運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2015年9月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

バックナンバー一覧はこちら

【第59回】 サンワ重搬株式会社(秋田県秋田市)

社員満足度を高め社員が希望の持てる企業に



 建設関連の輸送需要は景気に左右されやすい。また、人口減少が続く地方では、長期的な需要の減少も避けられない。さらに雪国の事業者には季節波動の問題もある。このような不利な諸条件を克服し、社員が将来にわたる生活設計を描けるような経営にしなければならないという考えから、社員満足度の向上を図ろうとしているのがサンワ重搬(本社・秋田市、石川勲社長)である。

 同社の社歴は複雑なので過去の経緯は省略するが、石川勲氏が代表取締役に就任したのは1992年である。1996年には三和運輸から現社名に商号変更し、2004年には現所在地に移転している。同時に「創造挑戦」という社是を作成し、会社の方向性を文書として見える化した。それ以降は、常に社是に則った経営を貫いている。現所在地に移転したころの経営は、景気に左右され季節波動の大きな経営だった。同社では社是に沿って、そのような経営からの脱却を徐じょに進めている。

 当時は、建設重機の運搬・据付や建設資材(足場)などの運送が売り上げの90%以上を占めていた。仕事の関係上、現場での据付作業などができる従業員も揃っている。だが、ほとんどがスポット的な仕事で不確定な要素をもっていた。さらに仕事のほとんどが秋田県内であり、冬場の降雪期には仕事量が極端に減る。それでも2007年の秋田国体を前にした数年間は国体特需によって一時的に仕事量が増えたこともある。だが国体が終われば需要が大きく落ち込むのは目に見えている。

 そこで同社は、まだ特需で忙しかった2006年10月に重量事業部を新設し、新たな分野での顧客開拓を始めた。箱モノの建設需要は季節波動が大きいが“箱の中”なら冬場でもコンスタントに仕事を確保できるからだ。しかも、ユニック車や搬入・設置などのノウハウを活かすこともできる。だが、そのためには汎用性のある多目的倉庫が必要になるため、2007年7月から倉庫の建設を始めた。


 これと並行して荷主開拓を進め、冷凍ショーケース製造会社との新規取引が始まった。最初は移設の輸送だけだったが、取引開始とほぼ同時に付帯工事も請けることになった。すると非効率的な仕組みがすぐに分かった。ショーケース本体、冷凍機、配管材料など付属品、作業・養生の資材などバラバラに現場に納入されていたからだ。そのため現場の作業段取りに支障がでたり、レイアウトの変更などムダなコストが多かった。

 そこで冷凍ショーケース製作会社に効率化提案をした。冷凍ショーケースの本体や冷凍機関係、配管材料などを自社の倉庫に引き取り、倉庫内で一部を組み立てて店舗などの現場に輸送して搬入・据付までをトータルで受託するという業務である。さらに同社では、古い冷凍ショーケースを撤去して新しい冷凍ショーケースに入れ替えるような既存店舗のケースでは、古い冷凍ショーケースを引き取ってきて倉庫でメンテナンスも行うようにした。



 この機械器具設置工事は一定サイクルで代替え需要もあり、現在では売上の約20%を占めるまでになった。このように経営体質の改善を進めてきたが2、3年前から社員満足度の向上が必要と感じるようになってきた。東日本大震災の後、秋田でも人が集まらなくなってきた。そこで「従来の人事政策ではダメ。人材を確保するには社員の満足度を高めなければならない」(石川社長)。

 同社の現在の保有車両数は35台(本社27台、仙台営業所8台)。トレーラによる重機輸送からは撤退し、取引先の見直しも含めユニック車を増やしている。経営資源の集約化と、得意分野への特化戦略である。同社の従業員は55人で各種技能の有資格者が多いことも強みの一つだ。また、サンワ重搬のユニークな点は、社長以外に社員株主が8人いることである。株主は役員だけではなく、8人の社員株主のうち5人はドライバーである。株主なので当然だが経営内容もオープンにしている。


 社員満足度の向上には賃金アップと作業環境改善が必要だ。作業環境改善では経営者が現場を知るために「できるだけ現場に顔をだす」(石川社長)ようにし、実態を把握したうえで「安全などについても、現状がこのようになっているから、こうしてくれ」(同)と話す。現場の実態を踏まえた具体的な指導なら受け止め方も違ってくる。また2年前から「毎年、給料を上げるようにしている。ボーナスも毎回、前回より少しでも多く支給するようにした」(同)。これは「3年間で運賃を15%値上げしてきた」(同)ために原資が確保できたからでもある。  

 だが「運賃や料金面で追い風がいつまで続くか。現在のような賃上げをいかに継続できるか」(同)が問題だ。そこで同社では「創造挑戦」という社是に基づき、5年ごとの計画を立てて取り組んでいる。運賃値上げの見通しや、採算性の低い荷主からの撤退など取引先の見直しなども含めて、毎年、5年後を目安とした計画である。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>