それを実現するには、具体的にどのようにしなければならないか、である。

 その点では、どうも大きな勘違いをしている人が少なくないような気がする。業界の社会的地位やイメージ、またドライバーに対する社会的評価などは相互に関連している。一体と言っても良いだろう。そして勘違いとは、業界やドライバーのイメージをアップするためのPRが重要でもっと力を入れていかなければならない、と強調する人たちが多いことである。もちろんPRは必要であるが、もっと肝心なことは何かという点が抜けているのだ。

 先日、ある若手経営者とじっくり話す機会があった。その若手経営者は「業界を良くしたいと思っています」という。肝心なのはそのために何をするかで、その経営者は第1にすべきことは「自分の会社を良くするために努力すること」と考えている。業界の各社が良い会社になれば、自ずと社会的地位やイメージが向上し、そこで働いている人たちの評価も高まり、誇りをもって働けるようになる。働きたいという応募者も増えてくる、というのだ。

 全く同感である。評価やイメージそれ自体は抽象的なものであっても、それは具体的な実体が基になって、その実体が想像化、抽象化されたものだ。したがってPRなど抽象的な働きかけだけでは、変えることはできない。実体そのものが具体的に変わらなければ評価やイメージは変わらないのである。社会的地位の向上を声高に叫ぶことも必要だが、まず、自分の会社にたくさん応募者がくるようにすることが経営者の果たすべき仕事なのである。



運賃と従業員待遇改善
2016/7/21 更新
 ドライバーの確保には賃金をはじめ労働条件の改善が必要だ。また、運輸業には限らないが同一労働同一賃金も大きなテーマになっている。そのような中で、定年退職後に再雇用したドライバーに対して、定年前と同じ仕事をさせておきながら賃金を下げたのは違法、という判決が東京地裁でだされた。若いドライバーがなかなか雇用できないため、定年退職後も非正規社員契約で乗務させている運送事業者は多い。この判決は深刻な問題を含んでいる。

 判決の影響は、運輸業だけでなく他業種の企業にも及ぶのではないだろうか。定年退職後も本人が希望すれば非正規雇用契約で働いてもらうのは一般的だし、それに伴って賃金が下がるのも普通だ。ただし、定年前の仕事とは違う業務がいろいろあって、定年後の再雇用では定年前とは違う補助的な業務に就いてもらうのなら、先の判決は当てはまらないだろう。だがドライバーのように定年前も定年後も同じ業務内容の場合には厳しい判決だ。

 それはともかく、ドライバーの待遇改善は運送事業者にとって必須の課題である。昨年度は燃料価格が比較的低水準で推移したため、その分を従業員の待遇改善に振り向けた事業者もいる。もちろん、固定費を増やしてしまって軽油価格が再び高騰してきたらどうするのか、といった問題はあるが、少しでも労働条件を改善したいという経営姿勢は重要だ。ある中小事業者は取引先の1社からドライバーの賃金アップの状況説明を求められたという。

 この事業者は燃料価格が高騰した時に運賃を値上げした。しかし、昨年度は年間を通して低価格だったために、荷主の1社から運賃値下げ要請があった。しかし、賃金アップなどドライバー確保のために値下げできないと断った。すると、実際に賃金や賞与を上げているのかどうか資料提示を求められたという。賃金や賞与の支給実態を示したら荷主も納得したというが、なぜ資料を提示しなければならないのかなど、いろいろ考えさせられる話だ。



疲労軽減と安全性向上
2016/6/21 更新
 すでに沖縄では梅雨が明けたようだが、本州、九州、四国は梅雨の真っ盛りである。雨天の運転には注意を払わなければならない。だが、梅雨明け後の暑さにも、疲労の蓄積など要注意である。このように考えると安全運転は365日必要になるが、トラック運送事業者には、ドライバーの健康管理対策も求められる。健康管理の一環として、様ざまな機器の活用がある。また、機器とまではいかなくても、ちょっとした工夫で疲労軽減は可能だ。

 ある事業者は昨年4月から今年3月までの1年間、偏光サングラスによる疲労軽減の実証実験を行った。取材時点では、まだ年間の結果は集計されていなかったが、昨年4月から9月までの上期の結果が出ていた。ちょうど梅雨や、太陽光線の強い真夏を含んだ期間である。これからの季節の参考になる実証実験の結果といえる。秋から冬にかけて太陽光線が斜めから射してくる下期の結果についても興味があるが、それは改めて取材する予定だ。

 偏光サングラス使用による疲労度軽減効果の実証実験を行ったのは、物流センターから4t車で1店舗に納品し、高速道路を使って1日に2、3回転するような配送業務を行っている13人のドライバー。2チームに分かれて「偏光サングラスあり」と、「なし」を2週間ずつ交代しながら1年間取り組んだ。使用した偏光サングラスは晴天用で、疲労度の測定方法は出発前と帰ってきたときにフリッカー値を計測するという方法である。

 結果は、@個人的比較では偏光サングラスをした方が、しないより元気な被験者が多い。Aフリッカーの全員平均値では、偏光サングラスをした方が、しないよりも約20%疲労が少ない。B個人のフリッカー標準値からの減少率も、偏光サングラスをした方が疲れが少ない被験者が多い。C標準値からの減少率の全体平均では、偏光サングラスをした方が約16%疲れが少ない。以上から、偏光サングラスは疲労軽減効果があるという結果になった。



「スマホネイティブ」と人材確保
2016/5/21 更新
 大型連休明けにネットでニュースを検索していたら、4月の新入社員の中にはパソコン操作の苦手な人がいて、その弊害が出ているという記事があった。最初に手にした本格的なIT機器がiPhoneやスマートフォンという人たちを「スマホネイティブ」と呼ぶらしい。今年3月に大学を卒業した人たちが高校1年生の時にiPhoneが発売になったという。いわばスマホネイティブの最初の世代が社会人になり、その弊害がでているという内容だった。

 自分もPCを使いこなせないので他人のことをとやかく言える立場ではないが、スマホネイティブの人たちは、マウスの使い方が分からなかったり、キーボードの操作が苦手なようだ。以前に20歳代、30歳代の人たちは個人でパソコンを持っている割合が低くなっている、といったことをこのブログで書いたことがある。たいていはスマートフォンで事足りてしまうからである。だが、その影響がこれほど大きいとは思っていなかった。

 スマホなどの操作はタッチ式である。会社に入って仕事でPCを使うようになって、初めてキーボード入力するといった若い人たちがいるようだ。まぁ、若いからすぐに操作を覚えて、上手に使いこなすようになるだろうが、これが社会の変化なのかと考えてしまう。ところで、最近はドライバーをはじめ人材不足になっている。運輸業界の場合には中途採用が多いが、若い人の募集・採用では、対象がスマホネイティブの人たちということになる。

 すると、募集活動もスマホを主体に考えなければならない。最近は動画で職場風景などを紹介するような求人も見られるようになってきた。旧態依然たる古い発想や手法ではダメである。自動車も自動運転の実験などが行われているが、有人運転でもゲーム感覚で運転するような自動車を考えられないわけではない。レーシングゲーム機のような操作なども、若い人の自動車離れを防ぐ一つの方法かもしれない。時代は変化している。



燃料価格下落でほっと一息、だが…
2016/4/21 更新
 燃料価格の下落で、ほっと一息ついている…というのがトラック運送業界の現状である。だが、そうとばかりも言っていられない。燃料コストの削減で赤字企業の割合は改善したが、人件費アップや傭車利用の拡大などによって支出も増加し、業績の改善は限定的になっているからだ。燃料価格は外的要因である。しかも経済外的な事情によっていつ高騰に転じるか分からない。それに対して内的要因の構造改善への取り組みが経営の安定には重要だ。

 全日本トラック協会が発表した「平成26年度決算版経営分析報告書(対象期間は平成25年10月から平成27年8月で有効回答数は2192事業者)」によると、調査事業者全体の1社平均営業収益は2億79万円で前年度比−0.8%、営業利益率は−0.9%で前年度より1.4ポイント改善されたものの、依然として赤字である。営業利益率の改善には燃料価格の下落が寄与しているが、影響がまるまる反映されるのは平成27年度版になる。

 営業収益の減少に関しては、前年度の営業収益には消費税増税前の駆け込み需要が含まれていてその反動もある。輸送トン数の推移も同様である。そこで前々年度との比較では、輸送トン数も増え、営業収益は全体でも規模別でも伸びている。経常利益率も前々年度との比較では総ての規模で改善されている。営業利益の改善の大きな要因は燃料価格の下落だが、一方、ドライバー不足による時間外労働の増加や賃金アップが営業利益を圧迫した。

 売上高経常利益率は、前年度と比べ大幅に改善されている。また営業利益黒字企業が46%、経常利益黒字企業が53%と、ともに黒字事業者の割合が増加した。しかし、外的要因に頼らない生産性の高い経営構造への転換を図らないと、安定的な成長は望めない。そのために待機時間短縮、原価計算の徹底と運賃交渉、高速道路割引料金などを働き掛けていくとしているが、最も重要なのは各事業者が生産性の高い事業形態に転換することだ。



5年という時間と様々な変化
2016/3/21 更新
 東日本大震災から5年が経つ。新聞やテレビなどでは被災地の現状などをとり上げていた。この間に何度か現地を訪ねて被害に遭ったトラック運送事業者の復興状況などを取材してきた。一部の事業者を個々に見ると着実に復興しつつあるが、地域社会全体としては遅々として復興が進んでいるようには感じられない。一方、5年という歳月は、社会を大きく変化させてしまう。したがって単純に震災前に戻ろうとしてもダメなのである。

 1カ月ほど前になるが、ある会合に出席した。東日本大震災の復興に関連する物流についての研究論文の発表があったのだが、そのデータの中で、他産業と比較すると水産加工業の復興が一番遅れているのはなぜか、という疑問が出された。研究の本題とはあまり関係がなく、雑談程度の話題だったのだが、発表者もそこまで調査していないので分からないということだった。そこで雑談とことわって取材のついでに得ている程度の話をした。

 水産加工業の復興が遅れている理由は2つある。1つ目は、地元の漁業の復興が先行しなければ原材料が調達されないこと。漁業も復興しつつあるが震災前までは戻っていない。もう1つは製品の販路だ。大手の加工食品メーカーの下請けで製造していたケースでは、この間に発注先が違う産地になってしまった。また、自社製品として製造していた場合でも、主要な販路である量販店などが仕入れ産地を変えてしまった。入口と出口の変化だ。

 被災地とは関係ないがサーバーのキッティングルームをレンタルし、サーバーを輸送・搬入するサービスをしていた物流事業者がいる。大震災後の1年間ぐらいは震災被害の影響もあってニーズが多かった。その後も大震災から2、3年間は忙しかったのだが、今から2、3年前から需要が減少に転じて事業が厳しくなってしまった。クラウドに切り替わり、サーバー自体の需要が減ってきたからだ。5年という時間は様ざまな変化をもたらす。



買物難民の対極と付帯サービス
2016/2/21 更新
 「買物難民」問題は大都市にも広がっているが、とくに地方においては地域社会それ自体の存続にも関わってきている。 “増田(寛也)レポート”ともいわれる『地方消滅』をはじめ関連著書が多くの人たちに読まれているのは、そのような背景があるからと思う。同著(同論)に関しては、個人的には、どうもコンパクトシティへの政策誘導という感じがしないでもないが、それはともかく「買物難民」をどうするかは大きな社会的課題だ。

 地域社会の存続という視点からは、「買物難民」の対極に「販売難民」や「生産難民」が存在することも合わせて捉えることが重要だ。「販売難民」とは昔からの商店などである。また、「生産難民」は高齢化や後継者難の農家など第1次産業、あるいは販路が限られている地場の特産品生産者などである。ネットスーパーなど「販売強者」の物流業務は完全な受託型で収益性も低いが、弱者同士を結び付ける物流なら主体的に関われる可能性がある。


 これら「買物難民」「販売難民」「生産難民」を結合できるのは物流だ。しかもその地方固有の条件に対応するには、大手事業者ではなく、地場密着型の中小事業者の方が有利で、有望な物流新市場と言える。あまり知られていないが、人口も少ない小さなマーケットで、地理的、経済的な制約要件を逆に活かして、ユニークな事業展開をしている中小事業者も散見する。そこから見えてくるのは地域固有の諸条件に応じた創造的な物流である。


 もちろんビジネスとして成り立たせるには採算が取れなければならない。それには商品など有形の物を動かすことだけではなく、情報など無形の付加価値も物流ネットワークに乗せることがポイントである。安否確認などはその典型だが、それ以外にも考えればいろいろあるはずだ。そうなって初めて本当のライフラインになれる。その場合、誰が対価を支払うかが重要で、先の安否確認などは自治体の予算から一定金額の捻出が可能である。


人がいないのではなく応募者がいない
2016/1/21 更新
 ドライバー不足が深刻だという話は多い。だが、樋口社長が書いているように、どれだけ工夫をしているのか、である。少し以前のことだが、改善活動に力を入れているある事業者で、ドライバーで構成するサークルが自分たちで募集広告の内容を考えて募集したことがある。管理者が募集・採用を担当していたが、応募者が少なく採用しても定着率が低い。人が足りなければ自分たち現有勢力が過重労働でカバーしなければ仕事がこなせない。

 そのような状態が続いたのではたまらないと取り組んだのである。詳細は省くが、結果は応募者が増え、採用率も定着率も高まった。応募する側の視点から募集広告の内容を検討した結果だ。発想の転換がいかに重要かを証明している。発想の転換という点では、人がいないのではなく、人はいるのに応募者が少ないという認識が必要だ。労働人口減少という一般的な「常識」を疑うことから出発すれば、求職者の存在が認識できるようになる。

 周知のように、いまや非正規社員の割合が全就業者の4割に達した。だが、厚労省の「非正規雇用』の現状と課題」によると、非正規雇用労働者の18.1%は正規雇用で働くことを望んでいる。正社員になりたいが、機会がないので仕方なく非正規で働いている「不本意非正規雇用労働者」は、18歳〜44歳で173万人もいる(人数は同データを基に筆者が推計)。正社員を望む主な理由は、雇用の安定と精神的安心を得たいからである。

 このように不本意非正規雇用労働者は多数いる。「正社員として定年まで安定した働き方をしたい人を募集」「社会保険加入など安心して働きたい人を募集」「ドライバーは未経験でも、これまでの様々な職場経験は必ず役立つので、当社でそれを活かしてください」etc…。安心や安定して働ける雇用関係(社員満足度など)を築き、不本意非正規雇用労働者の人たちの心理に訴えかければ人はいる。重要なのはポジティブな思考ではないだろうか。


ドローン宅配
2015/12/21 更新
 国家戦略特区諮問会議は15日、千葉市を国家戦略特区に指定してドローンを活用した宅配を可能にする方針を出した。ドローンを活用した宅配事業にはアマゾンが参入する方針という。幕張新都心の東京湾に面した周辺に集積所を設け、アマゾンの場合には約10q離れたセンターからドローンを使って集積所に荷物を運ぶ。また、近くのドラッグストアーもドローンで薬や日用品などをマンションのベランダなどに宅配する計画という。

 航空法によると、高さ150m以上や人口密集地ではドローンの飛行が禁止されている。さらに目視の飛行監視も求められている。だが、国家戦略特区に指定された千葉市では、これらの規制を緩和するようだ。当面は実証実験ということだが、3年以内の事業化を目指すとしている。個人的には安全面など慎重な検討が必要ではないかと思うのだが、ともかく「国家戦略」なのだという。もし実用化されると世界初になる可能性もある。

 アマゾンとしては、世界戦略的にはどこの国でもよいからドローンによる宅配の事業化に突破口を開きたいはずだ。外資系企業だからいうわけではないが、ドローンによる宅配の解禁よりも先に政治的に取り組むべき問題はある。たとえば国内の通販会社に対する納税面における競争優位性の解消(平等な競争条件の実現)や、再販価格制度がある書籍の送料無料は実質的な値引きになるので違法ではないか、といったような問題である。

 千葉市の湾岸部とその周辺のエリアには総合スーパーの店舗も多く、ネットスーパーの宅配や店頭購入品の宅配網も構築されている。アマゾンのドローン宅配の解禁は、それらに少なからぬ影響が出る可能性もある。とくにネットスーパーは日用品などが多く、リードタイムが短いのが特徴。アメリカにおけるウォールマートのネットスーパーとの競合もそうだが、アマゾンにとっては願ったり叶ったりのエリアにおける特区指定だ。



日本的貨物版ウーバー
2015/11/21 更新
 齊藤教授が「自家用タクシーの先にあるもの」を、それを受けて樋口社長が「日本は『ウーバー化』するのか?」を書いているので、その延長での私論である。まず貨客輸送について、人口減少と高齢化が進む地方においては、今後は検討していく必要があるだろうと思う。もちろん、安全やその他についても様ざまな観点から検討しなければならない。次に日本的な貨物版ウーバーである。キーワードは営業用軽トラックではなかろうか。

 貨物版ウーバーとは称していないが、営業用軽トラックによるウーバー的な仕組みを考えている企業はある。営業登録した軽トラックなら、貨物自動車利用運送事業者がスマートフォンのアプリを利用してマッチングしても事業法上の問題はない。一方、軽トラの事業主には、@高収入が欲しい人、A年金受給までの繋ぎの人、B年金が少額なので収入補填にしている人など、各人が事情に応じた働き方を望むという労働形態の多様性がある。

 また宅配市場は、ネット通販の伸長だけでなく、リアル店舗のオムニチャネル化によって、小口荷物の出荷場所の多様化、配達先も個人宅や指定受取所への配送など錯綜としてくる。荷物の小口化、輸送距離の短距離化、発着地の多箇所化、オーダーの即時性とリードタイムの短縮化といった傾向がみられる。このような宅配市場の複雑化と軽トラ事業主の求める労働形態の多様性を組み合わせた新たなビジネスモデルが考えられている。

 既存の取引先を持っているが、売上をもっと伸ばしたいというドライバーは、スポットを組み込んで売上を増やす。自分の都合に合わせて働きたいドライバーは、スポットを組み合わせて働けばよい。この仕組みに登録する軽トラの台数が多ければ、荷主ニーズに応えることができる。さらにこの企業では、荷物を運ぶだけではなく、中小商店の荷物をまとめて配送したり、買物代行など多様なサービス展開の可能性もあるとしている。



メンタルヘルス
2015/10/21 更新
 厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」によると、2014年度の脳・心臓疾患の請求件数は全体で763件、道路貨物運送業は120件(15.7%)で1位。支給決定件数は全体が277件に対して道路貨物運送業は77件(27.8%)で1位。精神障害では全体の請求件数1,456件で、道路貨物運送業84件(5.8%)で3位。支給件数では全体の497件に対して道路貨物運送業は41件(8.2%)で1位となっている。
 
 ここからも道路貨物運送業で働く人たちの劣悪な労働条件の一端が窺えるが、請求件数に対する支給決定件数の割合を見ると、さらに深刻さが分かる。脳・心臓疾患では請求件数と支給決定件数の割合が全体で36.3%なのに、道路貨物運送業では64.2%にもなっている。精神障害でも全体では34.1%なのに、道路貨物運送業では48.8%である。道路貨物運送業の場合、労災を申請するとかなりの割合で支給が決定されている。

 ある経営者に聞くと同社の事例では、精神障害はドライバー職よりも管理職、庫内作業員、事務職の方が深刻だという。精神的なストレスが多いということを意味している。そのような中で、改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が12月1日から施行される。大規模企業では義務化となり、小規模企業では当分の間は努力義務とされているが、残業の賃金割増比率などのように、いずれ義務化されるものと考えておいた方が良い。

 このような状況を踏まえ、メンタルヘルスの専門知識を持った社員の育成を始めた中小トラック運送事業者もいる。また、すでにメンタルヘルスの授業を受講して単位を取得した経営者もいる。今後は管理職にも単位取得を促し、心身ともに従業員の健康管理ができる企業にならないと競争に生き残れない、という認識である。作業上で端末などデジタル機器が普及するにともない、メンタルケアが重要になってきている。



宅配と宅配便
2015/9/21 更新
 大手小売企業を取材していると、ほとんどが経営戦略の再検討を進めている。有店舗小売業(リアル小売)では、小売市場におけるネット通販(バーチャル小売)の伸長に対抗するため、オムニチャネル化を図ろうとしているからだ。リアル店舗においては今やオムニチャネルが勝ち残りのキーワードになっている。今後の企業戦略に関わるだけに、プロジェクトの内容はシークレットで、取材に対しては各社とも非常にナーバスになっている。

 
 バーチャル店舗側からも「逆オムニチャネル化」が進んでいる。オムニチャネルには販売・商品・物流の総合戦略が必要だ。そのような中で「宅配便離れ」についても検討されている。宅配便事業者に委託している荷物を、地場事業者を使って自前の宅配にした方がサービスレベルが向上する(現状でもオーバースペックだが)。独自の宅配エリアから外れた効率の悪い宅配荷物だけを宅配便事業者に委託したらどうか、という検討である。

 国交省によると14年度の宅配便取扱個数は36億1379万個で、13年度より2289万個の減少(−0.6%)になった。宅配便の減少は5年ぶりである。このうちトラック輸送は35億7008万個で、2498万個の減少(−0.7%)だ。減少の理由としては、消費税増税前の駆け込み需要の反動と、ヤマト運輸、佐川急便(13年度から値上げ要請)の料金値上げの影響と言われている。だが、宅配便離れの影響も否定できない。

 今後もネット通販の伸びや、オムニチャネル化によって宅配荷物の数は増加するものと思われる。だが、大手ネット通販や百貨店、量販店などの大口荷主では、宅配便離れの動きも進んでくる。つまり宅配荷物の数は増加するが、それが宅配便取扱個数にイコールとはならない。そのような宅配市場の変化をとらえて、宅配便事業ではなく宅配事業に参入しようとする事業者の動きも活発になりつつある。



ドライバーの長時間労働解消に向けて
2015/8/21 更新
 ドライバー確保難の背景には長時間労働や低賃金など劣悪な労働条件がある。このうち長時間労働の主たる原因は、荷積みや荷卸し地点での長時間待機と、長距離輸送における長時間拘束に大別できる。これらの実態は以前から明らかだったにも関わらず、なかなか改善に着手されなかった。その理由の一つがドライバーの賃金体系にある。ドライバーの賃金は歩合制が多く、長時間労働がコストとしての人件費にさほど影響しなかったからだ。

 
 したがって一部の経営者を除くと、長時間労働の解消は経営上の大きな課題という認識が弱かったのである。一方、運賃水準は長期にわたって下落してきた(ここ1、2年は上昇傾向にあるが)。歩合が変わらなければドライバーの賃金が減少するのは理の当然である。にもかかわらず、ドライバーの賃金が安いのは運賃が安いからと、責任はすべて荷主にあるかのような理屈で、自己を合理化するような経営者が存在したことも否定できない。

 ところが近年は法令順守が厳しく求められるようになってきた。拘束時間などに対する規制もそうだが、いずれ中小企業でも月60時間を超える所定外労働には割増賃金率5割以上が適用されるようになる。さらにドライバーを募集しても応募者が少ない、という現実に直面した。今後は少子高齢化で若い人が減少するため一そう大変になる。ドライバーが確保できなければ荷物があっても運ぶことができない。いわば尻に火がついたのである。

 労働時間を短縮するには、待機時間の解消と、長距離輸送における拘束時間の短縮という大きな2つの課題に取り組まなければならない。待機時間に関しては、当ブログで樋口社長が再三書かれているので参照されたい。長距離輸送における拘束時間の短縮では、中継輸送もその方法のひとつである。国交省では今年度、中継輸送に関する実証実験を行う。中継輸送にもいくつかのタイプがあるが、実験を通してそれぞれの課題を整理する予定だ。



荷主主導による物流共同化
2015/7/21 更新
 さまざまな業種で荷主主導型の物流共同化が進行している。運送事業者の労働力不足への対応というのも、その一因には違いない。輸送業務を委託している事業者で、今後ますます労働力の確保が難しくなり、ドライバー不足で業務に支障がでる可能性もあるからだ。そこで同業者同士が物流を共同化することで輸配送の効率化を図り、必要なトラックの車両数を減らす。車両を減らせればドライバーの人数も少なくてすむ、ということになる。

 
 ある業種の大手荷主数社が物流共同化を進めている。各社が出荷データなどをオープンにし、効率化のシミュレーションをした。幹線輸送は工場から大手小売業の物流センターと、全国各地にある自社の拠点への横持ちに大別できる。この幹線輸送では車両の大型化やモーダルシフトなどによって、トラックの台数を約30%削減できるという。一方、メーカー物流が主体の中堅事業者の試算でも、車両大型化で30%の台数削減が可能という。

 物流共同化を進めている荷主数社では各地の拠点も共同利用し、エリア配送車両は小型化する。1回の配送件数を少なくして、車両回転数を上げるというのが基本的な考え方だ。もちろん拠点では手待ち時間がないようなオペレーションにする。そうすると配送車両の必要台数を大都市部では約16%、地方では約30%も削減できるというのがシミュレーションの結果である。これは現在の受注、出荷量を前提として試算した数値である。

 その他の業種でも荷主主導で物流共同化が進められている。この流れは今後さらに強まってくるだろう。なぜか? 先に労働力不足への対応と記したが、それだけではない。荷主企業が物流共同化を進める本当の理由は、国内市場縮小への対応である。国内市場の縮小が進むと、現在のままの物流システムでは段だん非効率的になってくる。荷主が物流共同化を急ぐ真の目的は、労働力不足もあるが、国内市場縮小への対応なのである。



準中型免許と費用負担
2015/6/21 更新
 道路交通法改正によって準中型免許が創設される。現在の普通免許の取得年齢は18歳以上で、運転できるのは車両総重量が5t未満。中型免許は20歳以上(普通免許保有2年)で、総重量11t未満である。それが新制度では、普通免許の取得年齢は同じだが、運転できるのは車両総重量3.5t未満となる。だが、準中型免許の取得年齢も18歳以上なので、準中型免許を取得すれば18歳でも車両総重量7.5tまで運転できるようになる。

 
 この新制度には2つの意見がある。1つは、新制度では18歳でも車両総重量7.5tまで乗れるようになる、というポジティブな受け止め方。一方、新制度の普通免許では車両総重量3.5tまでしか乗れなくなってしまう、というネガティブな見方である。これはどちらが正しいか間違いかという問題ではない。どちらも事実である。ポイントは18歳で準中型免許を取得するか、それとも普通免許だけしか持たないか、という点にある。

 大都市では運転免許を取らない若い人もいる。日常生活において必要性が低いからだ。それに対して地方の若い人は、通勤や買物、遊びやその他、日々の生活において自動車がないと不便なので、たいていは高校卒業までに普通免許を取得する。普通に生活する上で、自動車(普通免許)は必需品と言っても良い。だが、たいていの人にとって、準中型免許の必要性は低い。したがって、準中型免許を取得させるためには動機付けが必要になる。

 一般的な動機付けはトラック協会などの役割である。だが、個別的で具体的な動機付けは事業者の問題だ。たとえば高校新卒採用に踏み切り、採用内定を出して会社が費用を負担して準中型免許を取らせるのも1つの方法だ。中途採用者でも3.5t未満の普通免許しか持っていなければ、採用後に会社負担で最低でも準中型免許を取得させなければならない。いずれにしても今後は、普通免許以外は事業者の費用負担と考えることが必要になる。



生産性向上への取り組みの変化
2015/5/21 更新
 トラック運送事業における生産性向上が大きな課題になっている。もちろん生産性の向上は普遍的なテーマだが、最近は成果配分の重点目的に変化がみられるようになってきた。また、荷主側の協力姿勢も大きく変わってきている。まず、荷主の協力では、従来は主に発荷主(運賃を支払う荷主)の協力だけだったが、最近では発着荷主(運賃を支払わない側もふくめて)がともに運送事業者の生産性向上に協力的になってきている。

 
 荷主企業の協力姿勢の変化の背景には、国内市場の縮小への対応や環境負荷低減のためには生産性向上が不可欠なこと。さらに、ドライバー不足などにより輸送サービスの安定的な確保が重要になってきたからである。市場縮小の進行によって物流が非効率的になる分を、生産性向上によって補わなければならない。また、安定的な輸送サービスの確保は、発荷主だけではなく着荷主にとっても重要になっているからだ。

 一方、事業者側においても、生産性向上によって生み出された成果配分が変化している。従来は利益率の向上と競争力の強化が目的だったが、最近はコンプライアンス・コストの充填に振り向けるようになってきた。生産性向上によって得られた成果を、労働力確保の原資に充当するようになってきたのである。このような点で、事業者と発着荷主の認識が一致するようになってきた。労働力の確保は事業者にとっては競争力の強化でもある。

 そこで、荷主主導型で生産性向上が進められるようなケースもでてきた。ライバル企業同士が物流面では共同化に取り組んだりしているのは、そのためである。だが、これでは事業者はどこまでいっても従属的な関係から抜け出すことができない。荷主の意識の変化をとらえ、共同して生産性向上に取り組むべきである。生産性向上への取り組みは、事業者が荷主企業と対等な契約関係を構築するためのチャンスでもある。



自車両比率を高める傾向
2015/4/21 更新
 全体的に運賃水準が上がっている。主たる要因はドライバー不足で、トラックが動かなければ荷主も困るため、運賃値上げに応じざるを得ないという構造である。元請け下請けの関係でも同様だ。べつに難しいことではなく需給関係である。ということは需給関係が変化すれば再び運賃水準が下がる可能性もある。いやいや少子高齢化が進行し、拘束時間など労働条件が厳しくなるのだから、運賃上昇は続くと思っている方も少なくないはずだ。

 
 だが進んだ荷主や物流子会社、また元請け事業者などは、若年労働力の減少や拘束時間の制約などの中でも、安定的な物流確保のための方策を考えている。ある業種の大手メーカー数社では、物流事業者も1社加わって2年ほど前から物流共同化を検討してきた。詳細は割愛するが、各社の出荷データを基にしたシミュレーションでは、必要なトラック台数が大幅に削減できるという結果が出ている。ドライバーの手待ち時間もなくす計画だ。

 このようにドライバー不足への対応として、物流システムの効率化によって必要なトラックの台数を削減し、同時にドライバー確保のために拘束時間の短縮なども実現しようとしている。さらに大きな傾向としては自車両比率を増やす計画の事業者が増えてきた。実運送部門を持っている物流子会社は、増車をして自車両の比率を高める方針を打ち出している。また元請け事業者も自車両を増やして傭車を減らすというのが大きな流れだ。

 物流子会社や元請け事業者が、自車両比率を高める理由は共通している。安定的なサービスの提供である。今後は、協力会社でドライバーが確保できないといった事態も想定される。自車両を増やし自社ドライバーの比率を高めておけば、そのようなリスクも軽減できる。また、「法令順守や雇用条件の改善には一定の規模が必要」だからである。直接、自分でやった方が良いという判断だ。そうするとドライバーも条件の良い会社に移っていく。



浸透しつつある「トラガール」
2015/3/21 更新
 昨年9月から国土交通省が「トラガール」サイトを開設した。まだ約半年だが、同サイトを担当している専門官によると「トラガール」に対する反響はかなりあるという。ただ、現在のところ運送企業経営者や女性ドライバーなど業界関係者が主で、一般の女性からのアクセスは少ないようだ。一般の女性に、自分にもできそうな仕事だと思ってもらうために、今後はWeb以外にも様ざまなチャネルを活用して働きかけていく予定である。

 
 とはいえ、マスコミも少しずつ「トラガール」を話題として取り上げるようになってきた。最近、自分が関わった媒体だけでも2月24日づけ読売新聞のウーマンのページ、KBCラジオのモーニング・ウエーブ(3月9日放送)のニュース・クローズアップがある。いずれも「トラガール」に関するコメントを求められたもので、読売新聞はバスやタクシーで働く女性ドライバーも含めた特集だが、東京本社発行だけではなく全国版の掲載だった。

 このように全国紙や電波媒体などが取り上げるようになったのは、「トラガール」が浸透しつつある証左だ。「トラガール」の紹介は読者や視聴者など一般の人たちにも受け入れられる、というマスコミの判断があってのことだからである。同時に、マス媒体に取り上げられることで、さらに関心が促進されることになる。失礼かもしれないが率直に言ってしまえば、国交省の施策でこれほど効果が具体的に表われるというのも珍しい。

 1月に取材した女性ドライバーは事務の仕事をしていた。トラックのドライバーになりたくて、運送会社の募集に何度か応募したのだが、いずれも採用されなかった。そこで大型、けん引、フォークリフト、危険物取扱者乙種(4類と6類)の資格を自分で取得した。履歴書に書いて本気度を示したかったからという。女性ドライバーのために必要なハード面の課題は指摘されるが、むしろ受け入れる側の意識改革の方が大きな課題かも知れない。



業界再編成が始まった
2015/2/21 更新
 名糖運輸とヒューテックノオリンの経営統合が発表された。両社は10月1日に共同持株会社「C&Fロジホールディングス」を設立する。前者は東証1部、後者は東証2部の上場企業同士の経営統合である。物流関連の上場企業同士の経営統合は、おそらく初めてではないかと思う。両社の14年3月期の売上高を合算すると952億円で、ニチレイロジグループ本社、キユーソー流通システムに次ぎ低温食品物流3位となる。

 
 両社は同じ低温食品物流でも主たる取扱商品の温度帯が異なっていた。名糖運輸はチルド、ヒューテックノオリンはフローズンが主である。物流センターなどもエリア的にみると重複している面もあるが、機能という点では異なっている。チルドはスルーに向いた機能であり、フローズンはストック機能も備えている。したがって同じエリアにある拠点でも、機能的には重複しない。もちろん1カ所で両機能を備えた方が効率的ではあるが。

 このようなことから、当面はホールディングス(HD)の下で2社が併存する形でも、シナジー効果が見込める。お互いが取扱商品の幅を拡げることができるからだ。顧客がかぶるようなことがあればHDで調整すれば良い。物流拠点についても、今後は順次、チルド、フローズン併用型に集約化していけば、エリア的な重複なども解決できる。また、投資効果も向上するし、センター内作業などの効率化促進も期待できる。

 両社によると当面は幹線部分でのシナジー効果を図り、エリア配送は各地の配送事業者に委託する方針のようだ。低温食品物流をみると、エリア配送事業者はすでにほぼ優勝劣敗がハッキリしている。幹線部分では競合している大手事業者も、エリア配送では同一事業者に委託しているような地域もある。焦点は幹線部分を担っている大手事業者間の競争になっている。このようにみると今回の経営統合の背景が明らかになってくる。



学習能力と景気後退感
2015/1/21 更新
 今年の新年は関東などは天候に恵まれたが、北日本や日本海側の地方などでは大雪に見舞われた。帰省の自家用車もそうだが、トラック運送にはかなりの影響がでたものと思われる。宅配便でも幹線輸送に遅れがでたようだ。当事務所の近くを担当している集配ドライバーに話を聞くと、「遅延の可能性を前提に荷物を引き受ける」ようなケースもあるという。天候などの自然現象は不可抗力で仕方ないのだが、わがままな客も中にはいるようだ。

 
 ところで、昨年の暮は一昨年の年末と比べるとトラック不足がさほど騒がれなかった。日本人は学習能力に優れているので、前年の轍を踏まないようにするため、計画的に出荷するなど事前に対応したこともその理由の一つだろうと思われる。もちろん年末は荷物量が増加するのは例年のパターンだ。したがって一部にはトラック不足が生じたが、一昨年との比較ではそれほどでもなかったことになる。これは優れた対応力といえる。

 一方、それだけではない面もある。昨年暮は一昨年と比べると、荷物量が減少しているという現場の声が多い。宅配便の集配ドライバーの1人は、消費税増税の影響で前年と比べると荷物が減少した、という。建材や工業製品を運んでいる事業者も、昨年の秋以降は荷物が減少してきていると話す。日本銀行の「さくらレポート」では、昨年10月との比較で1月の景気情勢を、北海道でやや引き下げたものの、他の地方は据え置きだった。

 日銀の景気判断を信じるか、それとも自分自身の実感としての景況感によって物事を判断するかは各人の自由だ。しかし、結果に対して責任を取らなければならないのは自分である。とくに企業経営者は責任が重い。もうすぐ年度末である。昨年の年度末のようなトラック不足の状況にはならないと予測しているが、年度末には輸送量が増加することは間違いない。今から対応策を立てておかなければならないが、その判断は容易ではない。



過積載とシートベルト
2014/12/21 更新
 12月上旬にタイとカンボジアのコールドチェーンの現状を視察してきた。ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟の10カ国は、2015年にASEAN経済共同体の発足を予定している。加盟国間でも経済格差が大きいし、関税なども2国間協議が基本なので、まだまだ道のりは遠いと思われる。しかし、東西経済回廊や南北経済回廊などのインフラは着実に整備されるつつあるようだ。それにポテンシャルとしては今後の成長が期待される。

 
 視察といっても観光も兼ねており、シェムリアップではアンコール遺跡群やトレンサップ湖の船上生活なども見学してきた。バンテアイ・スレイからアンコールワットに向かう途中のことである。ドライバーと現地ガイドと筆者の3人で、日本製の中古車に乗っていたのだが、急にスピードを落とし、ドライバーが慌ててシートベルトを締めた(実際には肩からまわして締めている振り)。聞いたところ過積載の検問をしているとのことだった。

 カンボジアでは運転者だけがシートベルトを義務づけられているという。運転免許証を見せるだけで我われはスムースに通過できたが、何台かのトラックが停められていた。ガイド氏によると、荷物をたくさん積んで走った方が収入が多くなるので、過積載のトラックが多いのだという。同じコストなら収入が多い方が良い、という単純な理屈だ。それを聞いて過積載といいシートベルトといい、どこの国でも同じだなと苦笑した。

 それにしてもASEAN10カ国の人口は約6億人である。人が多いために労働をシェアする政策もあって、荷役も機械化せず人海戦術で行っていたりする。ハンドも右か左かなど、初歩的な「非関税障壁」問題? もある。また、政治情勢の違いや経済格差、言語や宗教、歴史問題など様ざまな課題はあるにしても、今後の経済発展が期待される地域には違いない。日本の物流企業も、最近はチルド輸送などで進出が目立つようになってきた。



無人化はムリでも省人化
2014/11/21 更新
 40年も昔だが、ある大手製造会社の広大な工場で、働いている人はほんの数人しかいないような所もある、という話を経済学の先生から聞いた。工場内が広いので、働いている人はローラースケートを履いて滑走しながら計器類をチャックして周るのだという。異常がなければ良いし、何かおかしい場合には正常にするというのが工場作業員の仕事である。労働装備率の高い装置産業の場合には、そのようなこともあるのかと感心した。

 
 これは最近聞いた話である。ある大手ネット通販会社の物流センター業務を受託している会社の人が、「いまは良いように使われているが、いずれは機械化によって徐じょに人が要らなくなってくる」と言っていた。ネット通販会社は「そのような考えで機械化を進めつつある」というのだ。労働集約型の物流では装置産業のようには行かないだろうが、いかに労働装備率を高めるかが、コストダウンのポイントになってくるという予感がする。

 11月11日更新の当ブログで、樋口社長が倉庫管理システム(WMS)や輸送管理システム(TMS)について書いていたので、40年も昔のことと、奇しくも数日前に聞いたネット通販の物流センターの話が頭に浮かんだ。そして4年前の2010年6月にアメリカのピッツバーグ市で訪ねた物流会社の、研究所を併設した倉庫の情景も思い出した。詳細は省き、フォークリフト作業だけを紹介すると、フォークを動態管理していたのである。

 走行軌跡の最短移動管理だけではなく、壁と天井に貼ってある二次元バーコードを、フォークのセンサーで読み取り、どの荷物をどこに移動するかなどを指示管理していた。作業は有人で行っていたが、いずれはフォークを無人操作にすることを視野に入れているのだなと思った。また、これからは庫内作業でのロボット活用も現実味をおびてくるだろう。それにしても技術研究所を持っている物流会社が日本にあるのだろうか。



募集方法・採用基準・育成制度
2014/10/21 更新
 10月9日の「トラックの日」に福岡で全日本トラック協会の事業者大会があった。第2分科会の「トラック業界の人材確保及び育成について」の会場を取材したのだが、いろいろ参考になる点があった。パネリストは事業者が2名、高校教諭、国交省専門官である。やはり現役の経営者の発表ならびに発言は、実際に事業に関わっているだけに具体的で現実的な内容であり、参加者の多くの人が有益なヒントを得たのではないかと思う。

 
 募集してもなかなか応募者がこない。そのためにドライバー不足になっている。しかし、いくら募集しても採用できないとなると、ムリをしてでも現有勢力で仕事をこなさなくてはならない。すると過重労働になってしまう。そこで、仕事がきついために退職者が出て、一そうドライバー不足になるという悪循環に陥ってしまう。このようなことから、どのような募集をすれば応募者が増えるか、といった募集テクニックに関心が向かいがちだ。

 だが、応募者が少ないのは必ずしも募集の仕方だけの問題ではない。もっと根本的な問題なのである。分科会でのパネリストの発表や討論を聞いていて感じたのは、募集の方法はもとより、面接や採用基準が明確になっていること、さらに採用後の教育・育成の体制が確立されている、ということだった。これは経営方針がしっかりしているから可能なのである。その裏づけがあってこそ募集の仕方も内容も決まってくるというわけだ。

 さらに、採用基準や採用後の教育・育成などの背景には、将来の企業ビジョンがなければならない。目指すべき企業像があり、その実現に向かって経営計画、事業計画があるから、どのような人材を求めるのかという採用基準が明確になってくる。さらに、採用後の教育・育成の体制も同様である。このようにみてくると人材を確保できるか否かは経営のあり方によってきまる。労働力市場は企業を「面接」していると受け止めるべきだろう。



運賃・料金問題と「経営責任」
2014/9/21 更新
 9月10日に静岡県トラック協会が「人材・安全確保/適正運賃収受 緊急推進大会」を開いた。正副会長が壇上に並び、会場の出席者が自由に意見を出して、それに正副会長が答えるというもの。普通の決起大会とは違う形式の大会であった。テーマは@燃料高騰、A高速道路料金、B安全運行阻害要因、C労働力確保と賃金、D法令順守、E安全対策、Fコストに見合った運賃である。様ざまな課題に対し会員が生の意見を述べる試みだ。
 
 大会に先駆けて同協会が6月に行った「適正運賃収受に向けた運賃交渉等の取組みに関する実態調査」によると、運賃交渉の実施状況は有効回答716で「実施した(している)」28.4%、「一部の荷主に対し実施した」37.8%、「実施していない」33.8%という結果だった。約3分の1の事業者が運賃交渉を行っていない。そこで、会員に運賃交渉をしようという気持ちを喚起することが緊急推進大会の主たる目的である。

 筆者もアドバイザーとして壇上の端に座っていた。討論の途中で進行役から振られたら適宜、意見を述べるというものである。さらに討論が終わってから、全体のまとめと助言をするという役割もあった。だが最後のまとめでは、会場から出された意見や討論のまとめというよりも、日頃から考えている私見を述べたといった方が正しい。そこで強調したのは、「協会責任」、「元請責任」、「経営責任」の3つの責任についてである。

 「協会責任」では、会場から出された意見を真摯に受け止め、今後の協会事業に反映することで、より会員の役に立つ協会になること。「元請責任」では、仕事を出すだけでなく、出した仕事に見合う対価を払う。それを可能にする運賃・料金を荷主に交渉することが元請責任であることを指摘した。「経営責任」は、自分自身の経営責任を棚上げし、行政や協会、荷主や元請の責任にするのではなく、経営責任の認識が最も重要であると強調した。



オムニチャネル時代の物流
2014/8/21 更新
 今年に入ってから、物流以外の様ざまな業界の企業や団体などから仕事のオファーが入ってくるようになった。物流に対する関心が高まっているのである。より正確にいうと今後の「物流の変化」に対する関心だ。たとえば金融機関や証券業界、外資系機関投資家などの人たちは、物流自体ではなく今後の物流の変化の予測を先取りしたいのである。もちろん投資判断のためである。そんなことで物流以外の業界の人たちとの接触が増えてきた。

 これは自分にとって勉強になる。物流業界を常に客観的な立場から観て分析するように努めてきたつもりだが、物流以外の業界の人たちと接すると、結局はムラの中での「客観性」に過ぎなかったことに気づく。従来とはまったく違った視点から物流をみることの必要性を強く感じるようになってきた。その一つがオムニチャネル時代の物流である。オムニチャネル化が進むと、主に消費財ではあるが、物流が大きく変わることになる。

 アナリストや機関投資家などは、リアル店舗の大手小売業(CV、GMS、SM、百貨店、家電量販店、家具量販店、ドラッグストアなど)のサバイバルに注目している。国内市場が縮小する中で大型小売店の勝ち残り競争はますます激しくなってくる。それだけではなくリアル店舗はネット通販との競争にも勝ち残らなければならない。その勝ち残りのキーワードがオムニチャネルである。オムニチャネル化の可否が勝敗のカギを握っている。

 そしてオムニチャネル化に成功するか否かは、オムニチャネル時代の物流システムが構築できるかどうかにかかっているというのが、アナリストや機関投資家の共通認識である。しかし、その物流システムがどのような形になるのかが皆目分からない。そこで当方にオファーがくるという次第なのだが、つくづく感じるのは、ほとんどの物流業界の人たちはそこまで考えていないということである。良い意味での危機感と先見性が必要ではないか。



不適正事業者の退出促進
2014/7/21 更新
 国交省と適正化実施機関は昨年10月から速報制度を導入した。適正化機関の巡回指導で重大で悪質な法令違反を確認したら運輸支局に速報し、支局では速やかに監査に着手して法令違反が確認されたら行政処分などをする制度だ。それによると13年10月〜14年3月の半年間で、速報数が75件で、監査が37件(うち行政処分3件)、行政指導が32件、監査着手前の自主廃業が6件となっている。監査後の事業休止は3件であった。

 この件数が多いか少ないかは別として、監査・速報の効果的な運用によって、悪質事業者の排除と、法令違反の速やかな是正に、それなりの効果があることは事実だろう。このように国交省では、不適正事業者の指導強化、さらには退出を促進するとしている。一方、優良事業者へのインセンティブも考えている。ここでは、不適正事業者の市場からの撤退促進について考えてみることにしよう。産業としての健全化には必要な方策である。

 まず、不適正事業者は大きく2つに分類できる。1つは、どうしようもない不適正事業者である。いわば確信犯ともいえる事業者で、このような不適正事業者には撤退してもらわなければならない。もう1つは、適正な事業運営をしたいと考えていても収入などから適正事業ができない事業者である。コンプライアンス・コストなどを軽視することで、経営を維持している事業者で、いわば不適正な事業を余儀なくされているともいえる。

 このような事業者には適正な事業運営ができるように、行政は政策によって、業界団体は事業を通してバックアップすることが重要だ。だが、これらの事業者も2つに分かれる。行政や業界団体のバックアップで立ち直れる事業者と、それでも適正事業ができない事業者である。後者は経営能力の不足であり、やはり市場から撤退させる必要がある。従業員や利用者にとっても、社会的にも、産業の健全化のためにも、その方が良いのである。



人が応募してくる企業(経営)になることが重要
2014/6/21 更新
 物流業界に限らず労働力確保が大きな課題になっている。日本人の人口が減少し、高齢者が増えて若年者が減っているのだから争奪戦が激化するのは当然である。だが、今春の大卒者や高中卒者の就職率のデータをみて感じるのは、「人手」確保は激しくなっているが、「人材」確保は各企業とも慎重で、より狭き門になっているということだ。誰しも社会人としてのスタート時に「人手」になりたくないから、「人材」募集に応募者が殺到する。

 物流業界をみると、まず認識を転換しなければならないのは業界内的な発想である。ドライバーの人たちの転職は業界内での移動が多いのが実態だ。しかし、業界内的な視野で労働力不足の問題を考えていては抜本的な解決の方向は見えてこない。労働力市場は、あらゆる産業のあらゆる企業のなかで、自社がどのように評価されているか、という問題なのである。先月の当ブログで書いたような中小事業者の考え方や行動が基本である。

 国交省ではドライバーの資格認定制度の創設を検討している。現在の時点では運転のスキルを評価する「トラックマスターズ」と、さらに経営的な知識なども認定要件とした「トラックスーパーバイザー」が考えられている。今後さらに検討して具体化されることと思う。ドライバーのレベルアップと職業に対する誇り、社会的評価の向上、引いてはトラックドライバーを希望する人たちが増えるように、という思いも込められた制度である。

 このような制度の創設に対しては、ほとんどの業界関係者が賛成であろうと思う。だが、有資格者のインセンティブは? という問題である。有資格者には毎月いくらの資格手当を出せるのだろうか。その原資は? このように、ドライバーの資格認定制度の創設という一事だけをとっても、労働力確保の問題は結局のところ経営のあり方に行き着く。つまり、あらゆる業種のあらゆる企業との競争に負けない経営の実現ということになる。



少数ながら創意工夫をしている中小事業者もいる
2014/5/21 更新
 齊藤教授が5月1日づけで、アメリカのネット通販物流で頭角を現している中小事業者を引き合いに、日本では市場がそこにあるのに、中小事業者が市場に見合ったビジネスを展開していないと書かれた。それを受けて樋口社長が11日づけで、中小事業者も企画力、営業力を持って「ここで儲けている」と明確に説明できるようにならなければいけない、と書かれている。その流れに乗って今回は「後だしジャンケン」で行くことにした。

 保有車両13台で従業員17人の中小事業者が、今年1月から平均1万円のベースアップを行った。また、年齢の高い人たちが安心して働けるように諸手当の見直しも行い、諸手当を含む賃上げは平均1万6000円である。この人件費増の原資は4月からの平均18%の運賃料金値上げである。3%は消費税増税分なので、実質値上げは15%だ。中小事業者なのに運賃料金値上げがなぜ可能なのか? 大方の感心はここにあるだろう。

 同社は1995年に軽トラックでスタートし2001年に一般事業に参入した。当初は下請けだったが下請けからの脱却を掲げて、元請収入の増加を図りつつ下請けから徐じょに撤退。同時に独自のサービスも創造した。下請けから脱却した後は、独自サービスの収入増に応じて貸切契約の仕事からの撤退を進め、今年1月末で最後の貸切を止めた。その結果、2月からは自社主導型で運賃料金を決められる分野の収入構成が95%になった。

 そこで、新年度から独自サービスの本格的展開を開始して規模拡大を図って行く方針だ。そのためには企業の将来ビジョンをより明確にし、中期経営計画や人事政策も確立しなければならない。「人手」対策ではなく「人事」政策でありキャリアパスも示していく。その一環としてベースアップを先行したのである。齊藤教授が3月1日づけで書かれていたバックキャスティングといえる。このような事業者も存在するが、極めて少数なのが残念だ。



ガバナンスの基軸
2014/4/21 更新
 流通経済大学の野尻俊明教授が『貨物自動車政策の変遷』(流通経済大学出版会)を上梓された。過去から今日に至る貨物自動車運送事業の政策の変遷を検証したもので、同教授のライフワークの中間総括ともいえる研究書である。当方は法学の素養がないので内容を理解する能力に乏しいのだが、素人なりに勉強させていただいた。自分レベルの解釈で恐縮だが、トラック運送事業の基本的課題は昔から何も変わっていないように感じた。

 同著の帯には「事業のガバナンスの根拠を何処に求めればよいのか、改めて考える」と書かれているが、結局、そこに行き着いてしまう。もちろん業界が内包する諸課題はそれぞれの時代によって具体的な現象は異なる。だが、政策的にはガバナンスの基軸をどこにおくかで振り子のように揺れ動いてきたし、現在も本質は変わっていない。それは法令などに基づく行政による統治か、ガバナンスの基軸を市場におくのかという問題である。


 規制緩和の弊害が現れていることは事実だ。そこで規制見直しが提起されている。この規制見直しの一つは、ガバナンスの基軸を市場に移したのに弊害が出てきたのだから、再び行政による統治を強化すべきだとする主張である。一方、規制緩和の弊害は市場メカニズムが正常に機能しなかったことに主原因があるという認識に立てば、基軸は市場においたままで市場メカニズムが機能するようにするための見直しという方向になる。


 ガバナンスの基軸を行政の統治に戻すという考え方は、事業者保護の色彩が強い。ガバナンスの基軸は市場において、市場原理が機能するような方策を採り入れるという考え方は、利用者の利便性を強調することになる。これはトラック運送事業の公共性の度合いをどのように理解するかの違いともいえる。一方、これからは経済のグローバル化が進展するなかで、国内におけるトラック運送を産業として捉えるという観点も必要になってくる。


運送業界の健全化・活性化
2014/3/21 更新
 3月12日に第1回「トラック産業の健全化・活性化に向けた有識者懇談会」が開かれた。これは国交省自動車局長の諮問機関という位置づけの懇談会である。従来の「トラック産業の将来ビジョンに関する検討会」では2010年7月に中間整理を発表し、それを受けてワーキング・グループ、さらに作業部会と検討を重ねてきた。そこで議論された内容は、参入時の要件強化、荷主勧告、書面化、その他の具体的な施策に反映された。

 そこでトラックビジョンは一段落とし、新たに有識者懇談会を発足して6月には何らかの形を示す予定という。当ブログを執筆している齋藤教授、樋口社長それに私も同懇談会のメンバーである。トラックビジョン委員会でも3人は一緒だった。思い起こせば国交省で2005年度から06年度に行った「若手トラック経営者等によるトラック事業の明るい未来を切り開く方策等を検討する研究会」でお2人とご一緒したのが最初である。


 この時の若手研のメンバーは、その後もNS物流研究会という任意の研究会として活動を続けている。昨年11月に当ブログで紹介した「物流関連ゼミ学生の研究発表会」は、そのNS物流研究会が主催しているコンペだ。若手研からは、すでに10年近くが経った。メンバーはいまや若手ではない。だが、それぞれの企業で創造性、独自性を発揮して経営者として活躍している。経営の健全化、活性化を実践しているのである。


 そこで健全化、活性化に向けた懇談会だが、健全な経営ができている企業は活性化している。逆に健全経営ができていなければ活性化はない。健全化と活性化は不可分の関係ともいえる。そして活気のある事業者が増えてくれば、自ずと業界全体が活性化してくることになる。そのような業界にするにはどうすべきか。懇談会では当ブログを執筆している3者3様に、それぞれの立場から率直な意見を出していく(教授、社長そうですね?)。


今年は厳しさが予想される
2014/1/21 更新
 年末だけではなく正月3が日も、一部では深刻な人手不足で車両の確保ができないといった状況である。これから年度末にかけて、消費税増税前の駆け込み需要が予想され、年末よりも大変なトラック不足になるのではないか、といった予測もある。それに伴って運賃水準も上昇機運にあるようだ。しかし、4月以降にその反動がくると、輸送需要は落ち込む。トラック運送業界も単純に売り手市場とばかりは行かないのではないだろうか。

 日本銀行が1月9日に発表した「生活意識に関するアンケート調査(2013年12月)」によれば、1年前と比べた景況感では「悪くなった」という回答が21.5%で、前回調査(13年9月)よりも0.9ポイントほど高くなっている。前々回(13年6月)との比較では3.5ポイントの上昇だ。1年後の予測では「悪くなる」という回答が29.9%で、これは前々回よりも13.1ポイント、前回よりも4.1ポイント、それぞれ多い。

 以上は一般の人を対象にした意識調査だが、物流面でも厳しい見通しが出されている。日通総合研究所が昨年12月に発表した「2013・2014年度の経済と貨物輸送の見通し」では、2013年度の国内貨物輸送量は48億4220万トンで、前年度対比1.4%増だが、2014年度では47億4810万トンと、13年度よりも1.9%の減少を予測している。これは12年度と比べても2710万トンも少ない輸送量である。

 つまり、年度末までは深刻な人手不足、トラック不足であっても、4月以降は需給関係がガラリと変化することも想定される。もし、問題なく人手が確保できるような状況なら増車する事業者もいるだろうが、人手不足がブレーキとして作用しているので設備投資が押さえられているという側面もある。新年度に入って輸送需要が減少するとすれば、増車しなくて良かったということになろう。いずれにしても今年は厳しさが予想される。



業績の格差が拡大する中で
2013/12/21 更新
 今年も最後のブログである。この1年で一番印象に残っているのは、とにかく暑かったということ。そして秋がなく、夏から直接、冬になったような気がする。10月15日、11月15日、12月10日と、奇しくもほぼ1カ月間隔で仙台に出張したのだが、10月には夏服でちょうど良かったのに、11月にはコートを着ていった。冬服でコートなしという時期がなかったことになる。短い期間に大きく温度が変化した。

 さて、このような気候と同じように、物流業界も業績の企業間格差が拡大した1年ではなかったかと思う。中小事業者でも、なかには二けた台の経常利益率という好業績の事業者がいる一方、燃料費の支払いにも窮するような事業者もではじめた。荷物を回してもらったりしている中堅事業者からプレートを借りて燃料を補給し、傭車運賃から差し引いてもらって窮状を凌いでいるようなケースもある。このように企業業績も両極化が進んだ。

 運賃・料金はほとんど変わらないのにコストが上昇している。燃料価格もそうだが、これは可変的である。それに対してコンプライアンス・コストは不変的な要素だ。とくに労働時間の順守と残業代や夜間、休日などの割増手当が大きな課題になっている。労働時間を厳守しながら、いかに車両の稼働効率を上げるか。このアンチノミーは営業、配車、乗務員が一体となって取り組まなければ解決できない。それには経営者の自覚が不可欠だ。

 このようななかで取引停止覚悟で交渉した結果、取引先が運賃の値上げに同意し、さらに手待ち時間の解消にも協力してくれた、というメールが中小事業者から届いた。法令を順守する健全経営の会社にして後継者に譲る決意を固めた、という嬉しい知らせである。



物流関連ゼミ学生の研究発表会
2013/11/21 更新
 11月9日に「第5回物流関連ゼミ学生による研究発表会」が東京海洋大学(越中島キャンパス)で開かれた。この発表会はNS物流研究会が主催するもので、当ブログを執筆している川崎陸送の樋口恵一社長が同研究会の会長で、神奈川大学の齊藤実教授、それに小生も同研究会の個人会員である。そのようなことから5年前の第1回からずっと、発表会当日は写真担当として大活躍? している。

 発表会は回を重ねるとともに内容も充実してきた。また、今回は参加校も発表大学順に神奈川大学(齊藤ゼミ)、流通経済大学(小野ゼミ)、大阪産業大学(浜崎ゼミ)、東京海洋大学(黒川ゼミ)、流通科学大学(森ゼミ)、目白大学(橋本ゼミ)と6校にまで増えた。当初はさらに2、3の大学が参加する意向だったが、諸般の事情で今回は参加を見送ることになり、「物流6大学」による発表会になった。

 運輸政策研究所の今橋隆主席研究員を審査委員長に、審査員の皆さんの厳正な採点の結果、東京海洋大学「知識の連携でトラック業界を生き残れ!〜需要創造のための経営改善」が優勝。準優勝は神奈川大学「買い物支援サービスによる運送業者の事業拡大」、敢闘賞は目白大学「3PLによる食品ライフサイクル・サポート・ビジネスの可能性について」が選ばれた。努力賞は、流通経済大学「少子高齢化が物流業界に与える影響とその対策」、大阪産業大学「タブレットを活用したピッキングの生産性向上と定性的効果に関する事例研究」、流通科学大学「若年ドライバー不足に対する改善案〜大学新卒への採用拡大に向けて」であった。

 望まれることは、これらの学生が積極的に就職を希望するような業界になることである。



自社の実情に応じた計数管理
2013/10/21 更新
 10月9日に全ト協の事業者大会が札幌で開かれた。大会では全体会議、記念講演会、分科会でのディスカッションなどが行われた。

 分科会は、第1分科会が「トラック業界の安全対策の構築について」、第2分科会が「トラック業界の経営基盤の強化について」がテーマである。いずれもトラック運送業界にとって重要なテーマだ。しかし、両方には参加できないので、第2分科会に参加した。

 第2分科会は当ブログの執筆者の1人でもある川崎陸送の樋口恵一社長がコーディネーターとなり、エイチビーケーサービスの斉藤博之社長、茨城流通サービスの小倉邦義社長、ロジコムの鳥屋正人社長の3人がパネリストで、各社の発表と討論を行った。

 パネリストの3者とも、それぞれ独自の事業展開をしている。斉藤社長は営業用トラックのドライバーをしていたが、アイスクリームの共同配送を発想・提案して元請事業者に出向し、共同配送を行っていた。しかし、諸般の事情で20歳代で独立して自分で事業を始めた。その後、分社経営を展開して最近はシンガポールにも現地法人を設立している。小倉社長は倉庫と運送事業を行っているが、運送では従来の貸切からハブ&スポーク方式の中ロット積合せ事業に転換して高収益企業になっている。鳥屋社長は建設関連輸送を主としているが、長距離からは撤退し、福祉関連物流、ネット通販物流なども展開している。

 3社とも事業内容は異なるが共通点がある。それは自社の実態に見合った独自の計数管理をしている、ということである。原価計算は必要だが、重要なのは原価を上回る収益を上げるにはどうするかである。そのためには独自の計数管理が必要になる。



東日本大震災から2年半後の危機管理
2013/9/21 更新
 東日本大震災から2年半が過ぎた。被災地の復旧、復興はまだまだである。一方、被災地以外では、テレビニュースの映像でみた当時の無残な被害の衝撃などを忘れかけている人が多いのではないかと思われる。

 先日、トラック運送事業者を対象にして、2日間にわたる危機管理をテーマとしたセミナーが開かれた。1日目は講演で、2日目はディスカッションである。小生は中小運送事業者の経営の危機管理について話したのだが、そのなかで強調したのは平時において経営の基本に忠実であること、であった。普段から経営の基本ができていなければ、つまり平時の管理ができていないのに、危機の管理などはあり得ない。もう一つ指摘したのは、東日本大震災からすでに2年半が過ぎているのに、いままで何もしていないということは、経営者の認識や姿勢の問題である、という点だった。

 危機管理というと、携帯電話もつながらない状況で連絡を取るにはどうすべきか、燃料の確保はどうするか、といったことが大きな関心事になる。これらに共通するのは、ご一緒した学者の方が指摘していたように自分が無事であることを前提にしている点だ。同時に強く感じるのは、危機管理ではなく危機対処に関心が偏っているということである。

 経営における危機管理は、危機以前の経営が重要なのである。たとえば自社の被害は軽微であったとしても、売上のほとんどを依存している荷主企業が壊滅的な被害を受ければ経営再建は難しくなる、といった点には気づいていない人が多い。これは平時における経営の基本的な問題だ。平時において経営の基本に忠実であることが最大の危機管理である



高速ツアーバスの規制強化
2013/8/21 更新
 今年のお盆休みは、10日、11日と、17日、18日の土日を絡めて休む人に大別されたのではないだろうか。12日(月)〜16日(金)の通勤電車が、通常よりは混んでいないものの、例年のお盆の時期と比べると乗客の数が多いように感じた。中には9連休という会社もあるだろうが、多くの人は連休といっても土日を含めて5、6日程度だろう。

 土日も関係なく事務所に出て働いている当方にとってはお盆休みもほとんど関係ないのだが、通勤電車の混雑が緩和されるのは有難い。といったことで毎日、新宿の事務所に通っていて、ふと気づいたことがある。それは新宿駅西口にずらりと並んでいた高速バスの少なさである。8月から「新高速乗合バス」になったからだ。

 周知のように従来の高速ツアーバスという業態が7月末で廃止になり、ツアーバス事業者は新たに新高速乗合バス事業者になった。国交省の7月30日の発表によると、新高速乗合バス事業の許認可は49者(43都府県、197路線、721便/日)である。また、新高速乗合バス事業者と運行委託契約を結んで、実際の運行ができる高速乗合バスの管理の受委託の許可事業者が30者である。これまでの高速ツアーバス事業者は2012年9月時点で、企画会社が58社、運行を請け負う貸切バス事業者が228社だったので、大幅に減少したことになる。いわゆる規制強化である。

 今回の規制強化で、これまでお盆休みに高速ツアーバスを利用していた人の中には、不便を感じた人もいるに違いない。だが、規制緩和はただの安売り競争ではない。安全を担保してなおかつ廉価というのが理想である。これはトラック運送業界にも共通する。



再び「書面化」に関して
2013/7/21 更新
 樋口社長が書面化について書かれている。私は書面化が必要だという立場に立っているが、書面化が必要なのはスポット的な受委託である。常用の傭車契約などでは契約書を交わすことが当然で、その場合のスポット的な仕事に関しては基本契約に基づけばよい。問題はスポット的な取引関係しかないケースである。この場合には、仕事を委託する側が依頼書を出すべきだと思う。実際の仕事のやり取りは電話などで行うが、その後、できるだけ速やかに仕事を依頼する側がFAXやメールで依頼書を出す。仕事を受託する側は、受託者欄にサインをして送り返す。あくまで仕事を出す側に書面化を義務づけるべきだと考える。

 スペースの関係で簡略化するが、その都度、実際に以下のような内容の委託・受託書を交わしている利用事業者がいる。参考までに項目のみを列挙する。
 
発注日(年月日)、
荷物の種類(荷物の種類・重量・体積・個数・形状等)、
使用車両(t車・積載重量s・車種)、
必要機材(固縛等)、
台数、
運転者の条件(運転免許の他に運行上で必要な資格名・荷役等の付帯作業等に必要な資格名)、
発地(住所・会社名・電話・担当者名・積込等開始予定時間・出発予定時間)、
着地場所(住所・会社名・電話・担当者名・到着予定時間・荷卸等終了予定時間)、
運賃(円)、
付帯作業等(円)、
高速(有料)道路等利用(インター〜インター間・円)、
諸料金(円)、
消費税(円)、
合計金額(円)、
支払条件(日締め・日支払)、
受託日(年月日)

 なお、実際に出発した時間や荷卸終了時間をドライバーが報告し、待機時間が発生した時には元請事業者が荷主に交渉している(必ずしも対価が支払われるとは限らないが)。



「書面化」に関して
2013/6/21 更新
 国土交通省はこの間、いくつかのパブリックコメントで、様ざまな意見を募集してきた。その中の一つである「書面化」については、パブリックコメントの募集期間を1カ月延長することになった。この募集期間の延長は書面化を実施するかどうかを判断するためではない。書面化を実施するに当たって、書面化の目的や意義などについて、時間をかけて説明をするためのものである。国交省では、これまでも各地で説明してきたが、さらに地方に出かけて行って説明する考えのようだ。

 業界の現状を観ると、大手荷主は委託事業者と契約書をちゃんと交わしている。それは当然で、キチンとした企業であればコンプライアンスなどには充分な対応をしているからだ。それに対して、全体的にみると業界内の元請、下請け、孫請け、曾孫請けといった関係において、契約内容が曖昧なままで取引されているケースが多い。この多層構造が抱える問題点を改善するための方法の一つとして書面化が重要なのである。

 多層構造でも専属傭車などの取引なら、契約書を交わしているのが当然である。もし契約書もなく恒常的な取引をしているならば、それは論外といわざるを得ない。したがって書面化の主たる対象はスポット傭車である。スポット的な取引でも、委託と受託の取引内容を文書として残す。このような基本的なところから取引の正常化が始まる。

 現実にスポット取引でも委託と受託、仕事の内容と運賃・料金などを1件ずつ文書で交わしている利用事業者もいる。そのような事業者は書面化を業界全体で行うようにならないと、業界は良くならないと話している。



物流業界と非関税障壁
2013/5/21 更新
 最近、TPPが物流に及ぼす影響などについて、いくつかの媒体から問い合わせがあった。なかには他の省庁に比べると国交省は反応が鈍いのではないか、といった質問もある。経産省や農水省などは管轄している産業に直接的な影響が予想されるので、プラス、マイナス両面からの影響度や対応策などが大きな政策課題の一つになってくる。それに対して物流は、関税撤廃という点では直接的な影響を受けることが少ない。自社が取引している荷主企業や荷主産業がどのようになるか、という間接的な影響である。

 だが、関税撤廃では間接的な影響であっても、物流業界においては非関税障壁の撤廃という面からの影響を予測し、対応策を考えておくことが重要だろう。物流業界における非関税障壁とは、許認可など事業に関わる規制と、車両などハード的な面での規制である。このうち事業の許認可に関する非関税障壁がどのようになるかは、将来の業界構造の変化につながってくる。また、個々の企業にとっては、経営や事業のあり方をどうするか、という企業戦略の問題だ。物流の国際化がさらに進むなかで、どのような事業展開をしていくか、である。そのような点では、たしかに物流業界のTPPに対する反応は鈍いといえる。取引している荷主がどうなるかという間接的影響については関心があっても、自分たち自身への直接的影響という関心は全体的に低いように感じられる。

 しかし、これは物流業界に限らない。関税撤廃の是非については議論されるが、TPPにともなって非関税障壁がどのようになるかについての関心は全体的に低い。非関税障壁撤廃の方が、これからの日本の社会におよぼす影響がはるかに大きいと思うのだが…。



BtoC-ECの「送料無料」と「当日配送」
2013/4/21 更新
 齊藤先生、樋口社長も書いているので、三度、ネット通販と物流についてである。「送料無料」といっても、たいがいのユーザーは購入価格に含まれていると解している。だが物流事業者からすれば、配送にはコストがかからないと思われては困るということである。

 もちろん宅配便事業者が値下げ要請で苦しんでいるのは事実だ。それだけではなく実質的に配送料を負担しているモールへの出店者も、手数料が高いために不満を募らせている。そこで、BtoC-EC物流を専門とする独立系物流事業者へのニーズが高まりつつある。

 一方、大手BtoC-ECの一部では独自に宅配事業者を育てようとしている。関係者の話によると、物流拠点ではもはや1円〜3円という単位でしかコスト削減できないが(大物商品を除く)、配送コストはまだ数10円単位でのコストダウンが可能と考えているからだ。

 「当日配送」では、当日配送のニーズなど少ない。一番の目的はキャンセル率を下げたい大手BtoC-ECの都合である。樋口社長がアメリカの例を紹介している。あくまで推測だが、ネット上で受注しても仮受注に留めておき、キャンセル発生率の高い期間を過ぎてから正式受注にすることで、キャンセル処理に要するコストを削減しているものと思われる。

 ところが日本では、BtoC-ECが勢力を増す以前から、宅配便事業者が翌日配送をドメスティック・スタンダードにしていた。そこで、いまさらリードタイムを長くすることはできないため、キャンセルされる前に届けてしまうという選択肢しかないという事情もある。

 その結果、逆に宅配便事業者は当日配送体制を早急に構築しないと、BtoC-ECという有望市場から見放されてしまうかも知れない状況になってきた。皮肉な巡り合わせといえる。



BtoC-ECによる流通構造の変化と物流
2013/3/21 更新
 前回に続いてBtoC-EC(ネット通販)と物流についてである。取材を進めていくと、ネット通販の物流動向が物流業界に与える影響は、当初の予想をはるかに超えて大きくなりそうだ。また、ネット通販の売上が拡大すると流通構造も大きく変わってくる。

 たとえば消費財のメーカーなどでは、従来の流通チャネルだけでなく、ネット通販に力を入れていく方向にある。国内市場の縮小が進行すれば、従来の流通チャネルによる販売は自然減少が避けられない。そこでダイレクト販売に注力することになる。もちろん国内市場が縮小すればこれまでの流通チャネルによる販売と、ネット通販による販売を合計しても、売上が自然減少する可能性がある(ネット通販の分野で競合他社よりもシェアを拡大すれば別だが)。だが、問屋や小売店を通さないのでダイレクト販売は利益幅が大きい。

 消費財のメーカーは、現在でも大手のショッピングモールに出店している。だが、大手のBtoC-ECに頼らず独自サイトを強化しようとしている。それに併せてネット販売商品の物流も独自に構築(物流事業者の通販物流システムのカスタマイズ化)しようという動きが水面下で進んでいる。当初は従来の流通チャネルの物流と、ネット通販の物流が2本立てになるが、いずれは前者を後者の物流システムに統合しようという動きも一部では始まっている。通販物流でピース・ピッキングや宅配ができるセンター運営事業者なら、ケース・ピッキングと店舗配送は容易だからだ。その逆のケースでは少し時間がかかる。そうなると従来の流通チャネルで物流業務を受託していた事業者には大きな打撃になる。

 このような動きが水面下で進行しており、物流の変化に加速がついている観がある。



にわかに慌ただしくなってきた川下物流
2013/2/21 更新
 経済産業省の産業構造審議会(流通部会)の配布資料(2012年4月27日)をみると、1店舗当たりの平均売場面積が大きく、店舗数の少ない小売業態が苦戦しているようだ。それに対して1店舗当たりの平均売場面積が小さく、店舗数の多い小売業態が業績面で健闘しているという傾向が読み取れる。これは小売業におけるリーディング業態の推移をも暗示しているなと受け止めた。百貨店から量販店へ、そして現在はコンビニである。

 そのようなトレンドから、今後はネット通販(BtoC-EC)の市場がますます拡大していくだろうと思われる。ネット通販における「店舗」は、インターネットへの接続可能なPCの総てといえる。これはものすごい「店舗」数である。しかも「売場面積」はディスプレイの大きさなのだから極小だ。さらに販売商品のアイテム数は無限大といってもよい。したがって、いずれはネット通販が小売業におけるリーディング業態になる可能性がある。

 ネット通販の大手企業は、現在、物流のインソーシング化を進めている。物流拠点を独自に構築し、その拠点のエリア内では当日配送にするという動きだ。取扱商品は無限大なので、現在は宅配便で届けているような小口の商品だけでなく、2マン配送や納品先でセッティングが伴うような総ての商品を対象にしている。それに対して、ネット通販の第2グループは物流面でのアライアンスによって大手に対抗しようとしている。

 宅配便事業者などは、このような流れに対抗(対応)できるサービス体制への再構築が迫られてきた。川下物流の業界がにわかに慌ただしくなってきた理由である。そのような視点から最近の各社の動向を分析すると、10年後の川下物流の姿が見えてくる。



名脇役としての誇りをもつ
2013/1/21 更新
 物流は裏方であり地味である。これは業種としての特性であり、善し悪しの問題ではない。表舞台に出ようとするよりも、縁の下の力持ちに徹すれば良いのではないだろうか。

 映画や演劇などでも脚光を浴びるのは主役である。しかし、脇役の存在なくして主役は引き立たない。一方、脇役が主役になろうと努力しても、不可能とは言わないまでもかなり難しい。人にはそれぞれの適役があるからだ。自らの特徴を知ることで、自己を最大限に発揮できる役柄に徹し、脇役なら名脇役と評価されるようになれば良いのである。

 何かで読んだことがあるのだが、野球選手で守備の名プレイヤーと評されている人は、ファインプレイが少ないそうだ。並みの選手ならギリギリでやっと追い付いて捕球し、間一髪でアウトにするようなファインプレイでも、名選手は楽々とさばいて余裕を持ってアウトにしてしまうからだという。いわゆる玄人好みの選手ということになる。ファインプレイが多い選手は、一見、華やかである。それに対して名選手は素人目には地味に映る。

 物流業界はスポットの当たらない役割を果たしている。つまり地味な脇役である。これは業種としての性格上の特性であり、業界や業界経営者の責任ではない。そこで、国民生活と日本経済を主役とし、その主役を引き立たせる名脇役に徹するべきだろうと思う。

 そのためには何が必要か。経営者が自分たちの社会的な役割と、それを担っている自社に誇りを持つことである。外部要因に責任転嫁し、行政がバックアップしてくれないなどと嘆いてばかりいるような経営者の下で、社員が誇りを持って働けるはずがない。まず経営者が、誇りを持った言動をするようになること。そうすれば時間はかかるかもしれないが、「玄人技」を見抜く力量を持った人材が集まってくるようになる、と楽観している。



プラットフォームを考える
2012/12/21 更新
 一部のコントラクト・キャリアの人たちがプラットフォームという表現をするようになったのは、10年ぐらい前からと記憶している。コモン・キャリアにとってはプラットフォームは不可欠である。それに対してコントラクト・キャリアは特定顧客にオーダーメイドのサービスを提供してきたが、それだけでは高い収益性が見込めなくなってきた。そこで複数の荷主(多数ではない)に対して、パターンメイド化したサービスを提供し、収益性の向上を図るためのシステムや物理的基盤をプラットフォームと呼ぶようになった。だが、プラットフォームに定義はなく、実態は各社各様の概念である。

 ある事業者の物流センターは、主たる営業エリアが異なる県内の食品ローカルスーパー5社の共通センターだ。定番商品は一番安く仕入れているスーパーに仕入れ窓口を一本化する。窓口のスーパーはバイイング・パワーが増してさらに安く仕入れられるようになる。5社の在庫もセンター内の相互融通で、トータル在庫量を削減する。1社でヒットしたPB商品は、5社共通のPBにする。そして事業者は商品開発にも協力して産地調査などもするし、店舗条件によって宅配サービスも行う。店舗配送もカテゴリー別仕分けや通路別仕分けなど柔軟な対応をしている。

 これはナショナルチェーンに対抗する、荷主5社と事業者によるアライアンスで、物流センターはその戦略的プラットフォームという位置づけだ。事業の拡がりでは他県の隣接エリアを基盤にしているローカルスーパーなら理論上は可能だが、事業者の収益向上のためのプラットフォームという点からは、配送距離など採算性も重要なファクターになる。



何に対して一生懸命かが重要
2012/11/21 更新
 齊藤教授が、経営者が何をしなければならないかを突き詰めていくと「身を粉にして働いて精一杯頑張ること」に行きつくと書かれている。それに対して樋口社長が、基本を知った上で自社のなすべきことを徹底的に考える。それが自分なりの答えと書かれた。

 取材を通して感じるのは、本当に精一杯頑張っている経営者と、頑張っているつもりの経営者がいる、ということである。そして後者は自分の努力が報われないと嘆き、責任を経営環境や事業条件に転嫁するという傾向が観られる。たしかに一生懸命に努力しているのだが、何に対してどのように努力すべきかが分かっていない、という共通点もある。

 東日本大震災で社屋とほとんどの車両を失いながら、半年後には80%程度まで回復した事業者がいる。その経営者が「内部留保を持っていないと再建は難しい」と言っていたので、失礼ながら地方の中小事業者にそのような経営ができるのかを取材したいと現地を訪ねた。被災前にどのような事業展開をしていたかなどを詳しく聞いた結果、これなら財務内容も良く、内部留保が持てるだけの収益性があると納得できた。それは特別なことではなく、トラック運送事業者としての経営の基本に忠実だったからである。

 震災後にBCPを策定した中小事業者は、コンサルタントから月末に1カ月分の流動資金を持てるような経営にすることを強調されたという。この経営者は、先の被災事業者についての筆者のリポートを読んでいた。そして、リポートに書いてあったように最大の危機管理は経営の基本に忠実であることだと、BCP策定を通して実感したという。

 つまり、平時でも非常時でも経営者に求められるのは「基本を知った上で」(樋口社長)、「精一杯頑張ること」(齊藤教授)というのが今月の結論のようだ。なお、なぜ筆者が毎月下旬に当ブログを担当するかといえば「後出しジャンケン」が有利だから? でもある。



ガラパゴス化とグローバル化の狭間
2012/10/21 更新
 樋口社長が「オーバースペック」と「原価以上の収入を得る問題」はともに中小企業には悩ましい問題と書かれ、物流サービスの「ガラパゴス化」も指摘している。

 日本の物流事業者も海外に積極的に進出すべき、という意見もある。海外進出については様ざまな考え方があるが、実際にいち早くアジアに進出して成功している事業者もいる。ところで自社の強みは「365日24時間稼働で1日3回配送」とEUなどで営業展開したらどうだろうか? おそらく「深夜に配送などされたら困る。なぜそんな必要があるのか」と不思議に思われるのではないだろうか。まさに物流サービスのガラパゴス化である。

 このように荷主の物流に対する要請は、国際的にみたらオーバースペックといえる。だが、国内でしか通用しない荷主ニーズでも、事業者は仕事を請けるためには対応せざるを得ないという形で、物流サービスのガラパゴス化が進行してきた。

 一方、物流サービスに対する対価はどうか。ガラパゴス化した物流サービスを提供するには相応のコストがかかる。だが、それに見合う対価が支払われているとは言い難い。これをマクロ的にみると、荷主はガラパゴス化した物流サービスを求めながら、物流コストは国際競争に勝ち残れるような水準に抑える、という構造なのである。この矛盾のシワ寄せが物流事業者にきており、さらに現場で働く人たちの労働条件の悪化につながっている。

 しかし、日本社会の構造をどう変えるべきか以前に、経営は現状を踏まえた具体的なものである。どのような状況下にあっても、勝ち残っていかなければならない。原価を上回る収入を得るにはどうすべきかを考え、実行していかなければならない所以である。



中小トラック運送事業者の疲弊
2012/9/21 更新
 中小企業金融円滑化法が来年3月末で終わる。問題の先送りに過ぎず、むしろ事態を悪化させるだけと、そもそも評判の良くない法律だし、おそらくこれ以上の延長はないだろうと思われる。すると業種に限らず同法の適用を受けている企業の相当数が、経営破綻するだろうと予想されている。すでに今秋から倒産などが増えてくる、という見方もある。

 トラック運送業界でも、水面下で大手・中堅事業者に助けを求める中小事業者が増えてきている。筆者にも、何台規模の某社が来月に資金ショートする云々、といった話が入ってくることがある。これまでの経験では、それらの情報はほとんど当たっている。だが、大手・中堅事業者が傘下におさめれば倒産はしない。また、社名や社長もそのままで事業を続けさせるようなケースでは、表面的には分からないのである。

 先日あるところで、燃料代を現金で早く支払っている事業者ほど高い価格で買っているという話になった。信用度が低いためにスタンドで現金買いするしかないからである。一般的には支払いサイトが長い方が単価が高くなるのが普通だ。しかし、手形が発行できるような事業者は信用があるので、燃料単価も安いという傾向があるのだという話だった。これでは毎日、企業間格差の拡大が進行していることになる。

 車両の代替えも同様で、代替えしたくてもできない事業者もいるようだ。金融機関からの借り入れはもとより、リース契約すらできないような経営状態にまで陥っている事業者である。こうなると経営者が何とか金を工面してきて、現金払いで中古車に代替えするしかない。中小事業者の一部では疲弊が進んでおり、業界構造の変化が予想される。



業界の一般「常識」と調査結果と現実と
2012/8/21 更新
 全ト協の「小規模事業者の経営実態に関する調査」によると、保有台数10両以下の小規模事業者(n=667)でも67.6%が荷主と直接取引あり、と回答している。荷主と直接取引をしている小規模事業者は少なく、大部分の小規模事業者は同業者からの下請け、孫請け仕事というのが業界の一般的な「常識」であった。しかし、同調査結果をみる限り、その「常識」が必ずしも正しいものではなかった、といわざるを得ない。

 また、60.2%が見積りをだして取引先と運賃交渉できる、と回答している。交渉しした結果、契約運賃がいくらで決まるかは別として、見積りを出せるということは原価計算ができることを意味している。中小事業者には原価計算すらできない経営者が多いといわれてきたが、この「常識」も正しかったとはいえないような調査結果だ。

 実は、中小企業であっても原価計算ができないような経営者はいない。経営者なら、この仕事をいくらで請けたらどのくらい儲かる、ということは頭の中で瞬時に計算できる。ただ厳密な原価計算ではなく、また厳密な計算の仕方は知らなかったとしても、経験的に計算できるのである。そうでなければ経営などできない。もっとも、それを「どんぶり勘定」といわれればそれまでだが、ともかく経験的ではあっても原価計算はできるのである。

 問題は赤字と分かっていながら、なぜ仕事を請けるのかという点にある。それは原価を上回る収入を得るにはどのようにしたら良いかが分からない経営者が圧倒的に多いからだ。したがって、厳密な原価計算の仕方と同時に、原価を上回る収入を得るにはどうするかという研修も必要なのである。原価計算が正確にできるだけでは経営は改善できない。



倉庫・トラック両派の長所の体得が高利益に
2012/7/21 更新
 またまた樋口社長が「倉庫派vsトラック派からの脱却」について書いている。運送からスタートして倉庫にも進出し、それぞれの利益の出し方の違いを学んだこれまでの変遷をたどりながら、現在の課題と今後の展開について示唆している。簡単にいえば、倉庫派とトラック派という発想ではなく、両派のノウハウを体得して有機的に組み合せることで収益性の高い企業を目指そうとしているのだな、と読み取れた。しかも、それを実現していく上で重要なポイントは、現場における小集団活動と認識されているようだ。

 筆者は前回の当欄で「『倉庫派vsトラック派』ノウハウの違い」を書いた。樋口社長のブログは、あたかもそれに対する同社としての回答のようである。高利益を実現している事業者の秘訣は、簡単にいうと倉庫派とトラック派それぞれのノウハウを取り入れて、独自の現場力を構築している点にある。

 樋口社長の前の回の当ブログで、齊藤教授がハマキョウレックスの5期連続最高益の秘訣に触れていたが、実は同社の高収益のポイントは正にここにあるといっても過言ではない。センター内作業におけるローコストオペレーションと配送車両の効率的オペレーションの組み合わせである。とくに同社のビジネスモデルでみると、センター内におけるパート労働者の労働生産性の高さが高収益の一番のポイントであると筆者はみている。これは必ずしも時給などのインセンティブではない。従業員のモチベーションをアップして、潜在的な能力を自ら発揮するような仕組みづくりに長けているのだ。

 倉庫派であれトラック派であれ、物流業は強い現場力が利益を生み出す源泉である。



「倉庫派vsトラック派」ノウハウの違い
2012/6/21 更新
 齊藤教授、樋口社長と「倉庫派vsトラック派」について書いている。そこで樋口社長の「亜種」を受けて、亜種ではない正統派? の倉庫派とトラック派の差異について書くことにした。両派とも生業に一所懸命に取り組んでいる事業者についてである。

 倉庫派もトラック派も事業領域としては接近している。倉庫業者もトラック運送業を行っているし(子会社化している場合も含めて)、トラック運送事業者も倉庫業に参入したり、物流センターを運営したりしている。このように両者とも事業領域としてはほとんど変わらない。しかも、進んだ業態の事業者はいずれも倉庫や物流センターを核として、受発注代行、保管や流通加工などの庫内作業から輸配送までの一貫した業務を受託している。

 このように同じような業務を行っていて、優れた事業者はいずれも適正な利益を出しているのだが、倉庫派とトラック派では利益の源泉ともいうべきノウハウに微妙な違いが見られるのだ。倉庫から出発しているか、トラック輸送からスタートしたのか、つまり同じような業態にはなっていても、出自の違いがそのまま現在のノウハウに反映している。

 倉庫派は倉庫(または物流センター)という経営資源の活かし方に優れており、その部分で他社よりも多くの利益を生み出す術に秀でている。それに対してトラック派は、倉庫(同前)からの輸配送を得意としており、他社よりも利益を多く生み出せるような効率的な車両オペレーションのノウハウを持っている。これは倉庫派もトラック派も高いレベルでの差異であり、一見、違いが分からない。どちらも優れた事業者なのである。しかし、現場の業務の仕組みを深く取材していくと、倉庫派とトラック派の特徴が見えてくる。



ツアーバス事故はトラック運送業界にも共通
2012/5/21 更新
 大型連休のスタートから関越自動車道でツアーバスによる悲惨な事故が発生した。

 この事故はツアーバス業界の構造的な問題点を象徴するような事故である。ツアーを企画する旅行業者→バス運行仲介業者→バス運行元請け会社→下請けバス運行会社という多層構造。また、実際にバスを運行する会社の安全管理、運行管理、雇用形態や雇用条件、そして名義貸し…。さらに旅行会社の管轄が観光庁で、バス運行会社は自動車局という縦割り行政の問題も浮き彫りにした。そして旅行会社の格安料金は、最終的には運転者の雇用や労働条件にシワ寄せすることで成り立っている、という実態も曝け出したのである。

 これはトラック運送業界にも共通している。筆者は第一種利用運送(貨物利用運送事業法)や貨物自動車利用運送(貨物自動車運送事業法)は、「安全管理やコンプライアンスに問題のない営業用トラックを利用して貨物を運ばせることができる」と規定すべきだと主張してきた。自家用トラックを利用すれば違法だが、それに準拠するような考え方である。そして実運送事業者が重大事故などを起こした場合、安全管理やコンプライアンスが主たる原因であれば、その事業者を利用して運ばせた側にも責任が及ぶようにすべきだ。

 このようにすれば、参入障壁(最低保有台数)を高くしたりしないでビジネスチャンスをできるだけ公平に与えても、安全管理やコンプライアンスに問題のある事業者には仕事が行かなくなるので淘汰されていく。また、実運送事業者にとっては、市場の商取引を通してコンプライアンス・コストを賄って事業を再生産できる運賃水準が形成されるようになる。これなら規制強化ではなく、コンプライアンスの徹底なので異論は出ないはずだ。



ごく僅かだが情けない実態も否定できない
2012/4/21 更新
 先日、事務所の近くを走っているトラックをみて唖然とした。旅客・貨物を問わず、運輸企業にとって安全は至上課題である。それなのに、このトラックを保有している事業者は、どのような社員教育をしているのだろうかと驚いてしまった。

 一見したところトラックの大きさは1.5tないしは2tの平ボディ車であった。そのトラックが後ろのあおりを下ろしたまま走っていたのである。ボディの前から3分の1ぐらいにブルー・シートがかけてあった。おそらくシートがかかっている部分に荷物が積んであったものと思われる。荷物の積んでいないスペースには台車が載せてある。たたんで裏返しにしてあるならまだしも、荷物を載せれば運べるような状態のままだった。

 そのトラックの後ろには乗用車が何台か続いていた。もし、ブレーキをかけたはずみで台車が後ろに転がって落ちたりしたら、後続の車が事故に遭う可能性がある。このトラックのドライバーは、そんな単純で基本的なことすら分かっていないのだろうか。そこで瞬間的に運送会社の社名を判読したのだが、会社名は公表はしないことにする。

 荷物を積んでいるのに、しかも台車をそのまま載せた状態で、後ろのあおりを下げたままで車を走らせれば危険だという程度のことは、誰にでもわかることだ。これは教育以前の、ドライバーの基本的資質の問題かもしれない。しかし、運送を生業としている会社でありながら、安全に対する初歩的なドライバー教育すらしていないという実態も現している。そのような事業者はごく僅かかも知れないが、実に情けない。

 安全は初歩的で基本的な動作を忠実に実行することから始まる。



「単に経験した」だけでは通用しない時代に
2012/3/21 更新
  樋口社長が直前のブログで、ベティー・キルドウ氏の言葉として「経験から学んだ」と「単に経験した」だけについて書かれている。同氏は樋口社長が翻訳出版した本の著者で、「日本語版に寄せて」の中の一文である。

 たしかに、経験から学んだことをその後の経営に活かすのではなく、単に経験しただけという経営者がトラック運送業界には多くみられる。それはなぜか? 

 これまでは単に経験しただけでも経営がそれなりに維持できていたからではないだろうか。経験から学ぶのはもっぱら荷主企業であった。荷主が経験の教訓を活かして物流システムを変え、今度はこのような仕組みで作業しなさいと指示されれば、事業者はそれに忠実に従っているだけでも良かった。だから自分が経験から学ぶ必要がなかったのである。

 ところが、これからは違う。東日本大震災の経験から荷主企業が学んだことの一つにサプライチェーンがある。その教訓から、今後はサプライチェーンの見直しが進んでいくだろう。もちろんサプライチェーンといえば一義的には原材料や部品調達の方法などであり、その再検討である。しかし、サプライチェーンを敷衍すれば、二義的には物流部門での事業者の見直しも、下請け関係などの多層構造も含めて検討課題になってくるはずだ。そうすると危機管理などの対策ができていない事業者は取引再検討の対象になってくる。

 東日本大震災の「経験から学んだ」教訓を活かして、当社なら非常時でもこのように対応できる、という体制を構築したような事業者が荷主企業から選ばれることになる。ただ「単に経験した」だけで、相変わらず指示待ちでは通用しない時代になってくる。



平均時速56q/h×12時間/日×30日=?!
2012/2/21 更新
 小生のところには全国の運送事業者からメールや電話が入ってくる。どこの地方かは割愛するが、ある中小事業者の話はエッ! と驚くような内容だった。この事業者は自車両の他に同業者に仕事を出しているのだが、傭車先との取り引きを止めたという話である。

 ある荷物の輸送先は距離的に3日運行である。したがって同じドライバーが4日目に集荷に来るなら不思議ではないが3日目に集荷にきた。そこで疑問に思ってそのドライバーからいろいろ聞き出したところ、1カ月の走行距離がなんと2万q以上という実態なのだという。すると平均走行速度56q/hで1日12時間ハンドルを握り、1カ月30日間休みなしで働いたとして約2万qということになる。運転時間以外にも荷積み荷卸の作業時間があり、食事もとらなければならない。休憩や休息は、と考えると恐ろしい。この事業者は、とてもそのような事業者に仕事を頼むわけにはいかない、と取引を止めたという。

 また、ある傭車先から、依頼したよりも小さい車両で集荷にきた。荷物を積む前に過積載になることが明らかなのに、荷物を積ませることはできない。そこで、その傭車先の社長に電話をすると、その車両でも積めます、大丈夫ですから荷物を出して下さい、と懇願されたという。この傭車先に対しても仕事は依頼できないと断ったという話だった。

 あきれるような話はまだまだ続くのだが、このような実態を切々と訴えてきた。そして最後に、どこも信用できないから小生に電話した、業界の現状を何とかしてくれという。だが、当方にそんな力などあろうはずがない。そこで機会があったらしかるべき場で行政関係者などに話をしましょう、ということにしたのだが……、如何ともしがたい。



ムダな費用の出費か、有効な設備投資か
2012/1/21 更新
 国交省は「トラックにおける運行記録計の装着義務付け対象の拡大のための検討会」で、運行記録計の装着を義務づける対象車両の範囲を拡大する方向で検討を進めている。現在は車両総重量8t以上、最大積載量5t以上のトラックにデジタコの装着が義務づけられている。だが、安全性を向上するために、それ以下の大きさのトラックにも義務づけの範囲を拡げようという趣旨である。ちなみに、欧州では車両総重量3.5t以上のトラックにデジタコの装着が義務づけられているという話を聞いた。

 これに対して、トラック運送業界の一部には義務づけ対象車両の拡大に反対する声もある。デジタコ装着にともなう費用負担が大きい、というのが主な反対理由だ。

 一方、装着が義務づけられている車両は当然だが、対象外の小型の車両にもデジタコを導入している事業者もいる。なかにはデジタコだけでなく、ドライブレコーダーも併せて装着しているケースもある。このような事業者を取材すると、安全性の向上だけではなく、省エネ運転など環境面でも成果を出している。安全にしても環境にしても、経営面からみるとコスト削減という効果につながっている。

 もっとも、これらの機器を装着すれば、それだけで自動的に大きな成果が表れるというものではない。機器はあくまで道具にしか過ぎないからだ。重要なのはその道具をいかに有効に使うかである。どんなに優れた性能をもった機器でも、使いこなせなければただの“物”に過ぎない。 したがって装着のために要する金は、ムダな費用の出費となる。反対にその機器を上手に使うことのできる事業者にとっては、有効な設備投資となる。



実際には「想定外」の連続が日常なのである
2011/12/21 更新
 今年最後のブログである。この「業界人ブログ」は1月から始まったので、1年が経ったことになる。スタート時には、まさか東日本大震災が起きるなどとは夢想だにしなかった。まさに「想定外」である。地震と津波にともなう原発事故も、不安を完全には払しょくできないという一抹の危惧は抱きつつ、まさか現実になるとは思ってもいなかった。その他の自然災害なども含めて、今年は「想定外」に見舞われた1年といえる。

 そこで「想定外」という言葉が頻繁に使われたのだが、よく考えてみると、現実の日常は「想定外」の連続なのではないかと気づいた。自然現象はもとより、企業活動も、人びとの毎日の営みも、ことの大きさに違いはあるが、実際には絶えず「想定外」の連続なのである。小さな「想定外」のできごとなら、影響も少ないのでさほどの苦労もなく対処しているだけに過ぎない。我われはそのようなことをごく自然に繰り返しているのである。

 これは企業活動においても同様で、「想定外」が全くないとしたら、経営計画通りに総てが進み、何の苦労もないことになる。間違った計画を立てたのなら実現できないのは当然だが、正しく計画しても実現するのが大変なのは、絶えず「想定外」に遭遇しているからである。そのつど「想定外」に対応しながら計画を実現するために努力しているのだ。

 したがって、「想定外」に直面したとき、いかに速やかに的確に解決策を打ち出して対応できるかが重要になる。ただ「想定外」の大きさによって、どのレベルで判断するかが違ってくるし、対応の規模も異なってくるだけである。このように考えてくると、平時、非常時に関わらず、企業経営の基本に忠実であるか否かに行きつくのではないだろうか。



参入規制(最低保有台数)も非関税障壁!?
2011/11/21 更新
 野田総理がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への実質的な交渉参加を表明した。TPP加盟で大きなダメージが予想される農業団体は強固に反対している。だが、影響が予想されるのは農業だけではない。たとえば医療分野では自由診療に道を開き、国民皆保険制度の崩壊につながるという意見もある。このような危惧を敷衍すれば、すでに制度疲労している年金制度などは、401Kに取って代られるかも知れない。労働市場では外国人労働者の流入に道を開き、ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制適用免除制度)の導入も予想される。このようにTPP加盟は日本の社会構造を大きく変えることになる。

 トラック運送業界はどうか。「トラックビジョン」の中間整理では、トラック運送事業者がアジアなどに進出する必要性に言及している。反対にTPP加盟で海外の運送事業者が日本に進出する可能性もあり得る。韓国はFTA(自由貿易協定)を選択したが、たとえば関釜フェリーなら荷物を積んだトラックの日本上陸は可能で、実際、過去にそのような話があったと聞く。あるいは外国の運送会社が日本に進出する場合、非関税障壁は参入規制(最低保有台数)ということになる。これらの課題も将来は俎上に上ることが予想される。

 一方、グローバル化は時代の趨勢であり、日本の将来を見すえるとグローバル化に対応しなければならない。問題はいかに対応するかであろう。その際に重要なのは、グローバル化=アメリカ化ではない、という視点である。だが、どのような方法でグローバル化に対応しようとも、国内だけで仕事をしているトラック運送事業者も影響が避けられない。国家百年の計とはいわないが、せめてトラック運送業界十年の計の視野が必要だ。



輸送キャリアという方向もある
2011/10/21 更新
 今月の当欄では、齊藤教授が物流事業者と荷主企業との交流の場が日本にはないと書かれ、それを受ける形で樋口社長は、全ト協の事業者大会の実感なども踏まえて、輸送という単独サービスは基本的に下請け契約しかないのではないか、と書かれている。そこで今回は「輸送キャリア」という業態と取引関係について私見を述べることにした。

 部品産業をみると、メーカーが示したスペック通りに製造・納品している部品メーカーが圧倒的に多い。典型的な下請けで、資本関係がなくても実質的には特定メーカーの系列下にある。しかし、あるパーツに関して独自の製品をもっている企業も一部にはある。このような独立系の企業は、どのメーカーとも取引きしている。そして発注者と受注者という立場の違いはあるが、契約は対等であり上下関係ではない。

 それと同様に、運送という単品サービスだけを提供する「輸送キャリア」という業態はあり得る。ただし、その前提には独自の輸送サービスを提供できるネットワークなり、効率的な車両オペレーションのノウハウやシステムが必要だ。そのような輸送専門の事業者なら、荷主企業と対等に交流することもできるし、契約上では直接的な発注者となる物流事業者との取引も、元請け下請けという上下関係ではなく水平分業関係となる。

 西日本などから東北に運ぶ荷物では、帰り荷がないために、運賃が少し上昇しているようだ。しかし、往きの運賃が上がっても帰り荷を確保できなければ採算が悪くなってしまう。一方、東北でも被災していない地域からの荷物を開拓したり、途中で荷物を中継したり組み合わせたりしている事業者は、東北向けの運賃が上昇した分だけ利益が増えている。



公共交通機関の社会的役割
2011/9/21 更新
 今年は電車との相性が良くない。1月下旬に秋田県横手市に行った時のこと。新幹線で北上に行き、北上線で行く予定が雪のため不通で、秋田新幹線の大曲経由になった。約束の時間に10分程度の遅刻ですんだが問題はその後である。横手から新庄に向かう予定が積雪のため全線不通で、タクシーでの移動になった。ただチケットは東京〜北上〜横手〜新庄で購入していたため、タクシー代(2万9000円強)はJR負担なので助かった。

 次は3月11日である。震災が起きた時は名古屋近郊にいた。名古屋駅までは順調に戻れたが、それからが大変だった。1泊しようといくつかのホテルに電話をしたが、すでに予約でいっぱい。そこで中央線の塩尻経由と考えたが、塩尻〜新宿が不通で開通の見通しがたたない。結局、新幹線に座って待つしかなく、東京まで10時間以上かかった。

 さらに5月には東北地方で、7月には中部地方で在来線の遅れにより、新幹線への乗り継ぎが予定通りにいかなかった。いずれも特別な理由があって遅延したわけではない。

 そして8月、名古屋から津に向かう途中の四日市駅に停車した快速電車がなかなか発車しない。すると「車掌がいないので出発できません。しばらくお待ちください」と運転士が車内放送した。運転士に聞くと前の停車駅の桑名で、車掌が電車から降りたまま発車してしまったという。四日市駅は業務を外部委託しているので対応できず、別の電車で代わりの車掌がくるまで待って下さいとのこと。約束の時間に1時間ほど遅刻してしまった。

 自然災害は如何ともしがたいが、公共交通機関の社会的役割は大きい。これは物流事業者も同様である。



高速無料化と業界の実態
2011/8/21 更新
 水戸ICや白河ICで高速道路を下り、近くでUターンして再び高速に上がるトラックがマスコミで大きく採りあげられている。東日本大震災からの復興を促すための今回の高速道路無料化の趣旨からすると、明らかに目的外利用(一般的に表現すれば悪用)である。中には目的地とは逆方向に走って水戸や白河で1回下りて無料にし、再びそのICから上がって無料として中部や関西あるいは西日本方面などの長距離を走る、といったことが行われているようだ。しかも首都高を避けるために距離的にはかなりの遠回りをしている。

 先日、テレビでUターン車両を追いかけた映像を観ていて驚いた。ナンバーや運送社名は画面から特定できないように処理してあったが、Gマークはハッキリ映っていた。トラック協会ではGマークを宣伝して一般の人たちの認知度を高めようとしている。だが、目的外利用しているGマークトラックが大きく映しだされたのでは逆宣伝になってしまう。

 そのテレビ番組では、Uターンしたトラックの会社にも取材をしていた。管理者らしき人物が対応していたが、そのコメントにガッカリした。このような行為を止めるようドライバーに指導するか、という問いに対して、指導しないと毅然?と答えていた。さらに、その理由が情けない。高速料金はドライバーの個人負担だから、負担を減らそうという行為を会社として止めろと指導するつもりはない、というのだ。しかも堂々と、である。

 たしかにUターン禁止の所でUターンすれば違反になるが、そうでなければ法令や制度違反ではない。だが仕事で高速道路を利用するのに、料金はドライバーに負担させているという説明は、一般の人には理解されないだろう。他産業界の経営者も驚くに違いない。業界内ではそれが珍しくない実態や、恥ずかしいと思わない感覚はやはりおかしい。



物流効率化の追求とリスクヘッジ
2011/7/21 更新
 トラック運送事業者の最近の大きな関心事は、東日本大震災による今後の物流の変化と、BCP(事業継続計画)である。前者は市場の変化予測と対応であり、後者は災害などに遭遇しても会社を存続できるようにする対策だ。経営者としては当然の関心事といえる。

 大企業では以前からBCPを策定していた。しかし、中小企業でBCPを策定している会社は業種・業態に関わらず少ない。東日本大震災という未曽有の事態を体験し、危機的状況に遭遇しても、企業を存続するための計画を策定しておく必要性が実感されたのである。

 東日本大震災を踏まえて、今後、日本の物流はどのように変わるのだろうか、という関心が高まってきたのは5月の連休明け以降である。震災直後の約1カ月間は、多くの事業者が荷主からの緊急輸送要請などへの対応に忙殺された。4月中旬になると緊急体制も定着し、作業的にはルーティン化した。そして大型連休中に、大震災を受けて今後の日本の物流はどのように変化するのだろうか、と多くの経営者が考えるようになったのである。

 大震災を踏まえた今後の変化では、基本は従来と変わらない。近年の日本経済はグローバル化と国内市場の縮小が同時進行してきた。それに沿って物流も変化してきた。このトレンドは今後も変わらない。大震災による変化は、その流れを加速するという点である。

 もう一つ重要な視点は、グローバル化と国内市場の縮小に対応する荷主企業のビヘイビアにおいて、常に利益(費用対効果や物流効率化)が追求されるということである。物流効率化という普遍的なテーマに、リスクヘッジという要素が従来以上のウエイトで加わるようになった。このようなフレームの中で、自社の荷主の変化を予測することが重要だ。



サプライチェーンと運送業界の下請け構造
2011/6/21 更新
 経団連は大震災からの復興を目指して「復興・創生マスタープラン」を策定した。その中で「サプライチェーンの再構築」について触れている。部品産業に被害が発生し、生産活動に影響が出たことを踏まえ、サプライチェーンの再構築が必要になったからだ。

 ひるがえってトラック運送業界を見ると、多層な下請け構造は部品産業と共通性がある。ある事業者は、地震発生の情報をキャッチすると素早く、東北地方の太平洋側にいる車両のドライバーに、トラックから離れて高台に避難するように指示を出した。そのため人的な被害は最小限にとどめることができたという。一方、同様の指示をドライバーまで伝えられなかった事業者がある。前者は自車両だが、後者は総て傭車だからである。協力会社には指示を出せても、2次、3次それより先の下請け事業者には直接、指示することができない。荷物の被害状況の把握など、荷主に対する元請けとしての対応にも差がでる。

 製造業における部品の供給連鎖と、運送業における下請の多層構造には、需要波動の緩衝や、コストダウンという点で共通性がある。しかし、決定的な違いもある。部品製造ではどれだけ下請けの連鎖が長くなっても、発注者が示したスペック通りに部品を製造できなければ取引を解消されてしまい、企業として存続できない。つまり検収によって品質が担保されている。それに対して、運送業は生産過程が同時に消費過程(生産的)という特殊性もあり、生産から消費までの間で品質をチェックすることができない。だから運送業における品質保証としては客観的品質が重要になる。運輸業におけるサプライチェーンの見直しという観点からも、Gマークやグリーン経営などを位置づけることが必要だ。



運送事業者的な支援の一方法
2011/5/21 更新
 東日本大震災では大きなダメージを受けたトラック運送事業者も多い。同業者の立場からの支援の一つとして、定期的な車両代替え時に、通常なら下取りに出す車両を被災した事業者に低価格で融通するという方法がある。

 トラック運送会社のコア事業は、あらためて言うまでもなく運送業務である。そしてコア事業を行うための最も重要な経営資源はトラックだ。ところが、そのトラックを失ってしまった事業者がいる。新車のトラックはもとより、中古トラックでも入手が困難になっている。さらに、求めているような中古トラックがあったとしても価格が上昇している。それでは被災した事業者が、努力して事業を再興しようとしても難しい。

 そこで、被害を受けなかった事業者が代替え時に、下取りに出さずに車両を融通するような仕組みを業界内でつくったらどうか。業界の実態からすると、下取り金額も資金計画に入れなければ代替えができない、という事業者も少なくないだろう。そのような事業者は、ディーラーの下取りの見積り金額と同額で融通すればよい。それなら融通する事業者は資金計画通りだし、融通してもらう事業者は中間マージンがないのだから助かる。また、多少でも余裕のある事業者なら、下取りの見積り金額の何%オフまでなら協力・支援できるかを各社がそれぞれに考えて、できるだけ安く融通すればその方がよい。

 その際に支払の仕組みが重要になる。車両を融通する側には全額を、融通してもらう側は分割払にしなければ現実的な支援にならない。そこでトラック協会がコーディネーターになり、金融機関などの協力も得て事業者同士の相互支援の仕組みを構築するのである。



ロジスティクス的発想の重要性
2011/4/21 更新
 東日本大震災は広域にわたって甚大な被害をもたらした。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りします。また、被災された皆様にはお見舞い申し上げます。

 今回の大震災では物流の役割や重要性が広く認識されるようになった。避難所に救援物資が届かない。被害のなかった地方でも一部の商品が品薄状態となり、物不足の状況を呈した。ガソリンや軽油などの石油製品も円滑な供給に支障がでた。さらに製造業や流通業におけるサプライチェーンの問題点なども浮き彫りになった。このようなことからマスコミも物流に注目したが、なかには不遜な振る舞いもあった。当欄とリンクしている樋口社長の社長ブログ(3月15日)に書かれている日テレ「スッキリ!」のディレクターを紹介したのは小生でありご迷惑をおかけした。テレビや雑誌では過去に何度か苦い経験があるので、それ以後は取材コンセプトを確認して協力するかどうかを判断するようにしている。今回は大丈夫と思ったのだが甘かった。お詫びするとともに反省する。

 ともかく物流が注目されたことはまぎれもない事実である。だが、実は明らかになったのは単に物流なのではない。もちろん物資の供給など直接的には物流の問題であるが、より本質的な問題はロジスティクス的発想の欠如である。避難民の移送や施設の確保、医療品や生活物資の補給、救助隊の投入や復旧作業に必要な機材の輸送など、インフラが崩壊した状況の中で、どこにベースを構築して大量輸送するか、さらにその先の補給態勢をどうするかなど、燃料の確保と供給も含めて、人も物も総合的に対応するのがロジスティクス=兵站である。しかし、政府の今日までの対応をみると、ロジスティクス的な発想が欠如しているように思われる。ロジスティクスに関する研究の必要性を痛感する。



業務効率化による「コストダウン」だけなのか?
2011/3/21 更新
 齊藤教授が書かれているように、関連性のある一連の業務を総合してシステム化すれば、作業の効率性が高まることは言うまでもない。個々の業務を個別に行うよりも、全体の作業がスムースに流れ、生産性が向上してコストダウンになる。それだけなら3PLから業務を受託して作業を遂行する事業者(一般に実運送事業者と表現されている)から、何ら批判は出てこないだろう。しかし、3PLと称する事業者が、はたして効率化によるコストダウンだけで荷主から業務を元請けしているのだろうか? どうも疑問である。

 一方、樋口社長が書かれているように、旅行でもパッケージツアーは安い。だが同じ「○○島3泊4日」でも、出発日によって料金が違う。これは航空会社やホテルなど、実際に顧客を受け入れる側が需給バランスなどを基に価格を設定し、旅行代理店と契約しているからだ。もちろん、厳しい価格交渉はなされているのだろうが、少なくとも実際にサービスを提供する事業者の主張も反映して顧客に提示する料金が決められている。

 つまり、旅行代理店は顧客と実際にサービスを提供する事業者との間に入って、双方の利害を調整する役割を担っている。ユーザーとキャリアの両方のメリットを引きだすという社会的な機能によって、一つの業態として成り立っているのだ。まさに第三者(サードパーティ)であり、そこに旅行代理店が存立する合理的根拠を見出すことができる。

 3PLを標榜する事業者が、実際に業務を遂行する事業者と価格交渉した上で荷主に料金を提示しているかは疑問だ。効率化によるコストダウンは当然であるが、さらに作業単価も一方的に引き下げることで荷主から受注しているのが実態ではないのだろうか。



私的で体験的な3PLについて
2011/2/21 更新
 当ブログが軌道に乗ってきたら、テーマを設定してリレー方式で三者三様に意見を出し合えば面白いと考えていたのだが、すでに2巡目にして自然とそのような形になってきた。そこで極めて私的で体験的な3PLを記すことにしよう。

 若いころからコリ性で、マッサージには頻繁にかかってきた。

ケース1=肩が凝っているので頼むと肩だけ、腰が凝っていると頼むと腰だけのマッサージだった。

ケース2=肩を揉んでほしいと頼んだら、「お客さんの肩コリは腰とも関連しているので両方を揉みましょう」。「そんなことを言われたのは初めて。さすがにプロですね。よろしく頼みます」。「ところでお客さん。10回分の料金で11回できる回数券はいかがです」。「買います」。「では今後はうちの若い者の中からお客さんの担当者を選任しましょう」。

ケース3=料金がかなり高かったが頼んだ。すると「この凝り方はひどい。マッサージ代も大変でしょう」。「1週間に1回ぐらいかかります」。「自分で心がければ軽くなる方法がありますが、良かったら教えましょうか」。「お願します」。「お客さんのコリ方の場合なら、バスタオルをこのようにして、この部分に当てて仰向けで寝るようにすれば2週間ほどで少しずつ効果が出てきます。月に1回程度のマッサージでも大丈夫になりますよ」。それ以来、毎日続けたら確かにその通りになった。

 これは実体験を少しデフォルメした話だが、業界になぞらえるならケース3が3PLであろう。ところがケース2の人たちが3PLと称し、「うちの若い者(下請け)」を安い賃金と劣悪な労働条件で使うことで、1回分お得な回数券の販売を可能にしている。このような構造はずっと以前から続いてきた。ただ最近になって安全管理体制やコンプライアンス・コストの面から問題がクローズアップされるようになってきただけではないかと思う。



年末年始の天候は現在の日本を象徴?
2011/1/21 更新
 年末年始の天候は、あたかも現在の日本の社会・経済構造を象徴しているかのようだった。首都圏は連日、好天に恵まれた。しかし、その他の地方では晴天が長続きせず、それどころか降雪で散々な年初になってしまった地域もあった。テレビの天気予報で全国の天気図をみながら「太陽光線の一極集中」「天候の地域間格差」などと感じた次第である。

 昨年の特徴のひとつは、荷主企業も物流事業者もともに企業間格差が進行したことだった。今年は「陽の当たる」企業とそうでない企業の差がより拡大するだろう。主たる要因はグローバル化と国内市場の縮小という経済環境の変化に対応できたか否かである。

 経営が厳しくなった荷主からは、昨年も運賃・料金の値下げ要請があった。そして値下げに応じた事業者はますます苦しくなっている。一方、採算性の低い荷主や不採算部門から撤退した事業者もいる。このような事業者は一時的に売上が減少したものの、収益性が向上して体質強化を図ることができた。国内市場が縮小する中では、戦略的にも合理性のある経営判断といえる。もちろん今後は、再び拡大路線に転換することも可能だ。

 日本の物流サービスは「ガラパゴス化」のひとつである。国際的に最高水準のサービス・レベルになっている。しかし、輸出企業の荷主は「国際標準」の運賃を求めている。それに対して、ドメスティックな荷主の運賃はデフレスパイラルの影響が大きい。それでも廉価商品は海外で製造されているのだから、経済のグローバル化にかわりはない。

 気象などの自然現象は人の力では如何ともしがたい。だが、企業は経営次第で陽が当たるようにすることができる。そのためには景気変動よりも構造変化への対応が肝要だ。