運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)
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荷台作業中の転落など事故防止に安全ベルトを開発
サンコー(栃木県日光市、阿部光記社長)の車両保有台数は30台。内訳は10t車10台(ウィング車9台、平ボディ1台)、4t車15台(ウィング車10台、ユニック車と保冷車が5台)、2t車5台(ユニック車3台、平ボディ車2台)で、運送の他にも荷主の工場内で10名が構内作業を行っている。売上比率は運送が80%、構内作業が20%といった割合である。
このうちユニック車は電波塔用の産業用バッテリー、ウィング車は半導体やリチウムバッテリーなどに使用される銅箔(ロール状)、保冷車はチルド食品などを運んでいる。銅箔などの荷物では、積込み時に荷主側のフォークマンが積んでくれる。また、納品先もほとんどが大手メーカーの工場なので、80%ぐらいは先方のフォークマンがいて荷卸をしてくれる。したがってドライバーが荷卸作業をすることはほとんどなく、フォークマンを誘導するのが、荷役作業中の役割である。
だが、荷台の上でフォークマンを誘導している時に落下したりする事故も時には発生するという。同社ではこれまで労災事故は1件も発生していない。しかし、他の事業者で事故が起きたケースなどもあり、事故をゼロにしたいというのが荷主の強い願いであった。
ちなみに厚生労働省のデータなどによると、陸上貨物運送事業における死亡災害事故では交通事故が最も多く、挟まれ・巻き込まれ、墜落・転落の順になっている。だが死傷災害事故では、墜落・転落・転倒が一番多い。交通事故の場合は死亡に至る比率が高いが、事故件数では墜落・転落・転倒事故が多いのである。
したがって、労災事故を減らすためには荷台からの転落などを防ぐことが重要である。そこで荷役中の転落などの事故を防止するために、荷主も様ざまな対策を考えていた。たとえばフェンスなどを設けよう、といった案もでたという。しかし、設備の大きさやコストなどの問題もある。
そのため荷主も事業者も対応策がなく困っていた。サンコーが荷主からアイディアを求められたのは2009年ごろだったが、具体的な妙案は浮かばず2年間ぐらいは様ざまな対策を考えながら時間が過ぎた。アイディアが浮かんだのはちょっとしたキッカケだった。
「建設工事現場から発想して、トラックの荷役に応用できないか」(阿部社長)と考えたのが安全ベルトである。早速、荷主に相談した結果、荷主側もやってみようかと話が進みだしたのである。荷主側の協力も得ながら具体的に開発を進めた。
サンコーが開発した転落防止策は、安全ベルトである。ウィング車の場合には、荷台前部の鉄板部分と、荷台後部に1カ所ずつ穴をあけ、その間にワイヤーを掛ける。ドライバーは荷役時に腰に安全ベルトを巻いて、安全ベルトとセンター・ワイヤーをつなぐという方式である。穴をあけるに際しては、ボディの構造や強度などに問題がないかどうかを確認した。
この案を荷主に提案したのは2011年4月で、翌月には治具部材の選定や取り付け場所の試案、取り付けの簡素化などを検討して試験的に導入した。最初はワイヤーでなく溶接で鉄筋のようなものを固定することも考えたが、天井ギリギリまで荷物を積み込む場合もあり、状況に応じてドライバーがすぐに外すこともできるようにした。コストもワイヤー・ロープの方が安い。
平ボディ車は荷台前部のあおりの部分と、荷台後方に設けたスタンションの間にセンター・ロープを張るという方法を採っている。このセンター・ロープは基本的には荷台のシート掛けにも利用している。平ボディ車で積み荷の高さが高い時にはどうするかという課題については、スタンションの背丈が段階的に上がって調整できるように工夫したり、新しく購入する車両では前部のあおりも高くしてもらうようにしたり、シート掛けも後ろから張ったり外したりするといったことを現在、検討中という。
本格的な実験は2011年8月からスタートした。現在でも改良点などを検証中だが、2012年4月までには全車両に導入している。安全ベルト導入のコストは安い。10t車でも一式で1万1900円である(穴開けなどは自社で)。安全ベルトの導入に際しては、安全会議などを通してドライバーの人たちに理解を求めたが、最初は消極的だったようだ。納品先の作業者の人たちからは冷やかしもあったという。だが、納品先の管理者の人たちは違った。安全ベルトに注目し「何をしているのか」と聞いてくる人もいた。「転落防止のため」と答えると、「写真を撮らせてくれ」といって写真を撮る人もあり、ドライバーの認識も違ってきた。
現在では、荷主が他の輸送協力会社に対しても安全ベルトの装置を導入していないトラックへの荷物の積込みはしないという方針を示したという。サンコーでは「セーフティー・ロープ(命綱)」と名前をつけて特許申請なども検討している。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>