運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第88回】 雄山陸運株式会社(神奈川県海老名市)

働き方の多様化を進め週休3日正社員の募集も


 ドライバーの確保が重要な課題になっている。労働時間の短縮を進め、賃金水準も上げていかなければならない。そのような中で、以前から多様な働き方とそれに応じた給料の設定をしている事業者がいる。この事業者は雄山陸運(神奈川県海老名市、山村仁社長)で、同社ではさらに就業形態の多様化を進め、今年から変形労働制を導入して週休3日や週休4日の正社員採用を始めた。それに先立って変形労働制の募集は昨年12月23日から自社のホームページやインディード(Indeed)にUP。取材時点では1カ月に満たないが、それでもすでに20人の応募があり、そのうちの5人を採用した。採用者のうち週休3日での雇用契約者は、昨年12月末までに面接して1月から勤務している。雄山陸運の変形労働制導入の背景や、同社の業務内容と多様な勤務パターン、それらを可能にしているオペレーションや管理などを見ることにしよう。

 雄山陸運の創業は1955年、東京・大田区でトラック陸送から始めた。1961年にはメイン荷主の工場移転にともない、海老名市に営業所と倉庫を新設して部品輸送なども始めるようになった。会社の設立は1964年である。このような経緯から以前はメイン荷主からの売上が70%を占めていた。そこで新規荷主を開拓して相対的に依存度を下げるようにしてきた。その結果、リーマンショックに遭遇したのは、メイン荷主の売上構成比が50%までになった時だった。飲料水などは「リーマンショックの2年ぐらい前から取引を始めた」(田佳昭新規開発部課長)し、その時点では「郵便も少しやっていた」(同)。このためリーマンショックの影響を少なくできたのだが、そうはいってもダメージは大きく、「経営の土台からつくりかえていかなければならなかった」(同)。併行して「人事制度改革をして給与体系なども大きくつくり変えてきた」(同)のである。


 現在は創業時からの荷主の売上が30%、自動車関係全体でも40%になっている。飲料20%、郵便物の拠点間輸送25%、食品10%、その他は地元の機械メーカーの完成品や部材輸送などである。保有車両数は2t車から大型車まで53台。従業員数は59人(ドライバーは49人)。単体売上は約7億円、関連会社にはこん包作業などのオヤマパック、雄山商会とオヤマダイニングがある。自車両での輸配送は県内をはじめとする関東と静岡が主で、1部の仕事では西は大阪、北は福島まで行っている。それ以外は基本的に傭車で行っている。雄山陸運が営業で独自性を打ち出しているのは、特注車両によるコストダウン提案で他社との差別化を図る営業だ。たとえば4t車で最大9600mmのボディや、6500mmのアルミ製ウイングボディなどを、ボディーメーカーと共同開発。4t車の常識を超えた運搬を可能にし、大型トラックとの比較で大幅なコストダウンを提案する。

 同社は、当面は現状の事業展開で規模拡大を図る方針だ。そして「目安として保有車両数100台、売上20億円を目指す」(田課長)という。そのためには人材の確保が不可欠で、「自社のホームページをちゃんと作らないといけない。そのため他業種の企業で上手くいっているケースから学ぶ。そして、このような良さがあるということを発信していくことが重要」(同)と考えている。「雇用マーケティングを考えると、応募する側は働く中身が分からないと不安になる。自分が働く側で転職しようとするときに必要な情報は何か。まず、働くイメージが湧くこと」(同)。「仕事に人を割り振るのではなく、人に仕事を合わせる」(同)というコンセプトで同社では働き方のパターンに応じた雇用をしてきた。同社の募集を見ると、選べる働き方のパターンと、それぞれの税込み賃金、就業時間・休日などが明記されている。その一環として週休3日制や週休4日制を導入することにした。


 変形労働制では就業規則を見直し、また業務災害補償制度の導入など働き方改革を推進中である。週休3日制正社員採用では、変形労働制では1日の労働時間を10時間として週40時間。週休4日制では1日13時間で週39時間である。このように各人の条件に応じた働き方を可能にするとともに、経営的な面からのメリットもある。1日の労働時間が8時間以内に収まるというドライバーは極めて少ない。かりに毎日の残業が平均2時間だったとすると、週休3日制なら1日10時間労働なので定時内に収まり、残業が発生しないことになる。さらに基本的には1日のリミットは13時間なので、週休4日で1日13時間労働なら、やはり残業が発生しないことになる。もちろん従来よりも多くのドライバーを雇用する必要があるので人件費総額は増えるが、時間外労働の上限規制がますます厳しくなってくることを見越せば、雄山陸運の週休3日制は先駆的な事例といえる。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>