運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第17回】 高浜共立運輸株式会社(愛知県高浜市)

東日本大震災の教訓からBCPを策定

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東日本大震災から早くも1年が経った。東日本大震災では危機管理のあり方など企業経営上でもたくさんの教訓が得られた。その一つがBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画または緊急時企業存続計画)である。東日本大震災に遭遇し、にわかにBCPが注目されるようになった。だが、実際にBCPを策定した中小事業者はまだ少ない。

そのような中で昨年10月にBCPを策定・導入したのが高浜共立運輸(本社・愛知県高浜市、神谷昌彦社長)である。同社は本社(本社およびクロス高浜物流センター)の他に長久手配送センターがあり、全体で従業員数は34人、パート17人、アルバイト8人、保有車両数は40台(2t車20台、4t車20台)という規模である。事業内容は引越サービス(引越専加盟)、食品、機械部品、家具、フリーペーパー配送、法人顧客対象のIT機器搬入およびセッティング、業務用複写機搬入およびセッティングその他である。

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神谷社長は東日本大震災後の3月17日に東京にきた。そこで節電を体験し、深刻さを感じたという。一方、仕事面では燃料確保問題を痛感した。

神谷社長は日本青年会議所(JC)の物流サービス部会で部会長の経験もある。阪神淡路大震災時には部会として救援物資輸送などに取り組んだが、今回の東日本大震災ではその時の教訓を活かし、部会員同士(シニアも含め)でいち早く独自の救援物資輸送などに取り組んだ。全国にいる部会員のインタンクを使い、リレー方式で救援物資輸送を行ったのである。

また、引越シーズンとも重なった。たとえば西日本から関東への引越では、どこかで給油が必要になる。そこで比較的燃料供給に問題のない中部地区で給油して東京方面に行かせた。帰りも同じようにしたのである。静岡県の沼津と三島に大きなインタンクを備えた引越専のメンバーがいるので、現金なしで後払いでも良いような体制を整え、引越サービスに支障がでないようにした。

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これらはたまたま上手くいっただけである。そこで危機に備えて日常的にそのような態勢を整えておくことの重要性を強く感じた。また、被災地の視察に同行して被害の悲惨さを目の当たりにした神谷弘恵専務は、津波に襲われたらこのようになるのか、と痛感したという。そして、まず何といっても家族や従業員が生き延びなければならない。生き残ることが経営以前の問題だ、と思った。

このようなことからBCP策定の必要性を感じていたが、昨年7月に地元の高浜市商工会でBCP策定の研修会を開くという案内があった。そこで、専務が研修会に参加することにした。参加企業は22社だったが、運輸業は同社だけだった。研修会ではBCPを策定する手順にそって指導をしてくれた。同社はISO9001を取得しているので、策定作業の手順はさほど難しくはなかったようだ。そして10月1日に策定・導入したのである。参加企業の中で策定まで至ったのは3社だけだったという。

BCPでは様ざまな危機に対応できるように計画を策定する。たとえばサイバーテロやパンデミックへの対応などもある。

このような中で同社では、最初の段階として今回は地震と津波による被害を想定した内容のBCPを策定した。高浜市のハザードマップは震度6強の地震で8mの津波を想定して作成されている。高浜共立運輸の本社は埋め立て地にあり、8mの津波に襲われたら完全に被災してしまう。

また、本社の従業員も住まいは高浜市、碧南市、刈谷市がほとんどである。ドライバーは平日の日中はトラックに乗務して他の地域にいるが、事務所にいる従業員は津波の被害に遭ってしまう。 このようなことから、社内開示だけの全従業員の個人情報も把握した。緊急連絡先(1カ所ではその連絡先も被災する可能性があるので複数)、家族構成、家族が自治体から指定されている避難所などである。血液型などが分かるカードも全社員が携帯するようにした。

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基本方針は、従業員と家族の安全、荷主からの信用継続、地域社会への貢献の3本柱である。重要業務と復旧目標では、インフラが被害を受けた場合に、どのくらいで回復するかを想定している。

インフラの被害では、小さな発電機を備えたり、50ccのバイクのバッテリーを電源とした対応、電話が不通になった場合は比較的支障の少ないメール通信への切り替え。そして何%まで機能が回復したら取引先の優先順位に基づいてどのように業務を復活させるか。非常時に対応できるようにするための従業員の多能化の推進。車両の被害に偏りが出ないように駐車場の配置換え。

同社はインタンクではなく協同組合のスタンドで利用のため、1日の作業終了後には全車両を満タンにしておく。さらにデータ管理のバックアップ体制。災害保険の見直し、月末の時点での流動資産目標や内部留保など財務面での強化など、BCP策定過程で会社の再認識にもなり、経営改善にもつながっている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>