運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
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特積みを柱に事業領域を拡大し独自のカテゴリー構築目指す
信州名鉄運輸(本社・松本市、今井繁社長)は1946年に小松組として設立された。その後、様ざまな変遷を経て1962年12月に現在の社名に変更した。信州名鉄運輸に改称して50年になる。
同社では50年を機にビジョン、経営方針、経営計画、経営行動といった総合的な目標を設定した新中期3カ年計画を策定し、今年4月からスタートした。中期計画では社長がビジョンを示し、戦略は本社、オペレーションは現場という体制を明確にしている。全社員が何をなすべきかという一つの目標を明らかにし、モチベーションをアップして目標達成に邁進しようというものである。
同社の12年3月期の売上高は177億円だったが、新中期3カ年計画の最終年度である15年3月期には売上高189億円、営業利益はコア事業の特積みだけで2%の3億7800万円という目標を掲げた。さらに、いまから「5年後には売上高200億円超を目指す」(今井社長)としている。
新中期3カ年計画を全社員の共有認識にするため、同社では「新中期経営計画」という小冊子を作成し、3月末に全員に渡した。小冊子は表紙がブルーと赤の2種類ある。ブルーは管理職用で詳しい内容になっており、赤は社員用で平易な内容になっている。全員が手元において、常に新中期経営計画を指針に考えたり行動するためのものである。1冊ごとにナンバーがふってあり、社外秘扱いにしている。
冊子の内容を簡単に紹介すると、まずビジョンでは理念、方針、基本戦略を明確にしている。そして経営目標、投資計画(2012年度~2014年度)、年度別収支計画と続く。重点項目と行動方針は13項目あり、中期経営計画を実行するにあたって、では4項目を示している。この計画に基づいて各部署でさらに具体的に落とし込むことになる。同時に、中期計画を社員1人ひとりのものにするため、店長会議や小集団活動などあらゆる機会に研修なども行っている。
中期計画を実現するために社内の組織改正も行った。従来の営業本部と管理本部を統合して、今年4月からは事業本部とし高橋裕治専務が本部長に就任した。 この狙いは、「組織間の壁を取り払うとともに権限、責任を明確にする」(今井社長)ことである。
基本方針は中期計画で示しているので、事業本部では具体的な部分について速やかにジャッジして対応する。もちろん経営の根幹に関わるような事案は、常務以上の経営会議で検討して、社長が最終判断を下すことはいうまでもない。事業本部は、いわば最高執行機関という位置づけだ。
さらに7月2日づけで組織を再編した。一つは安全品質サポート部の新設で、もう一つが3PL事業部の営業部への併合である。安全品質サーポート部の新設は、「運輸企業にとっては、安全は経営の基盤。品質の確保も安全と同じレベルに引き上げて2つを同時進行で徹底していく」(今井社長)という考え方に基づいている。
同社では、これまでも安全や品質に力を入れてきた。しかし労災、交通事故、荷物事故など個別に取り組んでいた。そこで、これらを一体的に取り組むために安全サポート部を新設したのである。今後は現場主義を一そう徹底し、本社が現場に降りて行って真因を把握して事故撲滅を図る、という体制である。さらに安全と品質は一体的に取り組まなければいけないという認識から事業本部にしたという。
3PL事業部の営業部への併合は「特積みという当社の特徴を活かして効果的にサービスを展開した方が良い」(今井社長)という考え方による。同社では、最初は3PLに特化した形で進化させようと考えていた。だが、荷主からすると3PLといったことは関係ない。同社では、一般にいわれるような3PLは以前からやってきた。特積み事業者だが、地域に密着した一般(区域)事業もかなり行っており、荷主ニーズに対応するなかで自ずとそのようなサービスになっていたのである。
実は、ここに信州名鉄運輸の今後の方向性がある。特積み事業者でありながら地場産業など地域に密着した事業展開をしてきたのが同社の特徴だ。荷主の工場にまで入り込んで作業受託もしている。荷主ニーズに応えるうちに、そのような独自のサービス形態が形づくられてきたのである。それを象徴するのが同社の拠点で、特積みのターミナルだが、物流センター的な機能も兼ね備えている。このような拠点の整備は、戦略的な面もあれば必然的な面もあるという。
そこで同社では「コア事業の特積みを柱として事業領域を拡大し、他社にはない独自のサービスを展開していくことでカテゴリー・チャンピオン企業を目指す」(今井社長)という基本的な方向性を打ち出した。「この分野では負けないというサービスをつくり、外に向かって攻めて行く」(今井社長)。ただし価格競争ではなく、品質向上が重要で、オンリーワンのサービス展開によって収益性の高い企業を目指している。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>