運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第43回】 株式会社須賀川東部運送(福島県須賀川市)

多機能倉庫(5温度帯)と共同輸配送を展開



 物流においてはロケーションが大きなファクターの一つである。全国ネットで事業を行っているような事業者は別としても、一定の地域を基盤にサービス展開している中小事業者においては、限られた市場規模の中でどのような事業展開をするかが重要となる。そのような中で、5温度帯の多機能倉庫と共同輸配送で独自の事業展開をしているのが須賀川東部運送(本社・福島県須賀川市、吉田雅弘社長)である。

 須賀川市は福島県の中通りにあり、同県の「商業県都」ともいわれる郡山市に近く、また、中通りはもとより、浜通りや会津へのアクセスも良い。このような条件の下で、同社は独自のサービス・システムを構築してきた。須賀川東部運送の歴史は古く、そもそもは1934年(昭和9年)に泉郷通運として設立された。その後、戦時統合などを経て、日本通運の地元営業所から通運委託業務を受託するようになった1963年(昭和38年)を、現在の創業としている。

 設立は1973年(昭和48年)で農産物や家畜飼料など地元の荷物を取り扱うとともに、化学製品や自動車部品関連など近隣の工場から出荷される荷物の取り扱いによって経営のベースを築いてきた。その後、冷凍冷蔵食品分野にも進出し、食品関係の取扱比率が徐じょに高まりつつある。本社地区の他に矢吹共同物流センター、鏡石倉庫があり倉庫面積(荷捌場も含む)の合計は1万8480平方メートル。さらに本社地区に1400平方メートルの冷凍冷蔵倉庫(流通加工場や荷捌場ふくむ)を近々オープンする。保有車両数は78台(大型ウィング車35台、4tウィング車5台、大型冷凍冷蔵車13台、4t冷凍冷蔵車25台)で、従業員数は130人。売上高は14年3月期で22億3000万円(取材時点では見通し)である。売上比率は自動車部品が30%、一般貨物が35%(フィルムや樹脂関係15%、地元農産物・機械関係・雑貨などが20%)、冷凍冷蔵食品が35%の割合になっている。

 自動車部品はトラック用のブレーキなどが主で、各トラックメーカーの国内工場や海外向けの物流を行っている。一般貨物にはフィルムや樹脂、地元農産物、地元の機械メーカーから出荷される荷物、一般雑貨などがある。フィルムは昔からの取引先で、原料フィルムを倉庫で預かり、製品フィルムの輸送も行っている。製品のフィルムは包装材料として使用されたりするもので、食品系や工業系の納品先に輸送している。これら自動車部品や一般貨物では、ドライウィング大型車で関東、仙台間の輸送を行っている。

 一方、冷凍冷蔵食品は福島県内の共同配送と京浜地区と仙台間、福島と東京間の輸送に大別できる。4t冷凍冷蔵車で県内の共同配送をおこなっており、大手の冷凍冷蔵運送事業者数社の荷物を積合せ配送している。サービス品質は当然だが、仲通り、浜通り、会津へのアクセスに優れているので、多数の大手事業者が福島県内の配送を委託しているようだ。

 同社の特徴の一つが暖房、常温、定温、冷蔵、冷凍の5温度帯の多機能倉庫である。これは「市場が小さいので、大きな倉庫を使ってもらえる荷主がいない」(吉田雅弘社長)。そこで「全体としては大きな倉庫だが、温度帯で区分していった」(同)のである。経営的には投資対効果を高めることになる。たとえば、ある荷主との契約が解消されたら、洗浄などをして必要な温度管理設備などを整え、新たな荷主のニーズに合ったスペースにする。これは荷主分散でありリスク分散でもある。つまり、温度帯の異なる商品の荷主を一つの倉庫に「積合せ」するという考え方だ。たとえば暖房では、常温保管でも品質に問題はないが、工場で一定の温度に高めてから生産ラインに乗せる原材料などを、倉庫内で指定温度に上げてから出荷する。従来は工場内で行われた作業工程を、倉庫内で行うように外注化を促したのである。その分、荷主は工場内の作業効率が上がることになる。

 運送面でも多機能輸配送システムを構築している。冷凍冷蔵では複数の取引先の食品や食材を、ストックとスルーで県内の外食チェーンの店舗や、量販店の物流センターなどに共同配送している。また、県内で生産される食品の集荷も行っている。ロットのまとまったものだけでなく小口の冷凍冷蔵商品も「フレッシュハート便」として、提携事業者のネットワークも含めて全国サービスが可能だ。一般貨物ではロットのまとまった荷物は貸切形態で運ぶが、多機能輸配送システムで小口輸配送もおこなっている。小口といっても中ロットよりも少し小さく、路線便の荷物よりも少し大きな荷物が対象である。基本的には1カ所から出荷されて広域の多カ所に配送されるBtoBの荷物である。このように様ざまな運送システムを組み合わせた多機能輸配送サービスを提供している。さらに同社は保税蔵置場(常温・定温、冷凍・冷蔵合わせて990平方メートル)もあり、国際物流支援も行っている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:株式会社須賀川東部運送)