運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
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誇りをもって働き世間並み待遇の実現を目指す
最近はホームページ(HP)を充実させて、新規開拓に結びついたといった事例も増えてきた。HPを見た企業から引き合いがあり、成約できたというケースである。たいてい最初はスポット的なオーダーだが、スポットを切り口にしてレギュラーの仕事にまで発展させることもできる。HPに限らず、Webを活用した様ざまなアプローチも可能だ。インターネットはあくまでツールであり、いかに有効活用するかは自分次第である。工夫をすれば低コストで効果的な営業ツールにすることができる。
HPの充実を図るとともに、今年4月からは、社内報と社外向けのニュースレターも内容を一新。さらにターゲットを絞り込んだDM作戦の準備も進めている事業者がいる。この事業者はカワキタエクスプレス(三重県亀山市、川北辰実社長)で、この間、社内態勢の再構築を図り、4月からは外に向かって積極的な営業展開を打ち出した。ニュースレターの作成とメール配信は、その一環である。
同社の創業は1990年で、設立は1998年である。現在の保有台数は21台(15t低床ウイング車〈エアサス〉4台、7tウイング車〈エアサス〉2台、4tWウイング車〈エアサス〉2台、4tWウイング車2台、4tウイング車1台、2tWウイング車〈ゲート〉2台、2tWバン車3台、2tバン車〈ゲート〉2台、1tバン車2台、軽バン車1台)で、従業員数は25人。
輸送商品は多種多様である。これは商品の種類ではなく荷物のサイズを基準にした営業戦略を採っているからだ。路線貨物よりもサイズが大きく、貸切で運ぶと不経済な荷物、つまり路線と貸切の中間のロットの荷物を主たるターゲットにしている。スポットの混載便を主体に、その延長としてロットが1台分まとまればチャーター便のサービスも行う、というのが基本的なビジネスモデルである。この混載便が売上全体の約70%を占め、引越サービスが約25%、その他が小口貨物のルート配送などとなっている。
当初は軽トラックによる宅配業務の受託からスタートした。だが、下請けでは運賃単価も安く、地域によっては配送密度が薄く作業効率が悪い。その上、不在で持ち帰り、再配送など収益性が低かった。そこで一般事業許可を取得して引っ越しの分野に参入した。
やがて宅配と引っ越しの売上が半々になると、宅配業務から撤退して一般輸送に方向転換を図った。引っ越しは波動が大きいので、一般輸送で閑散期のボトムアップを図ったのである。
最初はKITやローカルネットなどを活用し、引っ越しとスポットを組み合わせることで車両の稼働効率を高めるようにしたのである。するとニッチ的な潜在ニーズがつかめてきた。それは中ロット貨物である。これなら宅配の経験を応用することもでき、また、専属的に拘束されない荷物のため、引っ越し車両の稼働率を高めることが可能だ。こうして中ロット貨物に行き着いたのである。混載便を始めるようになったのは約9年前であった。
必要な時だけ必要な量だけ、というコンセプトで混載便を事業のコアにする事を明確にしたのが約7年前。混載便では取り引き先が多くなり、配車も大変だが、売り上げ管理や請求書発行などの事務処理も煩雑になる。そこで配車から売り上げ管理、給料計算まで1回の入力で全部可能になるようなシステムを開発・導入。さらにGPS内蔵のデジタコとドライブレコーダーを活用した省エネ運転、安全運転サポートなどにも取り組み、中小企業IT経営力大賞審査委員会奨励賞も受けた。
また07年11月には現在の所在地に本社・事業所を移転した。しかし、混載便にふさわしいドライバーは時間をかけて育てなければいけない。そこで従業員にはレベルの向上を求めてきた。ところが、器は新しくなっても、中身は依然として古いままだった。表面的にはともかく実際のところではレベルについてこれない従業員もいた。そこで昨年秋から今年春にかけて社内態勢の再構築を図った。
そして4月から外に向かって積極的攻勢にでることにした。社内報も4月からは顔写真を多くし、最近嬉しかったことについて従業員がコメントを載せている。外部向けのニュースレターにも従業員の顔写真を出し、文章も気楽な話にした。そして、取引先だけではなく、社長が名刺を交換した人たちにもメール配信するようにしたのである。
営業面では近くHPの充実も図る。地域を限定したDM作戦で新規開拓を進める計画も進行中である。同社は、設立して間もないころからキーホルダー、タオル、ペーパークラフト、Tシャツ、ポロシャツ、エンブレム、携帯電話用エンブレム、ピンバッチ、ステッカーなどオリジナルグッズを制作している。社員手帳も全従業員が携帯している。
これらは、誇りを持って働き、給料なども一般的水準にまで引き上げる、という会社の基本方針を実現するためである。そのためには、まず自分たち自身が変わることが重要という考え方だ。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>