運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2016年11月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

バックナンバー一覧はこちら

【第73回】 株式会社ティスコ運輸(山形県山形市)

生産性向上と労働時間短縮を推進


 人材の確保と育成、定着には生産性を向上して労働環境改善のための原資を確保し、社員満足度(ES)を高めることが重要である。ティスコ運輸(本社・山形市、菅原茂秋社長)では2012年からアンケートやヒアリングによる社員満足度調査をはじめ、社員満足度(ES)の向上に努めてきた。同社ではES調査を定期的に行い、その結果も踏まえて勤務形態の多様化、評価制度の導入、委員会活動、部門別会計など様ざまな社内改革に取り組んできた。

 まず、ティスコ運輸の概要を簡単に紹介すると、同社は2000年に有限会社として設立(2006年に株式会社)。運送業の他に産業廃棄物収集運搬、特定人材派遣業などを行っている。本社の他に、仙台営業所(宮城野区)、岩手営業所(花巻市)があり、従業員数は200人(パート・アルバイト含む)、保有車両数は95台で売上高はグループ全体で25億円。安全性優良事業所(Gマーク)認定、グリーン経営認証を受けている。

 同社では、荷主に物流改善を提案し、同時に自社でも労働条件の改善を図る取り組みをしてきた。たとえば取引先の1つに食品関係のメーカーがある。同社は地元のセンターからこの荷主の製品を首都圏などに大型増トン車(25t車)4台で運んでいた。第1便は山形道から磐越道、常磐道を通り、茨城県内の4〜5カ所に納品しながら首都高を使って東京の最終納品先に行く。出発時の積載率はほぼ100%である。第2便は山形道、東北道を通って埼玉県内の3〜4カ所の納品先に納品し、首都高を使って東京の最終納品先に行く。第2便の平均積載率は60%と低い。第3便は山形道から東北道で埼玉と都内の納品先、各1カ所に納品して首都高を経て東京の最終納品先に着く。第3便の積載率はほぼ100%であった。第4便は山形道から東北道を走って東京都内の納品先1カ所に納品してから最終納品先に行く。この便も出発時の平均積載率は60%程度である。


 このような運行では最終納品先までの距離と時間が長く、また、突発的なオーダーなどによる臨時車両の手配も高コストになっていた。ドライバーの労働時間も、最終納品先まで12時間から13時間と長く、途中の納品先で待機時間などがあるとさらに時間が長くなってしまう。また、大型増トン車による複数カ所納品は作業も大変だった。そこで提案したのはトラックを1台減らして3台(3便)とし、千葉県船橋市の事業者と提携してストックポイント(SP)を設けるというものだった。

 第1便は最終納品地までの直行便で輸送効率を上げるとともに労働時間を短縮する。第2便は調整便で、SPで荷卸しや一部積み替えをして最終納品地に行く。第3便はセンター配送便でSPに直行して輸送距離と労働時間を短縮する。定番商品などはまとめてSPに運んで輸送効率を向上する。SPの提携事業者が共同配送で茨城、埼玉など、従来は途中納品をしていた店舗に納品する。


 このSPの設置によって緊急オーダーへの対応も速くなった。従来は緊急オーダーに山形から対応していたので早くても6〜8時間かかった。当然、コストも大きかった。しかし、船橋のSPなら1〜2時間で対応できる。それによって荷主の販売機会喪失も少なくできる。ティスコ運輸ではこのような運行形態の変更だけではなく、携帯端末とデータセンターを活用したシステムも提案した。携帯端末を活用して荷主の経営幹部、生産工場、荷主の営業担当者、ティスコ運輸、SP委託事業者が情報を共有できるようにするというものである。また、この物流改善によってトラックのCO2排出量も削減された。改良トンキロ法による試算では、大型増トン車4台で山形から東京に運行していた当時は、1.249tのCO2排出量だった。新しい運行形態では、幹線輸送の3便で0.943t、配送車両3台で0.170t、合わせて1.113tである。


 このケースは単純計算で「年間約3000万円の運賃収入減になるが、荷主の販売機会ロスも減るので、運賃ベースアップのゲインシェアリングをした。また従来は12、13時間かかり待機時間があるとさらに長くなっていたが、今度は8時間程度になったのでドライバーの定着率も改善され」(菅原社長)た。さらに関東向けの長距離輸送では、埼玉県内の事業者との提携で幹線輸送と配送を分離し労働時間を短縮した例もある。従来は大型車で関東に輸送して関東圏内で何カ所かに納品していたが、待機時間などもあって納品だけで4〜5時間もかかっていた。そこで自社は幹線輸送だけにして、その先の配送は提携先に委託する。これによってドライバーは4〜5時間の労働時間短縮になる。現在は毎日大型車1台だが、「荷物が増えているのでトレーラ化を考えている。トレーラなら提携先で荷物を積み替える手間が省け、労働時間をもっと短縮できる可能性がある」(菅原社長)。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>