運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第173回】 株式会社柳川合同(福岡県柳川市)
フェリー利用で生産性向上と労働時間短縮を推進
昨年4月から年間最大残業が960時間になった。今年3月末で1年になり、年間最大残業が960時間以下になったかどうかの「結果」がでる。現時点では年間残業960時間を基準に4グループに分けられる。①ほぼ間違いなく960時間以下を見込める、②残り約1カ月間の努力で960時間以下の実現が見込める、③残された期間を努力してもかなり厳しい見込み、④11カ月間ですでに960時間を超えてしまった事業者である。このうち①のグループに入るのが柳川合同(本社・福岡県柳川市、荒巻哲也社長)である。同社は労働時間短縮にいち早く取り組んできたからだ。結論からいうと「長距離ドライバーは残業の多い人でも年間700時間、地場輸送では傭車不足のために800時間から900時間の人もいる」(荒巻社長)。地場輸送より長距離輸送の方が残業時間が短いという状況にあり、長距離輸送ではすでに年間720時間もクリアできる見込みだ。
柳川合同の設立は1954年。本社は柳川市なので家具が地場産業だが、事業のスタートは平ボディで肥料や漬物などを運んでいたという。現在では家具輸送が売上げの大きな柱の一つになっているが、家具は当初、地元同業者の下請けからスタートしている。現在の同グループは、柳川合同が倉庫や利用運送で、実運送は関連会社の柳川合同ロジ(福岡県三井郡)、関東柳川合同運送(埼玉県吉川市)、柳川合同トランスポート(柳川合同に同じ)が担っている。また、昨年11月にはM&Aで大藪運送(福岡県筑後市)をグループに加えて柳川合同トランスポートに吸収合併した。なお、運送以外の関連会社としてはハーティーカンパニーがある。営業所としては佐賀営業所、ウェアハウスビレッジ、大川営業所、なにわ営業所、関東営業所、県央営業所、湘南営業所、杉戸物流センター、岩槻センター、さつま営業所、MPHセンターがある(関連会社の所在地を含む)。
グループの従業員数は427人、同じくグループの保有車両数は254台で、売上高は2025年3月期で50億円(柳川合同の単体売上)を見込んでいる。同社のビジネスモデルは、①福岡~大阪~関東(埼玉・神奈川・東京)の混載定期便の運行、②長距離のチャーター便、③各営業所からの地場チャーター便、④各拠点を基点にした2次配送などとなっている。取扱荷物の売上比率は家具(30%)、家電(15%)、ロボットや空調機などの機械(10%)、雑貨その他である。同社でとくに労働時間短縮が課題だったのは①と②だった。そこで2009年9月からは300㎞以上の長距離輸送では全線高速道路を利用するようにした。さらに2016年4月からはモーダルシフトも導入している。最初は北九州新門司港~大阪南港でフェリーを利用するようにした。さらに柳川合同では自社グループ内で中継輸送を導入しようという試みにも挑戦したこともあった。
だが、「中継輸送やリレー輸送では上下イーブンの荷物が必要」(荒巻社長)なので、フェリー輸送に重点を置いた輸送システムを構築した。なぜリレー(中継)輸送では上下イーブンの荷物が必要なのにフェリーでは違うのか。ここに労働時間短縮と生産性向上を同時推進したノウハウがある。同社では現在、様々なフェリー航路を利用している。有明、横須賀、別府、泉大阪、神戸などの航路である。だが、多数の航路の使い分けだけではない。たとえば下りの荷物が多い時期には有明から新門司に有人トラックを無人航送する。そして九州側で荷物を届けた後はトラックを回送しないで九州の拠点に置いておく。そのトラックは九州側で地場輸送にも使えるし、逆に上りの荷物が増えて下りの荷物より多くなる時期には、上りの荷物を無人航送で運ぶことができる。つまり上りと下りの波動の違いに対応するのだが、このようなトラックの有効稼働はリレー(中継)輸送ではできない。
同社ではフェリー利用を「エコ便」と呼んでいるが、このような利用をするのは償却が済んだ古いトラックである。関東~九州間でも幹線部分は船上なので走行距離は300~400㎞ですむ。それに「故障したら廃車にすれば良い」(荒巻社長)といった考え方である。このようにして長距離輸送では労働時間の長い人でも700時間程度に短縮している。だが地場輸送は長い人では800から900時間になっている。理由は「今年度から傭車がタイトになってきたからである」(同)。そのために1人ひとりの労働時間が長くなっている。そこで柳川合同ではグループとして、「人が集まってくる『共創』企業を目指す」(同)としている。「スケールメリットを目指す経営はエンドレスになり社員が疲弊するだけ」(同)という考え方による。そして「YGG(柳川合同グループ)楽市楽座」を掲げ、「物流を核にして様々な派生的需要に対応するような事業展開」(同)をしていく方針だ。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>