運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第166回】 ラストワンマイル協同組合(東京都府中市)
「LCC配送ソリューション」戦略を推進、第一弾は「宅配ミニ」
流通チャネルの変化が進み、小売市場ではネット通販(EC)が伸びている。それに伴い宅配荷物が増加しているが、EC事業者にとっては物流コストの上昇が大きな悩みだ。「2024年問題」を機に、運賃・料金が値上がりしてきた。EC事業者も宅配事業者の値上げ要請に応じているが、頻繁な値上げに対応するのは難しい。しかし、宅配便事業者は大手3社によって寡占化されているので、事業者の選択肢が限られている。一方、宅配事業者は人件費の上昇や燃料費の高騰、その他の諸費用の値上がりを運賃・料金に転嫁しなければならない。このような中で「LCC配送ソリューション」という事業戦略を明確に打ち出したのがラストワンマイル協同組合(本部・東京都府中市、志村直純理事長)だ。同協組の設立は2018年4月。貨物軽自動車運送事業者が中心になって協同組合として発足した。組合名の通りラストワンマイルを担う事業者の戦略的アライアンスである。
ラストワンマイルといわれる宅配はネット通販の拡大などに伴って取扱個数が増えている。だが、需要拡大は配送ドライバー不足を招き、EC事業者などは運賃値上げへの対応に迫られている。一方、ラストワンマイルの現場を担っている軽貨物の宅配事業者は長時間労働と低運賃を強いられているのが実態だ。これは業界の多層構造にも一因がある。このような中で、荷主が抱えている諸課題を解決するとともに、宅配事業者も適正な取引条件を実現できるようにラストワンマイル協組を設立したのである。同協組では設立の主旨を「荷主の課題を解決し、宅配大手のバイパスライン(副経路)を担う」(志村理事長)としている。バイパスライン(副経路)とは、「宅配便事業者は寡占化していてネット通販事業者などからすると選択肢が限られていた。繁忙期には宅配便事業者のキャパの問題などもあって集荷制限などもある。そのような時のためのバイパスライン」(同)という。
同協組では立川、関西、中京にハブセンターを順次開設して拠点の整備も進めてきた。フルフィルメントのサービス提供はもとより、配送業務だけの仕事も請けるなど荷主の様々なニーズに応じた契約で、柔軟なサービス提供している。また、小型の宅配荷物だけではなく、中型貨物や2マン配送なども行っている。主な取引先としては大手家具メーカーの宅配、大手日用品メーカーの宅配、大手家電メーカーの宅配、大手の家具小売店ではイケアジャパンの1都6県全域での配送なども受託している。現在の組合員数は35社で、その他に賛助組合員が39社である。傘下の総車両台数は約4200台を擁している。配送エリアは東北(宮城県)、関東(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・茨城県・栃木県・群馬県)、中部(愛知県)、関西(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県)、九州(福岡県)。そして7月2日にリリースしたのが「LCC配送ソリューション」推進という事業戦略だ。
「『LCC配送ソリューション』は、格安ではなく適正な運賃で、適正な物流効率・品質レベルを満たす独自のサービスを開発・提供していく」(志村理事長)という戦略だ。最近の荷主の要望は「運賃値上げに応じているが以前に近い運賃で委託したい」、「頻繁な値上げではなく安定した運賃で出荷したい」といった声が多いという。宅配事業者は「いままで低運賃だったので運賃を値上げしたい」、「人件費の上昇や燃料高騰で厳しいため適正運賃にしたい」といった要望がある。協同組合は多層構造ではなく利益追求の組織でもない。事務経費など以外は組合員や協力会社に還元することができ、比較的高い運賃を配送事業者に払える。荷主には適正で安定的な運賃を提示でき、大手宅配便事業者と比較しても魅力あるサービスの提供が可能だ。このように荷主と配送事業者の双方の要望を満たせるような独自のサービスを開発して事業展開していくのが「LCC配送ソリューション」戦略だ。
その第一弾が「宅配ミニ」で、三辺の合計が55cm以下で重さ1.5㎏以下の荷物を1個320円(税込み)で定期集荷をして翌日配送する。契約条件として定期出荷や最低個数はあるが「具体的には個々の営業交渉による」(塚原淳専務理事)。1個320円は集荷・配送料金だが、関東と関西の拠点間横持ち輸送も可能。3月からトライアルを始め、6月から関東の1都2県(東京都・埼玉県・神奈川県の主要都市)と関西の2府2県(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県の主要都市)で本格的に開始した。今後は順次サービスエリアを拡大し1年間で5万個、3年後には20万個まで増やす計画だ。さらに同協組では「宅配ミニ」に続くサービスの開発も進めている。たとえば小さな荷物だけでなく三辺が170cm~260cmで30㎏~35㎏といった荷物を2トン車で積合せ配送するサービスや、「世田谷区では引っ越し事業者とトライアルしている事業もある」(塚原専務)という。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:ラストワンマイル協組)