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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第164回】    株式会社中田商事(三重県伊賀市)

初めてのM&Aで子会社の賃金体系などを大幅改善

 中小事業者のM&Aが増えている。中田商事(本社・三重県伊賀市、中田純一社長)も昨年7月に初めてM&Aで三洋陸送(三重県津市)を子会社化し、8月1日から中田商事の完全子会社として営業をスタートさせた。中田商事は1994年創業で2000年の設立だが、三洋陸送の設立は1964年で中田商事よりも社歴が長い。三洋陸送の業務内容は自動車部品などの一般貨物輸送とキャリアカーによる自動車輸送(陸送)である。中田商事としてはキャリアカーへの新規参入になる。M&A時点における三洋陸送は保有車両数15台、従業員数18人、2023年2月期の売上高は1億8000万円で経常利益率が10%だった。キャリアカーが売上の5分の3、自動車部品輸送が売上の5分の2である。M&Aのキッカケは、「地元の銀行から話が来たから」(中田社長)という。会社を譲渡したい理由は、①後継者問題、②「2024年問題」ということだった。

 中田商事は会社を設立後、順調に業績を伸ばしたが2008年秋のリーマンショックの影響を大きく受けた。その後の約10年間は売上がほぼ横ばいだった。だが「ここ2期は売上も増えてきた」(中田社長)。2024年3月期の売上高は5億5500万円で、社員数は67人(パートも含む)、保有車両数は45台である。本社の他に四日市営業所があり、グループ会社には一般労働者派遣事業のNSサービスがある。事業内容は一般貨物運送事業、貨物取扱事業、倉庫業、産業廃棄物収集運搬業、古物販売ならびにその受託販売、軽貨物運送事業、企業主導型保育事業(どんぐり保育園)である。リーマンショック以後の10年間は売上が横ばいだったのは、リーマンショックで大きな影響を受けたのを機に働き方改革を進めながら経営再構築に取り組んできたからだ。現在は「2024年問題」が大きな課題になっているが、2008年にも労働基準法が改正された。

 「売上だけを追及するような仕事はしないようにし、労働時間をセーブして効率を重視するようにして傭車も減らしました。」(中田社長)という。また、車両なども「10年ぐらい前から車両の代替えも進め償却のサイクルを変えました」(同)。当時は運送業界において働き方改革に対する認識は低かった。だが同社では「働き方改革をやるんだ! と取り組んできました」(同)。それを象徴するのが賃金体系の大改革だった。同社が歩合制賃金から完全時間給制賃金に転換したのは2010年秋から。全ドライバーと個人面談をして賃金体系の変更を説明。これまでの実際の支給賃金額と新賃金体系によって計算した賃金額を比較し、これまでより少なくならないことを理解してもらった。同時に有休消化率を高めて労働時間短縮にも努めた。車両もこれまでの1人1車専属乗務ではなく1台のトラックに交代で乗務することで車両の稼働効率を向上するようにしてきた。

 この経験が活きたのが、三洋陸送を買収後の経営改善である。中田商事ではキャリアカーによる自動車輸送は初めてだが、「キャリアカーは利益率が高く、市場としても拡大できる可能性がある」(中田社長)と判断した。だが、譲受した三洋陸送は古い体質の運送会社だった。「車両も古く、労務管理もできていない。長距離輸送はやっていないが、長時間労働のドライバーが何人かいた」(同)。昨年7月26日に譲渡・譲受の調印をすると28日には社員全員を集めて説明会を開いた。中田社長が三洋陸運の社員に話したのは「運送事業を続けるために! 今やるべきこと、すべき事」である。運送事業を取り巻く環境変化(働き方改革関連法の概要=2024年問題、むかしの業界の常識は現在の社会の非常識)、目指すべき姿は合法的に利益を出せる会社(完全時間給制の導入、精度の高い時間管理や人事考査の導入、人員を確保してベースアップと有休の計画的消化の推進など)である。

 社内改革は①昨年9月に全車両にデジタコ導入、②10月~11月に労働時間などデータ収集、③12月~今年1月に時給シミュレーションと人事考課の実施、④2月に労働条件通知書の締結、⑤3月から時間給制の開始である。また、ロボット点呼や全車両へのドラレコ、運行管理システム導入。さらに、安全性優良事業所(Gマーク)の認定やグリーン経営認証、健康経営優良法人の認定取得も目指す計画だ。デジタコデータを基に荷主とも運賃交渉。「『2024年問題』への関心が高まっている中で荷主との交渉や社内改革には良いタイミングだった」(中田社長)という。コスト削減でも燃料購入費が中田商事よりリッター16円も高く、「月間で25万円安くできた。整備費も年間約1500万円が700万円から800万円に削減」(同)。ユニフォームもなかったので作った。そして約10カ月の間で買収時の保有車両数15台を18台に、社員数も18人から22人にしている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>