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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第96回】 丸憲運輸有限会社(青森県上北郡東北町)

チップ積載可能なウィング車で生産性向上

 地方では新規荷主の開拓がなかなか難しい。荷主企業の数が限られるし、どの荷主にも長年にわたって取引している既存事業者がいる。地元の事業者とバッティングしないで荷主が困っている仕事を請け、さらにトラックという経営資源の稼働効率を上げることで新規の仕事ができれば収益性が向上する。このような観点から、ウィング車に取り外し可能なスタンションを設けることで原木輸送を可能にし、2015年6月から本格稼働しているのが丸憲運輸(青森県上北郡東北町、原田憲一社長)。同社では、ウィング車で仙台まで空車で行き、ドライ商品を地元に運んでいた。ほとんどが片荷輸送で稼働効率が悪かったが、ウィング車を一部改造し(架装費用約55万円)、往路は原木輸送ができるようにして生産性を向上した。それから約3年が経った今年4月からは、木材チップも運べるようにしたウィング車で、新たにチップ(往路)とドライ商品(復路)の輸送も開始した。

 丸憲運輸の設立は1977年で、現在の保有車両数は26台(2t車4台、4t車8台、大型車14台)、従業員数は43人である。運送業務の他に製紙会社の工場の構内作業なども行っている。売上高は2018年3月期で約4億円。売上構成は運送部門が約80%、構内作業などが約20%となっている。以前は関東までの長距離輸送も行っていて、長距離輸送が売上の20~30%を占めていたこともあった。だが、収益性や労働時間などの関係もあって長距離輸送からは徐々に撤退してきた。しかし、撤退だけでは規模が縮小してしまうので、事業規模の拡大も図らなければならない。新規開拓が大きな課題だった。同社は製紙関係、加工食品のチルド輸送、スーパーのドライ商品の配送などを行っている。スーパー関係では、東北6県をカバーしている大手スーパーの仙台センターから、青森センターへの幹線横持ち輸送と、ドライ商品の青森県内の一部地域の店舗配送を行っている。

 このスーパーの仕事では、青森から仙台まで空車走行が多い。季節によっては野菜の輸送需要もあるが積み込み時間などにネックがある。また、コメの輸送も手積み手卸しなどの問題がある。このようなことから車両の稼働効率(実車率)はあまり良くなかった。仙台までは一般道路では6時間、高速道路なら4時間の走行時間である。そこで着目したのが木材輸送だった。だが、問題は車両をどうするかである。木材輸送にはグラップル搭載車やクレーン搭載車などの専用車両が必要で典型的な片荷輸送だ。だが、運賃が高いわけではなく、ドライバー不足などもあって専業事業者の原木輸送からの撤退が増えている。さらに地元の森林組合では遠くの製材所には原木を販売しておらず、販路は近くの製材所だけで、仙台などには販売できていなかった。丸憲運輸では仙台にたくさんの車両が行っている。とくに空車で仙台まで走っている車両で運べるようにすれば収益性が向上する。

 そこで「ウィング車に取り外し可能なスタンションを設けて原木を輸送できるようにし、帰りはスタンションを外して普通のウィング車としてドライの商品を積んで帰れる」(原田惇常務)ようにして、トラックの稼働効率を向上させた。午前に原木を積んで地元を出発し、午後には仙台市内で原木の納品を完了する。ドライバーは休息をとって夕方にはドライの一般荷物を積んで仙台を出発する。往復とも実車走行になり、空車で走る距離が短縮されて収益性が向上した。往復ともに全線高速道路が利用できるようになり、ドライバーの拘束時間も短縮することができたのである。この当時、「チップも運ばないかという話もあったが、躊躇してその時は断った。それを後悔していた」(原田常務)という。それから約3年が経ち、今年(2018年)4月からチップが積めるウィング車で、チップ輸送(往路)とドライの一般貨物輸送(復路)を開始したのである。

 なぜ躊躇したかというと、チップの積込はタイヤショベルで可能だが、ダンプではないため荷卸しが手作業になりドライバーに負担がかかってしまう。労働時間も長くなり、車両の回転率も低下するからだった。だが、チップの納品先で、キャビンを上にしてトラック全体が持ち上がり、後ろの扉を開けておけばダンプのようにチップを卸せることが分かった。これで荷役作業の問題が解消できた。チップも運べるウィング車は、ボディの屋根の部分が幌で、幌をかけたまま両サイドを上げればウィング車、幌を外せば無蓋でチップを積み込むことができる。このような車両が「台数は少ないがあったで、中古市場で見つけ、昨年秋に購入した」(原田常務)。現在は1台を2人のドライバーで交代乗務しているが、荷主からの要望もあり「もう1台増やして2台にし、5人のドライバーで勤務ローテションを組んで、1日2台稼働の体制にするよう考えている」(原田常務)、という。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>