運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第170回】 富良野通運株式会社(北海道富良野市)
DX化で繁忙期の時間外労働短縮に取り組む
「2024年問題」は事業者にとって大きな課題だ。時間外労働時間の短縮や改善基準告示の順守は必須である。自社の諸条件に応じて各社各様に取り組まなければならない。北海道は冬の降雪期は経済活動が著しく制約される。さらに農産物などは荷物の季節波動が大きく、労働時間の管理とコントロールが難しい。そのような条件にあっても、富良野通運(本社・北海道富良野市、永吉大介社長)は「年間を通せば残業時間などの規制はクリアできている」(永吉社長)。だが、季節波動があるために作業量の繁閑差が大きく、「繁忙期の単月での時間短縮が大きな課題」(同)である。そこで同社は時間外労働時間をリアルタイムで把握して画面に表示するシステムを開発・導入した。さらに配車表では各人の可能業務内容(取得している資格なども含め)を画面に表示し、繁忙期において担当業務を交代することで時間外労働時間を調整するような仕組みづくりを進めている。
富良野通運の創業は1942年だった。その後、戦時統合により日本通運に吸収合併され、戦後の1951年に富良野通運を再設立した。1957年には上富良野通運と合併して富良野合同通運に商号変更。さらに2006年には布部運輸と合併するとともに、再び富良野通運と商号変更している。今年8月下旬に、富良野市朝日町から同市花園町に本社を移転し、それを機に上富良野営業所(上富良野町)を本社に併合した。本社の他には札幌支店(札幌市東区)、びらとり営業所(平取町)がある。従業員数は113人(パート含む)で、うちドライバーは53人。保有車両数は2t車からトレーラまで69台である。事業内容は第二種利用運送事業(鉄道、国内船舶)、一般貨物自動車運送事業(長距離、引越、利用運送含む)、作業請負事業、賃貸事業(公職選挙用掲示板)、古物商(中古JRコンテナ)、産業廃棄物収集運搬などである。
取扱荷物は野菜、肥料、家畜、家畜飼料、木材、引越、燃料、給食、家具など多岐にわたる。野菜はタマネギ、ジャガイモ、スイカ、メロン、カボチャ、ニンジン、とうきび、トマト、アスパラ、ピーマン、ほうれん草など取扱品目が多様だ。それらの多くは本州などへの輸送になりJR貨物輸送やフェリー利用である。それ以外のトラックによる輸送の主力は肥料・飼料、家畜(牛・豚)、燃料などだ。燃料輸送はLNGや石油類で冬場に需要が増加する。全体的には野菜輸送は春から秋が忙しく、燃料輸送は秋から春が多くなる。この組み合わせで季節波動の繁閑の差を可能な限り少なくするように努力している。だが夏場の野菜の取扱量が多く繁閑の差が大きい。それでも年間を通せば残業規制はクリアしているが、「年間を通せば問題がなくても、繁忙期における時間管理が大きな課題。繁忙期でも単月でオーバーしないようにする」(永吉社長)というテーマに取り組んでいる。
そのために同社が開発・導入したのは一人ひとりの時間外労働時間をリアルで把握し、事務所に表示できるシステムである。毎日の労働時間(始業時間、休憩時間、終了時間など)などを勤怠申請サイトに各人が自分でスマホから入力して自主申告するシステム。ドライバーだけではなく、事務職員も全員が申告する。事務所の壁に表示される時間外労働時間では、勤務区分として「休日出勤」、「振替出勤」、「通常出勤」についての時間が日々、グラフ化されて誰にでも分かるように見える化されている。これによって各人の「拘束時間」や、また「時間外」としては「平出残業」、「休日労働」、「日曜労働」などが一目で分かる。この時間外労働時間の見える化で、残業時間が長いドライバーと、比較的余裕のあるドライバーで担当業務を交代させたりして労働時間の短縮と平準化を図る。このシステム開発は昨年5月から着手して今年4月に導入した。
これによって「従来は1カ月間を集計して、結果が出てから残業時間がオーバーしていたことが初めて分かったが、今度は事前にコントロースすることができるようになった」(永吉社長)。次の課題は繁忙期でも単月で残業時間をクリアできるようにすることである。「繁忙期に仕事が増えて忙しいのは当たり前だが、それを限られた人員でいかにオペレーションするか」(同)。それを解決するにはドライバーと車両と仕事の効率的な組み合わせが必要になる。そのために各ドライバーの取得している資格や乗務している車両の大きさや車種(同社は専属車両制)、担当可能な業務内容などと、各人の時間外労働時間のリアルデータを組み合わせることによって労働時間をコントロールしようというのである。現在進めているこの「2024年問題対応可能とする事務作業効率化事業」は、北海道の2024年度「中小・小規模企業デジタル環境整備緊急対策事業費補助金」の対象になった。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>