運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
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5月1日から高齢者引越サービスの営業開始
3月~4月上旬の引越シーズンもピークを越えた。今年は東日本大震災の影響もあって例年とは様相がかなり違ったようだ。被災地からの転出や、被災地への転入の減少はもとより、企業の人事異動もペンディングになったりしている。また、国際引越では3月中に日本から海外への転出が異常に増加し、日本への転入は極端に減った。法人でもオフィスを香港やシンガポール、上海などに移転した外国企業が多いという。
これらは東日本大震災と原発事故といった特殊事情によるものだが、震災には関わりなく、引越市場における競争は年々激化してきた。その影響は具体的には成約金額の下落として現れている。
また、従来はほぼ単独指名のような形で成約できていた企業や団体などからの紹介でも、近年は相見積りが一般的になってきた。そこで仕事を確保するためには、見積り金額を下げなければならず、年々成約率も低下するような傾向になってきている。
豊田運送(本社・東京都板橋区、豊田敦子社長)も例外ではない。同社は東京都人材支援事業団指定店として長年にわたって引越サービスを行ってきた。地元の福祉事務所からの紹介なども多いが、5、6年前からは相見積りとなり、成約率の低下と、成約できても単価が低くなるといった傾向に対して、経営的にも何らかの対応が迫られていた。
このような背景の中で、セイコー運輸(大阪市住之江区、宮髙浩社長)と、「シルバー住むーぶ」「タイムレンタル住むーぶ」のパートナー契約を締結し、5月1日から要介護者や高齢者向けの引越サービスを開始した。同社は1956年2月の設立で、創業当時から引越輸送を手掛けていたというから、かなり早い時期から本格的に引越サービスを行っていたことになる。当初は国鉄(当時)の人事異動などにともなう引越がメインで、その後、防衛庁(当時)や協和銀行(現りそな銀行)などの引越も行うようになったという。
豊田運送は保有車両数が28台(4t車12台、3t車4台、2t車11台、1t車1台)で、従業員数は45人(アルバイト含む)。売上構成では引越が約3分の1、一般輸送(センター管理などを含む)が約3分の1、その他の輸送が約3分の1といった割合である。
一般輸送では、建築用のコーティング剤や防水材、印刷用のインクやPS板(アルミ板に感光性樹脂を塗った版材)などを取り扱っている。このうち建築用の資材は同社の戸田営業所で入庫、保管、在庫管理、荷役・出荷作業から、東京、神奈川、千葉、埼玉、北関東エリアの代理店や現場への納品など一貫作業を受託している。
また、印刷用製品は、埼玉、北関東エリアの主に印刷所への配送業務を行っている。その他の輸送分野では、集塵機用のフィルター、屋外広告用機材などの輸送、フリー便で家具や家電商品の配送と設置なども行っている。また、産業廃棄物収集運搬(東京)もしている。
創業当時から引越を行ってきたのは「創業者の先代社長が引越の仕事が好きだったから」(豊田社長)という。長年の実績もあって福祉関係団体からの紹介による高齢者の入院や施設への入居、母子家庭の引越なども多い。
サービスも、スタンダード、全部おまかせのパックサービス、単身引越、時間指定のないフリー便引越、オフィス移転などのメニューを揃えている。またオプションとしてハウスクリーニング、ピアノ・エレクトーン輸送、家財の一時保管、不用品の引き取りや買い取り、外装や内装工事などのハウスリフォーム、家の解体工事、カーテン販売、家電のクリーニングや電気工事なども行う。さらに派生サービスとして、草刈り、雑用や作業手伝い、病院の順番取り、ポスティング、家具などの室内移動、急な電話番、犬の散歩などペットの世話、墓掃除や墓参り、遺品処理、子供との留守番、パソコンの使い方指導、別荘の掃除などの代行サービスも行っている。
このような自社の特徴を活かしつつ、付加価値を高め、差別化を図るためにセイコー運輸と「シルバー住むーぶ」「タイムレンタル住むーぶ」のノウハウ指導と商標使用契約を締結したのである。
「シルバー住むーぶ」は、ホームヘルパーがスタッフに加わる引越サービスで「すけっと便」と「引越便」がある。「すけっと便」は、介護保険を使わない高齢者の身の回りの力仕事などを手伝うサービスで、「引越便」は介護を必要とする人が高齢者施設などに入居(退居)する場合の引越サービス。契約テリトリーは東京と埼玉の全域だが、まず地元の板橋区と戸田営業所のある戸田市から開始してエリアを拡大していく計画だ。
本社の近くには高島平団地がある。1972年から入居が始まったマンモス団地で、住民の高齢化が進んでおり、高齢者や要介護者を対象とするサービスは今後ますます有望な市場といえる。5月1日から営業を開始し、今年度は月10件の成約を目指すとしている。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>