運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第163回】 磐栄ホールディングス株式会社(福島県いわき市)
M&A戦略で2025年6月期には売上高350億円目指す
最近はM&Aが多くなってきた。この背景には後継者不足や「2024年問題」などがあるものと思われる。一方、そのような状況の変化を前向きにとらえ、企業の成長を図ろうとする事業者にとっては大きなチャンスである。企業譲渡の案件が増える中で、自社の経営戦略に沿ってシナジー効果が見込めるような条件を備えた事業者を積極的に買収することで急成長する事業者も現れてきた。そのようにM&Aで短期間に成長してきた事業者の一つに磐栄ホールディングス(本社・福島県いわき市、村田裕之社長)がある。磐栄ホールディングスは純粋持株会社として2016年に設立された。その土台を築き、現在はグループの中核的な事業会社の一つになっているのが磐栄運送である。磐栄運送は1959年創業で会社設立は1961年。磐栄運送がM&Aを始めたのは2014年10月からで、さらに同年11月にはもう1社を買収している。いずれも福島県内の事業者だ。
当初は磐栄運送として、磐栄HD設立後はHDとしてM&Aを進めてきた。2024年4月1日現在における関連会社数は63社で、物流事業の他に電力事業(太陽光発電、風力発電)、環境関連事業(オリーブ農園、ブルーベリーファーム、酪農事業、林業=社有森林面積1300ヘクタール)、酒造(日本酒製造、クラフトビール醸造販売)、観光遊覧船・観光バス事業、キッチンカーによる移動販売事業、薬局事業(薬局、医療コーディネーター業)、ガソリンスタンド、製造(木工、産業用機械設備製造、プラスチック段ボール加工販売)、ゴルフ倶楽部、温泉旅館、茶・茶原料の輸出入事業など多様な事業展開をしている。売上高も2024年6月期には320億円を見込んでおり、M&Aを始める前の2014年6月期の約28億円からは大幅に売上を拡大した。これらグループ63社のうち物流関連の事業会社は38社で、売上でも物流部門が大宗を占めている。
物流事業会社(磐栄運送は除く)のこの9年間のM&Aをみると、2014年には2社、2015年4社、2016年3社、2017年10社、2018年9社、2019年1社、2020年6社、さらに2024年にも3月に2社をグループ化している(4月1日現在)。ここからも、かなりのハイペースでM&Aを進めてきたことが分かる。物流事業に関連する最近の動きを簡単にみると、2020年にはM&A専門会社としてBHCパートナーズを設立した。「M&Aの紹介業務だけでなくコンサルティングも行う会社で、当社のM&Aの窓口の仕事も行う」(村田社長)。また同年には中国天津に合弁会社を設立した。「現地の会社はいずれ日本に進出したいと考えており、自分たちも海外進出をするための布石」(同)である。さらに2020年にはM&Aによって通関会社をグループ化して通関業務も始め、2022年10月には海外取引の拡大を目的としてBHCグローバルを設立した。
「BHCグローバルは通関業務と合わせて輸出入をグループとして一貫してできるようにするため」(村田社長)である。さらに国際物流では、「大手フォワーダーとも契約してB/L(船荷証券)の発行もできるようにした」(同)という。そして昨年10月には物流事業会社を統括するための中間持株会社としてBHCロジを設立した。これは「物流とそれ以外の業績を見やすくするためで、磐栄HDと物流事業会社(磐栄運送を除く)との中間持株会社」(同)である。つまり海外事業や特殊事業を行う事業会社も含め、磐栄運送を除く物流事業会社をBHCロジが持株会社として統括するという体制である。このような体制を整えたのは物流事業とその他の事業の業績を見やすくすることと同時に、物流事業会社間の統一と連携を進めてシナジー効果を向上するためのようだ。グループ会社の「社名の統一は課題で、本来ならば合併するのが良いがなかなか難しい」(同)。
だが管理体制の統一やグループ全体の効率的な車両オペレーションなどでシナジー効果を引き出すことが重要だ。そのための統括本部がBHCロジということになる。各事業会社は「実質的には営業所のような位置づけで、1社ずつに社長を置いていたがエリア別の支社長にするなど、社長は兼務などもあるようにした」(村田社長)。そして「間接部門やシステムの統一、BHCロジとして営業展開して配車システムや請求書発行その他も統一する。そのためIT関連企業のM&Aも計画中」(同)という。BHCロジにはダイバーシティ推進部があり女性活躍推進室も置かれている。現在女性ドライバーは数パーセントだが、女性ドライバーの採用にも力を入れていく方針だ。また今後は東名大を拡充し、岡山、広島、北九州などにM&Aで拠点を増やす考えである。そして2025年6月期には売上高350億円、従業員数2500人、保有車両数1900台を目指すとしている。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>