運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
バックナンバー一覧はこちら
【第159回】 三福運輸株式会社(新潟県新発田市)
GDP取得も視野に医薬品物流の拡大図る
中小企業にとって事業継承は大きな課題だ。創業者は基本的にはストラクチャー(構築)だが、後継者にはリストラクチャー(再構築)が求められる。つまり創業者は「足し算」でも、後継者は「引き算」と「足し算」の両方が必要になる。たとえこれまでは企業経営の基盤だった事業分野や取引先でも、今後は成長の障害になるかも知れない。このような将来のマイナス要素は経営を譲る側が「引き算」をした上で後継者に引き継ぐのが理想的だ。だが、そのようなケースは少ない。採算性が低かったり、将来性が見込めないような分野、あるいは悪しきステークホルダーなどを、ほとんどは後継者が「引き算」しなければならないことが多い。まして入社したら運送事業や企業経営について創業社長(父)から学ぼうと考えていたのだが、病気が悪化したために何も教えてもらえず、入社2年後の2015年に社長に就任したのが三福運輸(新潟県新発田市)の五月女奈緒美社長である。
五月女社長はANAのキャビンアテンダント(CA)だった。国内線や比較的近いアジア各国の国際線で働いていたという。だが実父からの要請で2013年に三福運輸に入社することになった。いずれ社長を継承するという前提である。創業社長は地元の運送会社で働いていたが、起業して1991年7月に三福運輸を設立した。「まさか運送会社の経営を継ぐなどとは思ってもいませんでした。父が会社勤めのままだったらCAを続けていました」(五月女社長)という。まして実兄もいるので、まさか運送会社の社長になるとは夢想だにしなかったようだ。そのような状況で、何から手をつけるべきか。手探りの状態だったが、最初に取り組んだのは「第一に社員教育、第二には法令順守の徹底です。航空会社で働いていた経験を活かして、身だしなみや挨拶の仕方などから始めました」(同)。しかし、それで辞めていった従業員もいた。安全教育に関してはマニュアル化をしたという。
法令順守では、デジタコによる現状把握から労働時間の管理などを始めた。一方、辞めていく人がいる半面、「教育に力を入れている会社、クリーンで女性が働きやすい会社というイメージを前面に出したので、それで応募して入社してくる人がありました」(五月女社長)。このような苦労もあったが、現在では本社の他に新潟営業所(新潟市)、金沢営業所(金沢市)があり、また本社に隣接して国道7号線沿いにある「道の駅加治川」の運営事業も行っている。従業員数は運輸事業部が32人で、内訳は事務職8人、ドライバー24人(うち8人が女性ドライバー)、さらに道の駅事業部に13人が働いている。保有車両数は4t車、6t車、10t車など計27台。運輸部門の業務内容は医薬品、製菓、化学品、家具などの輸配送が主で、売上構成比は医薬品50%、家具8%、化学品3%、製菓3%、その他となっている。医薬品は冷蔵車で、その他はドライのウィング車である。
「創業当時は下請けの仕事を何でもやったようですが、その後は下請仕事からの脱却を図りました」(五月女社長)という。先代社長時代からの取引先もあるが、医薬品は仙台や金沢に本社のある荷主で、製菓や化学品は地元の新潟に本社がある荷主だ(帰荷は同業他社経由もある)。輸送エリアも新潟県内、北陸、東北の一部、関東の一部などで、ほとんどは事業所から半径300㎞ぐらいの範囲のため、労働時間規制はさほど問題がない。このうち医薬品では金沢にある取引先から8支店への医薬品配送を行っている。この取引先では今年の秋に4t車4台の増車が予定されている。また、仙台本社の取引先とは、仙台から新潟や、新潟から会津若松と米沢経由で山形などへの輸送。県内配送では長岡、上越、新発田、県外では高岡、高山、富山、黒部、福井、敦賀、小松、七尾などへの配送を行っている。製菓では相模原への輸送、化学品は荷主の構内物流などを受託している。
三福運輸では各種の客観的品質の認定や認証の取得に力を入れている。安全性優良事業所、グリーン経営、働きやすい職場認証制度、健康経営優良法人ブライト500、エコドライブ推進事業所などである。「働きやすい職場や健康経営優良法人は求人に役立ちます。どのような会社なのかを判断して応募してきますし、若い方なら親も安心してくれます」(五月女社長)。安全への取り組みでも金沢営業所が昨年11月に無事故1400日を達成し現在も継続中である。また、昨年は全国トラック交通共済の安全運転標語募集で最優秀賞、新潟地方交通共済の佳作に2点と計3人が入選。このような中で昨年9月からはロボット点呼も導入した。企業の今後の方向性としては、「現在は医薬品物流が50%ですが将来的には医薬品物流に特化した企業にしたい」(同)という。そのためにも、これからはGDP(Good Distribution Practice=医薬品の保管・輸送基準)の取得を目指すという。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>