運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第72回】 稚内軽量運輸株式会社(北海道稚内市)

買物の不便解消に“買い物支援隊”


 買物弱者が都市部、地方を問わず増加しつつある。とくに地方では人口減少と高齢化が進み、シャッター通りのように商店街の疲弊も目立つ。これらは販売弱者だが、人口減少とともに衰退しつつあるのが小規模な製造販売業者などの生産弱者である。これら買物弱者、販売弱者、生産弱者をコーディネートし、3者を結びつけて地域社会を再生していくことが重要である。それを自ら主導権をもって実現することができるのは、地方の中小運送事業者だ。それは同時に、地方の中小事業者が勝ち残るための方策の1つでもある。

 稚内軽量運輸(北海道稚内市、佐々木政美社長)は昨年9月から「買い物支援隊」をスタートした。同社は2014年度補正予算の可決を受けて、2015年3月に中心市街地再生事業(買物環境整備促進事業)に「買い物支援隊」事業計画を申請。2015年4月15日に同計画が採択され、国から2500万円の補助を得てスタートしたのである。

 佐々木社長は大手宅配便会社に5年間勤務し、1991年に27歳で独立した。最初は軽トラック3台でのスタートだった。稚内市の人口は3万6,399人、1万6,501世帯(2015年国勢調査)である。地方なので市場が小さく、当時から運送業として独立する人は少なかった。しかし、「不便はビジネスになる」という宅配便会社の経営者の教えから、地方の不便を解消するところにビジネスチャンスを見出そうと独立し、現在もその精神を持ち続けている。1993年に有限会社として法人設立し、その後、株式会社にした。貨物軽自動車運送事業から始めたが、旭川市の急便事業者を買収し、保有車両を複数台にしてから一般事業に変更した。稚内軽量運輸の現在の保有車両数は12台で、内訳は大型車2台、4t車4台(そのうち2台はダンプ)、2t車5台(そのうち2台は移動販売車)、軽トラック1台である。ダンプ車以外は軽トラックも含めて全部冷凍車である。


 同社の主たる事業内容は、食品の3温度帯共同配送である。稚内やその周辺では小売店が廃業したり、営業所を撤退する問屋もある。そこで、自社単独で物流システムを構築している大手スーパーやコンビニなどを除くと、配送密度が薄いために共同配送が有効になっている。メーカーや問屋、大手同業者などの物流センターが集積している石狩などから、共同配送の荷物を集荷し、大型車に積み合わせて運ぶ。引き取ってきた商品は、自社の施設で配送コースごとに仕分けをし、共同配送するのがメインの仕事だ。配送先は地元の食品スーパーの店舗や、食品小売店などで、自社から半径約150q圏内にある50〜60店舗に納品している。その他にも同社では、アイクス引越センターや、リサイクルショップ(リサイクル館)、屋外イベント用備品のレンタルなども行っている。また、2年前からはAED(自動体外式除細動器)を配送車両(2t車)3台に搭載している。

 このような中で稚内軽量運輸では、ネットスーパーも構想し、地元の日本郵便と検討を進めていた。2014年5月から9月にかけてである。販売店は地元の商店などで、それぞれの商品を「最北ネットスーパー」のサイトを通して販売するというもの。利尻島や礼文島の簡易郵便局の窓口にタブレット端末をおいて、タブレットで商品を検索して発注する仕組みである。高齢者などタブレットを使えない人には職員が手伝い、配達も郵便局職員が行うという構想だったが、日本郵政が同様の事業を独自で行うと発表したため、ネットスーパー構想は当面、ペンディングにすることにした。そこで経産省から2500万円の補助金を得て、自己資金も含め1台約1800万円の移動販売車両(2t車)2台を導入。昨年9月に「買い物支援隊」事業を試験スタートし、10月5日から本格販売を開始した。地元小売店4店、地元卸業者3社、地元製造販売業者8社と契約して商品を調達している。


 「買い物支援隊」の取扱商品は食品や日用雑貨を中心に約800アイテムもある。同社では「最北ネットスーパー」で酒類販売の免許も取得している。巡回コースは4コースで曜日によってローテーションを組んでいる。需要の少ないところでは、合図があった時だけ停車して販売する箇所も組み込み、1カ所の停車時間を比較的短くし、販売個所を多く設定している。販売時間を節約したり販売コストを削減することで、効率化を図っているものと思われる。

 また、商品は安く仕入れて販売価格は店頭における通常の小売価格よりも高く設定している。最初のうちは価格が高いという声もあったようだ。しかし、移動販売車の必要性やコストについて、「約1年間やってきて、利用者にも理解が浸透してきている」(佐々木社長)。このようなことから「粗利で30%を確保し、現状でもランニングコストとしてはペイしている」(佐々木社長)という。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>