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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第161回】    有限会社櫻井運輸(茨城県古河市)

ドライバーの月間残業時間10時間を実現

 「2024年問題」はドライバーの労働時間を短縮して賃金を増やすことが目的である。ただし、トラック運送業界の現状からは、労働時間を短縮しても、当面は賃金を維持することが現実的であろう。全産業平均の時給が2340円/時に対して、大型車ドライバーは1857円/時(全産業より483円/時安い)、中小型車ドライバーは1738円/時(602円/時安い)という時給差をなくすことが「2024年問題」の本質である(厚生労働省「賃金構造基本調査=2022年」より国土交通省が作成した資料に基づき筆者が算出)。このような中で、昨年(2023年)7月に賃金体系を大幅に見直し、日給月給でドライバーは「基本給(日給)+みなし残業代(1日2時間の残業を設定し歩合も一部あるが低く設定)+みなし残業時間を超えた残業代」とし、さらに稼働日数の少ない月は最低保証で定額支給としたのが櫻井運輸(本社・茨城県古河市、櫻井正孝社長)である。

 櫻井運輸の創業は1964年。現在の事業内容は貨物自動車運送事業、倉庫業、職場環境改善事業、太陽光発電事業となっている。本社には危険物倉庫、一般倉庫があり、板倉物流センター(群馬県邑楽郡板倉町)にも一般倉庫がある。従業員数は23人で、そのうちドライバーは8人。保有車両数は10台で、内訳はローリー車4台(大型増トン車1台、6トン車2台、4トン車1台)、ウィング車(大型増トン車1台、4トン車4台、5トン車1台)である。事業部門別の売上比率は運送部門収入が57%、倉庫部門36%、その他(工場や学校、道の駅などへの送風機のリースや販売などの新規事業)7%となっている。運送部門では自車両比率が低く、特別積合せ事業者への委託も含めて傭車比率が約80%である。主要な取引先はプラモデルや関連キット、同塗料などを取り扱っている荷主、タンクローリーによる濃縮酢の液体輸送、パチスロメーカーの工場間輸送、その他である。

 プラモデルとそのキットおよび塗料の仕事では、プラモデルとキットはほとんどが輸入商品で東京港から同社の倉庫に持ち込まれ、デバンニング作業をしている。輸入されたプラモデルやキットは、国内に販売されるものと海外に再輸出されるものがある。輸出先はアメリカ、EU、中国、韓国など。輸出港は横浜港で、同社では輸出される商品を輸出用に梱包し、チャーターした傭車で横浜港の近くに運ぶ。プラモデル関係の国内向けでは、全国の問屋やネット通販会社の物流センター、大手家電量販店の物流センターなどに輸送する。ほとんどは路線便を利用して運んでおり、「大手特積み事業者の古河支店に持ち込んで、当社でバースごとに降ろすところまでやっています」(櫻井社長)。自車両での配送は4トン車1台で、東京都内の問屋3カ所と、埼玉県越谷市にある問屋1カ所、その帰りに下妻市にある塗料メーカーから塗料やスプレーを集荷して帰るというパターンである。

 自車両でタンクローリー輸送しているのは液体の濃縮酢である。利根川を挟んだ向かい側の五霞町から関東一円、東北地方では仙台市や山形市、新潟方面では長岡市や上越市、静岡県では焼津市などの食品メーカーの工場に運ぶ。帰りは空車だが往復ともに高速道路を利用するので労働時間も比較的短い。またパチスロメーカーの工場間輸送も輸送距離が短い。中距離輸送でも往復とも高速道路を利用しているので「ドライバーの残業時間は1ケタ台で、月10時間を超えるのはまれです。15時間になることはありません」(櫻井社長)。だが、これまでにはデータに基づく様々な提案も行ってきた。櫻井運輸が自車両で運んでいる濃縮酸の輸送では、出庫時間を重視している。「納品先の事情に合わせて出庫時間を毎日、調整しています」(同)という。具体的には、「納品先の過去のデータをみながら、さらにドライバー個々人の属人的な要素も絡めて出庫時間を毎日、調整します」(同)。

 櫻井運輸では昨年7月に賃金体系を見直した。同社では以前から日給月給制だったが、今度は、日給制で「基本給+みなし残業代+みなし残業時間を超えた残業代」にしたのである。ドライバーのみなし残業時間は1日2時間に設定。そして稼働日数が少ない月は最低保証によって一定額以上を支払う。最低保証の設定では、乗務している車両、担当している業務内容、勤続年数、勤務評価などを考慮している。この最低保証金額を、過去の賃金以上に設定してベースアップをした。さらに櫻井社長が現在、取り組んでいるのがデータサイエンスに基づく「荷役・待機時間の現状把握と運行予定からの待機時間の予測」である。荷待ち時間や荷役作業にかかる時間を詳細に把握し、そのデータを基に荷主と交渉。労働時間の一そうの短縮を図るとともに、荷主企業が適正化に向けたガイドラインをクリアできるように貢献しようというのである。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>