運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第94回】 松下運輸株式会社(東京都港区)

「ちょっとロジ」でニッチ市場を開拓



エントランス

 最近は一部で車両の小型化が進んでいる。たとえばクロスドッキング方式で積合せ配送をしている事業者は、昨年春に軽ワゴン車を5台導入し、さらに今年3月にも5台増車した。これまでは納品先が問屋や販売代理店だったが、最近は問屋や販売代理店が指定するその先のユーザーに直納するケースが増えてきたからだ。また、1t冷凍ワゴン車を一昨年11月に5台導入した事業者も、現在、フル稼働の状態である。軽トラック2台で運んだり、積載効率が悪くても2t車をチャーターしていた荷主からのニーズが増えているからだ。一方、車両の小型化は新普通免許でも乗務できる仕事が増えるので、採用(応募者)の幅を広げることになる。またコースの組み方次第で柔軟な働き方が可能になり、女性でも働きやすい条件を整えられるというメリットもある。このような中で軽自動車による「ちょっとロジ」をスタートしたのが松下運輸(本社・東京都港区、坂田生子社長)だ。

 松下運輸の創業は1941年で会社設立は1951年である。社員は85人で、保有車両数59台と、その他に軽トラックを保有している。本社は港区だが、事業所は神奈川営業所(厚木市長谷仲町)、神奈川第2営業所(厚木市戸田)、埼玉営業所(三郷市泉)、三郷配送センター(三郷市茂田井)、関西営業所(兵庫県西宮市)で、これまでは都内に事業所がなかった。そこで5月7日、本社の近くに東京営業所を開設した。「本社は白金にありましたが事業所は神奈川、埼玉、兵庫でしたから、以前から23区内に事業所をもちたかったので、3年ぐらい前から営業所を開設してどのような事業を行うかを検討していました」(坂田社長)。そこで、以前から企画・検討していた軽自動車による「ちょっとロジ」もスタートすることにしたのである。新しい東京営業所は、地元港区と近隣の区を営業エリアに、軽自動車によるサービスを展開する基地には格好の立地条件だ。



企画会議

 同社は一般貨物(エリア・ルート配送)、引越・オフィス移転、ロジスティクス(倉庫・流通加工)、貨物自動車利用運送、物流コンサルなどの業務を行っている。このような中で軽自動車による宅配もしていた。また、メール便の配達と集荷も軽自動車2台で行っている。メール便の仕事は午前と午後の業務に大別できる。まず午前中の業務は、朝センターにいって担当エリアに配布するメール便を引き取ってメール便を配達する。午後は発送されるメール便を集荷し、デポに持ち込むという業務である。この午前と午後の業務の間に一定の空き時間がある。だが、午前と午後の仕事を1人のドライバーで行うとなると、どうしても拘束時間が長くなってしまう、といった問題があった。一方、小さな荷物で短時間、近距離を運んでほしいという要望が、以前から同社に寄せられていた。たとえば米屋では昔から自分たちで配達していた。それを外注化したい、といったニーズである。

 同様に小さな荷物の近距離輸送のニーズは、引越サービスなどからも派生してくる。そこで同社では、「運送会社に頼むまでではないが、しかし、頼めるところがあるなら運んでもらいたい」(坂田社長)というニーズに対応するサービスを検討していた。「ちょっとロジ」というニッチ・サービスだ。そこで東京営業所の開設と前後して「ちょっとロジ」をスタートすることにした。メール便の仕事では、1人のドライバーが午前と午後を通しで働いては拘束時間が長くなってしまう。そこで同社では、午前と午後を分けて2人で交代勤務にする体制への移行を進めつつある。このような交代勤務体制への移行と併行して、メール便の午前と午後の合間に「ちょっとロジ」の仕事が上手く組み込めれば生産性が向上することは言うまでもない。2交代勤務制でドライバーの労働時間短縮を図りつつ、車両の稼働効率を高めて生産性の向上を図るという考え方だ。


車両とスタッフ

 「ちょっとロジ」だけで採算ベースに乗るようになれば別だが、それまでの間はリスクヘッジにもなる。このように松下運輸では「ちょっとロジ」のブランディング化を企図しているが、過度的な段階ではメール便業務というベースカーゴに「ちょっとロジ」を組み合わせるという方法で浸透を図りながら、採算ベースに乗せていく考え方のようだ。現在の時点ではまだトライアルの段階で、試行錯誤しながらブランディング化を図っていく。したがって本格的な展開はこれからだが、サービスエリアは「基本的には港区と隣接する区ぐらいプラス近距離」(坂田社長)で想定している。松下運輸では「ちょっとロジ」をはじめとして、「ニッチな市場を狙って独自なサービスの展開」(同)を戦略的に進めている。とくに軽自動車による配送サービスでは「BtoBプラスBtoCのMU―FLXを構築したい」(同)と考えているようだ。MU―FLXは松下運輸フレックスの意味である。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:松下運輸)