運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第55回】 丸善海陸運輸株式会社(福岡県久留米市)

九州〜首都圏の野菜輸送に新システム



 改善基準告示の順守はトラック運送業界にとって大きな課題だ。とくに長距離輸送ではなかなか難しい。一方、生鮮野菜などではリードタイムという制約がある。さらに荷主にとってコスト問題は避けて通れない。このような中で、生産者、荷受け側、運送事業者の3者が連携して新たな輸送システムを構築し、昨年11月1日からスタートしたのが丸善海陸運輸(本社・福岡県久留米市、古賀大輔社長)を中核とする丸善グループ(古賀大代表)。

 同社はパルシステム生活協同組合連合会、らでいっしゅぼーや、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、大地を守る会の4企業(団体)、地元の生産者と「新しい九州物流構築協議会」をつくり、九州(福岡)〜東京の輸送時間を最大で3時間30分短縮し、改善基準告示もクリアする輸送システムを構築した。九州各地の農家が有機栽培した野菜を集荷し、食品宅配を行っている4社(団体)の東京や首都圏の物流センターなどに納品する。

 丸善グループは1963年に善導寺運送として一般区域貨物自動車運送免許を取得してスタートした。1997年には丸善海陸運輸に社名を変更。現在では丸善海陸運輸を中核に関連会社26社とマルゼングループ協組で丸善グループを構成している。グループ売上高は約200億円(2014年3月期)、社員数1019人(2015年4月現在)、同じく4月時点の保有車両数は929台(うちシャーシ157台)である。一般貨物運送の他、特別積合せ事業、第一種貨物利用運送、倉庫業、車両整備および中古車販売なども行っている。

 運送事業のネットワークは、九州各地の他に岡山県、兵庫県、神奈川県、東京都、千葉県、埼玉県、茨城県、福島県、新潟県などに営業所や別会社を持っている。取扱荷物は青果物、水産物、冷凍・冷蔵・常温食品、日用雑貨、医療器具、その他である。創業当時から、農協を中心とした仕事をしてきた。しかし、最近では農産物が減少傾向にある。


 農産物生産者の課題の一つは物流である。夜間の長距離輸送のため事業者が撤退したり、小ロットの荷物では運賃が上昇している。また、食品の宅配などを行っている買い手側も課題を抱えていた。関東に多数の顧客を持って食品宅配を行っている企業は、もともとは野菜を東北から買っていたが、福島第一原発事故などから買い付けを九州にシフトしてきた。だが、九州から関東までは輸送距離が長い。輸送中にコンプライアンスに起因して事故などを惹起したら自社のブランドイメージにも関わってくる。さらに運送事業者では労働時間短縮などが喫緊の課題になっている。このように生産者、買い付け側、輸送事業者と、三者三様に課題を抱えていたのである。

 そのようなおり、昨年3月に長崎の生産者団体の経営者の子息の結婚式で、丸善グループの古賀大代表、パルシステム、らでいっしゅぼーや、生協連、大地を守る会の関係者が顔を合わせたのを機に、話し合いが始まった。



 昨年3月から検討を進め、昨年9月には呼称を「新しい九州物流構築協議会」とした。そして昨年11月から新輸送システムをスタートしたのである。九州全域を8ブロックにし、丸善海陸運輸が2t車や4t車で集荷した野菜を各ブロックに集約する。集荷時間はブロックごとに設定している。ブロックで大型車(一部トレーラ)に仕立てて順次、兵庫県の西宮ターミナルに輸送する。幹線輸送車の出発時間もブロックによって異なる。

 また、買い手4社(団体)の荷物だけでなく、従来からの荷物と積み合わせて運ぶ。西宮ターミナルには翌日1:30に到着し、納品先ごとに積み替えをする。これらの作業が6:30に完了。ドライバーが交代して出発し、東京や首都圏には14:00〜15:00に到着するという仕組みだ。納品先は買い手側の物流センターだったり、あるいは関東でさらに何カ所かに分けて届けるような荷物なら提携先の転送事業者に納品する。


 従来は九州(福岡)から東京まで1人のドライバーで運んでいた。4時間走行して30分の休憩を取りながら、滋賀近辺で8時間の休息が必要だったため、法令順守ギリギリの最短時間でも27時間30分を要した。新しい運行では九州(福岡)から乗務したドライバーは西宮ターミナルまでで、同ターミナルから東京までは別のドライバーで運ぶ。西宮ターミナルで目的地別の積み替えなどに5時間を想定しても、輸送時間は24時間で可能になる。最大で3時間30分の輸送時間の短縮である。また、西宮でドライバーが交代するので改善基準告示などもクリアできる。

 同社では従来からの帰り荷があるので問題はないが、個建ての加工食品で物流に課題を持っているような荷物を対象に、下りも同システムによる荷物の開拓を考えている。事業者の悩みは「売り手、買い手、運び手の3者が一体になって取り組まないと解決できない」(マルゼングループ協組・堺敏生常務理事)。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>