マスコミ向け安全技術説明会を開催 ~交通事故死傷者ゼロへの道~
日野自動車株式は2013年7月5日、マスコミを対象とした安全技術説明会を羽村工場お客様テクニカルセンターで開催した。
同社では、PCS(衝突被害軽減ブレーキ)やVSC(車両安定制御システム)などの安全技術の標準装備化を進めており、このたびの説明会では、安全性向上の取り組みを中心に、技術開発などの方針が説明された。
また同日、PCS作動においては、実際に日野プロフィアのデモ車によるデモンストレーション、さらに大型バス日野セレガに乗車しての体験会を行った。日野のPCSは従来ブレーキを踏まなければ止まらなかったが、今ではブレーキを踏まなくても完全停車するようになったという。日々技術が向上していることがうかがえる。
VSCにおいても日野デュトロによるデモンストレーションが披露された。これは重心が高いトラックの横転を防止するための制御技術だ。
その他にも、できるだけ死角を無くす技術として、ワイドビューピラー化や右側サイドミラーの改良、電動格納2面鏡式ミラー、左後側方視界補助カメラ、さらには、前方の乗用車潜り込み防止としてのフロントアンダーランプロテクターやサイドブレーキの電動パーキング化など、実用化された数多くの安全技術を展示車を使い解説した。
今回はあくまでマスコミ向けであったが、同社お客様センター室では省燃費運転を含めた同様の講習会をユーザーである事業者を対象に実施している。もうすでに知っているという方も多いのかもしれないが、改めて同社の安全技術について説明しよう。
配布された資料の冒頭に記載されていた言葉である。これが商用車メーカーである同社の安全性向上の取り組みに対する大方針だ。事故を起こす要因として「道路」・「人」・「車」に分けたとき、道路以外の人と車の安全性を向上させることで死傷者ゼロを目指すというものである。そのため運行管理~予防安全~衝突安全それぞれにおける技術の向上、かつそれら安全装備の価格低減などを含めた普及促進が求められる。
同社では左表中の「死亡事故に至る比率に注目している。乗用車に比べ質量が大きいトラックは、一度事故を起こすと大きな被害につながりやすいという特徴があると分析。
左グラフから大型トラック、トラクタは対乗用車の事故への対策が、小型トラックにおいては対歩行者自転車の事故防止策が最優先であるという方針が打ち出された。
トラックにおいては大型・小型や様々な車輛特性からその対策が必要と判断された。その結果、大型トラックにおいては「質量が大きい」という点から、被害低減技術の向上に重きを置きPCS(衝突被害軽減ブレーキ) の標準装備化が急がれた。また小型トラックは対人間が最優先となるので、早期危険発見や、より良好な視界の確保が求められ、サイドミラーの改良等につながったのだ。
中でも重心高が高く積荷によって特性が変化するトラックおいては車両安定性向上技術の向上は急務であったが、2011年2tクラスのトラックに世界初となるVSC(車両安定制御システム)の商品化が実現した。
上表が同社における実用化済みの安全システムの主要安全装備と設定車型の一覧だ。
青色の「STD」はスタンダード、つまり標準装備で、グレーの「OPT]はオプションを表している。
走行中、ミリ波レーダーが常に前方を監視し、万が一追突の恐れがある場合に警報やブレーキ作動で注意を促し、追突の可能性が高くなるとより強力なブレーキが作動する。
当日はPCSを搭載した日野プロフィアでデモを行った。1回目はドライバーがまったくブレーキを踏まない場合を想定したデモで、障害物の約20m先で停止した。2回目は警報とともにブレーキを踏んだ場合で、これは障害物の手前約1mで停止した。このミリ波レーダーは金属にのみ反応する。
常にドライバーの眼の開閉状態と顔向きを検知し、コンピューターが警告すべき状態と判断した場合、警報音と警報ブレーキで追突回避を促す。(危険回避領域の拡大)。
カーブでの車線のはみ出しや横転などを抑止するため、警報音やエンジンの出力制限ブレーキ作動で、ドライバーの回避操作をサポートする。
当日はVSCを搭載したデュトロでデモを行った。1回目はVSCを作動させない状態でのデモ。車両が著しく横を向き、実験用に装着されたアウトリガーのタイヤがなければ完全に横転していた。2回目はまったく同じ速度・コースでVSCを作動。みごとに車両を制御して見せた。
ハンドル操作のふらつき具合の増大を検知すると警報をだし、ドライバーに休息を促す。さらに警報が続くとPCSの作動を早める。
ミリ波レーダーで前方車両との車間距離を測り、安全車間距離を維持するように速度をコントロールする。先行車との接近時には
警報を鳴らしてドライバーに注意を促す。
エアバック、衝撃吸収ステアリングの他に、フロアフレームを強化。
安全技術が進化すればするほど事故のリスクは低減され、事業主にとっては嬉しいことではあるが、反面その分車両価格が高くなっているという事実がある。それらの装備を外し車両購入費を少しでも安くできないかと願う事業者も少なくないはずだ。
しかしながら事故のリスクは年々高まっているのもまた事実だ。事業用トラックの事故は年々減少方向にあるものの、ひとたび間違いあれば重大事故に直結する。それがトラックの事故である。トラックの運転が人間である以上、ミスを犯すことは絶対に避けられない。少しでも事故のリスクを低減させられるならば、多少のコストの増大は仕方ないことではないかと筆者は思う。
それにしても、今まで車両の安全技術については取材を通してよく知っていたつもりでいたが聞くと体験するとでは大きな違いがあることが今回よく分かった。冒頭記述したが、日野自動車ではユーザー向けに安全・省燃費講習会を開催しているとのことなので、まだ体験していない事業者は一度体験してみることをお勧めする。