業界人ブログ ― 「齊藤 実氏(神奈川大学経済学部教授)」のブログ
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齊藤 実氏(神奈川大学経済学部教授)

行政や業界団体等の委員などを数多く務め、トラック運送業界に精通した経済学者



トラック運送業者の起業を支援する取組み
2024/12/1 更新
 トラック運送業者の起業を支援する取組みが始められており、トラック運送業者の増加をもたらすことになるのか注目される。
 ネット通販事業者アマゾンは、トラック運送業者を起業させる取組みを行っている。これはデリバリー・サービス・パートナー(DPS)と呼ばれるもので、アマゾンのネット通販貨物を専属的に運ぶトラック運送業者を起業させるものである。
 具体的には、当初車両5台で始めて、20台〜40台程度のトラックを持つトラック運送業者を想定している。こうしたトラック運送業者を起業させるために、アマゾンはビジネス立ち上げのサポートや、ビジネス運営に必要なツールやテクノロジーを提供したりして、起業を支援する。

 アマゾンはこれまでネット通販貨物の配送で脱宅配便を行うために、デリバリー・パートナーと呼ばれる地域のトラック運送業者を採用してきた。またアマゾン・フレックスと呼ばれる個人事業者の軽貨物運送業者に配送を直接委託するやり方も行ってきた。こうしたなかで、最近行われているのが、小規模なトラック運送業者を起業させて、その運送業者にアマゾンのネット通販貨物を運ばせようとするものである。
 じつはアメリカのアマゾンでは、このデリバリ―・サービス・パートナーがラストマイルの配送を担う中核的な存在となっている。アマゾンはアマゾン・ロジスティクスとして宅配便事業を展開しており、宅配便の取扱量を急激に拡大している。その宅配便の取扱量は2023年に59億個に達し、日本全体の宅配便の取扱量50億個を凌駕している。またアメリカ国内の大手宅配便のフェデックスやUPSの取扱量もすでに上回っている。

 このアマゾン・ロジスティクスの主な担い手が、デリバリー・サービス・パートナーである。アマゾンは、典型的には40台程度の車両台数をもつ小規模トラック運送業者を次々と起業させて、専属的に自社のラストマイルの配送を担わせてきた。この事業者数は全米で2,500社に達し、そのドライバー数は20万人におよぶ。アメリカにおいて特定の企業による起業支援を受けて、トラック運送業者の大規模な新規参入が行われてきた。
 日本においてもこれと同じように、デリバリー・サービス・パートナーとして小規模なトラック運送業者を起業させる取組みが行われているのである。ネット通販の販売拡大はこれからも続くと考えられ、それに対応してラストマイルの配送を担うトラック運送業者を増やしていくことが必要となる。トラック運送業者を起業させるかたちでラストマイルの配送の担い手を増やしていけば、トラック運送業への新規参入が増加することになる。
 アメリカのように新規のトラック運送業者が大量に市場参入するとは考えづらいが、日本でもトラック運送業者の起業が活発になる可能性がある。


新たな規制による多重下請構造の変化の可能性
2024/11/1 更新
 トラック運送業の多重下請構造は業界が直面する大きな問題である。多段階の下請が続くことによって、最下層の実運送業者は低い運賃で運ばざるを得ない。実運送業者の低運賃は、ドライバーの低賃金や長時間労働へと結びついている。こうした多重下請構造の問題を改善していくことが強く求められている。

 国土交通省は貨物自動車運送事業法の改正を行い、多重下請構造を改善するための新たな規制を設けた。重要な点は、まず元請業者に「実運送体制管理簿」の作成を義務づけることである。さらに元請業者は下請業者が適正な運賃を収受できるように発注を適正化する努力義務が課せられる。そして「標準的な運賃」に関連して利用運送手数料である「下請け手数料」を運賃とは別に設定することである。
 「実運送体制管理簿」によって多重下請構造が可視化されるとともに、最終的な実運送業者が明確にされる。そして元請業者はこの実運送業者に適正な運賃が提供できるように努力するとともに、実運送業者の適正な運賃収受の一環として運賃とは別建てで「下請け手数料」を荷主に求めるようにする。

 これまでは運賃の中から手数料が引かれて下請業者に支払われていたが、新たなやり方では、荷主から収受する運賃はそのまま下請業者に支払い、これと別に荷主から運賃の10%の「下請け手数料」を収受することになる。運賃そのものも、低い運賃ではなく適正運賃であり、望ましいのは新たな「標準的な運賃」となる。こうして元請業者は、実運送業者が適正な運賃を受け取ることができるように荷主と運賃交渉を行う。
 これまで実際の運賃水準は低く、望ましい「標準的な運賃」を獲得することは容易ではなかった。新たな「標準的な運賃」は8%の増加が織り込まれており、「標準的な運賃」は従来に比べてより高い水準となる。さらに、元請業者が受け取る手数料を別建てとすれば、これを負担する荷主にとっては、新たに手数料の負担が生じて実質的に運賃がさらに10%増えたことと同じになる。

 このやり方を取るとなれば、荷主にとっては大幅な運賃の上昇をもたらすことになるのであって、運賃の10%におよぶ「下請け手数料」を新たに荷主が負担することの合意を含めて、荷主の理解を得るのに高いハードルが予想される。さらに運賃の増加を防ごうとする荷主が、実質的に「下請け手数料」の分だけ運賃の削減を求めるようになり、運賃そのものが減少することも考えられる。
 しかし「下請け手数料」を別枠で徴収することになれば、多段階の下請が抑制されることが期待できるとも考えられる。実運送業者の適正な運賃の収受を前提にすると、多段階の下請では「下請け手数料」も多く収受する必要があり、それは大きな負担となることが想定される。このため元請業者にとっては、できるだけ下請をスリム化する努力が必要となる。
 現在、多重下請構造を是正するために、元請となるトラック運送業者が二次下請まで制限するように努力することが明らかにされている。貨物自動車運送事業法の改正の新たな規制に基づいた取組みでも、多段階の下請が削減される可能性が考えられる。


映画「ラストマイル」が映し出す物流の世界
2024/10/1 更新
 珍しいことに、物流の用語がタイトルとなった映画が上映されている。それが「ラストマイル」だ。これまで経済小説では、楡周平の『ラストワンマイル』がある。日本では小説のタイトルのラストワンマイルが広く使われているが、アメリカなどではラストマイルである。最新の映画では、英語圏で使われているラストマイルがタイトルになっている。

 この映画では、大手ネット通販事業者の物流センターから発送された貨物に爆発物が仕掛けられ、ラストマイルの配送を経て届けられた貨物が爆発し、大混乱を引き起こす。この貨物を発送した物流センターの新任の女性センター長が、物流センターの仕組みから爆弾が仕掛けられた方法を解明し、爆弾を仕掛けた犯人を追及していく。
  この映画は見るものをハラハラさせるサスペンス映画だが、舞台となっているネット通販の物流の現場が、ストーリーの展開に応じて正確に緻密に描かれている。特に重要な点として、ネット通販事業者の物流センターの実態、ネット通販事業者の物流センターを利用した物流ビジネス、ラストマイルを担う宅配便事業者の立場、さらに末端の配送を担う軽貨物運送業者の実態である。
 ネット通販の巨大な物流センターで爆発物が仕掛けられるが、その物流センターは広大なスペースに物流ロボットなどの自動化物流機器が導入されており、さらに大量の非正規の作業員が動員されている。この最新鋭の物流センターで効率性が追及されていることが描かれている。

 なぜ物流センターで貨物に爆発物を仕掛けることができたのか。その謎解きには、ネット通販事業者による物流センター運営の仕方に秘密が隠されていた。ネット通販事業者の物流センターは、自ら販売する商品だけでなく、他のネット通販事業者の商品も保管して注文に応じて出荷している。物流センターを運営している大手のネット通販事業者は同時に物流ビジネスを行っており、他のネット通販事業者の商品を取り扱っている仕組みを利用して外部から爆発物を仕掛けた商品を持ち込むことができた。
 ラストマイルの配送を担う宅配便事業者は、大量の貨物を持つネット通販事業者との力関係では弱く、低い配送料金に甘んじざるを得ない。また、ネット通販事業者から無理難題を要求されて受け入れざるを得ない。大規模な荷主企業に対して物流業者の立場が弱いことが描かれている。
 宅配便事業者の下請けとして配送業務に携わる軽貨物の個人事業者が登場する。火野正平が演じる高齢の軽貨物ドライバーは、新たに中年の息子と一緒に配送業務にあたる。この老齢のドライバーは、自分たちが物流を支えてきたと自負するが、現実には一日の貨物の配達個数が200個を超えて重労働となり、運賃は貨物1個当たり100円台と安いことを嘆く。ラストマイルの末端で配送業務にあたる軽貨物運送業者が、長時間労働で低収入である実態が示されている。
 この映画は、そのタイトル通りラストマイルというネット通販の物流の実態を多面的に描いており、拡大しているネット通販の物流の特徴を知ることができる。


ラストマイルでリードタイム短縮を追求するアマゾンの戦略
2024/9/1 更新
 ネット通販大手のアマゾンは、ラストマイルにおけるリードタイムの短縮に積極的に取り組んでいる。8月からアマゾンは、北海道へのネット通販貨物の輸送に、従来のトラック輸送と海上輸送に代わって航空機を使用する。これにより、北海道の購入者は翌日配送が可能になる。アマゾンによれば、この変更によって全国47都道府県全てで翌日配送を実施することができるようになったという。
 いうまでもなく、従来のトラックや海上輸送に比べて、航空機を利用することで輸送コストは増加する。ネット通販事業者としてみれば輸送コストの増加をできるだけ避けたいと考えるが、こうしたデメリットがあるにもかかわらず、アマゾンは翌日配送というリードタイムの短縮を優先している。アマゾンはこれまでも翌日配送だけでなく、当日配送の拡大にも取り組んでおり、ラストマイルの時間短縮を積極的に進めてきた。

 本家であるアメリカのアマゾンも、これと同じようにラストマイルにおける物流の戦略を展開している。広大なアメリカで、プライム会員向けに翌日配送や当日配送を提供するために、物流への大規模な投資を行い、物流拠点となるフルフィルメントセンターやデリバリーステーションを全国的な規模で拡大してきた。非常に密な物流ネットワークを構築することで、物流拠点から消費者までの距離が短縮され、翌日配送や当日配送が可能になった。
 翌日配送や当日配送を提供することでプライム会員が大幅に増加して、ネット通販の売り上げの拡大に結び付いている。ネット通販の購入者がリードタイムの短縮を望んでおり、アマゾンはこうした消費者のニーズを満たすことで、販売の拡大を図っている。
 アメリカと同じような戦略を取る日本のアマゾンは、北海道にフルフィルメントセンターを設置することで、翌日配送を実現することができる。そこまで設備投資を行わなくとも、今回のように航空機を利用することで長距離輸送の時間短縮が可能になり、翌日配送を実現することができるようになった。

 物流の世界ではドライバー不足が深刻になり、これに対応して翌日配送から翌々日配送へとリードタイムを延長する動きが広がっている。ネット通販のラストマイルを担う宅配便も、2024年問題に対応して一部地域で翌日配送から翌々日配送に変更している。さらに、ネット通販事業者のなかには、従来の翌日配送ではなく、より時間のかかる配送サービスを導入する動きがみられる。
 これに対して、アマゾンは最近の物流の傾向と逆に、ラストマイルにおけるリードタイムの短縮を積極的に推進している。翌日配送や当日配送によってラストマイルの物流サービスを差別化し、これによって消費者から選ばれることで、結果として販売の拡大に結び付くことを考えている。こうして、アマゾンは物流サービスの高度化に向けた取り組みを続けている。


進む物流業界のM&A
2024/8/1 更新

 物流業界でM&A(買収・合併)が活発に行われている。買収劇も繰り広げられている。丸和運輸機関を傘下に持つAZ-COM丸和ホールディングスは、名糖運輸やヒューテックノオリンを傘下に持つC&Fロジホールディングスを買収するために、TOB(株式公開買い付け)を実施した。これに対して佐川急便を傘下に持つSGホールディングスが対抗馬として登場し、SGホールディングスがC&Fロジホールディングスを買収することになった。
 これ以外にも注目すべき物流業界のM&Aが相次いでいる。SBSホールディングスがNSKロジスティクスを買収する。SBSホールディングスは2020年に東芝ロジスティクスを買収している。またロジスティード(旧日立物流)は、アルプス物流を買収することを明らかにしている。さらに、西濃運輸を傘下に持つセイノーホールディングスも三菱電機ロジスティクスの買収を行なう。

 これらのM&Aに共通しているのは、3PL(サードパーティー・ロジスティクス)事業を展開している物流企業が、メーカーのグループ企業である物流子会社を買収することである。これまで3PLの物流企業は、物流子会社の買収を行ってきたが、それがさらに継続して活発に行われている。
 物流子会社の親会社であるメーカーは、物流子会社を売却することによって得られた資金で、本業や新たな分野での投資ができるようになる。また2024年問題に直面する物流業界において物流子会社の経営が難しくなることも、物流子会社売却の背景にあると考えられる。

 これに対して買収する3PLの物流企業は、新たな事業分野の3PLビジネスを拡大することが買収の目的であることは言うまでもない。しかし、それは物流子会社の親会社やそのグループ企業の物流を取り込むという単純なものではない。
 物流子会社の買収を通じて、それぞれの業種の物流プラットフォームを形成して3PLビジネスを拡大することが考えられる。業種ごとに物流のノウハウが異なっており、それを買収する物流子会社は蓄積している。これをベースにして、同じ業種の他のメーカーの物流を取り込んでいくことが期待できる。このような形で物流子会社の買収によって、物流プラットフォームを構築し、さらなる3PLビジネスの拡大が可能となるかが注目される。

 今回のM&Aの中には、買収する物流企業が3PLビジネスのウエイトが相対的に小さく、貨物輸送がメインで輸送力を確保しているケースがある。この場合、物流センター運営を行なう買収される物流企業に対して、新たに輸送力を強化することが可能となる。こうした形でのシナジー効果が期待されるM&Aも行われている。


トラック運賃の上昇局面
2024/7/1 更新

 トラック運賃の上昇が顕著になっている。日銀の「企業向けサービス価格指数」によれば、道路貨物輸送の運賃は、2022年の半ば頃から上昇傾向が続いていたが、直近の24年4月は前月に比べるとこれまでにないほどの大きな上昇を見せている。
 また全日本トラック協会の「トラック運送業の景況感」では、一般貨物の運賃・料金の水準に関する指数が23年以降上昇を続けており、24年1月〜3月期をみるとこれまでにない指数の上昇が見られる。この期では、今後の見通しとして運賃が「やや上昇」とする事業者の割合がさらに増加するとともに、「大幅に上昇」と答える事業者も出ている。
 さらにスポット運賃を示している求車求荷情報ネットワークのWebKITの制約運賃をみると、23年度後半は高い運賃を記録したコロナ以前の19年度に迫る勢いで上昇したが、24年3月、4月に入ると過去の高い運賃水準を明らかに上回って上昇している。トラックのスポット運賃も顕著な上昇を見せているのである。

 こうしたわが国のトラック輸送市場と対極的な動きを見せているのが、アメリカのトラック輸送市場である。アメリカでのトラック運賃は22年半ば頃から急激に下落を続けており、大きく低迷している。この運賃の下落は「貨物不況」や「トラック不況」をもたらしており、トラック運送業者の倒産や経営難を生み出している。
 トラック運賃が下落をして貨物不況をもたらした原因は、一方でコロナ感染拡大以降の異常な状況でトラック輸送需要が拡大したものの、その後景気後退によって輸送需要は大幅に落ち込んでいる。他方で輸送需要拡大の時期に個人事業者であるオーナーオペレータや中小の事業者が大挙してトラック輸送市場に参入しており、輸送の供給能力が大幅に増加した。このため縮小する輸送需要に対して過剰な供給能力が形成された。そしてトラック運賃の大幅な下落が生じている。

 こうしたアメリカの輸送市場と比較してわが国の現状を見ると、まずトラックの輸送需要は同じように低迷を続けている。「自動車輸送統計年報」によると、トラック貨物輸送量はコロナ感染が拡大した20年に大幅に減少した。その後トラック輸送量は21年にわずかながら増加したものの、続く22年、23年とさらに減少を続けている。
 他方でわが国ではアメリカのように新規参入による供給能力の拡大はもちろん生じていない。わが国の場合、むしろ供給能力の減少とそれに対する懸念が生じている。いうまでもなく、24年4月からの時間外労働規制は、ドライバーの労働時間の減少によって輸送の供給能力の削減をもたらす。
 過剰な輸送能力にあるアメリカと対照的に、供給能力の減少およびそれに対する懸念が生じ、これが運賃の上昇をもたらす重要な要因として作用している。こうしたトラック輸送の需給関係を背景として、荷主企業に対するトラック運送事業者の運賃値上げ交渉が優位に行われるようになり、運賃の上昇がもたらされているのである。


軽貨物運送事業者に対する社会的規制の強化
2024/6/1 更新

 物流の2024年問題に対応するために、物流総合効率化法(流通業務効率化法に改名)と貨物自動車運送事業法の改正が行われた。このうち、物流の2024年問題と直接関連はないが、貨物自動車運送事業法の改正において軽貨物運送事業者に対して輸送の安全性を確保する新たな規制が加えられた。
 具体的には、軽貨物運送事業者に対して運行の安全性を確保するために、営業所ごとに貨物軽自動車安全管理者を選任して、管理者講習と管理者定期講習を義務づける。一定規模以上の事故を国土交通大臣に報告することを義務付ける。そして、軽貨物運送事業者に係る事故報告、国土交通省による輸送の確保命令や行政処分等の情報を公表するというものである。

 こうした軽貨物運送事業者の安全性に関する新たな規制が加えられた背景には、軽貨物運送事業者が大幅に増加するなかで交通事故が増えていることがある。軽貨物運送事業者は国土交通省への届出だけで運送事業を始めることができる。EC(ネット通販)の拡大を背景にラストマイルの配送などに参入する事業者が増加している。軽貨物運送業者は2017年の15万8千から2023年には22万3千へと増加を続けている。
 こうしたなかで、軽貨物車の交通事故が急増している。例えば、死亡・重症事故件数をみると、2016年の199件から2022年には403件となり、この間に2倍以上に増加している。軽貨物車以外がこの間に3割弱減少しているにもかかわらず、軽貨物車の交通事故はまさに右肩上がりに増加している。

 そして、安全性を確保するための軽貨物運送事業者の取組みも充分に行われていない実態が明らかになっている。国土交通省の調査によれば、軽貨物運送事業者で酒気帯び確認を含めた点呼などの運行管理を実施していない事業者の割合が25%に達した。さらに日常点検および12ヵ月ごとの定期点検を実施していない事業者が30%を占める。また、拘束時間、休息時間等の遵守では、39%の事業者がこれらを遵守していない。
 軽貨物運送事業者は、一般のトラック運送事業者に対して輸送の安全性を確保するための規制が充分に整備されていない。安全性が損なわれる事態が拡大する中で、軽貨物運送事業者に対する安全性を確保するための社会的規制が強化されることになったのである 。

 安全性を確保するための取組みとして、これまでトラック協会の適正化実施機関によるトラック運送事業者に対する指導や監督が重要な役割を担ってきた。適正化実施機関は、安全運転管理体制の整備の指導、ドライバーの長時間労働の抑制のための指導・監督、過積載、過労運転、悪質運転などの違法行為を防止するための指導・監督を行っている。
 こうした対象は緑ナンバーのトラック運送事業者であって、黒ナンバーの軽貨物運送事業者は対象外である。安全性が損なわれている中で、軽貨物運送事業者もその対象にする必要性がでてきているが、実際に個人事業者である軽貨物運送事業者を網羅していくことは難しいと考えられる。


物流業界への大学生の就活
2024/5/1 更新

  物流業界でドライバー不足は深刻だが、労働力不足はこれに限らない。物流企業は新卒の総合職でも、採用が容易ではない状態が続いている。最近では、必要な人材を確保するために新卒の初任給を大幅に引き上げる物流企業も出ている。
 実際に大学生の物流業界に対する就職意識は薄い。かつて行われた大学生の就職先志望度調査によると、物流業界に志望する学生の割合は4.9%に過ぎない。また業界別に大学生の志望者のランクをみると、物流業界は全19業界のうち16位という低さである。
 もともと大学生は、物流および物流業界を認識して就職先と考えるようになる機会が少ない。経済学部、商学部、経営学部といった文系の学部では、専門科目として「物流論」や「ロジスティクス」などの物流に関する科目が提供されている。こうした科目を受講する学生は、物流の重要性や、物流業界、物流企業の存在について認識して興味を抱くようになる。しかし、多くの大学生はこうした機会がない。

 現在大学生の就活が真っ盛りであるが、就活は3年生の夏休みから始まっている。夏休みに企業がインターンシップを行い、この時点から大学生は興味のある企業のインターンシップに参加して企業の情報を得ている。
 そして、企業説明会を経て企業にエントリーして面接を受けるのだが、今年の特徴として早期選考が増えている。物流企業でも、早い段階で就職希望者を確保するために、面接して学生を選好する時期を早めている。
 個別的な話になるが、大学のゼミの学生は物流企業への就活を活発に行っている。ゼミでは専門分野として物流を勉強しており、学生たちは物流業界や物流企業に興味をもっている。このため物流企業にトライする学生が多い。
 また大学生を採用する物流企業側も、ゼミで専門的に物流を勉強している学生を高く評価してくれる。物流企業は他の業界の企業よりこうした学生を積極的に採用してくれる。このため、ゼミの学生は物流企業に就職する割合が高い。

 
新年度が始まった時点で、物流企業を中心に就活を繰り広げた学生は、早期選考のせいでもあるが、すでにいくつもの物流企業から内定を得ている。他業界の企業にアプローチしている学生が面接に明け暮れている中で、物流企業を希望した学生は早々と就活を終了したものもいる。
 物流企業に就職するゼミの学生は、かつては物流業界でトップクラスの大手の物流企業に就職を希望する傾向があった。これが最近では変化している。いわゆる物流子会社と呼ばれる、メーカーなどの企業名が入っている物流企業を就職先として選択する学生が多くなっている。
 人材を送り出す大学としては、学生が物流の専門分野をしっかりと勉強して優秀な能力を持つようになり、こうした学生が優れた物流企業に採用されるようになることが望ましい姿である。



新たな「標準的な運賃」と多重下請構造の是正
2024/4/1 更新



 
国土交通省はこのほど新しい「標準的な運賃」を告示した。新たな「標準的な運賃」では、これまでと比較して運賃水準を8%引き上げるとともに、荷待ちや荷役などの料金が明示されている。2024年問題にも的確に対応できるように、適正な運賃や料金が設定されている。

 この「標準的な運賃」で、新たに設定されて注目すべきものが利用運送手数料である。利用運送手数料とは下請けの際の手数料で、運賃の10%を運賃とは別に収受することが規定されている。
 通常、荷主から貨物を委託された元請け事業者は、収受した運賃から手数料を差し引いている。下請け事業者からさらに別の下請けが行われる際も、前に手数料が引かれた運賃からさらに手数料が引かれる。これがトラック運送業界の商習慣となっている。
 これに対して、「標準的な運賃」では、下請けの際に手数料を運賃と明確に区分して、運賃と別に手数料を荷主に請求する。運賃とは切り離された手数料はこれまでの慣例に従って10%に設定している。このような利用運送手数料の設定は、これまでのトラック運送業における下請けの商習慣とは異なった仕組みであり、ある意味で画期的なものである。
 利用運送手数料は、トラック運送業界における多重下請構造を改善する効果が期待されている。このことは、「標準的な運賃・標準運送約款の見直しに向けた検討会」の提言に明らかにされている。

 ドライバーの賃金の値上を可能にする適正な運賃を確保する「標準的な運賃」は、実運送事業者において獲得されるべきであって、現状の運賃から手数料を差し引くのでは、多重下請構造のなかで実運送事業者の運賃の低下が避けられない。これに対応するために、運賃とは別建てで下請けに出す際の手数料を受け取ることにした。
 この利用運送手数料が適用されて実施されるようになれば、荷主は従来支払う運賃に加えて別の手数料を支払うことになる。さらに元請けから多重の下請けが行われるのであれば、それぞれ個別に手数料が発生して、それも荷主に請求されて荷主が支払うことになる。こうしたなかで、荷主の支払う料金が増加する。このために、利用運送手数料は多重下請を改めていくインセンティブを与える。
 しかし、荷主は利用運送手数料に対して、荷待ちや荷役の料金とは異なる認識を持つのではないかと思われる。貨物輸送を委託したトラック運送業者が、下請けを使うかどうかはトラック運送業者の勝手であって、そのために料金を支払うのは納得できないと考えるだろう。

 新たな「標準的な運賃」で利用運送手数料の設定は画期的なものであり、これが実行されれば多重下請構造を改善していく効果が期待される。しかし、「標準的な運賃」はあくまで運賃交渉の参考とするもので、それ自体に強制力はない。トラック運送業者がこれをうまく活用して、独自に運賃や料金を収受できるかにかかっている。利用運送手数料に関しても、それが実際に収受できるようになるのか注目される。




低迷する宅配便と隠れ宅配
2024/3/1 更新



 2022年度に50億個に達した宅配便だが、今年度は取扱量が低迷している。宅配便はヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社で宅配便全体の95%を占めている(2022年度)。
 最近公表された第3四半期まで(2023年4月〜12月)の宅配便の取扱実績を見ると、ヤマト運輸は宅急便、宅急便コンパクト、EASYの取扱量が14億5816万個で対前年同期に比較して2.3%の減少となった。同じく佐川急便は飛脚宅配便が10億1200万個で2.4%の減少となっている。これに対して日本郵便のゆうパックは、7億6200万個で2.1%の増加である。
 このように宅配便大手上位2社で減少となり取扱量3位の事業者で増加となっているが、この大手3社の取扱量の合計を比較すると対前年同期に対して2.3%の減少となる。
 ヤマト運輸では今年度通期の見通しとして取扱量が1.8%減少すると予想しており、同じく佐川急便は4%の減少を見込んでいる。まだ第4四半期を残しているが、このままいけば2023年度の宅配便全体の取扱量がマイナスに転じる可能性が高い。

 宅配便はこれまで基本的に右肩上がりで取扱量を拡大してきた。この拡大基調の中で対前年度の減少が生じたのが、リーマンショックによる世界同時不況に影響された2008年度と2009年度、そして消費税の値上が行われた2014年度である。基本的に拡大を続けてきた宅配便にとって久しぶりの減少となることが考えられる。
 最近ではコロナ感染拡大に伴う巣ごもり需要によるネット通販の急増を受けて、宅配便は2020年度に対前年度11.9%と大幅な増加となった。まさにコロナ特需と呼ばれるような状態が生じたが、その後宅配便の増加率は低下して2021年度に2.4%、2022年度1.1%とわずかな伸びとなっている。そして2023年度はこれがマイナスに転じる可能性が高い。
 宅配便の取扱量が減少している要因の一つとして考えられるのが、ネット通販の売上が伸びずネット通販貨物の輸送需要が低迷していることである。2020年度の宅配便の急増はネット通販の大幅な売上の拡大によってもたらされたが、これと逆の事態が生じている。

 この宅配便の取扱量の減少に関連して、気になるのが「隠れ宅配」の存在である。隠れ宅配とは宅配便以外で運ばれるネット通販の貨物であり、アマゾンなどは宅配便以外にも多様な輸送主体に自社のネット通販貨物を運ばせている。例えばアマゾンは2021年に年間7億個を超えるネット通販貨物を出荷したが、その半数の約3億5千万個が宅配便以外の配送によるものだといわれている。これらが隠れ宅配となる。
 この隠れ宅配に関しては、国土交通省に届けられる宅配便のようなデータはなく、その正確な取扱量を把握することができない。これまでネット通販の売上の伸び率と宅配便の取扱量の伸び率との間に格差が広がっていることから、隠れ宅配が増加していることが指摘されている。

 こうした隠れ宅配の動向に関して、アマゾンがネット通販貨物の輸送を委託しているデリバリープロバイダの実績が注目される。丸和運輸機関では第3四半期までのラストワンマイル事業の売上高が対前年同期に比べて6.5%増加した。同じくファイズではラストワンマイル配送を含むトランスポートサービス部門の売上高が対前年同期の17.5%増となっている。ごく一部のデータであるが、隠れ宅配便の取扱量が増加していることがうかがえる。
 このように極めて限定的で間接的な形でしか隠れ宅配の動向を把握することができないが、これまでの隠れ宅配の増加を見ると、宅配便の取扱量の減少の背後にネット通販の貨物の輸送において宅配便から隠れ宅配へのシフトが進んでいることが考えられる。




環境に優しい物流と2024年問題に対応した取組み
2024/2/1 更新

 令和5年度の「グリーン物流パートナーシップ優良事業者表彰」が発表されたが、このなかで国土交通大臣表彰を受賞した物流企業と荷主企業との取組みは、環境に優しい物流の枠を超えて高く評価することができる。
 この取組みには、物流企業として鈴与、アサヒロジ、ダイオーロジスティクス、荷主企業としてユニリーバ―ジャパン、PALTAC、ライオンなど異業種の荷主企業が参加している。関西―静岡、四国・関西−関東、北海道−関東の3つのルートでトラック輸送の効率化が行われた。

 3つのルートでパターンは異なっているが、特徴的な点として、異なる荷主企業の貨物を相互に運ぶ共同輸送が行われ、そこで物流企業の連携による中継輸送が繰り広げられている。
 さらに中継輸送ではトレーラーを運行しているが、このトレーラーは従来のものとは異なり、シャーシが14メートルの大型トレーラーが導入されている。これによって貨物の積載量を増やすことができた。
 また荷役の効率化を図るためにバラ済みからパレットの積載が行われた。そしてパレットによる積載率の低下を防ぐために、貨物の包装設計の見直しを行ってパレットへの積載の効率を高めている。
 複数の荷主企業が参加しているが、これらの貨物をいかに組み合わせて運ぶことが重要となる。このためにマッチングシステムを導入して、貨物の効率的な組み合わせができるようにしている。

 こうした要素を取り入れた輸送の仕組みによって、環境負荷の低減では、従来の輸送に比べてCO2の排出量を38.6%削減している。また輸送の効率化の側面をみると、輸送するトラック台数を年間で411台削減することができて、トラックの削減率が41.7%に達した。
 国土交通大臣賞を受賞したこの取組みにおいて、環境負荷を低減することが重要となるが、それ以上に注目すべき点は、複数の要素を積極的に取り入れて、ドライバーの負担を軽減し、輸送の生産性をあげて輸送の効率化が行われたことである。

 重要な要素として、異業種間の共同輸送、ドライバー負担を軽減する異なる企業間での中継輸送、大型車の導入、パレット荷役の実施、物流DXを活用したマッチングシステムの導入である。国土交通大臣賞を受賞した取組みは、これらの要素を有機的に組み合わせたトラック輸送の仕組みを構築している。
 これらの要素は、2024年問題として懸念されている貨物が運べなくなる事態に対して必要なものである。2024年問題における輸送能力削減に対する対応策として、こうした要素を取り入れた取組みが必要不可欠となる。



貨物不況に直面するアメリカのトラック運送業
2024/1/1 更新

 アメリカのトラック運送業は深刻な「貨物不況」(freight recession)に直面している。貨物不況を端的に示すのが、大手トラック運送業者のイエロー(Yellow)の経営破綻である。イエローは日本でいう特積み事業者であり、従業員3万人、保有車両1万5千台を有する大規模な物流業者だが、今年の8月に倒産した。
 その他に新たなタイプの物流業者でマッチングサービスを提供するデジタル貨物ブローカーのコンボイ(Convoy)が、経営難に直面して10月に事業を停止した。これも貨物不況の象徴的な出来事である。

 貨物不況の背景には貨物輸送需要の減少がある。新型コロナウイルス感染拡大のパンデミックが収束して、景気の後退に伴い貨物輸送需要は減少した。運ぶ貨物量が減少するとともに、運賃も低下していった。このためトラック運送業者の収入は減少した。
 こうした中で石油価格の高騰により燃油価格は上昇し運行コストは増加した。さらにドライバー不足が依然として続いており、高いドライバーの賃金が人件費の増加をもたらした。こうしたコスト増加がトラック運送業者の経営を大きく圧迫している。
 さらに注目すべきことは、トラック輸送市場でトラック輸送の供給能力が大幅に増加したことである。新型コロナウイルス感染拡大でパンデミックが発生するなかで、トラック輸送需要は拡大した。これに伴いトラック運賃も上昇してトラック運送業界に活況がもたらされた。こうした状況でトラック輸送市場に新規参入が増加したのである。

 輸送需要が拡大して運賃が上昇した2020年半ばから2022年半ばまでの間に、トラック運送業者の認可数は大幅に増加した。2021年1月で認可されているトラック運送業者数は25万5千であったが、これが直近の2023年11月には36万3千に増加している。これらの新規参入者は、個人事業者であるオーナーオペレーターや小規模零細事業者が多くを占めている。
 そしてパンデミックが収束して景気後退が生じ貨物輸送需要が減少すると、輸送市場は供給過剰になっていった。貨物不況のなかでトラック運送業者は事業の縮小のためにドライバーのレイオフを余儀なくされている。さらにトラック運送業者の輸送市場からの撤退が増加している。2023年9月末までに3万5千のトラック運送業者が事業を停止し市場から撤退したといわれている。
 それにもかかわらず、減少した輸送需要に供給能力の削減が十分ではなく、依然として供給能力の過剰な状態にあり貨物不況が継続していると考えられている。

 アメリカのトラック輸送市場は日本と大きく異なっており、流動的な動きがより顕著になっている。貨物輸送市場が拡大すると新規参入者が増加し、これに対して貨物輸送市場が縮小すると逆に市場からの撤退が行われる。こうしてアメリカでは貨物輸送市場のダイナミックなサイクルが繰り広げられている。



軽貨物運送業者の倒産と「宅配クライシス」の可能性
2023/12/1 更新

 最近トラック運送業者の倒産が増加しているが、とりわけ注目されているのが軽貨物運送業者の倒産である。帝国データバンクによれば、2023年1〜10月までの軽貨物運送業者の倒産が35件発生し、すでに22年通年の22件を上回り過去最高となっているという。
 この情報はネット上のメディアでも多く取り上げられ、大手新聞のサイトでもこのニュースが掲載されている。軽貨物運送業者の倒産の増加が宅配サービスの提供ができなくなる「宅配クライシス」に結び付く可能性を指摘しており、これが大きくアピールされている。
 こうした軽貨物運送業者の倒産の増加は、現状のラストマイル物流の輸送市場における問題を端的に象徴している。

 ネット通販の増加によってラストマイル物流の輸送市場は拡大している。これに呼応するように軽貨物運送業者が大幅に増加してきた。軽貨物運送業者の事業者数は2022年に20万9250に達し、特にコロナ禍において急増した。こうした軽貨物運送業者が大挙して市場参入を果たし、ラストマイル物流の輸送を支えている。
 ラストマイル物流において問題となっているのが多重下請構造である。ネット通販事業者からネット通販貨物の委託を受けるが、それが2次下請、3次下請と次々に下請けにまわされる。最終的に軽貨物運送の会社が引き受けるものの、そこでさらに個人事業者の軽貨物運送業者に委託される。こうした多重下請のもとで実運送の軽貨物運送業者は、実質的に低い運賃で運ばざるをえない。結果的に低収益となり、軽貨物運送業者は収益において不安定な状態に置かれている。

 さらに軽貨物運送業者の長時間労働も大きな問題である。一日に運ぶ貨物の量が増えたり、さらに再配達に対応したりして、軽貨物運送業者は長時間労働を強いられている。改善基準告示に抵触する長時間労働も行われている。こうした長時間労働による過重労働にもかかわらず、低い運賃で低収益となっており、輸送に携わる軽貨物運送業者は大きな負担を強いられている。
 このようにラストマイル物流の輸送市場において軽貨物運送業者は、多重下請構造における低収益や長時間労働といった問題に直面している。これらは一般のトラック輸送と共通した問題といえるが、ラストマイル物流の輸送では、個人事業者に対する労働時間規制などの対応が異なっているなど、これらの問題がより鮮明に深刻に発生しているともいえる。

 これまで拡大してきたラストマイル物流を支える形で軽貨物運送業者がこの輸送市場に参入してきた。2024年問題が生じる中で、これからも拡大する輸送市場に対応して軽貨物運送業者が増加していくのか危惧されることになる。こうした状況の中で「宅配クライシス」が発生する可能性もでてくる。



アマゾンのラストマイル物流戦略
2023/11/1 更新

 アマゾンはこれまでラストマイル物流に大きな力を注いできた。ネット通販事業者にとって購入者に商品を届けるラストマイルの配送が極めて重要であることはいうまでもない。従来宅配便によって担われていたが、宅配クライシスを契機にアマゾンは脱宅配便を目指して、独自のラストマイルの配送の仕組みを構築してきた。
 宅配クライシス以降に始められた中心的な取組みが、宅配便以外にデリバリープロバイダと呼ばれる中小の運送業者にネット通販貨物の配送を委託するものである。さらにアマゾンが個人事業主の軽貨物運送業者に直接委託するアマゾン・フレックスにも取り組んできた。
 最近では、商店街の中小店舗のオーナーなどにアマゾンの貨物を配達してもらうAmazon Hubデリバリー・パートナー・プログラムを始めた。さらに小規模な運送業者を起業させてアマゾン専属でネット通販貨物の配送を委託するデリバリー・サービス・パートナーも開始している。

 これほど多様な取組みが必要なのかと思えるが、注目されるのは一番新しいデリバリー・サービス・パートナーである。じつはこのデリバリー・サービス・パートナーは、アマゾンの本家本元のアメリカでは脱宅配便のための主要な取組みとなっている。
 アメリカでは配送車両40台、従業員100人程度の小規模な運送業者を起業させる。それ自体は独立した運送業者であるが、アマゾンのロゴが入った配送車両でアマゾンの制服を着たドライバーがアマゾンの貨物を専用に配送する。コンビニエンスストアと同じようなフランチャイズ的な方式を採用しており、フランチャイザーがアマゾンでフランチャイジーが起業した運送業者となる。
 このデリバリー・サービス・パートナーがとてつもない規模となっている。2021年の時点でアメリカ国内のデリバリー・サービス・パートナーの運送業者は2,000社を超え、そのドライバーが11万5,000人に達するという。

 ラストマイル物流を展開するのがアマゾンロジスティクスであるが、このデリバリー・サービス・パートナーと、日本と異なって個人の一般のドライバーを動員するアマゾン・フレックスの2つの取組みで、2022年には日本全体の宅配便取扱量にほぼ匹敵する48億個ものネット通販貨物を配送している。
 アメリカだけでなくネット通販ビジネスを展開している他の国々でもデリバリー・サービス・パートナーを拡大している。アメリカを含む世界の19の国々で運送業者が3,500社に達し、雇用するドライバーは27万9,000人になる。まさに巨大な規模のデリバリー・サービス・パートナーが、世界のアマゾンのラストマイル物流を担っている。
 こう見るとなぜわが国でこれまでデリバリー・サービス・パートナーが導入されてこなかったのか不思議にも思えてくる。この小規模運送業者を起業させる方式がはたして日本で定着するのか、そしてアマゾン・サービス・パートナーがこれからも拡大を続けるであろうアマゾンのネット通販貨物の重要な担い手となっていくのか注目される。



物流の2024年問題と労働生産性を高める取組みの必要性
2023/10/1 更新

 2024年4月から時間外労働の上限を年間960時間とする規制が行われるが、この規制に対応して物流業者は労働生産性を上げていくことが重要となる。規制によってドライバーの労働時間が削減されることになれば、削減された労働量でも運ぶ貨物を維持したり増やしたりできるように、より効率的な輸送を行うことが必要となる。これは物的労働生産性を高めていくことである。

 こうした労働生産性を高めるために必要となる具体的な方策として、ドライバーの運転以外の労働時間を削減して運行効率を高めることにつながる荷待、荷役時間の短縮、ドライバーの負担を軽減して効率的な長距離輸送を可能にする中継輸送の実施、一度により多くの貨物を運ぶことができるダブル連結トラックなど大型車両の導入、積載率を高めて効率的な輸送を可能にする共同輸送の実施などがある。
 それぞれの取組みを行っていく必要があるが、最近では大手の物流業者によって労働生産性を上げるこれらの要素を複数取り入れたトラック輸送が行われている。長距離トラック輸送の主要なルートで中継ポイントを設置して中継輸送を実施している。このなかで今までと異なる大型の車両を導入して一度により多くの貨物を運ぶことができるようにしている。さらには複数の荷主の貨物を束ねて同じ車両に積み込む共同輸送も行っており、トラックの積載率を高めている。

 このような大手物流業者による取組みは、労働生産性を高めるために必要な中継輸送、大型車両の導入、共同輸送といった重要な要素を取り入れたものとなっている。物流業者が必要とする2024年問題に対応した輸送システムとしても注目すべき取組みとなっている。
大手物流業者ではこのように複数の労働生産性を高める要素を取り入れた取組みが行われているが、それぞれ個別の労働生産性を高める取組みは中小の物流業者にとって実際に実施するのは簡単ではない。

 広範囲な輸送ネットワークを持つ大手の物流業者は中継輸送が可能だが、中小の物流業者は運行に適合するパートナーを探すことが容易ではないし、中継ポイントを設置するのも難しい。また共同配送を行うにも中小の物流業者が複数の荷主企業の貨物を束ねるのは容易ではない。さらに大型車両の導入においても新たな設備投資が負担となる。
 労働生産性を高める取組みは大手物流業者にとっては比較的容易に対応できるが、中小の物流業者にとってはハードルが高いものとなる。しかし中小の物流業者においても課題をクリアして労働生産性を高める取組みを積極的に行っていくことが必要である。



多重下請構造の改善に向けた新たな規制
2023/9/1 更新

 多重下請の問題を是正するために新たな規制が行われる。
 荷主から委託を受けた貨物は、元請から2次下請、3次下請、さらに4次下請へと次々に下請に出され、多重下請が広範囲に行われている。下請を経るごとに手数料が引かれて、実運送のトラック運送業者は低い運賃で運ばざるをえない。このため多重下請は低運賃をもたらす大きな要因となっている。
 持続可能な物流を維持していくためには、トラック運送業者が適正な運賃を得てドライバーの賃金を上昇させていくことが必要である。このため低運賃をもたらす多重下請の問題を改善することが重要となる。

 政府が導入しようとしている規制が、運送体制台帳(下請業者のリスト)の作成の義務化であり、契約締結時の契約内容の電子・書面交付を義務づけるものである。この運送体制台帳は元請業者が作成するもので、記載事項として下請運送業者名、運送業務や運賃・料金などの契約内容、社会保険等の加入状況等が考えられている。
 下請業者は当然ながら最終的に実運送をする業者まで含まれる。運送体制台帳を作成する元請業者は、みずから委託した下請業者が下請を行った場合、そしてその下請業者がさらに下請に出した場合にも、その情報を正確に把握して台帳に記載することになる。

 こうした運送体制台帳を作成することによって、ブラックボックスであった多重下請の過程と業務内容が「見える化」される。貨物を委託した荷主からの要請があればその内容が提示される。これによって元請の責任として、下請の業者が把握されて適切な運送条件で運送が行われているのか、さらには適正な取引が行われているのかが明らかになる。
 今回の運送体制台帳は、同じく下請構造の問題を抱えている建設業界で行われている建設施工台帳を参考にしたものである。下請の情報を元請の責任で明確に提示するようにして、結果的に下請において適正な取引が行われるようになることが期待されるものである。多重下請の問題に対応する新たな規制としては、比較的マイルドなものとなっている。

 ちなみにアメリカでは、政府によって下請に対する強力な規制が行われている。Map21という法律によって政府の許可を得たブローカーだけが仲介業務を許されており、一般のトラック運送業者は他の業者に貨物を仲介することを禁止されている。トラック運送業者がこれを行えば多額の罰金が課せられる。これはトラック運送業者による下請を禁止する強力な規制となっている。
 こうしたアメリカでも仲介した貨物を再び仲介するダブル・ブロカーレジー(二重仲介)が行われている。法律でトラック運送業者による下請が明確に禁止されていても、下請が行われている実態が存在している。



ドライバーの長時間労働を是正する政府の新たな物流政策
2023/8/1 更新

 ドライバーの長時間労働は、荷待ち、荷役、付帯作業などによってドライバーが拘束されていることが大きな原因となっている。したがって、ドライバーの長時間労働を是正していくためには、こうした拘束時間を削減することが必要となる。
 長時間労働の改善の対象は明確だが、実際に改善を実現することは容易ではない。トラック運送業者は荷主企業と交渉し改善を求めていかなければならない。これらの長時間労働は荷主企業の物流現場で発生しており、これを是正していくためには荷主企業は自らの物流の仕組みを変えていく必要がある。このため容易に対応してくれない。ましてや着荷主にいたっては、さらに対応を求めることが困難である。このため物流危機が叫ばれて以降、さらに2024年問題が懸念されるようになっても、これらの課題を改善する取組みは大きく進展してこなかった。

 こうした中で、政府は「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を明らかにして、こうしたドライバーの長時間労働を是正するために荷主に対する新たな取組みを求めている。
 このガイドラインでは、荷主が実施することが必要な事項を明確にしている。発荷主だけでなく着荷主も含めて荷待ち時間・荷役作業などの時間を把握して、これらの時間を2時間以内とすることが示されている。そして、すでに2時間以内であった場合には、目標時間を1時間以内と設定することも明らかにされている。このように発荷主および着荷主に対して荷待ち・荷役作業等の時間の2時間ルールを打ち出している。
 さらにこうしたことを実現するために荷主の組織内に物流管理統括者(役員等)を設けることを求めている。また物流業者から荷待ち時間や荷役などの合理化の要請があった場合は協議に応じることが必要だとしている。

 
これまでドライバーの長時間労働を是正するための政府の政策としては、トラック運送業者と荷主が連携して長時間労働を抑制するためのパイロット事業を行い、それを踏まえてガイドラインを作成しトラック運送業者の取組みを促すようにしてきた。さらにはホワイト物流において、荷主がドライバー負担の軽減を行なう取組みを自主的に宣言するようにして、長時間労働の是正を促す運動を繰り広げてきた。
 こうした中で長時間労働是正のための新たな物流政策として、荷主に対してより踏み込んだ問題改善に向けた具体的な取組みを促すガイドラインが提示されたのである。荷主が取組むべき内容は今までにない厳しいものだが、実現が望まれる的確なものである。そしてガイドラインで示された取組みを荷主が実施するようになるためには、実効力を伴う新たな規制が必要となる。



女性ドライバーが増加するアメリカ
2023/7/1 更新

 わが国ではドライバー不足が続いている中で女性ドライバーは大きく増えていない。労働力調査によれば2021年にトラック運送業の女性ドライバーは3万人程度で、ドライバーが86万人いるなかで女性の比率は3.5%に過ぎない。国土交通省によってトラガールが推進されてきたが、深刻なドライバー不足を補うような女性ドライバーの増加は見られない。
 これに対して同じように深刻なドライバー不足に悩むアメリカでは、女性ドライバーが増加している。労働統計局のデータによれば、女性ドライバーの比率は、新型コロナウイルス感染拡大のパンデミックを経て大きく増加した。女性ドライバーの比率は、2019年に6.7%であったが、2020年には7.8%に一気に増加して、2022年には8.1%に達している。
 また大型トラックやトラクター・トレーラーを運転できるクラスAの商用運転免許(CDL)を取得している女性の比率は、2022年には13.7%に達している。大型トラックやトラックー・トレーラーによる長距離輸送を行うドライバーになるために、女性が必要な運転免許を積極的に取得している。

 コロナ感染拡大が始まった2020年以降全米がパンデミックを経験する中で、サービス業界や医療現場、さらに教育現場で働いていた女性たちが、トラック運送業界に職を求めてドライバーになったといわれている。
 女性ドライバーが増えている最大の要因はドライバーの所得の高さにある。深刻な労働力不足に見舞われたアメリカでは、ドライバーの賃金が上昇した。同じく労働統計局のデータによれば、2021年の大型トラックやトラクター・トレーラーを運転するドライバーの年間賃金は、中央値が4万8310ドル(日本円で約628万円)であった。ドライバーの賃金はばらつきが大きく、上位10%の層の年間賃金は7万2,730ドル(約945万円)以上で、かなり高額な賃金を得ることもできる。
 トラック運送業では男女の賃金格差が少なく女性にとって魅力的である。また学位がなくても高い所得を得ることができる職業がリストアップされているが、その一つとしてトラックドライバーがある。女性ドライバーが増加していくためには、賃金水準を上げていくことが必要であることは明らかである。

 それにしてもトラック運送業は女性が働く職場としてハードルが高いことも事実である。いったん運転業務が始まれば数週間にわたって運転を続ける過酷な労働が繰り広げられる。また長距離輸送ではトラックの休憩施設が重要となるが、そこで女性用のトイレやシャワーなどが充分に確保されておらず、さらに身体的な安全が脅かされる危険性がある。
 あるアンケート調査に答えた女性ドライバーのほとんどが、仕事に従事しているときは必ず催涙スプレーとナイフを携帯していると答えている。長距離輸送に従事する女性ドライバーの置かれている過酷な状況が端的に示されている。



明らかにされた多重下請けの実態
2023/6/1 更新


 トラック運送業における大きな問題の一つが多重下請けである。この多重下請けの実態を明らかにする調査が最近行われた。「持続可能な物流の実現に向けた検討会」で示された「トラック輸送における多重下請構造についての実態把握調査」である。
 
 この調査に回答したのは4401事業者と多い。このうち元請からの運送を専業とする事業者が全体の13%を占めている。独自に荷主を持たずもっぱら下請けで運送業務を行う事業者が、全体の1割以上もいる。さらに下請けの運送と真荷主から運送の両方を行っている事業者が全体の65%であった。事業者の8割弱が下請けの運送業務を行っており、事業者の間で広範囲に下請けが行われていることが改めて明らかにされた。
 また他のトラック事業者から運送の依頼を受けていると答えた事業者が全体の78%を占めていたが、このうちさらに他の事業者に委託している事業者が49%に及ぶ。つまり、下請けで受けたものを、さらに下請けに回している事業者が半数に及ぶ。いわゆる孫請けないし3次下請け、さらには4次下請けと、運送業務を単純に下に流していることが広範囲に行われていることも明らかにされた。

 下請けの問題点の一つは、この下請けで受けたものをさらに下請けに回してしまうことである。2次下請けから3次下請け、4次下請けと下がっていき、その間に手数料が引かれて、このために実運送の事業者は低い運賃で運ばざるを得ない。そして実際にだれが運んだのか見えなくなってしまう。
 下請けに回す理由として、需給の変動が激しく突発的な貨物輸送の変動に対応できないことや、ドライバー不足のために自社で運べないといった理由などがある。しかし、現実的に下請けを受ける立場で輸送できない状態にあるのなら、下請けを引き受けなければよい。しかし実際は下請けで受けたものをさらに容易に下請けに回しており、これは手数料収入を得るために行われていることになる。こうした連続が多重下請けとなり、これが大きな問題をもたらしている。

 これまで全日本トラック協会の多層化取引に係る取引適正化の取組みでは、適正取引確保や安全義務の観点から、下請けを原則として2次下請けまでに制限することが必要だとされた。これは元請け責任で直接下請けが実運送を行うようにして、3次下請けを禁止することになる。また実際に荷主企業でも、元請け業者に2次下請けまでと明確に指示している場合もある。
 しかし実際に多くは下請けが次々に降りていくことを止めることができず、下請けが多重化しているのが実態である。元請けやさらに荷主企業が、それぞれの立場からこうした流れを抑制することは容易ではない。



ドライバー不足の進展と働きやすい職場認証制度の活用
2023/5/1 更新


 最近ドライバー不足が再び悪化する傾向にある。厚生労働省が発表している自動車運転者の有効求人倍率をみると、コロナ感染拡大が始まった2020年以降、それまで3倍を超えていたものが2倍程度に減少していた。しかし、2022年の半ば以降から上昇を続けており、直近の2023年2月では2.57に増加している。
 また全日本トラック協会の「トラック運送業界の景況感」をみると、直近の2022年10月−12月の運転者の雇用動向で労働力の不足感は、「不足」、「やや不足」の割合が増加している。ここでも、トラック運送業者のドライバー不足の状態を示す指数は、上昇傾向を続けている。

 トラック運送業のドライバー不足は、コロナ感染拡大が始まって貨物輸送量が減少する中で、それ以前と比べて緩和されてきた。しかし、最近ではドライバー不足が再び悪化する傾向が明らかになっている。
 2024年4月から時間外労働の上限規制が開始されるなかで、トラック運送業におけるドライバー不足がさらに深刻化することが予想されている。物流危機をもたらしたドライバー不足が、これからさらに悪化することが予想されるなかで、トラック運送業者は不足するドライバーをいかに集めるのかがますます重要になる。

 こうしたなかで、ドライバーを雇用するうえで重要な役割を担う一つとして、「働きやすい職場認証制度」がある。これは働く労働者に優しいホワイト経営に取り組む事業者を認証する制度である。職場の労働条件や待遇、安全・衛生管理など、事業者の労働環境を評価して事業者に認証を与えるものである。
 この認証を受けることにより、事業者は求職者に対して安心して働くことのできる職場であることを広く知らしめることができる。このため事業者の人材確保の取組みを支援することができる。
 認証は働きやすい職場のグレードに応じて、一つ星、二つ星、三つ星に分かれている。これまで1つ星の認証が行われてきたが、トラック事業者の認証取得は2022年2月の時点で2440社におよぶ。一つ星に続いて二つ星の募集が行われてきたが、今年度には最上級のグレードの三つ星の募集も始められる。より高いグレードの星を獲得することによって、求職者の信頼を高めることができる。
 またこの認証取得にいくつかのインセンティブが用意されている。新たに、二つ星、三つ星の認証事業者のうち、対面での審査を行った事業者は長期間監査を実施しなかったことによる監査の対象から除外できる規定を整備することが示されている。

 最近、街で走行するトラックの後部に、安全性優良事業所のGマークのステッカーとともに、働きやすい職場認証制度の認証マークのステッカーが貼られているのを見かけるようになった。



輸送の安全性を脅かす軽貨物車の交通事故の増加
2023/4/1 更新


 輸送の安全性を確保するために、トラック運送業者に対する政府の規制が行われている。いわゆる社会的規制と呼ばれるものだが、典型的なものとして輸送の安全性を脅かす交通事故に対して、その原因となる過積載や過労運転を防ぐためにさまざまな規制が行われている。

 こうしたなかで、トラックの交通事故の発生をみると、明らかに大きな変化がみられる。トラック運送業の事業用の大型、中型・準中・普通の車両が引き起こした交通事故は明らかに減少傾向にある。これに対して、事業用貨物車の軽貨物車の交通事故件数は大きく増加している。
 警察庁の「交通事故統計」によると、昨年2022年の軽貨物車の交通事故件数は5011件で、対前年比8.6%増となっている。軽貨物車の交通事故はこれまで増加を続けており、2012年を100とした指数でみると2022年は124に達する。
 ちなみに、この指数は大型車貨物車で55、中型・準中・普通貨物車で44となっている。軽貨物車以外で交通事故が大幅に減少しているのに対して、これとは対照的に軽貨物車の交通事故は著しく増加している。

 こうした軽貨物車の交通事故の増加は、ネット通販のラストマイル物流の拡大と大きく関係している。ネット通販は継続的に拡大しており、このためネット通販のラストマイル物流に軽貨物運送業者が大量に動員されている。
 このラストマイル物流の配送においては、個人事業者の軽貨物運送業者によって低い収入で長時間労働が一般的に行われている。まさに軽貨物運送業者による過労運転が広く行われているのである。こうした状態が、軽貨物車の交通事故の増加の要因として強く作用している。
 かつて一般の貨物運送業において、過労運転が原因で大型トラックによる重大な交通事故が増加して大きな問題となった。これに対して現代では、成長するラストマイル物流の貨物輸送の分野で、軽貨物運送業者による長時間労働の過労運転が大きな要因となって、これに関連した交通事故が増加している。

 こうした事態を受けて国土交通省は「軽貨物自動車運送事業適正化協議会」を設置して、安全対策や過労運転防止の対策の検討を開始している。輸送の安全性が毀損される問題の顕在化を受けて、政府による輸送の安全性を確保するための新たな対策が必要となっている。
 長時間労働による過労運転に関しては、個人事業者の軽貨物運送業者も960時間の時間外労働規制の対象となり、さらに改正される改善基準告示においても対象となることが明らかにされている。このために、個人の軽貨物運送業者も過労運転を防ぐ最低限の規制の網が課せられることになる。過労運転を防ぐのに必要な施策の一つとして、軽貨物運送業者を対象として過労運転を行っていないか監視してチェックする体制を構築していくことも重要となる。



価格転嫁とトラック運賃の上昇
2023/3/1 更新

 トラック運送業において運賃の値上げが求められているが、運賃を上昇させることが容易ではない状態が続いている。

 帝国データバンクの「価格転嫁に関する実態調査」(2022年12月)によれば、「多少なりとも価格転嫁ができている」と答えた企業は調査対象全体で69.2%を占めているが、運輸・倉庫ではその割合が20.0%に過ぎなかった。原油価格の高騰で燃料費の上昇に直面して運賃の値上げが必要だが、こうした価格転嫁ができている事業者は他業種に比べてかなり少ない。
 また公正取引委員会は、昨年に下請け企業との間の価格転嫁について調査をしている。この調査で下請け企業などの間でコスト増加を取引価格に反映する協議をしなかった企業の割合は、調査対象の19業種平均で13.8%であったが、運送業で32.8%と格段に多かった。さらに公正取引委員会は、価格交渉の場で価格交渉の必要性を協議しない企業13社の社名を公表したが、このうちトラック運送業者が5社含まれていた。
 いずれにせよトラック運送業では、対荷主との運賃交渉において荷主の力が強く運賃の値上げが難しいだけでなく、下請け構造の中で元請けが下請けの運賃の値上げをたやすく受け入れず、運賃の値上げが容易ではない状態が続いている。

 日銀の「企業向けサービス価格指数」でトラック運賃の動向をみると、道路貨物輸送の運賃は2017年半ばから顕著に上昇を続けたが、2019年末にはこうした運賃の上昇がストップしている。そして2020年以降のコロナ禍において、運賃はわずかながら上昇しているものの、基本的に横ばいに推移して低迷した状態が続いている。トラック運賃の動向に関しては、現状においては2017年から2019年までの状態とは大きく異なり、容易に上昇しにくい状態が続いている。
 注目すべきは2017年以降の運賃の上昇が生じた過程である。この年に宅配クライシスが発生し、宅配便サービスの供給が制限されるなかで、宅配便事業者は運賃の値上げを実現した。こうした宅配便の運賃の値上げが先駆的に行われて、ドライバー不足が深刻化し貨物輸送需要が増加して需給がひっ迫する中で、それ以外のトラック運賃も上昇が始まっている。
 大手宅配便事業者は4月から宅配便運賃の改定を行うことを明らかにしている。これまでの運賃上昇のプロセスに見られるように、この宅配便の運賃値上げが先導的な役割を持って、全般的なトラック運賃の値上げに結び付くことが期待されるかもしれない。

 運賃の上昇をより全体的な視点からみると、基本的にトラック輸送の需給の状況が大きく影響している。これからコロナが沈静化して景気回復が進み貨物輸送需要が拡大し、他方で2024年問題を受けてドライバー不足がより深刻化し、トラック輸送の需給がひっ迫するようになれば、トラック運賃の上昇がもたらされることになる。



3PLビジネスの拡大と「隠れ3PL」
2023/2/1 更新

 3PL(サードパーティ・ロジスティクス)のビジネスが拡大している。Logi-bizの発表したデータによれば、2021年度のわが国の3PL市場規模は4兆5500億円に達した。これまで右肩上がりで増加してきたが、コロナ禍でさらに一段と3PLの市場規模が拡大している。

 SBSホールディングスは、ネット通販の成長に伴ってEC物流の3PLビジネスを積極的に拡大している。ネット通販事業者向けに物流センターを建設して、物流センター業務を拡大するとともに、ラストマイルの配送も行う。成長するEC物流のプラットフォームを構築する形で、3PLビジネスのさらなる拡大を目指している。
 このように、3PLビジネスにとって一つの重要な対象領域が、ネット通販の成長で拡大するEC物流である。EC物流は3PL市場の拡大が見込まれる分野であって、3PLビジネスを繰り広げている物流業者は、この分野の市場拡大に向けて積極的な取組みを行っている。
 そして3PLビジネスの物流業者は事業展開を進化させている。3PLにとって重要なのが物流センター業務であり、労働力不足や作業効率の高度化が重要な課題となっている。これに対応して物流センターに物流ロボットや物流自動化機器を積極的に導入している。まさに物流DXを進めており、3PLビジネスにおける競争力の強化をはかっている。

 EC物流で3PLビジネスが繰り広げられているが、この分野で「隠れ3PL」が存在している。その典型がアマゾンである。アマゾンはFBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)で、自社のフルフィルメント・センター(物流センター)で他のネット通販事業者の商品を保管して出荷する業務を行っている。このアマゾンのFBAは、EC物流における3PLビジネスそのものである。
 アマゾンはネット通販のEC貨物を年間7億個出荷しているといわれている。わが国の年間の宅配便の取扱量48億個の15%に相当する巨大な規模の貨物量となる。これはアマゾン自身が販売する自社のネット通販のEC貨物と、FBAによる他のネット通販事業者のEC貨物からなる。後者がどの程度の比率を占めるかは不明であるが、FBAのEC貨物はかなりの数量に及ぶと考えられる。こうして、アマゾンは自社の物流システムを活用して、3PLと同じ物流ビジネスを大規模に展開している。

 アメリカのアマゾンも日本と同じ仕組みで、FBAによって大規模な3PLビジネスを繰り広げている。3PLビジネスが発達しているアメリカにおいて、最大の3PL事業者はなんとこのアマゾンとなっている。さらにアマゾンは、FBAとは別にEC物流にこだわらないAmazon Supply Chainという3PL専用のサービスを最近立ち上げており、3PLビジネスをさらに拡大しようとしている。
 こうしたアメリカの動きをみると日本においても近い将来アマゾンが隠れ3PLから3PL市場へ参入をはかり、やがて3PLビジネスの重要な競争相手になる可能性も考えられる。



ラストマイル物流の新たな展開
2023/1/1 更新

 現在急激に成長しているのがラストマイル物流(last mile logistics)である。わが国だけでなくアメリカなどにおいても同じ状況にある。これはネット通販で販売された商品を消費者に届けるラストマイルの過程における物流で、コロナ感染拡大でネット通販が大幅に増加してきたなかで一段と重要性を増している。
 ラストマイル物流を基本的に担うのは、従来からの大手宅配便事業者が提供する宅配便と、宅配便以外のネット通販事業者がコントロールする配送がある。アマゾンは宅配クライシスの発生以降宅配便への依存から脱却するために、みずからコントロールする配送を拡大してきた。アマゾンはラストマイル物流の重要性を充分に認識して主体的に取組んできた。


 こうしたなかで、アマゾンは新たな配送のプログラムを開始する。「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」と呼ばれるもので、ラストマイルの配送を地域の中小企業や個人商店主に依頼して消費者に届けてもらう。新たな配送の担い手は、およそ半径2キロ圏内において自転車や徒歩で配達し、1日に平均30〜50個の貨物の配送が想定されている。
 アマゾンはデリバリーステーションなどからこうした中小企業や個人商店主などにまとめて貨物を輸送する。その後にこれらの新たな担い手によって最終的に各家庭への配送が行われる。まさにファイナルマイルの物流が行われる。

 すでにアマゾンは「アマゾンフレックス」と呼ばれるみずからコントロールする配送を行なっている。これは、個人事業主である軽貨物運送業者が配送を行なうもので、ラストマイル物流に軽貨物運送業者を大量に動員している。
 「アマゾンフレックス」はアメリカのアマゾンでも行われているが、その配送主体は自家用車を使用する一般の個人である。旅客輸送のウーバーと同じように、貨物輸送に一般の個人を大量に動員してラストマイルの配送の一部をまかなっている。これに対して日本では、有償の貨物輸送は営業許可を得た事業者でなければならないために、軽貨物運送業者が配送している。
 徒歩および自転車の利用であれば、運送業者でなくともネット通販の貨物を配送することができる。新たにラストマイルの配送において、アメリカの「アマゾンフレックス」と同様に非運送業者である商店主などの個人を動員することになる。

 
ラストマイル物流において拡大する輸送需要に対応していくこと、さらに従来の宅配便依存から脱却して安定した配送を確保していくことが重要な課題となっている。これに対する一つの方向性が、配送の担い手を個人に拡大していくことになる。 



送料無料、物流コストインフレ、物流キーワードの違和感
2022/12/1 更新

 NHKのクローズアップ現代で、過酷なドライバーの労働実態をめぐるトラック輸送の問題が取り上げられた。そこで「送料無料」が広く流布しており、この言葉がもたらす問題点が指摘された。
 ネット通販で広く「送料無料」がうたわれているが、実際には配送のためのコストが発生しており無料ではない。「送料無料」といわれることによって、モノを運ぶ物流の重要性が軽視されるようになり、さらに配送に携わるドライバーの労働の重要性が見えなくなってしまう。「送料無料」の言葉から、そのような懸念が生じる。
 全日本トラック協会は、この「送料無料」について、配送費用が安い、ただ同然だという認識を荷主企業や消費者に与えるものだとして批判している。このように、「送料無料」という言葉に対して強い違和感が存在している。


 同じように違和感のある物流に関するキーワードが「物流コストインフレ」である。わが国の物流は現状において大きな問題を抱えているが、その一つが物流の担い手のトラック輸送の運賃が上昇していることだととらえる。
 具体的には、2017年以降トラックの運賃は、宅配便だけでなく一般のトラック運賃も上昇しており、こうした運賃の上昇が荷主企業の物流コストの増加をもたらす。こうした状態が「物流コストインフレ」と呼ばれている。
 そして、この「物流コストインフレ」は、今後もさらに加速される見込みであり、こうした事態がわが国の物流の根幹を脅かすもので、これに対する根本的な物流改革が必要となる。こうした脈絡のもとで、問題となるトラック運賃の上昇が「物流コストインフレ」と呼ばれている。
 「物流コストインフレ」となると、価格の急激な上昇が起きて経済全体に悪影響を及ぼすようなイメージを与える。しかしながら、もともとは長期にわたって宅配便や一般トラックの運賃は低い水準にあって低迷してきた。

 こうした運賃の低迷の中でドライバーの賃金が低水準にとどまり、これがまたドライバー不足の大きな要因となり、物流危機を発生させた一つの大きな原因ともなった。まずはこうした低い運賃があったこと、そこから物流の大きな課題が生じたことが重要である。
 こうした中で、2017年以降トラックの運賃が上昇してきたことは、こうしたドライバー不足による物流危機の問題に対する一つの改善の方向が起きていると考えられる。それは、物流危機の中でドライバー不足を改善するために必要不可欠なものとして重要である。
 このプロセスを「物流コストインフレ」とすると、なぜ運賃上昇が必要であって、それがトラック運送業界の輸送力の安定供給に重要なのか見えなくなってしまう。こうしてトラック運賃の上昇を「物流コストインフレ」とすることに違和感が生じる。



トラック運送業の廃業、倒産、難しい運賃の値上げ
2022/11/1 更新

 大学で「ロジスティクス」を教えているが、講義を聴講している学生が直接話を聞きたいと研究室を訪ねてきた。その学生は講義の中で物流業の現状に特に興味をもったというが、それは実家がトラック運送業を営んでいたからだという。
学生の祖父が運送業を始め、それを父親が引き継いで、長年にわたって事業を行なってきた。しかし、最近では業績が振るわず経営規模を縮小してきたが、経営を続ける展望が見通せず、9月に自主的に廃業したという。
 
 これは自主的な廃業による市場からの撤退だが、倒産による市場からの撤退が増えている。帝国データバンクによれば、2022年度上半期(4月〜6月)のトラック運送業者の倒産件数が99件発生し、前年同期の約1.5倍に増加した。さらにこの時期は過去5年で最多の倒産件数を記録したという。
コロナ禍の経済の落ち込みで貨物輸送需要が減少し、さらに運賃の下落によって収入が減った。それに加えてロシアのウクライナ侵攻を契機とした原油価格の上昇がコストの増加をもたらし、トラック運送業の経営を大きく圧迫した。それに耐え切れずついに倒産に至る事業者が増えている。

 そこで重要なのは、燃料価格の上昇によってコストが増加している状況で、それに応じて燃料サーチャージの導入などによって運賃を値上げすることが難しいという点である。これによって最悪の場合に倒産に至ってしまうが、多くの事業者にとってこうした共通した問題を抱えている。
 国土交通省が燃料価格高騰による価格転嫁状況の調査(2022年1月〜2月)を行なっている。これによると、荷主企業等との価格交渉を行なって価格改定した事業者は46.8%であった。このうち運賃等の改定が24.7%、燃料サーチャージの導入が16.3%となっている。半数近くは、何らかの形で運賃の値上を行なっている。
 しかし、価格改定ができなかった事業者は残りの53.2%と半数以上に達している。価格交渉をしなかったが39.3%、価格交渉をしたが改定にいたらなかったが11.3%、価格交渉に応じてもらえなかったが2.7%となっている。
 4割近い事業者が価格交渉そのものをしなかったが、その理由として、「過去交渉して仕事量を減らされた」、「仕事を失う可能性がある」、「安く仕事を取る他社に仕事を取られる」といった現実の厳しい状況が指摘されている。

 国土交通省は燃料価格高騰に対応した運賃の値上を支援するために、荷主への周知・広報の強化、相談窓口の設置、荷主働きかけ等の法的措置などを行なっている。また「標準的な運賃」が導入されて、運賃値上げの大きな手助けになることも期待されている。しかし、依然として、多くのトラック運送業者にとって運賃交渉によって運賃の値上げを実現することが難しい状況にある。
 今後こうしたコスト増加に対応した運賃値上げ以外にもその必要性が増してくる。2024年問題で時間外労働の上限規制が適用されるとドライバーの賃金が削減されてしまい、これによってドライバーの流出が懸念される。これを防ぐためにはドライバーの賃金を上げていかなければならない。そのための原資として運賃の値上が必要不可欠となる。運賃の値上を実現できるのか、今後も大きな課題が続いていく。



コロナ禍の宅配便の動向と「隠れ宅配」
2022/10/1 更新

 国土交通省によると2021年度の宅配便取扱量は、49億5千万個に達してこれまでの最多を更新した。しかし、対前年の増加率は2.4%にとどまった。2020年度が11.9%であったので、宅配便の取扱量の増加はかなりマイルドになった。
 もっとも寡占化している宅配便市場で大手3社の状況は大きく異なっている。取扱量の増加率ではヤマト運輸が8.5%増で、佐川急便が1.6%増、日本郵便ではマイナス9.4%となっている。ヤマト運輸は積極的に取扱量を拡大したが、宅配便全体としてみれば取扱量の増加は少なかった。
 
 宅配便はもともとCtoC(消費者から消費者)からはじまり、BtoB(企業から企業)、さらにBtoC(企業から消費者)の小型貨物を取り込んでいった。最近ではBtoCであるネット通販のEC貨物が大きなウエイトを占めるようになっている。このため宅配便の取扱量はネット通販の販売動向によって大きく影響される。
 2020年はコロナウイルス感染拡大によって巣ごもり需要が発生して、ネット通販の売上が急激に増加しEC貨物の輸送需要が大幅に拡大した。2021年は感染拡大が続く中でネット通販の人々の購買行動が、かつてのような勢いで継続することなく、売り上げ増加がマイルドになり、これが宅配便の取扱量に反映された。

 それにしても、注目すべきはネット通販の売上高の伸びに比べて宅配便の取扱量の増加が少ない点だ。経済産業省が明らかにしている物販系分野BtoC-EC市場規模(ネット通販の売上高)は、2021年の増加率は8.1%となっている。さらに日本通信販売協会が公表している通信販売売上高の増加率は7.8%である。これに対して宅配便の増加は2.4%に留まる。
 巣ごもり需要がいっきに爆発した前年も同じような状態であった。2020年の物販系分野BtoC-EC市場規模は何と21.7%増、同じく通販販売売上高で20.1%増加している。こうしたなかで、宅配便の取扱量は先に見たように11.9%であった。

 極めて単純な比較に基づくが、宅配便の取扱量とネット通販の売上高の増加率の大幅な格差は、「隠れ宅配」の存在の大きさを示している。最近「隠れ宅配」と言われているが、これは宅配便以外で運ばれているネット通販のEC貨物のことである。宅配便の対象となるEC貨物が宅配便以外で運ばれており、その貨物量が増加している。
 アマゾンをはじめとしてネット通販事業者はEC貨物の脱宅配便が進んでおり、増加するEC貨物が宅配便以外で運ばれるようになっている。宅配便はまさしくEC貨物を運ぶのに適した貨物輸送サービスであり、ネット通販の成長によって取扱量を拡大してきた。しかし、ネット通販のEC貨物の輸送需要は依然として拡大しているものの、宅配便全体として見た場合その拡大部分を充分に取り込んでいないのである。



トラック輸送の個人事業者をめぐる大きな変化
2022/9/1 更新

 トラック輸送において個人事業者が一定の大きな役割を占めている。このトラック輸送の個人事業者をめぐって、奇しくも日本とアメリカで同じ方向の動きが起きている。同じ方向とは、ギグ・ワーカーとも呼ばれる個人事業者を労使関係のもとでの労働者と同じように扱うというものである。
 
 まずアメリカだが、カルフォルニア州で通称「ギグ労働者法」と呼ばれる州議会法5号(Assembly Bill 5:AB5)が施行される。AB5は2020年1月から施行の予定であったが、これに反対するカルフォルニア州トラック協会が差し止めを求めて提訴し、その発効が停止されていた。同協会は連邦最高裁判所に法律の再検討を求めていたが、最高裁は6月30日にこの訴訟の審理を拒否した。このため、AB5が今年にも施行される。
 これによって、トラック輸送の個人事業者であるオーナー・オペレーターが、個人請負の事業者ではなく労働者として取り扱われる。カルフォルニア州だけで7万人もの個人事業者であるオーナー・オペレーターがおり、主に西海岸の主要コンテナ港湾からの海上コンテナの輸送などに従事している。このオーナー・オペレーターの取扱いが大きく変化する。
 これまでオーナー・オペレーターはトラック運送業者と請負契約を結んで輸送業務を行なっていたが、これがトラック運送業者の従業員として働くことになり、これまでの独立した自由な運送業務ができなくなる。
 また、オーナー・オペレーターは、別の選択肢として独立した事業者として登録し、今までとは異なって貨物を斡旋するブローカーに依存して輸送業務を行なうことができるが、こうしたやり方だと申請のための手数料や保険料で2万ドル以上の追加費用が発生してしまい、非常に困難な状況に陥るという。
 こうした状況で、当事者であるオーナー・オペレーターは、AB5の施行に強く反対しており、7月には西海岸のコンテナ港湾周辺で抗議のデモを行なって、ターミナルゲートを封鎖する過激な行動に及んでいる。

 そして日本においても、個人事業者である軽貨物運送業者をめぐって、重要な出来事が起きた。アマゾンのデリバリー・プロバイダーの最大手である丸和運輸機関に対して、労働基準監督署が軽貨物運送業者の使用をめぐって労働基準法違反の是正勧告を行なった。これは同社が業務委託として考えていた軽貨物運送業者の使用が、労働者にあたると判断され労働基準法の適応を求めたものである。
デリバリー・プロバイダーが使用する軽貨物運送業者の場合、「発注元の指揮命令系統で働いている」と判断され「労働者性」が認められて、個人の請負業務委託ではなく労働者と同じ扱いが必要とされたと考えられる。

 ネット通販貨物のラストマイルの配送において、これまで軽貨物運送業者が増加してきた。アマゾンのデリバリー・プロバイダーにおいても末端の下請けとして軽貨物運送業者が動員されているし、アマゾン・フレックスにおいても主体はこの軽貨物運送業者である。さらに大手宅配便事業者においても、ラストマイルの配送で下請けとして軽貨物運送業者を使用している。
 これらの軽貨物運送業者は、請負業務と考えられてきたが、そうではなく労使関係における労働者と同じと判断されることになる。これは大きなインパクトを持つ。こうした判断では、明らかに軽貨物運送業者は2024年問題の時間外労働規制の対象になる。改めて軽貨物運送業者を使用しているトラック運送業者は、新たな規制に厳格に対応しなければならないことが明らかになっている。



共同物流の展開
2022/8/1 更新

 ドライバー不足によってトラック輸送の供給が制限される状況の中で、より少ないドライバーで貨物を効率的に運ぶことができる共同物流がますます重要になっている。
  これまでいろいろな共同物流が行われてきた。特定の業界において、荷主企業は販売では競争するが物流では協調関係をむすび、ライバル企業間で貨物をいっしょに運んだり、帰り荷の輸送を融通したりする共同物流が行われてきた。
 また、過疎地を多く含む地域において、貨物量が少なく非効率な輸送が行われるなかで、荷主企業の貨物を束ねて効率よく輸送する共同物流も行われてきた。さらに、最近ではドライバー不足に関連してドライバーの長時間労働を改善する取組みとして、長距離輸送で中継輸送を行う共同物流も繰り広げられている。
 
 共同物流は荷主企業が主体となって行われる事例が多いが、物流業者が主体となる共同物流も展開されている。物流業者にとってみれば、共同化の仕組みを構築することによって、より多くの荷主企業の貨物を獲得できる。共同物流は事業拡大の重要な取組みとなる。
共同物流はトラックを中心として輸送を共同化するだけでなく、その前の段階で貨物を保管し出荷する物流拠点における共同化も行われている。こうした輸送機能や保管機能を連携させた物流ネットワークが構築されている。

 
共同物流の展開において重要となるのは、物流の諸問題に対応して物流に関連する条件を整えることである。一つは、物流の標準化を進めることである。具体的には、共同化するために荷主企業ごとに異なるパレットやコンテナを統一して標準化を進める。こうしたことで、異なる企業の貨物を効率的に輸送することが可能となる。
 また物流の負荷を軽減するために、商習慣を変更することも重要となる。具体的には翌日配送から翌々日配送へとリードタイムを延長することである。これによってドライバーの長時間労働を改善することができて、ドライバーの負担軽減につながる。さらには、受注締切時間の統一、納品時間の統一など、提供するサービス水準を共通にすることも必要となる。

 もう一つ重要な点は、最近注目されている物流DXを積極的に導入することである。効率的な配送を行なうために、車両調達のためのマッチングシステムを活用することや、輸配送の効率化を実現するために輸送管理システムを導入することも必要となる。また配送する貨物量を平準化するために、商流需給の調整を行うプラットフォームの構築が注目されている。



宅配便市場におけるアマゾンの脅威拡大
2022/7/1 更新

 アメリカのアマゾンは宅配便の貨物の取扱いを急激に拡大しており、その取扱量は大手の宅配便を凌ぐまでになっている。アメリカの宅配便市場では、USPS(アメリカ郵便公社)、UPS、そしてFedExの三大宅配便事業者がいるが、アマゾンンはすでに2020年からFedExの宅配便取扱量を超えており、さらに他の大手宅配便事業者に迫る勢いで拡大を続けている。
 
 こうしたなかで、アマゾンは宅配便の取扱いを今後さらに拡大する可能性のある新たな取組みを始めた。それが4月から開始したBuy with Primeである。Buy with Primeでは、アマゾンのプライムの会員が、アマゾン以外のネット通販事業者のサイトで購入するさいに、送料無料や迅速な配送サービスといったアマゾン・プライムの特典を受けることができるようになる。これは、ネット通販事業者の独自のサイトからの販売でも、アマゾンの物流センターでのフルフィルメントやラストマイルの配送を利用できるようになり、こうしたネット通販事業者の物流をアマゾンが担う。

 アマゾンは自社で販売するほかに、サードパーティと呼ばれる多数のネット通販事業者がアマゾンのマーケットプレイスに参加している。こうしたネット通販事業者は、アマゾンが提供している物流サービスのFBA(Fulfillment by Amazon)を利用している。これは販売する商品をアマゾンのフルフィルメント・センターに在庫して、さらにアマゾンによってラストマイルの配送が行われる。
 
Buy with Primeは、アマゾンのマーケットプレイスに参加してFBAを利用しているネット通販事業者が対象となる。これらのネット通販事業者が、アマゾンのマーケットプレイスではなく、みずからのサイトで販売した場合にも、同じような物流サービスを受けることができる。  Buy with Primeは当初こうしたネット通販事業者を対象とするが、2022年中にはアマゾンのサイトで販売していない、なおかつFBAを利用していないネット通販事業者にも拡大される。

 こうしたBuy with Primeの実施は、まさにアマゾンが他のネット通販事業者の物流をさらにいっそう包摂していくことになる。具体的にはFBAの取扱量を拡大するとともに、さらにアマゾンによるラストマイルの配送を拡大していくことにつながる。
 アマゾンは2018年に一般のネット通販事業者の貨物をピックアップして配送するサービスを開始した。これはAmazon Shippingと呼ばれるが、まさに大手宅配便事業者とネット通販事業者の貨物をめぐって直接競合する。しかし、2020年のコロナウイルス感染拡大のパンデミックのなかで、自社のネット通販貨物の輸送需要が急激に拡大したために、アマゾンはこの配送サービスを停止している。
 こうしたなかで、新たに行われるBuy with Primeは、アマゾンによるラストマイルの配送の取扱量のさらなる拡大につながるのであって、大手宅配便事業者にとってアマゾンの脅威がさらに高まることになる。



多重下請のもとでの低運賃
2022/6/1 更新

 トラック運送業における多重下請け構造の問題がクローズアップされて注目されている。最近、週刊東洋経済で「崖っぷちの物流」と題されて、直面するトラック輸送の問題が特集された。その中で多重下請けの具体的な事例があげられている。
 一つの事例では、関東―関西の長距離輸送で荷主企業が支払った13万円の運賃が、元請けから3次下請けまでいって、実運送会社の受け取った運賃が6万2000円となっている。
  別の事例では、ネット通販のラストマイルの配送で、ネット通販事業者が支払った一日4万円が元請けを経て3次下請けまでいって、さらにその下請けとして実際に運ぶ個人の軽貨物運送業者が得た運賃が、2万3000円だったことが紹介されている。
 
 大型トラックによる長距離輸送だけでなく、軽貨物トラックによるラストマイルの配送まで、広範囲にわたって多重下請けが行われている。何層にもわたって下請けが深化して、この間に中間の手数料が取られ、最終的な実運送において極めて低い運賃が形成されている。
 貨物の輸送を委託する荷主企業にとってみれば、運賃をできるだけ低く抑えようとしているなかで、ブラックボックス化したトラック輸送において、みずから支払った運賃よりも実際は大幅に低い運賃で運ばれており、物流業界において不合理が存在していることを認識させられる。
 一方で貨物輸送需要が大きく変動する中で滞りなく輸送力を確保するためには、多重下請けは致し方ないと考える荷主企業もいる。他方で、中抜きによる輸送コストの増加と輸送品質の低下を懸念する荷主企業もいる。こうしたなかで、下請けを2次程度に抑える必要があると考える荷主企業もいる。
 
 多重下請け構造が深化していく中で、最下層の実運送を担う中小零細のトラック運送業者は低運賃のもとで輸送しており、このため苦しい経営状況に置かれている。現状のドライバー不足に対応するためにドライバーの賃金を上げていかなければならないが、下請けのもとでの低運賃では到底それを行なうことができない。2024年問題への対応など困難な状況が続く中で、中小零細業者の経営状況がさらに悪化していくことが予想される。

 このように日本では多重下請けが大きな問題となっているが、アメリカはこうした問題とは無関係である。アメリカでは荷主企業の貨物をトラック運送業者に斡旋するブローカーが活動しているが、これとは別にトラック運送業者が他のトラック運送業者に下請けに出すことは規制によって禁止されている。このため、アメリカのトラック運送業では多重下請けの問題が生じていない。この点で中小零細の運送業者は、わが国で起きている多重下請けで生じる低運賃の問題に悩まされることはない。



物流危機をもたらすドライバー不足の状況
2022/5/1 更新

 ドライバー不足の状態が続いている。厚生労働省のデータによれば、直近の2022年2月では、全体の職業の有効求人倍率が1.14に対して、自動車運転の職業(トラックドライバー以外を含む)は2.21となっている。物流危機が叫ばれた時には、自動車運転の職業は3倍を超えており、それに比べればコロナ禍で減少したものの、依然として高い水準となっている。
また全日本トラック協会の「トラック運送業界の景況感」によれば、直近の2021年10月期〜12月期のデータでは、トラック運送業者の労働力の不足感は、「不足」とする事業者が13.8%、「やや不足」が41.3%となっており、労働力不足を感じている事業者が全体の54.1%となっている。ここでも依然としてドライバー不足に直面している事業者が多いことがわかる。
 
 コロナ禍で景気後退によって貨物輸送需要が減少して、それによって必要とするドライバーも減少したため、ドライバー不足は緩和された。しかしながら、基本的にドライバー不足は直面する大きな問題として存在している。コロナ禍で景気後退によって貨物輸送需要が減少して、それによって必要とするドライバーも減少したため、ドライバー不足は緩和された。しかしながら、基本的にドライバー不足は直面する大きな問題として存在している。
 アメリカでは、もともとドライバー不足が深刻であったが、コロナ感染拡大でパンデミックに陥ると、ドライバー不足がより一層深刻になった。アメリカトラック協会によると、パンデミックの中で長距離ドライバーの不足が8万人に拡大したという。トラック運送業者のドライバーの離職率が平均で95%に達しており、1年間でドライバーのほとんどが入れ替わるほど深刻なドライバー不足が続いている。
 わが国ではドライバー不足がコロナ禍で緩和されてアメリカほど深刻ではないように考えられるが、基本的にトラック運送業は同様の問題に悩まされている。今後のドライバー不足は、コロナ感染拡大の状況と景気動向によって大きく影響される。これまでのコロナ感染拡大に加えて、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済的な影響も加わるなかで、景気がどの程度回復していくのかが重要になっている。
 
NX総合研究所の最近の予測によれば、国内貨物の総輸送量は2021年度の3.2%増から2022年度に1.2%増に留まるとされ、営業用トラックの輸送量は2021年度の3.0%増から、2022年度に2.3%増になると予測している。今年度をみるとトラックの貨物輸送量の大幅な増加は予想されていない。そうであるならば、ドライバー不足がさらに悪化することにはならないようにも考えられる。
 しかし、ドライバー不足に関してトラック運送業における特有の要因を考える必要がある。いわゆる2024年問題で時間外労働規制が適用されて、ドライバーの長時間労働が抑制され、これによってドライバーの収入が減少してしまう。これを嫌ってドライバーが他産業に流失したり、さらにいっそう集まらなくなったりすることが懸念される。このため、現状のままでいるとすれば、ドライバー不足がさらに悪化することも考えられる。



アマゾンによるラストマイル配送の物流戦略
2022/4/1 更新

 アメリカのアマゾンは、自社のネット通販の貨物の配送において脱宅配便を進めるために、自らコントロールする配送を急激に拡大している。2020年にアマゾンの物流を担うアマゾン・ロジスティクスの宅配貨物量は42億個に達した。
これはアメリカの3大宅配便の一つフェデックスを凌駕しており、アマゾンはUSPS(アメリカ郵政公社)、UPSに次ぐ第3位の取扱量となる。日本の宅配便取扱量は47億個であったが、アメリカのアマゾンは日本全体の宅配便の9割に及ぶ貨物量を運んでいることになる。

  ネット通販事業者のアマゾンがどのようにして脱宅配便をはかり、みずからコントロールするラストマイルの配送を急激に拡大してきたのか。二つの方法が取られた。一つがアマゾン・フレックスで自家用車を運転する個人のドライバーに運ばせるものであり、もう一つがデリバリー・サービス・パートナーである。
 デリバリー・サービス・パートナーでは、アマゾン専属の運送会社を経営する起業家を募って、配送車両40台、ドライバー100名程度の小規模な運送会社を設立させる。この運送会社は、アマゾンのロゴが入った配送車両を使い、アマゾンの制服を着たドライバーがアマゾンの貨物だけを専属的に配送する。

 こうしたフランチャイズ型の小規模な運送会社が驚くほど急激に増えていった。アマゾンは2018年からこのやり方を始めたが、2021年には運送会社が2,000社となり、これらが擁するドライバーが11万5,000人に達している。
 アマゾンはこうした運送会社にみずからのネット通販貨物の配送を単純に委託して運ばせているだけではない。注目すべき点は、アマゾンがこれらのデリバリー・サービス・パートナーの実際の配送業務を詳細にわたって管理しており、さらにこれらの運送会社をコントロールしていることである。
 デリバリー・サービス・パートナーの配送用バン車両には、テレマティック装置、ビデオカメラが設置されており、さらに配送のドライバーはメンター(「良き指導者」)と呼ばれる専用のアプリが導入されたスマートフォンを携帯している。これらによって、アマゾンからドライバーに配送する貨物の数量が指示されたり配送のルートが提示されたりするが、さらにドライバーの配送中の運転行動が詳細にモニターされている。
 アマゾンは与えられた配送貨物を効率的に配送したのかドライバーの配送のパフォーマンスや、配送中のコンプライアンスや安全性が確保されているのかを監視して把握している。こうして集められたデータによって、情報システムがドライバーの配送業務を採点して評価する。こうした評価はデリバリー・サービス・パートナーの運送会社に対する評価にも利用され大きな影響を与える。
 デリバリー・サービス・パートナーの運送会社は、指定された貨物の数量を効率的に確実に配送しているか、配送におけるトラブルなどを起こしていないかなど会社としての配送業務が評価される。そして評価の低い運送会社は運送契約を打ち切られ、アマゾンの配送から排除される。実際に多くの運送会社が契約を打ち切られ、このために配下の数千人のドライバーが解雇されることも生じている。

 アマゾンは、安いコストで効率的なラストマイルの配送が行われるように積極的に関与して、ラストマイルの配送のパフォーマンスを上げていく仕組みを構築している。ここにもしたたかなアマゾンの物流戦略が展開されている。



三年目を迎えるコロナ危機のなかのトラック運送業
2022/3/1 更新

 2020年1月からコロナウイルス感染がはじまり、これまで6波におよぶ感染拡大が続き、コロナ危機の状態は3年目に突入した。こうしたコロナ危機が長期化するなかで、トラック運送業も大きな変貌を余儀なくされている。
 宅配便などは特殊な状況にあるが、全体的に見ればコロナ危機のなかで経済の低迷によって貨物輸送需要は大幅に減少していった。営業用トラックの貨物輸送量は2020年以降減少しており、現在でも2019年以前の輸送量に達しておらず、依然として低迷を続けている。

 こうした貨物輸送需要の減少が続くなかで、トラックの運賃は以前と異なり大きく変化した。コロナ危機以前には運賃は明確な上昇傾向にあったが、コロナ危機が続くなかで運賃は明らかに横ばいに転じて、一部で運賃の下落も生じた。スポット運賃などは需給状況を敏感に反応して、最近まで明確な下落の状態にあった。

 もう一方で、コロナ危機における貨物輸送量の減少は、かつての深刻なドライバー不足の状態を緩和させることになった。経済の低迷によって全体の有効求人倍率は1に近づく状況にあるが、トラックドライバーの有効求人倍率はピーク時に3倍を超えていたものがコロナ危機のもとで2倍程度に減少している。
 以前からみればドライバー不足は緩和されているが、それでも他産業に比べて有効求人倍率は高く、基本的にドライバー不足は継続している。コロナ危機で減少した貨物を運ぶにしても、依然としてドライバーが充分に確保できない状態が続いている。

 かつての物流危機においてトラック運送業の大きな課題が、いかに不足するドライバーを確保するかであった。そのために必要となる根本的な対応策がドライバーの賃金を上げていくことであり、そのためには原資としての運賃の値上を実現していくことが重要となる。そしてこの時期に不十分であったがトラック運賃は上昇していった。
 しかし、コロナ危機のもとでは、一部で運賃競争が行われて運賃の下落が生じるなかで、運賃の値上を実現することが困難な状況になっている。この間に運賃の値上を支援するものとして「標準的な運賃」が導入されたが、有効に活用できない状態が続いている。

 ドライバー不足が緩和されているとはいえ、依然としてドライバーの確保は重要な課題である。かつての同じシナリオで、ドライバーを確保していくために賃上げの原資として運賃の値上が必要であるが、しかし、コロナ危機の貨物輸送需要が減少しているなかでそれが困難な状況にある。



ラストマイル配送市場への軽貨物運送業者の参入
2022/2/1 更新

 トラック運送業者数は、新規参入者と退出者がほぼ同じ状態が続いており、6万2000台で横ばいに推移している。これに対して個人事業者である軽貨物運送業者は新規参入が相次いでおり、これまで事業者数が年々増加してきた。
 国土交通省によれば、軽貨物運送業者数は2020年に17万6859であり、2015年の15万4599からこの5年間で2万2000以上増えている。特にコロナ過の2020年では、前年に比べて約7800も増加しており、新規参入が加速されている。

 こうした増加する軽貨物運送業者は、ネット通販のラストマイルの配送や新たなデリバリーにおいて重要な役割を担うようになっている。
 ネット通販事業者のアマゾンは、ラストマイルの配送を宅配便への依存から脱却するために、アマゾンフレックスで軽貨物運送業者にネット通販貨物の配送を委託している。またアマゾンは同じく地域の運送業者であるデリバリープロバイダーに配送を委託しているが、デリバリープロバイダーは軽貨物運送業者を起業させて配送業務に当たらせている。
 宅配便のヤマト運輸も、増加する宅配便の需要拡大に対応するために、EASYクルーと呼ばれる下請けの配送業者を大量に調達しており、ここでも軽貨物運送業者がネット通販貨物の配送業務にあたっている。
 最近ではコンビニのセブンイレブンが本格的に店舗から消費者に宅配サービスを繰り広げているが、その配送を軽貨物運送業者が担うようになっている。さらに配送のジャンルは異なるが、最近注目されている買い物代行やフードデリバリーにおいても、軽貨物運送業者が配送を行なっている。

 宅配クライシスを契機として、ラストマイルの配送をだれが担うのかの一つの方向性が、より安いコストで配送できる軽貨物運送業者の動員であった。軽貨物運送業者の新規参入が続いており、ネット通販事業者、宅配便事業者、その他の運送業者は、こうした軽貨物運送業者を積極的に採用している。
 現状においてラストマイルの配送の軽貨物運送業者は、低い配送料金が設定されて、収益も低い状態であることが指摘されている。さらには、低い収益性をカバーするために長時間労働が行われ、軽貨物運送業者のドライバーに過重な負担がかかっているともいわれている。

 今後ともネット通販のさらなる拡大が予想されるなかで、ラストマイルの配送の担い手として軽貨物運送業者の新規参入が続くことが重要である。しかし、低収益性や長時間労働といった課題が今後大きくなるのであれば、物流危機を引き起こしたドライバー不足と似た状態となり、軽貨物運送業者の新規参入が継続できるのかという危惧が生じることも考えられる。



SDGsに対応した環境負荷低減の取り組み
2022/1/1 更新

 東京都は低公害・低燃費車の導入に関する規制を強化する。自動車の使用による環境への負荷を低減することを目的として、自動車環境管理計画書制度を条例で定めている。このなかで200台以上の自動車を使用する事業者の特定低公害・低燃費車の導入義務比率を従来の15%から30%に拡大することになった。
 EV(電気自動車)は3台分に換算されるが、使用している全自動車のうち特定低公害・低燃費車を30%以上導入することが新たに義務付けられる。こうして自動車による環境負荷を低減するために規制が強化されている。

 物流企業においてもSDGs(持続可能な開発目標)に対応する必要性が強まっており、CSR(企業の社会的責任)を遂行するために地球環境問題に対応して環境負荷を低減していくことが重要となっている。

 ヤマト運輸は、自社の事業展開にともなう温室効果ガスCO2(二酸化炭素)の排出量を算定したうえで、CO2の削減目標の具体的な数値を明確に設定している。こうした目標を達するために、EVの導入をはかっている。国内の自動車メーカーのEVを配達に使用して実証実験を行っている。そしてヤマト運輸は2030年までにEVを5000台導入する計画を立てている。
 同じように、大手宅配便事業者の佐川急便も、中国の自動車メーカーからEV軽自動車7200台を導入する計画である。さらにSBSホールディングスも中国企業から1万台ものEVを調達するという。

 ちなみに、ネット通販事業者のアマゾンも物流における環境負荷の低減に熱心に取り組んでいる。アメリカのアマゾンは、2022年初頭までに自社のネット通販貨物を配送するのに、EVの配送用バンを1万台走行させる。さらに、2030年までEVの配送用バンを10万台導入する計画を立てている。

 環境負荷を低減するためにEVを積極的に導入することは、大手の物流企業であるからこそできる取り組みだと考えられる。しかし、それ以外の物流企業でも、SDGsに対応するために、EVだけでなく低公害・低燃費車を積極的に導入し環境負荷を低減することが重要になる。物流企業のCSRの一環として、こうした環境問題への積極的な対応が求められている。
 荷主企業もSDGsへの対応として自社の物流において環境負荷を低減することに注目している。このために物流企業の積極的な取り組みによって、荷主企業の評価が高まることが期待される。



「ドライバー不足」ではないアメリカのトラック運送業
2021/12/1 更新
 

 アメリカのトラックドライバーの不足がさらに深刻化している。アメリカトラック協会(ATA)は、最近新たに不足するドライバーが8万人に達することを明らかにした。新型コロナウイルス感染拡大以前には不足するドライバーが6万人としていた。パンデミックが終息に向かい経済が回復基調に転じるなかで、ドライバー不足がさらに拡大している。

 こうした状況をめぐって、興味深い指摘がなされている。トラック運送業において「ドライバー不足」は存在していないというものだ。アメリカでは約200万人の労働者がドライバーとして働いている。さらに年間に全米の州で45万人の新たな営業用運転免許(CDL)が発行されている。ドライバーとして運転労働ができる労働者は多く存在しており、その意味で「ドライバー不足」ではない。
 問題は「ドライバー不足」ではなく、「ドライバーの保持(retention)」だという。つまり、トラック運送業者がドライバーを雇用して運転労働を継続させて保持していくことが問題なのである。

 典型的に示されているのが、ドライバーの離職率の高さだ。2020年でもドライバーの離職率は92%に達している。トラック運送業者が雇用したドライバーのほとんどが一年間で離職していることになる。つまりトラック運送業者はドライバーを「保持」することができない。
 最近バイデン政権のもとでインフラ投資法が成立し、その中で州際の輸送で運転できるドライバーの年齢が21歳から18歳に引き下げられた。これはドライバー不足に対応して、ドライバーの供給を増やす効果が期待される。ATAもこの実現に向けて積極的にロビー活動を行ってきた。しかし、問題の本質が「ドライバー不足」でなく、「ドライバーの保持」ならば、この新たな措置がどれだけ効果があるのかは疑問となる。

 トラック運送業者はドライバーを集めるために大幅な賃金の値上を行なっている。1980年に行われたトラック運送業に対する規制緩和後ドライバーの賃金は大幅に低下した。その後ドライバー不足が恒常化する中でトラック運送業者は賃金を上げていったが、それは他産業との賃金の格差を埋めるものであった。そして全般的な労働力不足の中で、他産業も同じように賃金を増加させている。同じレベルに近づいたとしても、ドライバーの「保持」に大きな効果をもたらすとは限らない。
 さらに厳しい労働条件が改善されていない。特に指摘されているのが、日本でいう手待ちである。アメリカのドライバーも貨物の積み込みや積み下ろしの際に長時間におよぶ手待ちの問題が大きく存在している。ドライバーはその間に長時間にわたり拘束されるだけでなく、それに対して何らの料金は支払われない。さらには、長距離輸送において休憩や休息を取ることが必要不可欠だが、そのために駐車場が不足しており、十分な休憩や休息が取れないことも大きな問題となっている。

 こうした厳しい労働条件の状態が続くのであれば、トラック運送業者が賃金を頑張って引き上げても、ドライバーの「保持」を大きく改善することができない。



2024年問題への対応
2021/11/1 更新
 

 2024年問題への対応が注目されている。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限が960時間と設定され、これに違反すると罰則が適応される。現状においても、この時間外労働の規制に抵触する事業者は3割近くいるといわれており、きたるべき2024年の規制への対応が求められている。
 このため、長時間労働を是正できていないトラック運送業者は、ドライバーの労働時間を正確に管理して長時間労働を削減し、新たな労働時間規制に適応することが重要な課題となっている。

 しかし、2024年問題への対応では別の課題も出てくる。時間外労働が削減されると、ドライバーの賃金が減少することになる。出来高賃金が主流のドライバーの賃金において、労働時間の減少は同時にドライバーの所得も減少することになる。
 このため、新たな規制に対応する中で労働時間が削減されると、もともと高くない賃金がさらに低下することになる。賃金が低下すれば、そこで働こうとするインセンティブは萎えてしまう。こうなると、ドライバーは賃金の低下を嫌い、他の事業者やさらには他産業に移動する可能性がでてくる。このためドライバー不足がさらに悪化することになる。

 トラック運送業におけるドライバー不足の主な原因は、長時間労働の厳しい労働条件と他産業に比べて低い賃金水準にある。ドライバーを適正に確保していくためには、これらを改善していかなければならない。今回ドライバーの長時間労働を是正していく取組みが、他方で賃金の低下をもたらす可能性があり、ドライバー不足を改善していくためのこれらの取組みは、いわばトレードオフ(二律背反)の関係になる。
 こうした事態に対応するために、長時間労働の是正が必要である事業者にとっては、長時間労働で成り立っていた従来のドライバーの賃金水準を維持することが重要となる。このためにはドライバーの給与体系を見直し、基本給等を上げて時間外手当が減少してもこれまでの給与水準を維持することが必要となる。

 こうした取組みは、ドライバーの労働時間が減少するために営業収入減少する中で行われるため、ドライバーの賃金水準を維持することは経営の大きな負担となる。このために賃金の維持をカバーするための原資をえる必要があり、その原資として運賃を引き上げていくことが重要となる。非常に難しい運賃の値上を実現していかなければならない。
 2024年問題への対応はたんに長時間労働をいかに削減するのかだけでなく、ドライバーの賃金をいかに維持していくか、そのために運賃を引き上げていくことも重要な課題となる。



宅配便の運賃支配力
2021/10/1 更新
 

 宅配便の運賃が低迷している。ヤマト運輸の宅急便の平均運賃は、2019年度の673円から20年度に633円に低下している。また佐川急便の飛脚宅配便の平均運賃は、20年度に644円で前年度に比べて微増であった。
 さらに日銀の企業向けサービス価格指数で宅配便の運賃の動向が明らかになる。これによると宅配便運賃は17年から上昇に転じ、19年末までに陸上貨物運賃にしては珍しく大幅に増加した。しかし、それ以降は20年を通して、さらに21年半ばまで、横ばいに推移している。

 宅配便運賃は物流危機が深刻化していった時期に大幅に上昇し、その後新型コロナ感染拡大によりコロナ・ショックもしくはコロナ危機と呼ばれる状況のなかで、それ以前とは対照的に低迷している。
 新型コロナ感染拡大は巣ごもり需要によってネット通販の売上が大幅に拡大し、これに伴い宅配便の取扱量も急激に増加している。
 ヤマト運輸は宅配便の取扱量を19年度の18億個から20年度に20億9600万個と年率で16.5%も増加した。同じく佐川急便で7.2%、日本郵便で11.9%と、ヤマト運輸には及ばないものの、取扱量の拡大を実現している。まさに、コロナ・ショック、コロナ危機において、宅配便は大幅な需要の拡大がもたらされた。しかし、宅配便の運賃は上昇していない。

 他の国においても宅配便の大幅な需要拡大が生じているが、最近アメリカの大手宅配便事業者のフェデックスは、人件費高騰を運賃に転嫁するために6%もの宅配便運賃値上げに踏み切った。さらに最大手のUPSも近いうちに同様の値上げを実施するという。このように、アメリカの宅配便は確実な運賃支配力を持っていて、宅配便需要が拡大するなかで宅配便運賃の積極的な値上げを実施している。
 これに対してわが国の宅配便は、運賃支配力が充分に備わっていないといえる。17年から宅配便運賃は増加傾向に転じたが、宅配クライシスのなか総量規制などを行い、ネット通販事業者などの荷主企業に対して大幅な宅配便運賃の値上げを敢行した。しかしその結果、荷主企業の離反を招いて取扱量の減少をもたらしている。また、これを契機としてアマゾンが脱宅配便に大きく舵を切ったことも、宅配便事業者にとって大きな脅威となった。

 アメリカの宅配便に比べ日本の宅配便は運賃支配力が充分ではないが、宅配クライシス以降の経験が、コロナ過で大幅な売り手市場となっても宅配便運賃の値上げに踏み切らない大きな要因になっていると考えられる。



脱宅配便が進むネット通販のラストマイル
2021/9/1 更新
 

 ヤマト運輸は、巨大な売り上げを誇るネット通販アマゾンの宅配便取扱量を減少させてきた。データによれば、17年4月にヤマト運輸はアマゾンの71%を占めていたが、2020年9月には23%に減少している。他の佐川急便、日本郵便も比率を下げており、アマゾンの宅配便以外の比率は59%に達した。この時点で、アマゾンのラストマイルの配送貨物の6割が宅配便に依存せずに運ばれている。

 アマゾンは、宅配クライシス以降、二つの方法で脱宅配便を進めてきた。一つはデリバリー・プロバイダーと呼ばれる地域の運送業者へ配送貨物を委託するやり方である。全国で10社程度あるデリバリー・プロバイダーは、軽貨物運送業者を束ねたりして、特定の地域に特化してアマゾンの貨物を配送する。
 そして、もう一つがアマゾン・フレックスで、アマゾンが軽貨物運送業者に直接委託して運ばせる。デリバリー・ステーションを設置して、そこから軽貨物運送業者が配送しており、アマゾンがこうした軽貨物運送業者をみずから集めている。

 日本と同様にアメリカのアマゾンでも脱宅配便を積極的に進めてきた。アメリカでは、UPS、フェデックス、USPS(アメリカ郵政公社)による宅配便の寡占体制が構築されている。アマゾンはこうした宅配便への依存を減らし、みずからコントロールする配送を拡大している。データは古いが、2019年5月の時点で、アマゾンが宅配便以外のみずからコントロールする配送の取扱量は45%に達した。
 アメリカのアマゾンでも二つの方法で脱宅配便を進めている。一つは日本と同じアマゾン・フレックスである。これは一般の個人が自家用車でアマゾンの貨物を運ぶもので、ウーバーと同じような仕組みで貨物の配送が行われる。日本では、自家用車の使用は違法行為となり軽貨物運送業者が主体となるが、アメリカではこれが認められている。このため、大量の個人をラストマイルの配送に動員することが可能となっている。
 もう一つの方法が、アマゾン・デリバリー・サービス・パートナーである。これは興味深いやり方である。アマゾンが経営者を募集して、アマゾンの貨物を専用に運ぶ小規模な運送会社を起業させる。こうした運送会社に専属的に配送を委託するのである。
 起業される運送会社は、配送車両が40両以下で、従業員が100人未満の小規模企業である。アマゾンのロゴが印刷された専用の配送車両を使用し、アマゾンの制服を着た専属のドライバーが配送業務を行う。いわばフランチャイズ方式に似たやり方で、大量の小規模運送会社を起業させて、アマゾンがコントロールするラストマイルの配送を拡大している。

 こうして、日本とアメリカのアマゾンは、ラストマイルの配送において脱宅配便を積極的に進めている。これはネット通販の物流を内部化して競争力を高めるアマゾンの物流戦略であり、こうした動きは宅配便にとって大きな脅威となっている。



ドライバー不足に対する運賃の値上げ
2021/8/1 更新

 アメリカでは、新型コロナウイルスのパンデミックを経て景気が回復するなかで、トラックドライバーの不足がさらに深刻になっている。こうしたなかで、トラック運送業者は不足するドライバーを確保するため賃金を大幅に上げている。
 メディアがこれを積極的に取り上げている。ウォールストリートジャーナルによれば、ある大手トラック運送業者は数か月で40%もの賃金の値上げを行い、未経験の新人ドライバーに対して年間6万ドル(約660万円)の賃金を支払うという。労働統計局の統計データでは、2020年の大型トラックのドライバーの年間賃金は4万7130ドルであったが、これを大幅に上回る賃金となる。
 また、CNNビジネスでも、インタビューしたトラック運送業者で働く大型トラックのドライバーの賃金は、数年前に4万ドルであったものが、今年は7万ドルに達すると紹介している。

 そして大幅な賃金の増加を可能にするために、トラック運賃の値上げが行われている。実際にトラック運賃も大きく上昇傾向にある。最近のトラック運賃の指数をみると、今年の第二四半期までにトラックのスポット運賃が大幅に上昇しているだけでなく、トラックの契約運賃もまた大きく増加している。
 輸送力を確保するためにドライバーの賃金の値上げが必要で、荷主企業はそのために運賃の値上げを受け入れざるを得ない。同時に、トラック運送業者は運賃交渉力を備えており、必要な人件費の上昇を運賃に転嫁して、運賃の値上げを実現することができる。
 ひるがえってわが国の状況を見ると、ドライバー不足が深刻であることは共通しており、ドライバーを確保するために賃金を上げ、その原資となる運賃の値上げが必要であることに変わりはない。

 景気の拡大が続いて物流危機が深刻化する中で、トラック運賃は上昇傾向に転じたが、その上昇は決して十分なものではなかった。 最近ではコロナ過の景気が低迷するなかで貨物輸送需要が減少し、運賃の値上げが難しい状況になっている。
 運賃の値上交渉をバックアップするものとして「標準的な運賃」が導入されて、その効果が期待されている。しかし、実際にトラック運送業者が運賃交渉力を発揮して運賃の値上げを行なうことは難しく、逆に値下げも起きているという。
 
 現在進行しているアメリカと日本の状況を見るときに、景気回復の度合いによってドライバー不足のひっ迫度の違いがあるものの、ドライバー賃金の上昇と運賃の値上げに大きな差がある。
 アメリカでは素直に価格メカニズムが作用する環境が形成されているようだ。単純に考えれば、財が不足すれば、価格の上昇によって供給を拡大することができる。輸送サービスが不足すれば、その価格である運賃を素直に上昇することができる。アメリカは比較的ストレートにそれを実現できる状況にある。これに対して、わが国は不足の状況にあっても、運賃を容易に上げることはできない。価格メカニズムが作用することが困難な特有の要因が根強く存在しているように見える。

 



新たな局面を迎えた宅配便
2021/7/1 更新

 新型コロナウイルス感染拡大のなかでネット通販の売上が急激に拡大し、これに伴いラストマイルの配送を担う宅配便の取扱量は大幅に増加した。ヤマト運輸は2020年度の宅配便取扱量が20億9700万個となり、前年をほぼ3億個も上回った。対前年の増加率が16.5%と驚異的な拡大を実現したのである。

 過去においてヤマト運輸は、ネット通販の貨物が急増するなかでドライバー不足で配送の現場が対応できず、運ぶ貨物を制限する総量規制を行なった。さらに宅配便運賃の値上げも実施され、宅配クライシスと呼ばれる事態が発生した。
 しかし、今回は、かつてよりもネット通販貨物が大幅に増加しても、宅配クライシスのような混乱を招くことなく、輸送需要の急激な増加に対応した。そして、宅配便運賃はむしろ低下しており、こうしたなかで収益性を一段と高めている。

 配送能力の拡大が必要不可欠であるが、主力であるセールスドライバーの配送効率を高め、より多くの貨物を配送できるようになった。これとともに、新たに配送ドライバーを大量に動員した。ネット通販貨物向けにEASYという新しいサービスを開始したが、ネット通販貨物の輸送を担うのがEASYCREWと呼ばれる配送ドライバーである。主力は請負契約による軽貨物運送業者であり、この一年間に1万6000人を超える外部委託の配送ドライバーを動員している。
 また再配達が減少したことも、宅配便の輸送量の拡大に大きく影響している。新型コロナウイルス感染拡大で人々が外出を控えるようになり、さらにテレワークが行われ在宅率が増加し、その結果として再配達が減少した。再配達率はかつて19.6%もの高い水準であったが、2020年10月の調査データによると11.4%に低下している。再配達率が低下すれば、配送効率が上昇し多くの貨物を配送することができる。
 
 
新型コロナウイルス感染拡大が終息に向かう見通しがいまだに見えないが、ネット通販は今後も拡大を続けると考えられる。コロナ過で新たにネット通販を利用した人々がその便利さを知り、アフターコロナの状況でもネット通販の利用を続けることになるだろう。こうしたなかで、宅配便の輸送需要は今後もさらに拡大することが予想される。
 同時に宅配便の輸送能力の拡大における懸念材料が顕在化する可能性もある。一つは再配達率の上昇である。人々の生活がかつての状態に戻ると、再配達が増加することが考えられる。そうなると、再び配送効率の低下とドライバー負担が増加し、輸送能力が阻害される可能性がある。
 また宅配便需要の拡大にともなって、さらに多くの配送ドライバーを調達していかなければならない。特に相対的に安いコストで配送するためには、軽貨物運送業者のさらなる動員が必要となる。しかし、アマゾンのデリバリープロバイダーやアマゾンフレックスのように、ネット通販事業者も軽貨物運送業者を積極的に動員している。こうしたなかで、ラストマイル配送の新たな担い手となった軽貨物運送業者を充分に調達できるのかが課題となる可能性がある。

 


ドライバーの負担を軽減するリードタイムの延長
2021/6/1 更新

 これまで物流を効率化して物流コストの上昇を抑えていくことが、企業物流の大きな課題であった。これに加えて、いかに必要な輸送力を確保できるのかが重要な課題となっている。企業物流は物流危機のなかで輸送力の確保の問題に直面した。

 加工食品業界や飲料業界における物流危機への対応の一つが、リードタイムの延長である。具体的には、顧客へ商品を提供するのに、これまでの翌日配送から翌々日配送に切り替える。
 多頻度小口化が進展していくなかで、翌日配送が一般的に行われてきた。買い手の企業は手元にできるだけ在庫を持ちたくないために、こまめに少しずつ発注し、できるだけ短時間に届けるように要求した。売り手の企業は、この買い手の要求を受け入れて、短いリードタイムを実現する翌日配送を行なってきた。

 しかし、これは輸送に大きな負荷をかける。翌日配送を行うためには、注文を受けて、深夜から早朝にかけて物流センターでドライバーが配送するトラックへの積み込みを行わなければならない。これは深夜労働でドライバーに過重な労働になっていた。このため、翌日配送はドライバーの過酷な労働をもたらした。
 物流危機が深刻化するなかで、このような過重な労働が行われていては、輸送を担うドライバーに嫌われてドライバーが集まらなくなる。このため荷主企業は輸送力を確保することが困難となる。輸送力が充分に確保できなければ、物流が機能不全を起こしてしまい、企業活動に重大な支障が生じる。
 タイトなスケジュールの翌日配送が翌々日配送になれば、時間的な余裕ができて深夜早朝の積み込みを避けることができ、その結果ドライバーの負担を軽減することができる。ドライバーの確保ができて必要な輸送力を維持することができるのである。
 しかし、貨物を受け取る企業にとっては、翌日配送から翌々日配送にしてリードタイムが延長されることを簡単に受け入れることはできない。翌日配送による短いリードタイムによって、できるだけ在庫を少なくできるメリットを享受しており、これが商慣行としていわば既得権益となっていた。
 既得権益化された商慣行を変えていくのは容易ではない。取引において強い力を持つ大切な顧客を説得しなければならない。このままいけば当たり前の配送ができなくなる深刻な状態となるため、翌々日配送への変更が必要不可欠となる。このような説得が行われたという。物流危機が進行するなかで、これは強固な説得力をもっていた。
 
 
こうして、これまでドライバーが避けたくなるような厳しい条件で配送が行われた業界の物流で、翌日配送から翌々日配送への変更が行われた。こうした変更は、主にメーカーから卸売業者への物流においてであって、さらに川下の卸売業者から小売業者への物流においても、翌々日配送となるリードタイムの延長が期待されている。



ドライバー不足と「働きやすい職場認証制度」の活用
2021/5/1 更新

 新型コロナウイルス感染が拡大するなかで、経済活動の停滞と貨物輸送需要の減少が続いている。こうしたなかで、ドライバー不足に変化がみられる。ドライバーの有効求人倍率は、かつて3倍を超えていたが、直近の今年2月には2.18となり減少傾向が明らかだ。
しかし、基本的にドライバー不足が生じていることには変わりない。かつての物流危機が叫ばれたころに比べれば相対的に緩和されたものの、ドライバー不足はトラック運送業者にとって依然として重要な課題である。

 こうしたなかで、ドライバーの雇用を促すことに貢献する「働きやすい職場認証制度」がスタートしている。これは、トラック運送業者のドライバーの労働条件や労働環境を第三者機関が評価し認証する制度である。この認証制度は、トラック運送業だけでなく、バス事業、タクシー事業も対象となる。
 国土交通省は、自動車運送事業がドライバーの適正な職場環境をつくりあげるホワイト経営の促進を検討してきた。このために創設されたのが「働きやすい職場認証制度」であり、昨年からこの制度の募集が開始された。多くの事業者が応募して、初年度の認証が行われている。
 ドライバーの労働条件や労働環境が整備されていて、働きやすい職場であることが公に認証されることによって、ドライバーは安心して認証された事業者に対して求職のアプローチをすることができる。
 トラック運送業者はこの認証を獲得することによって、優れた職場であることが認められ、ドライバーの採用が促されることを期待できる。厳しい労働条件や劣悪な職場環境が嫌われているなか、働きやすい職場であることを知ってもらうこの認証制度は、トラック運送業者がドライバーを集めるために必要なものであることは明らかだ。

 トラック運送業者に関係する認証制度として、貨物自動車運送事業安全性評価事業のGマーク制度がある。輸送の安全を確保している事業者であることを認証するこの制度も、トラック運送業者にとって重要なものである。現在このGマークを取得している事業所は、全体の事業所数の31%に達する。
 Gマーク制度では、Gマークのステッカーがトラックの車両に張られ、安全優良事業所の車両であることがアピールされる。同じように、働きやすい職場認証制度でも認証を示すステッカーが用意されており、それをトラックに添付することで働きやすい職場であることをアピールできる。

 認証制度の活用という点では、安全性を認証するGマークの取得だけではなく、ドライバー不足に直面するなかで働きやすい職場の認証も重要である。少しでもドライバーの採用を促進できるよう、積極的にこの認証制度を活用することが望まれる。



米でのトラック運送業者の倒産急増とドライバー不足
2021/4/1 更新


 
世界最大の新型コロナ感染者を出しているアメリカで、トラック運送業者の倒産が急増した。新型コロナ感染が拡大した昨年2020年の一年間で、トラック運送業者の倒産は3140件に達した。前年の2019年にトラック運送業者の倒産件数は1100件であったから、新型コロナウイルスに翻弄されたこの年に、トラック運送業者の倒産数はじつに3倍近くに増加した。

 当然予想されることであるが、零細事業者の倒産が多くを占めている。アメリカでは保有車両が6台以下のトラック運送事業者が全体の91%に達しており、20両以下で97%を占める。日本よりも小規模な零細事業者の割合が高い。こうした零細事業者がこの異常時に耐え切れずに倒産に追い込まれていった。
  特に零細事業者の場合、特定の荷主と契約を結んで定期的に輸送するのではなく、スポットの輸送に依存しているものが多い。ドライ・バン、リーファー、平ボディーのトラックで、貨物量が減少したことから、それぞれのスポット運賃が大幅に下落した。これによって、もともと脆弱であった零細事業者の経営が直撃を受けて、最悪の倒産に追い込まれる事業者が急激に増加したのである。

 他方において、トラック運送業者は依然としてドライバー不足の問題に直面している。全米トラック協会の研究機関であるアメリカ輸送研究所が行った調査によれば、昨年2020年にトラック運送業界が直面する問題点を調査したところ、上位10のなかで最も大きな問題として挙げられたのがドライバー不足であった。
 この調査は毎年行われており、ドライバー不足が4年連続してトラック運送業界が直面する第一位の問題となっている。2019年以前にアメリカでも深刻なドライバー不足に陥っていた。しかし、2020年以降新型コロナ感染拡大によって、世界大恐慌と比較されるような経済状況の激変を経験している。こうしたなかでも、依然としてドライバー不足が重要な問題として続いている。むしろ一部では、コロナ過でドライバー不足がさらに悪化しているともいわれている。

 パンデミックが生じ経済封鎖が行われ、貨物輸送需要は減少したが、他方で巣ごもり需要が発生してネット通販のEC貨物の輸送需要は急激に拡大した。こうしたなかで、平均年齢が50歳に近く高齢者が多いドライバーは、新型コロナウイルスに感染する健康上の問題から退職して他産業に去ってしまうものが増加した。ある調査によれば、保有台数が100台未満の小規模のトラック運送業者において、昨年の7月から10月のあいだに約15万人のドライバーが退職したという。
 またこのドライバー不足はいかにもアメリカ特有の要因が働いている。2020年1月から薬物アルコール情報センターによるドライバーへの検査が行われ、薬物乱用の問題で運転資格を失ったドライバーが推計で約4万2000人に達した。こうしたドライバーが労働市場から離脱することで、ドライバー不足が加速されたといわれている。

 新型コロナ感染拡大によって経済の大幅な後退と貨物輸送需要の減少で、トラック運送業者のドライバー不足が改善することにはならない。アメリカのトラック運送業界は、倒産が急増するなかで依然としてドライバー不足の問題を抱えているのである。
 



自家用トラックの有償運送をラストマイルに
2021/3/1 更新


 
昨年末に国土交通省から「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会 提言」が発表された。このなかで今後の労働力不足対策で物流構造を変えていく施策の一つとして、自家用有償運送を活用していくことが示されている。繁忙期に自家用車で貨物輸送ができるように制度を見直すことが提言されている。
 
これまで自家用有償運送については、経済同友会が「物流クライシスからの脱却〜持続可能な物流の実現〜」(2020年6月)で提言している。トラック輸送の供給が制限される物流危機に対応するために、いくつかの特定の条件のもとで自家用トラックによる有償運送を認めるべきで、そのための規制の改革を行うことが必要だと提言している。

 こうしたなかで国土交通省は、実際に自家用トラックの有償運送を拡大していく方針を明らかにしている。具体的には、これまで貨物自動車運送事業法では自家用トラックの有償運送を夏期・年末年始の繁忙期150日以内に限定していたものを、150日以内で繁忙期以外にも自家用トラックの有償運送を可能にする。これを個人住宅への宅配貨物の配送に限定する方針を明らかにしている。期間が限定された条件のもとであるが、自家用トラックがネット通販の貨物を有償で運ぶことができるようにする。
 労働力不足によって輸送供給が制限されるなかで、輸送力を拡大していくために自家用トラック輸送の活用が考えられる。こうしたなかで、現在検討されている取り組みは、自家用トラックによる輸送が認められる範囲が限定されているものの、自家用トラックの活用を拡大することが可能となり、不足する輸送力をカバーしていくことが期待される。

 自家用トラックの有償運送の検討は、先に明らかにした経済同友会や大手ネット通販事業者などの要望を受けて進められてきた。ネット通販事業者にしてみれば、急激な拡大を続けるネット通販の貨物を配送するために、ラストマイルの輸送力を確保する必要に迫られている。そのための一つの方法として自家用トラックの活用を強く望んでいる。
 ネット通販事業者は、ラストマイルの配送に宅配便、ローカルの運送業者、軽貨物運送業者に加え、さらに自家用トラックを活用することができるようになる。これによって、ラストマイルの配送に多様な輸送力を調達することができる。これとともに、自家用トラックの輸送が加わることによって、配送コストの上昇を抑えていくことにもつながる。
 



EC物流市場の拡大
2021/2/1 更新

 
新型コロナウィルス感染拡大で経済活動が低迷するなか、ネット通販は売上の拡大を続けている。これまで、ネット通販は成長を続けてきたが、新型コロナ感染拡大による巣ごもり需要によってその成長が加速された。これに伴いEC(電子商取引)物流市場も拡大している。
 ネット通販のEC物流は一方でラストマイルの配送があり、これを担う宅配便の輸送需要が拡大している。他方で、ネット通販のビジネスには物流センター機能が必要であり、物流事業者によって3PL(サードパーティ・ロジスティクス)の物流サービスが提供されている。3PLの物流事業者にとっても、新型コロナ感染拡大のなかでこの物流市場の拡大がもたらされている。

 最近、自前で物流機能を持たない大手ネット通販のヤフーとヤマトホールディングスが、EC物流に関して提携を結んだ。ヤフーに出店するネット通販事業者に対して、ヤマトがフルフィルメント・サービスを提供する。ヤマトにとっては、ラストマイルの宅配便の配送サービスの提供だけでなく、ネット通販の物流センター機能を担う3PLビジネスを拡大することになる。
 アマゾンは全国的な規模でフルフィルメント・センターを設置してネット通販に必要な物流センター機能をみずから充足している。それだけでなく、FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)によってマーケットプレイスに出店している多くのネット通販事業者に対して、商品を保管して注文に応じて発送するフルフィルメント・サービスを提供している。これは、アマゾンがネット通販事業者に対して物流業務を展開しているのであって、アマゾンはEC物流市場において3PL物流事業者と競合関係にある。

 新型コロナ感染拡大のなかで、不振の店舗販売からネット通販に力を入れる企業が増えている。最近では、D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)と呼ばれているが、製造業者などが、大手ネット通販のモールに出店することなく、みずからサイトを構築するネット通販が拡大している。独自のサイトの構築を支援するショッピファイなどによって、サイトの構築が容易になっている。こうしてアマゾンなどの大手に対抗する新しいネット通販が台頭している。
 大手ネット通販のモールに出店しないで独自のサイトを構築するネット通販は、EC物流でもアマゾンのFBAなどに依存することにならない。コストを抑制して優れたフルフィルメント・サービスが提供できれば、3PL物流事業者を利用する可能性が高まる。こうしたネット通販ビジネスの変化からも、3PL物流事業者にとってEC物流市場の拡大が予想される。
 


ドライバーが運転しない配送が始まる
2021/1/1 更新



 
アメリカの巨大小売業者ウォルマートは、2021年からドライバーなしで自動運転の小型トラックを商品配送のために走行させる。アメリカの南部アーカンソー州のダークストアと呼ばれるネットスーパー専用の物流施設から周辺の小売店舗まで、ネットで注文された商品をまとめて無人の小型トラックが自動運転で輸送する。

 2019年からウォルマートは自動運転車のスタートアップ企業と共同して、わずか2マイルのルートだが、ドライバーが同乗して自動運転の小型トラックによる配送実験を繰り返してきた。そして2021年から州の規制当局の許可を受けて、無人でこの自動運転の小型トラックで商品を配送する。
 同じくウォルマートは、隣のルイジアナ州でも、最初の段階ではドライバーが同乗するが、自動運転の小型トラックによる配送を行う。ここではネットで注文を受けた商品を巨大店舗のハイパーセンターから、顧客が自ら取りに来るピックアップ・ポイントまで、約20マイルの区間を自動運転の小型トラックでネット通販の商品を配送する。

 画期的なことは、特定の区間であるが、ドライバーを必要としない無人の配送が行われることである。これまで、自動運転の大型トラックで実際に貨物を運んで輸送する実証実験が行われてきた。自動運転の大型トラックの場合、高速道路ではドライバーによる運転は必要ないが、出発地から高速道路に入るまで、高速道路から出て到着地まではドライバーの運転が必要となる。ドライバーをまったく必要としない無人化ではなかった。
 ウォルマートは、自動運転の技術の発達に裏付けされて、特定の区間でまさにドライバーなしで商品の配送を行うのである。実際の配送でドライバーを排除するという点で、新たな時代のトラック輸送の本格的な幕開けを告げるものとなる。
 こうした新たなイノベーションを取り入れた物流の進化が、Eコマースを繰りひろげている企業によって取り組まれている。ウォルマートは、アマゾンに対抗してネット通販を拡大しており、このためにラストマイルにつながる物流も自ら強化している。その一環として自動運転の小型トラックによる配送を行うのである。

 ネット通販の巨人アマゾンも、ラストマイルの配送で自動運転車の導入に向けて積極的に動いている。2020年6月にアマゾンは、自動運転車のスタートアップ企業を買収することを明らかにした。かつてアマゾンは物流ロボットの企業を買収し、大量の物流ロボットを自らのフルフィルメント・センターに導入して物流の効率化をはかった。これと同じように、自動運転車の開発企業を買収してラストマイルの配送に自動運転車を積極的に取り入れていくことになる。

 Eコマースの物流において無人化の自動運転車が導入されているが、それが意味することは大きい。自動運転車でドライバーを必要としないことは想定されているが、実際にそれが行われるようになるのは注目すべきことだ。無人化のトラック輸送は、荷主企業の物流やトラック運送業の事業展開に大きなインパクトをもたらす。こうした大きな変化の始まりが起きている。




宅配クライシスの皮肉な結果
2020/12/1 更新

 コロナ禍でネット通販の売上が急増しており、運ぶ貨物が増えてラストマイルの輸送市場が拡大している。この拡大する輸送市場に、宅配クライシスの皮肉な結果を感じざるをえない。
 宅配クライシスの発生によって、ヤマト運輸は大口荷主向けの宅配便の運賃を大幅に値上げした。深刻なドライバー不足で宅配便の輸送能力が制限されていた。この状態を改善するためには、ドライバーの過重な負担を軽減し、ドライバーをより多く雇用していかなければならない。ドライバーの賃金の上昇を含めた労働条件の改善が必要であった。そのための原資を得るために宅配便の運賃の値上げが行われた。

 こうした運賃の値上げによって、供給能力を拡大して宅配クライシスを回避することができるようになったかというと、事態は別の方向に進んでいった。宅配便の大幅な運賃値上げは、ネット通販事業者を脱宅配便に向かわせたのである。
 アマゾンは地域の配送業者であるデリバリー・プロバイダーを使うようになった。さらにアマゾン・フレックスと呼ばれる個人事業者の軽貨物運送業者に運ばせるようにした。デリバリー・プロバイダーも実際には軽貨物運送業者を起業させたりして、その多くを使用している。このため、宅配便より安い運賃で運ぶ軽貨物運送業者が、大挙してこのラストマイルの輸送市場に動員されるようになった。
 さらに宅配便事業者側にも新たな状態を引き起こすことになる。運賃値上げで宅配便離れが進み取扱量が低迷する中で、収益性を維持するために輸送コストをさらに削減する必要に迫られた。このために大きな方向転換がなされた。下請けの配送業者や、さらにギグ・ワーカーと呼ばれる軽貨物運送業者を積極的に採用するようにした。
 こうして、ネット通販事業者だけでなく、宅配便事業者もまた、より安い配送コストを求めて、軽貨物運送業者を動員することになっている。ネット通販のラストマイルの配送をより安いコストで運ぶために、軽貨物運送業者が求められる状態が形成されている。

 一連の流れの中で考えるならば、事態は皮肉な方向に進んだ。本来ならば、運賃の値上げによって、宅配便のドライバーの賃金を上げたり、労働時間を削減したりして、宅配便のドライバーをしっかりと確保し、宅配便の供給力を拡大するはずであった。
 ところが、宅配便の運賃値上げは、結局それとは対極の不安定で相対的に収入が少なく、過剰な労働時間になりやすい軽貨物運送業者のドライバーをラストマイルの輸送市場に招き入れることになった。



ネット通販の3PL物流市場拡大とアマゾン
2020/11/1 更新

 新型コロナウイルス感染が深刻なアメリカで、ネット通販の売上が驚異的な勢いで拡大している。アメリカ商務省によれば、2020年第2四半期(4月〜6月)の全米のネット通販売上高は2115憶ドル(22兆2千億円)で、前年同期に比べて44.5%もの増加となった。小売業全体の売上高は減少しており、ネット通販の比率は前年同期の10.8%から16.1%と一気に跳ね上がった。
 わが国でも新型コロナ感染禍の巣ごもり消費でネット通販の売上が増加しているが、870万人を超える新型コロナ感染者を出しているアメリカでは、ネット通販利用が驚異的な勢いで拡大を続けている。

 
こうしたネット通販の急激な拡大は、同時に物流業者にとって物流市場の増加をもたらしている。ネット通販の物流では、一方でラストマイルの配送を担う宅配便があるが、他方でネット通販のフルフィルメントを担う物流センター業務がある。これは3PL(サードパーティ・ロジスティクス)を展開している物流業者の事業分野となる。
 3PLの物流事業者は、物流センターでネット通販事業者の商品を保管して、注文に応じてピッキングして梱包し発送する。ネット通販のフルフィルメントを担うかたちで、3PLビジネスが行われている。
 アメリカでは、ネット通販の3PLビジネスの市場が急激に拡大している。3PLビジネスのコンサルタントのアームストロングによれば、ネット通販の3PLの物流市場規模は530億ドル(5兆6千億円)に達するという。3PLを展開している物流業者にとって、ネット通販は有望な物流市場となっている。

 このネット通販の3PL物流市場で断トツのトップを占めているのが、じつにアマゾンである。先のアームストロングによれば、アマゾンはネット通販の3PL物流市場において60%のシェアを占めていると推計している。ネット通販最大手のアマゾンが、3PL物流市場でもトップのプレイヤーとなっている。
 アマゾンはFBA(Fulfillment by Amazon)を繰り広げてきた。これは、アマゾンのマーケット・プレイスに参加するネット通販事業者の商品をアマゾンのフルフィルメント・センターで保管して注文に応じてピッキングして梱包し出荷するサービスである。アマゾンは、ネット通販の3PLビジネスと同じ物流サービスを、数多くの同業他社のネット通販事業者に提供している。まさに、このFBAは、アマゾンによる3PLビジネスそのものである。

 FBAはアマゾンの収益をもたらす重要なビジネスの一つとなっている。アマゾンの売上高をみると、ネット通販の販売額は50%程度で、その他に「第3者販売」が19%を占めている。このなかにFBAの手数料収入が含まれている。
 大手宅配便事業者のUPSやFedExも、ネット通販向けの3PLビジネスを繰り広げており、急激に拡大するネット通販の3PL物流市場において既存の物流業者も事業拡大を狙っている。アメリカのネット通販の3PL物流市場は、主要なプレイヤーのアマゾンを中心としてさらなる成長が見込まれている。



景気後退が進むなかで物流の新たな懸念
2020/10/1 更新

 

 新型コロナウィルス感染拡大で経済活動が停滞しており、トラックの貨物輸送需要が減少している。このためトラック運賃が下落しており、スポット運賃の下落も止まらない状態が続いている。輸送する貨物量の減少と運賃の下落によって、トラック運送業者は営業収入が減少して厳しい状況に直面している。これから景気後退が一段と進めば、さらなる状況の悪化が懸念される。

 景気後退による貨物輸送需要の減少は、トラックドライバーの求人にも大きな影響を与えている。厚生労働省が発表した2020年7月の最新の自動車運転者の有効求人倍率は1.95になり、前年同月比の3.04に比べると大幅に低下している。また全日本トラック協会による新しい景況指数によれば、2020年の4月〜6月期の雇用状況(労働力の不足状況)は、「不足」、「やや不足」の割合が減少し、「過剰」、「やや過剰」が増加している。ここにきてドライバー不足が緩和されている。

 これまで深刻なドライバー不足による物流危機が進展してきた。経済活動の停滞による貨物輸送需要の減少は、ドライバー不足によって貨物輸送が制約される物流危機の状況を変化させている。結果的に物流危機が緩和されつつあるが、今後景気後退がさらに一段と進めば、物流業において新たな懸念が生じることが考えられる。
 物流危機に対応するため、ドライバー不足の改善につながる取り組みが行われてきた。例えば、一般的に行われている翌日配送はドライバー負担が大きいため、翌々日配送に変更しリードタイムを延長する。一部の業界の荷主企業は、従来の物流に関わる伝統的な商慣行を変更して、ドライバーの負担を減らし、トラックの輸送力を確保しようとしてきた。これが、結果的にドライバーの労働条件の改善をもたらすことになる。
 またドライバーの長時間労働を是正するために、発の荷主企業と着の荷主企業での待ち時間を削減したり、手荷役からパレットの荷役に変更して荷役時間を短縮したりすることも行われてきた。こうした取組みは、物流危機を背景として荷主企業の十分な理解と協力があって実現される。これらの問題を改善していこうとする荷主企業側のインセンティブは、まさに物流危機にあった。

 ところが、物流危機が深刻化した状態から貨物輸送需要が減少する局面に移行すると、ドライバー負担を軽減する取り組みに対する荷主企業の意欲が薄れることになる。貨物輸送需要が減少するなかで、トラック輸送市場は売り手市場から買い手市場に変化している。買い手市場のもとで、荷主企業は一段と安い運賃と自分に有利な条件を求めるようになる。相対的に十分な輸送力が供給されるようになれば、荷主企業はドライバーの負担を軽減したり、長時間労働を是正したりする取り組みへのインセンティブが希薄化する。その結果、荷主企業の協力を得て進められてきたドライバーの労働条件の改善が滞ることが懸念される。



ドライバーが集まる「働きやすい職場」
2020/9/1 更新

 

 これまでトラック運送事業者は、深刻なドライバー不足に直面して、その確保に苦労してきた。ドライバー不足の原因は、長時間労働など過酷な労働条件にあり、これを嫌ってドライバーが集まらない。逆に、ブラック企業ではなく、健全な労働環境のホワイト経営が行われている事業者であれば、ドライバーも安心してそこで働こうとする。このため、ホワイト経営の事業者と認められることが、ドライバーを集めるうえで重要となる。

 こうしたことを目的として、「働きやすい職場認証制度」がスタートする。これは国土交通省による長時間労働是正のインセンティブ・抑止力の強化の一環として、ホワイト経営の見える化を実現するものであり、ホワイト経営に取り組む運送事業者を認証する制度である。この制度のキーワードはホワイト経営だが、正式な名称は「運転者職場環境良好度認証制度」で、わかりやすく「働きやすい職場認証制度」となった。
 この認証制度は、トラック運送事業者だけでなく、同じくドライバーを雇用するバス事業者、タクシー事業者も対象としている。認証制度では、ドライバーにとって働きやすい職場であるかを客観的に判定するために、法令遵守、労働時間・休日、心身の健康、安心・安定、多様な人材の確保・育成、そして自主性・先進性が審査される。これらの審査項目が得点化されて、一定の基準に達すれば「働きやすい職場」として認定される。

 働きやすさにもランクがあり、ミシュランのレストラン評価のように、一つ星、二つ星、三つ星が用意されている。初年度はまず一つ星から認証が行われる。次年度以降、より優れたランクの二つ星、三つ星にトライすることができる。トラック運送業における「Gマーク」のように、独自の認証のステッカーが用意されており、認証を受ければこのステッカーを車両に貼り付けることができる。これによって、働きやすい職場の事業者であることを広くアピールすることができる。
 これまで、トラック運送業において、安全性、品質、環境問題対応などを担保するために多様な認証制度が提供されてきた。そして、ドライバー不足という深刻な問題を受けて、職場の健全な労働環境を担保するための新たな認証制度が開始された。こうした認証制度を受けるかは、課題に直面する経営者の主体性に関わっている。

 ドライバーをいかに集めることができるのかは、トラック運送事業者にとって依然として重要な課題である。そのためには、健全な労働環境を作りあげるとともに、働きやすい健全な職場であることを客観的に認めてもらい、そのことをこの業界で働きたいと考えている人々に知ってもらうことが重要となる。こうしたことを可能にするのが新たな認証制度であり、認証を受けて星を獲得することでドライバーを集める効果が期待されるのである。




物流企業への就職を決める大学生
2020/8/1 更新

 コロナ感染拡大の影響で大学生の就職活動は例年に比べて遅れてきた。企業の面接も、感染リスクを避けるためにオンラインで行うなど、新たな取り組みが行われている。この異常事態でこれまでと異なった就活が繰り広げられたが、大学生は企業から内定をもらい就活を終えようとしている。
 大学のゼミで学生は物流を勉強しており、物流企業へ就職を希望するものが多い。また採用する物流企業のほうでも、物流を専門的に勉強している学生を高く評価してくれる。このため、ゼミの学生たちの多くが、いくつもの物流企業にアプローチして、最終的に物流企業への就職を決めている。

 今年特に驚いたことは、ある物流企業に5人のゼミ生が内定をもらって、その企業に就職を決めたことである。これまで、同一の企業に2人のゼミ生が就職することはあったが、5人もの学生が同じ物流企業に就職するのは初めてのことである。
 企業側で学生を評価して内定を出してくれるのだが、多くの学生は複数の企業から内定をもらい、最終的に一つの企業を選択する。学生側からも企業に対する評価が行われて、企業を選択することになる。

 物流企業を選択した理由を学生に聞くと、物流企業の経営の安定性を強調した。特定の領域で確実な事業展開を行っており、経営が安定して将来も継続的に働くことができる点を評価したという。その点で物流企業は、景気変動などに大きく左右されることが比較的少なく、相対的に安定していることが評価されているのである。
 また学生は事前に物流を専門的に勉強しているために、物流企業の業務内容をあらかじめ理解している。そのなかで、自分が働きたい物流の業務内容と合致しているために、物流企業を決めたという。
 物流企業への就職を決定する際に、先輩のOB・OGがその企業に働いており、辞めることなく仕事を継続していることも、学生の企業選択の大きな要因だと考えられる。これも物流企業の経営の安定性と関連するが、就活をする学生にとっては、実際に先輩が企業で活躍していることを頼もしく思い、同時にその企業への信頼を高めることになる。

 まったく予期できなかったコロナ感染拡大によって大きな影響が生じているが、物流業界における新卒の労働市場はまだ売り手市場の状態が継続している。こうしたなかで、大学生は物流企業を高く評価して、これからの働き先として決めている。



コロナウィルス感染拡大で追い風が吹く宅配便
2020/7/1 更新

 コロナウィルス感染拡大で、人々が家庭にとどまるなか「巣ごもり需要」が発生して、ネット通販の売上が急激に拡大している。また、コロナウィルス感染の影響を避けるために店舗販売からネット通販へ切り替える事業者も増加しており、これによってもネット通販の拡大がもたらされている。

 物流においてこの恩恵を受けているのが宅配便である。宅配便の取扱量は感染拡大以降大幅に増加している。ヤマト運輸は宅急便の取扱量が直近の5月に対前年比19.5%増となった。同じように、佐川急便、日本郵便も、宅配便の取扱量を拡大している。まさに、コロナウィルス感染拡大による特需が発生している。
 こうした宅配便の状況はわが国に限ったことではなく、コロナウィルス感染の爆発的な拡大にみまわれているアメリカにおいても同様の事態が生じている。大手宅配便業者UPS、FedExは、4月以降宅配便の取扱量が急激に伸びており、年末商戦のピーク時を超える取扱量の拡大を見せている。そして、強気の両社は、国内の宅配便にコロナウィルス関連のサーチャージまで課すようになっている。

 わが国では、コロナウィルスの特需が発生するなかで、宅配便で注目すべき動きが出ている。宅配便事業者が置き配を実施するようになった。コロナウィルス感染拡大で接触による感染リスクがあるために、非対面の貨物受取のニーズが生じている。これに対応する形で、宅配便事業者が置き配の導入に踏み切っている。
 ネット通販最大手のアマゾンは、コロナ感染拡大以前から置き配を導入した。日本郵便は早い段階で置き配を行っており、最近になって佐川急便、そしてヤマト運輸も置き配を実施するようになった。ヤマト運輸では、直接手渡しが安全で確実な優れたサービスと考えられていたが、コロナウィルス感染拡大のなかで、従来の方針を変えて置き配に踏み切った。
 置き配が実施されれば、宅配便の再配達を減らす可能性が高まる。宅配便の再配達率は2019年9月でも15%と依然として高い状態にある。これまで、宅配ボックスの設置、コンビニ受取りなど再配達削減の取り組みが行われてきたが、明確な再配達の削減効果は出ていない。

 コロナウィルス感染拡大で非接触の貨物受取のニーズが拡大し、これを受けて置き配が導入されて再配達を削減できれば、現場のドライバーの負担を減らし、配送効率が改善されて配送コストを削減することができる。宅配便事業者にとって大きなメリットをもたらすことになる。コロナウィルス感染拡大は、こうした宅配便の新たな対応を促している。



コロナウィルス感染拡大とトラックドライバーの失業
2020/6/1 更新



 アメリカでトラックドライバーの失業者が急増している。5月にアメリカの労働統計局が発表した雇用状況の調査によれば、4月の1ヵ月間にトラック運送業において8万8300人が失業した。前月の3月には雇用の減少が3400人だったが、4月には約9万人規模の失業者が発生し、短期間に急激に増加した。
 全米ではこの1ヵ月間で2050万人が失業し、失業率が14.7%となり最悪の状態がもたらされた。こうしたなかで、トラック運送業もトラックドライバーの失業が大幅に増加したのである。

 トラック輸送は全米の貨物輸送の75%を担うメジャーな部分を占めており、ここで働くトラックドライバー数も多い。区域事業者(TL)や路線事業者(LTL)などを含む全米のトラック運送業の雇用者は、3月の152万3900人から4月に143万5600人へと1カ月間に劇的に減少した。
 新型コロナウィルスの感染拡大で経済封鎖が行われるなか、医療品や食料品などの必要不可欠の物資の輸送需要は比較的安定していた。しかし、パンデミックに伴う経済活動の著しい停滞によって、必需品以外の分野で輸送需要が大幅に落ち込んでいる。貨物量が極端に減少し、なおかつトラック運賃もコストを下回るほど大幅に下落している。
 こうした状況で、トラック運送業者は事業の縮小を余儀なくされ、一気にトラックドライバーの解雇に踏み切らざるをえなくなった。そして、失業するトラックドライバーが4月に急増したのである。

 トラック運送業でも宅配便の部門は、4月に前月に比べ逆に雇用を1800人程度増加している。日本でも言われているように、感染拡大による「巣ごもり需要」によってネット通販が急激に売り上げを伸ばし、これによって宅配便の輸送需要が拡大しているためである。
 こうした跛行的な現象は見られるが、全体的にみれば大幅な輸送需要の減少でトラック運送業者はトラックドライバーの大量解雇を余儀なくされている。

 アメリカでは、新型コロナウィルスの感染拡大が始まる前から、トラック運送業は不況局面に突入していた。米中の貿易摩擦問題の影響や製造業での不振で、2019年には輸送需要が減少し運賃も低下しており、トラック運送業者の倒産も増加していた。このままいけばアメリカ経済が本格的な不況に突入して、トラック運送業もさらに苦しい局面に直面するだろうと考えられていた。
 そこで待ち受けていたのは、誰もが予想しえなかったウイルスの感染拡大であり、アメリカ経済が1930年代の大不況と比較されるほどの歴史的な大幅な落ち込みであった。事態ははるかに悪化したのである。そして、トラック運送業でトラックドライバーの失業者が一気に増加した。

 わが国のトラック運送業も比較的似たようなプロセスをたどってきた。昨年後半から消費税増税や米中貿易摩擦の影響を受けて経済は後退局面を迎えており、輸送需要が減少していた。そして新型コロナウィルスの感染拡大は、経済活動の大幅な停滞をもたらし、輸送需要のさらなる急激な減少をもたらしている。
 全日本トラック協会による「トラック運送業の景況感」によれば、1月〜3月期で業界の景況感は悪化しており、今後の見通しでは「大幅に悪化する」とする割合が急増している。さらに、一般貨物の今後の見通しとして、輸送量の削減、運賃・料金水準の下落、営業収入・営業利益の減少を見込む割合が増加している。ただし雇用状況の過剰感については増加しているものの、さほどの増加は認識されていない。

 アメリカでは感染者の規模が驚くほど多く、さらに経済に与えるダメージがはるかに深刻な状況にある。こうしたなかで、アメリカのトラック運送業も輸送需要の大幅な減少で大量のトラックドライバーが失業した。わが国の場合、アメリカのように極端な状態に向かうとは考えにくいが、しかし今後トラック運送業の経営状態が悪化して失業するドライバーが増えることが予想される。




異常事態でのネット通販の拡大と物流
2020/5/1 更新


 新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々は自宅へ留まることを余儀なくされており、ネット通販で必要な生活物資を購入しようとする動きが急激に広まっている。このためアマゾンなどのネット通販は、これまでにないような勢いで売り上げを拡大している。さらに、食料品を中心に家庭まで届けるネットスーパーも、売り上げを大幅に伸ばしている。
 これに伴って、ネット通販の物流の需要も大幅に拡大している。ネット通販のラストマイルを担う宅配便も、感染拡大の影響で一般の貨物の取扱量が減る中で、ネット通販の貨物の取扱が増加している。しかしながら、急激なネット通販の物流需要の拡大で、短期間に物流能力の拡大ができず、ネット通販が対応に苦慮する状況が生じている。

 こうしたことは、わが国だけでなく他の国でも同様に生じている。感染拡大が深刻なイギリスでは厳しい経済封鎖が行われており、これに伴ってネット通販が今までにないほど異常な増加を続けている。食料品を中心としてネット通販を繰り広げているテスコ(Tesco)やオカド(Ocado)は、急激なネット通販需要の拡大の中で、それを支える物流をどう対応させていくのか苦慮している。
 こうしたなかで、テスコは大幅な物流能力の拡大を行おうとしている。テスコは新たに配送用のバン200台以上を確保し、2500人を超える配達用のドライバーを新規に雇い、さらに5000人以上の物流センターの作業員(ピッカー)を確保する。

 恐ろしいほどの感染者数が出ているアメリカでも、ネット通販の需要が急激に拡大している。経済封鎖が行われて店舗が閉鎖を余儀なくされているなか、ウォルマートやアマゾンが急激に販売を拡大している。とりわけアマゾンは、急激なネット通販の需要拡大に対応するために、物流能力を高める大胆な対応を行っている。
 アマゾンは、3月中旬に、ラストマイルの配送を担うドライバーと、フルフィルメントセンター(物流センター)の作業員、合わせて10万人を新たに雇用すると発表した。そして4月中旬には、すでにこの10万人の雇用を達成しており、さらに配送用ドライバーと物流センター作業員を追加で7万5千人雇用することを明らかにした。パンデミックが発生したこの短期間に、アマゾンは物流能力の拡大のために、実に17万5千人もの新規の労働力を確保する。
 そしてアマゾンは賃金も引き上げる。これらの従業員の時間当たり賃金は15ドルだが、これを2ドル引き上げるという。さらに、従業員の残業代を従来の2倍に引き上げることも明らかにしている。こうして、従業員の働くインセンティブを高めて、ネット通販の物流能力を強化しようとしている。

 アメリカでは、コロナウイルス感染拡大で経済が大きく停滞して失業者が急増しており、こうした状況で新規の雇用拡大が容易となる。さらに、アマゾン・フレックスのように、一般の人々が自家用車を使ってネット通販の貨物の配送業務を行うことが可能であり、これも配送ドライバーの確保を容易にしている。
 スーパーなどから食料品などを購入して家庭まで届けるサービスを提供するインスタカート(Instacart)は、宅配需要が急激に拡大しているため、この数か月間に全米で30万人ものピッカーと呼ばれる配送要員を新たに雇用する。これらの配送要員は、基本的にアマゾン・フレックスと同じ一般の人々である。

 今までに経験したことのない異常事態で、ネット通販の新たな物流の需要が急激に拡大している。これに対応するために、ネット通販は物流センター機能を拡大するために作業員を確保し、さらにラストマイルの配送を担うドライバーを調達していくことが必要であり、ネット通販にとってこうした物流能力の拡大が直面する大きな課題となっている。



懸念される不況への突入と物流業のベクトルの変化
2020/4/1 更新


 コロナウィルスの感染拡大で大学の卒業式は取り止めになったが、物流業への就職が多い卒業するゼミ生へのはなむけの言葉でこんなことを言った。「今年卒業する大学生が、売り手市場の就職を経験した最後の大学生になる可能性がある」と。これまで労働力不足が深刻化して、大学生は有利に就活を繰り広げることができた。しかし、これから大きく変わるだろう。

 コロナウィルスの感染拡大によってパンデミックが発生し、世界的に未曽有の事態に陥っている。これにより経済も深刻な局面に移行せざるをえない。人々の移動が制限されて消費が抑制され、さらに生産活動が停止されて、多方面で経済活動が大きく停滞している。世界の株価も大幅に下落しており、まさに不況への突入を示唆している。もともと、世界経済は下降局面にあり、わが国経済も長期に継続してきた景気回復が終焉に近づいていた。コロナウィルスの感染拡大は、経済の悪化を一気に加速させる。
 これに対して政府は大規模な財政出動を繰り広げて、この経済の後退を食い止める努力をするだろう。しかし、もともと景気の後退局面を迎えることと、コロナウィルスの世界的な感染拡大のインパクトの大きさから、経済が深刻な不況へ移行していくことが強く懸念される。

 こうした中で、これまで物流危機をもたらして労働力不足に悩まされた物流業も、今までとは異なった新たな事態に直面することが考えられる。わが国経済が不況に直面した過去を振り返ってみると、このことが鮮明に見えてくる。
 直近では2008年のリーマンショックによる金融危機と世界同時不況の発生がある。この不況への突入前には、景気回復によってトラック運送業のドライバー不足が顕在化して、後に有名になったが14万人のドライバー不足という予測が出された。しかし、金融危機を契機とした不況への移行によって、物流業界も大きく変わっていった。
 この時期にまさに右肩上がりで増加していた宅配便の取扱高が初めて減少して、さらに3PLの売上高も初めて減少を余儀なくされた。そして、貨物輸送需要の減少によってトラック運送業のドライバー不足も解消していったのである。

 さらに劇的な変化を遂げたのは、30年前にさかのぼるバブル経済の崩壊と「失われた10年」と呼ばれる長期不況への移行である。 1980年代末のバブル経済期にもトラック運送業のドライバー不足が深刻化した。これから人口減少が本格的に始まる中で、ドライバー不足はトラック運送業の重要な経営課題となっていた。
 ところが、バブル経済が崩壊して不況に突入すると、このドライバー不足の問題は霧散した。おりしも規制緩和が始まり、不況で貨物需要が減少する中で、新規参入による供給の増加が生じて、過当競争が繰り広げられていく。そして、過当競争の中で、ドライバーの労働条件が悪化していった。

 過去の歴史の単なるアナロジーは避けなければならないが、いうまでもなくトラック運送業は時の景気変動によって大きく左右されており、不況に突入することでそれまでとは異なった課題に直面することになる。
 今までは景気回復でドライバー不足が顕在化し、いかにドライバーを確保して事業を継続していくのかが大きな課題であった。しかし、不況に突入して深刻化すれば貨物輸送需要が減少して、ドライバー不足は大きな問題ではなくなる。むしろ不況によって経済活動が停滞し、減少する貨物をいかに獲得するのかが大きな課題となる。

 ほんの数か月前にだれも予想しなかったコロナウィルスの感染拡大とそれによる経済の大規模な混乱、さらには迫りくる不況によって、今後物流業にける経営課題のベクトルが大きく変わることが予想される。



新型コロナウィルスの感染拡大と物流業者のリスク管理
2020/3/1 更新


 中国の武漢から発生した新型コロナウィルスは、世界的な規模で感染の拡大が続いている。わが国でもすでに全国的な規模で感染が広がっており、全国各地で感染者の増加が続いている。こうした新型コロナウィルスの感染拡大は、事業活動にも大きな影響を及ぼす。トラック運送業においても、新型コロナウィルス感染が拡大することによって、事業が制約される可能性が高まっている。

 運送業でもバスやタクシーは、ドライバーが狭い空間で不特定多数の乗客と接触するため、ドライバーが感染したり、またドライバーが乗客を感染させてしまったりする可能性が高い。これに比べるとトラックドライバーは、人と接触する機会が少ないためそのリスクは小さい。
 しかし、全国的な規模で感染が急激に拡大する状態では、普段にトラックドライバーも感染する可能性が高まっている。これにより、トラック運送業者の業務にも大きな影響を及ぼすことが懸念される。感染症拡大に対するトラック運送業者のリスク管理が重要になっている。

 新型コロナウィルスの感染は現在進行形で悪化しているが、物流業者は感染症のリスクの問題をこれまでにすでに経験している。2009年に新型インフルエンザの感染が発生して、日本中が大きなパニックに陥った。この時に感染拡大によって物流業界も大きな問題に直面した。
 そこで全日本トラック協会はトラック運送業者向けに『物流業における新型インフルエンザ対策ガイドライン 緊急対策マニュアル』を作成した。この対策マニュアルは、トラック運送業者が新型インフルエンザの感染源や感染ルートにならないために、必要な方策を提示している。
 具体的に、経営者、衛生管理責任者、運行管理者などの現場管理責任者、そしてドライバーや倉庫作業員の現場作業員の4つのグループに分けて、取るべき必要な対策を明らかにしている。この対策マニュアルは、基本的に同じ感染症に対するもので、今回の感染拡大に対する対応策としても有効であると考えられる。

 さらに重要なのは、感染がいっそう拡大してパンデミック状態に陥り、大量にドライバーが罹患して事業の継続が困難になってしまう状態に陥った時である。これに対してBCP(事業継続計画)が有効に機能するものと期待される。BCPは、大地震などの自然災害が発生した際に、事業を継続するための対応を事前に計画しておくものだ。今回は感染症BCPが重要となる。
 感染症BCPでは、経営資源が限定された際にどの分野に事業を集中するのか、また人的資源が大幅に制限される中でその代替をどのように確保するのか、さらにはこの間の運転資金をどう確保するのかなどをあらかじめ計画する。こうした行動計画を事前に策定することによって、パンデミック状態でも事業を継続できることが期待される。
 どれだけの物流業者がこの感染症BCPを事前に作成しているのかわからないが、感染症BCPを含めて感染症拡大に対するリスク管理を行うことが、物流業者にとって極めて重要になっている。



トラックの個人事業者はギグ・ワーカー
2020/2/1 更新


 アメリカでは、オーナー・オペレーターと呼ばれるトラックの個人事業者が、重要な役割を担っている。わが国では、ネット通販のラストマイルで注目されている軽貨物が個人事業者である。オーナー・オペレーターはこれと形態が同じだが、大型トラックを運転して全米を駆け巡る。このオーナー・オペレーターをめぐって、最近大きな変化が起きている。

 カリフォルニア州では、2019年9月に州議会法5号(Assembly Bill 5;AB5) が成立した。これは、個人請負労働者を厳格に認定するテストを州の労働法典として成文化するもので、これによって個人請負労働者が従業員として取扱われることになる。
 この法律は別名「ギグ・エコノミー法」と呼ばれている。インターネットを通じて単発に仕事をする形態のことをギグ・エコノミーというが、UberやLiftなどのライドシェアが急激に普及し、ここで働くギグ・ワーカーが個人請負労働者ではなく従業員として取り扱われることになる。
 そこで重要な点は、トラック運送業のオーナー・オペレーターもこの対象に含まれることである。この法律が適用されれば、オーナー・オペレーターの使用者は、個人請負ではなくて従業員として扱わなければならない。
 従業員となると今まで必要なかった最低賃金、超過勤務手当の支払い、さらに失業保険、健康保険、年金、労災保険などの社会保険費用を負担しなければならない。この法律の目的は、急増しているギグ・ワーカーという不安定な労働者の労働条件を改善していくことにある。その対象にオーナー・オペレーターが含まれる。

 カリフォルニア州では、29万1000台のトラックが登録されているが、このうち8万2000台がオーナー・オペレーターのものである。28%のトラックがオーナー・オペレーターによって運行されている。そして、さまざまなトラック運送業者が、オーナー・オペレーターに貨物輸送を委託しており、オーナー・オペレーターへの依存が高い。だからトラック運送業に対するこの法律のインパクトは大きくなる。
 これまでオーナー・オペレーターは、個人請負としてトラック運送業者のもとで不利な条件で働いていたため、従業員のドライバーと同じ条件の待遇改善を求めた訴訟を全米各地で起こしてきた。例えば、オーナー・オペレーターに大きく依存する大手宅配便のFedExはこうした訴訟を起こされており、過去にさかのぼって不足分の補償を支払っている。
 ギグ・エコノミー法は、オーナー・オペレーターを有利にすると考えられるが、しかし状況は複雑である。カリフォルニア州では、この法律が適用されると、トラック運送業に大きな混乱を引き起こすと予想されている。大幅なコスト増となるためトラック運送業者がオーナー・オペレーターを使用しなくなり、このために輸送能力が大幅に制限される可能性がある。オーナー・オペレーター自身も、嫌われて現在の仕事を失う可能性が高まることも考えられる。当然、コストの上昇に対応して運賃が大幅に値上げされることも予想される。

 ギグ・エコノミー法の施行は今年の1月1日であったが、トラック運送業への悪影響を懸念するカリフォルニア・トラック協会(CTA)は、施行の差止めを裁判所に提訴した。これが裁判所に認められ、1月16日に仮差止め命令が出されている。これにより、カリフォルニア州のトラック運送業は、ギグ・エコノミー法の適用から暫定的に除外されることになった。現在その施行が暫定的に停止されているが、今後どうなるか不透明である。
 カリフォルニア州以外にもワシントン州で同様な法律の成立を目指している。また、連邦議会でもギグ・ワーカーに関する法案が出されるようになっている。こうしたなかで、オーナー・オペレーターは、ギグ・エコノミーが急激に拡大するなかで、その存在が大きく変わる可能性がある。



物流政策とトラック運送業者の主体性
2020/1/1 更新


  政府による物流政策はトラック運送業者の事業展開を大きく規定してきた。かつては規制緩和政策がとられ、経済的規制の緩和によって事業者間の競争が促進され、トラック運送業者は厳しい競争関係のなかで対応に追われた。また、安全性を求める社会的規制が強化されて、トラック運送業者は安全運行を強く求められた。

 現在の政府による物流政策のひとつは、物流危機を引き起こして深刻な問題に直面しているトラック運送業者を支援するものである。長時間労働をはじめ過酷な労働条件のもとで深刻なドライバー不足に陥っており、トラック運送業の大きな制約要因となっている。こうした状態から抜け出すために、トラック運送業者を支援するための政策が打ち出されている。

 その一つが、取引環境や労働時間の改善ができるように、トラック運送業者の取り組みを支援するものである。ドライバーの長時間労働が、運転以外の荷待ち、荷役、付帯作業によって生じており、荷主企業の物流現場でこれらを改善することが必要となる。トラック運送業者が荷主企業と交渉してこうした改善をできるようにするために、具体的な方法を提案して労働時間短縮のための取り組みを促している。
  さらに、ホワイト物流推進運動が行われている。ドライバーの労働条件を改善するためには、荷主企業の理解と物流の改善が必要不可欠である。こうした中で、企業に対して、ドライバー負担を軽減するために具体的にどのような物流改善を行うのか、企業の経営トップから自主的に宣言してもらう運動を繰り広げている。ドライバーの労働条件改善のために荷主企業の積極的な取り組みを促すものとなっている。
 また「標準的な運賃」が提示されることになる。議員立法で改正貨物自動車運送事業法が成立し、これに基づいて「標準的な運賃」が作成される。ドライバーの労働条件を改善し賃金を上げていくためには、運賃を引き上げることが必要となる。新たに「標準的な運賃」が提示されることによって、トラック運送業者が運賃交渉を有利に展開し、運賃の値上げを実現できることが期待されている。

 こうした政策は、規制緩和による競争促進政策や、社会的規制の強化というように、国が強い強制力を持って事業者などに従わせるといったものではない。「標準的な運賃」といっても、かつての規制時代の運賃規制とは全く異なっている。現在の直面する課題解決に向けて、トラック運送業者がドライバーの労働条件を変えることができるように、そのための環境整備を多面的に行う施策である。

 規制緩和政策が実施されて以来、事業者の自主性が重視され、状況を打開していくための主体はあくまでトラック運送業者となる。ドライバーの労働時間改善や運賃の値上げでも、物流政策はこれを実現しやすくするように支援するものであり、こうした状況のもとでトラック運送業者の主体性が改めて問われている。



ラストマイルで進む脱宅配便
2019/12/1 更新


 ネット通販のラストマイルを担うのは宅配便であった。もともと宅配便は全国の津々浦々の家庭に荷物を届ける輸送ネットワークを構築しており、最終的に消費者に商品を直接届けなければならないネット通販にとっては、まさに必要不可欠な物流の担い手であった。
 ところがこれが大きく変化している。大手ネット通販は事業の拡大によって、物流センターを全国の主要な拠点に設置し、そこから商品を配送するようになると、全国の輸送ネットワークを持つ宅配便に依存しなくてもよい。ローカルの事業者でもラストマイルを任せることができる。
 さらに、宅配クライシスで、輸送サービスの供給が制限されて、宅配便の運賃が大幅に値上げされるようになると、ネット通販事業者は宅配便に代わる多様なラストマイルの担い手を求めた。

 こうしたなかで、新たな担い手として登場したのが、軽貨物運送の個人事業者である。アマゾンは、宅配便にかわってデリバリー・プロバイダーと呼ばれる運送業者へ貨物を委託したが、これは主に運送業者が軽貨物の個人事業者を束ねて運ばせる形態をとる。
 さらには、アマゾン・フレックスという取組みも行われている。アマゾンが直接これらの軽貨物の個人事業者に貨物を委託して運ばせる。実際に運ぶのは個人事業者なので、束ねる運送業者を除いて、直接配送を委託する形態も出てくる。こうして、ラストマイルにおいて宅配便以外の担い手が登場している。

 アメリカのアマゾンでは、さらに脱宅配便の動きが進んでいる。今年の8月にアマゾンは大手宅配便事業者のフェデックスとの運送業務契約を解除した。三大宅配便事業者のUPS、USPS(アメリカ郵便公社)は依然としてアマゾンの貨物を輸送しているが、輸送量は減少している。すでにアマゾンはみずから2万台の配送車両を調達しており、アマゾンが出荷する貨物の50%近くを自社で配送している。
 ラストマイルの担い手の多様化を進めており、本家のアマゾン・フレックスでは自家用車を持つ個人に貨物を委託して配送させている。さらには、個人による配送会社の起業を支援しており、新たにつくった小規模の配送会社にアマゾンブランドで配送するようにしている。また、自社の従業員に資金提供を行い、同じように宅配ビジネスを始めるプログラムも進めている。このように、多様なラストマイルの担い手が登場して、脱宅配便が急激に進められている。

 アメリカほどではないが、日本でもラストマイルで脱宅配便が進んでいる。その主な担い手が軽貨物の個人事業者であることが特徴だ。この新たな担い手の登場によって配送コストの低減が可能だが、優秀な配送サービスを提供している宅配便に比べて、サービスレベルの低下が懸念される。
 さらに、軽貨物の個人事業者が長時間労働になり、過重労働で疲弊してしまうことも懸念される。それは、働き方改革によって長時間労働を是正していく流れに逆行することになりかねない。



物流危機で変わる物流の商慣行
2019/11/1 更新



 
ドライバー不足による物流危機の発生は、物流の商慣行を変えようとしている。この物流の商慣行とは、これまで長年にわたって問題とされてきたリードタイムの短縮、そして多頻度小口納品だ。

 加工食品業界では、メーカーが卸売業者への納品を従来の翌日納品から、翌々日納品に切り替えている。注文を受けて2日目の配送から3日目の配送になり、従来よりも1日リードタイムが延長される。
 翌日納品のリードタイムでは、深夜におけるトラックへの積込みや早朝の配送が行われ、ドライバーへの負担が大きい。このためにトラックを調達することが難しい。こうしたことを回避するために、翌々日納品へとリードタイムを延長することで、余裕を持たせてドライバーの負担を軽減し、安定した配送を行うことができるようになる。
 
 ドライバー不足でトラック輸送の確保が困難な状況に直面しているメーカーが、納入先の卸売業者に納入条件の変更を求めた。着荷主側も現状の深刻な状態を考慮してこの要請を受け入れ、翌日納品から翌々日納品へとリードタイムの延長が行われるようになっている。
 さらに、多頻度小口納品も変わろうとしている。卸売業者から小売業者への納品は、バラ単位でほぼ毎日配送されているが、発注単位をケース単位にして、納品を毎日ではなく2日に一度にする。こうした多頻度小口納品を改める取組みが一部で行われている。
 ドライバー不足で運賃が上昇し、物流コストの増加が避けられない。これに対応するため、最低発注単位を上げて物流センター内の作業を軽減してコストを抑制する。これとともに、納品頻度を減らすことで、貨物を束ねてトラックの積載効率を上げ、不足するトラックの使用を抑制する。こうした必要性から、これまでの多頻度小口配送を変えることになる。

 これまで物流においてリードタイムの短縮や多頻度小口納品が行われてきた。商品を購入する側は在庫をできるだけ持ちたくないために、こまめに少しずつ発注して少量ずつ多くの回数で納品するように求めてきた。また在庫を少なくするためには、発注から注文までのリードタイムを短縮することが必要であり、さらに販売の機会損失を防ぐためにもリードタイムの短縮が強く求められた。
 しかし、この多頻度小口納品やリードタイムの短縮は、トラック輸送における負荷を高めることになる。トラックの積載効率が無視されて非効率な輸送が行われる。そして短いリードタイムを守るために、運転するドライバーに大きな負担を課すことになる。

 大きな負荷がトラック輸送に課せられながらも、物流の商慣行は発荷主と着荷主との力関係の中でなおざりにされて、長年にわたって根強く継続されてきた。ところが、物流危機が深刻化する中で、持続可能な物流を維持していくために、もはやこうした物流の商慣行を放置できなくなった。ドライバー不足による物流危機は、物流の商慣行という硬い岩盤を崩し始めている。



自動運転のトラックでドライバーの失業時代が到来するか
2019/10/1 更新



 
北海道で今年8月に、自動運転のトラックが公道を利用して貨物を運ぶ実証実験が行われており、自動運転のトラックの実用化に向けた取り組みが進められている。まさに、新たなイノベーションが、これから貨物輸送の世界に導入されようとしている。

 現在トラック運送業界では深刻なドライバー不足に陥っているが、この自動運転のトラックによって状況が一変し、ドライバーが失業する時代がやってくる可能性があるのだろうか。
 アメリカでも自動運転のトラックの開発が盛んにおこなわれており、実用化が目の前に迫っている。そして、近い将来自動運転のトラックによって、大量のドライバーが失業するだろうと言われている。

 こうした中で、つい最近、自動運転のトラックが普及することでどれほどのドライバーがいらなくなるのか分析した興味深い研究が明らかにされた。この研究を行ったのは、アメリカ政府労働統計局の労働が専門の研究エコノミストであり、研究論文は産業と労働に関する専門誌に掲載されている。(Maury Gittleman , Kristen Monaco, “Truck-Driving Jobs: Are They Headed for Rapid Elimination?”) 
 アメリカでは、自動運転のトラックが普及することによって、将来200万人から300万人のトラックドライバーが、その職を失うだろうと予想されている。これに対して、この研究論文では、これは過大な予測であり、自動運転のトラックによって取って代わられるドライバーの数ははるかに少ないと分析している。
 その理由としては、道路上のトラック運転は自動化されてドライバーが必要でなくなるが、実際にドライバーは運転だけでなく、荷主との打ち合わせ、顧客との交渉、貨物の積み下ろし、トラックのチェックなど、運転以外に多様な業務を行っている。これらの仕事も自動化されなければ、依然としてドライバーが必要となる。
 さらに、特定条件下で完全自動運転が可能なレベル4の自動運転のトラックが今後普及するが、これだと実際に走行できる領域が限定される。ラストマイルの市街地などの配送は除外される。対象は大型トラックとなり、しかも近距離ではなく長距離輸送に使用される大型トラックとなる。この分野で、ドライバー数を推計すると、条件によって変動するが、30万人から40万人のドライバーがいらなくなると予測している。

 アメリカにおいて、トラックドライバーは約350万人に達する。日本では、営業用トラックのドライバーが約80万人程度だが、アメリカでは日本の4倍以上のドライバーがいる。そこで、当初予想された200万人から300万人のドライバーが将来失業するというのは、いかにも過大な数値だ。今回の研究結果では、控えめにドライバー数が30万人から40万人と予測している。それでも、単純に比較するとわが国ドライバーの半数になる。そう考えるとかなりの数字である。
 アメリカでは、すでに自動運転のトラックによってドライバーの失業が懸念されており、さらにこれに関して専門的な研究も行われている。こうして、自動運転のトラックによってドライバーの失業時代の到来が考えられているのである。



日米のトラック運送業で共通した局面を迎えている
2019/9/1 更新



 
トラック輸送の荷動きの減少が起きている。国土交通省の「自動車輸送統計月報」によれば、トラックの貨物輸送量は2018年後半から増加を続けていたが、2019年に入り3カ月連続して下回る状態が続いている。
 また、日通総合研究所の「企業物流短期動向調査」からも貨物の輸送量の減少が明らかになっている。「荷動き指数」(「増加する」と答えた事業所の割合から「減少する」と答えた事業所の割合を引いたもの)は、19年の1〜3月でマイナス7となり、直近の4〜6月期ではマイナス15とさらに悪化した。これは、主要な輸送手段であるトラックの輸送動向を反映している。

 輸送需要が減少すると、運賃の動向が注目される。しかし、運賃の低下は今のところ生じていない。トラックのスポット運賃を示すWebKITの成約運賃指数は、今年に入り直近の7月まで対前年を上回っており、依然として高い水準を維持している。
 これはドライバー不足によってトラック輸送の供給が依然として制限されているために、貨物量が減少しても運賃が高止まりの状態が維持されているからである。

 わが国のこのような状況に対して、アメリカのトラック運送業はより深刻な事態を迎えている。貨物輸送の状況を示すCass Freight Indexによれば、直近の7月までにトラック輸送量は前年比で8カ月連続して減少を続けている。また運賃も明らかに低下している。7月のトラックのスポット運賃は、前年同月に比べて37%も低下した。運ぶ貨物が減り続け、そしてトラックの運賃も大幅に低下している。
 アメリカでは、今年に入り貨物の減少によってトラック運送業の景気後退が叫ばれてきた。さすがに、これほど貨物の減少と運賃の低下が続くと、単なる景気後退と言っているだけでは済まされない。8月になると、アメリカのトラック運送業は、明らかに不況(recession)に突入したと認識されるようになった。
 アメリカのトラック運送業は、2016年に貨物輸送の需要が落ち込む不況を経験しており、その後2017年から2018年に回復して好景気を迎えた。この点では、程度の差があるが、わが国と同じプロセスを経過している。特に2018年には貨物輸送需要が拡大し、さらにドライバー不足でトラック運賃が上昇し、トラック運送業者は高収益を享受することができた。そして、ドライバーの賃金も大幅に増加していった。
 ところが、2019年に入ると状況は、一転して悪化の一途をたどっている。貨物量が減少して運賃が下落する中で、倒産するトラック運送業者がでており、失業するドライバーが増えている。またオーナーオペレーター(自営業者)も売り上げの極端な減少を嘆いていることが報じられている。トラック運送業で「大虐殺」(bloodbath)が始まるとセンセーショナルに報道するメディアもいる。
 さらに、アメリカ経済全体への影響が懸念されている。トラックの輸送状況は経済全体の景気の先行指数であり、アメリカの景気が悪化する前兆を示しているからだ。これから本格的にアメリカ経済の景気後退がはじまり、トラック運送業の不況がさらに深刻化することが懸念されている。

 世界的に景気後退が叫ばれる中で、日本とアメリカでは共通して貨物輸送需要の減少が顕在化している。アメリカではトラック運送が不況に突入したと考えられており、よりシビアな状況が生じている。こうしたなかで、わが国でもトラック運送業の貨物需要の後退局面がどこまで進展するのか注目される。



物流危機下における物流企業の経営
2019/8/1 更新



 物流危機が進展する中で、物流企業が経営をいかに展開し、それが業績にどのように表れたのか。ヤマト運輸の決算報告を紐解くと、物流危機の時代における物流企業に求められる対応とその成果が見えてくる。

 2019年3月期(2018年度)のヤマト運輸の宅配便の取扱量(宅急便と宅急便コンパクト)は、16億7千万個となり対前年度5.1%減少した。しかし、宅配便のデリバリー部門の営業収益は1兆3000億円となり、対前年度7.9%の増加を実現している。取扱数量が減少しても営業収益が増加したのは、運賃の値上げによるものだ。宅急便の平均運賃は、前年度の615円から702円と14.1%上昇した。その結果デリバリー部門の営業利益は408億円となり、前年度の68億円から一気に6倍に増加した。収益性が大幅に改善したのである。

 この間に従業員の雇用も大幅に拡大している。デリバリー部門の従業員は20万3千人となり、対前年度6.1%増加している。フルタイマーが3700人、パートタイマーで8000人増加し、年間で1万人を超える新たな従業員の雇用を拡大した。
 ヤマトホールディングス全体となるが、人件費のなかの社員給料は総額で対前年5.2%増加した。しかし、フルタイマー・パートタイマーを含めた一人当たりの平均社員給料は、前年度の257万円から251万円へと減少している。1万人を超える新入社員が入ることで、平均給料を押し下げたと考えられる。

 そして決算報告で働き方改革の実施状況も報告されている。総労働時間の改善では残業が月間80時間を超過した社員数が大幅に減少したほか、一人当たりの残業時間も確実に減少しており、さらに年次有給休暇取得率も8割を超えるようになっている。確実に働き方改革を推し進めている。退職者の比率だが、前年度の3.2%から3.0%に低下しており、従業員が働き続ける傾向が若干だが強まっている。
 ただし、働き方に対する従業員の評価が高まっているわけではない。同社が実施した従業員に対するアンケート調査では、「働きやすさ」、「働きがい」、「働き続けたい」という項目で、従業員の6割以上が評価しているものの、前年度と比較していずれも評価する割合が減少している。働く従業員の満足度を短期間に高めていくのは容易ではない。
 
増加する貨物輸送量に対してドライバー不足で現場のドライバーに過重な負担がかかり、輸送量を抑制した。こうしたなかで、荷主企業に対する運賃交渉力を発揮して、運賃の値上げを実現していった。輸送量の減少を補って運賃の値上げで営業利益の拡大を実現したのである。そして、ドライバーの労働条件の改善を進めて、ドライバー不足に対して積極的に雇用を拡大した。

 運賃値上げの実現、働き方改革の実施、従業員の雇用拡大と、物流危機下で物流企業が直面する課題に対応して、企業経営の良い循環が形成されて業績において一定の成果がもたらされた。こうした経営の展開と実績は、宅配便の寡占化した市場における大手物流企業であるから実現できたともいえる。しかし、市場でのポジションなど置かれている状況は異なるが、物流危機下の物流企業は、このような形で企業経営の良い循環と成果が望まれていることは明らかだ。
 こうして、これまで順調な経営の改善を実現することができた。しかしながら、状況は刻々と変化している。新聞報道によると、ヤマトホールディングスは、2019年の第一・第二四半期とも連続して営業赤字になったと伝えている。
 ネット通販の貨物などをめぐって競争が激化し、宅急便の取扱量が伸びずに営業収入の増加に苦戦し、加えて大量雇用と待遇改善で人件費が増加して連続赤字になったという。市場での競争要因が大きく変化しており、前年度に描かれたシナリオと異なった難しい状況に直面しているようだ。



注目されるアメリカの物流の動向
2019/7/1 更新



 
これまでアメリカ経済は景気回復の過程で成長を続け、貨物輸送需要を拡大してきた。こうした中で物流を担うトラック運送業も旺盛な貨物需要を取りこんで、ビジネスの拡大をはかってきた。だが、長距離輸送を中心としてドライバー不足が深刻で、これがトラック運送業者を悩ませてきた。
 ワシントンポスト紙にこんな逸話が載っている。87歳の年金に不安のある元保険外交員に、大型トラックを運転できる商業自動車運転免許を取得すれば年収5万ドル(555万円)で雇うとトラック運送業者が熱心に勧誘したという。それほど極端にドライバーが不足しており、トラック運送業者は喉から手が出るほどドライバーを求めていた。

 こうした中で、長距離ドライバーの賃金はうなぎ上りで上昇した。例えばウォルマートのドライバーは、最初の年でも8万7500ドル(971万円)の賃金を獲得できたと伝えられている。
 ドライバーの賃金の上昇は、トラックの運賃にすばやく転嫁される。トラック運賃も上昇して、荷主企業の物流コストを押し上げる。コストの増加で利潤を圧迫される企業は、製品価格の上昇に踏みきる。物流コスト増による製品価格の値上げが続いている。こうしたことがさらに進めば、インフレが加速されてアメリカ経済の減速に結び付くとエコノミストが懸念していた。
 そして、最近アメリカのマクロの物流コストが発表されたが、2018年のアメリカ全体の物流コストは前年に比べ11.4%増加した。GDPに占める物流コスト比率も前年の7.5%から8%に膨れ上がった。もちろん、このマクロの物流コストの増加は、輸送コストの増加が大きく影響しており、トラック輸送の運賃の増加が押し上げていることは明らかだ。まさに2018年にアメリカの物流は、トラック輸送が大きなインパクトを与えていたのである。

 ところが、最近そのアメリカの物流で異変が起こっている。最新のデータによれば、大型トラックのスポット運賃は、2019年に入って前年同期比で5ヶ月連続して下落している。さらに、直近の5月には、スポット市場で月間積載量は前年比で62.6%の大幅な減少を見せている。
 スポット運賃やその積載量は、一つの景気の先行指数と考えられるが、明らかにアメリカ経済は減速傾向にあり景気後退が始まっている。景気後退が進む中で貨物輸送需要が減少して、今までとは異なる下方圧力がトラック運送業にも吹き始めている。こうしたなかで、倒産する中堅のトラック運送業者も出現しているという。

 いずれにせよ、明らかにアメリカの物流は景気後退の中で転換点を迎えている。問題はこの景気後退がどの程度進むかだが、それによって昨年まで顕著に見られたドライバー不足に悩みながらも「この世の春」を謳歌してきたトラック運送業の状態が大きく変わる可能性がある。それは、わが国の物流がこれから進むであろう姿を先に見せてくれるかもしれない。



アマゾンの撤退と中国ネット通販の物流力
2019/6/1 更新



 
最近驚かされるニュースが飛び込んできた。アマゾンが中国のネット通販事業から撤退することを明らかにしたのである。

 まさにアマゾンはネット通販の巨人であり、アメリカのネット通販市場では50%近くのシェアを占め、わが国ネット通販市場でもダントツの1位である。ところが、世界最大のネット通販市場の中国ではシェアがわずか0.6%に過ぎず、このたび中国市場からの撤退を決断したのである。
 アマゾンが中国で大いに苦戦を強いられ、ついには市場からの撤退を余儀なくされたのは、中国ネイティブのネット通販事業者との競争に敗退したからに他ならない。中国のネット通販市場で圧倒的なシェアを誇るのはアリババ集団であり、そのシェアは50%にも達する。 そして第2位の京東集団(JDドットコム)が25%のシェアを占める。急激に拡大する中国のネット通販市場でこの2強の快進撃が続き、アマゾンを駆逐したことになる。

 アマゾンが敗退した原因として、安い価格で商品を提供できなかったこと、物流サービスが貧弱であったことが指摘されている。これに対して中国のネット通販の2強は、とりわけ物流において優れたサービスを提供しており、それが両者のネット通販における競争力の源泉の一つになっている。
 アマゾンは、本場アメリカや日本において自ら優れた物流システムを構築してきた。しかし、中国においてアリババ集団もそして京東集団も、これに劣らない物流システムを構築している。かつて、アリババ集団、そして京東集団の物流現場を視察し、その先進性に驚かされた。

 京東集団の大きな特徴は、物流を自前で行なっていることである。中国全土へ宅配便を提供しており、その前の段階の物流センターの機能も自前で充足している。自動化して無人化した物流センターが有名だが、それだけでなく全国各地に巨大な物流センターを建設して運営している。京東集団の本社のある北京で巨大な物流センターを視察したが、ここでは最新鋭の物流ロボットが導入されており、ネット通販の物流で難しいピッキングを効率的に処理していた。
 京東集団は物流技術の開発部門を抱えており、物流ロボットをはじめとした物流自動化機器の技術開発をみずから行っている。次世代のラストマイルを担うドローンの開発もされており、実際に開発したドローンを使用してラストマイルの配送も行われている。
 アリババ集団もネット通販の物流に格段の力を入れている。アリババ集団のグループ企業である菜鳥(サイニャオ)が、ネット通販のために巨大な物流センターを運営している。アリババの本社がある杭州市の巨大物流センターを視察したが、ここでも大量の物流ロボットが導入されており、最新鋭の物流センターの運営が行われていた。サイニャオは、物流ロボットを外部から購入するが、そのソフトウエアは自社開発しており、こうした物流ロボットを物流現場に大量に導入して効率化を図っている。

 アリババ集団、京東集団は、いずれもネット通販のために高度な物流システムの構築を積極的に行ってきた。モノを販売するネット通販事業者であるが、まさに「物流を制するものがビジネスを制する」という言葉通りに、物流に大きな力を注いでいる。そして、ここに中国ネット通販2強の競争力の源泉の一端がある。



ネット通販のラストマイルで進む当日配送とその担い手
2019/5/1 更新



 
ネット通販を利用する顧客は、購入したらできるだけ早く商品を手にすることを望んでおり、このためネット通販事業者は、他と差別化をはかるうえで当日配送が販売戦略上極めて重要だと考えている。

 これまで宅配クライシスのなかで、ヤマト運輸はネット通販最大手のアマゾンの当日配送から撤退した。輸送のスピードが求められる当日配送は、ドライバー不足という深刻な状況で現場のドライバーに対する負担が大きい。こうした事態を回避するために、当日配送を行わないことにした。当日配送は、それだけ物流業者にとって負荷のかかる難しい配送サービスといえる。
 当日配送は宅配クライシスの問題の本質的な部分を示しているが、当日配送サービスを提供しないのは物流業者の都合であって、ラストマイルの物流サービスが必要なネット通販事業者は、当日配送を強く求めていることに変わりはない。そして、以前にもましてネット通販事業者は、この当日配送を積極的に推し進めている。
 ネット通販事業者は、巨大な需要が存在する大都市に物流センターやデポを設置して、物流施設の分散化をはかっている。そこから大規模な需要地域への短距離の配送が可能となり、限定されたエリアとなるが当日配送を行うことができる。
 最近のネット通販事業者の動きとして、首都圏のなかで限定されていた当日配送の圏域を域内でさらに一層拡大している。またこれまで当日配送を実施していなかった全国の主要な大都市においても、新たに当日配送を開始している。

 こうしたなかで、このラストマイルの当日配送を実際に行う担い手が注目される。これまでの大手宅配便事業者の他に、多様な担い手がこの当日配送を繰り広げている。アマゾンの場合に、デリバリープロバイダーと呼ばれる主に軽貨物の運送を行う物流業者によって当日配送が担われている。
 また、アスクルは、100%の子会社であるアスクルロジストが、物流センター業務も含めて、首都圏をはじめ主要な大都市で当日配送を行っている。そして、ヨドバシカメラは、みずからドライバーを調達して大都市の当日配送を行っており、ラストマイルを自家物流で賄っている。
 特に興味深いのは、ラストマイルをネット通販事業者がみずから行っていたり、またはグループ企業という形でいわば自家物流を繰り広げている点である。物流はネット通販にとって生命線だからこそ、それをアウトソーシングせずにみずから行うことになるのだが、それは物流センターを運営するだけでなく、本来アウトソーシング志向の高いラストマイルの配送も、ネット通販事業者みずからもしくはグループ企業が担っている。
  これらは、負荷が大きいために大手宅配便事業者が撤退した当日配送を担い、そこでの短時間の配送を実現するだけでなく、配送時間を細かく設定して確実な配送を行い、再配達率を削減している。きめ細かな顧客満足度の高い配送サービスが提供されている。

  こうしたネット通販の当日配送をめぐる取り組みは、ネット通販という成長するビジネスが求める物流のニーズに対して、いかなる形態で物流の事業展開が行われるのかを示している。



ドライバー不足を改善するための賃金と運賃の関係
2019/4/1 更新



 
最近物流に関する注目すべき本が出た。首藤若菜著『物流危機は終わらない−暮らしを支える労働のゆくえ』(岩波新書)である。一つの驚きは、幅広い分野にわたってさまざまな重要なテーマを取り上げてきた岩波新書で、現代の物流問題に関する本が出されたことである。まさに、物流問題が現代の日本でいかに大きな課題となっているのか、改めて認識させられる。

 現在の物流危機は、わが国の貨物輸送を担うトラック運送業の深刻な労働力不足に起因しており、労使関係論を専門とする著者は、このトラック運送業界の労働力問題に関して詳細に実態を把握して、現状における特有の課題を明らかにしている。
 この本の中で特に注目すべき点がある。現状の物流危機を招いている労働力不足をどのように改善していくのか、その方法についてである。いうまでもなく、トラック運送業の深刻な労働力不足の主な原因は、ドライバーの長時間労働と低賃金にある。とりわけ賃金に関しては、規制緩和以降に過当競争が繰り広げられ、トラックの運賃が低下するなかでドライバーの賃金も低下を余儀なくされてきた。
 このため、労働力不足を改善するためにトラック運送業者はドライバーの賃金を上げることが必要だが、その原資を得るために運賃を上げなければならない。荷主企業と運賃交渉をして値上げを実現し、それをもとにドライバーの賃金を上げていくことになる。ところが、著者はこれとは異なる方法を本書で示唆している。

  トラック運送業者にとって低下した運賃を適正化するために値上げする方法として、事業者同士や事業者団体によって共同で運賃を取り決めるやり方がある。これには標準運賃を設定することなどが含まれる。しかし、こうした共同での運賃設定は、これまで独占禁止法の不当な取引制限の禁止に抵触することになっていた。つまり、事業者が共同して運賃を値上げする運賃のカルテルは締結できない。
 これに対してドライバーの賃金は事業者間で共同して引き上げることは可能である。地域によっては、トラック運送業者のドライバーに対して特定最低賃金制度を導入しているところがあり、賃金の下支えが行われている。このため、賃金に関しては共同して値上げをする合法的にカルテルを行うことが可能となっている。
 そこで、事業者が共同してドライバーの賃金の値上げをする。ここで足並みをそろえてまずドライバーの賃金を上げる。この人件費の上昇を踏まえて、次に荷主企業と運賃交渉を行い、人件費の上昇を含んだより高い運賃を実現していくというものである。
 一見して、鶏が先か卵が先かのように思えるが、認められているカルテル行為を利用して共同してドライバーの賃金を上げて、それをバネにして荷主企業に対する運賃の値上げを実現していくというものである。

 最近の新しい展開として、昨年末に改正貨物自動車運送事業者法が成立し、国土交通大臣が適正な原価をもとにした標準的な運賃を定めることができるようになった。このため、今後この標準的な運賃の設定は運賃の値上げに有効に機能することが期待できる。それと同時に本書にあるように、ドライバーの賃金をカルテル的に上昇させたうえで運賃の上昇を実現するアプローチが考えられる。



ドライバーの長時間労働改善セミナーの重要性
2019/3/1 更新



 
トラックドライバーの長時間労働を改善するためのセミナーが全国で行われている。これは、「荷主と運送業事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたセミナー」だ。国土交通省などが主催し、トラック運送業者や荷主企業を対象として全国の主要都市で実施されている。

 いうまでもなく、現代の物流危機を招いているドライバー不足の主要な原因の一つは、ドライバーの長時間労働であり、これを改善していくことが重要な課題となっている。トラック運送業者の経営者も、自社のドライバーの長時間労働を改善する必要性に強く迫られている。
 この長時間労働が発生する原因は、荷主企業サイドでの手待ちであったり、荷役に多くの時間を費やしたり、数々の付帯作業を強いられたりすることにある。つまり、ドライバーの長時間労働は、荷主企業の物流の仕組みや、荷主企業の物流現場の慣行から発生している。
 このことは、トラック運送業者がコントロールできない領域でドライバーの長時間労働が発生していることを意味している。このため、トラック運送業者がこうした要因による長時間労働を是正していくことが非常に難しい。

 国土交通省は、こうした長時間労働を是正するための具体的な方策を明らかにするために、荷主企業とトラック運送業者が参加する実証実験を行ってきた。荷主企業の物流の仕組みを変えたり物流現場の慣行を変えたりして、長時間労働の改善の方法を検証してきた。そして、これらの長時間労働の改善の有効な取り組みをガイドラインとしてまとめたのである。
 今回のセミナーは、このガイドラインを基にして、トラック運送業者に対して長時間労働を是正するための有効な情報が提供されている。

 長時間労働の是正という現状の大きな課題に対して、改めてトラック運送業者の力量が問われている。なぜならば、長時間労働を是正するためには、トラック運送業者が荷主企業の物流現場で問題点を正確に把握して、荷主企業に具体的な改善方法を提案し、それを実現するために粘り強く交渉していく必要があるからだ。
 トラック運送業者の主体的なアプローチがなされなければ、現状の長時間労働の問題は何も解決しない。長時間労働の問題を是正するためには、トラック運送業者の交渉力が強く求められているのである。トライバーの長時間労働の問題の所在は荷主企業の側にあるが、問題解決のポイントはトラック運送業者の物流のプロとしての交渉力にある。
 こうした取り組みの前提としてこのセミナーに参加し、いかなる改善の方法があるのかを学習したうえで、実際に荷主企業との交渉に入っていくことが必要になる。



トラックドライバーの長時間労働を是正する最新の規制
2019/2/1 更新



 
トラックドライバーの長時間労働は依然として深刻な問題である。長時間労働は改善基準告示に違反するだけでなく、過重労働となり安全な運行を阻害することになる。また長時間労働は、深刻な労働力不足をもたらす要因の一つとなっている。

 このトラックドライバーの長時間労働の問題に対して、アメリカでは注目すべき取り組みが行われている。連邦自動車安全局(FMCSA)は、トラックに対して電子運行記録装置(Electronic Logging Device:ELD)の設置を義務付けたのである。2018年4月1日からトラックはELDを設置しなければならなくなった。
 このELDは、エンジンの稼働状況から自動的にトラックの運行が記録されるようになっている。これによって、ドライバーの運転時間や業務時間などが正確に記録されることになる。これまで運転業務時間などはドライバーが紙に記録する形でもよかったが、長時間労働をごまかす記録の作成が横行していた。ELDの導入によってこれができなくなる。
 ちなみに、アメリカのトラックドライバーに対する労働時間規制は、運転時間が最大で11時間、拘束時間が最大で14時間、7日間で60時間および8日間で70時間の最大運転時間などとなっている。実際には、トラックドライバーは広大なアメリカ国土を縦横無尽に貨物輸送して長時間労働が行われており、法令違反が繰り返されていた。

 ELD設置の義務づけは、この問題を改善するために大きな効果を生む。IT機器によって正確な記録が取られて規制当局へ提出されることになるため、ドライバーはコンプライアンスを厳格に守ることになる。これによりドライバーの長時間労働が是正され、さらにトラック運行の安全性も確保されると考えられている。
 他方で、こうしたELD設置の義務付けは、労働時間規制が厳格に守られるようになるだけでなく、トラック輸送産業に対して別の影響を及ぼしている。労働時間を厳格に守ると、ドライバーはこれまでのように多くの貨物を運べなくなる。このため輸送の供給力が減少する。深刻な労働力不足による供給能力の制限が拡大する。

 当初は、法令違反の長時間労働で稼いでいた収入が減ることによって、トラックドライバーからの転職が増加するのではないかと懸念されていた。さらなる労働力不足を招く可能性があると指摘されていたのである。
 ところが、厳格な労働時間によって供給が制限されることで運賃が上昇して、これがドライバーの賃金の高騰につながる。このため、トラックドライバーの労働市場への参入が促されている。ELD導入の規制が開始された後でも、トラックドライバーは増加を続けている。
 もちろん、これは深刻なドライバー不足を解消するものではないが、規制が始まった当初に懸念されていた事態には至っていない。その意味では、長時間労働に対する新たな規制はその直接的な改善効果だけでなく、労働市場でトラック運転労働の魅力度が増すというプラスの効果を生み出しているとも考えられる。



「ホワイト物流」を推進していくポイント
2019/1/1 更新



 
物流危機と呼ばれる状態が続く中で、政府は「ホワイト物流」を推進する。「ホワイト物流」とは意外な名称だが、ドライバーの過酷な長時間労働が是正され、コンプライアンスが保たれ適切で持続可能な貨物輸送サービスが提供されている物流のことを指している。こうした物流を実現するために、新たな施策を繰り広げる。

 この施策の特徴の一つは、ドライバーの過酷な長時間労働を改善していくために、貨物輸送の需要サイドにアプローチする点である。主な対象の一つは荷主企業であり、荷主企業がドライバーの長時間労働をもたらすような状態を積極的に改善し、「ホワイト物流」を実現するように求めていく。
 これまで荷主企業は、トラック運送業者に対してできるだけ安くそして荷主企業にとって都合の良い利便性の高い輸送サービスを求めてきた。しかし、これがドライバーの長時間労働につながり、コンプライアンスが破られドライバー不足をもたらしていることには無関心であった。

 ところが、ドライバーの長時間労働をもたらす要因は、荷待ち時間やドライバーに負担をもたらす荷役方法、付帯作業などが大きく作用している。これらは、まさに荷主企業の物流現場において、荷主企業の物流の仕組みの中から発生している。
 このため、ドライバーの長時間労働を改善するためには、荷主企業がこうした不合理な物流の仕組みを改善していくことが必要不可欠となる。

 「ホワイト物流」を推進していく取り組みでは、企業の経営トップ層に対して、ドライバーの長時間労働をもたらす物流の仕組みを変えていくように働きかけて、コンプライアンスを実現できる物流にするように促していく。このため、企業の経営トップ層にいかに物流を改善する合意を広めていくことができるのかが、「ホワイト物流」を推進していくうえで重要なポイントとなる。
 物流危機が進行する中で、競合する企業間の物流の共同化が行われたが、その際に企業の経営トップが物流の重要性を認識して、トップダウンでライバル企業との物流共同化を実現させた。こうした事例から明らかなように、企業の経営トップの判断と行動は企業の物流を変えるうえで重要である。
 企業の経営トップ層は、現状の物流を続けていけば問題が深刻化して、企業活動に必要不可欠な貨物輸送サービスそれ自体の提供も困難になる可能性が強まることを認識する必要がある。そして、トップダウンでドライバーの長時間労働の是正に向けて社内の物流を変えていくよう物流現場に改善を促す経営判断が求められている。



急激に進化する中国の物流
2018/12/1 更新



 経済成長を続けて日本を凌駕し世界第2位の経済大国となった中国だが、物流はまだ遅れていると認識していた。数年前に中国を訪れた時、宅配便の仕分けをする物流施設では、ネット通販の貨物がまるでゴミのようにうず高く積まれていた。ラストマイルの配送では、ネット通販の貨物が道路わきの地べたにそのまま置かれていた。
 ところが、今年中国を訪問してネット通販事業者の物流現場をみると、物流の進化を目のあたりにした。中国のネット通販はアメリカを凌駕して世界最大の売上を誇る。最近でも11月11日のアリババの「独身の日」では、一日の売上が3兆5千億円と驚異的な記録を達成した。すごいのはネット通販の売上だけではない、中国のネット通販の物流も急激に進化している。

 中国最大のアリババや、それに次ぐ京東といった大手ネット通販事業者は、ネット通販の物流のために大規模な物流センターを立ち上げて、そこに物流ロボットなどAIを活用した自動機器を積極的に導入している。そこでは、効率化を追求した最先端の物流が繰り広げられていた。日本のメディアでも取り上げられた無人化した完全自動の物流センターを見る機会はなかったが、通常の大型の物流センターでは最先端の技術がふんだんに取り入れられていた。
 激しい競争を繰り広げる大手ネット通販事業者は物流に力を入れており、物流の効率化をもたらすAIを活用した物流ロボットなどの開発そのものや、情報システムの開発をみずから手掛けている。また次世代のラストマイルの有力な担い手となるドローンの開発も、積極的に推し進めている。

 これらの開発のために、技術開発の研究部門では新進気鋭の若手のエンジニアやシステムのプログラマーが動員されており、新たなテクノロジーの開発が行われている。ここで開発された最先端の技術が実用化され、ネット通販の物流の現場に導入されている。
 アメリカのアマゾンは、全米に分散するフルフィルメントセンターで大量の物流ロボットを導入して効率的なネット通販の物流を行っている。中国のアリババや京東も同じように、ますます拡大するネット通販の貨物をさばくために、巨大な物流センターに物流ロボットを導入して効率化した物流業務を繰り広げている。先行するアメリカのアマゾンと比較しても、これらの中国のネット通販事業者は遜色のない先進の物流を展開していると考えられる。

 
ネット通販に見る中国の物流の短期間の進化に驚きを禁じ得ない。ネット通販ビジネスの躍進とともに、これに呼応するかのように中国の物流が急激に進化している。こうした進化の原動力はどこにあるのだろうか。



ドライバーの長時間労働を改善する働き方改革の実践
2018/11/1 更新



 ヤマト運輸を宅配便の一大企業に成長させた小倉昌男さんは、かつて全運研(全国運輸事業研究協議会)を主催していた。その全運研は10月に鹿児島市で全国研修会を開催した。テーマは生産性向上を実現するための働き方改革であり、そこで働き方改革につながるITを活用した取り組みについて、事業者によるいくつかの貴重な事例報告が行われた。
 そのなかで、特に菱木運送の菱木博一社長の報告が興味深かった。菱木社長はヤマト運輸で働き、その後トラック運送業の経営を引き継ぎ、現在働き方改革につながる新たな取り組みを実践している。その取り組みとは次のようなものだ。

 トラック運送の現場でドライバーの長時間労働を防ぐことは大きな課題である。実際の業務において、改善基準告示で規定されている拘束時間を守ることは難しい。少しでも規定を超えると、労働基準監督署の監査で改善基準告示違反となってしまう。
 こうした事態を防ぐために、菱木社長はドライバーの労働時間を管理するための情報システムを独自に開発して導入した。ITを活用したこのシステムでは、ドライバーの労働時間を正確に管理して、複雑な改善基準告示の規定に対応してドライバーが自主的に遵守できるようにする。
 ドライバーは管理システムのアプリが導入された携帯電話を所持して運転業務に携わる。携帯電話を通じて業務の開始や終了などの情報を入力し、それらの情報がすべて管理されるとともに、改善基準告示に基づいた拘束時間の制限などがリアルタイムでドライバーに知らされる。これによって、ドライバーはどのくらい働けるのか把握でき、改善基準告示の規定を超えて働くことを防げる。

 こうしたITを活用した長時間労働を防ぐシステムを導入した効果は大きい。これによって、改善基準告示の法令違反を防ぐことができ、コンプライアンスが実践される。それだけでなく、時間管理を徹底することにより、ドライバーの離職率が減少してドライバーが定着するようになった。さらに長時間労働が是正されて交通事故の発生も減少したという。
 働き方改革の推進は、単にIT機器を活用した時間管理だけにとどまらない。これに関連して、働くドライバーに対する制度的な工夫も行われている。ドライバーの労働時間管理を徹底すると長時間労働を防ぐことができるが、これにより結果的にドライバーの賃金が減少する。それはドライバーの働くインセンティブを削減してしまう。このため、時間外労働の賃金の支給を変更して、これを固定化して支給したのである。これによってドライバーが無理して働きすぎることを防ぐとともに、ドライバーの働くインセンティブも維持することができる。

 現在働き方改革が重要なテーマとなっているが、トラック運送業では長時間労働をいかに改善してゆくかが喫緊の大きな課題である。これに向けて菱木運送のように、経営者による創意工夫がなされている。こうした取り組みが、労働力不足への対応も含めてトラック運送業の経営改善に貢献することに注目する必要がある。




シェアリングエコノミーの可能性
2018/10/1 更新



 海外で配車アプリの利便性を実感した。中国上海の新幹線駅を降りてタクシーを利用すると、タクシー乗り場で30分以上待たなければならない。ところが、配車アプリの滴滴(ディディ)を利用すると、携帯のアプリでドライバーを検索できてすぐに乗車できる。
 営業用のタクシーは車両が古く乗り心地も悪い。タクシードライバーも接客態度が良くない。これに対して、ディディが配車する自家用車は、新しいものが多く乗り心地も良い。ドライバーの接客態度も普通だ。何よりも、良いサービスを提供しているのにタクシーより料金が安い。
 マレーシアではGrab(グラブ)が大手の配車アプリだが、辺鄙なところでも携帯で配車を依頼でき、数分で駆けつけてくれる。もちろん、料金はタクシーよりも安く、しかも定額で提示されていて、渋滞で料金が跳ね上がる心配もない。中国と同様に車両も新しいし、ドライバーの接客も良い。料金が安く、頻繁に利用できるため、移動のためにレンタカーをわざわざ借りる必要もない。

 配車アプリによる自家用車のサービスは、利用する消費者からするとコストが安く非常に便利である。このため利用が急激に拡大しているのは当然のことだ。実際に使用してみると、交通のシェアリングエコノミーが進展している理由が充分に理解できる。
 このシェアリングエコノミーを別の角度からみれば、交通の世界において自家用と営業用に峻別されていたものが、自家用が垣根を乗り越えて営業用の世界に参入することを意味する。
 しかも、そこで提供されたサービスが営業よりも利便性が高く、コストパフォーマンスに優れている。結果的に消費者余剰が拡大する。単純に考えるならば、それを利用する消費者に多くのメリットをもたらしている。

 ひるがえって、貨物分野でこのシェアリングエコノミーはどうであろうか。この典型的な事例は、アマゾンがアメリカで繰り広げているアマゾン・フレックスだ。携帯の専用アプリを利用することで、自家用車を所有して運転する個人をネット通販商品の配送の世界に動員する。専用のアプリを利用すれば、位置情報が提供されて配達先が自動的に示されて、プロのドライバーでなくとも個人が容易に配送業務を行うことができる。
 こうした配送サービスを利用する側にとっては、限られた営業用の配送に限定されずに、広く新たな輸送力を導入することができる。しかも、自家用車の個人が行うために、コストパフォーマンスに優れている。こうして、アメリカではあるが貨物の世界のシェアリングエコノミーが出現している。

 周知のように、わが国では政府の規制によって自家用と営業用が明確に区分されており、ウーバーのような配車アプリで自家用車を使用して営業行為はできない。貨物の世界でも同じことで、「白トラ」行為となる。だから、他の国に見られるような、旅客と貨物のシェアリングエコノミーが行われているわけではない。
 世界でシェアリングエコノミーが進展するなかで、旅客においてその利便性を実感すると、貨物の分野でも長期的に見ると利用者の利便性が重視されて、このシェアリングエコノミーが出現する可能性も出てくるのではないかと考えてしまう。




物流危機で進むトラック運送業者の格差
2018/9/1 更新



 最近では「物流危機」という言葉が使われている。インパクトの強い言い方が好まれていて過剰な表現だと考えられなくもない。しかし、物流が大きな問題に直面していることはまぎれもない事実である。そして、物流が危機的状況に陥っている最大の原因は、深刻なドライバー不足にある。このドライバー不足は依然として悪化を続けている。
 全日本トラック協会の「トラック運送業の景況感」で、雇用状況の悪化を示す指数はこれまで右肩上がりで増加してきた。2018年1月〜3月期をみるとこの指数はさらに上昇しており、これまでの最大になっている。また今後の見通しでもドライバーが不足すると答える割合が高くなっており、ドライバー不足はさらに深刻化すると考えられる。

 こうしたドライバー不足の極めつきは、企業そのものが倒産してしまうことである。帝国データバンクの調査によると、2013年から2018年上半期までの5年半に人手不足倒産は417件発生したが、このうち最も多い業種はなんと道路貨物運送業で27件にのぼった。直近の2018年上半期でみると、人手不足倒産は前年同月の49件に比べて70件と大きく増えているが、このうち7件が道路貨物運送業であった。
 依然として道路貨物運送業の人手不足倒産が増え続けている。かつてバブル期には「レーバー倒産」と呼ばれたものだが、労働力不足が極まると企業そのものが消滅してしまう。このような事態が今再び生じている。

 ドライバー不足を克服するためには、根本的にドライバーの賃金を上げて労働時間を削減することが必要不可欠である。働くドライバーにとって魅力的な職場にすることである。そのための原資として荷主企業に対する運賃の値上げが必須となる。
 確かに運賃は統計を見ても最近確実に増加を続けている。しかしながら、当然これも跛行性があることは明らかだ。問題はそれを実現できる物流業者とできない物流業者があり、その格差が存在していることだろう。
 宅配クライシスが生じた宅配便では、ヤマト運輸が大幅な運賃の値上げを実現した。一方的だとか、横暴だとか荷主企業から大きな批判を受けながらも運賃の値上げを実現している。しかし、これも基本的に宅配便の寡占体制の中で大手企業であるからこそできることであって、中小零細が多い一般のトラック運送業者にとって容易ではないことは明らかだ。

 こうしたなかで、運賃の値上げができて賃金の上昇や労働時間の削減を実現できるトラック運送業者には、より有利な雇用状況を求めるドライバーを集めることができるだろう。逆に、それができないトラック運送業者は、そもそもドライバーが集まらないだけでなく、既存のドライバーの離職が促進される。ますますドライバー不足が深刻化することになる。
 ドライバー不足をめぐりトラック運送業者間の格差が明確に表れるようになり、それが極端な場合に倒産という形で淘汰を促進することになる。トラック運送業者にとっては、ドライバーを集めることができる経営力が極めて重要となる。



物流業界で3PLビジネスが成長している
2018/8/1 更新



 3PL(サードパーティ・ロジスティクス)のビジネスが順調に拡大している。単純に輸送だけでなく、物流センター業務を含めて荷主企業の物流そのものを包括的に請け負うビジネスだ。物流企業としては、荷主企業の多様な物流機能を担う複雑系の物流ビジネスとなる。

 物流の業界誌LOGI-BIZが発表している3PL市場の規模は、2016年度で2兆5千億円に達した。リーマンショック後の世界同時不況時に後退があったものの、以降右肩上がりで市場規模が拡大している。近々2017年度の市場規模が公表されるだろうが、引き続き増加が予想される。
 また同じくLOGI-BIZが発表している「物流企業番付」(売上、利益の規模や伸びで評価したランキング)でも、3PLビジネスに特に力を入れている物流企業がトップを占め、さらに他の3PLの物流企業がこの番付の上位を占めている。3PLビジネスは、売上の拡大を実現しながら、しかも高い収益性も達成しており、たくましい成長を続けている。

 最近では、3PLの物流企業が大胆なM&A(企業の合併・吸収)を繰り広げて、ビジネスの拡大をはかっている。大規模なメーカーなどの物流子会社を買収して傘下に収める。物流子会社が担っていた親会社の物流業務を獲得するだけでなく、その業種の物流ノウハウを取り入れてプラットフォーム化し、その業種の他企業の物流を取り込むという大胆な事業の展開も行われている。
 物流に悩む企業が自社の物流を外部委託しようとする動きが、3PLの市場拡大をもたらしている。自社物流が効率的ではなく物流コストも高く、多くの問題を抱えてきた企業が、3PLの物流企業に外部委託してきた。最近では、労働力不足が深刻化するなかで、安定した物流を求めて外部委託する傾向が強くなっている。まさに、企業が直面している現代の物流の問題が強く影響し、3PL市場が拡大する要因となっている。

 いうまでもなく、3PLの物流企業がこうした企業の物流の課題にしっかりと対応できる能力を持っていることが重要である。最近でも3PLの物流企業によって、直面する課題に対応した新たな取組が行われている。労働力不足に対応して、物流センターで自動化機器や物流ロボットを導入して、高度化した物流システムを運営している。これまでの人手に依存した物流センターの業務から、省力化してさらに効率性を高める試みがなされている。

 3PLの物流企業は、問題を抱えるわが国の物流において、課題への対応能力を高めながら、企業が求める物流のニーズを取り込み、事業の拡大を続けている。



深刻なドライバー不足への対応で共通するアメリカと日本
2018/7/1 更新



 アメリカのトラックドライバー不足が、一段と深刻な状況に陥っている。日本でも最近クライシス(危機)という言葉が使われているが、アメリカのドライバー不足は、まさに今クライシスを迎えているといわれている。
 とりわけ、長距離ドライバーは、全米を駆け巡る長時間労働の過酷な労働条件のため、極めて深刻な状態になっている。アメリカトラック協会(ATA)によると、長距離ドライバーの不足は、2016年に3万6千人に達していたが、2017年末には5万1千人にのぼるという。これがさらに増え続けているのだ。

 好調なアメリカ経済は、全米規模で貨物輸送需要を押し上げている。絶好調のアマゾンは、ネット通販の貨物を増加させてドライバー不足を加速していると批判されている。これに加え、昨年12月から連邦政府がドライバーの運転時間を11時間以内に制限する規制を実施したため、ドライバー不足がさらに助長された。
 こうした状況の中でATAはドライバー不足に関する報告書を出しており、ドライバー不足に対していかなる改善策があるかを明らかにしている。

 まずはドライバーの賃金の上昇だ。市場メカニズムが作用して、ドライバーの供給が不足する労働力市場で賃金の上昇が必要だとしている。ドライバーの労働市場で市場メカニズムが働くことを強調している点がいかにもアメリカらしい。
 実際にドライバーの賃金は大幅に上昇している。個別では、次のようなケースが明らかにされている。あるトラック運送業者は、今年ドライバーの賃金をなんと15%引き上げた。年間の賃金は8万ドル(約870万円)に達した。しかし、それでもドライバーは集まらない。このため、この経営者は今後さらに10%の賃上げを実施するという。
 アメリカでは市場メカニズムが作用して、ドライバーの賃金はすさまじい金額に跳ね上がっている。それでもドライバーは充分に確保できていない。

 さらに、ATAのレポートは、ドライバーが家庭にいる時間を増やすことが必要だと指摘する。そのために、小売業などが物流センターを核としてハブアンドスポークシステムを採用し、ドライバーがスポーク間の運転を繰り返すことができるようにする。こうして定期的な運転時間が確保されて、家庭にいることができる時間を増やす。これは、日本では中継輸送を実施することで、長距離運転者のドライバーが家に帰れるようにするのと似ている。

 また、ATAのレポートは、ドライバーが荷主企業の物流センターなどで差別的な取り扱い受け長時間にわたって待たせられており、こうした状態を改善することが重要だと指摘している。アメリカでも、ドライバーの長時間労働の一つの原因が、荷主企業先での待機にあり、その是正が求められている。日本でのドライバーの荷待ちと同じ問題が生じており、ドライバー不足を改善するためにこの問題に取り組む必要性があることは、日米で共通している。

 そして、アメリカでは州際のトラック運転は21歳以上の年齢制限があり、このため18歳から20歳の最も失業率の高い若年層が運転労働に加われないという制約がある。この年齢制限を下げることで、若年労働力が労働市場に参入できるようにすべきだと指摘されている。若年労働力を取り込む制度的な枠組みの変更という点で、日本の中型免許の改定と似ている。
 このように、深刻なドライバー不足に対する改善策は、アメリカと日本で共通しているところが多い。対策のメニューとしては限定されているということだろうか。それと同時に、今のところドライバー不足の決定打がないことも共通している。



どこまで歴史は繰り返すのか
2018/6/1 更新


 NHK連続テレビ小説「半分、青い」がおもしろい。主人公の鈴愛が漫画家になるために岐阜の山奥から東京に出てきて、有名な漫画家のスタジオで働く。時はまさにバブルの絶頂期で、鈴愛もディスコでタイトなミニスカートをはいて、派手なセンスを振りかざして踊る。

 鈴愛が上京したこの時期の新聞をみると、その内容に驚かされる。1990年の8月と10月の日本経済新聞の記事の内容だ。
 トラック運転手の人手不足は一段と深刻化している。中小業者の中には人手不足によるレーバー倒産も出始めており、輸送能力は限界に達している。
 トラック業界は、運転手の求人難と労働時間短縮による人件費上昇を理由に、実勢運賃を度重ねて大幅に値上げした。
 おもわず2018年の現在の状況を説明しているものと勘違いしてしまう。これは約30年前のもので、時期がまったく異なる。ところが、この時期の物流の状況は、現在と極めて酷似している。最近労働力不足でトラック運送業者の倒産も報じられているが、当時も同様なことが起こり、「レーバー倒産」と呼ばれているのが面白い。今まさにバブル期と同じことが起きていて、歴史は繰り返されているのだ。

 そこから後が問題だ。翌年になると、新聞の記事の内容が変わり始める。1991年10月の日本経済新聞の記事である。
 倉庫やトラック輸送に景気減速の影響が広がってきた。需要が頭打ち傾向を見せ始めたほか、値上げを受け入れてきた利用企業が一転、料金引き上げに強く反発し始めている。トラックの実勢運賃も弱基調だ。
 1991年にはいると、バブルが弾けた後に、「失われた10年」と呼ばれる長期の不況に突入する。この記事は「失われた10年」のはしりの状況を説明していることになる。その後トラック運送業界は、不況が深刻化するなかで、規制緩和が行われ、過当競争のなかでバブル期とは真逆の苦しい状態に置かれる。そして、これからも重大な問題であると考えられていたドライバー不足も一変してしまった。
 2012年12月の第2次安倍政権が誕生して以来、景気の回復局面が続いてきた。「いざなぎ景気」を超えて、戦後2番目の景気上昇局面を経験しつつある。現在の物流業界の在り様に最も大きな影響を与えているのが、この景気回復である。景気循環の観点から見れば、それが長く続けば続くほど、その終焉が身近に迫っている可能性が高くなる。

 ここでも再び歴史は繰り返されるのであろうか。まさにバブル経済が弾け、その後に長期的な不況が物流業界を奈落の底に陥れたように、景気局面が突如として変化することがあるのだろうか。そうなれば、バブル期に連続してまた歴史が繰り返されることになる。
 しかし、これはあくまで歴史の単純な類推だし、推測にすぎない。そもそも、景気循環で下降局面が来るかもしれないが、それがどの程度の深さになるのかは未知数だ。さらに、バブル期と比べ人口は絶対的に減少しており、労働力人口も少なくなっている。このため、単純に労働力不足が解消するとは言えないだろう。いずれにせよ、先を見通すことは難しい。
 バブル崩壊後に鈴愛がどう生きていくのかを楽しみにしながら、変換期が近い日本経済のこれからの行き先を注目することになる。



「脱デフレの優等生」の可能性
2018/5/1 更新


 4月になると食料品など消費者に身近な商品の値上げのニュースが流される。この時期は値上ラッシュが起きるが、値上げの理由は物流コストの上昇である。こうした物流コストによる値上げは、消費者向け製品に限らず、産業材さらにはネット通販の配送料にいたるまで、経済の幅広い分野に及んでいる。
 物流コストの上昇は、いうまでもなくトラック運賃の値上げによるものである。昨年来、宅配クライシスと呼ばれるネット通販貨物をめぐる宅配便による輸送の混乱の中で、宅配便運賃の値上が行われた。宅配便に限らず、特別積み合わせの運賃や、一般貨物の運賃も相次いで値上げされている。こうしたなかで、日本経済新聞では「陸運、脱デフレの優等生」と持ち上げている。

 トラック運送業では、深刻な労働力不足によって輸送供給能力が制限される状況で、ようやく荷主企業に対する交渉力を発揮し、運賃の値上げを実現している。そして、運賃値上げを原資として、これまで不十分であったドライバーの賃金の値上げが行われ、さらに労働条件の改善が行われようとしている。ここでも、ドライバーの賃金上昇を実現しつつあるトラック運送業は、産業の全般的な賃金上昇の「けん引役」を果たしていると評価されている。

 「脱デフレの優等生」、「賃金上昇のけん引役」という表現は、これまでのトラック運送業にまったく縁遠いものであった。むしろ、これらの表現とは真逆の状態にあった。これまでにない新しい事態が生じていることは明らかだ。そして、このことは、これまでのトラック運送業の構造から起因する諸問題からの脱却しつつあることを意味している。
 過当競争の中で荷主企業に押し切られて運賃の低下を余儀なくされ、低運賃をカバーするためにドライバー賃金が削減された。そして低い収益性に甘んじざるをえなかった。それが深刻な労働力不足をもたらし、貨物輸送サービスの供給が制限されることになった。まさに負のスパイラスともいうべき状況に陥っていたのである。

 そして労働力不足は深刻な事態をもたらしたが、それによる供給能力が制限されるなかで、荷主企業に対する交渉力を高めて運賃の値上げの実現しつつある。賃金の値上げや労働条件の改善を実現しようとしており、ドライバーを確保して供給能力を維持して拡大し、そこから収益性を高めようとしている。
 もちろん、多層構造のトラック運送業では、依然として運賃の値上げが容易に進まず賃金の上昇などできない、苦悩する中小事業者が多く存在している。しかし、一部であっても新たな事態が顕在化しているのであって、まさに、従来の負のスパイラルから抜け出して健全な物流のビジネスを発展させていくプロセスが繰り広げられようとしている。



就活をする大学生と物流企業の人材確保
2018/4/1 更新


 新年度を迎えて大学生の就職活動はピークに達する。こうした中で、物流企業の労働力不足はトラックドライバーだけでなく総合職の人材にも及んでおり、物流企業による大学生の新卒採用は難しい状態が続いている。
 これまで物流企業は新卒の採用活動を行ってきたが、物流企業を受ける学生が少なくなったり、面接を繰り返して内定を出しても最終的に断られるケースが多くなったりしている。このため、物流企業は必要な新卒の採用数を確保することが難しくなっている。

 そもそも大学生は物流についてあまり知る機会がない。高校までに特に物流に関して勉強していない。大学では、経済学部、商学部、経営学部であれば、物流論やロジスティクスの講義が設定されており、受講すれば、物流とは何か、物流業の存在や役割について知ることができる。しかし、これらは選択科目の一つであり、必ずしも履修する必要はない。
 したがって、全般的に見れば、大学生の物流業や物流企業に対する認知度は低く、積極的に物流企業に就職を希望する学生は多くない。物流企業に就職したいと考えている学生が少ない中で、最初から物流企業を希望する学生をいかにリクルートするのかが重要となる。
 その際に、学生が物流企業の現場で実際に働くイメージをしっかり持つことがとても大切になる。物流企業は、入社した後に働く物流の現場の仕事を適確に伝え、学生もそこで働く面白さをあらかじめ見いだすことができれば、その物流企業を選ぶことにつながる。さらに、会社に入った後でも、仕事に対するへたな幻想を持つことなく、物流現場でのハードな仕事も続けていくことができるだろう。

 今では大学生は数多くの内定先を得て、最終的に一つの企業を選択する。大学生が企業を選択する際には、年収や福利厚生、休日の取得状況、残業の状態などを比較検討する。それと同時に、先に入った先輩が辞めずに働いている会社であることに強い安心感を持つ。継続して仕事ができる職場環境であることが重要だと考えている。その意味で、働き方改革が必要な企業はそれを積極的に実践することが、人材をリクルートするうえでも重要だし、必要不可欠となっている。
 物流企業を選択した学生に話を聞くと、企業の会社組織が自分とあっているから決めたと答える学生が比較的多い。これは多分に感覚的な部分だが、その企業の社風と大きく関係しているのだろう。これは学生自身が本能的に感じ取る自分に適合した組織を選ぶセンサーが働いているのかもしれない。

 採用活動がピークを迎えるが、それ以前の段階に学生を職場体験させるインターンシップが重要な意味を持つ。しかし、最近ではわずか1日だけで非常に短いものや、逆に物流の現場で比較的長く仕事を経験させるが、物流の仕事の面白さをうまく伝えていないインターンシップもあると聞く。採用活動の入り口から、物流企業の熱意と工夫が期待されている。




ドライバーの長時間労働改善に向けて
2018/3/1 更新

 国土交通省は、ドライバーの長時間労働を是正するためにパイロット事業を行っている。このパイロット事業では、実際の物流現場でドライバーの長時間労働の原因となっている物流の仕組みに焦点を当てる。そして、トラック運送業者と荷主企業が協働して新たな物流の仕組みを導入し、ドライバーの労働時間の削減効果を検証するというものである。
 例えば、これまでのパイロット事業では、次のような実証実験が行われている。典型的な長時間労働の原因として、物流センターや倉庫での荷待ちがある。これに対応するために、荷主企業側でトラックへの荷役の予約システムを導入して、荷待ちの待機時間を削減する。
 また、発荷主と着荷主でドライバーが手荷役や仕分・検品などが義務づけられており、これらが長時間労働の原因になっている。これに対してパレット荷役や仕分・検品を省略する仕組みを導入して、荷役時間や付帯作業の時間を削減する。

 こうしたパイロット事業による実証実験の成果は、ガイドラインとして公表される予定である。これによって、トラック運送業者がドライバーの労働時間削減を実現する方法や具体的な進め方が把握できるようになる。トラック運送業者は、パイロト事業の事例を参考にして、実際の物流の現場でどのケースに当てはめて改善できるのかを考え、荷主企業との検討に入ることができる。
 荷主企業の物流現場で新たな仕組みを導入することによって、確かにドライバーの長時間労働を削減することができる。しかし、これによって新たなコスト負担が生じたり、ほかの所に別の負荷が発生したりする。このため、発荷主や着荷主との間に、新たな物流の仕組みの導入の合意形成が難しい場合も出てくる。パイロット事業で削減効果が出たケースを単純に当てはめて、簡単に実現できるわけではない。
 荷主企業に対するトラック運送業者のしっかりとした交渉力が必要不可欠だ。トラック運送業者は長時間労働をもたらしている現状を正確に把握して、それを改善するための合理的な新たな仕組みを提案し、粘り強く交渉できるかが重要となる。

 さらに、もう一つの重要な要素は、荷主企業の理解力である。みずからの物流現場で、不合理な物流の仕組みによってドライバーの長時間労働が発生しており、それが運ぶドライバーを疲弊させ、労働時間の法規制をも犯すことになる。こうしたことを荷主企業がしっかりと認識できるかである。
 そして、こうした状態を避けるためにトラック運送業者とともに考えて、必要であれば顧客である着荷主も説得し、さらに新たな費用負担も受け入れて全体的に合理的な物流現場を作り上げる。このような考え方を持つ荷主企業が増えることを期待せざるを得ない。



トラックの自動運転が物流を変える
2018/2/1 更新

 年が明けて東名高速道路でトラックによる自動運転の実証実験が行われた。自動運転の技術が搭載された3台のトラックは、後に続くトラックが先頭のトラックを自動的に追尾し隊列走行を繰り広げた。実証実験の開始は、わが国でもトラック輸送の新たな時代が到来するものとして注目される。

  トラックの自動運転に対する取り組みは、日本よりもアメリカで活発に展開されている。開発の主体は自動車メーカーに限らず、シリコンバレーの企業まで含め多様な企業が、自動運転の新たな市場の確立を目指して開発競争を繰り広げている。トラックの自動運転の開発のために、2017年に10億ドル(1100億円)が投資され、その投資額は3年前の10倍に急増したと指摘されている。
 ウーバーに買収されたオットが、バトワイザーのビールを積載して自動運転の実証実験を行った。また、ボルボやダイムラーなどの自動車メーカーを中心として、高速道路で日本と同じ隊列走行の実験がすでに行われている。さらに、電気自動車メーカーのテスラが自動運転技術を備えた電気トラックを近く発表する。
 トラックの自動運転が実用化される可能性が高まる中で、この新たな技術革新がトラック輸送や物流業界にどのようなインパクトをもたらすのか。アメリカではこうした議論が繰り広げられている。

 最近注目されたのが、ゴールドマンサックスのエコノミストが明らかにした自動運転の影響である。25年後に、バス、タクシー、トラックを含めて、1年に30万人のドライバーが職を失うという。これから四半世紀先の技術進歩で完全自動運転が確立することを考えれば、ドライバーの大量失業時代の到来を予想することは可能かもしれない。しかし、現時点でこの長期的な予想はあまり意味をなさない。
 少なくともここ10年間は、ドライバーが運転席にいる状態で自動運転が行われると考えられている。こうしたスパンでは、全くの無人走行は時期尚早で、ドライバーが依然として必要となる。
 高速道路の長距離輸送で自動運転が行われるが、出発地から高速に入るまで、高速の出口から目的地まで、市街地の走行は人間ドライバーによって運転される。自動運転によって高速道路の長距離運転でドライバーは運転労働から解放されて、自由な時間が確保されることになる。

 現在アメリカでは310万人ものトラックドライバーがいるが、長距離輸送を中心としてドライバー不足が深刻になっている。全米トラック協会によれば、現在5万人ものドライバーが不足して、今後8年間で90万人の新規ドライバーが必要となる。
 こうしたなかで、自動運転技術の導入はドライバーの長時間におよぶ運転労働の負担を軽減し、ドライバー不足を緩和するものと期待されている。自動運転は運転労働に従事するドライバーと雇用する物流業者の双方に、当面経済的なメリットをもたらすと考えられている。

 また別の見方もある。自動運転によってトラックの車両は、1日11時間、週60時間を上限とするドライバーの労働時間に縛られることなく、24時間7日間の連続した稼働が可能となる。それは結果的に輸送コストの削減をもたらす。さらに、ドライバーは長時間の運転労働をしないのだから、従来のような賃金を支払う必要がない。このためドライバーの賃金は低下する。さらに、自動運転はトラックの燃費効率を改善し、また走行の安全性が高められ保険料を安くする。

 こうして、自動運転によって全般的にトラックの輸送コストの削減が可能となる。それはトラック運送事業者間の競争を通じて、やがて運賃の低下をもたらす。自動運転の普及で輸送コストの削減が実現し、荷主企業にその果実が与えられる可能性もあると考えられている。



物流業界における長時間労働の新たな懸念
2018/1/1 更新

 「アマゾンのドライバーは、最低賃金を下回る収入にもかかわらず、トイレに行く時間もなく、1日200個もの貨物の配送を強いられている。」
 これはイギリスのサンデー・ミラー紙がウェブ版で報じた記事の見出しタイトルであり、イギリスのネット通販のラストマイルの実情を伝えたものだ。イギリスのアマゾンは、100を超える中小の事業者にネット通販の貨物の配送を委託している。これらの事業者は独立した個人事業者と契約しており、このためアマゾンのラストマイルは、数多くの独立した個人事業者によって担われている。アマゾンから配送専用のアプリが提供され、ドライバーはそれに従って配送業務を行う。

 こうしたドライバーの過酷な労働実態が報じられたのだ。ドライバーは、1日200個もの貨物を配送しなければならない。食事の時間も十分に取れず、トイレもままならないため、ドライバーはペットボトルを配送のバンに持ち込んで用をたすという。ペットボトルを車内に持ち込むという事実が、運転労働の過酷さを一段と強調している。

 こうした個人事業者のドライバーは、配送のため労働時間が1日に12時間に達し、さらに14時間に及ぶこともあるという。イギリスでは運転労働の従事者は、1日の労働時間が11時間を超えてはならないという規制がある。このため、規制当局が違反の疑いで調査に乗り出している。イギリスでネット通販のラストマイルを担うのが独立した個人事業者であり、この個人事業者の過酷な長時間労働が問題として浮上しているのである。

 ひるがえってわが国では、ネット通販のラストマイルの担い手として、個人事業者である軽貨物運送のドライバーが、この輸送市場に参入している。日本のアマゾンは、ヤマト運輸の当日配送の撤退を受けて、デリバリー・プロバイダーと呼ばれる物流事業者に当日配送の委託を拡大している。その一つの丸和運輸機関は、今後1万人に及ぶ軽貨物の個人事業者を集めてアマゾンの配送を担うという。また、ヤマト運輸でも個人事業者を積極的に活用する。夜間専用の配送を担うために、今後1万人にも及ぶ個人事業者を採用するという。

 ネット通販事業者からすれば、宅配便が急増する貨物のラストマイルを担うことができなければ、安いコストで運んでくれる個人事業者への委託を拡大することになる。さらに、宅配便事業者にしても、労働力不足が深刻化するなかで配送の輸送力を確保するために、相対的に安いコストで下請けできる個人事業者を使用することが重要な選択肢となる。
 しかし、そこで懸念されるのが個人事業者の長時間労働である。個人事業者であるため、労使関係のもとでの労働時間規制の対象外となり、どれだけ働こうが自由だ。低い運賃をカバーするために、長時間労働を行うインセンティブが強く働く。そして、わが国では、イギリスのように個人事業者のドライバーを対象とした労働時間規制がないため、実質的に個人事業者の長時間労働が野放し状態となる。

 物流業者がデリバリー・プロバイダーとして個人事業者の拡大を明らかにした時にも、「労働時間管理を厳しくして」とわざわざ強調している。このことからも、長時間労働に陥ることが強く懸念されていることがわかる。

 物流業界において長年にわたって長時間労働や低賃金の問題が存在してきた。ドライバー不足が深刻化する中で、長時間労働を是正し、働き方改革を実現しようとする動きが高まっている。こうした中で、急成長するネット通販で登場する軽貨物の個人事業者は、長時間労働に陥る可能性を強く持っている。これは長時間労働の是正の流れに逆行することになる。物流業界では、一方で長時間労働の是正が行われながら、他方で成長する輸送市場で長時間労働の拡大が懸念されるのである。



アマゾンが進めるラストマイルの変革
2017/12/1 更新

  アメリカのメディア、ブルームバーグは、アマゾンがSeller Flexと呼ばれる配送プロジェクトの実験を秘密裏に行っていると報じた。アマゾンは今年にはいってアメリカ西海岸地域でこの配送サービスの実験を始めており、2018年には対象エリアをさらに拡大するという。

 数多くのネット通販事業者がアマゾンのウエブサイトで商品を販売している。従来こうしたネット通販事業者の商品は、アマゾンの巨大な物流センターに保管されて注文に応じてアマゾンが出荷していた。「フルフィルメント・バイ・アマゾン」というサービスだ。

 これに対して、Seller Flexと呼ばれる新たな配送プロジェクトでは、アマゾンの物流センターを使わず、ネット通販事業者自身の物流センターに商品を保管するようにして出荷する。アマゾンは他の企業の物流センターからの配送をコントロールして消費者に届けるというものだ。

 アマゾンがネット通販事業者の物流センターの配送をみずからコントロールしていることが重要となる。従来こうした物流センターからの配送は、大手宅配便であるUPSやFedExが行っていたが、このやり方ではだれに運ばせるかはアマゾンが決定することができる。

 この新しい配送プロジェクトは、配送の選択権をアマゾンに握られているために、宅配便事業者にとっては大きな脅威となる。実際に大手宅配便事業者ではなく、別の宅配便事業者に委託することも充分考えられる。こうしたことが懸念されて、ブルンバーグの報道を受けUPSとFedExの株価が下落した。

 アマゾンは売上を急激に拡大しているが、同時に物流コストも肥大化させている。売上高に占める物流コスト比率は、2012年に8%であったが、年々増加を繰り返し、2016年には12.3%に達した。この物流コストの増加には、ラストマイルの配送コストの増大が含まれている。

 日本の宅配便と異なり、アメリカの大手宅配便は運賃支配力が格段に強く、毎年継続的に運賃の値上げが行われてきた。これがネット通販事業者の物流コストを大きく押し上げている。こうした物流コストの上昇をどうするのかは、アマゾンにとって極めて重要な問題となっている。

 アマゾンが現在行っている新たな配送のプロジェクトは、大手宅配便の事業展開に大きなインパクトを与えるようになるかもしれない。こうして、アメリカではネット通販事業者と宅配便事業者の新たな関係が表れつつある。



荷主勧告制度はどこまで有効か
2017/11/1 更新

 国土交通省は荷主勧告制度を強化している。荷主勧告制度とは、トラック運送業者が過積載や過労運転などの法令違反を犯したときに、トラック運送業者のみに責任があるのではなく、貨物輸送を委託している荷主企業が積極的に関与していれば、荷主企業に勧告し企業名を公表するというものである。
 これまで荷主勧告の判断基準が明確ではなかったが、具体的な基準が示されるようになった。その中の一つに荷待ち時間の恒常的な発生がある。荷主企業の荷捌き場で荷待ち時間が恒常的に発生し、トラック運送業者が荷主企業に改善を申し込んだものの改善されず、このためトラック運送業者が過労運転防止に違反したというものである。

 貨物の運送を委託する荷主企業が、自分の所で荷待ち時間を発生させている場合で、委託した荷主企業の責任が問われる。しかし、荷待ち時間は、発の荷主企業だけではない。貨物を受取る着の荷主企業でも、荷待ち時間は同様に発生している。
 厚生労働省と国土交通省が共同で実施したトラックドライバーの労働時間に関する実態調査によると、荷待ち時間は発の荷主企業で平均1時間13分なのに対して、着の荷主企業でも平均で1時間05分の荷待ちが発生している。発と着でほぼ同じ程度の荷待ちが生じている。
 これはあくまで平均の数値であるから、実際にはもっと多くの荷待ち時間を発生させていることは容易に想像できる。ちなみに、この調査で最大の荷待ち時間は、発の荷主企業が13時間20分に対して、着の荷主企業が13時間00分であった。
 このことは、トラック運送業者の過労運転の原因が、着の荷主企業側においても発生する可能性があることを示している。着の荷主企業が荷待ち時間を放置して、その結果ドライバーの長時間労働を引き起こすことも充分にありうる。そうであれば、発の荷主企業だけでなく、着の荷主企業も荷主勧告の対象にならないのかという疑問が生じる。

 貨物の運送を委託する荷主企業は、貨物を運んでくれるトラック運送業者が法令を遵守できるようにすることが求められる。したがって、これができなければ発の荷主企業が荷主勧告の対象となるのはいうまでもない。これに対して着の荷主企業の場合は、注文した貨物を受取る側で、トラック運送そのものに何ら関与していない。このため、貨物運送の委託という契約関係を前提にして荷主勧告があるとすれば、着の荷主企業は対象外になると考えられる。
 しかし、野放図に放置されている荷待ち時間がトラック運送業の長時間労働に大きな影響を与えていることを考えると、それを放置している着の荷主企業も責任が問われるのではないか。こうした大きな問題を改善していくために、荷主勧告制度が運用されないのだろうか。



アセアンで奮闘する日本の物流企業
2017/10/1 更新

 インドネシアのジャカルタでグーグルマップを開くと、地図上の幹線道路は渋滞を示す真赤な色に染まっている。道路インフラの未整備とモータリゼーションの急激な進展が、深刻な道路渋滞を引き起こしている。このため、トラックは一日平均0.7回転しかできないという。こうしたなかで、日本から進出した物流企業はミルクラン輸送を行っている。

 アセアンのなかでタイ、インドネシアは自動車生産が集中している。日本の自動車メーカーが現地生産を繰り広げるとともに、それに部品を供給する部品メーカーも現地生産をしている。自動車のサプライチェーンが形成されて、それを支えるために日本の物流企業も進出し、部品調達の物流を担っている。
 部品調達の物流では、ジャストインタイム方式とミルクラン方式があるが、これらの国々では圧倒的にミルクラン方式が採用されている。部品を調達するほうがトラックを仕立てて部品供給メーカーを巡回して集荷し、生産ラインに納入するやり方だ。この輸送を物流企業が担当する。
 自動車物流は、工場でできるだけ部品在庫を持たないように、時間指定の多頻度納入が必要不可欠である。このため決められた時間に間に合うように、迅速で正確な輸送サービスを提供しなければならない。

 高い輸送品質が求められるミルクランは、日本から進出した物流企業の得意な分野だ。しかし、「安かろう悪かろう」だった地場のトラック運送業者も次第にレベルアップをはかって、このミルクラン輸送の市場に参入している。また、欧米系の物流企業も日系メーカーの自動車部品の輸送に進出しはじめている。このため、日系メーカーの自動車部品調達といえども、多様な物流企業が参加するようになり、競争が激しくなっている。

 経済発展が続くこれらの国々で賃金の上昇が続く。トラックドライバーの賃金も継続的に上昇している。しかし、荷主企業はそれに見合った運賃の上昇をなかなか認めてくれない。そこで、工夫して輸送の効率を上げ、ドライバーの生産性も上昇していかなければならない。
 日本の自動車メーカーや部品メーカーは、ミルクランの調達物流を厳しく管理している。年に一回ミルクランを担う物流企業の入札が行われる。そこでは、実際の部品の輸送に関して物流KPIの指標の提出が求められ、それによって厳しくチェックされる。運賃だけでなく、優れた輸送サービスを提供する物流企業が、引き続き事業を継続できるようになっている。
 アセアン域内の自由化が促進されてさらなる経済発展が期待されるなか、日本から進出している物流企業は、荷主企業の輸送のニーズに適合する努力を積み重ねながら、異国の地で頑張って事業を継続しているのである。



物流業の就職戦線、さらなる売り手市場へ
2017/9/1 更新

 物流業界における労働力不足は深刻な域に達しているが、新卒大学生の就職戦線もかつてないほど売り手市場の状態になっている。
大学のゼミでは物流を専門に勉強しているため、物流企業への就職を希望する学生が多い。ゼミの学生たちは、物流企業を中心として就活を繰り広げた結果、これらの物流企業から次々と内々定をもらっている。
 ある女子学生は、5つの物流企業から内々定をもらい早々と就活を終えた。他の学生でも5つ程度の内々定をもらうのは、決して珍しいことではなくなっている。同時並行的に多くの企業にトライして、ほとんどの企業から内々定をもらうことができるような状態になっている。企業が学生を高く評価してくれることはうれしいが、こうした状態は今までなかったことだ。

 そして、学生たちは最終的にどの企業に就職するのか、まさに人生の岐路となる選択に迫られる。学生たちの企業の選択には、いくつかの特徴がある。
 大手の物流企業への就職を選択する傾向は依然と根強い。かつては物流業の中の業種から選択することもあったが、最近では安定志向のために大手の物流企業を選択する。そして、物流子会社も学生に人気が高い。大手メーカーなどのナショナルブランドの名前を冠した物流企業は、安定志向と関連して学生にとって魅力的な企業となっている。
 さらに、物流企業から内々定をもらっているが、物流企業を選択しない学生もいる。だが、それも物流と深く関係している。物流機器を専門に生産している大手メーカーや、物流が生命線で、物流に力を入れている大手の卸売企業を選択している。
 労働力不足の状態は、今就活を行っている学生たちに大きなメリットを与えている。自分たちの選択できる企業の幅が広がり、より競争力のある安定した企業を選択することが可能となっている。現在の学生が非常に恵まれた状況に置かれているのは、紛れもない事実である。

 今の状況は、1980年代末のバブル期と比較される。極端な人手不足で、就職戦線に異常な事態が起きていると報じられた。当時は大学にいなかったので、学生側から見てどのような状態だったのか知る由もない。だが、今の状態を見ると、当時と同様に売り手市場の極致に向かっているように思える。
 しかし、バブル経済が崩壊して異常に加熱した売り手市場が、真逆の方向に進んだ歴史が示しているように、景気循環の変化によってこうした状態はやがて変わることになるだろう。それがいつになるのかはわからないが、こうした状態が長く続くとは思えない。
 学生にとって重要なのは、売り手市場で就活を楽観視することなく、専門の物流をしっかりと勉強して、みずからの実力を高めることである。優れた物流企業の中で重要な人材になることができるように、学生のうちにしっかりと努力することが必要なのだ。



顧客ファーストの過剰サービス
2017/8/1 更新

 7月のヨーロッパは暑い。ところが、街中で水を買おうとしても、なかなか買えない。小さなスタンドの店はあるが、売っている水の種類も少なく値段も高い。たかだか水のことだが、改めて日本のコンビニの素晴らしさを実感する。身近にあり、豊富な品ぞろえで、必要な商品をいつでもたやすく買うことができる。

 日本の国内にいると気づかないが、海外に出ると企業によって提供されるサービスが優れていると実感することが多い。こうしたサービスは、顧客にとってありがたいものだ。しかしながら、日本ならではで、提供されるサービスが過剰で、背後に多くの負担や犠牲が伴っているものも少なくない。
 その典型が宅配便のサービスだ。ネット通販で購入した顧客のために、顧客の都合で手渡しできなくとも、何度も再配達する。しかも無料だ。また、宅配便は、ネット通販の差別化に貢献するために、翌日配達から当日配達へと輸送スピードの速いサービスを提供している。しかし、速い当日配達の運賃は翌日配達と変わりない。

 海外では、再配達に追加の料金を徴収する。また、輸送スピードが速くなれば、運賃は高くなる。早く着く特急に乗るのに、特急券が必要なのは当たり前だ。さしずめ当日配達の宅配便は、普通運賃だけで特急に乗るのと同じことになる。しかも、再配達問題に象徴されるように、宅配便ではドライバーへの過重な負担が生じている。それにもかかわらず、顧客のために無償で続けられている。
  日本では、「お客様は神様です」と言う。同じようなことを、アメリカの宅配便大手UPSのマーケティング担当者は、「お客様はキングです」と言っていた。顧客はアメリカでは王様だが、日本では神様だ。王様と神様では大きな違いがある。いずれにせよ、日本では、今流の言葉でいえば、過剰なまでの「顧客ファースト」が貫かれてきたのである。

 宅配便に限らず、トラック輸送において顧客である荷主企業に対して過剰なサービスが提供されてきた。荷主企業の都合で手待ち時間が発生して、長時間の労働になるにもかかわらず、ドライバーはじっと待機している。その時間はタダで奉仕される。さらに、発荷主、着荷主先で、貨物の積み下ろしをドライバーが長時間かけて行う。しかも荷役労働をしているのに無料な場合も多い。これらは典型的な過剰なまでの顧客ファーストといえる。
 日本では、顧客が神様ならこうしたサービスが当たり前で、逆らえなかったのかもしれない。しかし、明らかに現場のドライバーに大きな負担が課せられた過剰なサービスである。顧客が優れたサービスを享受できることは素晴らしいが、しかし、日本に特有なこうした負担や犠牲が伴う過剰なサービスは改める必要があることはいうまでもない。



アマゾンと軽貨物の個人事業者
2017/7/1 更新

 アマゾンは、みずからのラストマイルを担うために、軽貨物の個人事業者を大規模に動員する。日本経済新聞が一面のトップで報じたところによると、アマゾンは、2020年までに首都圏で1万人の軽貨物の個人事業者を使用して、当日配送サービスを担わせる。
 ヤマト運輸が当日配送サービスから撤退するため、これに対応する措置となる。かつて、ラストマイルの担い手が大手宅配便事業者に限定されていて、日本ではプレイヤーが少ないと嘆いていた。宅配クライシスに直面して、新たなプレイヤーが選択される。全国的な配送網をもつ大規模な事業者から、束ねる運送業者がいるとはいえ、個人事業者が全面的に登場する。

 アメリカのアマゾンは、UPSやフェデックスといった大手宅配便だけに依存するのではなく、地域の運送業者にもラストマイルを任せている。こうした地域の運送業者は、特定の地域に特化して、大手の宅配便事業者よりもサービスが良く、運賃が安い宅配サービスを提供している。安い運賃で運べる一つの理由が、輸送の担い手がオーナーオペレーター、すなわち個人事業者であるからだ。
 ネット通販のラストマイルに個人事業者が動員される点では、日米で共通することになる。安いコストで配送をまかなおうとすると、個人事業者が登場する。はたして、こうした軽貨物の個人事業者が、宅配便に代替してネット通販のラストマイルを担うことができるのか、今後の展開が注目される。

 ところで、ある物流業の経営者は、この報道を受けて別の視点からアマゾンの動きを注目している。
 宅配クライシスの原因の一つは、宅配便の運転手による長時間労働であり、それを改善するために、サービス提供の停止や運賃の値上げが行われている。こうした中で、長時間労働を是正する動きが高まっている。しかし、ネット通販側の対応策として出てきたものが、ドライバーの長時間労働に対する抑制が効きにくい個人事業者の採用である。こうしたことが、長時間労働の是正に対しても影響を及ぼすのではないかと懸念しているのである。

 アマゾンの新たな動きは、わが国の物流業界にも影響を与えることになりかねない。



ドライバー賃金の上昇硬直性
2017/6/1 更新



 
労働力不足のなかで賃金が上昇すれば、人件費が増加して収益の減少をもたらす。他方で、賃金の上昇がなければ労働力が集まらず、事業の縮小や顧客離れを引き起こす。賃金の上昇は、経営にとっていわば諸刃の剣といえる。そして、この二律背反の関係を打開するには、サービスの対価である運賃を上昇させることが必要不可欠となる。

 賃金に関して最近興味深い著書が出された。『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(玄田有史編、慶応義塾大学出版会)である。この本では、この「最大の謎」に労働問題の専門家が多方面にわたって多角的に分析を行っている。
 ポイントは「賃金の上方硬直性」というものだ。労働力の需要が拡大しても、それに応じて賃金がなかなか上昇しにくい状態が生じている。経済学の教科書で教えるところでは、労働力市場においても需給が逼迫すれば、価格調整機能が作用して賃金が上昇し、やがて均衡をもたらす。しかし、日本経済全体を見ると現実は必ずしもそうなっていない。

 トラック運送業界を見ても「賃金の上方硬直性」が当てはまる。直近の有効求人倍率は17年3月に全産業平均で1.45であったが、「自動車運転の職業」は2.63という高さだ。この有効求人倍率の高さが、この業界の労働力不足の深刻さを端的に示している。これに対して、厚生労働省のデータによると道路貨物運送業の賃金は、ようやく2015年以降上昇傾向に転じているものの、リーマンショックを契機に世界同時不況に突入した以前の水準にいまだに達していない。賃金の上昇は緩慢で、「賃金の上方硬直性」が存在している。
 先の著書では、バス業界の事例分析が行われている。バス業界は2000年に規制緩和が行われ、大きな構造的変化が生じた。ここでも人手不足が深刻であるにもかかわらず、ドライバーの賃金が上昇しない。なぜなのか。その答えとして用意されているのは次の点だ。
規制緩和によって新規参入が相次いで、事業者及びバス車両が増加し、過剰供給の状態が生じて運賃が低下した。それにもかかわらず、事業者の大幅な退出は生じなかった。退出が生じないために、逆に人件費の引き下げ圧力が強まった可能性があるというものだ。
 こうしたことは、トラック運送業界にもある程度共通する。バス業界よりも10年前に規制緩和が行われたトラック運送業界は、事業者数が増加して過剰供給が生じ、過当競争の状態に陥った。その中で運賃の低下を招き、ドライバーの賃金は減少を余儀なくされてきた。そして、基本的にこうした過当競争の状態が続いていれば、賃金の上昇も容易に進まないことになる。

 したがって、賃金を考えるときに一つの大きなポイントは、過剰供給によって引き起こされる過当競争ということになる。この点でみると、最近事業者数が減少していることに注目する必要がある。
 国土交通省のデータによれば、トラック運送業は、市場からの退出者が新規参入者を上回る傾向が明らかになっている。市場からの退出者が増えることは、過当競争の圧力をやわらげ、それは運賃の上昇をもたらす条件として作用する。このため、今後どの程度市場からの退出者がでるかが、ドライバーの賃金にも影響を与えると考えることができる。



中継輸送に対する期待
2017/5/1 更新


 
新たなトラックの輸送方式として中継輸送が注目されている。1台のトラックが長距離の過程を往復するのではなく、双方からそれぞれのトラックが出発して中間地点まで行き、そこで車両を取り換えたり、貨物を載せ替えたりして、折り返して戻る輸送の方式だ。
 これによって、従来1泊2日であったドライバーの運転を日帰りにすることができる。長距離輸送でドライバーが過酷な長時間労働になっており、これを改善するために中継輸送は大きな意味を持つ。
 広いネットワークを持つ大手のトラック運送業者であれば、こうした中継輸送を社内の支店間で組むことは困難ではない。しかし、中小のトラック運送業者では、全く異なる別の事業者と行うことになり、パートナーを探すことから始まって、多くの困難が予想される。
 こうしたなかで、国土交通省は、トラック事業者が実際に参加する中継輸送の実証実験を2年間にわたって実施してきた。最近、2年目の実証実験の報告書と、さらに中継輸送実施のためのマニュアルが出されている。
 
 中継輸送は、トレーラー・トラクター方式、ドライバー交替方式、貨物積み替え方式と3つのパターンがある。このうち2年目の実証実験では、ドライバー交代方式と貨物積み替え方式で、遠隔地にいるトラック運送業者が参加して実験が行われた。
 この実証実験で特有の課題も明らかになっている。例えば、ドライバー交代方式は、運転する車両が変わるためにドライバーには大きなストレスになる。車両の運転に慣れているベテランドライバーほど、そのストレスが大きいという。
 また貨物積み替え方式では、ドライバーは同じ車両を継続して運転できるが、中間地点で積み替え荷役ために作業員と一定のスペースが必要となり、新たなコストの増加につながる。

 この実証実験で驚くことは、参加したドライバーおよびトラック運送業者の間で中継輸送に対する評価が極めて高いことだ。ドライバーは、実際に中継輸送で労働時間が短縮され、従来の輸送よりも負担が大きく削減されることを高く評価している。
 また、実証実験に参加したトラック運送業者は、中継地点で荷役を行いコスト負担が発生する貨物積み替え方式から始めて、さらにドライバー交代方式へ進めていくという。また、中継輸送を実施することで車両の回転率が高まるメリットがあり、そこに注目して中継輸送を進めていくという。

 ドライバー不足が深刻な中で、ドライバーの負担を軽減できる中継輸送は重要である。中小のトラック運送業者においても、この中継輸送が実施できるようになることが期待されている。



物流業界の潮目が変わるか
2017/4/1 更新


 物流業界で大きな動きが生じている。ネット通販の貨物増加で宅配便のドライバーに過重な負担が生じるなかで、ヤマト運輸は労使交渉を経て重要な決定を行った。ドライバー賃金のアップと労働時間の抑制、そして宅配便の運賃の値上げ、さらに今後の宅配便貨物量の抑制などを決めた。
 ネット通販が好調で宅配便の貨物量が増えているにもかかわらず、宅配便の平均運賃は低下を続けており、収益の減少を余儀なくされている。このため、大口荷主と運賃値上げの交渉を行うとともに、宅配便の基本運賃そのものの値上げを実施する。
 ヤマト運輸の労使交渉とそれに基づく新たな決定は、マスコミでも大きく取り上げられた。一物流企業の動向が、これほど社会的に注目されたことはこれまでなかった。また、佐川急便のドライバーが配達の宅配便貨物を投げ捨てる動画がテレビで取り上げられたが、この時もなぜこのようなことが起きるのか、背後にある宅配便業界の実状まで踏み込んでマスコミが報道したのは驚きであった。
 いずれにせよ、ますます身近な購買方法となっているネット通販とそのラストマイルを担う宅配便がすでに重要な存在となっており、そこで生じている物流の問題が社会的に大きな影響を与えるのは明らかである。したがって、大きく注目されるのは当然のことなのだ。

 ところで、現在宅配便で生じている問題は、広くトラック運送業が直面しているものと共通している。低賃金と長時間労働によってドライバー不足が深刻化し、輸送の安定的な提供が難しくなっている。過剰ともいえる輸送サービスを提供しながら、人手不足から現場でドライバーに過重な負担がかかっている。それにもかかわらず、運賃は低水準にとどまっている。特積みの宅配便で大規模な物流業者が直面する問題は、程度の差はあれ一般のトラック運送業者が抱える問題と共通しているのである。
 トラック運送業では、労働力を確保して安定的に輸送サービスを提供していくために、ドライバーの賃金上昇と長時間労働の是正が必要である。そして、これを実現するためには、運賃の値上げが重要となっている。しかしながら、過当競争体質がある中で、荷主企業の理解が得られず、こうした取組みがこれまで大きく進展してこなかった。

 今回ネット通販に関連した宅配便の問題が明るみに出て、その対応が社会的に注目されるなか、ネット通販に対する宅配便大手物流業者の対応が、物流業界にも大きなインパクトを与える可能性がある。これまであまり進まなかったトラック運送業者の荷主企業に対する取組みが大きく進展する契機になるかもしれない。労働力不足に直面する物流業界の潮目が大きく変わる可能性に注目する必要がある。



爆走するトラック
2017/3/1 更新


 最近NHKのBSで「爆走風塵 中国・激変するトラック業界」と題するドキュメントが放映された。物流が急激に拡大する中国で、長距離大型トラックを運転する個人トラック事業者の運行実態を追跡したドキュメントだ。
 達人と呼ばれる2人組みのベテラン、妻と幼い子を同乗させる新米、息子に継がせたいと考えている親子、それぞれ3組の大型トラックのドライバーが、貨物を探して長距離輸送する姿を同時平行的に追っている。現代の中国のトラック運送業界の実態を赤裸々に映し出しており、じつに興味深い内容となっている。

 経済発展に伴い物流が拡大した中国では、1980年代にトラック運送業に対する規制緩和が行われて、トラック保有台数の制限が廃止された。個人トラック事業者であるオーナーオペレーターが認められたのだ。また、自動車ローンも開放されて、個人がローンを借りてトラックを購入することができるようになった。
 このため、仕事が見つからない農村地域の人々を中心に個人トラック事業者が急増し、成長するトラック運送業へ続々と参入していった。個人トラック事業者を含むトラックドライバーはこの10年で2倍に増えて、現在では約3000万人にも達するという。個人トラック事業者は、ローンで購入した大型トラックを自ら運転し、広大な中国大陸をまたにかけ過酷な条件のもとで貨物輸送を行っている。
 交通の要衝にある大都市のトラックの情報取引所で数多くいるブローカーから、行先方面、貨物の種類、そしてなによりも運賃で運ぶ貨物を探す。条件があえばブローカーに現金で紹介の手数料を支払い、発荷主で貨物を積載して目的地に向かう。目的地は1000qを超えて、2000qに達する長距離輸送の場合もある。大型トラックは数日間を要して高速道路をひた走り貨物を届ける。そして、届けた先で積み下ろしが完了し、着荷主から運賃を受け取ることになる。

 こうして、個人ドライバーは、広大な中国大陸に貨物を求めてひたすら大型トラックを運転する。トラックへの貨物の積み下ろしは、発、着の荷主側が専属の作業員を用意しており、ドライバーは荷役をする必要はない。この点では日本のドライバーに比べて恵まれている。しかし、長期間にわたって連続したトラックの運転を続け、年間に300日も運転労働に従事するという。
 中国のトラック運送業をめぐる経営状況は極めて厳しい。世界一高いといわれる高速料金と、政府の独占企業が供給する燃料の高騰が、個人トラック事業者の経営を直撃している。さらに、もっと問題なのは運賃だ。景気の低迷と過剰参入によってトラックの運賃が低下している。このため儲からない。
 長距離輸送をしても、高速料金と燃料費だけで低い運賃を上回ってしまうことも起きる。不慣れの妻子連れの新米ドライバーと、親子のドライバーは、せっかく貨物を見つけて長距離輸送をしても、高速代と燃料費だけで運賃を上回り大幅な赤字を経験する。かつては農村出身の個人トラックドライバーは、収入が高く出身の農村に豪華な自宅を建てることもできた。しかし、今ではこうしたことは過去の夢となりつつある。

 中国のトラック運送業は現在明らかに過剰な状態にある。運ぶ貨物が減少し運賃が低下して収入が減っても、彼らはトラック購入のローンを返済し、家族を養っていくために、この業界になんとか生き残ろうともがいている。こうして過酷な条件のもとで貨物を運び続けているのだ。
 中国の状況は、ドライバー不足が深刻化している日本と大きく異なっている。また、個人トラック事業者の存在は、アメリカのオーナーオペレーターと共通しており、これは日本にはない。こうして現在の状況は日本と中国で異なるが、しかしトラック運送業の根底にある不安定で脆弱な側面は共通している。



運賃支配力の脆弱性を克服する
2017/2/1 更新


 宅配便運賃の低下が止まらない。宅配便の最大手ヤマト運輸は、最新の公表データで宅配便運賃が2016年第2四半期に対前年同期比で4.3%下落していることを明らかにしている。14年末以降同社の宅配便運賃は低下を続けており、下落傾向に歯止めがかからない。
周知のように、ネット通販が隆盛を極め、そのラストマイルを宅配便に依存している。このため宅配便の輸送需要は拡大している。さらに、宅配便市場は寡占化が進展し、業界リーダーのヤマト運輸が45%の市場占有率を占めるほどである。それにもかかわらず、業界のリーダーは、運賃の下落を食い止めることができない。他の事業者との運賃競争を余儀なくされ、取扱量が増えるなかで「豊作貧乏」の状態が続いている。

 この対極にあるのがアメリカの宅配便だ。アメリカ国内の宅配便の市場構造は日本と極めて似ている。民間の大手宅配便のUPS、FedEx、そして郵便のUSPS(アメリカ郵政公社)の3社による寡占体制が構築されている。そして日本以上に発達しているネット通販は急激に成長しており、まさに右肩上がりで宅配便の取扱量が伸びている。

 ほとんど同じ構造の日本とアメリカの宅配便市場で、運賃は全く異なる。UPS、FedExの運賃値上げの攻勢がすさまじいのだ。最近では、両社ともに陸上宅配便が平均で4.9%、航空宅配便でUPSが4.9%、FedExが3.9%の値上を行った。UPSが16年12月26日から、FedExが17年1月2日から一斉に値上げを実施している。
 驚くべきことに、こうした値上げは毎年定期的に行われている。両社は、これまで年間3.9%〜6.9%の幅で、まさにお決まりのコースのように値上げを行ってきた。その結果、2007年〜2017年の10年間に、陸上宅配便が75.8%、航空宅配便が81.8%も上昇したのである。このように、アメリカの宅配便事業者は、日本と異なって恐るべき運賃支配力を持っている。

 これは互いに激しく競争するUPSとFedExが、特に収益性管理(yield management)に力を入れている結果だ。むやみに数量を取るのではなく、基本的に景気の回復やネット通販ビジネスの興隆による宅配便取扱量の拡大を背景として、収益性を確保するために運賃に対する支配力をますます強化している。
 こうした運賃支配力によって宅配便運賃が急激に上昇し、ネット通販事業者は物流コスト増が不可避となり、これがアメリカでは大きな問題となっている。それがまた、アマゾンにみられるように、ネット通販事業者が自家物流を模索する動きをもたらしていることも事実である。

  いずれにせよ、今わが国の宅配便事業者も、急激に拡大するネット通販による貨物増加に対応して、運賃を好転させて適正な収益を維持し、事業の安定的な拡大を実現することが必要不可欠である。収益性管理を強化していくことがとりわけ重要で、そのためにアメリカにみるように運賃支配力をどのように身に着けていくのかが大きな課題となる。



ドライバー不足がもたらすトラック運送業界の変化
2017/1/1 更新


 現在トラック運送業が直面している最大の課題の一つはドライバー不足だ。全日本トラック協会の「トラック業界の景況感」でも、ドライバー雇用状況の不足感は2012年頃から上昇を続け、直近の2016年7月〜9月期でも高い水準にあることが示されている。
 この深刻な労働力不足の根本的な原因は、他産業に比べて賃金が低く、労働時間が長いトラック運送業の労働条件にある。このため、ドライバー不足に対応していくためには、こうした根本的な原因を改善していくことが必要不可欠となる。
 トラック運送業者が、運賃を上げて売上高を増やし、それを原資としてドライバーの賃金を上昇させ、さらには労働時間を短縮していくことである。もちろん、このようなことがこれまでできなかったのがトラック運送業界であり、そう単純で簡単ではないと考えられるだろう。しかし、こうした変化は起きていないのだろうか。直近の関連する経済統計を確認してみた。

 まずトラックの運賃だが、日本銀行の「企業向けサービス価格指数」をみると、陸上貨物輸送では宅配便運賃の上昇が著しく、2010年を100として直近の2016年10月に111.9で高い水準を維持している。これに対して、貸切運賃は同じく106.7であった。宅配便運賃には劣るものの、一般の貸切運賃は、2014年の初めから上昇して、現在まで相対的に高い水準を維持している。

 ドライバーの賃金はどうであろうか。年間の統計で直近の2015年を見ることができる。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、道路貨物運送業の「きまって支給する現金給与額」は、2012年に30万3500円が、2015年に31万8200円に増加している。また、年間賞与も同期間に28万2600円から34万8200円に増加した。
 これに対してドライバーの労働時間であるが、厚生労働省の同じ統計で、所定内実労働時間は2012年の176時間が、2015年には177時間に増加している。また、超過実労働時間も34時間から35時間に増加している。若干ではあるが、ドライバーの労働時間は明らかに増えている。

 こうして、深刻な労働力不足は、明らかにその後トラック運送業界に一定の変化をもたらしている。どの程度変化したのかその度合いが重要であるが、とりあえず以前と異なり潮目は変わり、トラックの運賃は上昇し、ドライバーの賃金も上昇している。
 深刻な労働力不足は、需給のバランスを変えて運賃の上昇をもたらした。ミクロ的には、トラック運送業者の運賃交渉が行われて運賃の値上げが実現されたことを示している。そして、同時に、労働力不足はドライバーの賃金の上昇をもたらしたが、これも賃金を上げて労働力を確保しようとする動きが反映されたものと考えられる。それがすぐに労働力不足を改善することにつながるほど十分なものとは言えないが、こうした動きが起きていることが経済統計から示されている。
 しかし、労働時間は、逆に長時間化して悪化している。長時間労働を是正するという努力は統計には表れていないのだ。逆に、依然として長時間労働が続いて、労働力不足の改善を阻む要素となっている。



自動運転のトラックの実用化
2016/12/1 更新


 貨物を満載して高速道路を走行する大型トラックの運転席にドライバーがいない。後部座席でドライバーはくつろいでいる。この大型トラックは、バドワイザーのビール缶5万2000個を積んで高速道路を200キロほど自動走行し、配送先にビールを届けた。

 今年10月にアメリカのコロラド州で、自動運転の大型トラックに実際に貨物を積んで配送する実証実験が行われた。これは、実際に貨物を積載して走行する初めての商業輸送であり、アメリカでも大いに注目された。
 この自動運転の大型トラックを走らせたのは、バドワイザーを製造する大手ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ社だ。オット社が開発した自動運転技術を大型トラックに装着して、自社の製品を積載して配送業務を実施した。

 もう一つの主役であるオット社は、個人によるタクシー輸送を世界的に普及させたウーバーによって、この夏に700億円で買収された。ウーバーは、この買収によってトラックの自動運転という新しい市場への参入を狙っている。
 このため、ウーバーは、一方で個人が自家用車で旅客輸送のビジネスに大量に参入できるようにしながら、他方で自動運転の技術で貨物輸送のトラックドライバーを駆逐しようとしていると、一部で皮肉交じりに揶揄されている。
 トラックの自動運転によってドライバーが必要なくなり失業してしまう、との声はよく聞かれる。先の大統領選挙でもこの問題が取り上げられ、その対策が言及されている。しかし、自動運転をおこなったビールメーカーとウーバーの子会社はこれを否定する。
 実際に、高速道路でドライバーは自動運転モードでハンドルを握る必要はないが、高速道路の入り口までと出口から配送先までの一般道では、ドライバーが運転した。まったくの無人走行ではなく、ドライバーの運転が必要となる。

  ビールメーカーが自動運転に熱心に取り組むのは、物流コストの削減が期待できるからだ。全米における自社の商品の配送を自動運転のトラックでおこなった場合、年間約50億円の輸送コストの削減が可能になるという。もちろんこのコスト削減は、ドライバーが不必要となるからではない。
 自動運転によってトラックの燃費効率が上昇する。自動運転のトラックは4〜7%の燃費削減が可能となる。さらに自動運転によるドライバーの運転負担の軽減により、効率的な配送ができるようになる。こうしたことで、広大なアメリカで高速道路を利用して年間トラック120万台分の貨物を長距離輸送するメーカーは、大幅な輸送コストの削減ができるという。

 全米トラック協会によると、現在アメリカでは4万8000人のトラックドライバーが不足している。これが2022年には24万人に達すると予想されている。アメリカでも日本と同じように深刻なドライバー不足に直面している。
 自動運転のトラックの導入は、ドライバーの過酷な運転負担を軽減し、さらにはドライバーがより多くの距離を運転できるようにする。このために、自動運転のトラックは、ドライバーの働きやすい環境をつくり、ドライバー不足に対して有効に機能すると考えられている。



ドライバー不足によって荷主企業との関係は変わるのか
2016/11/1 更新

 深刻なドライバー不足はトラック輸送の供給能力不足をもたらし、売り手市場を形成している。こうしたなかで、トラック運送業者は、荷主企業に対して運賃の値上や、長時間化した労働時間の是正を求めることができる。それは、荷主企業がイニシアティブを握ってきた従来の関係を大きく変えることになる。

 他方で、荷主企業もドライバー不足に対する対応を怠らず、新たな動きが顕在化している。具体的には、モーダルシフトを行い鉄道コンテナ輸送や内航海運へ貨物輸送を転換する。さらには、共同輸送も積極的に進めるようになっている。業界内で競合するライバル企業が物流では共同化に取り組み、いっしょに貨物を運び積載効率や輸送の効率を高める。
 ドライバー不足による輸送の不安定を回避し、安定的な輸送を確保するとともに、トラック運賃の上昇が物流コストの上昇につながることを避けようとしている。これは端的に言えば、不安定性を増しコスト上昇の要因となるトラックをできるだけ使わないという動きだ。
 こうした荷主企業の取組みが今後さらに普及していけば、ドライバー不足の悪影響を軽減するとともに、トラック運送業者との関係でも荷主企業はイニシアティブを維持することが可能となってくる。すなわち、売り手市場でトラック運送業者の優位性が進むことを避けることができる。
 このため、ドライバーが不足して売り手市場になっているから、トラック運送業者が高い運賃を享受できて、対荷主に対して優位に展開できることにはならない。つまり、荷主企業の物流の効率化の取組みの進展度合いが、今後の荷主企業とトラック運送業者の関係にも大きく影響を与える。

 ところで、トラック運送業者と荷主企業の関係が今後どうなるのかを考えるうえで、まったく異なる事態が展開される可能性もなくはない。そもそも根源的な原因となる現在の深刻なドライバー不足が霧散してしまう可能性もあるからだ。
 歴史は繰り返されるではないが、ドライバー不足の歴史に注目する必要がある。かつてわが国では1990年を頂点とするバブル時代に深刻なドライバー不足を経験した。その内容は今の状況と非常に似ている。3K職場が嫌われてドライバー不足が顕在化し、労働人口の減少が予想されるなかで、さらなる深刻な事態が予想された。
 しかし、バブルがはじけ「失われた10年」と呼ばれる深刻な不況に突入すると、ドライバー不足はいっきに解消してしまった。嘘のようにこの問題は忘れられて、トラック運送業者は市場での過剰感を味わうことになる。

 今回のドライバー不足は景気回復によって始まった。そして景気循環によって日本の経済が不況へ突入するようになれば、労働力不足も状況を大きく変わる可能性も捨てきれない。そうすると、荷主企業との関係も元の状態に戻る可能性もありうるのだ。



深化する下請
2016/10/1 更新

 現代のトラック運送業が直面する課題の一つが、下請の問題である。規制緩和によって小規模事業者の参入が可能になり、その数が増加するなかで、これまで下請が拡大して深化してきた。
 下請化が進展するなかで、荷主企業と実運送の事業者との距離がますます遠くなり、トラック運送業者のなかの元請と下請がブラックボックス化していった。そして、実運送が実際に収受する運賃の低下、それによる過労運転や違法行為の誘発など、この下請がトラック運送業の諸問題の根源の一つとなっていることは明らかだ。

 最近、この下請に関して、興味深いデータが国土交通省から明らかにされた。「トラック運送業における下請等中小企業の取引条件の改善に関するアンケート調査」で、全国の700を超えるトラック運送業者がアンケート調査に回答している。
 このなかで、アンケート調査に答えたトラック運送業者の80%が、何らかの業務を下請に降ろしていると答えた。下請が広範囲に行われていることが明らかにされている。
 下請の深化に関しては、運送を受けた際に真荷主から何番目かを聞いた質問では、3番目が41.4%、4番目が16.6%、さらに5番目以降が10.1%に達した。かつて、7次下請まであると聞いたことがあるが、5番目以降の比率をみるとそれは必ずしも稀なケースではないらしい。
 もう一つの興味深いデータは、下請の手数料である。これは、大きく分けて運賃額に対する比率と定額があるが、圧倒的に運賃額に対する比率が多い。問題はその比率だが、運賃額の5%〜8%が最も多く、全体の43.5%を占めていた。そして、10%〜30%の範囲と答えた事業者が17.1%となっている。10%〜30%とはかなりの額に達するが、この割合も少なくはない。

 いずれにせよ、このアンケート調査では、改めてわが国のトラック運送業界における下請問題の根深さが如実に示されている。なぜこういとも簡単に運送業務が次々と下へ下へと降ろされてしまうのであろうか。
 単純化して考えると、10%前後の手数料が引かれて、孫請け、曾孫請け、さらにはその下まで続くのなら、実運送の事業者は荷主の支払った運賃のどの程度で運ぶことになるのか。想像するだけで、とんでもない実運送の実態が浮かび上がる。
 荷主企業にしてみても、一定の運賃を支払ったのに、次々とコミッションだけ引かれて、支払った運送の対価とは程遠い安い運賃で、まったく見ず知らずの事業者によって大事な貨物が運ばれていることになる。この実態をどう考えるのであろうか。
 トラック運送業者としても、深化する下請の底辺部分で実運送を引き受けるのでは、事業の将来展望を持つことができない。もちろん、直接荷主企業の貨物を引き受けることができない事業者が多いから、このように下請が深化してしまうことになる。

 いずれにせよ、こうした下請の深化が業界固有の諸問題を引き起こしているなかで、下請の拡大と深化をどう抑制するのか、大きな課題である。



アジアの物流企業の戦士たち
2016/9/1 更新

 日本の物流企業は、これからさらなる経済発展が見込まれるアジアの国々に企業戦士を送りこんで、現地での物流ビジネスの可能性をさぐっている。物流企業はただでさえ日本で苦労しているのに、経済発展のレベルの低いディープなアジアの国々で、並々ならぬ苦労を経験することになる。
 現地に進出して物流ビジネスを繰り広げるものの、多くの日系物流企業は赤字の状態から容易に脱することができない。こうした状態で、本格的な進出を見込んで駐在員事務所を設置しても、物流ビジネスが成り立つ見通しがもてないため、駐在員はいかに日本の本社に本格的な進出を断念させるかに苦心するという話も聞く。

 日系の物流企業が苦境に陥る原因は、現地のトラック運送業者との競争にある。現地のトラック運送業者は、極端に安い運賃で運ぶことができる。社会的に底辺の人々を低賃金で雇い、長時間労働させて残業代を支払わなかったり、過積載を常態化したり、高額なトラックの車検をごまかしたりして、必要なコストを削減している。
 いろいろな違法行為を織り交ぜて、きわめて安い運賃で営業できる特有の低コスト構造をつくりあげている。日系の物流企業は、これと同じように公然と違法行為を行って運賃を安くすることなどできない。社会的規制があいまいなところで、日系の物流企業は運賃競争についていけない。

 ところが、しっかりと物流ビジネスを展開して、高い収益性を達成している日系の物流企業も少数だが存在している。高い収益性の秘密は、現地に進出する日系企業の高度な物流ニーズに対応して、優れた輸送サービスを提供することにある。時間指定や積載率を高める輸送を提供できる運行管理のノウハウを蓄積している。地元のトラック運送業者はそれができない。
 特有の高度な輸送サービスが求められる特化した分野で優位性を確保して、低運賃の現地のトラック運送業者を排除することに成功している。そこでは、高いサービスレベルを求める荷主企業が、高い運賃を支払ってくれる。その結果として高い収益性を維持できる。
 質の高い輸送サービスを提供するには、ドライバー教育が必要不可欠であるとともに、トラックの運行管理をしっかりと行う専門のスタッフのノウハウが重要となる。アジアに送りこまれた物流企業の戦士は、日本で培ったノウハウをそこで展開しているのである。

 こうしてみると、国内で優れたパフォーマンスを発揮している物流企業と共通する点があることに気付く。アジアの諸国においても、物流企業が高い収益性を確保する秘密は共通項が存在しているのだ。それを実現する難易度からすると、当然アジアのほうがはるかに難しい。



「トラック運送のためのウーバ」の威力
2016/8/1 更新

 技術革新が産業を変え、そして経済を変える。物流の世界においても、物流ロボット、ドローン、自動運転といった新しい技術が、物流および物流業界を大きく変えていく可能性を秘めている。そして、もう一つの注目すべき技術が、スマートフォンを利用した荷主の貨物と運送業者のトラックをマッチングさせる「スマート・トラック運送」と呼ばれるアプリだ。
 これは、「トラック運送のためのウーバ」とも呼ばれ、まさにウーバの仕組みを貨物輸送に適用したものである。周知のようにウーバは、そのアプリが導入されて、世界的規模で自動車の旅客輸送に革命的な変化をもたらした。

 「物流のウーバニゼーション(ウーバ化)」といわれる貨物輸送のマッチングサービスは、現在アメリカで、少なくとも12ものサービスが提供されている。こうしたアプリが新興のサービス市場でしのぎを削っている。これによって、アメリカのトラック運送業が大きく変わる可能性がある。
 全米で100万を超えるトラック貨物運送事業者がいるが、トラックの所有台数が6台以下の事業者が全体の90%以上を占める。こうした状況で、実際の貨物輸送では、荷主企業の貨物を紹介するブローカーが大きな役割を占めてきた。ブローカーは、一日に200本以上の電話をして、アナログ方式で仲介業務を提供してきた。

 こうしたブローカーに代わって、「スマート・トラック運送」のアプリは、スマートフォンを通じて、貨物とトラックの迅速で的確なマッチングサービスを提供する。さらには、運行ルートのプランニング、アルゴリズムに基づいた迅速な運賃設定、貨物積載トラックの追跡サービス、配達の確認サービス、さらには請求書の発行や支払い業務まで、包括的な支援を行う。
 従来のブローカーは、仲介の手数料が20%程度で、時としてこれが45%に達する場合もあるという。これが、「スマート・トラック運送」のアプリを利用すれば、ひとつの例として手数料が6%〜12%程度になり、手数料自体を大きく削減することができる。
 当然、従来のブローカーのビジネスは、存立を揺るがしかねない大きな危機に直面することになる。それは、ウーバの出現によってタクシー業界が大きな影響を被っているのとまさに同じ状況が生じることになる。

 こうして、トラック運送事業者は、このアプリを利用することによって、迅速な貨物の獲得と空車の削減、効率的なトラックの運行が可能となる。収益性を向上できるとともに、仲介の手数料の削減と運賃の上昇も期待できると考えられている。
 わが国でも、すでに同様な「スマート・トラック運送」のアプリによるマッチングサービスが提供されている。多段階にわたる下請け構造にあるわが国のトラック運送業において、こうした新たな技術に基づくサービスの提供が、数多くの実運送に携わる小規模事業者の事業展開にどのような変化をもたらすのか大いに注目される。



物流企業の就職戦線に異状あり
2016/7/1 更新

 労働力不足が深刻化していて、物流業界にも大学生の新卒採用に大きな変化が出ている。大学は人材を送り出す方で、採用する物流企業と反対側にいるが、大学生の就活を見ていると、稀に見る大きな変化が生じていることを実感する。

 大学のゼミでは、専門分野として物流を勉強している。このため、物流企業を目指す学生が多く、物流企業もまた物流を専門的に勉強する学生を評価してくれる。物流企業に就職して働いている卒業生も多い。
 今年の就職戦線は様変わりをしている。すでに5月から6月にかけて内々定を複数取るゼミ生が続出した。一つ内々定を取るとその後に相乗効果が働くが、例年に比べても、内々定を取る企業の数が多くなっている。

 そして、もう一つの大きな変化は、今までは難しいと考えられた物流企業から内々定を得ていることだ。大学が偏差値でランク付けがされているように、就活でも物流企業のランクが存在する。これまで、高嶺の花と思われる企業からも、内々定をもらうようになっている。
 そして複数の内々定を得た学生は最終的にどの企業にするのか悩むことになるが、しかし、その決断はさほどかからない。結果的に、学生は、ランクの高い、これまでなかなか入れなかった企業を選ぶ。学生にとっては、願ってもない就職の機会に恵まれている。

 物流企業の人事部では、今年の新卒採用がうまくいっていないという声を聞く。内々定を出しても学生が応じず、採用を決めた学生をうまく集められないということだろう。おそらく、これまで想定した学生が、よりランクの高い企業からも内々定をもらい、そちらへ移動してしまうからだ。これはゼミの学生たちが取った選択と符合する。

 かつての就職氷河期には、偏差値の高い大学の学生が上から降りてきたために、そのあおりを受けて下に流された。ところが、労働力不足が叫ばれる現在では、これとは逆の動きが起こっている。
明らかに就職戦線は変化し、売り手市場となった。かつてのバブル期を思い起こすような事態に近づいているようにも思える。 しかし、これからも大学生はこの世の春を謳歌できるかというと、そうでもないようだ。イギリスのEU離脱の国民投票結果により、世界の株価下落と大幅な為替変動が生じた。世界経済が新たな不安定な局面に向かうかもしれない。これでまた就職戦線が変わる可能性が出てきている。



改正物流効率化法から物流共同化を考える
2016/6/1 更新

 物流総合効率化法が改正された。かつての物流総合効率化法は、主に3PLビジネスを展開するのに物流センター事業をやりやすくするように支援するためのものであった。これが現代の物流が直面する諸問題に対応するために、支援の対象に新たな要素が取り入れられた。
 その一つが、深刻なトラックドライバーの不足問題を改善するために、地域内共同配送化事業の展開が含まれるようになったことである。これは単独でない2つ以上の事業者が、物流センターの作業や配送を共同で行い、これにより積載率の向上や配送頻度を改善して効率性を高める事業が対象となる。

 改正物流効率化法の中に労働力不足対策の一環として、共同配送が入れられたことは、現代のトラック運送業者の取り組むべき課題が端的に示されているようにも考えられる。
 物流の労働力不足にどう対応したらよいのかを考える時に、ひとつの答えが物流共同化である。従来ばらばらに行われていた物流を複数の企業の物流を束ねることによって、輻輳(※)して無駄の多いものを改めて、積載効率を向上させて必要なトラックを削減し、少ないドライバーで効率よく配送する。そうすればコストも削減できるし、環境負荷も軽減できる。これが物流共同化の極めて単純で明快な原理だ。
 それは、荷主企業が物流共同化をするときにはわかりやすい。荷主企業が自社の物流を業界のライバル企業と共同化する時に、明確にこの原理が作用することになれば、これによって持続的な共同化の事業継続が実現することになる。

 それでは、物流業者、すなわちトラック運送業者が主体の物流共同化はどうだろうか。物流共同化をするときに一つの物流業者が主体となって、特定の業界のライバル企業の物流を束ねて、先の原理を働かせて効率化を実現することが考えられる。トラック運送業者がある程度の規模を持てば、物流業者でも主体的にこうした荷主企業を束ねる物流共同化は可能だろうし、先の原理は作用するものと考えられる。
 しかし、改正された物流総合効率化法で想定されるように、2つ以上の複数のトラック運送業者が共同化することになると、はたして共同化の原理をどう貫徹することができるのか、想定が難しくなるようにも考えられる。

 共同化の事業が継続的発展するならば、先の原理が働くとともに、今度はそれに加えて収益性も確保できることが重要となる。それはどうしたら実現することができるのだろうか。こう考えるのも、従来のトラック運送業者による共同配送の呪縛があるのかもしれない。
 
物流共同化は重大な命題であるが、それをトラック運送業者が主体的に実現できるビジネスモデルが必要となっている。


※ 輻輳(ふくそう)・・・方々からさまざまな物が1カ所に集中すること。こみあうこと。



ドライバー不足の改善に向けた中継輸送の可能性
2016/5/1 更新

 長距離輸送での深刻なドライバー不足は、長い拘束時間に原因があることは明らかだ。こうしたドライバーの厳しい労働条件を改善する輸送方法が中継輸送である。長距離輸送のルートの中間点で、貨物を積み替えるか、車両を交換する。これによって、ドライバーは折り返して営業所に帰ることができ、従来に比べて労働時間を大幅に短縮することができる。

 最近、国土交通省がこの中継輸送の実証実験を行った。
 頭の中で想定する中継輸送と、異なるトラック運送業者間で、実際に中継輸送を実験してみると、現実的な課題が明確に浮かび上がってくる。
 この実証実験では、中継輸送のパターンをいくつか設定して実施された。そのなかで、中継地点で貨物を積み替える方法が実験されている。双方の出発地から貨物を積んだトラックが中継地点を目指し、ほぼ同時刻に中継地点に到着する。中継地点の物流施設で貨物の積み替えが行われて、ドライバーは出発とは異なる貨物を積んで自分の営業所に帰る。

 容易に考えられるように、この方式のボトルネックは荷役にある。パレット積みやロールボックスの場合は、貨物の積み替えは比較的短時間で済むが、バラ積みで手荷役が必要な場合には、積み替えに多くの時間を必要とする。そして、ドライバーの拘束時間はそのぶん増加する。
 そもそも、荷役をだれがするのかも課題だ。ドライバーが手荷役でするとすれば、ドライバーの負担が大きく、なおかつ労働時間が長くなり、中継輸送のメリットが打ち消されてしまう。このように考えると、貨物積み替え方式の中継輸送は、荷役そのものに大きな課題があり、現実的には難しい。

 そうすると、中継地点で荷役をしない方式が現実的なものとなる。具体的には、トレーラー輸送を行い、中継地点でヘッドを変える方法、さらにトラックの輸送では中継地点でドライバーが、自分が帰る方面を目的地とする別のトラックに乗り換えて運転する方法である。
 中継輸送によって運転するドライバーの労働時間が短縮されて、過重な負担が軽減されることは明らかである。現実的には、異なるトラック運送業者間で中継輸送のトラックをどうマッチングしていくのか、そもそも必要な中継地点をどのように設定するのかなど、企業間の壁も存在している。今後さらに検討を重ねていくことが必要だ。



物流業者アマゾンが出現する日
2016/4/1 更新

 注目すべきニュースが飛び込んできた。ネット通販の巨大企業、アメリカのアマゾンが、貨物航空機20機をリースすることが明らかにされた。みずからが9.99%の株式を所有する航空機リース会社から、20機のボーイング767ワイドボディーのフレーター(貨物専用機)をリースする。このニュースの直後に、アマゾンの株価が5%上昇したという。
 アマゾンの物流にかかわる動きはこれだけではない。昨年12月に、数千台のトレーラートラックを購入したことを明らかにしている。これらにはアマゾンのロゴがボディーにはいる。全米に広がるアマゾンの物流センター(フルフィルメント・センター)のあいだで、ネット通販の貨物を輸送するのに使われる。
 そして、昨年のアマゾンの年次報告書では、初めて、みずからをネット通販事業者だけでなく、運送業者(transportation service provider)と明記するようになった。

 アメリカでも、ネット通販事業者は基本的に宅配便に依存している。国土が広いアメリカでは日本と異なり、航空宅配便と陸上宅配便の両方がネット通販のラストマイルで重要な役割を演じている。
 そこで、ネット通販事業者が貨物航空機を調達することは、この航空宅配便の輸送サービスを自前で行うことを意味する。そして、トラックを自前で調達することは、陸上宅配便に代替する輸送サービスを提供することが視野にはいってくる。
 生鮮食品を含む食品・雑貨のネット通販のアマゾンフレッシュでは、みずから調達したトラックを直接雇用したドライバーが運転して、商品を配送している。ラストマイルを宅配便事業者に頼らずに、アマゾン自身による自家輸送を行っている。

 こうした中で、自家配送のために輸送のインフラが整備されれば、それを基盤にして運送業への事業展開が容易に考えられる。それは、アマゾンが全米に物流センターを整備して、そこで他のネット通販事業者に対してフルフィルメント・サービスを提供し、実質的に3PL の物流業者と同じであることからも容易に想定することができる。

 ところで、なぜアマゾンはこれまでネット通販の物流に固執するのだろうか。これには、意外と単純な一つの答えが用意されている。宅配便事業者の力が強すぎて、ラストマイルの物流コストが異常なまでに上昇しているからだ。

 
2015年に、アマゾンはネット通販の配送料だけで115億ドル(1兆3800億円)を支払った。これは前年に比べて37%増加している。ネット通販の宿命として、売上高が増えれば、配送料も増えるだろう。しかし、2010年以降でみると、この間の売上高の増加率は平均で24.2%であったが、同じく配送費の増加率はなんと34.9%に達した。売上高の急激な増加に驚くが、配送費の増加はこれを大きく上回る。
 この背景にあるのは、UPS、FedExといった大手宅配便業者の運賃支配力である。著しい寡占市場で、宅配便の運賃は毎年値上げされている。これはネット通販事業者にとって、大いなる脅威である。こうした状況は、アマゾンの脱宅配便による自家輸送の展開、さらには物流業者への道筋を浮かびあがらせている。



事業継承の悩み
2016/3/1 更新
 トラック運送業は小規模な事業者が多く、家族経営の色彩が強い。現行の経営者の社長は、その父親が事業を起こし、それを継いで経営を維持し発展させてきた。そして、その子供は成人して、そのあとを継ぐまでに成長している。ここで、事業継承という点で、親もその子供も、二つの心情に揺れ動いている。
 親にしてみれば、父親が起こして自分の代でなんとか維持してきた会社を子供に継がせたいという感情が強い反面で、自分がこれまで中小企業の経営を維持するために苦労してきたことを自分の子供に再び味合わせたくないという感情もまた強い。そのはざまで揺れている。経営に直接携わった父親は特に両方の感情に揺れ動いているが、会社を横から客観的に見ている母親は、むしろ継承に否定的になるかもしれない。

 一方、子供も悩む。特に大学生で就活の時期を迎えて、人生の分岐点に立てばなおさらである。おじいさんの代から継続したものを自分の代でつぶしたくないと考える場合でも、悩みは尽きない。
  大学を卒業してそのまま家業を継ぐ場合もあるが、それでは井の中の蛙になってしまい、社会経験が不足する。そこで、他の大学生と同じように、いったん企業に就職して経験を積んだ後に、家業を継ぐ選択肢もある。一番良いのは、同業の物流企業に就職して、物流の現場を経験し、経営にも携わることである。

 だが子供はそこでも考えてしまう。はたして、その間に家業はもつだろうか。またできるだけ早く家業に入ったほうがいいが、それでは会社での仕事も中途半端になってしまう。そんな短い時間で、自分の家業の経営に役立つようなスキルを身に着けることができるのか。
 世代を超えてこうした揺れ動く心情にあるとしたら、この業界がいかに不安定であるのかを端的に示している。できれば、家族経営で続いたものをさらに継いで事業を発展させてほしいと願いたいが、現実にはそんな単純なものではない。

 トラック運送業者数は、平成19年度の6万3122をピークに減少傾向が続いている。新規参入者に対して廃業や合併による退出者が上回る傾向が続いている。この傾向が続くことは、揺れ動く心情の片方のベクトルがさらに強くなっていることになる。


買い物難民と物流業者の対応
2016/2/1 更新
 すさまじい勢いで高齢化が進展している。これとともに大きな社会問題が起きている。買い物難民である。買い物弱者ともいわれているが、より強烈な呼び名で買い物難民のほうが事態の深刻さをアピールしている。
 食品や日用品など常日頃の買い物が困難な高齢者のことである。近くに小売店がなく、また公共交通機関や自家用車によって買い物に行くことが難しい。買い物難民は、高齢化が著しく小売店も少ない農山村の過疎地域だけではない。都市部でも、スーパーが撤退して公共交通機関も使えない古い団地などで買い物難民が急増している。経産省の推計では、買い物難民は全国で700万人に達するといわれ、まさに全国的な規模で発生している。

 こうしたなかで、物流業者が買い物難民に対応した新たなビジネスを展開している。
 買い物難民への対応策として食品や日用品の宅配があり、最も有力なものがネットスーパーである。ネットスーパーというと、インターネットを使えない高齢者には不向きとも考えられるが、チラシや電話での受付も行っており、高齢者のアクセスも確保されている。

 ネットスーパーの課題は、顧客までの商品の配送である。物流業者がこのネットスーパーの配送を専門的に請け負うビジネスを繰り広げている。女性を中心とした配送スタッフが、スーパーから顧客への配送を請け負って、こまめで迅速な配送サービスを提供する。
 これだけでなく、高齢化に対応した独自のサービスも同時に提供している。顧客である高齢者の家に訪問して、ネットスーパーの注文を個別に直接聞くだけでなく、スーパー以外の買い物の依頼を受けて購入して届ける、買い物代行も有料で請け負うサービスも展開している。
 さらには、ドライバーが高齢者宅を定期的に回ることから、遠隔地に暮らす高齢者の子供に安否確認を含めて高齢者の状態を定期的に知らせるサービスも有料で提供している。

 このように、ネットスーパーの商品配送を主要な業務として、高齢化に対応したいくつものサービスを付加したビジネスを繰り広げている。単にモノを運ぶだけではなく、人との関わりも含めたこれまでにない複合的なサービスを提供しているのである。
 大きな社会問題となっている買い物難民に対して、物流業者はどう対応できるのか。それはマイナーな対応に思えるかもしれないが、この問題がますます深刻になるに応じて新たなマーケットの形成とビジネスチャンスが広がっている。買い物難民への対応をどう事業化できるのか、物流業者の試行錯誤がこれからも続いていく。


ドローンによる宅配の可能性
2016/1/1 更新
 千葉市が国家戦略特区に指定され、そこでドローンを使用した宅配の実証実験が行われることになった。アメリカのアマゾン・ドット・コムが、この実証実験に参加する。

 アマゾンのドローンによる宅配の光景は、テレビのニュースでも放映され、衝撃的なものであった。小さなドローンが、小型の貨物を抱きかかえアマゾンの物流センターを飛び立つ。大空を飛行したのちに、配達先の家庭に着陸し、荷物を勝手におろして、再び飛び立っていく。そこに近未来のネット通販のラストマイルの光景が映し出されていた。
 アマゾン以外にもグーグルや、世界最大のディスカウントストアのウオールマートなども、実用化に向けてドローンの実験を行ってきた。しかし、アメリカでは、政府の規制という大きな壁が立ちはだかって、ドローンの実際の利用はいまだに認められていない。
 こうしたなかで、安倍政権の重要な経済政策の一つである国家戦略特区で、規制が緩和されドローンの実用化に向けた実証実験が行われようとしている。これに参加するアマゾンにとってみれば、新たな突破口を日本で開くことができ、願ってもない好機が到来している。
このアマゾンのドローンによる宅配の取組みをどのように考えたらよいのだろうか。

 いうまでもなく、これはネット通販のラストマイルを根本的に変える可能性がある。それは、ドライバーが運転するトラックによる配送から無人の航空機による配送へと、輸送手段および輸送の仕方が変化するラストマイルのイノベーション(技術革新)といえる。これによりラストマイルが劇的に変わる端緒となることは想像に難くない。
 さらに、もう一つ重要な点は、アマゾンがラストマイルを自ら行おうとする大きな試みでもある。輸送手段を変えてラストマイルを自家物流にしようとするものである。これまで、ネット通販のラストマイルは、主に宅配便事業者に依存してきたが、それからの脱皮をさらに推し進めていくことの一つと考えることができる。
 すでに、アメリカでアマゾンは「アマゾンフレッシュ」という生鮮食品を含む食品、雑貨のネット通販をスタートしている。これは自社で車両を調達して自社ドライバーを雇って自家配送を行う。ネット通販の生命線の一つといえるラストマイルを、従来の宅配便事業者に依存せず、自ら行うという戦略的決断がここでなされている。

 こうした自家物流の実績の延長上に、ドローンによる宅配の積極的な取り組みを考えると、やはりラストマイルを自社で行うという強い意志を読み取ることができる。もちろん、ドローンによる宅配は実証実験がこれから行われるのであって、実用化に向けたさまざまな課題が山積しているであろう。しかし、いったん突破口が開けられたイノベーションは急激に拡大して、それまでの仕組みを大きく変えてしまう。ドローンの宅配はその可能性を秘めている。
 こうした状況の中で、ネット通販のラストマイルを担ってきた宅配便事業者はどうするのであろうか。インテグレータのDHLは、ネット通販の宅配ではないが、ドローンによる貨物輸送をすでにドイツで行っており、実績を上げている。長期的に見れば、これからますます拡大するネット通販のラストマイルを担う宅配便は、新たな可能性を取り入れていく必要性があることは明らかだ。わが国でも、密かに実用化に向けた取組みがなされているのであろうか。


ネット通販ラストマイルへの新規参入
2015/12/1 更新

 最近、ネット通販のアマゾンは、最短1時間以内で配送することを発表した。ネット通販では、配送時間を短縮する当日配送が積極的に推し進められている。消費者に利便性をアピールして差別化するために、当日配送が重要になっている。

 当日配送を可能にする条件は、ラストマイルの配送を早くするだけではない。物流センターのロケーションが重要となる。最近では、大手ネット通販事業者を中心に全国規模で物流センターが分散化されて、大都市の消費者が集積する地域近郊に設置されている。こうした物流センターから直接周辺地域に配送することによって、当日配送のエリアの拡大が可能となる。
 そして、物流センターの分散化は、当日配送の拡大をもたらすとともに、もう一つネット通販のラストマイルに変化をもたらす。それは、ラストマイルの輸送市場への新規参入の可能性である。

 これまで、ネット通販のラストマイルは大手宅配便業者に依存してきた。全国的なネットワークを持つ宅配便を利用すれば、一つの物流センターから全国に配送することが可能である。だから、物流センターが分散化していない段階で、ネット通販事業者はラストマイルを宅配便に依存してきた。
 しかし、物流センターの分散化は、物流センターに在庫を備えていれば、物流センター周辺の一定地域に配送可能なトラック運送業者でも、ラストマイルを任せられることになる。必ずしも全国配送の宅配便に依存しなくともよい。

 ネット通販事業者にとっては、物流センターの分散化によって、宅配便市場の寡占化で選択肢が少ないラストマイルのプレイヤーを増やすことができる。そして、地域の物流業者にとっては、ネット通販のラストマイルへの新たな市場への参入機会が生じることになる。
 大都市を中心として、人口密度の高い地域に限定して配送すれば、配送効率が高くなり、採算性をクリアできる。配送密度が低い地域も網羅して全国に配送する宅配便の事業者に対して、大都市の配送密度の高い地域に限定した物流業者の事業展開は、クリームスキミング(いいとこ取り)となる可能性がある。もちろん、こうした高密度配送地域を前提としてネット通販事業者は、より低い運賃を求めてくるだろう。

 いずれにしても、ネット通販の急激な成長とそれに伴う物流センターの分散化は、新たにラストマイルの輸送市場が求められており、大都市に限定して輸送ネットワークを持つ物流業者にとって新たな参入の可能性が考えられるのである。



自家用タクシーの先にあるもの
2015/11/1 更新

 最近注目すべき動きが出ている。政府は、「自家用車タクシー」を認める方針を明らかにした。国家戦略特区における規制緩和の一環として導入をはかる。一般の人が自家用車で他人を運び、その対価として報酬を得ることを認める。これは、白ナンバーの自動車による旅客輸送の営業行為を可能にすることになる。
 これはライドシェア(相乗り)とも呼ばれている。すでに世界的に有名になっているが、スマートフォンを利用してドライバーを検索できて配車してくれるウーバーがあるが、これと同じ仕組みを導入して自家用車タクシーを行う。

 鉄道や路線バスなどの公共交通が衰退して、移動手段を確保できない交通弱者が多く存在する地方の過疎地域に限定して、こうした自家用タクシーを認める。交通弱者の問題が深刻になる中で、従来の規制の枠を超えた柔軟な政策が必要となっているのである。
 それと同時に、時代の流れのなかで、従来の営業用と自家用を明確に区分した規制が変化する始まりとも考えることができる。これは旅客輸送だけでなく、貨物輸送においても近い将来起こる可能性がないとは言えない。

 ウーバーは人を運ぶ旅客輸送であるが、これに対して貨物輸送のウーバー版ともいえるものは、すでにアメリカで展開されている。以前取り上げたこともあるが、イントラカートである。
 これは、日本でいうネットスーパーの新たなビジネスタイプであり、スマートフォンのアプリを使ってスーパーの商品を注文すると、あらかじめ登録された一般の人が店で商品をピックアップして、購入者宅まで届けてくれるというものである。買い物代行業と考えられるが、一般の人が商品を運びその対価として購入者から報酬を得ている。配送自体は、輸送サービスを提供して運賃を得る営業行為と同じである。
 人を運ぶウーバーとモノを運ぶイントラカートに共通することは、IT技術を駆使した新たなシステムを構築して、一般の人々が従来の営業行為と同じことを簡単にできるようにすることである。

 現在、外国のウーバーで行われているような仕組みが、限定的ではあれ日本でこれから導入されようとしている。それでは貨物輸送の分野はどうかというと、アメリカでは既にこれと似たような事業が繰り広げられている。貨物の輸送においても、自家用と営業用の区分を溶解するような新たなビジネスが、日本でも近い将来出てくる可能性も考えられるのである。



ジャストインタイム方式の誤解
2015/10/1 更新

 いうまでもなく、ジャストインタイムは、「必要な時に、必要なものを、必要なだけ」納入することを意味する。この言葉はトヨタ自動車で使われて、JITとともに世界的に知られている。
 そしてジャストインタイム方式は、部品業者がみずからの責任で自動車組立工場に部品を納入するやり方である。これに対してミルクラン方式が存在している。これは自動車の組立メーカーが、部品業者を回って部品を集める方式である。ここでは、部品の配送コストがはがされて、このコストを部品を購入する組立メーカーが負担して、販売者はそれを除いた価格で部品を販売する。
 いずれにしても、ジャストインタイム方式とミルクラン方式では、部品納入の物流における主体と物流コストの負担の仕方が全く異なっている。

 そして、トヨタ自動車で採用されているジャストインタイム方式は、まさにわが国の一般的な商習慣と合致している。わが国では、「庭先渡し」や「店着価格制」と呼ばれる商習慣が一般的である。要するに、商品を売る方が責任を持って買う方まで届けて、届けるためのコストは販売価格の中に含まれるというものである。トヨタ自動車の部品調達も原則的にこれと同じである。
 そして、「必要な時に、必要なものを、必要なだけ」、部品を売る方が責任を持って届けてくれるのであれば、部品を買う自動車組立メーカーにとっても好都合な仕組みである。このために、この方式がこれまで広く行われてきたのだと考えていた。
 
 ところが、実際は必ずしもそのような単純なものではなかった。このことを最近聞かされた。

 トヨタ自動車は、かつてこの方式を再検討した時期があった。愛知県にトヨタ自動車の組立工場があり、その周辺に部品工場が数多く集まっている。自動車組立工場にとっては、膨大な量の部品をいかに効率的に組立工場に集めるかは需要な課題である。そして自動車の生産量が拡大するにつれて、これが大きな問題となっていった。
 その時に、トヨタ自動車は従来の部品業者がみずからの責任で組立工場に納入するやり方と、トヨタ自動車の責任で部品業者を回って部品を集める、今でいうミルクラン方式を真剣に検討したという。
 そして、最終的には、従来通り部品業者の責任で納入する方式になった。その理由は、ミルクラン方式の実施に対して、部品業者側が強く反対したからだという。なぜ部品業者が反対したかというと、ミルクラン方式を採用すれば、部品業者がこれまで使っていたトラック運送業者を切らなければならない。それが大変なので、部品業者はミルクラン方式の導入に反対したという。

 もしトラック運送業者が部品業者と密接な関係を築いていなかったら、もし部品業者がトラック運送業者をあえて考慮する必要がなかったならば、この時点でトヨタ自動車にミルクラン方式が採用されたかもしれない。そして、ミルクラン方式が、自動車の部品調達物流のスタンダードになっていたかもしれないのである。



インドの物流
2015/9/1 更新

 著しい経済成長を遂げているインドに、自動車メーカーをはじめ多くの日本企業が進出している。当然ながら、これら日系企業は現地で物流をまかなわなければならない。しかし、現地のトラック輸送はさまざまな課題を抱えている。

 インドでは、スズキ、ホンダ、トヨタ、日産といった自動車メーカーが乗用車を現地生産しており、現地資本のタタなども生産している。このため、道路を走っている自家用車は目新しい車ばかりだ。ところが、トラックになるとほとんどが古い車両ばかりで、車齢が10年は超えると思われるトラックも数多く走っている。このような壊れそうな古いトラックで、実際の輸送が行われている。
 急激なモータリゼーションで道路の整備が追いつかず、都市部では激しい交通渋滞がつきものだ。とりわけ、雨が降ると道路渋滞がさらに悪化する。道路の水はけが悪く、幹線道路の3車線のうち1車線が簡単に水没してしまう。このため、交通量が制限されて、渋滞が加速する。時間指定のジャストインタイム輸送など、とうてい難しい。また、舗装状態が悪く、走行中の振動が大きい。輸送途上の貨物にダメージを与えることになる。

 中小零細のトラック事業者が多くを占めており、運転するドライバーには文字を読めない者が多い。トラックの車両は古いが、車両管理のためにGPS装置が搭載されているという。しかし、ドライバーがかってにスイッチを切ってしまい、用をなさない。運転するドライバーの信頼性に不安がある。
 かつて社会主義国であったインドでは労働組合が強く、このために労働争議やストがよく起きる。スズキの現地工場で大規模な労働者の暴動が起こったことは、日本でも大きく報じられた。こうした状態は、トラック運送業でも例外ではない。労働争議やストが起きてしまうと、輸送の安定的な確保が難しくなる。

 日本の物流業者が現地に進出して、日本のメーカーの物流をサポートしている。インドに進出した日系物流業者の重要なポイントは、いかに現地の優秀な物流業者をパートナーとして選ぶかである。しっかりと物流の現場をコントロールできる現地の物流業者を選ぶことが必要不可欠となる。
 そのうえで、日系の荷主企業が求める物流のサービスレベルを満たすための独自の努力が必要となる。例えば、安全で確実な輸送を確保するために、現地の物流業者にまかせきりにしない。独自の研修制度を設けて、トラック輸送を請け負う現地の協力会社のドライバーをこの研修に必ず参加させる。研修では、文字の読めないドライバーのために、簡単な絵を使って説明する工夫をしている。
 劣悪な条件のもとで、荷主企業が求める物流サービスをいかに提供していくのか、インドでも現地に進出した物流業者の果敢な取組みが行われている。



トラックドライバー不足の普遍性
2015/8/1 更新

 7月初旬にイタリアのボローニャで、ISL(International Symposium of Logistics)という物流の国際学会が開かれた。開催場所のボローニャ大学は、ヨーロッパ最古の大学として有名だ。そこに、ヨーロッパやアジアなどの物流の研究者が集まった。
 この学会で、日本における物流問題について発表した。発表した内容は、日本においてトラックドライバー不足が深刻化している現状を取り上げて、それがどうして発生したのか、そして物流全体に対してどのような影響を及ぼしているのかである。
 この発表は日本の事例研究なので、ヨーロッパの研究者はさほど関心がないだろうと考えていた。ところが、驚いたことに、発表後にヨーロッパの研究者から質問が相次いだのだ。

 発表者に対して、次のような質問が投げかけられた。
 「深刻なドライバー不足に直面して、日本の物流企業の経営者は、ドライバーを集めるためにどのような努力をしているのか。ドライバー不足に対して、物流企業の有効な対応策は何なのか」
 「ヨーロッパでは、大型トラックの自動運転に関する技術開発が進んでいる。こうした技術開発は、近い将来ドライバー不足に対して有効だ。日本でも、この技術開発を利用すべきではないか」
 「ヨーロッパでは、移民政策によって海外から労働力が供給されてきた。日本でも新たな移民政策で外国人労働者をドライバーとして雇い入れて、不足を補うことができるのではないか」
 いずれの質問もドライバー不足に対する対応策の本質を突くものであった。そして、よりグローバルな視点で考えると、ドライバー不足に対して、多様な対応策があることを改めて考えさせられる。

 さらに、これらの質問から、ヨーロッパの研究者たちのドライバー不足に対する関心の高さが示された。背景として、ヨーロッパの先進国にも同じようにドライバー不足の問題が浮上していることが容易に想像できる。
 アメリカにおいてドライバー不足が深刻である。程度の差はあるが、ヨーロッパの先進国においても同じ問題が生じつつあるようだ。トラックドライバー不足は、日本、アメリカ、そしてヨーロッパの先進国に共通した、これからの物流における大きな問題になる可能性がある。



物流現場の慣行という強固な岩盤を崩す取組み
2015/7/1 更新

 現在の深刻なドライバー不足の大きな原因が、長時間労働にあることは明らかである。トラック運送業では、他産業に比べてはるかに長い労働時間が常態化している。賃金の安さに加えてこの長時間労働は、ドライバーが他産業に流失したり、この産業で働こうとしなくなったりする大きな原因となっている。

 改善基準告示による労働時間の規制があるにもかかわらず、これに違反するような長時間労働が行われてきた。しっかりとした規制があっても、これが守られない実態が現実に幅広く存在している。
 ドライバーの長時間労働は、物流の現場で長年に行われてきた慣行によって生じている。その最たるものが、手待ち時間であり、これがドライバーの長時間労働につながっている。発荷主で貨物を積み込むまで長時間待たされ、ドライバーはそこで待機せざるをえない。さらには、届け先でも貨物の積み下ろしに長時間待たされる。

 荷役もまた労働時間の長時間化をもたらしている。パレットでトラックに積み込めば荷役は短時間ですむが、トラックの積載効率が低下する。このため、パレット積みが行われず、ドライバーの手荷役になる。発の手積みであれば、着でも手降ろしとなり、荷役時間が長くなる。こうして実質的に運転していないものの、荷役にも時間を費やし、労働時間の長時間化が避けられない。

 こうした長時間労働は、ドライバーが集まらない大きな原因になっているため、改善しなければならない。しかし、これを実際に改善することは非常に難しい。なぜならば、それが物流現場の慣行として、長年にわたって当たり前のように行われており、さらに、それをもたらす原因が、荷主企業の物流の仕組みそのものや、荷主企業の顧客である着荷主の物流の仕組みそのものにあるからだ。
 ドライバーの長時間労働を変えようとすれば、こうした企業の物流の仕組みそのものを変えていかなければならない。そして、これらは物流の現場で長年にわたって行われてきたもので、いわば強固な岩盤のように固い。
 長時間労働の改善には、トラック運送業の経営者による努力だけでは不可能である。荷主企業や着荷主企業の物流の仕組みを変えていくことが必要であり、このために異なる企業間の連携と取組みが必要不可欠なのである。

 最近、国土交通省は新たに「「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」を立ち上げ、長時間労働の是正に向けた検討を開始した。まさに、長時間労働を改善する仕組みを考えることがこの協議会の目的であり、これまでの強固な岩盤を崩していくための具体的な提案が期待されている。



離職率96%
2015/6/1 更新

 離職率が96%という驚くべき数値が明らかにされた。これはアメリカのトラック運送業の離職率である。2014年第4四半期(秋季)に、大型トラック長距離貸切輸送を行う大手のトラック運送業者は、ドライバーの離職率が96%に達した。最近アメリカトラック協会が発表したものである。
 
 離職率とは、一定期間のうちに、従業員全体のなかで会社を辞めた従業員の割合を示している。単純に考えると、離職率96%とは、ほとんどすべてのドライバーが入れ替わったことになる。実際に、例えば100人のドライバーを雇用しているが、そのうち50人は職場にとどまったが、残り50人のドライバーが2回入れ替われば、離職率は100%となる。そして50人が3回入れ替われば離職率は150%になり、100%を超える。実際に、2012年には大手トラック運送業者の離職率が100%を超えたこともあった。
 そして、同じく昨年秋季に長距離の貸切輸送を行う中小のトラック運送業者のドライバー離職率は、95%であった。これまで中小のトラック運送業者は大手に比べて離職率が低く、両者の間には大きな差が存在していた。ところが最近これが縮小して、ほとんど差がなくなった。極端なドライバー不足に悩む大手のトラック運送業者が、ドライバーを集めるために賃金を大幅に上げてボーナスも増やした結果、中小の離職者が増えた。そして両者の離職率の差がなくなったのだという。

 
いずれにせよ驚くべき離職率の高さである。アメリカではこの離職率がドライバー不足状況を表わす重要な指標と考えられている。2010年の初めで離職率は大手で70%、中小で50%台であったが、その後離職率はともに悪化を続け、現在ではいずれも100%に近付いている。ドライバーを集めても、集めても、次々と辞めていく深刻な事態が進行しているのである。

 大型トラックの長距離ドライバーは、1か月のうち3週間は家を留守にして全米を駆け巡り、車上生活をしながら貨物を運ぶ。ドライバー不足を反映して賃金が大幅に上昇しても、こうした過酷な状態では、人は集まらないし、定着もしない。ドライバーの平均年齢は50歳を超えており、高齢化したベテランはリタイアし、若手の労働者は過酷な職場を避ける。景気が回復しているなか、ドライバーは建設業をはじめ他産業に流れている。
 
運ぶ貨物があり、トラックもあるものの、運転するドライバーがいない。こうした状態がますます深刻化している。先のアメリカトラック協会によれば、現時点で、全米で3万5000人から4万人のトラックドライバーが不足している。これは昨年に比べて5000人増えているという。

 折しも日本とアメリカの物流業界は、ドライバー不足という深刻な問題に直面している。それは、偶然なのか、必然なのか現時点ではにわかに判断がつきにくいが、それぞれの物流に大きな影響を与えていて、先進国における重大な物流問題が発生していることは明らかである。



ドライバー不足による新たな輸送市場の出現
2015/5/1 更新

 最近注目されているのが共同配送である。さまざまな共同配送の形態があるが、最も典型的なものが、同じ業界の企業どうしが同一の製品群をいっしょに運ぶ形である。例えば、同じ業界のメーカーが集まって、卸売業者や小売業者の物流センターに商品を共同で納入する。
 メーカーどうしは販売をめぐって競争関係にあるが、運ぶ品目がほぼ同じで、しかも納入先も同じであるために、共同配送を行いやすい。互いに販売ではしのぎを削って競争しているメーカーが、企業間の壁を乗り越えて共同配送を行うことができる。
 企業があえて共同配送をするインセンティブは、いうまでもなく共同配送が生み出す経済的なメリットにある。特に、配送先が分散していて配送量それ自体が少ない地域では、束ねて運ぶことによるメリットが大きい。このために、競争していがみ合っている同業他社とも、共同配送を行うことができる。環境負荷の軽減という目的は、後から付けたお題目に過ぎない。

 最近では、この共同配送に新たなインセンティブが加わった。トラックドライバー不足による輸送コストの増加と輸送の不安定性の拡大である。これが企業の物流に重大な問題を投げかけており、効率的な輸送を実現して必要なトラック台数を減らす共同配送へ企業を駆り立てている。
 そして、この共同配送に新しい取り組みの方向が出てきた。一つは、共同配送をより効果的にするために、たんに貨物を束ねるだけでなく、物流に関わる取引の諸条件も改善しようとしている。具体的に、多頻度小口化の原因となっていて、輸送効率を引き下げている発注単位を見直す。さらに、弾力的な輸送を阻害する時間指定も改善を求めていく。これらを共同して顧客と交渉して実現し、共同配送の効果を高めようとしている。
 さらに、共同配送をより効率的にするためには、単にメーカー同士の協力関係だけでなく、納入先の卸売業者も巻き込んで共同配送を行うことも検討されている。具体的には、小売の配送に使っている卸売業者のトラックを空いている時間に共同配送に参加させるというものである。こうなると、従来の共同配送はメーカー間の水平的な関係であったが、新たに垂直的な関係を包含する可能性が出てきている。

 このようにして、ドライバー不足によるトラック輸送の不安定な状態は、企業を新たな共同配送へと向かわせている。それは、トラック運送業者にとって新たな輸送の市場が出現していることを意味している。束ねて運ぶことによる輸送の効率性が求められており、トラック運送業者がイニシアティブを取って、新たに共同配送の仕組みを構築していく。新しいニーズを取り込んで、次の輸送市場を発展させていくのである。



物流の影響力
2015/4/1 更新

 2月末カリフォルニア州のニューポートビーチの海岸に立った時に、異常な光景が広がっていた。沖合に多数の大型コンテナ船が浮かんでいるのである。海岸線から目視できるだけでも、その数は10隻を超えていた。最も近い船体にはHYUNDAIの文字が確認でき、その他にも数多くの大型コンテナ船が、所在なさげに潮の流れに身を任せ沖合に浮かんでいた。

 大型コンテナ船の沖待ちである。これは、アメリカ西海岸のコンテナ港湾で、労使交渉の対立によって港湾荷役が滞ったため発生した。港湾労働者の労働組合と海運会社やターミナルオペレーターなどの経営者側は、労働協約をめぐる交渉を長期間にわたって続けてきた。
 ようやく2月20日に暫定的な合意が成立したものの、この間に労使対立によって港湾の荷役は大きく停滞した。暫定合意後も港湾荷役の回復には時間がかかり、依然として多くのコンテナ船が沖待ちせざるをえなかったのである。

 大量の大型コンテナ船の沖待ちは異常な光景だが、港湾荷役が滞る影響もまたけた外れに大きい。アメリカからの輸出貨物や、アジアからの輸入貨物が一時的にストップした。アメリカでは、小売店で販売する商品が店頭に届かず、また工場では部品が届かないため操業の縮小や停止を余儀なくされた。わが国でも、ファストフード店でフライドポテトが販売できなくなった。
 アメリカでサプライチェーンが一時的に寸断され、この間に景気回復の途上にあるアメリカ経済に影響を与えると懸念されたほどである。物流インフラが機能不全に陥ると、経済全体に重大な影響を及ぼすことをまざまざと見せつけられた。

 さらに驚くべきことは、労使交渉の中身である。労使交渉の過程で、経営者が組合側に提案した条件が一部で報道されている。それによると、フルタイムの港湾労働者の年平均報酬が14万7000ドル(1751万円)、そして5年間にわたり年率3%の昇給が加わり、さらに一人当たり3万5000ドル(417万円)の医療費を経営者が負担する。これに加えて年金の上積みが、8万8800ドル(1058万円)だという。それでも、組合側はこの経営者側の提案を拒否した。
 これがアメリカにおける物流業の港湾で働く労働者の賃金水準と労働条件である。当然ながら、港湾荷役をめぐる労働組合と経営者側との交渉の歴史があり、アメリカ社会における特有な労働運動が展開されて、今日のような内容になっている。それにしても、交渉の中身には素直に驚かされる。


 物流は社会経済を支える縁の下の力持ちだから、そこで働く労働者の賃金や労働条件も社会的に目立たないと考えてしまう。数字だけを単純に比較して考えるのは一面的だが、しかし、同じ物流でも全く異なる労働者の賃金水準と労働条件が形成されているのである。



女性ドライバーの戦力化
2015/3/1 更新

 日本トラックドライバー育成機構(酒井誠代表理事)が主催するパネルディスカッションが開かれ、そこでコーディネータを務めた。「ドライバー不足の改善に向けた取り組み」がテーマで、かつて安倍首相と面談した2人の「トラガール」の方々もパネラーとして参加した。そこで興味深い話が出た。

 女性ドライバーを採用する際には、女性が働きやすくするような環境を整備すべきだといわれている。トイレや更衣室の整備は言うまでもないが、女性が好むような制服や、さらにはオートマ車の導入などが大切だと指摘されている。
 しかし、意外にも「トラガール」の方々が発言されたのは、女性だからといって特別な扱いをしてほしくないという。女性が好むと思われるピンクの制服など必要ないし、マニュアル車でも十分だというのである。一緒に働く男性とへんに区別する必要はないという。
 それでは、全く同じでいいのかといえば、そうではない。女性だから尊重してほしい点は別にあるという。これらの点は、現在働いているところの経営者は把握しているが、一般の経営者にはなかなか理解できないようだ。
 これまでトラック運送業者は、経験豊富で年齢を重ねた男性のプロドライバーに依存してきた。彼らは運転のプロだから、すぐに戦力化できて、面倒な教育や訓練など必要とせず、なにも特段気を使わずに済んだ。経営者は、「男の職場」で、これまで楽をしてきたのである。

 しかし、状況は大きく変化した。これまでのようにプロドライバーを集めることができなくなった。新しい分野から新人や経験の浅いドライバーを集めて、運転をしてもらわなければならない。その一つが、女性ドライバーであり、彼女らに長く働いて自社の新たな戦力になってもらわなければならない。
 おそらく、多くの経営者は、ドライバーとして働く女性にどう対応したらよいのか、正直かわからないというのが本音だろう。何せ経営者自身が「男の世界」で生きてきて、これまで女性ドライバーを雇用した経験がないからである。
 女性を一度採用してみたが短期間にやめてしまったりすると、「だから女性はダメだ」、「女性はドライバーに使えない」、と短絡的に否定的になってしまう。
 実際に、新しい事柄は、経験してみなければわからない点がたくさんある。マニュアル通りに行かない場合のほうが多い。女性ドライバーの採用もしかりである。

 実際に女性がドライバーとして働くうえで、何を望んでいて、どうしてほしいのかは、彼女らの声を真摯に聞きながら改善していくしかない。経営者が謙虚に聞く耳をもって、弾力的に対応ができるかが大きなポイントになる。そして、経営者が試行錯誤を重ねて、女性の定着率を高めて、戦力化していくことが必要となる。



先進国に共通するドライバー不足にどう対応するか
2015/2/1 更新

 NHKの「クローズアップ現代」で、物流業界が直面する深刻なドライバー不足が取り上げられた。ドライバー不足はすでに日本経済の大きな問題として認識されていることが示された。
 だが、トラックのドライバー不足が深刻なのはわが国だけではない。世界最大の経済大国アメリカもまた、深刻なドライバー不足に直面している。

 アメリカトラック協会(ATA)によれば、昨年の後半には全米のトラック運送業で約3万5千人のドライバーが不足した。そして、このまま何もしなければ、2020年までに全米で不足するドライバーは約24万人に達するとの予測も出されている。
 アメリカでは、景気が上向いているなかで、ドライバー不足のためにトラック運賃が大幅に上昇している。それがまた、一般の企業の物流コストを押し上げており、さらにそれが製品価格に転嫁され、インフレをもたらすことになるのではないかと懸念されている。

 当然、アメリカのトラック運送業者も、不足するドライバーを集めるのに必至になっている。
 アメリカでは新しい職場につくときには、サイン・オン・ボーナスと呼ばれる一種の「支度金」が支払われる。この支度金がトラック運送業で大幅に増加している。新人のドライバーを雇用するときに、500ドル〜1万2千ドル(6万円〜144万円)の支度金が必要となるという。当然、ドライバー不足が深刻な州では、この支度金が跳ね上がる。極端な場合、新人を雇うのに最初に150万円近い支度金を支払って、ドライバーを確保している。
 また、新たにドライバーを採用するために、トラックの運転免許を取得する費用を負担するトラック運送業者も珍しくはない。この免許取得には約7千ドル(約84万円)必要となるが、トラック運送業者は一定期間働くことを条件に、新規採用する労働者のためにその費用を支払う。 

 アメリカで指摘されているのは、ドライバーの不足がこれまでのように景気循環によって生じたり消滅したりするものではなく、常態化する構造的なものになったのではないかということである。
 アメリカは、日本よりも早く1980年にトラック運送業の規制緩和が行われた。それ以降業界の競争が激しくなるなかで、ドライバーの雇用条件は大幅に悪化した。ドライバー賃金は相対的な低下が著しく、このためにドライバーが他産業に流失してしまい、集まらなくなった。『不足しているのはドライバーではなく、ドライバーの賃金だ』と言われているゆえんである。
 ドライバー不足が深刻化しているアメリカで生じていることは、従来の相対的に低賃金で低運賃の便利な輸送サービスを享受してきた時代の終焉と、これとは異なる新たな構造的変化の出現の可能性である。
 トラックの輸送サービスを提供するためには、これまでと異なる好条件でドライバーを集めて、それによるコストの増加を運賃にしっかりと転嫁して収益を確保する。こうしたことがまともなやり方となる時代が来ているのかもしれない。



今年もラストマイルから目が離せない
2015/1/1 更新

 今年の動向で目が離せないものが、「ラストマイル」である。ラストワンマイルともいわれるが、ネット通販ビジネスにおける個人宅までの最後の配送のことである。
 ネット通販の成長の勢いはとどまることなく、今年もまた大幅な売り上げの増加を見ることになるだろう。問題は、ネット通販の物流の重要な構成要素であるラストマイルである。個人宅までの配送をどうするのか、ネット通販事業者とこれを担う宅配便事業者との攻防が繰り広げられる。

 アメリカでは、ラストマイルを担う大手宅配便業者のUPSやFedExが、昨年末から今年の初頭にかけて、運賃の値上げとなる新たな運賃システムを導入した。これによって確実にネット通販のラストマイルの運賃が上昇する。寡占体制にある宅配便だからこそなせる業である。
 もちろん、ラストマイルを宅配便事業者に依存するネット通販業者も、手をこまねいてはいない。アマゾンは従来のフルフィルメント・センター(物流センター)に加えて、仕分け専用のソーテーンション・センターを全米に次々と新設している。
 そこではUSPS(アメリカ郵政公社)の郵便番号に基づいて各地域の郵便局ごとに仕分けをして、束ねた貨物をそれぞれの郵便局に直送して、郵便局が配送する仕組みである。従来行われなかった日曜日の配達も実施され、USPSがラストマイルを担う。
 これは、UPSやFedExに対抗したアマゾンの新たなラストマイル対策であることは明らかである。はたして、それがアマゾンのラストマイルにおけるコスト抑制に有効に機能するのかが注目される。

 わが国においてもラストマイル問題が注目される。これまで大手通販事業者に押し切られてきたが、かつて佐川急便が宅配便料金の値上げに踏み切った。結局それによって荷主を失ったが、物流業者が値上げに踏み切るインパクトは大きかった。ドライバー不足が深刻化するなかで、さらに宅配便事業者の新たな運賃の上昇がもたらされる可能性が強い。
 さらに、日本郵政(JP)の上場が予想されており、宅配便業界第3位で寡占体制の一翼を担う日本郵政が、どのような行動を起こすのかが、ネット通販のラストマイルにも大きな影響を及ぼすものと考えられる。

 もちろん、最大手のネット通販事業者であるアマゾンも手をこまねいているわけではない。これまで全国各地に物流センターを積極的に建設し、迅速な配送と配送コストの削減が可能な物流システムを構築してきた。自社のラストマイルに忍び寄るコスト増をいかに回避して、安定したラストマイルの仕組みを築くのか、アマゾンの次の展開が注目されている。

 こうして、アメリカでも、日本でも、急成長するネット通販のラストマイルから目が離せないのである。



変化する物流企業のリクルート
2014/12/1 更新

 大学生を対象とした企業のリクルートといえば、インターネットのリクナビやマイナビを利用して、広く学生を集める方式がこれまで定番であった。
 しかし、最近ではこれをやらない物流企業も出てきている。この方法では多くの大学生が応募してくるが、しかし実際に採用したい人材は少なく、募集の対費用効果を考えると効果的ではないという。

 これに対して、焦点を絞ったピンポイントのリクルートを始める物流企業が目立っている。採用者の多い大学に絞って就職説明会に積極的に参加したり、物流を勉強しているゼミナールなどに直接アプローチしたりするのである。
 実際に、物流の講座が設定されている大学の学生や、ゼミで物流を勉強している学生は、物流の実態をある程度理解しており、就職先として物流業に対する関心も深い。このために、こうした学生に対してアプローチしたほうが、無駄に学生を集めるよりは効果的にリクルートできる。
 大学のゼミナールで物流を教えているが、最近では物流企業の人事担当の方々から訪問を受ける機会が増えている。物流を勉強して物流企業に関心をもっている学生にとっては、こうしたアプローチは実にありがたいことである。

 こうした方法とは別に、インターネットを積極的に活用しているドライバーを集めようとする物流企業が出てきている。
 最近では、多くの物流企業が自社のホームページを開設しているが、企業の概要や物流サービスの内容などを知らせることが一般的であった。しかし、労働力不足が深刻化するなか、ホームページにドライバーの採用のページを設定して、広くドライバーの募集を掲げ、自分の会社の特徴を強くアピールする物流企業が出てきている。
 ある事例を見ると、ホームページ上で、業績が安定している、安全に対する取り組みが充実している、頑張った人に褒賞が与えられる、長く働くことができる、未経験者でも積極的に採用しているなど、会社の採用の特徴と働く人のメリットを積極的にアピールしている。

 職を求めている人は、若者を中心に、まずその会社の情報をネットから得ようとする。このため、このように募集のサイトを開設し、積極的に会社で働くことのメリットをアピールすることは、リクルート戦略上重要でなおかつ有効である。
 そして、もう一つ重要な点は物流企業の経営者の顔が見えることである。これ単に顔の画像を掲載することではない。企業経営者として何を考え、会社をどのように運営していくのか、さらに将来の会社のビジョンをホームページで語るのである。
 職も求めている人たちはそれをしっかりと見て、物流企業に応募するかを判断するようになっているという。



物流における営業用と自家用の溶解
2014/11/1 更新

 情報社会では、ネットを利用した新たな仲介ビジネスが出現して、従来明確だった営業用と自家用の区分が溶解する可能性が出ている。かつてそのようなことを書いたが、物流の世界でもまさにこれと同じことが出現している。

 アメリカのネット通販で注目されているのが、インスタカート(Instacart)である。インスタカートは、2012年からアメリカの主要な大都市で生鮮食品などの食料品のネット通販を展開している。既存のスーパーやディスカウントストアなど店舗の商品情報をネットで提供し、消費者から注文を受けて、それぞれの店舗でピッキングを行い、購買者に当日配達を行う。
 ビジネスの形態を見ると、日本でも行われているネットスーパーと似ている。しかし、このビジネスの主体は、既存の店舗の小売業者ではなく、純粋なネット通販事業者である。インスタカートは、店舗販売をしている小売業者の商品をネットで紹介し、購入したい消費者に商品を届けるネット通販ビジネスである。

 注目すべき点が商品の配送にある。ネット通販の配送は、特に「ラストマイル」と呼ばれているが、インスタカートのラストマイルは、「ショッパー」(shopper)と呼ばれるまったくの素人の個人によって行われている。
 ショッパーはインスタカートからスマートフォンで指示を受けて店舗に向かい、指示された棚から商品をピッキングして、スマートフォンで示される地図に従って購入者宅に、自家用車や自転車などで配達を行う。これによって、配達を請負う個人に配達料金が支払われ、届け先からのチップをもらうこともある。現在、インスタカートは、1000人ほどの個人と契約を結んでいるという。

 通常、ネット通販のラストマイルは、物流業者が提供する宅配便に大きく依存している。これはアメリカでも共通している。また、アマゾンフレッシュと呼ばれる食料品などのネット通販では、アマゾンは自社で雇い入れた専用のドライバーで自家配送を行っている。ところが、インスタカートはいずれでもない。商品を配送するラストマイルの担い手は、自家用車やバイク、自転車を使って手軽に配達できる主婦や学生などで、もともと配達に素人の個人である。
 店舗情報、ピッキング情報、地図情報、顧客情報をスマートフォンのアプリで提供すれば、素人の個人でもネット通販のラストマイルを担うことができる。ネット通販事業者が開発したスマートフォンのアプリは、普通の個人を営業用ドライバーと同じ役割をするように、いともたやすく動員できるのである。

 この基本的な原理は、以前紹介したネット仲介ビジネスと同じである。一般の自宅を宿泊先として提供する仲介ビジネスのエアービーアンドビー(AirBnB)、さらに一般の個人が自家用車で他人のために有償で移動サービスを提供する仲介ビジネスのウーバー(Uber)である。
 ネットを使うことによって、これまで全く関係なかった個人が新たなビジネスに参入する機会が提供される。これは個人による「営業行為」を誘発し、結果的に自家用と営業用というサービスの区分を溶解させる可能性をもっている。物流の世界でもこれと同じことが起きている。インスタカートの出現と成長がこのことを端的に物語っている。



働き手を集める企業努力
2014/10/1 更新

  この夏に東南アジアのカンボジアで、現地の日系企業から話を聞いた。チャイナ・プラスワンが叫ばれるなか、労働集約的な日系企業は、賃金上昇の激しい中国から賃金の安いカンボジアに進出している。労働力が豊富な国だからといって、募集すれば工場に人がすぐに集まるわけではない。そこには、労働力を集めて育てるために、日系企業の涙ぐましい努力が行われていた。

 まず驚きは、日本人の人事担当者みずからが、工場で働く若い女性労働者を集めるために、全国の農村を行脚(あんぎゃ)する。キャラバン隊をつくり、道路もまともに舗装されていない全国の村々をまわるのである。まわる先々の村では、若い娘が外国企業に騙されないように警告するポスターが張られているという。そんななかで、若い女性や両親を集めて、工場で安全に働くことができ、恵まれた労働環境であること説明してまわる。
 また家父長制の強い農村では、村長の理解をえることが重要となる。このため村々の村長をわざわざ工場に招待する。村の長老に工場を見学してもらい、優れた労働環境で安心に働くことができることを知ってもらう。村の長老から若者に工場で働くことを勧めてもらう。

 こうした努力の結果、全国の村々から若い労働者が工場に集まる。しかし、入ってきた労働者は、小学校を中退した人や小学校さえいったことのない若者が多い。このため、3週間をかけて基本的な教育プログラムを実施する。識字率が低いために、絵を使ってていねいに説明する。トイレの使い方から、集団生活、働くことのルールを基本から教えていく。
 しかし、せっかく集めた労働者も、短期間でやめてしまうことが多い。若者どうしのネットワークで情報交換が行われ、少しでも賃金の高い工場があればすぐに移ってしまう。だから、新規の募集のためにさらに全国をまわらなければならない。
 そうしたなかでも優秀な労働者も育つし、彼女らには長く働いてもらいたい。人事担当者は、彼女らの褒章に知恵を絞る。工場で優れた業績を上げた労働者を集めて、表彰のセレモニーを盛大に開催する。そしてサプライズも用意する。本人に内緒で両親をわざわざ遠い村から招待する。両親に喜んでもらえることが、会社への帰属意識にもつながる。

 開発途上国に進出する労働集約的な企業にとって、いかに低廉な労働力を確保するのかは企業活動の生命線となる。このためモノ造りのメーカーでも、文化も習慣も異なる異国の地で、そこまでやるかと思うような企業努力を行っている。国内の労働集約的な企業も、基本的に同じ状況にある。人を集めて育てるための創意工夫と、そのための企業努力がとても重要だと、改めてカンボジアで考えさせられた。



ドライバー不足がもたらすもう一つの課題
2014/9/1 更新

 現状における物流業の大きな問題が、ドライバー不足であることは疑いない。1990年をピークとするバブル経済の時期に、わが国の物流業界は深刻な労働力不足に直面したが、それ以来再びこの問題を抱えている。

 国土交通省も「トラックドライバー人材確保・育成元年」として、労働力不足の新たな対応を始めている。深刻な労働力不足を受けて、いかにトラック運送業を広く社会的に認知してもらい、新しい人材を取り入れることのできる魅力的な職場にするにはどうしたらよいか、具体的な方策を検討して普及させようとしている。
 3Kや、男の職場など、ネガティブなイメージが強く、こうしたことが、労働力が集まらない大きな要因をとなっている。だが、既存のドライバーがなぜ他産業に移ってしまうのか、なぜ新規に人を募集しても集まらないか、最大の理由は、賃金や労働条件の格差にある。特に賃金において他産業との格差が重要となっている。景気の拡大で、他産業が人手不足を回避するために、より高い賃金水準を提示して、トラック業との格差が一段と拡大する。そうなれば、労働力は賃金の低いところから高いところに流れて、そして新しい人も集まらなくなる。格差が広がるほどこの流れが加速する。

 頭に浮かぶのが、規制緩和後のアメリカにおけるトラック業のドライバー不足である。アメリカでは1980年代に規制緩和で競争が激化し、それによってドライバーの賃金や労働条件も大きく悪化した。こうした状態のなかで、ドライバー不足に直面した。賃金の低下を受けて優秀なトラックドライバーが他産業に移動したのである。それを埋める形で、今まで運転経験のない未熟練の労働者がトラック業に入ってきた。その結果、何が起きたかというと、未熟な運転者が増えて、輸送の安全性が損なわれる事態が生じたのである。
 アメリカの場合、競争激化で賃金そのものが低下して、他産業との格差が拡大した。日本は、景気の上昇局面で他産業の賃金上昇に対して、トラック業の賃金上昇が緩慢なため、格差が増加していると考えられる。時代と局面は異なるものの、他産業との格差の拡大が労働力不足をもたらすことは共通している。

 こうしたなかで、わが国でも、経験豊富な優秀なドライバーがトラック業から去り、人材を何とか集めようとすると、それが未熟練の労働者となることが予想される。そうすると、運転労働における質の低下が起き、運行の安全性が損なわれることが懸念されることになる。
 このため、単に人を集めるための企業努力だけでなく、その後のドライバー教育が今後さらに大きな課題となる。



「営業用」と「自家用」の溶解
2014/8/1 更新

 情報社会では、ネットを利用した新たなビジネスの出現で、従来経済の分野で明確だった営業用と自家用の区分があいまいになり、溶解する可能性が出ている。

 AirBnB(エアービーアンドビー)というネットビジネスが注目されている。これは、宿泊先を探している旅行者と、自分の家を貸したいオーナーとをマッチングする。旅行者は、ホテルではなく、それよりも安い値段で普通の家に宿泊できる。そして家のオーナーは自分の家を使って現金収入が可能となる。いま世界中で利用が急増している。
 さらに、Uber(ウーバー)は、乗用車を利用したい人と、車を走らせることで収入を得たいドライバーをマッチングする。利用者は必要な時にスマートフォンで近くにいるドライバーを検索でき、タクシーよりも便利になおかつ安い料金で移動できる。これもまた世界中で利用が拡大している。

 こうしたビジネスが急成長している理由は単純明快である。ネットによる新たなビジネスが、サービスの需要側と供給側の双方にこれまでにない大きなメリットをもたらすからだ。一方のサービスの利用者は、利便性やコストパフォーマンスが格段に高まり、他方のサービスの提供者は所有物を使って従来不可能だった新たなビジネスができる。
 特に注目すべき点は、ネットの仲介ビジネスが、ネットの特性を活かして本来自家用であったものを容易に営業用に転じることができるようにしたことだ。かたや自宅を提供してビジネスをおこない、もう一方ではタクシーの営業免許を持たない乗用車の所有者でもビジネスができる。このため従来の自家用と営業用の区分をあいまいにしている。
 しかし、この新たなビジネスは、同時に世界の各地で大きな摩擦と反発を生みだしている。AirBnBでは、サービスの提供者が従来のホテル業の規制から逃れてホテル税を免れており、ホテル業界から大きな反発を受けている。さらにUberも、ヨーロッパをはじめ多くの国で、タクシーの営業資格を持たない者の営業行為を大きく助長することになり、危機感をつのらせたタクシー業界から猛烈な反発が起きている。

 現行の制度で政府によって営業用と自家用を区分する明確な規制があれば、マッチングビジネスによる自家用から営業用への転換はこれに抵触する。これが生じた場合には違法となり、規制等当局から取り締まりの対象となる。他方で、従来の規制に抵触しながら、情報社会のネットが生み出す新たな利便性や低コストが実現され、世界的な規模で急速に利用者が拡大し、ビジネスが急成長を遂げているのも事実である。
 情報社会でネットによるマッチングビジネスが、今後どれほどの成長力と既存の制度に対する破壊力を持つのかは未知数である。従来の営業用と自家用の区分が溶解する可能性がないとは言えない。トラック輸送においてはどうだろうか。



燃料高騰とスーパートラック
2014/7/1 更新

 世界の不安定な政治情勢に石油価格が翻弄されて、トラックの燃料の高騰が続いている。燃料価格の高騰が不可避なら、燃料消費を抑えることが必要不可欠となる。

 今年2月にアメリカのオバマ大統領は、スーパーマーケット・チェーンの物流センターで演説を行った。そこで、中型・大型のトラックに対する新たな燃費基準の策定を運輸省と環境保護局に命じたことを明らかにした。
 すでにオバマ政権は、2011年に中型・大型トラックに対する厳しい燃費基準を設定している。セミトレーラなどの大型トラックは、2018年までに20パーセントの燃費削減と同じく、20%の温室効果ガスの削減をメーカーに義務付けている。これに対して、2018年以降の中型・大型トラックに対するより厳しい燃費基準の作成をオバマ大統領は命令したのである。

 トラックは、車両台数で全体の4%に満たないが、アメリカ国内の運輸部門の燃料消費、および温室効果ガスの排出のそれぞれ約20パーセントを占めている。そして、国内の貨物輸送量の70%以上がトラックの輸送に依存している。
 したがって、トラックの燃費の向上は、地球温暖化に対する環境政策だけでなく、アメリカの石油輸入政策、そして輸送コストが販売価格に転嫁されて国内の物価にも大きな影響を及ぼす。だから、オバマ政権にとっても重要な政策として位置づけられているのである。
 そして、この日の演説でオバマ大統領は、演説場所の小売業者の物流センターに置かれた大型のトラックを称賛した。これをオバマ大統領は「スーパートラック」と呼び、大型トラックの燃費削減の技術的成果を高く評価したのである。
 
 アメリカでは、中型・大型トラックの厳しい燃費基準の設定とともに、エネルギー省の支援を受けて、これまでにない低燃費の大型トラックの開発が行われてきた。この大きな成果が「スーパートラック」である。
 車種規制でクラス8に分類される最大規模のトラックで、この「スーパートラック」は驚きの燃費効率を実現している。このクラスの一般的な車両の平均燃費は、1ガロン当り5.8マイル(1リットル当り約2.5q)に対して、この「スーパートラック」は通常の運行で1ガロン当り10.7マイル(1リットル当り約4.5q)の燃費を達成した。
 そして、この「スーパートラック」を通常の貨物運送業務で運行させた場合、毎年5千ガロン(1万8900リットル)の燃料を節約でき、現行の燃料価格を前提にすると、年間の約2万ドル(約200万円)の燃料費が削減できると試算されている。これもまた、トラックを運行するトラック運送業者にとっては驚きの数値である。

 政府が物流を担う大型トラックに対する燃費基準を厳しく設定することにより、民間企業の技術革新が促され、燃費効率の高いトラックの開発が行われる。それが燃料価格の上昇を相殺し、トラック運送業者の運行コストの削減を可能にする。それは物流における輸送コストの削減をもたらし製品価格にも望ましい影響を及ぼす。アメリカでは、こうしたシナリオのなかで、「スーパートラック」の開発と普及を積極的に進めている。



女性の人材活用
2014/6/1 更新

 大学生の就職戦線は、内定のピークが過ぎ、終盤戦の様相を呈している。昨年末から就活を繰り広げていたゼミ生からも、内定の報告が届いている。物流企業からの内定が多い。
 そして、大学では新ゼミ生募集の時期である。2年の後期からゼミが始まり、卒業まで同じゼミに所属する。大学生活の2年半にわたってゼミに所属するのだから、この時期のゼミ選びは、大学生にとって非常に大きな意味を持つ。

 物流を勉強する新たなゼミ生を募集するために、ゼミの説明会を何度か開く。この説明会で、何を血迷ったか、就活を終えた4年ゼミ生の一人が、このゼミは厳しいのでやめる学生が多く、ブラックゼミだと説明した。最近ブラック企業が注目されているが、それになぞらえたものだ。たとえが違うだろうと思ったが、ゼミの勉強についていけず、ゼミをやめる学生が多いのも事実である。
 ブラックゼミ発言にもかかわらず、ゼミの応募者は定員の2倍を超えた。面接試験で合否を決めるが、この面接には現役のゼミ生にも参加してもらう。面接官になると、面接を受ける人がどう見えるかわかり、就活にも役立つからだ。これから就活を控える3年のゼミ生に、その趣旨を説明して面接官を募った。
  ところが、面接官を申し出たゼミ生は、すべて女子学生であった。男子ゼミ生のほうが多いが、一人も申し出なかった。女子のゼミ生は、事前に提出されたエントリーシートを熟読し、的確な質問を行い、できるだけ客観的に評価を下した。未経験の面接官を的確にこなし、彼女たちも貴重な経験をしたと非常に喜んでいた。

 相対的な比較だが、女性は積極的に事に臨み、それを的確にこなす人が多い。面接官の申し込みも、このことを端的に象徴している。ひるがえって、物流企業でも、就職の面接の際に、欲しい人材を考えると女性になることが多くなっているのではないだろうか。
 物流業界は人手不足が深刻化して、とりわけドライバー不足が著しい。女性ドライバーの戦力化は、バブル経済の時期から叫ばれていたが一向に進んでいない。これはいろいろな要因があるが、物流業界でドライバーも含めて女性を充分に活用していないことは、大きな課題である。
 男社会を形成した物流企業も、これから女性が活躍できる職場環境をつくって、積極的に女性を雇用することが必要となる。大学で教えていても優秀な女性が目立つ。目の前の優秀な人材をいかにうまく雇用し戦力化するのかが重要なのだと、大学のゼミ活動の些細なことから思うのである。



地場のトラック運送業者が大手宅配便の脅威に
2014/5/1 更新

 企業の規模は競争力に直結する。大企業と中小企業が直接対峙して競争すれば、大企業が勝つと考えられている。物流の世界でも同じだ。全国的な大規模輸送ネットワークを持つ宅配便と、狭い地域でしか輸送ネットワークを持たない中小規模の地場トラック運送業者が、同じ土俵で競争すれば、地場の中小トラック運送業者などひとたまりもないと考えられる。
 ところが、地場の中小トラック運送業者が、大手宅配便の新たな脅威となっている。従来の常識を覆す展開が生じている。これは、残念ながらわが国のことではない。かの物流大国、アメリカで、こうした新たな動きが出ている。アメリカの経済紙、ウォールストリート・ジャーナルがこれを報じている。じつに興味深いので、その内容を紹介しよう。

 アメリカでは地場のトラック運送業者が注目されている。地域に根差した中小規模のトラック運送業者だが、新たな輸送ニーズを確実に把握して、急成長を遂げているという。ネット通販の急激な拡大によって、小型貨物の宅配需要が大幅に増加しており、こうした需要を地場のトラック運送業者が確実に捉え成長している。
 これが、本来ネット通販の小型貨物の全国配送を得意としている大手宅配便のUPSやFedEx、さらにはUSPS(アメリカ郵政公社)にとって新たな脅威となっている。大手宅配便は、航空輸送を使って大規模なハブアンドスポークシステムを構築して、全米の輸送ネットワークを構築している。そして、急成長を遂げるネット通販の配送を支える重要な役割を演じるものと期待されている。ところが、地場の中小のトラック運送業者は、得意とする自分の地域で大手宅配便に負けない力を発揮している。
 地場の中小のトラック運送業者は、ネット通販が求めるリードタイムの削減を実現するために、地域での当日配達や翌日配達を展開し、さらに各家庭に丁寧な商品の配送を実現している。そして極めつけは運賃の安さである。各家庭までの小型貨物の配送運賃が、大手宅配便業者のそれに比べて20%から40%も安くできる。

 この宅配の低い輸送コストの実現は、配送料無料などサービスの差別化を進め、激しい競争を展開しているネット通販事業者には魅力的なものである。アマゾンなども、こうした地場のトラック運送業者に特定の分野の配送を委託している。こうした事態は、これまで盤石な事業展開を図っていると思えた大手宅配便業者にとって、新たな脅威となっていることは明らかである。
 ネット通販が急激に拡大し、アマゾンをはじめ大手のネット通販事業者は、全米各地に大型の物流センターを建設して運営している。それぞれの物流センターに豊富な在庫を置き、注文があったら素早く消費者に届ける。そして、在庫が分散化すれば、なにも全国的な輸送ネットワークを持つ大手宅配便に依存する必要がなくなる。物流センターがある地域の配送が得意な地場のトラック運送業者に、その地域の配送を任せることが可能となる。

 こうした状況の中で、優れたサービスとコストパフォーマンスに優れる地場のトラック運送業者が、このニーズを的確に捉え急成長を遂げており、大手宅配便業者の脅威となりつつある。こうして小は大と互角に渡り合え、さらにそれを脅かす存在となりつつある。
 ネット通販をめぐる状況は、わが国でもアメリカと基本的に同じである。客観的情勢が似ているにもかかわらず、一つ異なる点は、わが国では地場の中小トラック運送業者が頭角を表していないことである。極めて有望な新たな輸送ニーズがそこに存在しているにもかかわらず、それに対応した物流ビジネスの展開がなされていない。



リーダー企業動く
2014/4/1 更新

 日本経済新聞の朝刊1面トップに、「ヤマト一斉値上げへ」という記事が掲載された。その朝、朝刊を取った時にかすかな驚きを禁じ得なかった。物流のことが日経の1面トップに出たのである。このことは、現状の日本経済において物流がいかに新たな課題として認識されつつあるかを示している。今まで経済の黒子であったものが、表に出ようとしているのである。

 日経によれば、ヤマト運輸は個人を除いた法人の宅配便料金の値上げを、これから荷主企業に要請するという。これまで法人は宅配便の定価ではなく企業ごとに価格交渉をしてきた。それを燃料費の高騰や人件費の上昇を反映した形で、顧客である約100万に及ぶ荷主企業に値上げを要請していくという。
 昨年すでに宅配便業界第2位の佐川急便は、宅配便運賃の値上げを要請した。これを受け入れないネット通販のアマゾンから全面的に撤退したことは記憶に新しい。宅配便市場のチャレンジャーがすでに値上げに動いたのである。当然、業界のリーダーの動向が注目されていた。
 宅配便市場のリーダーであるヤマト運輸は、売り手市場に転換するなかで、なぜ運賃の値上げに踏み切らないのか。これまで疑問であった。それは、いろいろなしがらみと事情があったのだろう。しかし、ここで満を持して、荷主企業に対して運賃の値上げの交渉を開始するのである。
 常々、ヤマト運輸は新聞や経済誌、テレビ等のマスコミの使い方がうまいと思っていた。今回のように朝刊一面の掲載は、非常にインパクトが大きい。おそらく、この記事をみて、全国100万社に及ぶ企業の経営者や物流担当者は、身構えるとともに、同時に値上げは仕方ないと内心で考えるかもしれない。ヤマト運輸は、マーケティングでいう4Pのプローモーションの広報活動に優れている。

 それはさておき、この記事に象徴されるように、わが国の物流の状況は確実に変化している。物流業界のリーダー企業が運賃値上げに動いたのである。物流業界の状況を改善するに正当な動きが顕在化したといえる。これも時代の潮目の変化を象徴する事柄の一つとなるだろう。これから運賃の値上の動きを定着化させ、さらに加速化することになるかもしれない。
 こうした状況変化の中で、問題は中小のトラック運送業の運賃交渉力である。中小企業においても、追い風を受けて、しっかりとした交渉力を身につけて、正当な運賃を収受する時が来ている。



近視眼的視点からの脱却
2014/3/1 更新

 トラック運送業界はさまざまな問題を抱えており、企業経営はその場その場で臨機応変に対応しなければならない。しかし、企業経営は、その場しのぎの対応策だけでは不充分である。経営者は、自分の会社に対して明確なビジョンをもち、長期的な視点から企業経営の展望をもつことが必要である。それでは、具体的にどうしたらよいのだろうか。

 最近、都内のホテルで開かれた国際シンポジュームに参加した。地球温暖化を防止するために、アセアンの輸送分野における行動計画を研究するシンポジュームである。そこで紹介されたのが、バックキャスティング(back casting)という手法である。
 これは、現在から将来を考えるのではなく、将来のあるべき姿から現在何をすべきかを考える手法である。今後アセアンは、急激な経済発展でCO2排出量の大幅な増加が予想される。これを抑えるために、将来の社会経済の姿を想定し、その中で輸送モードの在り方を検討する。そして、現在世界の一人当たり年間の1トンのCO2排出量を、2050年までに0.33トンまで削減する目標値を設定する。こうした目標値を実現するために、将来の時点から現在まで振り返り、段階別にいかなる行動計画や政策が必要かを検討するのである。

 こうしたバックキャスティングという手法は、地球温暖化に対する交通政策というマクロ分野で導入されている手法である。しかし、ミクロ分野における企業の経営にも、こうした手法の応用が可能である。
 現在のさまざまな制約やしがらみから離れて、自分の会社の将来あるべき姿を想定する。そして具体的な目標を設定する。それは将来の特定年次における会社の売上高や利益率、地域のリーダー的企業への成長や、従業員の満足度、CSRの実現など、多様な目標の設定が可能である。
 そして、こうした目標を実現するために、どの時点で何をする必要があるのか、具体的な施策の導入を検討する。例えば、下請けからの脱却のための施策、新たな輸送市場の開拓のための施策、従業員教育の充実の施策、さらには後継者の育成の施策など、あるべき会社の姿を実現するために、段階的に順を追って施策を考えていく。

 現状の困難な問題に直面すると、それに追われて近視眼的に物事を考えてしまう。経営者の想像力がこれからの企業経営を大きく左右する。そうであれば、個別の事柄に対応するだけでなく、自ら主体的に将来のあるべき姿を考えて、そのための方策を順番に考えていく。バックキャスティングという考え方が必要となる。



3月危機と潮目の変化
2014/2/1 更新

 景気が順調に回復しているなかで貨物輸送の需給が逼迫している。これに追い打ちをかけるのが、4月からの消費税の値上げを前にした駆け込み需要だ。ただでさえ貨物が増え輸送の供給が追いつかないなかで、この駆け込み需要はさらなる需給のギャップを深刻化させる。このため、3月には輸送できない貨物があふれるのではないか、と危惧されている。物流の世界での3月危機説である。

 明らかに経済の局面は変化している。特に物流における変化は著しい。経済の活況で人手不足が深刻化し、働き手のドライバーが集まらない。新規のドライバーを募集しても一向に集まらず、これ以上貨物も運べない状況が発生している。このため、賃金の上昇も起きている。
 それだけでなく、運送業者は強気になっている。新規の顧客だと、運賃を大幅に上積みしなければ、運送事業者は見向きもしないという。そして時期に運賃の値上げ、燃料サーチャージ制の導入、付帯業務の料金などを荷主企業に要求する運送業者も増えている。明らかに、最近の経済の活況による輸送の需給関係の変化は、運送業者と荷主企業の力関係も変化させている。明確に輸送市場は「売り手市場」に転じつつある。

 こうした事態は、かつての1990年をピークとしたバブル期を想起させる。バブルの時には景気の異常な加熱のなか労働力不足が深刻化しドライバーの賃金が上がり、それが運賃の上昇に転嫁され、物流コストを押し上げた。この時に、従来の物流業者と荷主企業との力関係は大きく変化した。虐げられていた物流業者は、それまでのうっ憤を晴らすかのように荷主企業に強気になった。
 しかし、今から考えれば夢のような関係は短期間に終わる。その後バブルは弾け、バブル経済が終焉する。そしてバブルが弾けたその時に物流2法が施行され、規制緩和が始まった。運送業者にとっても苦悩の「失われた10年」、さらには「失われた20年」が始まるのである。

 3月危機はバブル時代を想起させるが、いうまでもなく問題は4月以降の景気の動向である。消費税値上げと駆け込み重要の反動が比較的軽微にすみ、企業収益の良さが賃金の全般的な上昇に結び付き、経済がさらなる成長軌道が続けるのであれば、物流業界における新たな潮目の変化につながるかもしれない。
 構造的変化が顕在化する契機が明らかになり、変わることの始まりが明確に見えることが潮目の変化である。はたして、3月危機がその潮目の変化になるのか、それともそれ自体が一過性なものに過ぎないのか、注目する必要がある。



トラックに代わって飛行機が主役になる
2014/1/1 更新

 物流センターから飛び立った小型の無人飛行機が、小さな荷物を抱えて郊外の住宅の庭先に着陸した。すぐさま抱えていた荷物を自動的に切り離してそこを飛び立っていく。それを見ていた家の人が出てきて、その荷物を拾う。
  これは、インターネット通販のアマゾンが現在実験をしている無人飛行機による新たな配送方法のシーンである。先日テレビのニュースで放映されたものだ。これを見ると、ついにここまで来たか、と驚きを隠せない。
 ところが、こうした無人飛行機による配送は、なにもアマゾンだけに限らないらしい。ドミノピザの英国法人は、すでに英国で無人飛行機によるピザの配達を実験している。さらに、3大インテグレーターの一つ、ドイツポストDHLは、ドイツのボンで無人飛行機による配達実験を成功させたという。いずれにせよ、無人飛行機による配送は単なる空想の絵空事ではなく、実験が重ねられて実用段階へ入っているといえよう。

 インターネット通販最大手のアマゾンが、この実験を繰り広げていることに大いに注目する必要がある。なぜならば、そこにインターネット通販の物流のネックが存在しており、それをブレークスルーするために、新たなイノベーションが必要となっていることが端的に示されているからである。
 それは、ラストマイルというインターネット通販にとって重い課題である。ラストマイルとは、インターネット通販で消費者に商品を届ける最後の配送のことを指している。インターネット通販では、個別の家庭に小さな荷物をそれぞれ配送しなければならい。これは配送の効率性という点では、手間がかかり、コストがかかってしまう。そして、インターネット通販事業者間のサービス競争が激化して、「当日配送」や「配送料無料」がスタンダードになり、これらがラストマイルに大きな負荷となって跳ね返る。
 このラストマイルをどう処理するのかが、インターネット通販の大きな課題となる。この問題の克服が、同時にインターネット通販そのものの、ビジネスとしての成功を左右するかもしれないのである。
 だから、宅配便事業者や他のトラック運送業者にまかせないで、インターネット通販事業者がみずからラストマイルを担う可能性も考えられている。さらに、その延長線上に、輸送手段そのものを変えてしまい、人に依存しない無人の輸送手段で配送を行おうとするラストマイルの実験が繰り広げられているのである。このため、無人飛行機による配送実験は、インターネット通販において経営戦略上極めて重要な意味を持っていることは明らかである。

 現時点では荒唐無稽の絵空事に映るかもしれない。しかし、イノベーションはいったん軌道に入ると、またたく間に普及して世の中を変えてしまう。いわゆる創造的破壊が生じる。この無人飛行機による配送が新たなイノベーションになるならば、配送においてトラックは必要なくなり、さらにはトラックという輸送手段を使用している事業者も市場から駆逐されることになる。正月早々こんなことを想像するのは滑稽に映るだろうか。



経営をだれに継がせるか
2013/12/1 更新

 たまたま偶然にもトラック運送業の事業継承を考えさせられる二つのことに遭遇した。
 
 一つは高校生の面接である。面接した高校生のなかに、家業がトラック運送業で、将来後を継いで経営者になりたいと話す学生がいた。地方の都市で祖父がトラック運送業を始め、それを父親が継いで経営している。高校生はそれを見て育ち、将来は祖父と父が育ててきた会社の経営をしたいという。
 おもわず「トラックは何台所有しているの」、「荷主はどんな業種」と専門的な質問をしてしまった。高校生はなぜそんな詳しいことを聞くのかと怪訝そうな顔をしたが、わかる範囲で素直に答えていた。
 この高校生は、けなげにも、将来の経営者をめざし大学で一生懸命勉強をして経済や社会の仕組みを知りたいと言った。しかも、卒業後はまず大きな会社に就職して実務経験を積み、その後で故郷に帰り家業を継ぐという。苦労して経営を続けてきた祖父や父親にとってみれば、なんと頼もしい後継者だろうか。

 もう一つは、かつての職場の同窓会に出た女性から話を聞いた。東京丸の内の同じ職場で働いていた女性たちが、30年ぶりに一堂に会した。かつての同僚たちは、その後さまざまな人生を歩んだが、その中にトラック運送会社の女性社長がいた。驚きの変身である。
父親の稼業がトラック運送業だったが、その父親が突然他界した。経営者を失った会社は、解散の瀬戸際に立たされる。その時に、丸の内でOLをしていた娘は、従業員から会社の存続のために社長を継いでほしいと懇願された。
 丸の内で華のOLを続けるか、残された無骨な従業員を抱える父の会社を継ぐべきか、さんざん悩んだ末に、社長になることを決断する。それから、作業服に着替えてヘルメットをかぶり現場に出た。全くのど素人は、従業員に邪魔者扱いされながら、一から社長業の修業を始めたのである。そして、現在では立派にトラック運送会社の経営を取り仕切っているという。

 事業継承は、トラック運送業界の直面する大きな課題の一つである。たまたま、偶然でくわした話は、頼もしい事業継承の候補者がいる事例と、結果的に事業継承が行われた事例であり、よくあるパターンかもしれない。しかし、逆にさまざまな制約条件に直面して、うまく継承できないパターンも数多く存在あるはずだ。



変わらぬ構造
2013/11/1 更新

 大学の物流論の講義でトラック運送業について話すところであった。学生の理解を助けるために、テレビで放映された報道番組をこの講義のなかで流した。平成17年に大阪のNHK「関西クローズアップ」で放映された、「原油高騰 苦境に立つトラック」というものだ。8年もの前の古い報道番組である。

 そこで語られている内容は、次のようなものであった。原油価格の高騰がトラック運送業者の経営を直撃し、多くの事業者が経営難に直面している。こうしたなか現場のトラックドライバーは、深夜の長時間運転を余儀なくされている。
 それととともに、経営難のなかから過積載などの違法行為が頻繁に発生している。行政がこれを取り締まるのだが、事業者のなかには違法行為による行政処分を逃れるため巧妙な手口を使っており、行政による監督がうまく機能していない。

 改めて驚くことは、トラック業界の基本的な構図が現在でもほとんど変わっていないことである。この放送からすでに8年が経過している。当時トラック業は原油高騰という深刻なコスト高に直面した。このため、燃料費の高騰を運賃に反映させるために燃油サーチャージの仕組みが検討され、それを実際に導入する努力がなされてきた。
 そして、現在、原油高騰は再び繰り返されて、コスト高に伴う経営難は深刻度を増している。先日も、日本経済新聞に、「燃料高騰でトラックが止まる」という刺激的なフレーズで、トラック業の苦境を訴える全面の意見広告が出された。

 現代の不安定な経済情勢の中で原油価格の高騰が生じることは避けられないが、これによるコスト高を運賃に転嫁することが難しい状況は依然として変わりない。そして、こうして引き起こされたトラック運送業者の経営難が、トラックドライバーの過酷な長時間運転や違法行行為につながっていることも依然として続いている。
 この間に安全性を維持すために社会的規制が強化された。こうしたなかでも、トラック業者による巧妙な抜け道が存在しているのかは定かでないが、全体的なトラック業の構図はこの8年間にほとんど変わっていないのである。

 変化の激しい状況のなかで事象が目まぐるしく変わっていく。こうしたなかで、変わらない仕組みや構造も同時に存在する。トラック業の構造はまさにその典型である。その負の構造はまるで固い岩盤のように崩れない。



新天地での事業展開
2013/10/1 更新

 経済がグローバル化しても、トラック運送業はグローバル化していない。ごく一部の事業者だけが、国境を越えて新たな地でビジネス展開しているにすぎない。もともとトラック運送業は国内産業だと割り切ってしまえば、何も海外に出て行く必要はないとも考えられる。

 物流業者が海外に進出するパターンはだいたい決まっている。荷主企業の海外進出について行くパターンである。国内の大切な顧客が海外進出する時に、その顧客から新天地での物流を依頼され、荷主企業といっしょに海外に出て新たなビジネスに踏み出す。
 こうした場合に、外国の進出先の顧客は、いうまでもなく、もともとの日本の荷主企業である。そして進出先の現地企業は顧客とならない。文化も違い商習慣も違う外国で、その国のネイティブの現地企業を新たな顧客として獲得することは非常に難しいからである。
 ところが、海外に進出している日本の物流業者でも驚くべき企業が存在している。その物流業者は日系の荷主企業だけではなく、現地のネイティブな企業を顧客とし、さらにはその国に進出している第三国の企業も顧客として取り込んでいるのである。こうして、進出先で物流ビジネスを拡大させている。この物流業者にグローバル化して現地化する典型的な事例を見出すことができる。

 なぜこのようなことが可能なのだろうか。その鍵はまさに人材にある。当然現地のネイティブの企業を対象とするのであれば、その国の従業員が営業等の任務にあたる。さらには、顧客が第三国の企業であれば、現地で第三国の従業員を雇って第三国の企業の営業にあたらせる。顧客である荷主企業の国籍に応じた人材の割当がポイントとなる。
 むろん、それだけは従業員が荷主企業を獲得しようとしても、良い結果を得られるわけではない。彼らに充分に働いてもらうためには、彼らに大きな権限を与えることが肝要となる。日系企業の場合、日本から来た少数の経営者層が大きな権限を持っていて、現地スタッフにあまり権限を与えない。そこに日本人の経営者層と現地スタッフの大きな壁が存在している。これを取り除き、有能な現地スタッフに必要な権限を付与するのである。現地スタッフは、自分に大きな権限を与えられているからこそ、充分に実力を発揮し、それが荷主企業の獲得につながる。

 さらに、営業だけが優れていても提供する物流サービスの品質が劣っていては、顧客企業は逃げてしまう。どの国の荷主企業でも、優れた品質の高い物流サービスを求めることには変わりない。彼らを満足させるためには、常に品質の高い物流サービスを提供することが必要不可欠である。
 このためには従業員の教育が欠かせない。繰り返し、繰り返し現地従業員を教育する。さらには、物流サービスの品質では日本が優れているため、定期的に現地の従業員を日本に派遣して、日本の現場で訓練をさせる。こうして、常に質の高い物流サービスを生み出すために、従業員に勉強させて訓練を行うのである。

 縮小する日本国内の市場では限界があり、今後の展望が開けてこない。国内向け産業だと考えられるトラック運送業でも、今後の選択肢の一つとして、国境を越えて経済成長の著しい新天地へ進出することが考えられる。その場合でも、国籍は違えども、事業を発展させていく大きな鍵は人材とその教育にある 。



物流業界の運賃の低下は当たり前
2013/9/1 更新

 物流業とはいかにも過酷なビジネスだとつくづく考えさせられた。
 現在急激に拡大しているのがインターネット通販だ。消費者の購買が控えめなこの時代にインターネット通販は非常な勢いで拡大しており、これから先も旺盛な成長が見込まれている。

 インターネット通販は、個人の家庭への商品の配送が必要不可欠であり、これを担うのが宅配便である。宅配便ビジネスにしてみれば、各家庭に宅配する需要がインターネット通販の成長によって急激に拡大している。
 そして宅配便は物流業界には珍しく寡占化が大幅に進んでいる。わが国を代表する少数の大規模な物流業者が、宅配便市場の多くの割合を占めている。
 このようにインターネット通販の物流を見ると、貨物の輸送市場は需要が急激に拡大しており,これに対して供給側は寡占化していて事業者が極端に少ない。一般的に、寡占が進むと少数の大企業が市場に対する支配力を増して、価格を高めに設定したり、むやみな価格競争を回避したりできると考えられている。そうだとすれば、宅配便事業者は運賃を高めに維持して有利な価格戦略を展開できるはずである。
 ところが現実は全く逆である。インターネット通販の物流でも、宅配便運賃は大きく低下している。ここでもまた物流業者は運賃の低下に悩まされている。このため、一部大手宅配便業者は採算がとれず、主要な顧客である大手インターネット通販の宅配業務から撤退を決断したと言われている。運賃の回復の見込みがなく赤字が継続するのでは、事業からの撤退はやむをえない。

 繰り返しになるが、需要が急激に伸びているにもかかわらず、供給側が限定された少数の大手の物流業者にもかかわらず、採算性を維持できないほど運賃が低下してしまうのである。一見すると売り手市場の構造であり、供給サイドの物流業者にとって恵まれた状況だと思えるのに、ここでも運賃の低下が避けられない。
 ひるがえって、一般のトラック運送業をみると、客観的な構造は宅配便の場合と真逆だ。全体的に市場が縮小しており、価格交渉力のない数多くの中小事業者がひしめいている。需要減少のなかで供給圧力が高まるまったくの買い手市場である。こうした状態では、運賃の大幅な下落と採算割れは至極当然だろうと、インターネット通販の宅配便を見ていると改めて納得してしまう。

 当然、こうした状況から抜け出すためにはどうしたらよいのか、これまで事業者によって試行錯誤がなされてきた。これを克服するビジネスモデルが存在していれば、少しは明るい展望が持てるのだが、急激に伸びている最先端分野の物流はそうではない。状況は相似しているのである。



マーケティング能力のある経営者
2013/8/1 更新

 マーケティングとは魅力的な言葉だが、それとともに物流業には縁遠いという認識も強い。しかし、物流業においてもマーケティングが重要であることを改めて考えさせる新著が出された。

 中田信哉著『宅急便を創った男 小倉昌男さんのマーケティング力』(白桃書房)がそれである。中田信哉先生は神奈川大学経済学部名誉教授であり、これまで物流業界に深く関わってこられた。そして中田先生は宅配便のビジネスモデルを構築した小倉昌男さんと長年にわたって交流を続けてこられた。
 その交流のなかから、宅急便を創った小倉昌男さんの経営に対する考え方、思想、そして行動が、いかにマーケティングの理論と密接に関わっているのかをこの本で明らかにしている。極論すれば、宅急便が世に出てビジネスとして成功を納めたのは、小倉さんが無意識であるにせよ持っていたマーケティング能力のためである。本書は、小倉さんの宅急便の開発と展開のプロセスをマーケティングの理論と関連づけて丹念に論じている。

 私も若いころ講演会や講習会で小倉さんに何度かお会いしたことがある。その時はすでにヤマト運輸の役職をすべて辞められており、好々爺的雰囲気を漂わせていた。かつての辣腕の経営者の面影を探し出すのは難しかったし、マーケティングの考え方をお聞きする機会もなかった。その小倉さんのマーケティング能力がこの本のなかで明らかにされている。

 マーケティングという魅力的な響きを持った学問も、社会科学である限り他の学問と同様に、これまでの経験に基づいて理論化がなされている。従って、われわれはマーケティングを学ぶことによって、企業経営を展開していくうえで本質的に重要な事柄を、普遍的で一つの法則的なものとして理解することができる。
 そしてマーケティングを勉強することで、企業を発展させていくための経営の本質的な事柄を理解することになる。実践的な学問としてマーケティングを勉強することの重要性がここにある。

 しかし、小倉さんがすごいのは、このプロセスが逆になっていることである。つまり、中田先生が言うように、小倉さんは何もマーケティングという学問を勉強したわけでもないのに、小倉さんという経営者の考え方や行動それ自体が、すでに理論化されたマーケティングのセオリーに則っているのである。まさに、歴史的なビジネスモデルを構築した経営者の考え方や行動に、理論化された学問が後からついてくるのである。

 抽象的な理論ではなく経営者の具体的な実践のなかから、改めてマーケティングとは何か、経営者のマーケティング力とはいかなるものであるかをこの本で理解することができる。



物流企業への就職活動
2013/7/1 更新

 大学では少人数教育としてゼミナールを開講しており、ゼミナールでは専門の物流を学生に教えている。ゼミナールは大学生の就職と直結しており、ゼミナールでの勉強が大学生の就職活動の結果に大きな影響を与えている。
 ゼミの学生は物流を専門に勉強しているため、物流企業だけでなく、物流と深く関連した企業や、物流が特に重要な役割を占めている業界の企業から内定をもらっている。特に最近ではこうしたゼミ生が増えている。
 かつては、専門分野と関係のない企業に就職するゼミ生が多かったが、最近では物流に関連した企業への就職志向が一段と強まっている。

 物流企業のなかでも、物流子会社は相変わらずゼミの女子学生に特に人気が高い。ゼミの女子学生たちはナショナルブランドの名を冠した物流子会社を積極的に受けており、そして今年もまたこうした物流企業から内定をもらっている。
 今年は例年と異なるところもある。一つの物流企業がゼミの複数の学生に同時に内定を出してくれたことである。しかも、こうしたことを複数の物流企業が行ってくれた。これまで、一つの企業が同じゼミに複数の内定を出すことはほとんどなかった。それが企業の採用人事の方針だと考えていたが、今年はそうではなかった。これは大変ありがたいことである。

 例年のことであるが、早い段階で内定を取る学生は、続けざまに多くの企業から内定を取る。今年の場合、最高で5つの物流企業からほぼ同時に内定をもらったケースもある。これとは別に、物流企業ではないが、物流が重要な役割を占めている業種で業界の売上高トップ企業と第2位の企業に続けざまに内定を取ったケースもある。ゼミで一生懸命勉強した優秀な学生を企業も高く評価してくれており、こうした学生に内定が集中している。

 こうして複数の企業から内定を取り、最終的に一社に絞り込む時に、ゼミ生たちは当然ながら悩む。まさに人生の岐路である。最終的には自分の価値基準で判断するのだが、そこに個性が出る。
 最終的な決断の理由はさまざまである。その中で印象的だったのは、選択の判断基準を企業の年間の採用人数と離職率に求めた学生がいたことである。同じような売り上げ規模で利益率が似たような水準の企業でも、離職率が低くこのため毎年の採用人数が少ない企業のほうが、長く安定して働けると判断したのである。なかなかクールである。



宅急便の生みの親
2013/6/1 更新

 最近出された都築幹彦氏の『どん底から生まれた宅急便』は、物流インフラとなった宅配便の誕生と発展の内面を明らかにしていて、じつに興味深い本である。
 そこでは、事業が低迷して倒産の可能性もあったヤマト運輸が、新たに家庭から出る小型貨物に注目し、今までにない新しい貨物輸送のビジネスモデルを打ちだし、それを成長軌道に乗せるまでの過程が書かれている。それに携わった当事者ならではの臨場感があって引き込まれる。

 宅急便には「内」と「外」の大きな壁が立ち塞がっており、これらを乗り越えていかなければならなかった。大口貨物から小口貨物への大胆な転換の提案に対して、社内では多くの経営陣が反対し、労働組合も反対した。こうした社内の反対をねばり強く説得して、宅急便が生まれる。
 生まれた宅急便は次に「外」の壁が待っていた。宅急便の新たなビジネスは、政府の規制、さらに規制に守られた既得権益と戦わなければならなかった。このためヤマト運輸は、新規路線免許の認可にあたって当時の運輸省に対して不作為の訴訟を起こしたり、新たな運賃を設定するために新聞広告で規制当局を動かしたりした。さらに路線免許の公聴会で既存の事業者と対峙し、路線申請の正当性を主張してネットワークを拡大したのである。
 こうした壁を次々に打ち破っていく過程で、都築氏は重大な局面に深くかかわっており、諸課題をクリアして宅急便の誕生と発展に大きく貢献したのである。

 周知のように、宅急便の生みの親はヤマト運輸2代目社長の故小倉昌男氏であり、物流インフラとなった宅配便ビジネスを生み出し、成長軌道に乗せた類い稀な優れた経営者であった。すでに小倉氏は『小倉昌男 経営学』を著しており、そのなかで経営のトップとして宅急便の開発と発展のプロセスをどのように作り出したのかを明らかにしている。
 今回出された都築氏の著書で明らかになったことは、経営トップの小倉氏の部下として実質的に支えたのが都築氏であり、都築氏は小倉氏の考えや方針を充分に理解した上で、新たなビジネス実現に向けて直面する困難な局面で重要な役割を演じてきたということである。

 改めて痛感するのは、重大な局面に直面し新しいことをしなければならないトップの経営者には、経営者の意向をくんで実際に行動する優秀な部下が必要不可欠であるということである。こうした重要な補佐をする人間がいたからこそ、歴史的なビジネスモデルを構築することができた。その人間が後を継いで経営トップとなり、ビジネスのさらなる発展をもたらすことになる。



正直者がバカをみない仕組み
2013/5/1 更新

  「正直者がバカをみる」と怒っている経営者が多いはずだ。過積載や過労運転などの違法行為を繰り返し、社会保険等に未加入で堂々と営業行為を繰り返しているトラック運送業者が後を絶たない。競争は同じ前提条件の下で公平に行われなければならない。しかし現実は違法行為をする事業者が安い運賃で荷主の貨物を取ってしまう。
 
これを防ぐためには、政府による社会的規制を厳格に行う必要がある。社会的規制が強化され、適正化実施機関の指導や運輸支局の監査が行われているものの、それでも違法行為は後を絶たない。
 
 
正直者がバカをみないためには、どうしたらよいのだろうか。

  アメリカの運輸省が驚くべきことをしている。規制当局はすべての運送業者の事故歴や違反歴、さらには路上検査の結果をもとに、個々の運送業者の安全性の評価を行い、これをランキングにして公表している。インターネットを通じて、誰でもトラック運送業者の安全性評価を見ることができるようにした。
  同様なことは、すべてのトラックドライバーにも適応されており、事故歴や違反歴が個別の情報として蓄積され、個々人の安全性のランキングが明らかにされている。これもインターネットを通じて簡単に閲覧することができる。そして、安全性の成績の低いドライバーを雇うと、雇い主であるトラック運送業者の安全性評価も下がる仕組みになっている。

 アメリカ政府は、ITの積極的な活用によって安全情報を蓄積し、さらに公開することによって、安全性に関するブラックボックスを「見える化」した。こうした安全性に関する情報の可視化がもたらす影響は極めて大きいと考えられる。
 荷主は、トラック運送業者の安全性の評価を見て、輸送の委託先を決めるようになる。正確な安全情報を得た荷主は、成績の悪い危険な運送業者を利用しない。さらにトラック運送業者は、ドライバーを雇う時に、個人のドライバーの安全性の成績を照会してから採用を決める。評価の低いドライバーは、運送業者自体の安全性の評価を下げてしまうため、雇わない。

  こうして、安全性の評価の低い“ブラック”な運送業者とドライバーは、市場から駆逐されることになる。こうなれば、「正直者がバカをみる」などとは言ってはおらず、まさに正直者同士だけが競争を繰り広げる世界が実現されるものと期待できる。



配送無料の罠
2013/4/1 更新

 インターネット通販が、消費者にとって便利な買い物ツールであることはいうまでもない。その魅力をさらに引き立てているのが、配送無料である。商品価格が安いにもかかわらず、家庭までタダで届けてくれるのであれば、買わない手はない。
 配送無料は、インターネット通販業者にとって、じつに効果的なマーケティング手法といえる。しかし、インターネット通販の配送を担うトラック運送業者からみれば、この配送無料が大きな圧力になっている。

 これまで典型的な配送業務の委託先は宅配便業者であった。先日、インターネット通販の物流担当者の話を聞く機会があったが、日本では配送のプレーヤーが少なすぎると嘆いていた。確かに宅配便市場は一段と寡占化しており、委託する相手の数が少ないと嘆くのも理解できる。
 しかし、インターネット通販の配送の担い手は宅配便業者だけでなく、家庭への配送を得意とする地場のトラック運送業者もいる。全国的規模の配送ネットワークをもつ宅配便業者でなくても、それぞれの地域に特化して配送能力を持つトラック運送業者に委託すれば、インターネット通販のためのネットワークが構築できる。
 このため、インターネット通販の事業者は、こうしたトラック運送業者に対して熱い視線を送っている。

 しかし、トラック運送業者にとって大きな壁となるのが、配送無料という効果的なマーケティング手法の採用による圧力である。いうまでもなく、配送無料を実施するインターネット通販業者にとっては、配送コストを低く抑えることが至上命題となる。このためトラック運送業者に委託する運賃をできるだけ安くしようとする。トラック運送業者は、運ぶ貨物はたくさんあるが、配送の運賃が安く設定されているために、収益性が悪い。
  これに、家庭に配送する際の固有の問題が、配送を担当するトラック運送業者に追い打ちをかける。配達時の不在の多さである。時には不在率が4割にも達するとの話も聞く。当然再配達をしなければならず、輸送効率性が悪化し、このため採算性がさらに低下する。

 インターネット通販は物流が肝となり、物流業者の新たな市場が期待されるが、勃興する市場は手放しで喜べる状況ではない。ここでも低い運賃、輸送の非効率、低い収益性といった従来の課題を引きずっている。
 
 わが国では新しい時代が到来しても、物流はこうした運命を依然と背負わされているのだろうか。



インターネット通販の肝
2013/3/1 更新

 インターネットは、現代の社会経済に大きな変革を与える、とてつもなく大きな技術革新だ。ビジネスの世界では、Eコマースが急激に拡大し、インターネット通販が急成長している。わが国にとどまらず、世界的規模でインターネット通販事業が繰り広げられている。

 インターネット通販の事業展開にとって、とりわけ重要となるのが物流である。最近では「物流を制する者が、インターネット通販を制する」とまで言われている。興隆する新しいビジネスの肝が、従来脇役で古臭いとはいわないが、あまり目立たなかった物流であるところの対称性が面白い。

 物流が肝であるというのは、二つの意味がある。ひとつは、たとえITを駆使したインターネット通販といえども、買ったものを顧客がみずから持ち帰らない販売形態であることに変わりなく、このため顧客までの配送が必要不可欠となる。顧客への配送は、最近では従来の翌日配達ではなく、よりスピード感のある当日配達が注目されている。特にインターネット通販では、「買ったらすぐに手元にほしい」という顧客のせっかちなわがままを満たすことが重要になっている。

 
もうひとつは、物流センターで在庫をもち、注文があったらすぐにピッキング、包装、仕分けをして出せる仕組みづくりである。いわゆる物流センター機能の構築である。物流センターで在庫を抱えておくこと、そして一連作業を迅速に行う仕組み作りによって、これもまた注文したらすぐ欲しいという顧客のせっかちなわがままを実現する。

 インターネット通販の事業者は、この二つの構成要素を充足する物流の体制構築に力を入れている。特に、後者の物流センター機能の構築には巨額の設備投資が必要で、通販事業者は大きなリスクを負うことを惜しまない。物流の体制構築が、急成長している巨大市場を制するキーポイントになると充分に認識しているからである。



縮小する市場に立ち向かう経営者
2013/2/1 更新

 全運研(全国運輸事業研究協議会)の全国研修会が長野市で開催された。いつもはトラック経営に関する講演が行われるが、今回はまったく異なっていた。講演者は、北海道の路線バス事業の経営者である十勝バスの野村文吾社長だ。この講演がじつに興味深く、トラック事業の経営者にも大いに刺激を与えるものであった。

 講演の最大のポイントは、縮小している市場をどう切り開くかである。地方の路線バス事業は、過疎化とモータリゼーションの進展によって右肩下がりで減少している。バスの乗客が毎年減少して市場が縮んでいる。このため経営もネガティブにならざるを得ない。
 しかし、逆説的にいえば、いかに深掘りできるかが最大のポイントであり、まさに経営者の腕の見せどころとなる。そのために、野村社長は試行錯誤を繰り広げ、新たな需要を掘り起こす方策を次々と打ち出した。結果的に、利用客を拡大し、バス事業の経営を立て直したのである。

 野村社長の話を聞いて、経営者のパーソナリティで重要な点に気づいた。一つは熱心な勉強家であることだ。バス事業固有の問題にとどまらず、そもそも企業をどう経営して行けばよいのか、根本的なところまで追求するために勉強を重ねている。経営学の大家であるドラッカーについても、セミナーや研究会に積極的に参加して勉強している。
 さらにネットワークの拡大が大切だと考えている。バス事業の市場拡大をもたらす施策と経営の在り方を自社だけにとどまらせない。その取り組みを同じ困難な状況に直面しているバス事業者の経営者と連携して問題を共有し、解決方法を広めていこうとしている。同じ問題点を抱える経営者とのネットワークの拡大に努めている。そうしたオープンな心構えを持っていることが重要である。
 そして、知らしめることが重要だと考えている。社会的関心を広げることがまた事業の拡大を考えるうえで重要であり、そのためにはマスコミを動員して問題の取り組みや新たな方策を広めようとしている。マスコミの力を積極的に活用していく方向性を明確にしている。

 現在の右肩下がりの縮小市場で新たな市場開拓を行うためには、新たなタイプの経営者が求められてくる。この場合に、経営者としての新しいパーソナリティが必要である。そのタイプの一つを今回の講演で見た。



缶コーヒーのCMが語るもの
2013/1/1 更新

 缶コーヒーのテレビCMがおもしろい。キリンビバレッジの缶コーヒーFIREのテレビコマーシャルで、俳優の江口洋介がサラリーマンを演じている。あまりうだつの上がらないサラリーマンが、自分の息子に語るという設定である。
  次のように言っている。「父さんはホームランを打たない。ゴールネットも揺らさない。でも仕事にはバントをする人も必要だ」、そして「父さんは見えない仕事に誇りを感じている」と。

 こうした語りのシーンに出てくるのが、プレゼンテーションをする上司の背後でパワーポイントを操作するお父さんであったり、タクシーを呼び止めて上司かお客さんを後部座席に案内するお父さんの姿であったりする。決してエリートではなく、決して目立たないサラリーマンの姿を描いている。

 こうしたイメージをことさら強調しているのが、この父さんが働いている場所である。オフィスだけでなく、それ以外の場所で働いている姿が映し出される。一つが港湾であり、埠頭でお父さんは、いかついヘルメット姿の現場作業員と話しをしている。二つめが物流センターであり、フォークリフトが行き交うなか、お父さんは整然と積み上げられた在庫品の前で、ひとりで黙々と在庫をチェックしている。
 特定のキャラクターを描くために、短いCM時間の中で物流の現場が2つも選ばれている。「目立たない」、「地味」、「社会的にあまり認知されていない」というコンセプトに、物流の現場が適しているということである。よりポジティブに考えれば、「縁の下の力持ち」、「地道に頑張っている」ことを象徴するのに、物流の現場が選ばれたとも考えられる。

 缶コーヒーの商品名となっているfireは「火」という意味だが、この単語の動詞は「首にする」という意味もある。「おまえは首だ」は、You are fired という。最初にこの商品名を見たとき、変わったネーミングだと思ったが、最新のCMでは「心に火を」というコンセプトを打ち出している。目立たないが内面の情熱を持ち続けるという意味のようだ。
 このテレビコマーシャルは、物流の社会的な認知の程度を端的に示していると言えるだろう。しかし、物流の最先端部分はよりアグレッシブで、社会をリードするエリート集団をも形成していると認知されるようになってもらいたい。



プラットフォーム
2012/12/1 更新

 最近、物流業者から話を聞いているなかで、プラットフォームという言葉を相次いで聞いた。異なる企業の方から同じ言葉を聞いたので、新鮮な想いがした。

 良く聞くのは駅のプラットフォームである。演台という意味もある。多様な意味があるが、コンピュータの世界では、コンピューターシステムの基礎となるハードウエアやソフトウエアを指す。いずれにせよ、ニュアンスとしては、物事の基盤とか基礎という意味である。

 物流業界におけるプラットオーム、すなわち基盤とは何だろうか。それは、事業を展開するうえで基礎的な条件が構築されており、それに基づいて事業が展開されているような状況を指すと考えられる。
 例えば、宅配便の場合、そのネットワークを構築する場合にトラックターミナルが極めて重要になる、広大な敷地に大型のトラックターミナルが建設されている。それを利用することによってプラットフォーム化する。 すなわち、トラックターミナルの施設を宅配便の仕分けにだけに使用するのではなく、その構築物に物流センターを併設する。そこで特定の荷主企業の取り扱っている商品を在庫すれば、注文があったときに即座に宅配便を使って全国へ配送することができる。このときに宅配便のトラックターミナルは、まさにプラットフォームとなる。
 また、優秀な物流子会社は、親会社の製造している商品の取扱に長年にわたって蓄積されたスキルがある。したがって、この物流子会社の物流センターはその業種における優れたインフラ的価値を持つことになる。これをもとに横展開を行い、ライバルである同業他社のメーカーの商品を取り扱うことが可能となる。その時に、この物流子会社の物流センターはプラットフォームとなる。

 いずれにせよ、プラットフォームはインフラ的側面を持つ物流施設であり、それは特定の業務だけでなく、それを利用した横展開や、多角化をすることを可能にするものである。
 一つのプラットフォームを構築して、その価値を有効に高めるために多様な展開を考えていく。さらにはその基礎施設を利用することで、横展開を可能にすることができる。こうしたプラットフォーム化のビジネスが今後拡大していくかもしれない。



経営者の精神論
2012/11/1 更新

 久しぶりに物流業界のコンサルタントの講演を聴いた。当然ながらコンサルタントの方は話がうまい。さらに、多くの企業のコンサルティングを行っているので、事例がじつに豊富である。
 全国のいろいろな企業の事例を把握しており、それらを縦横みじんに引き出して説明する。このため、いくつかある経営課題に対して、ケーズバイケースの説明が可能だ。しかも、実例に基づいているために説得力がある。
 
 
単に事例が豊富であればよいかというと、決してそうではない。事例がありすぎると、その洪水の中で何を捕まえたらよいのかわからなくなる。少数の優れた事例から、エッセンスを絞り出した説明に説得力がある。
 現状における困難な局面に向けて、トラック運送業の経営者はどうしていけばよいのか。これが講演のメインのテーマだが、結論はおおよそ次のようなものである。

 第1に、顧客である荷主企業が今何を求めているのか、それを謙虚にしっかりと把握する。そのうえで、顧客志向の徹底をはかり、そのためのマーケティングを展開する。
 第2に、社内の体制をしっかりすることが重要であり、安全で優れた輸送サービスを提供するために、ドライバー及び管理職の教育を徹底する。
 第3に、これらのことを行うために、トラック運送業の経営者はもっと身を粉にして一生懸命働かねばならない。

 確かに今やるべきことを理想型に近い形で話がまとめられている。様々な課題に直面している経営者は、具体的にどうしたらよいのかわからないかもしれない。それを知りたければ、コンサルタント料を支払って具体的なアドバイスを受けることが必要となる。
 
 根本的な課題は、トラック運送業の経営者が今何をしなければならないのかである。豊富な事例をあげることができるが、その答えを突き詰めていけば、結論として身を粉にして働いて精一杯頑張ることになる。最後は経営者の精神論に近づく。



高すぎる品質と安すぎる値段
2012/10/1 更新

 中国華南地域で現地生産をする日系自動車部品メーカーを訪れた。中国のこの地域には、日本の名だたる自動車メーカーがこぞって進出している。これに対応して部品メーカーも、自動車組立工場周辺に工場を建てて部品を納入している。

 部品メーカーの担当者から厳しい話を聞かされた。現地に展開している自動車メーカーは、たとえ資本系列にある部品メーカーであっても、簡単に部品を購入しなくなった。コンペが行われて、最近では中国の部品メーカーが選ばれることも珍しくなくなったという。系列の子会社である部品メーカーは、親会社の自動車メーカーに追随して中国で現地生産している。それにもかかわらず、すんなりと部品を買ってくれなくなった。
 日系の自動車メーカー自体も激しい競争に直面しており、生産コストの削減を迫られている。従来のように、系列だから部品を購入する、などと単純にいっていられない状況に置かれている。非情な競争世界の一端が垣間見える。

  実際に中国の部品メーカーの価格は安い。日系企業は、一定の高い品質を前提として製品価格が形成されているが、それを下回る価格で中国のメーカーは納入する。価格競争では日系企業は太刀打ちできない。
 それでは「安かろう、悪かろう」ではと質問したところ、意外な言葉が返ってきた。日系企業は高い品質を売り物にしてきた。ところが、低価格品が出回っているなかで、本当にこれまでの高い品質が必要なのか考えるようになったという。
 組立メーカーはそれほど高い性能や品質を必要としているのではなく、それは部品メーカーが勝手に思い込んでいたかもしれない。一定程度の品質で価格の安いものを生産していくことが重要であり、そのことを中国の現地企業との競争で気づかされたという。

 高い品質が必要で、それを生産するには値段は高くなる。日本で考えられるパターンである。逆に中国では、品質よりもいかに安いかが勝負だと考える。両国のあいだに根本的なスタンスの違いがある。しかし主戦場は中国である。価格競争に巻き込まれるのは避けがたい。その時に、日本企業は品質と価格の兼ね合いを再考することを強く迫られている。



3PLと女性
2012/9/1 更新

 物流連(日本物流団体連合会)は、「3PL人材育成概論研修」を毎年行っているが、その中の一つの講義を担当してきた。この研修は3PLビジネスを担う人材を育成するための研修会であり、1日かけて3PLの基礎を教える。2004年から開始され、これまで約6500人もの物流に携わるビジネスマンが研修を受けた。

 今年も夏の暑い盛りに東京で開催された。この研修は9年目を迎えたが、この間に大きな変化が生じた。研修が開始された当初は「3PLブーム」が生じた。全国の主要都市で開催され、特に東京では受講者があふれかえり、演壇から最後尾の受講者の顔が見えないほどであった。3PLという新しいビジネスに取り組んでみようと、多くの物流企業が社員を送り込んだのである。

 やがて3PLブームが沈静化するとともに、研修の受講者数も減少していった。物流企業も3PLビジネスの興奮から冷めていったのである。しかし、これと同時に1つの明確な傾向が現れる。特定の物流企業群が、一定人数の社員を毎年継続的に参加させるようになった。
3PLブームが去ってみると、3PLビジネスから撤退する物流企業と、3PL ビジネスに本腰をいれて拡大する物流企業とが明確に分かれるようになった。後者は、3PLビジネスを拡大するために、計画的に毎年社員をこの研修に参加させて3PLビジネスのための人材を育成しようとしているのである。

 そして、今年従来と異なる変化の兆しが現れた。それは、この研修に女性の参加が目立ったのである。今までは女性の参加はほとんどなかった。まさに、物流は男の世界であった。しかし、今年は若い女性たちが熱心に受講しているのが強く印象に残った。
 3PLビジネスの拡大をめざす物流企業は、職場の女性を3PLの研修会に積極的に派遣するようになっている。大学を卒業してさほど年月が経っていない女性たちが、近い将来3PL ビジネスを担う幹部候補生と期待されて送り込まれている。

 物流企業に就職した女性にとって、従来にない新たな分野の仕事に取り組む機会が提供されている。3PLビジネスの営業コンサルタントとして荷主企業にプレゼンする役割を担ったり、さらに複雑系の物流センターの管理運営に携わったりする新しいタイプの業務である。
これまでの伝統的な物流業務の枠組みから離れていて、新しい3PLの業務は有能な女性にとってやりがいのある魅力的な仕事になる可能性がある。さらには、3PLビジネスを拡大する物流企業にとって、女性を戦力化することが意外と重要なポイントになるのかもしれない。



不確実性の先行投資
2012/8/1 更新

 先日、大学のゼミの学生とともに神奈川県にある医薬品卸の物流センターを見学させてもらった。これは大手医薬品卸がみずから運営する最新鋭の物流センターである。じつは、できたての2年前にも見学させてもらったのだが、この間に物流センターに対する評価が大きく変わった。

 この間に東日本大震災が発生した。この物流センターは震災対応の施設として建設されていた。物流センター自体が免震構造をもっており、地震の揺れを大きく軽減することができる。さらに自家発電装置があり、停電が発生してもセンター稼働に必要な電力を4日間供給できる。

 東日本大震災では立体自動倉庫のダメージが大きかった。在庫品が落下したりラックが崩れたりして、物流センターの機能が停止した。復旧に多くの時間を費やした。ところが、この物流センターでは、免震構造のおかげでパレット単位とバラ単位の2つの立体自動倉庫はいずれも影響なく稼働を続けた。
 さらに地震後に停電が発生したが、自家発電によって物流センター内に電力が供給された。周辺地域が暗闇に静まりかえるなか、こうこうと明かりをつけて稼働したという。

 医薬品卸の物流センターは特殊な性格を持つ。地震などの自然災害やパンデミックの緊急事態にも迅速に対応することが求められている。だから、こうした事態に対応するために、物流センターも免震構造や自家発電機能を持つことが想定される。
 しかし、具体的にどこまでこうした機能を付加するかは、企業の意思決定による。実際に、この最新鋭の物流センターを建設する際も社内で議論があったという。緊急対応にはさらなる設備投資が必要で、それが社内の物流コストの増加を招く。「そこまでやらなくても」という反対は当然に起きた。

 建設の責任者である副社長は、こうした社内の反対を押し切って緊急事態に対応可能な物流センターの建設を決断した。いみじくも、この決断の正しさが先の東日本大震災で証明されたのである。未曾有の緊急時でも必要な医薬品を的確に供給できた。

 そして、この医薬品卸はその社会的使命を果たし、社会的名声を高めることができた。
 問題は、不確実性のある事柄にどこまで積極的に投資できるかである。物流が装置産業化し、設備投資額が増加している。こうしたなかで、できるだけ投資額を減らし経営のリスクを小さくしたい、と経営者が考えるのは当然である。だが大規模自然災害の可能性も高い。経営者としては判断が難しい選択を迫られる。



物流業のビジネスモデル
2012/7/1 更新

 最近、日本経済新聞が「連続最高益秘訣を語る」という特集記事を連載した。その最後に取り上げられたのがハマキョウレックスである。大須賀政孝会長がインタビューで最高益の「秘訣」を語っている。ハマキョウレックスは5期連続最高益を実現した。貨物需要が低迷し閉塞感が強まっている物流業界で、5期連続の最高益はいうまでもなく特筆に値する。

 ビジネスモデルという言葉がある。大きな時代の流れの中で一つの事業形態が生まれて発展する。以前になかった新しいビジネスが、よちよち歩きの揺籃期を経て立派に独り立ちする成長期に達する。そこで事業は急激な拡大と安定した収益を実現できるようになる。ここに新たなビジネスが確立し、この新しいビジネスを具現化する企業が存在することになる。こうした企業こそがビジネスモデルとなる。

 かつて物流業では、宅配便が新たなビジネスとして興隆した。大量輸送時代の異端児として出発した宅配便は、その革新性ゆえ小型貨物の取扱量を急激に拡大していった。宅配便ビジネスをスタートした企業は、やがて収益も安定してくると積極的に設備投資にまわし、「装置産業」化する宅配便ビジネスの成長基盤を構築した。その後インターネットによる通販ビジネスが急拡大するなかで、もはや宅配便ビジネスは現代のインフラ的存在となっている。こうした宅配便のビジネスモデルを具現化するのがヤマト運輸であった。

 そして、最近の物流業界の新たなビジネスモデルを具現化しているのが、ハマキョウレックスである。いうまでもなく、ハマキョウレックスは3PLビジネスを展開する物流業者である。そのハマキョウレックスは3PLビジネスで成長軌道の途上にあり、連続した最高益を実現している。

 物流業界では3PLに対する批判が一部でなされてきたが、本来3PLビジネスは物流アウトソーシングと物流効率化という時代的な要請に対応した新たなビジネスであり、今後さらにいっそう発展していくビジネスである。そして、3PLのビジネスモデルを具現化している企業の発展が、物流業における時代の変化とその方向性を端的に示している。



倉庫派vs.トラック派
2012/6/1 更新

 「あなたは猫派ですか、それとも犬派ですか」。

 猫が好きなのか、犬が好きなのかは、人間の性格や特徴を規定するらしい。海外で数千人を対象としたアンケート調査が行われ、その結果、犬の好きな犬派は人とのつきあいがうまく、積極的に外に出ていく。これに対して猫の好きな猫派は、独立独歩で、枠に縛られない個性の持ち主が多いということである。
 犬や猫のそのものの特徴から類推できる愛好家たちの性格判断だが、はたしてそううまく分けられるのだろうか。これは血液型の性格判断程度に考えればよいかもしれない。ちなみに血液型による性格判断は日本では盛んだが、アメリカでは全く関心がないという。

 ところで、これと似たようなタイプ分けが物流業界でもできる。それは物流業界の経営者たちである。
 物流企業は世襲制が多い。父親は裸一貫で事業を立ちあげて企業を拡大した。そして息子は大学を出て、いったん別の企業に就職して社会経験を積み、その後に父親の会社に入り経営を継ぐというパターンが多い。

 現在、二世経営者たちが物流業界で頑張っているのだが、こうした経営者たちを倉庫派とトラック派にタイプ別けすることができる。つまり業種によって経営者の性格や特徴が異なっていると思われる。
 倉庫派の経営者は、比較的おっとりしていて、紳士的に対応し、またおしゃれで洗練されている。これに対して、トラック派の経営者は、アグレッシブで、猪突猛進とまで行かないが、ワイルドな雰囲気を醸し出している。さらに、物事を論理的に考えるインテリジェンスは倉庫派が勝るが、行動力や危機対応能力ではトラック派が優れている。

 こうした特徴をもつタイプ分けにはバックグランドがある。倉庫派は、なんといっても倉庫という資産があることが大きく影響している。資産があるために相対的に安定した経営が可能になり、その余裕が創業者から二世経営者にも引き継がれ、独特の雰囲気と行動パターンを作り出している。
 これに対して、トラック派は倉庫などの資産がないぶん、相対的に厳しい状況に置かれ、迅速な判断、迅速な対応が求められる。また働き手のドライバーを統括する必要から、それがまたワイルドな性格に結びついてくる。

 物流業界の二世経営者を見ていると、このようなタイプ分けができると考えるのだが、いかがであろうか。



大学生の就職戦線
2012/5/1 更新

 大学生の就職活動が本番を迎えている。例年よりも若干遅いが、4月中旬からゼミ生の内定報告が届くようになった。

 少人数制の教育を行うゼミナールは、大学2年の後半から始まり、3年、4年と2年半続く。2年の時に毎年20人ほどの学生がゼミに入るが、3年になると本格的に物流について勉強する。そして3年生の後半から就職活動が始まる。物流を専門的に勉強しているため、物流業界を就職先として目指すゼミ生が多い。

  物流企業は大学で物流を専門的に勉強しているゼミ生を高く評価してくれているようだ。就活を経て結果的に物流業界に入るゼミ生の多いことが、そのことを端的に物語っている。

  最近ではゼミ生が内定を取る物流企業が大きく変化している。かつては物流業界のピラミッド構造の頂点にある大手物流企業を目指す学生が多かった。しかし、最近では、いわゆる物流子会社に学生の注目が集まっている。
 誰でも一度は耳にするナショナルブランドのメーカー、その物流子会社である。社名にナショナルブランドの冠があると安定感を増すのだろうか。このような物流子会社を受けて内定を取り、就職するゼミ生が多くなっている。

 残念なのは、物流業界でも中堅で成長性の高いしっかりした物流企業があるのに、学生の目がそちらになかなか向かないことだ。学生も企業のブランド志向があるのは当然だが、良い企業なのにそれを素通りするのはいかにももったいない。
 こうした状況のなかで、中堅の物流企業でも大学生のリクルートにかなりの力を入れる企業もでてきた。例えば、物流を勉強しているゼミ専用にわざわざ企業説明会を開催してくれるのである。有難いことである

 ところで、4月の早い段階で内定を取る学生は、同時に複数の企業から内定をもらうパターンが多い。学生に対する人事部の評価は、どの企業でもおおむね共通しているようだ。こうした学生は、最終的にどの企業にするか「贅沢な」選択をしなければならない。
 その際に、教員にアドバイスを求めることもある。これは人生を左右する大きな選択となるため、相談を受ける教師も緊張する。しかし、じつは学生自身は基本的な方向が決まっている場合が多い。だがなかなか最終的な決断ができない。そうすると教師の役割は、学生の話を丹念に聞いて、学生が向いている方向に軽く背中を押してやるだけなのだ。



在庫を減らさない、増やすことの選択
2012/4/1 更新

 これまでの一般的な常識は、企業は在庫を嫌っているというものだ。かつて「無在庫経営」という言葉がはやっていたし、ジャストインタイム自体は在庫を持ちたくないために考えられた手法である。
 企業にとって在庫は、人間にたとえるならばまさに脂肪である。メタボリックシンドロームが問題となり、無暗に食べていれば脂肪がついてしまう。これが生活習慣病やその他の恐ろしい病気の原因となる。企業にとっても、在庫はこの脂肪のようなものだ。

 かつては、在庫を大量に抱えていると資産とみなされて、一見して恰幅がよく立派に見えていた。しかし、それは無駄の塊であり、それが多くなると企業も収益をあげられない体質になってしまう。だからロジスティクスの発想が必要で、企業全体の最適化をはかり、できるだけ在庫を削減した企業体質をつくることが必要だといわれてきた。
 これに関連してリーン(lean)という言葉がある。痩せた、筋肉質なという意味で、在庫を極力減らすトヨタ生産方式をリーン生産方式と呼ぶ。これも在庫と密接に関連している。

 このように、在庫はできるだけ少ないほうが良いと企業は考えている、と思っていた。ところが、必ずしもそうではないらしい。なかには、意図的に在庫を多く抱えておくべきで、無暗に減らすと企業経営にマイナスとなる、と考える企業もあることを最近知った。

 当然在庫があれば安心する。在庫を少なくすれば、そのぶん欠品の危険性が高まる。欠品は販売機会を喪失してしまい、企業の信用を大きく傷つけてしまう。ここまでは教科書的な説明だが、在庫を多く抱える必要があると主張するのは、別の理由がある。
 それは「在庫の圧力」である。これだけの多くの在庫を倉庫や物流センターに抱えているのだから、営業の現場は頑張ってその在庫を販売しなければならない。こうした在庫の圧力が、企業全体の販売意欲をかきたて、売上の増加をもたらす重要なインセンティブになる。だから在庫は無理に減らさず、むしろ増やしたほうがよいと考えるのである。
 たしかに倉庫に在庫が少なく、コンピュータ上のデータでも在庫がなければ、現場の販売担当は安堵して、さらに製品を売ろうとするインセンティブが働かなくなる。これが全社的に蔓延すれば、売ろうとする意欲が削がれ、企業の成長力に陰りをもたらすだろう。

 こうした企業が増えれば、倉庫業に力を入れている物流業者にとっては、販売機会の拡大をもたらすことになる。サプライチェーンの寸断に対応した在庫増の追い風とともに、こうした在庫に対する企業意識の変化が、物流業者のビジネス拡大に寄与することになるのだろうか。



荷主企業の物流部との付き合い方
2012/3/1 更新

 日本では「お客様は神様です」というが、アメリカでは「お客様は王様(king)です」と言うのを聞いたことがある。いずれにせよ、どこでもお客様は偉く、たいてい威張っている。特に、物流業者のお客さん、荷主企業はそうである。物流業者と取引している荷主企業の物流部にしてみれば、取引する物流業者の数が多く、いつでも代替可能であるのならば、威張るのは当然なのだろう。

 ところで、この荷主企業の物流部であるが、企業全体から見れば発言力が弱く、他部門から要求を受け入れざるをえない弱小部門であることが多い。これは日本の企業のなかで物流が置かれている立場を端的に象徴している。荷主企業の花形は生産部門や販売の営業部門なのである。企業内では物流部門の存在意義は小さく、生産部門や営業部門の都合が最優先される。その結果、物流部門の発言力が弱く、彼らの言いなりになることが多い。だから日本の企業はダメなのだと言いたくなるが、哀しいかな、こうした企業が多いことも現実である。こうした荷主企業から、取引している物流業者に理不尽な要求がつきつけられる。荷主企業の物流部長は、それが理不尽で不合理な要求であることを充分にわかっている。しかし、生産部門や営業部門に対する社内的な弱さから、物流業者に対して理不尽な要求をせざるをえない場合もある。

 さて、その時に物流業者の営業部門はどう対応するのだろうか。あまりにも理不尽な要求であれば、それを拒否する。しかし、優秀な営業マンを抱える物流業者は、深読みをして異なる対応を取るという。

  この理不尽な要求が社内の他部門からのもので、物流部長はそれを受け入れざるをえない状況となっているかもしれない。社内的に苦しい立場の物流部長を考慮して、物流業者は我慢して受け入れる。つまり多少無理をしても、物流部長に華を持たせてあげるのである。そうすれば、物流部長も社内的な苦しい立場を克服でき、無理をしてくれた物流業者に深く恩義を感じる。このために、物流業者と荷主企業の物流部との信頼関係が深まる。いわば、「損して得を取る」ことになる。物流業者の優秀な営業マンは、そこまで考えて行動するという。

 物流業者は直接取引する荷主企業の物流部しか見ていない。荷主企業との関係を強固なものにしたいと考えるならば、荷主企業全体を見て物流部の置かれている立場を考えることが重要となる。



高齢化社会とネットスーパーと物流
2012/2/1 更新

 日本はこれからすさまじい高齢化社会を迎える。西日本にある県の物流の委員会に出た時に、委員の一人である山間部の町長さんが、「わが町の平均年齢は65歳です」と言っていた。農村の過疎地域に限定されず、都市でも高齢化は急速に進んでいる。

 ところで、最近注目されているのがネットスーパーである。インターネットで注文すれば、自宅まで商品を届けてくれる新たな小売ビジネスである。これは忙しい主婦にとって便利な仕組みだが、同時に店まで買い物に行くのが難儀な高齢者にとっても、便利なサービスである。今後高齢者が増えるとともに、こうしたニーズが格段に高まる。ネットスーパーは高齢化社会に適合した小売形態である。

 先日ゼミの学生と生協の物流センターを見学させてもらった。生協は以前から個配と呼ばれる家庭向けの宅配サービスを行なっている。そのための最新の物流センターである。これを見ると、これから興隆するネットスーパーの物流の課題が見えてくる。

 現行のネットスーパーでは、注文を受けた商品を既存の店舗で店舗従業員が品揃えしているものが多い。しかし、一度店に並べたものを個々に集品するのは、どう見ても非効率であり、これから注文が増えた場合この仕組では対応できなくなる。このためネットスーパーを本格的に展開するためには、源流にさかのぼった物流のシステム化が必要になる。すなわち小売業者は宅配専用の物流センターを設置し、そこでピッキング、仕分けを行う仕組みが導入されるだろう。

 宅配では、各家庭から出る注文に応じて、多品種な商品を一個単位で迅速に正確に処理しなければならない。特に物流センターのピッキング作業が大変で、物流コストの増加は避けられない。このため、大幅に機械化、自動化した最新鋭のシステムの構築が必要となる。
生協はすでに宅配の物流システムを構築しており、週1回の消費者からの注文を処理している。しかし、ネットスーパーでは、毎日不特定多数の消費者の注文に応じなければならない。この場合、物流に対する負荷はさらに格段に高まることになる。

 高齢化社会の到来は、それに対応した小売ビジネスの興隆をもたらすが、それは新たに物流への負荷を増大させる。物流業者にとってみれば、これは小売業の新たな物流アウトソーシングで3PLビジネスのマーケット拡大となる。しかし、3PLビジネスは、宅配のための高度な物流システムを提供する難しい宿題が与えられることになるだろう。



宅急便ドライバーの帽子の色
2012/1/1 更新

 ヤマト運輸は、中国の巨大都市上海で日本の先進的な仕組みを導入して、宅配便事業を定着させようと頑張っている。急激な成長を続けている中国市場をにらんで、人口集積が著しい上海おいて、成功した日本のやり方で宅配便ネットワークを構築しようとしている。

 昨年の夏に上海の宅配便事情についてヒアリング調査する機会があり、ヤマト運輸の現地法人も訪問した。現地を視察すると、まさに日本の「宅急便」そのものである。中国のセールスドライバーも日本と同じ制服を着用しているから、海外にいるとは思えない。 しかし、よく見ると帽子の色だけが違っている。日本の帽子は、車両に使われているのと同じ緑色だが、中国のそれは制服のシャツの色と同じグレーである。なぜ帽子の色だけが違うのか。

 われわれ日本人には想像しがたいが、しかし、これにはちゃんとした理由がある。緑色の帽子をかぶる男性は、妻が浮気をしている間抜けな男性というイメージが中国で定着しているからだという。帰国後大学院の講義で中国人留学生にも確かめてみた。誰もがその話を知っていたが、なぜそのようなイメージがもたれるようになったかはわからない。

 いずれにせよ、中国では、迅速で確実な信頼性のある輸送を担う「宅急便」のセールスドライバーに、緑の帽子はふさわしくない。だから、日本と同じ制服だが帽子の色だけを変えたのである。

 帽子の色の違い自体は些細なことであるが、これは実に重要なことを示唆している。たとえ隣国といえども、言語や制度、文化や風習、さらには人々の感受性まで異なっている。いかに先進的なシステムや仕組みをもってその国に進出しても、その国に適合した修正が必要になってくる。それを見極めることは、海外でのビジネスの成功のために必要不可欠である。たかが帽子の色ひとつをとってみても、である。

 3.11後の日本経済は大きく変化している。震災後のリスク分散化、円高、電力不足等のなかで、日本企業はますます海外展開を強めている。その裏腹は産業の空洞化である。物流業者にとっては、今まで大切にしていた顧客が海外へ出てしまうのである。

 いかに国内でしか商売できないとはいえ、こうした産業空洞化の進展が物流業にジリ貧状態をもたらすことは目に見えている。物流業者がみずからグローバル化しなくてよいのであろうか。新興国マーケットに積極的に目を向ける必要はないのだろうか。当然その時には、帽子の色に象徴される差異やさまざまな障壁を乗り越えていかなければならないのだが。



専門家はロジスティクスを語り、素人は戦略を語る
2011/12/1 更新

 これは最近聞いた自衛隊幹部のプレゼンテーションで語られたフレーズである。このロジスティクスとは「兵站」のことである。つまり戦争について「専門家は兵站を語り、素人は戦略を語る」というのである。さらにいえば「ど素人は兵器を語る」そうである。

 戦争で勝利を導き出すためには、戦闘を展開している最前線に継続的に充分な軍事物資を供給することが必要不可欠である。そのためにロジスティクスが極めて重要な役割を演じる。それは、なまじ語られる戦略よりも重要である。

 このプレゼンテーションでもう一つの興味深いことを聞いた。戦闘を繰り広げる兵士をサポートするために、ロジスティクスの要員はどのくらい必要となるか。世界最強のアメリカ軍は、戦闘する兵士1人に対して、ロジスティクス部門で10人の要員を抱えているという。戦争には膨大な軍事物資の供給が必要であり、そのためにいかに多くの後方支援要員が必要であるかを示している。

 これに対してわが自衛隊はどうか。戦闘する兵士1人に対して、支援する兵站部門の要員は1人に満たないという。実際に大規模な戦闘を経験していないとはいえ、何とお粗末な後方支援体制ではないか。

 このように軍事部門でロジスティクスの大きな日米格差が存在しているが、経済・ビジネス分野でもロジスティクスの大きな日米格差が存在していることに気づく。

 例えば、世界最大の小売業であるウォールマートでは、かつてロジスティクス部門出身者が企業のトップに就任した。企業経営のなかでいかにロジスティクスを管理することが重要であるか、企業のトップの就任にロジスティクスのステイタスの高さが示されている。

 しかし、日本では大企業のトップに物流部門出身者が就任したという話はとんと聞かない。それは企業のなかで物流部門がどのように評価されているのかを端的に物語っている。わが国では「(企業経営の)専門家はロジスティクスを語り、(企業経営の)素人は戦略を語る」までには至っていないのである。



大学生が考える物流業界の課題
2011/11/1 更新

 11月5日にNS物流研究会が主催する3大学(東京海洋大学、流通経済大学、神奈川大学)の学生による発表会が、東京都トラック総合会館で開かれる。物流を勉強している学生にとって、多くの経営者の前で研究成果を発表できる貴重な機会が提供される。

 私のゼミでは、現在2年、3年、4年で総勢40人を超えるゼミ生がいるが、この発表に向けて学年横断的に4つのグループが自主的に結成された。そして各グループで経営者に最もアピールするテーマを考え、調査分析を進めてきた。

 今物流を勉強している大学生は、物流業界のいかなるテーマを選択したのか。彼らは現状の物流業界で何が注目すべき課題と捉えているのだろうか。
4つのグループが選択したのは、以下のようなテーマである。

@「トラックドライバーの定着に向けての方策」
A「運行管理者の現状と問題点−ドライバーの労働環境を改善するにはー」
B「中小物流企業における人材育成−現場活性化のための方策−」
C「物流企業におけるリスクマネージメント」

 @とAはまさにトラック運行に直接関わるテーマである。@は高齢化が進行するなかで若手ドライバーを確保するためには、どのような方策が有効なのかを検討する。そしてAは運行管理者の能力を高めることによって、現状のトラック運行に関わる諸問題を改善できるとの視点で、その具体的な方策を明らかにする。
 
 BとCは従来のトラック運送業の固有の領域から踏み出したテーマである。Bは、トラック運送業者が3PLビジネスを志向した際に、物流センター業務における作業員の生産性向上が大きな課題となり、それを実現するにはいかなる方策が有効なのかを検討する。
 
 Cは、東日本大震災の経験を踏まえて、改めてBCP(事業継続計画)の重要性に注目し、リスクマネージメントとして物流業者は今後いかなる対応が必要となるのかを検討するというものである。
 
 残念ながら、本番で発表できるのは2つのグループなので、事前に各グループが調査分析した結果を発表して内部選考を行った。この選考には、学外から新進気鋭を経営者、物流のシンクタンクの研究員の方々に審査に参加してもらった。厳しい質問やコメントが飛び交う中で選考が行われ、結果としてBとCが選ばれた。

 本番で発表できる2つのグループは意気軒昂で、発表内容をさらに深化させるために精力的にヒアリング調査や分析を進めている。
物流業界のフレッシュマンとなる大学生が、物流業界の直面する課題にいかに斬り込み提案するのか、乞うご期待である。



ヨーロッパ3PLサミットの案内状
2011/10/1 更新

 「ヨーロッパ3PLサミットに参加しませんか」という案内がEメールで届いた。このヨーロッパ3PLサミットは今年で第9回を迎え、11月21日〜23日にベルギー、アントワープのヒルトンホテルで開催される。

 3PLのセミナーは非常に興味深いが、問題は参加費である。すべてのセッションに参加すると、3795ユーロ(約40万円)もする。まさに企業のエグゼクティブを対象にしたセミナーで、一介の貧乏な大学教員には参加がなかなか難しい。

 このサミットでは、名だたる3PLの物流業者と、3PLを利用している荷主企業が、事例発表を行い、ディスカッションを繰り広げる。これに参加することで、3PLビジネスの最新動向と、3PLの物流業者に対して荷主企業が何を求めているのかを把握できる、というのが主催者の説明である。
 
 このサミットで事例発表をする企業は65を超えるが、その企業群がすごい。例えば、3PLの物流業者では、APLロジスティクス、DHLグローバルフォワーディング、DBシェンカーロジスティクスがいる。また日系の物流企業もNYK-郵船ロジスティクス、日通ヨーロッパが顔を揃えている。

 3PLを利用している荷主企業の発表も、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ネスレ、ノキア、IBM、フィリップス、マクドナルドなど、これもまたそうそうたるグローバル企業が名を連ねている。

 昨年の第8回大会に話を聞くために参加した企業の経営者や幹部は300人を超えたという。このうち43%が3PLを展開している物流業者の経営幹部であり、33%がサプライチェーン担当の荷主企業の経営幹部であった。

 ヨーロッパ3PLサミットの案内を見る限り、ヨーロッパにおける3PLビジネスの広がりと奥の深さを知ることができる。

 3PL物流業者は自社のマーケットの深化と拡大を求めて競争し、荷主企業もより効率的な物流システムの構築のために、常に最適な3PL物流業者を求めてしのぎを削っている。こうしたなかで、3PLに関する情報交換とマッチングの場所が提供されている。そして結果的に、3PLのレベルを全体的に高めていくことにつながると考えられる。

 ひるがえって、日本では3PLビジネスが定着しつつあるものの、残念ながら3PLをめぐって物流業者と荷主企業が広く交流する場は未だに設定されていない。



中国の新幹線駅と物流
2011/9/1 更新

 中国の新幹線が重大事故を起こして注目されている。その新幹線に乗るために上海駅に行ったが、その上海駅で驚くべき光景に出くわした。新幹線の改札口を通って駅構内に入ると、出発の新幹線の列車ごとに広大な待合室が用意されているのである。すべての乗客はその待合室で出発する列車ごとに群れをなして待機している。その人の多さにも圧倒される。

 この方式はまさに空港における搭乗方式と同じである。空港では出発ゲートが指定されて、そこに行くと待合室があり搭乗する人々が待つあの風景である。ただし、上海駅の待合室のスペースは広大でそこに多くの人々がたむろしており、島国の外国人を驚かすのには充分である。

 同じ新幹線のターミナル駅である東京駅はどうだろうか。確かに待合室はあるが、極めて狭い。新幹線の列車ごとに指定されて待合室はないし、新幹線に乗車する人々がそこで待たなくてはならないルールもない。

 そこで考えた。ここからは物流にも関係している。中国における上海駅の新幹線の乗車方式は、乗客が一定の場所に集まり、そこで一時滞留するストック型である。そのために広大なスペースが必要となる。これに対して、東京駅における新幹線の乗車方式は、乗客が滞らず勝手に流れて乗車するスルー型である。乗客は、発車時間を見計らって直接乗車するため、特に広い待合スペースは必要ない。出発する列車に応じて駅構内をよどみなく流れていけば、まさにジャストインタイムとなる。

 上海駅と東京駅における新幹線の待合室の違いから見えることは、ストック方式であれば広大なスペースが必要であり、フロー方式であれば広大なスペースは必要ないということである。島国根性の発想では、余計なスペースはいらないと考えてしまう。

 さらに、フロー方式の前提となるのは、接続する列車の定時性が確保されていることである。東京駅までの列車の定時性が確保されていれば、早めに行って待合室で待つ必要がない。このため東京駅構内で人々はジャストインタイムで新幹線に乗車することができる。
定時性の確保が重要でありそれが担保されていれは、ストックのために無駄なスペースは必要ない。人流の世界でも物流と同じ原理が立派に働いている。驚きの中国上海駅の新幹線乗り場はそのことを教えてくれる。



学生とトラック運送業者の共通点
2011/8/1 更新

 学生の話である。

 事前に課題が与えられる。いわば宿題である。多くの学生はきちんとやってくるが、一定数の学生はやらない。これらの学生は提出締め切りを過ぎても、いっこうに課題を提出する気配はない。そこで教員は学生を呼び出して指導することになる。

 ここでも学生の対応は2つに分かれる。呼び出しに応じて素直に出てくる学生と、呼び出しに携帯電話さえ出ない学生もいる。まったくの無視である。さらに言うと、呼び出しに応じて出てくる学生も2つに分かれる。自分の非を認め素直に謝って謙虚な態度の学生と、「何で呼び出すんだ」と逆ギレして居直る学生もいる。
 
 トラック運送業者の話である。
 
 トラック運行の安全性を確保するために適正化事業実施機関が活動している。事業者を回って安全性のチェックが行われる。こうした審査の結果、安全性を確保している事業者なのか、問題のある事業者なのかが明らかになる。もちろん注目されるのは、数々の問題を指摘された事業者である。こうした事業者は意外と多い。

 そこで、適正化事業実施機関はこうした事業者を対象にした講習会を開催し、問題のある事業者に案内通知を送付する。そうすると事業者の対応は明確に2つに分かれる。この講習会にしっかりと出てきて受講する事業者と、案内を全く無視していっこうに参加しない事業者である。

 やらなければならない課題に対して、どのように対応するか。宿題を課せられた学生と安全性を問われたトラック運送業者で、対応がものの見事に一致している。いずれも一定の割合で、まったく無視してしまう不真面目な人間がいるのである。

 いずれも放置できない対象であることに間違いない。課題を出さない不真面目な学生は、卒業できない予備軍である。安全性に問題があるのに、そのための講習会を無視する事業者は、今後重大事故を起こしかねない予備軍となっている。一定数いるこれらをいかにカバーし、将来予想されるリスクを事前に防ぐか大きな課題となる。

 学生とトラック運送業者、本来関係性のないところに意外と共通点があることに驚く。



厳しい荷主企業が物流業者を育てる
2011/7/1 更新

 人の性格がさまざま異なるように、顧客の荷主企業も千差万別である。物流業者の守備範囲が単純な輸送、単純な保管ではなく、荷主企業の物流システムの実態に合わせて多様化し複雑化している。これに合わせて荷主企業の要求はさまざまである。

 こうしたなかで、荷主企業のタイプもソフトなものからハードなものまである。ソフトの典型は、アウトソーシングする物流業務を一旦任せれば、それに対してうるさく文句を言わない荷主企業である。現場の物流に無関心とはいわないが、物流業者の好きなようにやらせてくれる。

  これに対してハードの典型は、荷主企業自身が社内の物流品質やコストの基準を厳しく設定しており、それに基づいてアウトソーシングした業務についても厳しく査定してチェックする。当然問題があれば物流業者に厳しく改善を求めてくる。荷主企業の物流部門担当者と物流業者の会合では、常にピリピリとした緊張関係が走る。

 物流業者にとってみれば、ソフトな顧客の荷主企業が多いほど、結果的に楽をして儲けさせてくれることになる。こちらのほうがありがたい、と思うのは当然である。しかし、果たしてそうだろうか。

 「厳しい荷主企業が物流業者を育てる」、経験豊かな老練な経営者が言いそうな言葉だが、じつは最近、営業の最前線で奮闘する30歳に満たない若手物流マンから聞いたフレーズである。

 ハードな顧客に対応するなかで、物流業者の顧客対応力が上昇し、さらに物流業務に対するスキルの上昇が期待される。結果として、そうした顧客を多く持つ物流業者ほど競争力が高くなる。つまりハードな顧客に対応するなかで、自らの競争力を上昇させることが可能なのである。 逆に、良い性格の顧客だと喜んでいては、物流業者の改善とか進歩は生まれてこない。安楽な状態を享受しているなかで、ものの見事に対応力や競争力を落としてしまうのである。

 物流業の経営者にとっては、こうしたフレーズを実感として持っている若手の物流マンをどれほど社内に抱えているかが重要となる。



サプライチェーンと下請け
2011/6/1 更新

 東日本大震災によるサプライチェーン(供給網)の寸断で、サプライチェーンが多くの下請け企業によって構成されおり、最終組み立てメーカーが多層におよぶ下請けに依存していることが改めて浮き彫りになった。

  一次、二次は言うにおよばず、三次、四次の下請け、さらにはそれ以上へと続く。三次、四次下請けとなると、最終組み立てメーカーにとってまったくあずかり知らない世界となる。しかし、そこで生産がストップしてしまったために、サプライチェーンが寸断されてしまった。
そこで最終組み立てメーカーは、サプライチェーンの「見える化」に目を向けている。従来あずかり知らない、管理できなかったところもしっかりと把握しなければ、サプライチェーンの寸断にうまく対応できないからだ。だからサプライチェーンの「見える化」にこれから取り組むという。

  トラック運送業界は下請けの問題を長年抱えてきた。最近では下請けがさらに進行し、ますますブラックボックス化している。ある調査事例では、7次下請けまで行われていたという。とてつもない下請けの多層化が進行している。こうなると元請のトラック運送業者も、顧客である荷主の貨物を実際に誰がどのように運んだのか全く把握できない。それなのにしっかりと着荷主まで貨物が届けられているのだから不思議にさえ思えてくる。

  トラック運送業における下請け関係を見る限り、それを「見える化」するのは著しく困難である。何か問題が起こらなければ、そのことが解明されることはない。低コストが強く求められれば一段と下請けが多層化し、ますますブラックボックスとなるのは明らかだ。

  この悪循環をどこかで断ち切らなければならないが、今回大震災で明らかになったことは、下請けとその多層化が日本経済の他産業においても広く存在していることである。下請けはなにもトラック運送業固有の問題ではない。その意味で根深い問題である 。



サプライチェーン
2011/5/1 更新

 3.11後、にわかに多用されるようになった言葉がある。「サプライチェーン」である。例えば、大震災によってサプライチェーンが寸断されて生産が滞っているとか、本格的な景気の回復にはサプライチェーンの回復が必要不可欠である、という具合である。

 サプライチェーン(Supply Chain)とは、企業活動を行ううえで必要な供給の鎖のことである。当初「供給連鎖」と訳されていたが、3.11後には「供給網」や「供給体制」などの日本語が使用されている。かつて外国から導入された用語が、今ではこなれた日本語になっている。

 サプライチェーンというと、物流の世界ではサプライチェーン・マネージメント(Supply Chain Management:SCM)を連想する。これは平たくいえばサプライチェーンを「管理」(マネージメント)して、一企業の枠を超えて縦断的に物流を効率化しようとするものである。一企業の全体最適を目指すロジスティクスを超えた新たな手法として出現した。

 このサプライチェーン・マネージメント、あるいはSCMは、1990年代末から2000年代初頭にかけて、わが国企業の新たな経営戦略として大いに注目された。経済紙でも連日取り上げられ、SCMブームと呼ばれるほどの人気ぶりであった。しかしながら、ブームはやがて去り、SCMはいつの間にか忘れられた存在になっていた。

 ところが、東日本大震災という未曾有の自然災害の後に生じた経済的混乱のなかで、サプライチェーンという言葉が、にわかに脚光を浴びるようになったのである。

 このサプライチェーンが、果たして現状の経済的混乱を表すのに便利なテクニカル・ターム(専門用語)で終わるのか。それとも、この大きな経済的混乱の逆境をバネにして、混乱するサプライチェーンをまさに「マネージメント」する、日本発の物流を含めた新たな仕組みの創造につながるのであろうか。まさに日本企業の新たな創造力が問われている。



今回の齊藤氏のブログはお休みいたします
2011/4/1 更新

今回の齊藤氏のブログはお休みいたします。(トラックNEXT編集部)



まやかしの3PL、本物の3PL
2011/3/1 更新

 前回3PL批判が台頭していることを書いた。火のないところに煙は立たず。こうした批判が台頭する背景には、3PLの名のもとに一種の収奪行為があることは否定できない。

 しかし、それならば、3PLが社会的に存在しうる根拠はどこにあるのだろうか。歴史的なパースペクティブにたつならば、ある一定の時点で出現して定着してきたものは、それが存立しうる一定の合理的な根拠があると考えられるからである。収奪行為だけでは新しい存在の合理性を与えない。

 理想論だとのそしりを免れないかもしれない。だがあえて言うならば、3PL は現行の仕組みを効率化できるところに、その成立の根拠があると考えられる。つまり、3PLを標榜する物流事業者が、荷主企業の物流アウトソーシングを受けて、その物流システムを効率化することができるから、そのビジネスが社会的に存立することを許されるのである。

 それでは、効率化するとはどういったことなのだろうか。簡単な原則をいえば、一定の人間が行っている作業でより多くのものを処理できるようになる。逆に、一定の処理量をより少ない人間で行うことができる。さらには、必要となる時間を短縮することも重要である。

  これを実現するには創意工夫のかたまりが必要となる。仕組みを変える工夫をしてみたり、新たな機械を導入したり、情報システムを導入する。さらには、働く人間を地道に教育し訓練する。こうした能力を持っていることこそが重要なのである。

 その結果として効率化できれば、目に見える形でコストの削減が可能となる。コストが削減できれば、当然荷主企業は物流コストの削減になるし、物流業者は利潤の増加をもたらすことができる。

 逆に、こうした効率化できる能力がなければ、利潤をあげるために収奪行為に走る。こうして考えると、まやかしの3PLと本物の3PLとの違いは明らかである。



台頭する3PL批判
2011/2/1 更新

 最近3PLに対する批判を聞くようになった。もちろん3PLとはサードパーティ・ロジスティクスのことである。1990年代後半からわが国の新たな物流サービスとして注目され、大手の物流業者を中心に、荷主企業の物流アウトソーシングを受けて、積極的な事業拡大が行われてきた。

 この3PLが批判の対象となっている。その中身は、3PLがわが国の物流業界における下請け関係を拡大して悪化させているというものである。3PLが拡大することによって、とりわけトラック運送業界そのものをだめにしている、との過激な論調も見受けられる。

 もともと3PLは、サードパーティの名のとおり、荷主企業と実運送人の間に入る第三者として事業活動を展開していた。その意味では、わが国の物流子会社はまさに3PL的な存在といえる。その物流子会社が貨物輸送のあいだに介在することによって、手数料が運賃から引き抜かれる。こうした物流子会社が3PL だとすると、実運送の物流業者にとっては3PLなどたまったものでない。

 さらに、3PLと称して荷主企業の物流システムを請け負うが、その物流業者がやっていることは、実際に配送する下請けのトラック運送業者を安く買いたたくだけであるという批判もある。弱い零細な事業者を買いたたて、自分たちの利益を捻出しているだけではないか、との批判である。

 こうした批判に従うと、3PLの拡大は、従来の物流業界にあった傭車などの下請け関係をさらに一層拡大させることになる。それはわが国の物流業界に存在するこの構造的問題をさらに悪化させることにもなりかねない、という懸念につながる。

 わが国おける物流の発展のなかで、3PLは物流業界の閉塞状態からの脱却を可能にする重要なビジネスとして期待されてきた。しかし、その3PLがわが国に定着するなかで、こうした3PL批判が噴出するようになっている。

 こうした批判をどう考えたらよいのだろうか。



理想の荷主
2011/1/1 更新
 トラック運送業者にとって大事な顧客は、もちろん荷主である。しかし、トラック運送業者からは、顧客である荷主の良い話を聞くことは少ない。たいていは悪口である。

 採算割れの運賃値引きを要求する、違法行為につながることを平気で求める、積み込みまで何時間もトラックを待機させる、などなど荷主への不満を聞いていると限りがない。まるでこの世には善良な荷主など存在していないようだ。

 ところで、トラック運送業者にとって理想的な荷主とは何だろうか。それは、必要なコストを正当に評価してくれる荷主である。つまり、良い輸送サービスには一定の必要なコストがかかり、正確な原価計算に基づいた適正な運賃や料金を支払う必要があると考えている荷主である。

 言い換えれば、極端な低運賃や料金はどこかで無理をしており、そのしっぺ返しが自社の物流に悪影響を及ぼす危険性があることを理解している荷主ともいえる。事業展開における物流の重要性を認識して、自社の良い物流のためには優れたトラック運送業者が必要であり、そのためには適正な運賃や料金を支払う必要があると考えている。

 しっかりしたトラック運送業者であれば、こうしたまともな考えを持つ荷主を探していくべきである。ただし、こうした理想的な荷主は、良質の輸送サービスを提供でき、自ら不断に改善努力する優れたトラック運送業者を求めている。

 こう考えると、理想的な荷主には同時に理想的なトラック運送業者がつくことになる。「破鍋に綴蓋」という諺があるが、それとは正反対の方向にある似たもの同士である。「相思相愛」という言葉もある。理想の荷主を求めるのなら、自らも理想のトラック運送業者に近づかなければならない。