運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第58回】 株式会社萠運輸(北海道苫小牧市)

リサイクル事業でカンボジア進出



 最近は中小トラック運送事業者でもアジアに進出するケースがでてきた。そのほとんどは主要荷主の海外展開に伴って進出するパターンが多い。そのような中で、引越事業の延長として独自にカンボジアにリサイクルショップ(現地法人)をオープンしたのが萠運輸(本社・北海道苫小牧市、近澤洋太社長)。

 同社は先代社長が1988年に赤帽の萠運送を開業したのがスタートである。1999年に有限会社萠運輸を設立し、同時に一般貨物運送事業に参入した。そして2007年に株式会社に組織変更している。さらに2010年には札幌営業所を開設した。現在は社員数45人で、保有車両数は軽トラックから6t車まで24台。事業内容は一般貨物運送、引越事業、倉庫、リサイクル事業、一般労働者派遣事業などである。年商は3億円(2015年9月期予想)で、売上構成では一般貨物運送が全体の90%を占めている

 現在の経営基盤となっているのは一般貨物運送である。2t車、4t車はほとんどチャーターで、食品(冷蔵・冷凍)や雑貨などを運んでいる。一般貨物や食品運送などは倉庫で保管して出荷するような業務形態もあるが、しかし、大手同業者を介しての仕事が主というのが実態だ。また、将来的には北海道内の市場規模縮小の影響も避けることができない。
 
 そのような中で、同社では「将来は倉庫と海外に力を入れていく」(近澤洋太社長)方針だ。引越事業の延長としてリサイクル品を回収し、一時的に倉庫で保管して一定サイクルで海外に輸出し、現地のリサイクルショップで販売するというビジネスモデルだ。これなら自社の独自のサービスとして展開できる。同社が引越事業を始めたのはずっと以前である。貨物軽自動車運送業の当時から引越事業は行っていた。現在は「トマト引越便」の商標でサービス展開をしている(2006年に「トマト引越便」を商標登録)。


 他の引越事業者と同じように、同社も引越事業では以前から不用品をゴミとして処分していた。しかし、まだ使用できるような物がゴミとして処分されているのが実態だ。そこで何か有効活用する良い方法はないかと考えていた。そのようなおり「2013年12月にASEANに送って再販売しないかというセミナーに参加した」(近澤社長)。これがキッカケとなり、翌2014年2月に「プノンペンを視察してカンボジアへの進出を決めた」(同)のである。
 なぜ、カンボジアなのか? セミナーの主催者がカンボジアへの進出を前提にしていたからだという。そして「資本出資、現地法人設立、通関などをサポートしてくれる」(近澤社長)というものだった。近澤社長の話によると、カンボジアの場合には資本金が1200米ドル以上なら外資が単独でも会社を設立できる。その他、セミナーの主催者があらゆる面でサポートしてくれるので、現地を視察して進出を即断したという。



 リサイクルショップを開設したのは首都プノンペンから約15qほど離れたカンダル州の州都タクマウである。店舗は約660u(2フロアー)で、社名はモエ・トランスポート・カンパニー・ホッカイドー(店名はリサイクルショップしろいとり)。従業員は全員カンボジア人で、日本のリサイクルショップで働いた経験があり、日本語を話せる男性をマネージャーとして採用。現在スタッフは9人である。

 昨年7月5日にプレオープンした時点では店舗が完全に仕上がっておらず「販売しながら工事を進めるような状態だった」(神保英年札幌支店長)。店舗が完成してグランドオープンしたのは2014年10月1日から。現地スタッフに任せるといっても最初は本社から人が行って采配を振るわなければならない。「昨年は月の半分はカンボジアに行っているような状態だった」(近澤社長)。しかし、日本のリサイクル品は好評で、国境が近いためにベトナムからも買いに来るという。


 萠運輸では引越営業にも変化が生じている。「今までは引越の時に要らなくなった物を有料で引き取っていた」(神保所長)。しかし現在では、リサイクルできる物は「有効活用しましょうと、トークの幅が拡がってきた」(同)。また、リサイクル品はカンボジア特産のコショウと交換するようにしている。処分する物は有料になるが、全部を処分していた当時と比べれば「引き取ってきた物に手間をかけなくて良くなっている」(同)。引越営業では、ほとんどが相見積りになる。相見積りの結果、引越の仕事は他社に取られても、現在ではリサイクル品だけを引き取るというケースもある。だが、「それなら引越もまとめて当社に頼むというお客さんもいるので、営業の幅が拡がった」(神保所長)のである。

 現在では40フィートコンテナで月3本ぐらいをカンボジアに送っている。さらにカンボジアの従業員と日本の従業員の交流も進め、従業員の国際感覚の育成にも役立てている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:萠運輸)