運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第56回】 旭新運送株式会社(茨城県神栖市)

ドライバーは最終営業マンなので全員が名刺を持参



 EBO(エンプロイー・バイアウト=従業員が株式を買収して経営権をもつ)でスタートしてから今月で15周年を迎えたのが旭新運送(本社・茨城県神栖市、古木卓社長)。EBOというトラック運送事業者は珍しい。

 旭新運送のルーツをたどると、情報・電子化学品、機能化学品、基礎化学品、食品などの大手メーカーの子会社として1962年に設立された。物流子会社としてはかなり早期の設立といえるが、物流だけではなく工事、構内作業なども行っていた。その後、親会社の構造改革の一環で2000年2月に化学品、食品のローリー輸送専門会社としてEBOによって旭新運送が設立された。運送事業許可の取得などから実際の業務開始は2000年6月からなので、今年6月で業務開始から15周年になる。旭新運送を設立した当時の株主は、それまで働いていた人たち5人で、資本金は1000万円だった。現在は株主が10人で資本金は2200万円になっている。

 EBOで「自分たちの会社」になってどのように変化したのだろうか。設立当時からのメンバーであり前社長でもある関根武雄取締役相談役は、「甘えがなくなり事故も減少した。また、トラック運送業界内の競争に勝ち残って行ける会社になるんだということで、以前より賃金は下がったが全員のモチベーションは上がった」という。

 現在は本社(鹿島営業所)、千葉営業所、富士営業所、三重営業所があり、従業員数は88名、保有車両数105台、売上高13億円の規模。「今年3月期の売上高は前期比ほぼ横ばいながら、昨年度下期には燃料価格がやや下がったことや、車両のロングライフ化など」(古木卓社長)によって利益は増加したという。輸送品目は約70%が化学品で30%が食品(食油品など)である。基本的には荷主の工場で積み込み、納入先は最終製品メーカーの工場や、荷主の工場間横持ち輸送もある。長距離輸送もあり輸送先は全国となっている。


 荷物の特性から品質管理がシビアで「コンタミネーション(混成や汚染など)が厳しくなっている」(古木社長)。タンク内壁のコーティングも製品によって違うため、「タンクは脱着式にしている」(古木社長)という。帰り荷の確保も難しいため車両の回転率向上などに努めている。

 もう一つの課題はドライバーの労働時間である。企業の社会的責任はもちろん、安全面からもコンプライアンスを徹底しなければならない。そこで北海道や九州といった長距離運行ではフェリーを利用している。また、1人乗務の長距離運行では、出荷時間の前倒しを荷主に協力要請したり、どうしても2人乗務にしなければならない運行では、人件費を2人分支払ってもらうようなケースもあるという。

 同社は中継輸送の導入も早かった。三重営業所から鹿島に引き取りにきた車両で兵庫県の明石工場まで運ぶ場合、三重営業所でドライバーが交代するという方式をすでに10年以上も前から行っている。



 社内教育にも力を入れている。同社の「新人運転者教育課程」では教育項目(教育内容)、実施期間、課程数(時間)などが一覧になっている。各項目ごとに教育の実施期間(入社時即あるいは見習期間中)、課程数(時間単位あるいは習熟迄)、必須科目かどうかの区分、教育担当者、教育方法(机上かOJTか)などを決めている。さらに新人は試用期間中に社内試験がある。もちろん適正診断も行う。さらに社内講習や乗務教育などを受けての感想文「新人研修を終えて」も提出しなければならない。

 全ドライバーを対象にした「安全推進計画」も年間を通したテーマやスケジュールが組まれ、月ごとにトップ点検、定例リーダー会議、添乗指導、構内パトロール、車両点検などの予定が示されている。トップ点検では社長が「年に1回は全ドライバー1人ひとりと面談している」(古木社長)。添乗指導も、安全管理室長を中心にして計画的に実施している。


 さらに「昨年度から始めたのがドライバー同士による添乗指導で、これはベテランから若手・新人が学ぶ」(古木社長)という試みだ。また、昨年4月からは現場力の向上を目指して小集団活動も始めた。

 同社には納品先ごとの「ユーザーカルテ」があり、ドライバーはユーザーカルテで納品先の構内構造や作業条件などを確認して出発する。このユーザーカルテはマニュアルに則った形で作成され、カルテの情報は荷主と共有している。

 旭新運送ではEBOという会社の成り立ちもあり「全員が自分の会社だとの思い」(関根相談役)で働くような経営を心掛けている。ドライバー全員が名刺を持っていることもその一つだ。「責任意識と、誇りを持って仕事をやってもらいたいという思い。また、ドライバーは最終営業マンであるという意思を形にするため」(関根相談役)に、11年前から全ドライバーが名刺を持つようにしたという。BtoBの一般事業者では稀有なケースといえる。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>