運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
バックナンバー一覧はこちら
交通事故ゼロを継続して貨物事故半減を目指す
交通事故をゼロにしたい…。これは総ての事業者に共通する思いである。そのために各社各様の取り組みを行っている。しかし、実現するのはなかなか難しいことも事実だ。そのような中で、昨年やっと6年がかりで交通事故ゼロを実現したのが、ササキ通商(長野県塩尻市、佐々木實社長)である。
0:100の「貰い事故」は4件ほどあったが、自社責任の交通事故は年間を通して1件も起こさなかった。もっとも交通事故ゼロを実現したとはいえ、少しバンパーを擦ってしまったといったような事故や、交通違反などがまだ皆無になってはいない。したがって、これらも無くさなければならないという課題が残っているのは事実だ。しかし、保有車両28台(大型車3台、4t車21台、2t車4台)という中小事業者が6年がかりで交通事故ゼロを実現するには、高いレベルで管理体制を構築している大手事業者とは違う、中小事業者ならではの現場の実態と努力が横たわっている。
同社では2001年に大きな事故を起こしてしまった。そこで以前にもまして安全教育などに取り組んできたのだが、しばしば事故を起こす特定のドライバーがいた。精神的な波が大きいのだろうと思い、そのドライバーに管理の目を注いでいた。そのような時に他のドライバーが2004年に事故を起こしてしまったのである。04年の事故は、地元では事故が起きやすい、と言われていた場所であった。後で分かったことだが、このドライバーは個人的な問題を抱えていたのである。
この事故で改めて事故の悲惨さを実感し、事故を減らさなければならないと決意を新たにした。同時に、ありきたりの教育や指導ではなく、実効性のある方法にしなければならないとも考えた。行政指導でやらなければならないことは実施していたので監査はパスできる。だが、会社はこれだけの取り組みをしたが、従業員が理解できていなかったでは済まされない、と気づいたのである。
そこで実効性のある教育や指導にするのは、どのようにしたら良いかを考えて取り組むようにした。交通事故をゼロにするために6年間にわたって様ざまな取り組みを行ってきたのである。
安全会議は年4回プラス2回つまり平均すると2カ月に1度の割合で、土曜日の午後1時から5時まで行う。安全会議では社長が話をし、トラック協会の会報に掲載されている事故に関するデータや、陸災防の事例、その他の資料も活用した。また、バンパーを擦ってしまったなどといった小さな事故についても、携帯電話の写メールで事務所のパソコンに送らせて、事故報告書と一緒に安全会議で教材として活用したりもする。結果的にみると、同社の場合には年間で5月に事故が多い。その他にも1月、3月、7月など、偶数月と比較すると奇数月の事故が多くなっている。そこで、奇数月ということを強調することで関心を持たせるなどの工夫も行ってきた。
火曜日と水曜日に違反が多いので、火曜日と水曜日には気をつけるようにと送り出す。あるいはSDカードを基に個別指導もする。さらに損害保険会社が貸してくれるドライブレコーダーを1人2週間ずつ搭載し、その運転診断結果から個別指導も行うようにした。この試みは約半年の間隔をおいて10年にも行った。同社ではドライブレコーダーを導入していないが、損保会社から借用して定期的に診断し、改善できた点、改善できない点などをチェックする。分析・評価のコピーも渡して分かり易い説明をしながら指導するようにした。
また、省エネ運転と安全運転は関連性があるが、同社ではエコドライブ競技会にも交代で1人ずつ参加させている。さらに、事故を起こしてしまった場合の対応として、「事故対応マニュアル」を作成して乗務する際には全ドライバーが携帯するようにしている。万が一事故を起こしてしまった場合に的確に行動できるようにするためだ。
安全マネジメントでもトップとドライバーとのコミュニケーションを重視しているが、04年年の事故後は社長が毎朝4時~4時半には出社し、出発前や帰社したドライバーに声をかけてきた。早朝だけでなく事務所に報告にきたドライバーに可能な限り声をかけるように努めた。だが、その後も5年間は交通事故をゼロにすることができなかった。ところが昨年は6年がかりで、やっと年間の交通事故ゼロを達成できたのである。
その一番の要因を佐々木社長は、コミュニケーションだという。従来はカウンター越しのコミュニケーションだった。しかし、昨年からはドライバー控室で社長をはじめ事務所の人たちがドライバーと世間話をするようにした。このコミュニケーションがハンドルを握る運転者のメンタリティーに効果があったと分析している。「今年は交通事故ゼロを継続するとともに、貨物事故半減を目標に安全への取り組みをさらに強化する」(佐々木社長)方針だ。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>