運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2017年7月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第81回】 株式会社肥後産業(鹿児島県鹿児島市)

地元産の茶とでんぷんで独自の物流を展開


 トラック運送事業では、サービス内容において他社との差別化を図ることがなかなか難しい。とくに地元からの発荷物の多くが1次産品という地方においてはそうである。そのような地方の事業者の中には、地元発の荷物ではなく、地元に入ってくる消費財の店舗配送などで成功しているケースも少なくない。だが、多くの事業者が目を向けなかった地元特産の農産品の物流で、独自の物流システムを構築して業績を上げている事業者がいる。この事業者は肥後産業(本社・鹿児島市、肥後貴哉社長)で、同社は鹿児島県の特産品である茶、サツマイモ(でんぷん)、鰹節の3品のうち、茶とサツマイモ(でんぷん)で独自の物流サービスを展開している。この3品にこだわったのは、同じく鹿児島の特産品である「豚、鳥、牛の物流は既存の事業者がガッチリ押さえていたから。それらの事業者が目を向けなかった分野に参入した」(肥後忍会長)からであった。

 3品のうちの鰹節については、特有の匂いなどの関係から同じ車両で運べる荷物が制約されるため、キチンと包装がしてある年2回の贈答品ぐらいしか運んでいない。ともかく同社では、地元特産品における独自の物流システムを構築したことで競合事業者が少ない。そのようなことから売上げでは地元事業者の中で5位(肥後産業単体)だが、税引後利益ではトップである(2016年決算期比較)。肥後産業の設立は1972年で、肥後忍会長が創業した。当初は地元産の木材輸送が主だったが、その後、建設関係の基礎クイなどの輸送も行った。しかし、バブルが崩壊し、経営環境も大きく変わった。肥後会長は小倉昌男氏が会長をしていた全国運輸事業研究協議会(全運研)にも参加し、小倉昌男氏の薫陶を受けている。そのような中でヤマト運輸の幹線輸送を請けるようになったが、一方、独自の荷物の開拓にも努めた。独自サービスの重要性は「小倉学校」で学んだことの1つだ。


 そこで茶とサツマイモ(でんぷん)の物流に参入した。鹿児島県は静岡県に次ぐ国内2番目の茶の生産県である。南薩台地や中薩台地をはじめ全県的に生産されている。しかし、地元ブランドの商品としては知覧茶やみぞべ茶が有名だが、多くは他産地のブランド茶のブレンド用として出荷されている。肥後産業では、種子島や屋久島などの茶は地元事業者に集荷を委託しているが、それ以外は自車両で集荷し、一番茶はスピードと品質が勝負なのでスルーで各地に出荷する。二番茶以降は物流センターに荒茶として保管して年間を通して出荷する。荒茶はほとんどチルドで保管し、中にはフローズンもあるという。茶の集荷は島部では3月最終週ぐらいから4月初旬には始まる。島部以外でも5月から始まり11月ごろまで集荷がある。昔は3番茶までだったが、現在では4番茶、5番茶まであるからだ。4番茶、5番茶などはペットボトルのお茶の原料になっているようだ。

 出荷先は静岡や関西が多く志布志〜大阪南港、大分〜清水、宮崎〜神戸などのフェリーで大型車やシャーシの無人航送をしている。帰り荷は、宅配便や特積み事業者の荷物などを積んで帰る。シャーシの無人航送の場合には、自社保有のシャーシを海運会社に預け、オペレーションは海運会社に委託しているという。その方がラウンドで荷物が確保できて、自社でオペレーションするよりも効率が良いからだ。茶の集荷は収穫時期が5月から11月と季節性がある。だが、茶の集荷が終わると大隅半島などでダイコンの収穫期を迎える。ダイコンの収穫は11月〜5月ごろなので、茶の集荷とはちょうど半年の違いがあり、集荷車両は年間を通してコンスタントに稼働できる。なお、ダイコンの出荷先はカット野菜工場で、茨城県が多いという。一方、でんぷんはメーカーの工場から製品や半製品を集荷して物流センターに横持ちして保管し、年間を通して出荷するという仕組みだ。


 同社のコアビジネスは以上の通りで、保有車両数は肥後産業が約250台、主に長距離を担当しているシステム物流が大型車中心に約100台である。そのような中で同社は企業体質の強化を図っている。8年前から「手形や小切手を一切なくし、支払いは翌月末までの現金支払いとした」(肥後貴哉社長)。現在、第2次中期経営計画(2016年度〜2019年度)を推進中で、従業員が将来に期待できる企業を目指している。休憩施設の充実など福利厚生にも力を入れ、サービス品質面でも「ISO9001はすでに取得していたが、業種的にみると交通安全などの方が良い。それならISO39001を取得しよう」(肥後貴哉社長)と、昨年11月にはISO39001の認証を取得。さらに物流センターではHACCPの取得も準備を進めている。そして2020年には年商100億円を達成し、管理者や従業員の所得を増やして社員の幸福と社会の発展に寄与する企業にする計画である。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>