運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第64回】 株式会社藤倉運輸(東京都足立区)

AED搭載トラックに救急救命受講ドライバー乗務



 最近はAED(自動体外式除細動器)を目にするようになった。心臓突然死(心停止)は、いつ、どこで、誰に起こるか分からない。日本では年間に約6万8000人が心停止で亡くなっているという。単純計算すると1日に約180人で、交通事故の死者数よりも多い。これを救うのがAEDで、一刻も早くAEDを操作し心臓にショックを与えて心臓を正常な状態に戻せば、それだけ人命を救える可能性が高くなる。

 このようなことからAEDがいろいろな所に設置されるようになってきたのだが、いざ緊急時になるとどこにあったか即座には頭に浮かばないこともある。また、せっかく設置されていても深夜・早朝などの時間外、休日などはAEDを設置している建物が閉まっている場合もある。だが、営業用トラックなら24時間稼働している。このような考えからAED搭載トラックを導入し、ドライバーも緊急救命を受講しているのが藤倉運輸(本社・東京都足立区、藤倉泰徳社長)だ。

 藤倉社長がトラックへのAED搭載を考えたのは2012年よりも前だった。トラックに搭載していれば、AEDが必要な人に遭遇したら一刻も早く使用することで命を助けることができる。人命救助が一番の目的である。だが、それだけではなく「ドライバーに光を当てる。ヒーロー化するツールとして良いと思った」(藤倉社長)。

 さらに駐車禁止問題などもあった。駐車禁止に対する取り締まりが一段と厳しくなり、地域によっては配送などの仕事に影響がでてきた。そのためトラック運送業界では2人乗務にし、1人が納品で車を離れてももう1人が車にいるといった対応も迫られていた。そこで「もしAEDを搭載しているトラックなら、バーターで駐車させてもらえるかも知れない」(藤倉社長)、といった思惑もあったようだ。というのは「トラックなどに搭載しているドライブレコーダーを防犯カメラと同じように使用するというのなら、それもありかな、ということです」(同)。


 このような問題意識から、2012年7月にはまず社内で救急救命の講習会を開いた。大手警備保障会社から講師を派遣してもらい、社員約20名の参加で講習会を開催して自社のドライバーが心停止の人を見かけたりしたら、AEDを使って緊急救命ができるようにした。それから約2年後の2014年9月に、今度はAEDのメーカーから派遣してもらって久しぶりに社内で講習会を開いた。さらにAEDの講習会は社内だけではなく、藤倉社長が支部長を務めている東ト協足立支部も参加する「あだち区民まつり」でも2014年、15年と2年連続で実演を行い、AEDの使い方を広く普及することに努めた。

 これらに並行して、2014年12月からAED搭載トラックプロジェクトチームを結成して専用ボックスの開発などに着手した。プロジェクトチームは藤倉運輸の他に、綜合警備保障(ALSOK)、飯田電子設計、プラスワン、柳田自動車工業所の5社で構成している。



 プロジェクトではAEDを車外に取り付ける専用ボックスの開発に取り組んだ。AEDを車内に搭載したトラックや自動車はすでに存在するが、AEDを車外に搭載できるようにする。キャビン内にAEDを搭載していてもそれではドライバーが車を離れている時には誰も使用できない。駐車場や路上に停車してドライバーが車両から離れていても、緊急時には誰かが専用ボックスを開けてAEDを使用できるようにする。だが、車外取り付けでは車両走行時の振動などを緩衝し、しかも簡素化しなければならない。試行錯誤の末に昨年7月末に試作品ができた。それを2t車に搭載して、1カ月間温度計などで計測した。振動だけでなく温度も重要な条件になるからだ。AEDは0〜50℃の範囲で正常に稼働するという。1カ月の計測では専用ボックス内の温度は40.2℃が最高だったので問題なしとなった。さらにテスト運行も行い、昨年12月からトラックへの実装および運行を開始した。


 AEDを車外に取り付ける専用ボックスを開発したが、いたずらなどの可能性もあるので昼間は施錠しないで、夜間に駐車場に止めておく時には南京錠をかけるようにしているという。AED搭載車には、AED搭載表示外装シールをボディの両サイド、そして車の前後にも小さなステッカーを貼っている。

 試作品で実験走行をしていた昨年8月のお盆明けに、AED搭載車が事故現場に遭遇した。乗務していたドライバーがAEDをもって現場に走ったが、幸いにもAEDを使用する必要はなかったという。このように、AED搭載車が事故などの現場に遭遇した場合、人命救助と納品指定時間の狭間で実際にどのような行動をとるべきなのだろうか。「そのような場合には現場のドライバーの判断に任せることにしています」(藤倉社長)、という。現に大手の取引先の工場長からは、「当社の社内報に掲載し、社内全体にこの素晴らしい活動を広報したい」という評価も得ている

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供=藤倉運輸)