運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第83回】 千曲運輸株式会社(長野県小諸市)

地元の観光と特産品をトラック「こもろん」号でPR


 最近は地元をPRするトラックを見かけるようになってきた。千曲運輸(長野県小諸市、中嶋剛登社長)も、「こもろん」1号(25t冷蔵ウィング車)で地元の観光と特産品のPRに努めている。同社は小諸や軽井沢の農産物輸送を中心に発展してきた。現在でも売り上げの約3割が農産物である。このように農産物輸送などを通して地元と関係の深い同社では、以前から地元の振興や観光のPRに協力したいという考え方を持っていた。「運送業なので自社のトラックが各地に行く。このトラックのボディを活用して小諸をPRできないだろうか」(中嶋社長)という発想から、市に対して以前からPRトラックを提案していた。その提案が受け入れられて市も今年度予算に計上。同社では大至急でトラックを発注し、5月26日に「こもろん」1号が納車された。翌27日には市観光課やこもろ観光局などが主催する地元のイベントでお披露目し、現在は仕事で各地を走行している。

 千曲運輸の現在の保有車両数は65台で、内訳は大型車(増トン車含む)42台、2t車と4t車が合わせて20台、軽トラック3台である。従業員数は70名で、その他にパートが30人いてリフト作業や野菜の選果作業などに従事している。年商は10億円強で、輸送品目別の売上構成は、農産物30%、宅配便会社の拠点間輸送が40%(大手2社でそれぞれ20%ずつ)、地場配送13、14%、その他(家具量販店の拠点間輸送と県内配送、農業資材、一般雑貨など)となっている。宅配便会社の仕事は、センター間やセンターと営業所、さらに関東や中京と長野発着の横持ちである。一部は地元と北陸の横持ちもあるという。それに対して、地場配送はLPガスや高圧ガス(酸素ガス、炭酸ガス、アセチレンガスなど)の配送だ。このように同社では、農産物主体の経営では季節波動が大きいため、年間を通してバランスのとれた経営構造に転換してきた。


 中嶋社長は地元の観光振興にも関わっている。今年4月に一般社団法人こもろ観光局が発足したが、中嶋社長は観光局の事業部副部長も兼ねている。小諸市には以前から観光協会があったが、あまり機能していなかったようだ。そこで本格的に地元の観光PRに力を入れて取り組もうと、市観光課も連携して昨年10月から一般社団法人こもろ観光局の設立を準備してきた。中嶋社長はその段階から関わってきたという。こもろ観光局の発足とともに従来の観光協会は解散した。なお、「こもろ」と平仮名にしたのは、最近は「小諸」を「こもろ」と読めない人が増えてきたからという。ともかく、このような経緯もあってPRトラックの導入となった。千曲運輸は25t冷蔵ウィング車だが、ほかにも地元の事業者が中型車2台を導入したので、同社の車両は「こもろん」1号とし、他社の中型車が同2号、同3号ということになった。「こもろん」は、小諸市のゆるキャラの名称から採っている。

 「こもろん」1号の進行方向左側(助手席側)には「あの夏で待ってる」のキャラクターを描いている。「あの夏で待ってる」はI*Chi*Ka原作のラブコメ・アニメで略称「なつまち」。2012年1月〜3月に放送された。「なつまち」では懐古園、相生町商店街、乙女駅周辺、布引山釈尊寺、軽井沢、浅間山を望む田園風景などが舞台になっている。そのため地元の観光などの宣伝になると小諸市も制作に協力した。トラックのボディには浅間山を望む田園風景を背景に、アニメに登場するキャラクターをオリジナルで描いてもらったデザインになっている。「地元のPRにとどまらず、オリジナルの絵なのでマニアにとってはトラック自体も垂涎の的」(中嶋社長)だ。同じく「こもろん」1号の進行方向右側(運転席側)のボディは、地元の特産品などをPRするデザインになっている。強烈な印象を与えるデザインにしようとコンペの結果、地元のデザイナーのデザインが採用されたもの。


 また、右側ボディのQRコードから小諸市のホームページ(HP)につながるようにしている。HPのPRトラック特集ページではPRトラックを説明。さらに市のPRからふるさと納税にもつながるようになっている。PRトラックが走り出してから、まだわずかの期間に過ぎないが、県外からふるさと納税にまでつながるという成果も出ているようだ。「こもろん」1号には専属のドライバーが乗務している。何人かのドライバーに声をかけたが、積極的に応じた人はいなく、いわば消去法で決まったようだが、「サービスエリアや赤信号で止まっていても注目されるようだ」(中嶋社長)という。千曲運輸では今後に向けて様ざまな構想を描いている。たとえばトラックへのAED(自動体外式除細動器)の搭載なども「現在、検討しているところ」(中嶋社長)である。また、物流を通した地域社会への貢献と、新たな市場開拓という面からは「買い物代行なども考えている」(中嶋社長)。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>