運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第89回】 株式会社ヨシダ商事運輸(兵庫県西宮市)

健康経営で女性や高齢者、新卒者の雇用促進


 従業員の健康管理は企業責任の一環ともいえる。心身ともに健康で働ける環境づくりは社員満足度(ES)や社員幸福度(EH)には不可欠であり、同時に生産性向上にもつながる。とくにトラック運送業では肉体的に健康で精神的に安定していることが、安全運転にも直結しているからだ。「健康経営優良法人」は経済産業省(日本健康会議)が進める健康増進の取り組みの一環で、健康経営を実践している優秀な法人を顕彰して「見える化」を図るもの。従業員や求職者、取引先、金融機関などからの社会的評価を高めるのが目的だ。認定には大規模法人部門(ホワイト500)と中小規模法人部門があり、いずれも有効期限が1年なので、継続するには毎年更新しなければならない。2017年度に中小規模法人部門で認定を取得し、引き続いて18年度も認定を取得したのがヨシダ商事運輸(兵庫県西宮市、吉田慎太郎社長)である。

 ヨシダ商事運輸は1967年に吉田商会として創業し、その後、1971年に現社名で法人登記。現在はフローズン、チルドを主体に一部はドライも含めて食品関係の保管、梱包、ピッキング、仕分け、輸配送などを行っている。保有車両数は2t車からトレーラまで130台で、一部はドライもあるがほとんどの車両が冷凍・冷蔵車である。従業員数は正社員が145人。その他、パートなどの非正規雇用の従業員が20人〜100人いる。これは大手ハム・ソーメーカーのギフトセンターの業務を受託していて、季節波動により増減するからである。輸配送業務では長距離輸送が10台程度で、その他は近距離の配送である。近畿圏内での仕事が主体なので労働時間に関しては問題が少ないという。だが、労働力の確保は同社にとっても大きな課題だ。1つは現在の自社の人的資源のポテンシャルを最大に引き出すこと。もう1つは新たな人材をいかに確保することができるかである。


 そのような中で健康経営は、人的資源の活用においても、また、新規採用においても、今や経営における重要な要素である。ヨシダ商事運輸では以前から従業員の健康管理を重視してきた。「コンプライアンスとして健康診断に力を入れてきた。10数年前からは1月と9月の年2回、レントゲン車に会社に来てもらうようにもした。それでも要再検査の人数が減らない」(吉田慎太郎社長)。何とかしなければいけないと思っていたが、社外セミナーに参加して「健康経営優良法人」の話を聞いた総務部の社員から、吉田社長に提案があった。その進言を聞いた吉田社長は「即断した」という。同社では約8年前に「くるみん」マークを取得しており、子育てを支援して働きやすい職場作りに努めてきた。さらに健康経営は「定年を過ぎた高齢者も活用し戦力になってもらいたい」(吉田社長)、という思いを実現することにもつながる。このようなことから2017年度に認定を取得した。

 一方、新たな人材の確保では2015年4月から高校新卒者の定期採用を始めた。15年4月入社は1名、16年も1名、17年には2名(1名は退社)の新卒社員を迎えた。さらに今年4月からは高卒2名と大卒2名、自衛隊からも1名が入社してくる。だが、最初の新卒採用では高校に何のつながりもなかった。そこで、取引している金融機関を通して高校を紹介してもらうことにした。「銀行から紹介してもらった事業者は信用が高い」(吉田社長)という。健康経営はこのような新卒採用活動においても、生徒や両親、就職担当教諭などに好印象を与える効果が期待できる。多少わき道に逸れるが、同社では採用内定者やその家族などにも会社への理解を深めてもらう努力をしている。たとえば毎年新年会を開いているが、新年会には就職内定者の家族も招待する。一般的に高校新卒採用者は退社率が高いといわれるが、同社はその点でも、定着率向上にも努めているという。


 健康経営優良法人(中小規模法人部門)の最初の申請もそれほど難しくはなかったようだ。担当者から「何か問題があったとか苦労したという話は聞いていない」(吉田社長)という。この間の健康経営の効果はというと、「1年間で具体的な成果はまだ出ていない。だが、対外的には当社が健康経営の認定を取得したことを知った取引先などからは好反応があった。また、高校などへの採用活動で健康経営は強いアピール材料になっている。社内的には年2回の健康診断が100%になった」(同)という。そして「今までは治療だったが、今年からは予防に力を入れていく。4月からは施設内を禁煙にして、禁煙外来の費用補助を考えている」(同)。また、休憩室=喫煙室だったが、休憩室をトレーニング・ルームに改装する計画だ。さらに今年は、日本健康生活推進協会の「日本健康マスター検定」受験に吉田社長自らが挑戦するという。「企業としての姿勢を示すため」(同)だ。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>