運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
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深夜は2時間おきにフリーダイヤルで連絡
大型車による長距離輸送を主体とした事業は、なかなか厳しいのが業界の実態である。そのような中にあっても、大型冷凍車による長距離の拠点間輸送を中心とした事業展開で堅実な経営を実現している事業者がいる。
この事業者は曙運輸(本社・埼玉県越谷市、大野祐肇社長)で、同社はアイスクリーム、チョコレート、冷凍食品、菓子などを荷主の工場から大型小売店の物流センターなどへの拠点間輸送を主に行っている。
本社の他に関西営業所(京都府八幡市)と九州営業所(福岡県八女市)があり、トラックの保有台数は大型冷凍車が120台、4t冷凍車が6台である。このうち4t車は急のオーダー、小口、スポットへの対応、大型車では入れない納品先の仕事などを行う。したがって専属ドライバーは2名だけで、その他は大型車のドライバーが急遽乗務するような態勢をとっている。このように4t車は最小限の対応をするだけで、4t車の仕事は基本的には外注である。
営業所の配置からも分かるように関東から西日本、九州への荷物は自車両を基本とし、東日本、北海道などは協力会社に委託している。同社はアイスクリームの輸送からはじまった。詳しい経緯は割愛するが、1980年が運送業としてのスタートである。車両数20台ぐらいまではアイスを専門に輸送し、1983年から85年ごろに冷凍食品にも取り扱いを拡大している。
しかし、冷凍食品は年間を通して比較的コンスタントだが、アイスは夏と冬の需給ギャップが大きい。そこで冬場に売れる商品を取り扱うことでボトム期の底上げを図ることを考えた。チョコレートは冬の需要が多い。しかもアイスクリームのメーカーはたいていチョコレートもつくっている。そこでチョコレートも取り扱うようになり、夏と冬のバランスがとれるような経営になってきた。チョコレートの場合には夏はチルド輸送で冬場は常温であり、車両も年間を通して何でも運べるような車両にしてきた。
車両へのこだわりも強く、最近の車両は低床にして容積を増やし、シートパレットで2段積みができるようにしている。だが、冷凍・冷蔵車の低床は少なく、協力会社の対応にも時間がかかるため、全部の荷主を低床車で行っているわけではない。このように車両にも投資をしているが、冷凍輸送も一般貨物とさほど運賃の差がないような水準になってきた。
このような経営環境にあっても堅実経営を実現するには、「配車効率が一番重要なので帰り荷は95%以上積んで帰ってきている。課題は労働時間の問題で、労働時間をクリアしながら車両の回転を上げるにはどのようにすべきかが今後の課題」(大野社長)という。
そして「事故を起こさない、できるだけ整備費がかからないようにする、効率的な配車の3つがポイント」(大野社長)と指摘する。このうちできるだけ整備費をかけないという点では、関連会社で整備を行っており、今年11月には新しい整備工場が完成する予定だ。
効率的配車では、ドライバーと荷物と車両の組み合わせがポイントである。そこで長距離輸送の合間に近距離輸送を組み合せることで、労働時間を調整するとともに、車両の回転率の向上を図るような工夫をしている。また、拘束時間や休息時間の関係から、関西の泉佐野や神戸から新門司まではフェリーを利用しているが、有明と博多でも毎日1便単車の無人航送をしているという。
さらに食品を取り扱っているので、温度管理などの品質管理と、安全管理にも独自の仕組みを採り入れている。一つは24時間ダイレクト通信連絡体制である。これはGPSを使って温度管理や車両の動態管理をするシステムで、20分単位で車両の位置や、走行中なのか作業中なのかなどの車両の状態、庫内温度などを本社のパソコンで把握できるようにしている。庫内温度は運転席でもリアルに把握できるが、異常があれば本社からドライバーに連絡するような態勢を取っている。
安全管理の前提はコンプライアンスである。そこで同社では4時間に一度、30分以上の休憩を徹底している。さらに夜間に走行している車両では、深夜の12時を過ぎたら翌日納品先に到着するまでの間、ドライバーは2時間に一度、パーキングからフリーダイヤルで会社に電話を入れ、管理者が安全などを確認するようにしている。携帯電話では車の中からでも通話が可能だ。そこでフリーダイヤルで連絡するようにしたのである。
ドライバーは車を止めて車外に出なければならないため、休憩をとることにもなるからだ。「フリーダイヤルの連絡は3年半ほど前からやっているが事故がなくなった」(大野社長)という。このような取り組みを推進しながら、昨年4月1日には「品質・環境・安全方針」を内外に公開した。これは顧客満足度の向上と環境に配慮した経営を目指す基本的な方針で、全社員がこの方針を理解して行動し、目標達成のために努力するためである。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>