運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第71回】 吉田運輸株式会社(埼玉県所沢市)

客観的品質を重視して独自性を打ち出す


 中小事業者が独自性を打ち出すには、第3者に認定や認証をしてもらう客観的品質によってブランド力を持つことも1つの戦略である。吉田運輸(埼玉県所沢市、吉田清子社長)は保有車両台数17台の典型的な中小トラック事業者だが、2012年には経営革新計画承認(埼玉県知事)、2013年にはIT経営実践認定企業(経済産業省)に認定された。環境への取り組みでも2015年度、2016年度と2年連続で東京都の貨物輸送評価制度で3星を取得している。

 同社が客観的品質を重視するのは、社会や取引先からの評価を高め、会社としての付加価値をつけるためである。吉田運輸は営業的にはスポット需要を重視し、チャーターの荷物+スポットの荷物の組み合わせで車両回転率を高めるような経営をしている。そして社内的には携帯用メーリングリストで情報の共有化を図り、取引先に対しては「ドライバー案内シート」や「完了報告」などのサービスを行っている。

 吉田運輸の設立は1979年。最初は東京の杉並区に会社を開設したが、その後、埼玉の所沢市に移転した。スタート当初は建材関係などの取引先を中心に順調に業績を伸ばしていた。だが、バブル崩壊後の1993年ごろから荷主各社からの運賃値下げ要請が強まってきた。この苦境を打開するために吉田勝治常務は積極的に飛び込み営業などをしていたが、そのような営業展開を繰り返しているだけでは経営の抜本的な立て直しにはならない。やはり自社の強みを持たなければ、結局、価格競争から脱することができないと考えるようになってきた。そこで2000年ごろからはスポットの開拓に力を入れ、チャーター+スポットで収益性を高めるような経営への転換を図ってきた。同社の現在の規模は、役員の他に事務担当の社員が2人、ドライバーが16人である。保有車両数は17台で、内訳は4t車7台、3tロング2台、3tショート4台、2tショート4台だ。


 差別化では、2005年からホームページによる情報発信に力をいれるようにした。同時にメーリングリストを導入し、翌日の2便目などの情報をフォーマットにしたがってドライバーに伝達。アクセスすると誰がどのような業務をしているかが誰にでも分かるようにして情報の共有化を図った。

 このような社内体制の強化とともに、取引先に対しては「ドライバー案内シート」による担当者の紹介、また、業務完了後には「完了報告」を出す仕組みを確立した。ドライバー案内シートは運送依頼日の前日の夕方から夜に、担当ドライバー名などをFAXで荷主担当者に知らせるもの。「タクシーでもドライバー名などが分かるようになっている。それと同じで荷主に安心感を持ってもらうと同時に、ドライバーにはサービス業としての意識を高めてもらう」(吉田勝治常務)のが目的だ。完了報告はドライバーから会社に携帯メールが入り、会社から荷主の担当者にメールで送信する。


 エコドライブに本格的に取り組むようになったのは2006年からで、動機はコスト削減だった。燃費の改善に取り組むとともに独自の原価計算も考えた。このような取り組みに対する第3者の評価を得るために、東京都が2012年から実施するようになった貨物輸送評価制度に申請したのだが、独自資料に基づいた算出だったため定量給油の部分ではじかれてしまった。そこで「ルールを統一するために、東ト協のグリーンエコ・プロジェクトに入った」(吉田常務)のである。プロジェクトに入って良かったのは「独自の取り組みではどうしてもマンネリ化してくる。また、教育資料なども独自で準備するよりずっと良い」(吉田常務)。その結果、東京都の貨物輸送評価制度では、2013年と14年が2星、2015年と16年は連続して3星になった。2星と3星の大きな評価の違いは、「車間距離や交差点でも回り方、その他だった」(吉田常務)という。


 同社では4t車が1日4万円、2t車が1日3万円を目標にしている。それに満たないようなチャーター契約の荷主には、1日の運行の中にスポットの荷物を組み込めるような契約にしている。現在の売上構成はチャーター65%、スポット35%の割合だ。

 このようにスポット営業に力を入れている同社では、運賃料金の明瞭化にも努めている。基本料金表では、車種ごとに2時間20qと1日80qの金額を明記している。基本は時間と距離である。時間指定のある場合には、他の仕事を組み合わせられないので1日分の運賃にしている。2時間契約でも時間超過は追加料金を請求する。運賃の明確化は、スポットの顧客が入りやすいようにするためという。

 さらに吉田運輸では今年度から15年後に向けた経営計画をスタートした。20台規模で単純再生産をしていたのでは、若い従業員に10年後、20年後の給料や仕事を示すことができない。規模の拡大が必要だからである。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>