運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第62回】 沼尻産業株式会社(茨城県つくば市)

「ささげ(撮影・採寸・原稿)サービス」を開始



 ネット通販のリードタイム短縮や有店舗小売りのオムニチャネル化をめぐってラストマイルは非常に混とんとしている。そのような状況にあっても、ネット通販物流が今後の有望市場であることには変わりなく、参入を図ろうとしている物流事業者は多い。だが、かなり先行しているEC物流事業者もあり、後発でEC物流に参入するのは簡単ではない。

 有力な既存事業者は取扱個数も多く、宅配便事業者との契約でもかなり廉価な料金水準になっている。後発事業者の宅配便料金が、先行事業者にとってはクライアントとの契約料金ぐらいになっているものと推測される。つまり、宅配便への外部委託料金を含むフルフィルメント・サービスのコストが、後発事業者が宅配便事業者に委託する宅配料金と同じぐらい、ということである。これでは後発でEC物流に参入しても採算が取れない。そこで、後発事業者はサービスで何らかの差別化を図らなければ競争できないことになる。

 このようなEC物流市場の現状を踏まえて、沼尻産業(本社・茨城県つくば市、沼尻年正社長)は10月15日から「ECささげ物流サービス」を開始した。「ささげ」とは「撮影・採寸・原稿」の意味。同社は1962年の創業で1964年に法人設立している。現在は貨物自動車運送業、倉庫業、不動産業、利用運送業などを行っている。主要な取扱い品目は、精密機器、アパレル、食品、化粧品、住宅建材、医療、生活用品その他で、引越サービス(キャメル便)も行っている。

 主なビジネスモデルは物流センターを核とした店舗配送。倉庫面積は約16万u(20拠点)で、首都圏の約300店舗にデリバリーしている。その中のアパレル関係のある荷主と昨年末ごろからECサイトの立ち上げに伴うEC物流に関するプロジェクトを進めてきた。物流センター運営と店舗配送などBtoBの業務を行っていたが、EC物流も沼尻産業が受託することになり、今年11月からスタートした。


 このようにBtoBの既存取引先からのEC物流業務受託の準備と並行して、沼尻産業では独自サービスとしてEC物流分野に今年4月から参入した。だが、ネット通販会社への営業開拓を進める中で普通のEC物流サービスだけでは新規契約が難しいことが分かってきた。「当社はEC物流では後発なので、結局、料金の勝負になってしまう。それでは採算が厳しく、先行している事業者には対抗できない。そこでサービス内容での差別化を図って勝負することにした」(真中清システム部長)のだという。

 「ささげ」などのサービスを含めたフルフィルメントの業務提供で差別化を図るというもの。真中部長によると「将来的には、ささげなどのサービスもやろうと考えていた」が、「普通のEC物流だけでは先行している既存事業者との料金差などが歴然としているために、予定を前倒しして他社との差別化を図り、付加価値の高いサービスとしてささげ物流を始めた」ということのようだ。



 同社のECささげ物流サービスは、@倉庫内のスタジオでささげサービス、A実店舗在庫とECサイト在庫を統合管理できるオムニチャネル型倉庫、Bクラウド型受注管理・ささげ管理・倉庫管理システム(WMS)、C差別化できるギフト対応、D同梱対応によるリピート率アップ、E後払い対応が即可能などである。

 倉庫内スタジオにおけるささげサービスでは、撮影、採寸、原稿などの工程があるが、写真撮影のスタジオの設備を備えているのは現在のところ1カ所(1ブース)で、撮影できるのは1日40カットぐらい。撮影カメラマンは現状では外部委託しているが、社内でもできるように人材を育成していく方針だ。アパレルのネット通信販売会社の場合には撮影枚数も多く、またシーズンごとに商品が入れ替わるため、撮影のニーズは比較的多くなるものと予想している。クライアント数が増えてくれば、さらに体制を増強する予定という。アパレルでは採寸も必要な作業工程だ。


 情報システムは受注管理などだけではなく、ささげの作業工程の進捗状況をパソコンでクライアントがリアルで確認することができる。撮影した写真データを見て、原稿はクライアントが入力するのが一般的なケースになる。また、クライアントのサイトだけではなく、自動的に外部サイト用の商品画像や商品情報も作成できるシステムである。

 差別化できるギフト対応では、各種のギフトごとのラッピング・パターンなどに対応できる。同梱対応でも、化粧品や健康食品などリピート商品では顧客管理や履歴管理システムによって、たとえば推奨する商品や新商品のチラシを入れたり、何回目のオーダーにはプレゼント商品を同梱するなど、リピート率のアップを図るサービスも行う。 

 さらに本格的なレコメンド(関連商品推奨)・サービスについても「現在、検討している」(真中部長)。購入者の後払い対応に関しても、同社のサービスなら即時に後払い請求書の同梱が可能としている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:沼尻産業)