運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第41回】 岡野運送株式会社(埼玉県新座市)

「1アワー」という発想に基づく事業経営



 改善基準告示によりドライバーの拘束時間などの順守が厳しく求められている。また改正労基法で所定外労働に対する賃金の割増率も高くなった。このような経営条件の下では、昔からトラック運送業界で広く採用されていた歩合制賃金は、もはや現状に合わない賃金体系になっている。賃金だけではなく様ざまなコストの把握に「時間」の概念がなければ健全な経営はできない、といっても良いだろう。

 これは同時に、運賃・料金にも時間の概念が必要であることを意味している。運賃が高いか安いかは、単に金額自体だけではなく時間単価に換算して判断しなければならない。つまり、運賃・料金とコスト管理や賃金体系は一体なのである。運賃なら運賃、賃金なら賃金、あるいは車両費なら車両費と、それぞれを個別に考えていては根本的な解決にはならない。経営判断の基準になる重要なキーワードは「時間」という概念なのである。

 このような時間を基本的な単位とした経営を、いまから10年以上も前から導入している事業者がいる。この事業者は岡野運送(本社・埼玉県新座市、岡野元昭代表取締役会長・岡野秀昭代表取締役社長)である。同社は本社営業所の他に埼玉県内では所沢営業所、日高営業所、入間営業所、三郷営業所、県外では栃木県に栃木営業所があり、貨物自動車運送事業、自動車利用運送事業、特定労働者派遣事業などを行っている。保有車両数は約90台(大型車は少なく2t車、4t車が主体)で、食品配送に特化した事業展開をしており、保有車両の半分以上は3温度帯管理配送が可能である。取り扱い商品の内訳は、冷凍・冷蔵食品が70%、ドライ食品が30%となっている。このようななかで、エクセルで時間管理をする方法を導入したのは10年以上も前になる。「物事を複雑に考えず、単純化して考えればいい」(岡野元昭会長)というところに発想の原点があるようだ。

 たとえば拘束時間などについても、基本的な考え方は預金残高と同じ。月初めにいくら預金があるか。それを少しずつ引き出して毎日の生活費に充てると、引き出すたびに預金残高は減っていく。月の上旬や中旬に使いきってしまえば月末まで生活ができなくなる。そこで残高を見ながら1カ月間生活できるように支出をコントロールする。

 このような発想から、月初めに1カ月間の拘束時間を決めて入力しておく。そして毎日、使用した時間を入力すると残りの時間が自動的に出るようにしている。1人ひとりの残りの時間を見ながら、仕事の割り振りなど労働時間を調整したり管理するというシステムだ。やむを得ない場合には、生活費(給料)の前借と同じで、翌月の時間を前借するようなケースもある。ドライバーの賃金も時間制で、法令で定められた所定外割増も支払う。倉庫で働く従業員も同様である。法定福利費や残業代その他も自動的に算出できるようになっている。

 同社では、このように総て1時間を基準にした「1アワー」という考え方を10年以上も前から導入してきた。これは人件費だけではなく車両費でも同じで、たとえば1000万円の車を500万円にするという発想である。つまり車両の1日の稼働時間を延ばせるような荷物と人と車の組み合わせができれば、1時間当たりの車両費を安くすることができる。燃料費に関しては時間ではなく距離を基準にしているが、燃費も何t車はq/リットルと基準を決めているので、その日の走行距離さえ入力すれば、基準燃費×走行距離×燃料単価ですぐに計算できできるようになっている。このようにデイリーで原価率が分かるようにしているため、原価を基に適正な運賃も判断できる。たとえば人件費が赤字の日もある。4時間の仕事であっても人件費は1日分を見なければならないからだ。そこで4時間分の運賃であっても、人件費分としてさらに何千円かを上乗せするように取引先と交渉する。

 人手不足についても、「計数管理をしないで人手が足りないとか、余っているとか言ってもダメ」(岡野会長)という。先述のように同社では1カ月の拘束時間などを法令に定められた範囲で決めるが、総時間数がレッドラインに近づいているかなどを本部でチェックし、適正人員配置などを決める。同じ営業所内でも残りの時間がレッドラインに近づいている人もいれば、余裕のある人もいるような場合、勤務ローテーションを替えて対応する。これは営業所間においても同じである。

 したがって同じ営業所内で違った取引先の仕事をすることもあれば、営業所間で月のうち何日間かはA営業所、その他はB営業所といった勤務のドライバーもいる。そのためには様ざまな取引先の仕事ができなければならない。そこで同社では、このような異動を「スキルアップ異動」と呼んでいる。車両についても同様に時間単位でコスト管理し、余剰車両などの判断も一定の基準で判断している。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
<写真(上・下)提供:岡野運送株式会社>