運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
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アライアンスで経営資源の有効活用と相互発展目指す
これからは日本の国内市場が縮小していく。国内の物流市場も縮小し、事業者間のサバイバル競争が激化するだろう。市場縮小は、戦後の日本経済では経験したことのない未知の領域である。その中で勝ち残るには、新たな経営環境に適応した独自の企業戦略が不可欠だ。その一つにアライアンス(戦略的同盟)という選択肢がある。だが、アライアンスは総論としては首肯されても現実的にはなかなか難しい。その理由は様ざまだが、既得権益を侵食し合わないメンバーで、目的が明確になっていることが成功のための最低要件といえる。
このような中で、三野津急送(本社・香川県丸亀市、原將嘉社長)とエフエーエス(本社・香川県まんのう町、内浪博文社長)は今年3月8日に「アライアンス合意締結書」を交わした。両社の所在地は近く、主たる荷物も建材関係で共通している。しかし両社は、リスクの自己責任を基本に経営資源を有効活用し相互発展を目指している。
三野津急送は1973年の設立で、当初は飼料の輸送などからスタートした。現在は建材や合成樹脂製品などを製造している地元の大手荷主をはじめ、建材関係などの大手企業との取り引きが多い。保有車両数は60台で、倉庫も約6900平方メートルを有する。事業内容は運送事業の他に保税上屋認可倉庫業、産業廃棄物収集運搬業などである。
このうち主たる事業は地元の大手荷主の工場で製造された建材などの全国輸送である。また、パーティクルボード製品の原材料にするため、建築廃材や木質チップなどを回収して大手荷主の工場に納品するような業務も行っている。同社では、「10年前ぐらいから将来は人手が減少していくと危惧していた。そこで倉庫などの施設作りに力を入れてきた」(原將嘉社長)という。また、メインの大手荷主への深耕も図っている。そのため3PL的な手法で、様ざまな効率化提案などもしている。
一方、相手方のエフエーエスは1996年の設立で、現在の保有台数は27台。大手住宅メーカーの四国におけるデポ機能や、キッチン素材、太陽光パネル、石膏ボード、エクステリア商品など建築関連の荷物を主に取り扱っている。同社の拠点から四国各地の住宅メーカーのディーラーや、建築現場への配送だけではなく、建築現場の調査、基礎工事、施工なども請け負うといった一貫業務を行っている。
事業内容は運送事業の他に、産業廃棄物収集運搬業、センター管理業務、労働者派遣業、警備などの請負業、土木・建築工事請負業、菅工事請負業などで、このうち運送事業部門の売上が約50%を占めている。産廃の収集運搬では、昨年、FASエコサポートセンター(中間処理場)も稼働させた。これは建築現場から排出される廃材などを収集運搬し、リユース、リサイクルするという循環型のビジネスモデルの構築である。
このように両社に共通するのは、建材関係を取り扱っていることである。だが、三野津急送はメーカーからの幹線輸送を主体にしており、エフエーエスは四国のデポ機能と現場への納品、さらに施工工事の請負などである。つまり、同じ建材関係でも三野津急送は川上の物流であり、エフエーエスは川中から川下の物流と作業である。
また両社は、廃材の収集運搬からリユース、リサイクルなども行っている。ゼロ・エミッション(廃棄物を別の産業の原材料に利用するなどして廃棄物ゼロを目指す)も両社に共通する認識であり、顧客への訴求ポイントでもある。これら2社の特徴をみると建材関係の川上から川下、現場作業から廃材のリバース物流という循環を構成する、サプライチェーン型のアライアンスといえる。まだ共通する荷主はいないが、アライアンスによって一貫(一環)サービスの提供を可能にし、既存顧客はもちろん提案営業による新規顧客の開拓も可能になる。
「アライアンス合意締結書」では「互恵の精神と個として負うリスク・ロスは自己責任を原則として、個人の信頼を事業発展の礎として活性化させる」としている。
「ヒト・モノ・カネの資源は有限であり、経営者は限られた資源を有効に使って企業価値を最大化」しなければならない。そのためには異なった優位性をもつもの同士が「独自性を維持しながら技術面、生産面、販売面などで補完する」としている。
事業計画では、①資産、ツールなどを共有して活用する、②魅力ある新しい仕事を提携して獲得する、③環境分野への新規開拓を図る、④企業成長戦略を指向する。運営では、コスト負担分を除き5分5分で利益配分し、今後アライアンス・メンバーが増加した場合には、両社が先駆者優位性を持ち、2社合意を総てに優先させる、と明記している。目標とするメンバー数は特に決めていないが、5、6社に増やす予定のようだ。当面は四国での体制強化を図る予定だ。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>