運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第18回】 株式会社イーグルサービス(静岡県浜松市)

宅配のノウハウ活かし21世紀の「御用聞き」目指す

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日本の社会は大きく変化した。一つはインターネットの普及に伴って、ネット通販という小売の新しい流通チャネルがシェアを伸ばしている。一方、人口構造の変化による高齢化社会の到来、単身世帯の増加、購買行動の変化などを背景にネットスーパーも増えている。

このように社会が変化しつつある中で、昔の狭い地域コミュニティに根付いた御用聞きとも違う、またバブル経済期のような利便性(贅沢性)のみを追求した宅配とも異なる、新たな宅配サービスへのニーズが高まってきている。新たな宅配サービスへのニーズは、日本の経済・社会構造の変化と関連しており、敷衍すれば高齢の単身者の安否確認サービスなども含む、多様な展開の可能性をもっている。

このニーズに着目し、百貨店宅配の作業請負や生協の宅配で培ったノウハウを活かし、新たな宅配市場で多様なサービスを展開しようとしているのがイーグルサービス(本社・浜松市、松本邦広社長)である。

イーグルサービスの設立は1979年11月で、ある百貨店の百貨店配送業務を行っていた地元の運送事業者の作業を請けるようになったのがスタートである。その後、生協の冷蔵・冷凍食品や野菜のセッティングなどの業務も請け負うようになった。さらに、地元百貨店の物流センターの検品、仕分け、搬出・搬入などの仕事も受託するようになった。

このように、設立後の約20年間は、検品や仕分けなどの作業受託を主な業務としてきた。その間に、一部ではギフト商品の配送なども行ってはいたが、本格的に宅配業務を受託するようになったのは約11年前からである。とはいえスタート時は生協の磐田セットセンターからの宅配を軽トラック1台で行う仕事を請けたのが始まりだった。だが、生協の宅配事業の伸長とともに発展し、現在では構内作業はもちろん、1.5t車36台、軽トラック14台で生協の宅配業務を行っている。

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このように、ここ10年間は生協という安定した顧客の業務にほぼ専念してきた。だがこの間の社会の変化は著しい。その一つが無店舗販売などの伸びであり、それに伴う宅配サービスである。

そこで同社は、この間に培ってきた宅配のノウハウを活かして、新たな宅配サービスの市場を開拓する方針を2010年10月ごろに打ち出した。従来からの顧客へのサービスの一層の充実と、宅配のノウハウを活かして新分野に進出して業容を拡大するという経営戦略である。新たなサービスのコンセプトを象徴するのが「コンシェルジュ宅配サービス」だ。 
 これは荷主のセールスプロモーションを代行して展開したり、納品先の顧客とのコミュニケーションを重視したりした宅配サービスという概念である。同社は、この「消費者・取引先に貢献する高品質な『コンシェルジュ宅配サービス』の提供」で、2010年10月に経営革新計画の承認を得ている。

その方針に基づいてこの間に新たな宅配分野を開拓し、現在ではドラックストアーがネット販売している薬や食品、クリーニング会社の宅配なども行っている。これらはクライアントの名前で宅配するもので、さらに単なる宅配だけではなく付加的なサービスも行っている。たとえば一次的なクレームには同社で対応したり、さらに販促活動まで行う。販促活動の中には簡単なマーケティング調査もある。クライアントの要望によっては、たとえば宅配先で個人情報に抵触しない範囲で、ドライバーがニーズの聞き取り調査をしたりもする。また、曜日別のリピート率などもクライアントにフィードバックしたりしている。さらに季節特性に応じた商品の販売促進などもドライバーが行う。

このように薬品、食品、クリーニングなどの宅配サービスを展開するほか、昨年3月からはアンテナショップ「酒々屋(ささや)」を開設し、酒類や米穀、その他の商品の宅配サービスを行うようになった。

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酒々屋では自社でも商品を販売するが、基本的にはネット販売をしようとする地元商店などの、いわばプラットフォーム的な位置づけである。

たとえばケーキ屋、お菓子屋、弁当屋などの地元商店がネット販売を始める時に、Web運営から宅配までの業務を一括代行することで、販路拡大、新規顧客拡大をサポートし、提携してお互いに商圏拡大を図って行こうという構想である。ネット販売が難しい高齢者には、地元商店の商品を合わせたカタログを作成し、ポスティングなども行う。この混載宅配便が「ささっと便」である。

配送エリアは同社を起点として半径10㎞で、今年7月からはフリーペーパーの配送も開始する予定だ。また5月には300坪~400坪の施設を賃借して、酒々屋専用センターも開設する。さらに今後の構想では、買い物代行、安否確認や緊急通報、ハウスクリーニング、庭の手入れなど、総合的なライフサポートの現代版「御用聞き」を目指している。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>

(写真提供:イーグルサービス)