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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第177回】    有限会社石田運輸商会(秋田県大館市)

DX活用の「社内Gメン’24」で法令順守に取り組む

 労働時間短縮や改善基準告示の順守は事業者にとって必須の課題だ。同時に、安全管理に要するルーティンの労力の効率化も必要である。そこでDXを活用したAI運行管理システムを独自に開発・導入し、改善基準告示の順守によって従業員の健康管理と安全管理などを推進しつつあるのが石田運輸商会(秋田県大館市、石田義光社長)だ。拘束時間や運転時間、荷役時間、荷待時間、休憩休息などの自動集計結果に基づいて、AIが自動的に運行要約、法令順守、改善提案、総合評価などの運行レポートを作成。さらにドライバーへのコメントまで書面で作成する。同社は独自のAI運行管理システムによって得られたデータに基づき、ドライバーに労働時間短縮や安全運転などをアドバイスする。昨年5月から導入したこの仕組みを「社内Gメン’24」と称し、社長と女子事務員の2人の「Gメン」が客観的で具体的データを示しながらドライバーに指導して法令順守を進めている。

 石田運輸商会の設立は1975年8月なので、今年8月で50周年になる。最初は飼料の運送から始まった。現在は従業員数が43人でそのうちの39人がドライバー。保有車両数は大型車26台、中型車3台、小型車8台の計37台である。その他にもショベルローダー2台、フォークリフト3台、車両運搬車1台などがある。2023年には低温物流センターを開設し、新分野として物流センター事業も開始した。また、自動車分解整備業のいしだぼでぃがある。売上構成比率は農産物輸送が約70%、医療施設や福祉施設向けの食材配送が約20%、残りが飼料や飲料配送などである。農産物輸送では大館、北秋田、鹿角、能代、山本の農産物集荷所を回って集荷し、首都圏の市場や大型店の物流センターなどに輸送している。集荷所の立地条件によっては、労働時間の関係などから、集荷所からの集荷車両と、地元から首都圏市場などへの幹線輸送車両を分けて行っている。

 だが、長時間労働の改善は同社にとって大きな課題だった。首都圏への農産物輸送は3日運行である。輸送距離の問題もあるが高速道路網などインフラの条件も加わる。同社が集荷するエリアは東北地方の中でも首都圏の市場に運ぶには不利な立地だ。そのような中で労働条件を改善するには、まず運行状況の実態を正確に把握する必要がある。同社が動態管理システムを最初に導入したのは約4半世紀も前だったが、諸事情で使えなくなり空白の期間があった。そこで同社の使用条件に合うようなシステムを探していて、2021年に導入したのが現在の動態管理システムである。「いつ、どこで止まっているかなどの位置データを、タコグラフマネージャーに貼り付けて活用すればデジタコと同じデータが取れる」(石田社長)。そのようにして得られた運行状況の実態をもとに労働条件の改善に取り組もうというのである。それが「物流の未来を切り拓くAI運行管理システム」だ。

 ジオフェンス(Geofence)機能を使って特定のエリアにトラックが出入りすると自動で位置を確認できるようにし、ドライバーに操作をさせずに管理できるようにした。天気や交通情報も記録する。そして管理者はドライバーの状況をリアルタイムで把握し、休憩時間は避けるなど業務連絡のタイミングも最適化することで相互のストレスを解消する。管理者のルーティン作業の業務プロセスを自動化(RPA=Robotic Process Automation)することで、「管理にかかる工数を30%ほど削減した」(石田社長)という。一方、ドライバーは休憩時間が確保できることで安全運転にもつながる。また、これらのデータに基づいて運行管理レポートを作成。拘束時間、運転時間、荷役作業、荷待待機、休憩休息、労働時間、割増時間、深夜労働なども自動計算される。さらに法令順守状況、1運行ごとの改善提案、総合評価、ドライバーへのコメントなどもAIが自動的に作成する。

 かも「ドライバーを全面的に否定するようなコメントはしないようにAIに制限をかけている」(石田社長)という。カウンセリングなどで用いる「Yes but方式」だ。そしてAIが5段階評価した結果などを見ながら、社長と「Gメン」担当の女性社員がドライバー各自に個別指導を行う。これら全体の仕組みが同社の「社内Gメン’24」である。同社はこれら一連の取り組みを「物流の未来を切り拓くAI運行管理システム」の案件名でTOHOKU DX大賞(東北経済産業局)に応募し、2024年度「TOHOKU DX大賞選考委員会特別賞」を受賞した。このように同社では「社内の努力で改善基準を守る。だが、社内だけではダメなら具体的データに基づいて荷主と交渉する」(石田社長)という方針だ。たとえば深夜は休息や休憩をとるのでドライバーは割増賃金が減る。一方、会社は高速料金の深夜割引が少なくなるので高速料金の支払いが増える、といった問題があるからだ。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>

(写真提供(一部):石田運輸商会)