運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
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収益性向上のカギは何でもできるドライバー
どの事業者も立地条件が異なる。自社がおかれたそれぞれの条件の中で、独自の経営努力、工夫をしなければならない。
沖縄県は、県外と橋やトンネルでつながっていないため、県外との貨物輸送は船か航空しかない。また、沖縄本島でも面積は約1208平方キロメートル、南北端の直線距離も約107kmと狭いため、島内だけで事業展開している多くの中小トラック運送事業者は小さな市場で商売をしなければならない。このような条件の下で、原価を上回る収入を得るにはどのように事業展開をすればよいのか…。
どの事業者も立地条件が異なる。自社がおかれたそれぞれの条件の中で、独自の経営努力、工夫をしなければならない。
マルヨシ運輸の設立は1998年である。それ以前は吉里社長の父(現会長)が1人1車で運送業を営んでいた(アメリカの施政権返還以前からの関係で)。詳しい経緯は割愛するが、会長が、ある物流子会社の仕事をしており、吉里社長はメーカーから物流子会社に移って勤務していた。物流子会社で5年ほど働いてマルヨシ運輸を設立したのである(当時の社長は現会長)。
独立直後の仕事は1次配送(港からのコンテナのよこ持ち)がほとんどで、1次配送用の車両が3台、吉里社長が元働いていたメーカー以外の荷物を運ぶための冷凍・冷蔵車が3台であった。その後、徐じょに仕事も増やして現在の保有台数は12台(10t平ボディ車1台、10tウィング車1台、7tウィング車1台、3tハコ車1台、8t冷凍冷蔵車1台、7t冷凍冷蔵車1台、4t冷凍冷蔵車4台、3t冷凍冷蔵車2台)である。その他に軽トラックが2台ある(冷凍・冷蔵車1台、幌車1台)。
従業員はドライバーが14名、事務員1名、配車担当2名(専任1名)。保有車両のうち一般車両の4台は、原材料の1次輸送を行っており、港からセンターなどにコンテナ(12Ftが主)を運んでいる。輸送距離は短く、片道6kmと片道14kmである。したがってこれらの車両は多い日には1日3回転ぐらいしている。
一方、冷凍・冷蔵車8台うちの5台(3t車、4t車)は、取引先である物流センターから量販店2社の店舗への配送をしている。沖縄本島は南部、中部、北部に大別されるが、同社が配送を担当しているのは中部と北部にある量販店2社の15店舗だ。沖縄本島全部を一括受託することは能力的には可能だが、荷主が1社だけへの委託はしない方針なので、南部の配送は他社が行っている、という。納品先の量販店は2社だが、出荷するセンターは同じなので、特売日で納品量が多い場合などを除くと、チルド商品を混載で店舗配送している。
量販店の配送車5台のうち2台は1日2回転しているが、3台は1回転である。この他にも港から冷凍・冷蔵商品を引き取って問屋などに納品する仕事や、昼ごろからアイスを配送する仕事などもある。残りの冷凍・冷蔵車3台のうちの2台はフローズン、チルド、ドライなど様ざまな荷物を運ぶ。もう1台は予備車的な位置づけだが、状況によっては稼働させる。
一方、1次配送で運んだコンテナはデバニングや蔵入れ作業なども請け負っている。これらの様ざまな作業と、ドライバーの空き時間とをどのように組み合わせるかが、マルヨシ運輸の収益性を左右する経営の要諦になっている。比較的距離の長い北部などでも帰り荷がない、乗務時間も短い(所定時間が7時間30分で、深夜手当や残業代をつけている)、といった条件の中で、原価を上回る売上をどのように確保するかは、いろいろな運送業務と各種の作業をいかに上手に組み合わせるかにかかっているのである。
配送業務を終えて早く帰社したドライバーは、車両を乗り換えて次の配送をするか、デバニングや蔵入れなどの作業をする。軽トラックは、ドライバーが作業場所に行く移動車でもある。作業は「人数が多い方が早く終わる。するとトラック(1次配送車)の回転が良くなる」(吉里社長)。さらにその作業が終わったら次の現場に軽トラックで移動する。
これらの効率化を図るため、コンテナの納品時間を同社の都合に合わせてもらえれば、料金の割り引きもする。あるいは物流センターなどではドライバーがピッキングを手伝う。待機時間も拘束時間になるのなら、ピッキングを手伝うことで、パートの人件費削減分の半分を支払ってもらった方が良い。
このようにマルヨシ運輸のドライバーは、全員が何の仕事でもできるようになっている。「原価計算は経営上で必要だが、原価を上回る収入を得るには、ドライバーの質、現場の力が重要」(吉崎社長)としている。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>