運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2016年3月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第65回】 丸憲運輸有限会社(青森県上北郡)

ウイング車で原木輸送を可能にし生産性向上



 地方では新規荷主の開拓がなかなか難しい。荷主企業の数が限られるし、どの荷主にも長年にわたって取引している事業者がいる。このような中で事業を拡大するにはどうしたら良いか。地元の事業者とバッティングしないで、しかも荷主が困っている仕事を請ける。さらに、可能な限り設備投資をしないで、既存の経営資源(トラック)の稼働率を上げられる仕事なら収益性を向上することができる。

 そこで丸憲運輸(青森県上北郡東北町、原田憲一社長)では、ウイング車を少し改造するだけで、今まで取り扱ったことのなかった原木輸送を可能にした。原木輸送はグラップル搭載車やクレーン搭載車などの専用車両が必要とされている。しかし、それでは新車を導入しなければならず、しかも片荷輸送で採算が取れない。そこで同社では、ウイング車に取り外し可能なスタンションを設けることで原木輸送を可能にした。それにより往復実車を実現し、収益性を向上したのである

 丸憲運輸は1977年の設立で、現在の保有車両数は25台(2t車4台、4t車8台、大型車13台)、従業員数は43人である。製紙工場の構内作業なども行っており、売上比率は運送部門が約80%、構内作業などが約20%となっている。3年ぐらい前までは関東方面への長距離輸送も行っていたが、長距離輸送からは徐じょに撤退する方針を打ち出した。コンプライアンスとともに収益性を重視する経営への転換である。だが同時に、売上の拡大も図らなければならない。このようなことから新規開拓は大きな課題だった。

 青森発の荷物は農業、林業、水産業など第1次産業が多い。このうち農産物や海産物は一般的な冷凍車、冷蔵車、ドライの箱車やウイング車などで運ぶことができる。だが、林業関係の荷物は専用車が必要で、ほとんどが片荷輸送のため採算をとるのが大変である。さらにドライバー不足などもあって、原木輸送から撤退する事業者が増えている。


 同社の仕事は製紙関係、加工食品のチルド輸送、大手スーパーのドライ商品の配送などである。加工食品は地元から納豆や豆腐などをチルド車で仙台に運ぶ仕事で、仙台に運んだあとの帰り荷は確保している。一方、スーパー関係の仕事は、東北6県をカバーする仙台のセンターから配送車で青森県東部エリアの店舗に配送する業務と、仙台センターから青森センターへの幹線横持ち輸送である。このスーパーの仕事では、青森から空の台車などを積んで仙台に行くことはあっても、青森から仙台へは空荷走行が多い。季節によっては青森から仙台に野菜の輸送需要があるが、積み込み時間などのネックがある。また、コメの輸送も手積み手卸しなどの問題がある。このようなこともあって定期で行っている車両の稼働効率はあまり良くないのが実態である。そこで同社では、地元の森林組合などを通して「原木輸送の実態を調べてみたらいろいろなことが分かってきた」(原田惇常務)。



 原木はグラップル搭載車やクレーン搭載車などの専用車で運ぶが、片荷輸送で運賃負担力も低い。さらにドライバー不足などから撤退する事業者が多く専用車両が不足して困っている。伐採した木を山から平地の原木置場まで輸送している専用車両はあるが4WD車で積載重量も小さく長距離輸送には向いていない。このような事情から地元の森林組合の販売先は地元だけで、仙台などには販売できていない。ざっと以上のようなことが分かった。

 一方、丸憲運輸では仙台にたくさん車両が行っているので、仙台まで空車走行している車両で運ぶようにすれば収益性が向上する。だが、最大の課題は同社の保有車両はウイング車などであり、原木輸送の専用車ではないことだった。そこでクリアしなければならない課題は、グラップルを搭載していない車両で原木の積み下ろしをするにはどうしたら良いか、ウイング車を改造して原木を運べるようにするにはどうしたら良いか、である。


 まず積み込みでは出荷元の原木置場にはフォークローダーがあるので、それを借りればできる。納品先もたいていフォークローダーがあるので荷役作業の課題はクリアできた。次にウイング車に原木を積めるようにする工夫では、「ウイング車に取り外し可能なスタンションを設けて原木を輸送できるようにし、帰りはスタンションを外して普通のウイング車としてドライの商品を積んで帰る」(原田惇常務)ようにした。スタンションは140cmの上下分割式にして外した時に収納しやすくした。ボディの両側に4本ずつ計8本とし、スタンションを立てるところには荷台の床下に別フレームを通して、フレームにスタンションを立てるようにして強度などに対応した。その結果、収益性が向上しただけではなく、ドライバーの拘束時間の短縮も実現できた。往復で実車走行になったために収受する運賃が増え、往復ともに全線高速道路利用ができるようになったからである。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:丸憲運輸)